説明

防弾衣料用布帛

【課題】公知のアラミド繊維を用いた防護衣料に比べ、軽量でかつ高耐弾性能を持つ防護衣料を提供する。
【解決手段】式(1)および式(2)の構造反復単位からなる芳香族コポリアミドを含む全芳香族ポリアミドフィラメントから構成される防弾衣料用布帛。式1


式2


(ArおよびArは各々独立で、非置換又は置換された2価の芳香族基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の芳香族コポリアミドを含有する全芳香族ポリアミド系フィラメントから構成される、軽量かつ柔軟で着用感に優れ、耐弾性能が良好な、防弾衣料用布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高強度繊維布帛の積層物を用いた防護衣料は、従来より知られており、その繊維材料として、アラミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維)を用いたもの(例えば、特許文献1:特開昭52−46700公報、特許文献2:特開昭57−207799号公報)など数多く提案されている。
最近では、銃弾に対する防御に関する関心が高まり、より脅威の高レベルのエネルギーを持つ弾を発射する銃器に対する防護衣料の要求が高くなっている。これに対して、従来より使用されているアラミド繊維では、耐弾性能を上げるために積層枚数を増やすことが必要であり、そのため重量が著しく増加しかつ着用感も損なわれてしまい、防護衣料として常用し難いものとなっている。
また一方で、耐弾性能を上げるため、アラミド繊維より高強度を有するポリベンザゾール繊維を用いた防護衣料も提案されている(特許文献3:特開平9−72697公報)。確かに、この繊維を用いると耐弾性能は向上するものの、該繊維は非常に高価であり、その結果、該繊維よりなる防護衣料も高価になってしまうという問題点がある。
このように、従来のアラミド繊維を用いた場合、並みに安価で、かつ従来のアラミド繊維用いた場合に比べて、耐弾性能に優れた防護衣料の登場が望まれている。
【0003】
【特許文献1】特開昭52−46700号公報
【特許文献2】特開昭57−207799号公報
【特許文献3】特開平9−72697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたもので、公知のアラミド繊維を用いた防護衣料に比べ、防護衣料を装着した場合に支障無く動くことができ、軽量でかつ高耐弾性能を持つ防護衣料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、下記式(1)の構造反復単位および下記式(2)の構造反復単位からなる芳香族コポリアミド(以下「芳香族コポリアミド」ともいう)を含む全芳香族ポリアミドフィラメントから防弾衣料用布帛を形成すれば、上記課題を解決できることを見出した。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
ここで、上記全芳香族ポリアミドフィラメント中、上記芳香族コポリアミドの割合は、好ましくは1〜20重量%である。
また、本発明の防弾衣料用布帛は、下記式で表される布帛のカバーファクター(CF)が好ましくは2,500〜3,500である。
CF= N × √D+ N ×√D
ここで、N:経糸密度(本/2.54cm)、D:経糸繊度(dtex)、N:緯糸密度(本/2.54cm)、D:緯糸繊度(dtex)である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防弾衣料用布帛を構成する全芳香族ポリアミドフィラメントは、引張特性、すなわち引張強度、弾性率、および耐弾性能が大変良好であり、布帛にされた場合、柔軟かつ極めて良好な防弾性能を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明でいう「芳香族コポリアミド」または「芳香族ポリアミド」とは、1種または2種以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、該芳香族基は2個の芳香環が酸素、硫黄またはアルキレン基で結合されたものであってもよい。また、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、クロルキなどのハロゲン基などが含まれていてもよい。
【0011】
本発明で用いられる「芳香族コポリアミド」または「芳香族ポリアミド」は、溶液中でのジカルボン酸ジクロライドとジアミンとの低温溶液重合、または界面重合から得ることができる。
具体的に、芳香族コポリアミドに用いられるジアミンのうち、上記式(1)の構造反復単位に用いられるジアミン(以下「第1のジアミン」ともいう)としては、p−フェニレンジアミン、2−クロルp−フェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロルp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、上記式(1)の構造反復単位に用いられるジアミンは、1種単独であっても2種以上を併用であってもよい。
【0012】
中でもジアミン成分として、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを、単独あるいは2種以上使用することが好ましい。
【0013】
また、芳香族コポリアミドに用いられるジアミンのうち、上記式(2)の構造反復単位に用いられるジアミン(以下「第2のジアミン」ともいう)は、置換または非置換のフェニルベンジミダゾール基を有する芳香族ジアミンである。中でも、入手のし易さ、得られる繊維の引張強度および初期モジュラスなどの点から、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾールが好ましい。
なお、本発明の芳香族コポリアミドにおいて、「第1のジアミン」と「第2のジアミン」とのモル比、換言するならば、式(1)の構造反復単位と式(2)の構造反復単位とのモル比は、好ましくは20:80〜90:10、さらに好ましくは30:70〜50:50程度である。
【0014】
また、芳香族コポリアミドにおいて、上記式(1)および式(2)の構造反復単位に用いられるジカルボン酸クロライド成分としては、例えばイソフタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、2−クロルテレフタル酸クロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライドなど挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中では、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドが好ましい。
【0015】
なお、本発明に用いられる上記式(1)および式(2)の構造反復単位からなる芳香族コポリアミド以外の、本発明に用いられる「全芳香族ポリアミド」は、上記第1のジアミンと上記ジカルボン酸クロライドとの低温溶液重合、または界面重合から得ることができる。
従って、本発明における上記「芳香族コポリアミド」以外の「全芳香族ポリアミド」の例としては、好ましくはコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、およびポリメタフェニレンテレフタルアミドなどを挙げることができる。
【0016】
また、芳香族コポリアミドや全芳香族ポリアミドを製造する際、上記のジアミン成分と酸クロライド成分は、ジアミン成分対酸クロライド成分のモル比として、好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05の範囲で用いることが好ましい。
【0017】
「全芳香族ポリアミド」を重合する際の溶媒としては、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。また、本発明に用いられる「芳香族コポリアミド」の重合溶媒としては、上記アミド系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、2種以上の混合溶媒として使用することも可能であり、特に制限されることはない。上記溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0018】
また、「芳香族コポリアミド」および「全芳香族ポリアミド」の重合にあたっては、溶解性を上げるために、重合前、途中、終了時のいずれかに、一般に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として例えば、塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0019】
本発明に用いられる「芳香族コポリアミド」や「全芳香族ポリアミド」の製造において、芳香族コポリアミドあるいは全芳香族ポリアミド溶液のポリマー濃度は、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。ポリマー濃度が0.5重量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく、該溶液を紡糸用ドープ(紡糸原液)として用いる場合には、紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30重量%を超える場合には、ノズルから吐出する際に不安定流動が起こりやすくなり、安定的に紡糸することが困難となる。
【0020】
また、芳香族コポリアミドや全芳香族ポリアミドの末端は、封止されたものであってもよい。末端封止剤を用いて封止する場合には、その末端封止剤としては、例えば、酸成分としてフタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてアニリンおよびその置換体が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる「芳香族コポリアミド」や「全芳香族ポリアミド」の製造にあたっては、酸クロライドとジアミンの反応において一般に用いられる、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩を併用することができる。
【0022】
反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加し中和反応する。
【0023】
反応条件は特別な制限を必要としない。酸クロライドとジアミンとの反応は、一般に急速であり、反応温度は、例えば−25℃〜100℃、好ましくは−10℃〜80℃である。
このようにして得られる本発明の芳香族コポリアミドや全芳香族ポリアミドは、それぞれ、アルコール、水といった非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すこともできる。これを再度他の溶媒に溶解して紡糸に供することもできるが、「芳香族コポリアミド」や「全芳香族ポリアミド」の重合反応によって得た溶液に含まれる溶媒を、そのまま紡糸用ドープの溶媒として用いることが好ましい。再度溶解させる際に用いる溶媒としては、全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定はされないが、上記全芳香族ポリアミドの重合に使用される溶媒が好ましい。
【0024】
本発明の防弾衣料用布帛を構成する全芳香族ポリアミドフィラメントにおいて、該フィラメントを構成する全芳香族ポリアミドのうち、上記芳香族コポリアミドの割合は、全芳香族ポリアミド全重量に対して、好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは2〜10重量%である。この含有量が1重量%未満であると、防弾性能の向上が見られず、一方、20重量%を超える場合には、曵糸性が低下し、安定的な延伸が困難となるため好ましくない。
【0025】
本発明において、全芳香族ポリアミドフィラメントの具体的な製造方法としては、本発明の上記芳香族コポリアミド、該芳香族コポリアミド以外の全芳香族ポリアミド、およびアミド系溶媒からなる紡糸用溶液(ドープ)を調製し、得られたドープをノズルより吐出し、貧溶媒からなる凝固浴中で凝固、脱溶媒し、延伸、熱処理(乾燥)させることにより製造することができる。
【0026】
上記の芳香族コポリアミドと全芳香族ポリアミドとのブレンドにあたっては、例えば、芳香族コポリアミドと全芳香族ポリアミドのそれぞれのポリマーを固体状または溶液状で混合する方法、一方のポリマー溶液に他方のポリマー(固体)を添加混合する方法などが採用される。
【0027】
紡糸用ドープのポリマー濃度、すなわち上記芳香族コポリアミドと全芳香族ポリアミドの合計濃度は、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。
【0028】
また、本発明に用いられる紡糸用ドープには、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤、耐候剤、染料、帯電防止剤、難燃剤、導電性ポリマー、その他の重合体を添加することができる。
【0029】
また、本発明においては、得られるフィラメントの物性を損なわない範囲で、フィラーを併用することができる。用いるフィラーとしては、繊維状もしくは、板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品など非繊維状の充填剤が挙げられ、具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、本発明の全芳香族ポリアミドフィラメント以外の全芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、ジルコニア繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物、カーボンナノチューブ、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。また、上記のフィラーは、2種以上を併用して使用することもできる。さらに、上記のフィラーは、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されたものであってもよい。
【0030】
上記方法によって得られた紡糸用ドープを用いて、湿式法、半乾半湿式法などによりフィラメントに成形し、脱溶媒槽で溶媒を除去した後、乾燥することで本発明の全芳香族ポリアミドフィラメントを製造することができる。
【0031】
なお、ここでいう湿式とは、紡糸口金から直接凝固浴中に糸条を押出す方式をいい、半乾半湿式とは、紡糸口金と凝固浴の間にエアーギャップを設け、紡糸口金から押出された糸条はエアー中を通過した後に凝固浴中を通過させる方法をいう。この際、エアーギャップ距離(紡糸口金面と凝固液面との距離)は、通常、吐出孔間距離の6倍以下とされる。
【0032】
また、得られた成形体を延伸することにより、ポリマーマトリクスである全芳香族ポリアミドポリマーが高度に配向し、全芳香族ポリアミドフィラメントの高物性が発現すると考えられる。
【0033】
延伸の方法としては、凝固糸状態での水洗延伸、沸水延伸、または乾燥糸状態での加熱延伸などを行うことができる。
延伸倍率については特に制限はないが、機械的物性の観点から、1.05倍以上、好ましくは1.1倍以上、さらに好ましくは2〜15倍、特に好ましくは3〜10倍である。延伸倍率が1.05倍より低い場合には、高強力繊維としての全芳香族ポリアミドフィラメントの特徴が無くなる。一方、延伸倍率が15倍を超える場合には、延伸時の糸切れが頻発し、連続的な延伸が困難となる。
【0034】
また、全芳香族ポリアミドフィラメントの延伸温度は、機械的物性の観点から、450〜550℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは500〜530℃である。延伸温度が450℃より低いと延伸時の糸切れが頻発し、連続的な延伸が困難となる。一方、延伸温度が550℃を超える場合には、全芳香族ポリアミドポリマーの熱劣化が起こり、高強力繊維としての全芳香族ポリアミドフィラメントの特徴が無くなるため好ましくない。
【0035】
全芳香族ポリアミドフィラメントの強度としては、好ましくは20cN/dtex以上、さらに好ましくは22〜28cN/dtex以上、引張弾性率としては、好ましくは520cN/dtex以上、さらに好ましくは600〜800cN/dtexの範囲が適当である。強度が20cN/dtex未満である場合には、長期間の使用に対し強度が十分でないために、優れた耐久性を得ることが困難である。また、引張弾性率が520cN/dtex未満では、全芳香族ポリアミド繊維としての構造が確立されていないため、長期の耐久性を得ることが困難である。
さらに、単繊維繊度および長繊維で用いる場合のヤーンデニールとしては、ともに特に限定する必要はないが、好適な単繊維繊度は、0.55〜5.5dtex、特に好適には1.1〜3.3dtexであり、好適なヤーン繊度は、110〜5,500dtex、特に好適には330〜3,300dtexの範囲が適当である。
【0036】
なお、延伸倍率をコントロールすることで全芳香族ポリアミドフィラメントの伸度および強度を制御することができる。
【0037】
全芳香族ポリアミドフィラメントから構成される本発明の防弾衣料用布帛の形態は、特に限定されるものではなく、編物、織物、不織布などのようないずれの形態であってもよい。なかでは、それぞれの繊維が経緯一方向に配列するため繊維の性能が発揮されやすく、このため、本発明の目的である高耐弾性能が達成されやすくなり、さらに、織り組織の形態を維持しやすく織り目が開き難くなることから、着弾によって繊維がずれず、繊維性能のロスが少なくなり、その結果、高い耐弾性能を示すため、織物であることが好ましい。
【0038】
本発明の防弾衣料用布帛は、下記式で表される布帛のカバーファクター(CF)が、2,500〜3,500であることが好ましい。カバーファクターが上記範囲内であると、織り組織の形態が維持しやすく、織り目が開き難くなる。従って、着弾によって繊維がずれず、繊維性能のロスが少なくなり高い耐弾性能を示す。
CF= N × √D+ N ×√D
ここで、N:経糸密度(本/2.54cm)、D:経糸繊度(dtex)、N:緯糸密度(本/2.54cm)、D:緯糸繊度(dtex)である。
【0039】
本発明の防弾衣料用布帛は、本発明の芳香族コポリアミドを含有していない防弾衣料用布帛に比較して、防弾性能を5%以上向上させることが可能である。
【0040】
なお、本発明の防弾衣料用布帛は、他の繊維布帛と組み合わせて使用してもよい。この際、組み合わされる繊維としては、他のアラミド繊維、ポリアリレート繊維、高強度ポリエチレン製など、引張強度が18cN/dtex以上の繊維の布帛を使用することが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。なお、実施例中の物性は下記の方法により測定した。
<固有粘度>
ポリマーを97%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
【0042】
<繊度>
JIS−L1015 B法に準じ、測定した。
<強度、弾性率>
得られた全芳香族ポリアミドフィラメントにつき、引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)を用いて、ASTM D885に準拠し、糸試験用チャックを用いて以下の条件にて引張試験を行った。
(測定条件)
試料長 :750mm
チャック間距離 :500mm
チャック引張速度:250mm/min
温度 :室温
初荷重 :0.2cN/dtex
【0043】
<防弾性能>
防弾性能(耐弾試験)として、NIJ−STD(米国司法省標準規格)−0108.02に従い、9mmFMJ弾(弾丸速度424±15m/s)による区分IIIAの性能試験と、MIL−STD(米国軍用標準規格)−662に従った22キャリバー17グレインの模擬弾での性能試験を実施した。
【0044】
[実施例1]
防弾性能評価に供する原糸は、以下の手順で作成した。すなわち、全芳香族ポリアミドとしてコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(共重合モル比が1:1の全芳香族ポリアミド、帝人テクノプロダクツ社製、固有粘度=3.4)の濃度6重量%のNMP溶液中に、芳香族コポリアミドとして、パラフェニレンジアミン、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾール、テレフタル酸クロライドからなる重合体(共重合モル比が15:35:50の芳香族コポリアミド、帝人テクノポロダクツ社製、固有粘度=5.2)を添加して、紡糸用ドープを作成した。
ここで、芳香族コポリアミドのブレンドは、浅田鉄工株式会社製PNM−5プラネタリミキサーを用いて、得られるドープ中の芳香族コポリアミドの含有量が、全芳香族ポリアミドの全重量を基準として3重量%となる割合で添加し、温度80℃下4時間撹拌混合した。
得られたドープを用い、孔数667ホールの紡糸口金から吐出し、エアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し凝固した後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度500℃下で10倍に延伸した後、巻き取ることにより、芳香族コポリアミドが良好にブレンドされたパラ型全芳香族ポリアミドフィラメントを得た。
得られた全芳香族ポリアミドフィラメントは、総繊度1,100dtex、フィラメント数667フィラメント、単糸繊度1.65detx/フィラメントであり、強度は26.1cN/dtex、引張弾性率は601cN/dtexであった。
このフィラメント糸を用い、撚り係数6で撚りを加えた。たて、よこの織密度を45本/inとして織成し、目付け210g/mの平織物を作成した。得られた平織物のカバーファクターは、2,980であった。この平織物を、24枚重ね耐弾試験を行なった。その結果、V50は512m/sであった。
【0045】
[実施例2〜3]
添加する芳香族コポリアミドの含有量が全芳香族ポリアミドの全重量を基準として10重量%、20重量%となる割合とした以外は、実施例1と同様にして、芳香族コポリアミドを添加した全芳香族ポリアミドフィラメントの原糸を作成し、その織物の防弾性能評価を実施した。得られた全芳香族ポリアミドフィラメントおよび平織物の物性などを、表1に示す。
【0046】
[比較例1]
比較例として、芳香族コポリアミドを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして原糸を作成し、その織物の防弾性能評価を実施した。得られた全芳香族ポリアミドフィラメントおよび平織物の物性などを、表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1より明らかであるように、本発明の芳香族コポリアミドを添加した本発明の全芳香族ポリアミドフィラメントは、未添加のフィラメントに比べ、強度、モジュラスが向上するだけでなく、防弾性能が大きく向上することが認められる。なお、芳香族コポリアミドの添加量は、ポリマーに対して10重量%までは、添加量の多い方が優れるが、20重量%では強度はやや低下する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)の構造反復単位および下記式(2)の構造反復単位からなる芳香族コポリアミドを含む全芳香族ポリアミドフィラメントから構成される防弾衣料用布帛。
【化1】


【化2】

(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【請求項2】
全芳香族ポリアミドフィラメント中、上記芳香族コポリアミドの割合が、1〜20重量%である請求項1記載の防弾衣料用布帛。
【請求項3】
下記式で表される布帛のカバーファクター(CF)が2,500〜3,500である請求項1または2記載の防弾衣料用布帛。
CF= N × √D+ N ×√D
ここで、N:経糸密度(本/2.54cm)、D:経糸繊度(dtex)、N:緯糸密度(本/2.54cm)、D:緯糸繊度(dtex)である。

【公開番号】特開2010−37689(P2010−37689A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203742(P2008−203742)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】