説明

防振マウント

【課題】金属製のプレートは単一材料で済み、かつ防振用の弾性体は、プレートの一部に部分的に被覆するだけで、金属製のプレートの大きさを極力節約し、かつ弾性体の使用量も軽減し、さらに締付ネジなどの取付孔の内周に防振用の弾性体を設け、全体を肉薄く形成できるようにした防振マウントの提供。
【解決手段】中央孔2を有し、上下方向に突出した一対の取付孔6,6を穿った突出部3,3に対し、前記中央孔2の左右方向に段差を介して突出した一対の取付孔6,6を穿った突出部5,5を備えた単一の硬質のプレート1のうち、前記左右方向に突出した一対の突出部5,5に取付孔6,6の内周を含めて表面及び裏面を独立して不連続に覆う弾性体を被覆して成ることを特徴とする防振マウント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的振動を防止するためのもので、ステッピングモータ等の振動体を筐体等の取付体に防振支持する防振マウントに関する。
【背景技術】
【0002】
各種のOA機器、例えばステッピングモータなどの振動体を、電子回路,電子機器を備える筐体等の支持体にビス止め等で固着接続するファクシミリ,プリンタコピー等が知られている。
【0003】
具体的には、防振材料としては、ゴム等の弾性材料を用い、骨格構造には、金属製のプレートを介在させて、一定の強度を付与させた防振マウントが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
さらに、図8及び図9に示すように、中央孔aを開口した2枚の菱形の金属製のプレートb,bを90度変位させた状態で、両プレートb,b間に弾性体Rを介在させ、接着剤により一体に固着させた防振マウントSも知られている。この防振マウントSは、それぞれのプレートb,bに穿った取付孔Tにより、止具Uを介してモータ等の振動体Aとその取付体Bに防振効果を図って取付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−232403号公報
【特許文献2】特開2003−232404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の先行技術にあって、特許文献1は、金属製のプレートが1枚であり、この金属プレートの取付孔を介して、一方の振動体への取付は、ビス等によるねじ止めで確実に固着できるが、他方の取付体へは、前記金属製のプレートに固着させた弾性体の突起部分の嵌め合いによって行っており、固着の安定性に問題があり、かつ弾性体の肉厚を強度確保のため肉薄構造は不可能と認めざるを得ない。
【0007】
また、特許文献2では、金属製のプレートは弾性体に対して嵌合固定方式をとっているので、半割り分割構造となっており、4分割の4枚で構成しなければならず、しかも弾性体自体も強度保持のため、肉薄く構成できないという課題がある。
【0008】
さらに、図8及び図9に示す現行品では、2枚の金属製のプレートを必要とし、その間に弾性体を介在させているので、全体的に肉厚く形成しなければならないという問題がある。
【0009】
そして、弾性体を介して振動体に固着させる締付ネジに対して取付孔での締付ネジを抱持する弾性体は全く考慮されていない。
【0010】
本発明は、叙上の点に着目して成されたもので、金属製のプレートは単一材料で済み、かつ防振用の弾性体は、プレートの一部に部分的に被覆するだけで、金属製のプレートの大きさを極力節約し、かつ弾性体の使用量も軽減し、さらに締付ネジなどの取付孔の内周に防振用の弾性体を設け、全体を肉薄く形成できるようにした防振マウントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成を備えることにより、上記課題を解決できる。
【0012】
(1)中央孔を有し、上下方向に突出した一対の取付孔を穿った突出部に対し、前記中央孔の左右方向に段差を介して突出した一対の取付孔を穿った突出部を備えた単一の硬質のプレートのうち、前記左右方向に突出した一対の突出部に、取付孔の内周を含めて表面及び裏面を独立して不連続に覆う弾性体を被覆して成ることを特徴とする防振マウント。
【0013】
(2)中央孔を有し、上下方向に突出した一対の取付孔を穿った突出部に対し、前記中央孔の左右方向に段差を介して突出した一対の取付孔を穿った突出部を備えた単一の硬質のプレートのうち、前記左右方向に突出した一対の突出部に、取付孔の内周を含めて外周面を連続して覆う弾性体を被覆して成ることを特徴とする防振マウント。
【0014】
(3)突出部は、先方に行くに従い狭少となる山形に形成し、かつ取付孔を前記山形の先端近くに設けて成ることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の防振マウント。
【0015】
(4)弾性体は、ゴム、プラスチックのいずれか一つであると共に、取付孔の内周を覆う取付金具の当接個所を他の個所に比し、局部的に肉厚く形成して成ることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の防振マウント。
【0016】
(5)左右方向に突出した一対の突出部は、弾性体を介してモータ等の振動体に取付孔を介して固着できるようにし、上下方向に突出した一対の突出部は前記振動体の取付体に取付孔を介して固着できるようにして成ることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の防振マウント。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、単一枚の金属製などの硬質のプレートを段差を介して上下方向の一対の突出部と左右方向の一対の突出部の2段構成とし、左右方向の一対の突出部の少なくとも表面及び裏面に防振用の弾性体を被着させてあるので、全体として肉薄く形成でき、しかも弾性体を被覆した突出部に設けられる取付孔の内周には、弾性体が被覆される被覆取付孔として形成してあるので、ビス等の締付固着により弾性体の圧縮量を変化させることで、防振特性を変化させることができる。
【0018】
特に取付孔に被覆される弾性体にビス等の締付金具の当接締付箇所を、他の箇所に比し、局部的に肉厚く形成してあるので、他の肉薄い箇所に比し、ねじ頭接触部のゴム厚みを増し防振特性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】単一材料で形成した硬質の金属製のプレートで、中央孔の周縁の突鍔を設けない場合Aと、設けた場合Bを示す。設けない場合では、(Aa)は平面図、(Ab)は中央横断面図、設けた場合は、(Ba)は平面図、(Bb)は1b−1b線断面図、(Bc)は1c−1c線断面図、(Bd)は1b−O−1c線断面図
【図2】本発明に係る防振マウントの一実施例を示し、金属製のプレートの中央孔に突鍔を設けない場合であって、(a)は平面図、(b)は2b−2b線断面図、(c)は底面図
【図3】本発明に係る他例の防振マウントの一実施例を示し、金属製のプレートの中央孔に突鍔を設けた場合であって、(a)は平面図、(b)は3b−3b線断面図、(c)は3c−3c線断面図、(d)は3b−O−3c線断面図、(e)は底面図
【図4】(a)(b)は、本発明に係る防振マウントをマウントとしてステッピングモータと取付体に装着した状態を示す2通りの使用状態の側面図
【図5】(a)(b)は、図4の弾性体が添接される側のステッピングモータとの締付状態を示すX部分の2通りの構造を示す拡大断面図
【図6】図5(a)(b)のX部分の他例を示す2例の拡大断面図
【図7】図4のプレートが直接添接される取付体との締付状態を示すY部分の拡大断面図
【図8】現行品の防振マウントを示す従来例の断面図
【図9】図8の防振マウントのステッピングモータと取付体との連結状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例を図面と共に説明する。
【実施例】
【0021】
図面において、1は防振マウントMの骨格となる金属、硬質合成樹脂などの硬質材料より成る骨格材料としてのプレートを示し、中央孔2を中心として一方向の上下方向に突出した一対の突出部3,3を備え、前記中央孔2を中心として高さhの段差4,4を介して他方向の左右方向に突出した一対の突出部5,5を備える。ここで、前記段差4の高さhは、突出部3,3の表面と、突出部5,5の表面との高さの差を示している。なお、中央孔2の周縁には、周縁に沿って円形の鍔2aを設けても設けなくても良い。
【0022】
そして、前記突出部3,3、5,5は、先方に行くに従い狭少となる山形を形成し、取付孔6,6,6,6を穿ってある。7は、防振効果を有するゴム,プラスチック等の弾性体で、前記左右方向に突出した突出部5,5の表面5a及び裏面5bを独立離開させて不連続の部分的に被覆させるか(図2参照)、さらに表面5a、裏面5b全域を連続して被覆し(図3参照)、かつ取付孔6,6の内周に亘って被覆形成してあり、被覆取付孔6x,6xを形成できる。
【0023】
したがって、上下方向の一対の突出部3,3の表面は、プレート1自体の構造で、面一に形成されると共に、左右方向の一対の突出部5,5の裏面は、取付孔6,6を中心として部分的に被覆された場合ないしは全域に被覆された弾性体7で面一に形成される。
【0024】
さらに、図2に示す弾性体7について、突出部5,5の表面5a及び裏面5bに独立して設ける場合、突出部5,5の周縁を残して形成してあるが、図3に示すように周縁まで拡大して全域に亘って形成することもできる。
【0025】
なお、図において、一対の突出部3,3と、他の一対の突出部5,5の突設方向が上下方向と左右方向と特定しているが、両方向は単に交叉状況を示すための表現であって、互いに逆方向の場合は勿論のこと、あらゆる方向で両者の突設方向が交叉する場合を含むものである。
【0026】
上述の構成において、防振マウントMの使用例を図4及び図5と共に説明する。
【0027】
始めに、弾性体7で被覆された一対の突出部5,5側は、弾性体7を介して、例えば、ステッピングモータなどの振動体Aの一側、即ち回転軸aを中央孔2内に挿通させた状態で、一方の一対の突出部5,5の被覆された弾性体7と当接させ、2本の取付ビスP,Pを2箇所の被覆取付孔6x,6xに挿通して弾性体7の表面より押圧して締め付け固着する。即ち、取付ビスP,Pは、弾性体7を介在させて振動体Aに固定される。
【0028】
ついで、振動体Aを固着固定した防振マウントMの、他方の一対の硬質の金属製の突出部3,3を各種機器の筐体となる取付体Bに当接させ、2本の取付ビスQ,Qを取付孔6,6を介して緊締固着させることができる。
【0029】
この場合、振動体Aに当接される突出部5,5側の取付孔6,6の被覆取付孔6x,6xに挿通された振動体Aのビス孔内に螺合される取付ビスP,Pの頭部P,Pが、他の取付体Bの下面と衝接しないように配慮する必要がある。
【0030】
ここで、e:プレート1を被覆する弾性体7の厚さ
f:取付ビスPの頭部Pの厚さ
とし、前記したh:段差4の大きさ、
を含めて以下の関係を備えることが必要である。
h−e≧f
【0031】
斯くして、取付体Bには各種電子部品,機器等組込まれて、全体として求める装置として得られる。
【0032】
振動体Aとしてのステッピングモータの作動に基づく回転振動は、ステッピングモータの全体より発生する振動現象が当接される弾性体7に伝達して吸収されるが、被覆取付孔6x,6xを介して挿通された取付ビスP,Pより、取付孔6,6の内周に設けられる弾性体7に伝えられ、同様に吸収されて減衰させることができる。
【0033】
詳細に説明すれば、ステッピングモータの振動,ずれについて、回転軸aと平行方向には当接する弾性体7によって防振でき、又は回転軸aの垂直方向には取付ビスP,Pと取付孔6,6の内周に形成される弾性体7によって防振できると共に、回転軸aの回転方向には、単一枚の金属製の硬質のプレート1に固定することによって防止できる。
【0034】
他方、取付体B側からの振動は、金属製のプレート1の一対の突出部3,3より他方の突出部5,5に伝達されるが、突出部5,5に被着された弾性体7により吸収され、振動体Aに伝達されるのを防いでいる。
【0035】
したがって、単一の金属製で硬質のプレート1と段差4,4を介して僅かな高さhの間隔を保持して形成される比較的肉薄い弾性体7の被覆により、全体が従来に比し、格段と肉薄の防振マウントMが形成できる。
【0036】
また、取付孔6,6の内周に形成される弾性体7については、図6(a)(b)に示すように取付ビスP,Pの頭部P,Pが当接緊締する箇所に環状段部6a,6aを設け、他に比し、局部的に肉厚く形成した弾性体7の肉厚部7a,7aを形成することもできる。
【0037】
このように取付ビスP,Pの頭部P,Pの当接締付箇所が、弾性体7の肉厚部7a,7aである時は、環状段部がない場合に比し、肉厚部7a,7aによりビスP,Pの頭部P,Pの圧締厚さが増し、より防振効果を高めることができる。
【0038】
なお、本発明において、図2に示す弾性体7は、左右の突出部5,5の取付孔6,6の被覆取付孔6x,6xと連設される突出部5,5の表面5a及び裏面5bに互いに離開されて不連続に被着され、謂わば、取付孔6,6の内周を含めて突出部5,5の表面5aと裏面5bに被着される弾性体7,7は断面H型の弾性体材料で済むので、使用材料を少なくして金属製のプレート1との一体化も簡単なため、製品単価を著しく軽減できる。
【0039】
ところで、防振機能を有する弾性体7は、単一枚の金属製のプレート1を金型内に載置し、被覆される一対の突出部5,5の外周にキャビティを設けて、溶融ゴム材料をゲートより射出操作で加硫成形して一体成形できる。
【0040】
具体的には、突出部5,5への弾性体7の被覆には、突出部5,5の取付孔6,6の近傍に小孔8,8を穿ち、この小孔8,8に対向する金型にゲートを設け、突出部5,5及び取付孔6,6の外周に設けたキャビティに、未加硫の溶融ゴム材料を射出成形により加硫して一体的に成形できる。
【0041】
他方、接着剤を用いて、ゴム,プラスチックなどの弾性体7を分割してプレート1上に固着することもできる。
【0042】
いずれの弾性体7のプレート1上の固着も、接着面積を自由に変化させることができる。
【0043】
さらに、プレート1については、金属に代えて他の材料、例えば硬質合成樹脂材料を用いても同様に実施できる。
【符号の説明】
【0044】
1 プレート
2 中央孔
2a 鍔
3,5 突出部
5a 表面
5b 裏面
4 段差
6 取付孔
6a 環状段部
6x 被覆取付孔
7 弾性体
7a 肉厚部
8 小孔
h 高さ
a 中央孔
回転軸
,b プレート
A 振動体
B 取付体
R 弾性体
S 防振マウント
T 取付孔
U 止具
P,Q 取付ビス
頭部
M 防振マウント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央孔を有し、上下方向に突出した一対の取付孔を穿った突出部に対し、前記中央孔の左右方向に段差を介して突出した一対の取付孔を穿った突出部を備えた単一の硬質のプレートのうち、前記左右方向に突出した一対の突出部に、取付孔の内周を含めて表面及び裏面を独立して不連続に覆う弾性体を被覆して成ることを特徴とする防振マウント。
【請求項2】
中央孔を有し、上下方向に突出した一対の取付孔を穿った突出部に対し、前記中央孔の左右方向に段差を介して突出した一対の取付孔を穿った突出部を備えた単一の硬質のプレートのうち、前記左右方向に突出した一対の突出部に、取付孔の内周を含めて外周面を連続して覆う弾性体を被覆して成ることを特徴とする防振マウント。
【請求項3】
突出部は、先方に行くに従い狭少となる山形に形成し、かつ取付孔を前記山形の先端近くに設けて成ることを特徴とする請求項1又は2記載の防振マウント。
【請求項4】
弾性体は、ゴム、プラスチックのいずれか一つであると共に、取付孔の内周を覆う取付金具の当接個所を他の個所に比し、局部的に肉厚く形成して成ることを特徴とする請求項1又は2記載の防振マウント。
【請求項5】
左右方向に突出した一対の突出部は、弾性体を介してモータ等の振動体に取付孔を介して固着できるようにし、上下方向に突出した一対の突出部は前記振動体の取付体に取付孔を介して固着できるようにして成ることを特徴とする請求項1又は2記載の防振マウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−7724(P2012−7724A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221697(P2010−221697)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(390035909)興国インテック株式会社 (18)
【Fターム(参考)】