説明

閉路判定装置および配電系統システム

【課題】 同一相の位相差を迅速かつ正確に求め、開閉器の開閉可否を早期に判断することで、配電系統に影響を与える横流を防止しつつ、円滑にループ切替を実施させることを目的としている。
【解決手段】 本発明にかかる代表的な構成は、異なる配電系統それぞれに接続され異なる配電系統間を開閉する開閉器110に併設される閉路判定装置120であって、開閉器における異なる配電系統それぞれの3相線路総ての電圧を連続的に測定する電圧測定部122と、測定された各電圧波形の、ゼロクロス点と基準時刻との相対時間を計数し、相対位相角を導出する相対位相角導出部124と、異なる配電系統間で対応する相同士の相対位相角の差分である位相差を計算する位相差計算部126と、計算された位相差が横流を許容できる所定範囲内であれば、開閉器の閉路を許可する閉路許可部128と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電系統のループ切替を実施するための閉路判定装置および配電系統システムに関する。
【背景技術】
【0002】
配電系統の一部で事故が発生した場合や配電系統の組み替えを実行する場合、異なる配電系統における任意の変電所同士を接続して配電系統の接続関係を変更する所謂ループ切替が行われる。かかるループ切替は、配電系統の異なる変電所(異系統異変電所)同士を結ぶ開閉器の開閉によって行われる。このような開閉器の開閉は、配電系統の集中管理を行う管理サーバによって遠隔制御される。しかし、ループ切替を行う前には、ループ切替を安全に実行できるか、またループ切替によっていずれかの配電系統に影響を及ぼさないかを調査しなくてはならず、その調査は現地作業員により手作業で実施されていた。
【0003】
ループ切替では、異なる配電系統同士(各3相)が同一相(対応する相)となる必要がある。従って、作業員は、開閉器の両端の位相関係を測定し、相の同一性を判断する。具体的に、作業員は、図8に示す電柱8に上り、柱上の高圧気中開閉器のリード線(IJ線)に、ループチェッカ(位相角測定器)10のステッキ型のアンテナ(プローブ)12を直接掛止し、付属の測定器14内でその位相角を計算して、基準電力(P1)に対する比較電力(P2)の位相差を角度表示させている。かかる位相角の測定方法としては、PLL(Phase Locked Loop)で生成された高周波数のパルス波を用いて計測すべき期間を計数する技術が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、異なる配電系統同士の相関係を導出するため、各相の波形のゼロクロス時刻を計時して、その相同士を比較することで同一相を検出する技術も公開されている(特許文献2)。かかる技術では、配電系統の線路の絶対相を把握できるので、異なる配電系統同士を容易に接続することが可能になる。
【特許文献1】特開昭61−184468号公報
【特許文献2】特開2001−215248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した同一相を導出する技術によって、相が異なる線路同士を接続してしまうといった問題を回避することが可能となった。しかし、同一相同士であっても異系統(66kv送電線系統が異なる)異変電所間の電源系統の違い等により両配電系統間には位相差が生じてしまい、ループ切替時にはかかる同一相間の位相差によって変電所間を流れる横流が生じてしまう。従って、横流が配電系統に影響を与えない範囲(例えば、短時間許容電流値以内)に抑えられるように、その位相差も留めなければならない。作業員は、同一相を検出するのみならず、このような位相差を踏まえて、その値が適切な範囲内に収まっているかどうかを判断する。
【0006】
現在、このような位相差を遠隔的に導出する方法は確立しておらず、やはり作業員の現場における測定に頼らざるを得なかった。上述したように作業員による測定は、高圧近接作業となり、同一相となる2線路を同時に測定し、それを3回(3相分)繰り返さなければならないといった煩わしさを伴っている。また、測定点が離間している場合、位相差測定に最低2人の作業員が必要であり、このような作業員の安全性の確保および測定作業に長時間を費やしていた。また、上述したループチェッカ10の機能上、雨天時には正確な測定ができず、他の日の再出向を要し、作業員の多大な労力を費やしていた。
【0007】
さらに、作業員による位相差の測定時と管理サーバによるループ切替時とには、作業員の安全性を確保するため時間差を設けなくてはならないので、その間に位相関係が変化することもあり、本来切り替えてはならないタイミングでループを切り替えてしまうこともあった。従って、上記時間差による位相差の変動範囲も考慮し、その分余裕をみてループ切替可能なタイミングを図らなければならなかった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、同一相の位相差を迅速かつ正確に求め、開閉器の開閉可否を早期に判断することで、配電系統に影響を与える横流を防止しつつ、円滑にループ切替を実施させることが可能な閉路判定装置および配電系統システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる代表的な構成は、異なる配電系統それぞれに接続され異なる配電系統間を開閉する開閉器に併設される閉路判定装置であって、開閉器における異なる配電系統それぞれの3相線路総ての電圧を連続的に測定する電圧測定部と、測定された各電圧波形の、ゼロクロス点と基準時刻との相対時間を計数し、相対位相角を導出する相対位相角導出部と、異なる配電系統間で対応する相同士の相対位相角の差分である位相差を計算する位相差計算部と、計算された位相差が横流を許容できる所定範囲内であれば、開閉器の閉路を許可する閉路許可部と、を備えることを特徴とする。ここで、基準時刻は例えば1Hzといった周期的に訪れる複数の時点をいい、ゼロクロス点は電圧波形の絶対値が反転する時点を示す。
【0010】
本発明の閉路判定装置は、異なる2つの配電系統をループ切替することが可能かどうかを判定する。ここでは、異なる2つの配電系統を構成する各3相の線路の電圧をそれぞれ連続的に測定し、同相検知を行った上で、同一相の位相差を、基準時刻とゼロクロス点との時間差から迅速かつ正確に求めている。かかる構成により、位相差が横流を許容できる範囲内であるかどうか、即ち、開閉器の開閉が可能であるかどうかを早期に判断することができるので、配電系統に影響を与える横流を防止しつつ、円滑にループ切替を実施させることが可能となる。
【0011】
本発明にかかる他の代表的な構成は、異なる配電系統間の接続を開閉する開閉器への連結点それぞれに配設される複数の位相角導出装置と、複数の位相角導出装置に通信網を介して接続された管理サーバとからなる配電系統システムであって、位相角導出装置は、GPS信号を受信するGPS信号受信部と、受信したGPS信号に基づいて基準時刻を生成する時刻生成部と、連結点における3相線路総ての電圧を連続的に測定する電圧測定部と、測定された各電圧波形の、ゼロクロス点と基準時刻との相対時間を計数し、相対位相角を導出する相対位相角導出部と、導出された相対位相角を管理サーバに送信する相対位相角送信部と、を備え、管理サーバは、開閉器との2つの連結点における位相角導出装置から相対位相角を受信する相対位相角受信部と、異なる配電系統間で対応する相同士の相対位相角の差分である位相差を計算する位相差計算部と、計算された位相差が横流を許容できる所定範囲内であれば、開閉器の閉路を許可する閉路許可部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
ここでは、複数の位相角導出装置が異なる配電系統における開閉器への連結点に配設されているので、位相角導出装置同士は離隔しており、その時刻同期が問題になる。そこで、絶対時刻を示すGPS(Global Positioning System)信号に基づいて位相角導出装置毎に基準時刻を生成することで、位相角導出装置同士で同期を図ることができる。そして、各位相角導出装置において同期の図られた基準時刻とゼロクロス点から位相差を求め、通信網を介して管理サーバに集約する。かかる構成により、開閉器の開閉の可否を遠隔地である管理サーバにおいて早期に判断することができ、作業員の労力を煩わすことなく、開閉器の開閉を集中的に制御することが可能となる。
【0013】
また、開閉器の開閉判定から実際の開閉までを短時間で遂行可能になるので、時間差による位相関係の変化を防止でき、横流を所定範囲に確実に抑えつつ、円滑にループ切替を実施させることが可能となる。
【0014】
管理サーバは、連結点から開閉器までの線路のインピーダンスおよび線路を通じて伝達される電力に基づいて、連結点から開閉器までの位相ずれを計算する延長位相角計算部をさらに備え、位相差計算部は、位相ずれを反映した相対位相角によって位相差を計算してもよい。
【0015】
連結点と開閉器とが離隔している場合、その間の線路のインピーダンスに応じて連結点と開閉器とで相対位相角が相異する場合がある。ここでは、連結点から開閉器までの線路のインピーダンス(%Z)と、その線路を通じて伝達される電力(P)に基づいて位相ずれを予測計算し、位相角導出装置による相対位相角にその計算結果を加えることで正確に位相差を導出することができ、より安全なループ切替が可能となる。
【0016】
相対位相角導出部における相対時間の計数分解能は1μsec以下であってもよい。計数分解能を1μsec以下にすることで、角度の分解能も0.018°(50Hzの場合)となり、十分な精度をもって位相差を計算することができる。
【0017】
位相角導出装置および管理サーバは所定時間毎に動作し、管理サーバは、閉路許可部による開閉器の閉路の許可を連続的に報知する許可報知部をさらに備えてもよい。
【0018】
かかる構成により、ループ切替ができない状況であっても、その回復(許可状態になる)を視聴覚的に認識することができ、ループ切替を迅速に実行することができる。また、許可報知部は連続的に閉路の許可を報知するので、その可否の切り替わりを視聴覚的に容易に把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、同一相の位相差を迅速かつ正確に求め、開閉器の開閉可否を早期に判断することで、配電系統に影響を与える横流を防止しつつ、円滑にループ切替を実施させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
例えば、配電系統の一部で事故が発生した場合、発電所または変電所では電力事業所の管理下にある配電系統への電力の供給を一旦停止し、事故が起きた地点を大まかな区域に絞って、その事故区域以外の正常区域への電力供給を再開する。かかる正常区域への電力供給が異系統異変電所から行われる場合、変電所同士の配電線の接続切替が実施される。そして、事故復旧後に通常の配電系統状態に戻すためループ切替が実施される。また、このようなループ切替は、例えば、配電系統に関する工事において高圧配電線を停止しなければいけないとき、その工事範囲(停電範囲)を極力縮小する目的で行われることもある。
【0022】
本実施形態の配電系統システムでは、このようなループ切替の可否判断を迅速かつ正確に行うことができ、加えて、ループ切替自体を円滑に実施することが可能となる。以下、このような配電系統システムの構成を簡単に説明し、後にその具体的な動作を説明する。
【0023】
(配電系統システム)
図1は、配電系統システム100の概略的な構成を示す説明図である。ここで配電系統システム100は、2つの配電系統102、104からなり、各配電系統102、104には、それぞれ配電用変電所106A、106Bが設置されている。このような配電用変電所106(106A、106B)は、配電用変圧器112を通じて母線108から受電した電力(6kV三相交流50/60Hz)を各配電系統102、104の高圧配電線網に配電している。高圧配電線網は、配電用変圧器112から分岐し、放射状に広がる並行線路(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)と、この並行線路同士を連結する連結線路(AB)、(BC)、(CE)、(DE)から形成されている。
【0024】
また、各高圧配電線には線路上に開閉器110(110A、110B、110C1、110C2、110D1、110D2、110E、110F、110AB、110BC、110CE、110DE)が配設される。図1では、開放状態にある開閉器110を白抜きで、閉じている状態にある開閉器110を黒塗りで示している。以下に示す図は総てこの規則に従う。
【0025】
ここで、例えば、並行線路(C)の開閉器110C2より下流の高圧配電線への供給路を変更するループ切替を行うため、開閉器110C2を開路し、配電系統102と配電系統104とを接続する開閉器110CEを閉路しようと試みる。このような異なる配電系統同士の接続においては位相の同一性および位相差を考慮する必要がある。そこで、本実施形態では、このような異なる配電系統間を開閉する開閉器110CEに閉路判定装置120を併設し、その閉路判定装置120を通じて開閉器110CEの閉路可否判断を自動的に行う。
【0026】
(閉路判定装置120)
図2は、閉路判定装置120の概略的な構成を示したブロック図である。閉路判定装置120は、電圧測定部122と、相対位相角導出部124と、位相差計算部126と、閉路許可部128とを含んで構成される。
【0027】
上記電圧測定部122は、開閉器110CEから各配電系統102、104それぞれに延長される3相線路総てにおける、接地変圧器(GVT:Grounding Voltage Transformer)の2次側電圧を、例えば零相電圧変成器(ZPD)を用いて連続的に測定する。
【0028】
上記相対位相角導出部124は、電圧測定部122で測定された各電圧波形の、ノイズ成分を除去するフィルタを通じたゼロクロス点と基準時刻との相対時間を計数し、相対位相角を導出する。
【0029】
図3は、相対位相角導出部124の動作を詳細に説明するための説明図である。開閉器110CEには各配電系統102、104に対してそれぞれ3相分引き込まれているので、ここでは図3(a)に示すように合計6つの端点の電圧波形が測定される。閉路判定装置120は、自体を管理するための基準時刻を有し、相対位相角導出部124は、その基準時刻と上記6つの電圧波形のゼロクロス点との時間差を導出する。例えば、基準時刻の任意の基準時点になると相対位相角導出部124のカウンタ(メモリハイコーダ等)が計数し始め、各電圧値が一旦負の値を経由した後正の値に切り替わった時点(ゼロクロス点)でカウンタ値を抽出し、各相の時間差(図3(a)において白抜き矢印で示す)とする。カウンタの計数は、6つの相対位相角が総て導出されるまで継続する。
【0030】
また、相対位相角導出部124がカウンタを電圧波形数分(ここでは6つ)以上有する場合、起算時点を逆にして、ゼロクロス点から基準時刻までの時間差を導出することもできる。このとき基準時刻の分解能より交流電源の波長が短い場合(例えば、基準時刻1Hzに対して交流電源が50Hzの場合)、図3(b)に示すように、時間差には位相差分のみならず複数周期の波長も加わる。従って、位相差は、時間差を交流電源の単位波長で除算したときの剰余で表される。かかる構成では複数周期の波長が計算に含まれるため電圧波形の歪み(単相負荷や三相負荷によって不平衡電圧が生じ各相の位相が三相総てもしくは一相の線路において変位(進相/遅相)すること)が平均化されて高精度の結果を得ることができる。
【0031】
また、相対位相角導出部124における相対時間の計数分解能は1μsec以下であってもよい。計数分解能を1μsec以下にすることで、角度の分解能も0.018°となり、十分な精度をもって正確に位相差を計算することができる。
【0032】
上記位相差計算部126は、相対位相角導出部124が導出した相対位相角を、異なる配電系統間で対応する相同士の組に配分し、同一相同士の相対位相角の差分である位相差を組数だけ計算する。
【0033】
ここで、電圧波形を測定する時点で同一相が分かっている場合、位相差計算部126は、相対位相角導出部124の動作を省略して直接同一相同士の位相差を測定、計算してもよい。この場合、同一相の一方のゼロクロス点から他方のゼロクロス点までの時間差を計算することとなる。
【0034】
上記閉路許可部128は、位相差計算部126によって計算された位相差が横流を許容できる所定範囲内であれば、開閉器の閉路を許可する。そして、その結果を上位の管理サーバに伝達し、管理サーバにおいて開閉器の開閉制御が実行される。ここで、所定範囲は、横流として許容される電流(許容電流値)と配電系統間のインピーダンスとから、許容電流値×%Z(インピーダンス)/1520で計算でき、3相総てが許容範囲であることを要す。例えば、許容電流値が380A、%Zが40であった場合、角度は10°まで許容される。かかる角度以上となると、許容電流以上の電流が負荷電流に加算され、最終的には配電線をトリップさせる結果に陥る。
【0035】
以上説明した閉路判定装置120は、開閉器110の近傍において、異なる2つの配電系統をループ切替することが可能かどうかを判定している。ここでは、異なる2つの配電系統を構成する各3相の線路の電圧をそれぞれ連続的に測定し、同相検知を行った上で、同一相の位相差を、基準時刻とゼロクロス点との時間差から迅速かつ正確に求めている。
【0036】
かかる構成により、位相差が横流を許容できる範囲内であるかどうか、即ち、開閉器110の開閉が可能であるかどうかを早期に判断することができるので、配電系統に影響を与える横流を防止しつつ、円滑にループ切替を実施させることが可能となる。
【0037】
(位相角導出装置、管理サーバ)
上述した閉路判定装置120は、ループ切替の閉路における正確な位相差を導出することができる。しかし、新たに閉路判定装置120や、管理サーバへの通信網を整備するのは多少のコストを要する。そこで、比較的設置自由度の高い配電用変電所106において相対位相角を導出し、管理サーバで集約的に位相差を求める配電系統システム200を提案する。
【0038】
図4は、配電系統システム200の概略的な構成を示す説明図である。配電系統システム200は、図1を用いて説明した配電システム100に加えて、位相角導出装置210(210A、210B)と、管理サーバ220とを含んで構成されている。位相角導出装置210は、配電系統102、104を結ぶ開閉器110との配電線上の連結点、例えば配電用変電所106A、106Bに配設される。また、管理サーバ220は、このような複数の位相角導出装置210に通信網230を介して接続され、位相角導出装置210からの情報を集約すると共に各開閉器110の開閉制御も行う。ここで、通信網230は、高速専用回線、ISDN(Integrated Services Digital Network)回線やインターネット等の通信媒体をいう。
【0039】
図5は、位相角導出装置210(210A、219B)と管理サーバ220との概略的な構成および接続関係を示したブロック図である。位相角導出装置210A、210Bは、それぞれ、GPS信号受信部250と、時刻生成部252と、電圧測定部122と、相対位相角導出部124と、相対位相角送信部254とを含んで構成され、管理サーバ220は、相対位相角受信部260と、位相差計算部126と、閉路許可部128と、許可報知部262と、延長位相角計算部264とを含んで構成される。
【0040】
ここで、図2を用いて説明した電圧測定部122と、相対位相角導出部124と、位相差計算部126と、閉路許可部128とは、実質的に機能が同一なので重複説明を省略し、ここでは、構成が相違するGPS信号受信部250と、時刻生成部252と、相対位相角送信部254と、相対位相角受信部260と、許可報知部262と、延長位相角計算部264とを主に説明する。
【0041】
上記GPS信号受信部250は、衛星270からのGPS信号を受信する。当該GPS信号は、正確な絶対時刻のみならず、緯度、経度、高度等を数cm〜数十mの誤差で割り出すことも可能である。
【0042】
ここでGPS信号受信部250は、GPS信号から1Hzのパルス信号(1pps)を生成する。ここで1ppsの精度は±1μsecであり、角度に換算すると0.018°となる。従って、相対位相角導出部124の計算分解能である1μsecに十分に対応でき、高精度に相対位相角を導出することが可能となる。
【0043】
上記時刻生成部252は、GPS信号受信部250による1ppsのGPS信号に基づいて、当該位相角導出装置210の基準時刻を生成する。
【0044】
上記相対位相角送信部254は、時刻生成部252が生成した基準時刻に基づいて上述した相対位相角導出部124が導出した相対位相角を、管理サーバ220に送信する。
【0045】
管理サーバ220の相対位相角受信部260は、開閉器110との連結点である2つの配電用変電所106A、106Bにおける位相角導出装置210から相対位相角を受信する。そして、位相差計算部126によって、異なる配電系統間で対応する相同士の位相差が計算され、その位相差が横流を許容できる所定範囲内であれば、閉路許可部128が開閉器110の閉路を許可する。
【0046】
上記許可報知部262は、位相角導出装置210および管理サーバ220が所定時間毎に動作する場合、閉路許可部128による開閉器110の閉路の許可を連続的に報知する。かかる構成により、ループ切替ができない状況であっても、その回復(許可状態になる)を視聴覚的に認識することができ、ループ切替を迅速に実行することができる。また、許可報知部262は連続的に閉路の許可を報知するので、その可否の切り替わりを視聴覚的に容易に把握することが可能となる。
【0047】
以上説明したように、配電系統システム200では、複数の位相角導出装置210が異なる配電系統における開閉器110との連結点(配電用変電所106A、106B)に配設されており、位相角導出装置210同士は離隔している。従って、その時刻同期が問題になる。そこで、絶対時刻を示すGPS信号に基づいて位相角導出装置210毎に基準時刻を生成することで、位相角導出装置210同士で同期を図る。そして、各位相角導出装置210において同期の図られた基準時刻とゼロクロス点から位相差を求め、通信網230を介して管理サーバ220に集約している。
【0048】
かかる構成により、開閉器110の開閉の可否を遠隔地である管理サーバ220において早期に判断することができ、作業員の労力を煩わすことなく、開閉器110の開閉を集中的に制御することが可能となる。
【0049】
また、開閉器110の開閉判定から実際の開閉までを短時間で遂行可能になるので、時間差による位相関係の変化を防止でき、横流を所定範囲に確実に抑えつつ、円滑にループ切替を実施させることが可能となる。
【0050】
ここで、本実施形態の配電系統システム200の実施結果と、既存のループチェッカ10との測定結果とを比較して本実施形態の有効性を検証する。
【0051】
図6は、位相差の測定結果を示した説明図である。ここでは、図4の配電系統システム200における、開閉器110CEを既存のループチェッカ10で測定した位相差と、配電用変電所106Aおよび106Bにおける位相角導出装置210の相対位相角を用いて管理サーバ220において導出した位相差とを比較している。かかる結果を用いると、角度の所定範囲±10°に対して、2つの比較例の差は十分に小さく、本実施形態の配電系統システム200は、測定時間の経過による変動はあるものの、ほぼ開閉器110CEの端点を測定した場合と同様の結果が得られることが理解できる。
【0052】
図7は、配電系統システム200の他の接続状態における位相差の測定結果を示した説明図である。ここでは、図4における開閉器110B、110C2、110D2、110AB、110BC、110DEの開閉状態を変化させることで、図7(a)に示すように、開閉器110CEには、開閉器110Aと開閉器110Eの出力が接続されている。かかる接続状態においても、図7(b)に示すように、既存のループチェッカ10で測定した位相差と、管理サーバ220において導出した位相差との差は、角度の所定範囲±10°に対して十分に小さく、ほぼ開閉器110C2Eの端点を測定した場合と同様の結果が得られることが分かる。
【0053】
また、図7(a)の状態で、実験的に開閉器110Eの負荷電流を大きくした場合においても図7(c)のような結果を得ることができた。以上の結果、本実施形態の配電系統システム200が、開閉器110の開閉の可否を遠隔地である管理サーバ220において早期に判断することができ、作業員の労力を煩わすことなく、管理サーバ220において開閉器110の開閉を制御することが可能となることが理解できる。
【0054】
また、管理サーバ220は、位相差の精度を高めるため、延長位相角計算部264を設けることもできる。延長位相角計算部264は、位相角導出装置210が設けられた配電用変電所106から開閉器110までの線路のインピーダンスおよび、線路を通じて伝達される電力に基づいて、位相角導出装置210から開閉器110までの位相ずれを計算する。
【0055】
位相角導出装置210と開閉器110とが離隔している場合、その間の線路のインピーダンス(%Z)に応じて位相角導出装置210と開閉器110とで相対位相角が相異する場合がある。ここでは、まず、位相角導出装置210から開閉器110までの線路のインピーダンス(%Z)と、その線路を通じて伝達される電力(P)に基づいて位相ずれを予測計算する。
【0056】
上記線路のインピーダンス(%Z)は、配電設備計画支援システムにおいて、配線状況、電柱の新設、撤去等の負荷の変動が日々更新されているので、その負荷の積算値により予測される。また、電力(P)は、配電自動化システムにおける送り出し電圧とバンクの関係から導き出すことができる。かかる予測値は、分布定数負荷を考慮しさえすれば、開閉器110までの線路に他の負荷への分岐を含んでいたとしても正確に求めることができる。そして、位相角導出装置210による相対位相角にその計算結果を加えることで正確に位相差を導出することができ、より安全なループ切替が可能となる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、配電系統のループ切替を実施するための閉路判定装置および配電系統システムに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態における配電系統システムの概略的な構成を示す説明図である。
【図2】閉路判定装置の概略的な構成を示したブロック図である。
【図3】相対位相角導出部の動作を詳細に説明するための説明図である。
【図4】配電系統システムの概略的な構成を示す説明図である。
【図5】位相角導出装置と管理サーバとの概略的な構成および接続関係を示したブロック図である。
【図6】位相差の測定結果を示した説明図である。
【図7】配電系統システムの他の接続状態における位相差の測定結果を示した説明図である。
【図8】従来のループチェッカを説明するための説明図である
【符号の説明】
【0060】
100、200 …配電系統システム
102、104 …配電系統
106 …配電用変電所
110 …開閉器
120 …閉路判定装置
122 …電圧測定部
124 …相対位相角導出部
126 …位相差計算部
128 …閉路許可部
210 …位相角導出装置
220 …管理サーバ
230 …通信網
250 …信号受信部
252 …時刻生成部
254 …相対位相角送信部
260 …相対位相角受信部
262 …許可報知部
264 …延長位相角計算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる配電系統それぞれに接続され該異なる配電系統間を開閉する開閉器に併設される閉路判定装置であって、
前記開閉器における異なる配電系統それぞれの3相線路総ての電圧を連続的に測定する電圧測定部と、
前記測定された各電圧波形の、ゼロクロス点と基準時刻との相対時間を計数し、相対位相角を導出する相対位相角導出部と、
前記異なる配電系統間で対応する相同士の前記相対位相角の差分である位相差を計算する位相差計算部と、
前記計算された位相差が横流を許容できる所定範囲内であれば、前記開閉器の閉路を許可する閉路許可部と、
を備えることを特徴とする閉路判定装置。
【請求項2】
異なる配電系統間の接続を開閉する開閉器への連結点それぞれに配設される複数の位相角導出装置と、該複数の位相角導出装置に通信網を介して接続された管理サーバとからなる配電系統システムであって、
前記位相角導出装置は、
GPS信号を受信するGPS信号受信部と、
前記受信したGPS信号に基づいて基準時刻を生成する時刻生成部と、
前記連結点における3相線路総ての電圧を連続的に測定する電圧測定部と、
前記測定された各電圧波形の、ゼロクロス点と前記基準時刻との相対時間を計数し、相対位相角を導出する相対位相角導出部と、
前記導出された相対位相角を前記管理サーバに送信する相対位相角送信部と、
を備え、
前記管理サーバは、
前記開閉器との2つの連結点における位相角導出装置から前記相対位相角を受信する相対位相角受信部と、
前記異なる配電系統間で対応する相同士の前記相対位相角の差分である位相差を計算する位相差計算部と、
前記計算された位相差が横流を許容できる所定範囲内であれば、前記開閉器の閉路を許可する閉路許可部と、
を備えることを特徴とする配電系統システム。
【請求項3】
前記管理サーバは、
前記連結点から開閉器までの線路のインピーダンスおよび該線路を通じて伝達される電力に基づいて、該連結点から開閉器までの位相ずれを計算する延長位相角計算部をさらに備え、
前記位相差計算部は、前記位相ずれを反映した相対位相角によって位相差を計算することを特徴とする請求項2に記載の配電系統システム。
【請求項4】
前記相対位相角導出部における相対時間の計数分解能は1μsec以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の配電系統システム。
【請求項5】
前記位相角導出装置および管理サーバは所定時間毎に動作し、
前記管理サーバは、前記閉路許可部による開閉器の閉路の許可を連続的に報知する許可報知部をさらに備えることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の配電系統システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−176107(P2009−176107A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14919(P2008−14919)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】