説明

開口部防火措置具、及び、開口部防火措置工法

【課題】 区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間の開口部に対して、簡単、且つ、短時間で、信頼性の高い防火措置を施すことを可能にする。
【解決手段】 区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間の開口部に配備される開口部防火措置具1において、開口部への配備時における貫通体径方向で体積縮小状態に弾性圧縮可能な熱膨張性耐火材2が、密封状態での袋内空気の脱気によって前記体積縮小状態に拘束される状態で可撓性気密袋3に内装されているとともに、その可撓性気密袋3の密封を解除することによって可撓性気密袋3の最大容量範囲内で熱膨張性耐火材2の体積を弾性復元させる耐火材復元手段3Bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間の開口部に配備される開口部防火措置具、及び、これを区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間の開口部に配備することで開口部を閉塞、又はほぼ閉塞する開口部防火措置工法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の開口部防火措置具は、区画体の貫通部とこれに挿通される開口部を通じて火炎や煙が区画体側に侵入することを抑制する目的で開口部に配備されるもので、従来は、取り扱い易い適当な大きさで成形した難燃性発泡ポリウレタン等を主成分とする柔軟性の熱膨張性耐火ブロックをガラス繊維織物等の不燃性シートで被覆していた。
【0003】
このような開口部防火措置具は、熱膨張性耐火ブロックを不燃性シートで被覆することによって、熱膨張性耐火ブロックに触れることなく取り扱うことを可能にして、施工中における熱膨張性耐火ブロックの欠損を抑制することができるとともに、その熱膨張性耐火ブロックの柔軟性によって、壁や床などの区画体の貫通部とこれに挿通されるケーブル等の貫通体との間の開口部に対して、複数の開口部防火措置具を開口部の一方側(例えば、貫通部の内周面側)に押し付けて開口部に隙間ができないように変形させながら順次に詰め込むことで、開口部を精度良く閉塞することを可能にして、このことにより、火災時に貫通体が熱融解又は焼失することで生じた隙間を熱膨張性耐火ブロックの熱膨張により迅速に閉塞して、開口部を通じて火炎や煙が区画体側に侵入することを効果的に抑制することを可能にしていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の如き従来の開口部防火措置具では、開口部を精度良く閉塞するのに、複数の開口部閉塞具を開口部の一方側に押し付けて開口部に隙間ができないように変形させながら順次に詰め込まなければならないために、複数の開口部防火措置具を開口部に配備させるまでに相当の時間がかかってしまうという問題があった。
【0005】
また、開口部の閉塞精度が施工者の作業精度に完全に委ねられるため、施工者によって閉塞精度にバラツキが生じることを抑制することができず、そのことで、火災時に貫通体が熱融解又は焼失することで生じた隙間を閉塞するのに時間遅れが生じるなど、火災時の防火性能に対する信頼性も十分でないのが実情であった。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みて為されたものであって、区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間の開口部に対して、簡単、且つ、短時間で、信頼性の高い防火措置を施すことのできる開口部防火措置具、及び、開口部防火措置方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は開口部防火措置具に係り、その特徴は、
区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間の開口部に配備される開口部防火措置具であって、
前記開口部への配備時における貫通体径方向で体積縮小状態に弾性圧縮可能な熱膨張性耐火材が、密封状態での袋内空気の脱気によって前記体積縮小状態に拘束される状態で可撓性気密袋に内装されているとともに、その可撓性気密袋の密封を解除することによって可撓性気密袋の最大容量範囲内で熱膨張性耐火材の体積を弾性復元させる耐火材復元手段が設けられている点にある。
【0008】
上記第1特徴構成によれば、熱膨張性耐火材が体積縮小状態で内装されている可撓性気密袋を開口部に配置したのちに、耐火材復元手段によって熱膨張性耐火材の体積を貫通体径方向(つまり、開口部が閉塞される側)に弾性復元させることができるから、熱膨張性耐火材の弾性復元を見越して開口部にある程度隙間が生じることを許す状態で施工することが可能となり、このことにより、施工作業の簡略化、及び、施工時間の短縮化を図ることができるとともに、施工者によって開口部の閉塞精度にバラツキが生じることを抑制することができて、火災時の防火性能に対する信頼性も向上させることができる。しかも、施工前は熱膨張性耐火材が体積縮小状態にあるから、保管や搬送の面でも有利なものとすることができる。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成の実施において好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記耐火材復元手段が、前記可撓性気密袋を密封状態と密封解除状態とに切り替える切り替え手段である点にある。
【0010】
上記第2特徴構成によれば、密封を解除することで熱膨張性耐火材を弾性復元させても切り替え手段によって再び密封状態にすることができるから、熱膨張性耐火材を弾性復元させて開口部に配備したのちに密封状態にすることで、熱膨張性耐火材が水に濡れてしまうことを防止することができ、このことにより、熱膨張性耐火材の水濡れに伴う所期性能の低下を防止することができる。
【0011】
本発明の第3特徴構成は、第1、第2特徴構成の実施において好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記可撓性気密袋の外面の少なくとも一部が、前記区画体の貫通部、及び、前記貫通体に対する滑動又は摺動を抑制可能な粗面で形成されている点にある。
【0012】
上記第3特徴構成によれば、開口部にある程度の隙間が生じることを許す状態、換言すれは、貫通部と貫通体の一方としか接触しない状態で配置された場合でも、区画体の貫通部又は貫通体に対する滑動又は摺動を抑制することができるから、熱膨張性耐火材が内装されている可撓性袋体が熱膨張性耐火材の弾性復元前に位置ズレを起こすことを抑制することができ、このことにより、施工作業の簡略化、及び、施工時間の短縮化を一層図ることができる。
【0013】
本発明の第4特徴構成は、第1〜3特徴構成の実施において好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記熱膨張性耐火材が、貫通体径方向に可撓性の熱膨張性耐火シートを積層して構成されているとともに、前記可撓性気密袋の貫通体周方向長さが、前記熱膨張性耐火材の貫通体周方向長さよりも大なる長さで形成されている点にある。
【0014】
つまり、例えば、熱膨張性耐火材を一体成形することも考えられるけれども、その場合、貫通体の外周面に沿って曲げ変形させた際には、熱膨張性耐火材の内側部分と外側部分との曲径(又は、曲率)の相違によって、内側部分に周方向圧縮力が作用して内側部分が周方向に縮変形されるとともに、外側部分に周方向引張力が作用して外側部分が周方向に伸変形されるために、開口部防火措置具の径方向での弾性を十分に発揮させることができなくなり、そのことで、開口部の閉塞精度が低下してしまう。
【0015】
それに対して、上記第4特徴構成であれば、貫通体径方向に積層された可撓性の熱膨張性耐火シートを曲げ変形させて開口部に装備させた際に各シートが隣接シート間で周方向相対移動を行うことができるから、熱膨張性耐火材に貫通体周方向圧縮力、及び外側部分への貫通体周方向引張力が作用することがなく、貫通部と貫通体との間で径方向での弾性を十分に発揮させて貫通部の内周面、又は、貫通体の外周面の形状に対応させて変形させることができ、そのことで、開口部の閉塞精度を一層高いものとすることができる。
【0016】
本発明の第5特徴構成は、開口部防火措置工法に係り、その特徴は、
請求項1〜4記載の開口部防火措置具を前記開口部に配置したのちに、前記区画体の開口部防火措置具における熱膨張性耐火材の体積を弾性復元させて、前記開口部を閉塞、又はほぼ閉塞する点にある。
【0017】
上記第5特徴構成によれば、簡単な作業内容で、且つ、短い作業時間で区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間口部に対して、信頼性の高い防火措置を施すことができる。
【0018】
本発明の第6特徴構成は、開口部防火措置工法に係り、その特徴は、
体積縮小状態に弾性圧縮可能な熱膨張性耐火材が、密封状態での袋内空気の脱気によって前記体積縮小状態に拘束される状態で可撓性気密袋に内装されている開口部防火措置具を、区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間の開口部に配置したのちに、前記可撓性気密袋の密封を解除することによって可撓性気密袋の最大容量範囲内で熱膨張性耐火材の体積を貫通体径方向に弾性復元させて、前記開口部を閉塞、又はほぼ閉塞する点にある。
【0019】
上記第6特徴構成によれば、熱膨張性耐火材が体積縮小状態にある開口部防火措置具を区画体の開口部に配置したのちに、可撓性気密袋の密封を解除して可撓性気密袋の最大容量範囲内で熱膨張性耐火材の体積を貫通体径方向に弾性復元させるだけの簡単な作業内容で、しかも、短い作業時間で区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間口部に対して信頼性の高い防火措置を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1〜図5は、例えば、図6〜図11に示すように壁Wや床Sなどの防火区画体に開口された貫通部、又は、図示しないが区画体に貫通固定された金属製スリーブをもって形成される貫通部など、区画体の貫通部Hとこれに挿通されるケーブルKなどの貫通体との間の開口部Haを閉塞するために、開口部Haに配備される開口部防火措置具1を示し、2は、湾曲変形可能な可撓性と弾性圧縮可能な弾性とを備えた熱膨張性耐火材であり、耐火性材料、防音性材料の一例である断熱性を備えたロックウールを主体に熱膨張性材料の一例である未焼成バーミキュライト粉末を含有させて構成した熱膨張耐火シート2Aを厚み方向(開口部Haに配備するときの貫通体径方向)に複数枚積層して構成されている。
【0021】
3は、可撓性と気密性を備える透光性ポリエチレンフィルムで熱膨張性耐火材2を内装可能な袋状に作製された袋体であり、熱膨張性耐火材2を挿入するための挿入口3Aを除く収納空間周りの重合部分3c、3d、3eを熱溶着して構成されているとともに、その挿入口3Aには、閉じることで挿入口3Aを密栓可能なファスナー3Bが設けられている。
【0022】
前記ファスナー3Bは、挿入口3A周りの内側面における相対向する部分に、夫々、袋体3の横幅全域にわたる長さの一対の嵌合溝3aと、これに気密状態で弾性嵌合可能な袋体3の横幅全域にわたる長さの一対の嵌合突条3bとが設けられているとともに、嵌合溝3aの両端部、及び、嵌合突条3bの両端部とを弾性嵌合させた状態で、それらの部分を袋体3とともに熱溶着して密着させてあり、開閉操作によって袋体3の内部を密封状態と密封解除状態とに切り替え自在に構成されている。
【0023】
前記ファスナー3Bを開いた状態(図2、図4)において、前記袋体3の設定厚み(貫通体径方向長さ)3Dが、熱膨張性耐火材2のシート積層厚み2Dよりも若干大なる長さで形成され、袋体3の幅(貫通体長さ方向長さ)3wが、熱膨張性耐火材2の幅2wよりも若干大に形成されているとともに、熱膨張性耐火材2を内装した状態で袋体3の長さ方向両端部と熱膨張性耐火材2の長さ方向(貫通体周方向)両端部2dとの間に夫々余剰空間S1、S2が形成されるように、袋体3の長さ方向長さ3lが熱膨張性耐火材2の長さ方向長さ2lよりも大なる長さで形成されていて、余剰空間S1、S2を用いて複数の熱膨張性耐火シート2Aにおける隣接シート間での長さ方向相対移動を許容するとともに、余剰空間S1、S2に対応する袋体3の両側部分を、開口部防火措置具1を取り扱うための握持部に兼用構成してある。
【0024】
前記袋体3の外周面は、エンボス加工を施して多数の凸部3fを有する粗面に形成してあり、貫通部Hの内周面、及び、ケーブルKの外周面との接触状態において滑動又は摺動などの相対移動に対して抵抗力を付与できるようにしてある。
【0025】
尚、挿入口3Aは、熱膨張耐火材2の長さ方向端部に設けてあるが、後述する使用形態に応じて適宜変更すればよい。
【0026】
そして、開口部防火措置具1は、熱膨張性耐火材2を内包する状態でファスナー3Bを閉じた密封状態で袋体3の袋内空気を脱気することによって、減圧による袋内容量の縮小により弾性圧縮した体積縮小状態(本実施形態では体積が約1/3の状態)で熱膨張性耐火材2を拘束させてあり(図1、図2、図4の状態)、ファスナー3Bを開き操作して袋体3の密封状態を解除することによって、袋体3の最大容量範囲内で熱膨張性耐火材2の体積を弾性復元させるようにしてある(図3、図5の状態)。
【0027】
尚、本実施形態において、ファスナー3Bは本発明の第1特徴構成で云う耐火材復元手段に相当するとともに、本発明の第2特徴構成で云う切り替え手段に相当する。
【0028】
本実施形態の開口部防火措置具1を製造するにあたって、袋体3の袋内空気を脱気するのに吸引ホースを備えた脱気装置を用いている。
具体的には、袋体3のファスナー3Bを開いて、挿入口3Aを通じて熱膨張性耐火材2を内部に挿入したのちに、脱気装置の吸引ホースを挿入口3Aから袋内に差し込んだ状態でファスナー3Bを閉じ操作することによって吸引ホースが差し込まれた部分を除く挿入口3Aをほぼ密封し、その状態で脱気装置を作動させることにより袋内空気を脱気する。
【0029】
そして、袋内空気の脱気が所望の状態まで完了したら、挿入口3Aから吸引ホースを素早く抜き取り、ファスナー3Bを閉じ操作して挿入口3Aを密封することで、袋体3の内部を脱気して熱膨張性耐火材2を体積縮小状態に維持する。
【0030】
次に、本発明の開口部防火措置具1を開口部Haに配備する開口部防火措置工法について使用例を挙げて説明する。尚、便宜上、開口部防火措置具1を構成する複数の熱膨張性耐火シート2Aのうち、最も外側に位置するシートを外側シート2a、使用時に最も内側に位置するシートを内側シート2c、それらの中間に位置するシートを中間シート2bとして説明する。
【0031】
(ア)使用例1
図6、図7に示す使用例は、比較的少数のケーブルK用として壁Wに形成された小円形状の貫通部Hの内周面と複数本(本使用例では3本)のケーブルKの外周面との間の円環状の開口部Haに開口部防火措置具1を配備することにより開口部Haを閉塞又はほぼ閉塞するもので、開口部防火措置具1は、その熱膨張性耐火材2の長さ方向長さ2lを、圧縮力が作用しない状態でケーブルKの外周長さと同じ又は略同じ長さに形成してあり、ケーブルKの外周面に沿って円筒状に曲げ変形させた際に内側シート2cの長さ方向両端部2dの端面同士が周方向から当接(接触)してケーブルKの外周面を被覆できるようにしてある。
【0032】
また、挿入口3Aは、袋体3の短辺側である長さ方向端部に設けてあり、ファスナー3Bのファスナー長さを極力短くして、袋内を効率良く密封できるようにしてある。
【0033】
まず、開口部防火措置具1をケーブルKの外周面に沿って熱膨張性耐火シート2Aの積層方向で円筒状に曲げ変形させた状態で開口部Ha内に外方から挿入して開口部Ha内に配置する(図6の状態)。このとき、開口部防火措置具1は、貫通部Hの内周面とケーブルKの外周面とで挟持されていないが、その外面と貫通部Hの内周面との摩擦抵抗により、その位置を極力保持している。
【0034】
次に、開口部防火措置具1の袋体3のファスナー3Bを開き操作する。この開き操作により袋体3の密封が解除され、上述のように袋体3の袋内容量の拡大に伴って熱膨張性耐火材2が貫通体径方向に自動的に弾性復元して、開口部Haを閉塞又はほぼ閉塞する状態(図7の状態)にする。
【0035】
尚、熱膨張性耐火材2の体積を弾性復元させたのち、再度、ファスナー3Bを閉じ操作して、袋体3の内部を密封することで、開口部Haに配備された状態の開口部防火措置具1における熱膨張性耐火材2が水に濡れることを抑制し、熱膨張性耐火材2の水濡れを原因とする耐火性能や断熱性能などの所期性能の低下を抑制することができる。
【0036】
ちなみに、開口部Haに配備された開口部防火措置具1における熱膨張性耐火材2は、その外側シート2aが中間シート2bに比して曲径が大きくなるために(換言すれば、曲率が小さくなるために)中間シート2bに比して、その長さ方向両端部2dが周方向中央寄りに相対移動しているとともに、内側シート2cが中間シート2bに比して曲径が小さくなるために(換言すれば、曲率が大きくなるために)中間シート2bに比して、その長さ方向両端部が周方向外方に相対移動しており、開口部防火措置具1には、開口部防火措置具1の弾性変形に対する拘束力となる周方向圧縮力や周方向引張力がほとんど作用していない状態にある。
【0037】
そのため、径方向への弾性復元力によって開口部防火措置具1の貫通部Haの内周面、及びケーブルKの外周面の双方に接する部分(挟圧部2e)が径方向に圧縮変形される一方で、貫通部Hの内周面、又はケーブルKの外周面の双方に接していない部分、或いは貫通部Hの内周面、又はケーブルKの外周面の一方に接する部分(非挟圧部2f)には圧縮力が作用せず、非挟圧部2fは全く圧縮変形しないから、挟圧部2eが貫通部Hの内周面、及びケーブルKの外周面に接するとともに、非挟圧部2fが貫通部Hの内周面、及びケーブルKの外周面に極力近づいた状態を保持して開口部Haに隙間ができることを抑制する。
【0038】
(イ)使用例2
図8、図9に示す使用例は、多数のケーブルK用として壁Wに形成された矩形状の貫通部Hの内周面と多数のケーブルKの外周面との間の開口部Haに開口部防火措置具1を複数個配備させて開口部Haを閉塞又はほぼ閉塞するもので、開口部防火措置具1は、開口部Haの縦横の寸法に対応した取り扱い易い単一の大きさで形成されているとともに、その幅方向端部に挿入口3Aを設けてある。
【0039】
まず、開口部防火措置具1を開口部Ha内に外方から挿入口3Aが外方に向く状態で順次に挿入して開口部Ha内に配置する(図8の状態)。このとき、開口部防火措置具1は、貫通部Hの内周面とケーブルKの外周面とで挟持されていないが、その外面と貫通部Hの内周面、又は、ケーブルKの外周面との摩擦抵抗により、その位置を極力保持している。
【0040】
次に、全ての開口部防火措置具1の袋体3のファスナー3Bを開き操作する。挿入口3Aは外方を望む状態で配置されているので、挿入口3Aのファスナー3Bの開き操作を容易に行うことができる。
この開き操作により袋体3の密封が解除され、使用例1と同様に袋体3の袋内容量の拡大に伴って熱膨張性耐火材2が貫通体径方向に自動的に弾性復元して、開口部Haを閉塞又はほぼ閉塞する状態(図9の状態)にする。
【0041】
尚、使用例1と同様に、熱膨張性耐火材2の体積を弾性復元させたのち、再度、ファスナー3Bを閉じ操作して、袋体3の内部を密封することで、開口部Haに配備された状態の開口部防火措置具1における熱膨張性耐火材2が水に濡れることを抑制し、熱膨張性耐火材2の水濡れを原因とする耐火性能や断熱性能などの所期性能の低下を抑制することができる。
【0042】
(ウ)その他の使用例
前述の各使用例では、貫通部Hが壁Wに形成されている場合を例に挙げて説明したが、貫通部Hが床Sに形成されている場合に本発明を適用してもよい。その場合、開口部防火措置具1を開口部Haに配置する前に、図10に示す如く、開口部Haにコの字状の受け金具5を設けることで、開口部防火措置具1の重力による位置ズレを抑止するようにしてもよい。
【0043】
前述の使用例2では、多数のケーブルK用の矩形状の貫通部Hと多数のケーブルKとの間の開口部Haに対して、開口部防火措置具1を取り扱い易い適当な大きさに形成した場合を例に挙げて説明したが、図11に示すように、開口部Haの短片長さ、及び長辺長さに対応させた2種の大きさで形成することで、開口部防火措置具1の使用個数を少なくして開口部防火措置工程を短縮するようにしてもよい。
【0044】
[別実施形態]
(1)前述の実施形態では、本発明の第1特徴構成における耐火材復元手段、及び、第2特徴構成おける切り替え手段として、挿入部3Aを開閉可能なファスナー3Bを例に挙げて説明したが、前記耐火材復元手段としては、密封状態にした袋体3を容易に破れるようにするための切り込みなど、袋体3の密封を解除して熱膨張性耐火材2を弾性復元させることができればどのような構成であってもよく、また、前記切り替え手段としては、袋体3に形成した嵌合孔とこれを密栓可能な嵌合突起など、袋体3を密封状態と密封可能状態とに切り替えることができれば、どのような構成であってもよい。
【0045】
(2)前述の実施形態では、耐火材復元手段、及び、切り替え手段としてのファスナー3Bを設けていた場合を例に挙げて説明したが、本発明の第6特徴構成の実施においては、ファスナー3Bは特に必要ではなく、袋体3を穿孔、破くなどにより容易に密封を解除できるようにしてあればよい。
【0046】
(3)前述の実施形態では、熱膨張性耐火材2が、同一素材からなる熱膨張性耐火シート2Aの複数を積層して構成されていたが、異なる種類の素材で構成した複数種のシートを積層して構成してもよい。
【0047】
(4)前述の実施形態では、袋体3の外面にエンボス加工を施して粗面に構成してあったが、外面全てを粗面にする必要はなく、使用時に貫通体の内周面、又は、ケーブルKの外周面に接する部分のうちの一部が粗面であればよい。
【0048】
(5)前述の実施形態では、熱膨張性耐火材2を内包する袋体3の最大容量を、熱膨張性耐火材2の体積よりも大きく構成することで、袋体3の密封を解除したときに体積縮小状態にある熱膨張性耐火材2の体積を完全に復元させるように構成した場合を例に挙げて説明したが、袋体3の最大容量は、体積縮小状態にある熱膨張性耐火材2を弾性復元させることができるように、体積縮小状態にある熱膨張性耐火材2の体積よりも大きければ、どのような容量に構成してもよい。
【0049】
(6)前述の実施形態では、熱膨張性耐火材2を、湾曲変形可能な可撓性と弾性圧縮可能な弾性とを備えるように構成した場合を例に挙げて説明したが、本発明の第1、第2、第3、第5、第6特徴構成の実施において、必ずしも湾曲変形可能な可撓性を備える必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の開口部防火措置具の平面図
【図2】本発明の開口部防火措置具の長さ方向(貫通体周方向)側面断面図(図1のI−I線断面図)
【図3】熱膨張性耐火材の体積を弾性復元させた状態を示す長さ方向側面断面図
【図4】本発明の開口部防火措置具の幅方向(貫通体長さ方向)側面断面図(図1のII−II線断面図)
【図5】熱膨張性耐火材の体積を弾性復元させた状態を示す幅方向側面断面図
【図6】使用例1において開口部防火措置具を開口部に配置した状態を示す正面図
【図7】使用例1において開口部防火措置具の熱膨張性耐火材を弾性復元させた状態を示す正面図
【図8】使用例2において開口部防火措置具を開口部に配置した状態を示す正面図
【図9】使用例2において開口部防火措置具の熱膨張性耐火材を弾性復元させた状態を示す正面図
【図10】別の使用例の説明図
【図11】別の使用例において開口部防火措置具の熱膨張性耐火材を弾性復元させた状態を示す正面図
【符号の説明】
【0051】
W 壁(区画体)
S 床(区画体)
H 貫通部
Ha 開口部
K ケーブル(貫通体)
1 開口部防火措置具
2 熱膨張性耐火材
2l 長さ方向長さ(貫通体周方向長さ)
2D シート積層厚み(貫通体径方向長さ)
2A 熱膨張性耐火シート
3 袋体(可撓性気密袋)
3l 長さ方向長さ(貫通体周方向長さ)
3B ファスナー(耐火材復元手段、切り替え手段)
3f 凸部(粗面)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間の開口部に配備される開口部防火措置具であって、
前記開口部への配備時における貫通体径方向で体積縮小状態に弾性圧縮可能な熱膨張性耐火材が、密封状態での袋内空気の脱気によって前記体積縮小状態に拘束される状態で可撓性気密袋に内装されているとともに、その可撓性気密袋の密封を解除することによって可撓性気密袋の最大容量範囲内で熱膨張性耐火材の体積を弾性復元させる耐火材復元手段が設けられている開口部防火措置具。
【請求項2】
前記耐火材復元手段が、前記可撓性気密袋を密封状態と密封解除状態とに切り替える切り替え手段である請求項1記載の開口部防火措置具。
【請求項3】
前記可撓性気密袋の外面の少なくとも一部が、前記区画体の貫通部、及び、前記貫通体に対する滑動又は摺動を抑制可能な粗面で形成されている請求項1又は2記載の開口部防火措置具。
【請求項4】
前記熱膨張性耐火材が、貫通体径方向に可撓性の熱膨張性耐火シートを積層して構成されているとともに、前記可撓性気密袋の貫通体周方向長さが、前記熱膨張性耐火材の貫通体周方向長さよりも大なる長さで形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の開口部防火措置具。
【請求項5】
請求項1〜4記載の区画体の開口部防火措置具を前記開口部に配置したのちに、前記区画体の開口部防火措置具における熱膨張性耐火材の体積を弾性復元させて、前記開口部を閉塞、又はほぼ閉塞する開口部防火措置工法。
【請求項6】
体積縮小状態に弾性圧縮可能な熱膨張性耐火材が、密封状態での袋内空気の脱気によって前記体積縮小状態に拘束される状態で可撓性気密袋に内装されている開口部防火措置具を、区画体の貫通部とこれに挿通される貫通体との間の開口部に配置したのちに、前記可撓性気密袋の密封を解除することによって可撓性気密袋の最大容量範囲内で熱膨張性耐火材の体積を貫通体径方向に弾性復元させて、前記開口部を閉塞、又はほぼ閉塞する開口部防火措置工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−75515(P2007−75515A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270600(P2005−270600)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000119830)因幡電機産業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】