説明

鋼製部品の製造方法

【課題】熱間鍛造と制御冷却による従来の強化手法に比べて、大幅な降伏強度、衝撃強度及び疲労強度特性の向上が可能な鋼製部品の製造方法と、このような方法によって製造された鋼製部品を提供する。
【解決手段】質量比で、0.25〜0.80%のC、0.05〜2.20%のSi、0.10〜1.50%のMnと共に、1.20%以下のCr、0.30%以下のV、0.08%以下のTi、0.05%以下のAlのうちの1種以上を含有する鋼に、1050〜1150℃の温度に10分以上保持したのち、600〜850℃の温度範囲で15〜50%の加工率の鍛造(第1鍛造工程)と、500〜800℃の温度範囲で60〜75%の加工率の鍛造(第2鍛造工程)を順次施し、放冷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降伏強度、衝撃強度及び疲労強度が要求される機械構造用鍛造部品、例えば自動車等の輸送機器に用いられるコンロッド,クランク等のエンジン部品、ホイールハブ,ナックルスピンドル等のシャシー部品などの鋼製部品や鋼材の製造方法、さらにはこのような製造方法によって得られる鋼材や、上記のような鋼製部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、上記のような鋼製鍛造部品には、従来、クロムモリブデン鋼SCM440(JIS G 4053)等の合金鋼を鍛造後、焼入れ焼戻し処理したものや、バナジウム添加の非調質鋼を熱間鍛造後、制御冷却することにより微細なバナジウム炭窒化物を析出させ、これによってフェライト組織を強化したものが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9‐194933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、最近の自動車の重量増加やエンジンの高出力化に伴い、降伏強度、衝撃強度及び疲労強度向上に対する要求が高く、上記した技術では、その達成が困難になってきている。
本発明は、従来の機械構造用鍛造部品における上記課題をブレークスルーするためになされたものであって、上記のような熱間鍛造と制御冷却による強化手法に比べて、大幅な降伏強度、衝撃強度及び疲労強度特性の向上が可能な鋼製部品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、熱間鍛造時の温度、加工率、加工方向を調整することにより、微細な結晶粒を得ることができ、降伏強度、衝撃強度及び疲労強度が向上することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0005】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の鋼製部品の製造方法は、質量比で、0.25〜0.80%のC、0.05〜2.20%のSi、0.10〜1.50%のMnと共に、1.20%以下のCr、0.30%以下のV、0.08%以下のTi及び0.05%以下のAlから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、残部Fe及び不可避不純物から成る鋼に、1050〜1150℃の温度に10分以上保持する加熱工程と、600〜850℃の温度範囲で15〜50%の加工率の鍛造を行う第1鍛造工程と、500〜800℃の温度範囲で60〜75%の加工率の鍛造を行う第2鍛造工程を順次施した後、放冷することを特徴としている。
【0006】
また、本発明の鋼製部品は、上記製造方法によって得られるものであって、フェライト粒径が10μm以下の微細なフェライト−パーライト組織を有するものであり、さらに、このフェライト−パーライト組織が250〜400HVの硬さを有するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所定の化学成分を有する鋼を特定の温度範囲に所定時間保持した後、特定の温度範囲内で特定の加工率の第1及び第2の鍛造工程をそれぞれ施すようにしていることから、微細な結晶粒から成るフェライト−パーライト組織が得られ、従来の熱間鍛造非調質鋼に比べて、優れた引張強度−靭性バランス、疲労強度を有する鍛造部品を提供することができるという極めて優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、各種合金成分の作用やその限定理由、鍛造条件の詳細と共に、本発明の実施の形態について、具体的に説明する。なお、本明細書において、「%」は、特記しない限り、質量百分率を意味するものとする。
【0009】
本発明の鋼製部品の製造方法においては、C、Si、Mnを必須成分として含有すると共に、Cr、V、Ti、Alを任意の選択的添加元素として含有する鋼を素材として用いるものであるが、これら合金成分の限定理由について、以下に説明する。
【0010】
C:0.25〜0.80%
Cは、硬さを向上させて、強度を向上させる作用を有する。しかし、C含有量が0.25%未満では添加効果に乏しい一方、c含有量が0.80%を超えると靭性の低下、衝撃強度の低下をもたらすので、0.25〜0.80%とした。
【0011】
Si:0.05〜2.20%
Siは、鋼のフェライト組織の固溶強化に有効な元素である。しかし、0.05%未満では添加効果に乏しく、一方2.20%を超える含有は脱炭を助長し、強度の低下をもたらすため、その範囲を0.05〜2.20%と定めた。
【0012】
Mn:0.10〜1.50%
Mnは、鋼の焼入れ性を上げるのに有効な元素である。しかし、Mn含有量が0.10%未満では添加効果に乏しい一方、過剰な含有は靭性の低下をもたらすため、その上限を1.50%と定めた。
【0013】
Cr:1.20%以下
Crは、鋼の焼入れ性を向上させるのに有効な元素であるが、過剰な添加は結晶粒界の脆化を招くことから、その上限を1.20%と定めた。
なお、他の合金元素との組合せによっては、Crを必ずしも添加しなくてもよい場合があるため、任意の選択的成分とした。
【0014】
V:0.30%以下
Vは、微細炭化物を形成し、フェライト組織を析出強化するのに有効な元素であるが、0.30%を超えて過剰に添加したとしても、上記効果が飽和してくるので、その上限を0.30%と定めた。
なお、他の合金元素との組合せによっては、Vを添加しなくともよい場合があるため、任意の選択的成分とした。
【0015】
Ti:0.08%以下
Tiは、微細炭化物を形成し、Vと同様にフェライト組織を析出強化するのに有効な元素である。しかし、0.08%を超えて過剰に添加しても、上記効果が飽和するので、その上限を0.08%と定めた。
なお、他の合金元素との組合せによっては、Tiを添加しなくともよい場合があるため、任意の選択的成分とした。
【0016】
Al:0.05%以下
Alは、鋼中のNと反応してAlNを形成し、オーステナイト結晶粒の粗大化を防止する作用がある。しかし、0.05%を超えて添加したとしても、その効果が飽和することから、0.05%以下とした。
なお、Nbを添加した場合は、Alを添加しなくともよい場合があるため、任意の選択的成分とした。
【0017】
次に、鍛造条件について、その限定理由等について説明する。
【0018】
加熱工程:1050〜1150℃×10分以上
素材鋼の組織をオーステナイト化するためには、A3変態点を超えた温度まで加熱することが必要である。しかし、温度が低いと鋼材の変形抵抗を下げることができず、鍛造荷重が上昇してしまうため、また、V,Ti等の元素を一度固溶させる必要があるため下限温度を1050℃とした。一方、高温にしすぎると、オーステナイト結晶粒が粗大化してしまう可能性があることと、その後の鍛造温度にまで下がるのに時間がかかりすぎて経済的でないことから、上限温度を1150℃とした。
当該温度における保持時間については、V,Ti等の元素を均一に固溶させる時間として10分以上としたが、長時間の高温保持は鋼材表面が脱炭してしまう可能性があるため、好ましくは10〜30分とする。
【0019】
第1鍛造工程:600〜850℃において加工率15〜50%の鍛造
第2鍛造工程:500〜800℃においてか効率60〜75%の鍛造
動的α変態と動的α再結晶を起こさせるため、この温度範囲で鍛造を行うことが必要である。なお、好ましくは、第1段の鍛造を675〜775℃、第2段の鍛造を610〜710℃の温度範囲で行うことが好ましい。
さらに、等軸なα粒を得るためには、他方向からの歪量を増やす必要があり、第1段を据え込み鍛造、第2段を押出し鍛造とすることが好ましい。
【0020】
なお、第2鍛造工程の終了後、再加熱によって素材温度を上げることなく、所定形状に近づけるため、さらに鍛造を施すことが望ましい。
【0021】
本発明の鋼材又は鋼製部品は、上記の方法によって製造されるものであって、フェライト−パーライト組織を有し、このフェライト−パーライト組織におけるフェライト粒径が10μm以下であることを特徴としている。すなわち、上記フェライト粒径が10μmを超えると、強度特性が低下するため好ましくない。
【0022】
また、上記フェライト−パーライト組織の硬さについては、250〜400HVであることが望ましい。すなわち、上記組織の硬さが250Hvに満たないと、引張り強度が低くなる一方、当該硬さが400HVを超えると、シャルピー値が悪化する傾向があることによる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例及び比較例を上げて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら制限されるものではない。
【0024】
表1に示す化学組成を有する圧延バー材(φ45×145mm)を1600トンプレス機を用いて、表2に示す条件で鍛造した。
なお、このときのヒートパターンと鍛造過程で得られた形状を図1に示す。ここで、第1鍛造は据え込み鍛造、第2鍛造は押出し鍛造である。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
そして、上記によって得られた鍛造部品から、各種試験片を切り出し、引張試験、硬さ試験、シャルピー衝撃試験、回転曲げ疲労試験を行った。
これらの試験結果を表3、図2及び図3に示す。さらに、ミクロ組織の代表例として、実施例1及び比較例によって得られた鍛造部品のミクロ組織写真を図4に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
以上の結果、本発明の実施例1〜5については、極めて微細なフェライト−パーライト組織が得られ、バランスに優れた引張強度及び靭性を有すると共に、疲労強度にも優れるのに対し、加熱保持温度が高く、しかも1200℃もの高温で1回だけの鍛造を施した比較例の鍛造部品においては、極めて粗いフェライト粒子から成る組織を備え、上記実施例に較べて機械的性能全般、とくに靭性に劣ることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例及び比較例における鍛造時のヒートパターンと鍛造粗材形状(断面)の変化を順次示す工程図である。
【図2】実施例及び比較例により得られた鍛造部品における引張強度と靭性のバランスを示すグラフである。
【図3】実施例及び比較例により得られた鍛造部品における0.2%耐力と疲労限強度の関係を示すグラフである。
【図4】ミクロ組織の代表例として比較例と実施例1により得られた鍛造部品の組織を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量比で、C:0.25〜0.80%、Si:0.05〜2.20%、Mn:0.10〜1.50%を含有すると共に、Cr:1.20%以下、V:0.30%以下、Ti:0.08%以下、Al:0.05%以下のうちの少なくとも1種を含有し、残部Fe及び不可避不純物から成る鋼を用いて、
1050〜1150℃の温度に10分以上保持する加熱工程の後、600〜850℃の温度範囲で15〜50%の加工率の鍛造を行う第1鍛造工程と、500〜800℃の温度範囲で60〜75%の加工率の鍛造を行う第2鍛造工程の後、放冷することを特徴とする鋼製部品の製造方法。
【請求項2】
上記加熱工程における温度保持時間が30分以下であると共に、第1鍛造工程における温度範囲が675〜775℃、第2鍛造工程における温度範囲が610〜710℃であることを特徴とする請求項1に記載の鋼製部品の製造方法。
【請求項3】
第1鍛造工程が圧下率15〜50%の据え込み鍛造であって、第2鍛造工程が減面率60〜75%の押出し鍛造であることを特徴とする請求項2に記載の鋼製部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の方法によって製造され、フェライト−パーライト組織を有すると共に、当該組織におけるフェライト粒径が10μm以下であることを特徴とする鋼製部品。
【請求項5】
硬さが250〜400HVであることを特徴とする請求項4に記載の鋼製部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−263684(P2009−263684A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111140(P2008−111140)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】