説明

防振支持装置

【課題】 磁性流体を減衰液とし少ない消費電力で減衰特性を変化させることができるようにする。
【解決手段】 防振支持装置は、スタッド11が装着される弾性体としての防振ゴム22と、防振ゴム22が開口端部側に設けられる筒状のケースとを有しており、ケース12の内部に形成された液体収容室23は、スタッド11に固定された減衰部材25により第1室23aと第2室23bとに区画されており、液体収容室23内には減衰液として磁性流体24が封入されている。減衰部材25にはその外周部分である円筒部28により磁気回路部が形成されており、磁気回路部にはケース12の内周面との間で形成される環状の通路31を介してケース12とにより軸方向に延びる磁気回路が形成される。円筒部28にはケース12と磁気回路部とにループ状に磁界を発生させる電磁コイル34が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル、ブルドーザ、クレーン、ダンプトラックなどの建設用機械やトラック、貨車など輸送機械などの産業用機械の運転台や荷台などの荷重を支持するとともに運転台などに対する振動伝達を防止する防振支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用機械の運転台(キャブ)と車体の間には、運転台の荷重を支持するとともに車体から運転台に対する振動伝達を防止する防振機構を備えた複数の防振支持装置が設けられている。運転台と車体との間に装着される防振支持装置としては、運転台側に取り付けられるスタッドと車体側に取り付けられるケースとを有し、ケースの液体室に封入された減衰液に浸される減衰板をスタッドに取り付けるようにした液体封入式のものがある。このタイプの防振支持装置においては、スタッドの軸方向および径方向に加わる荷重は弾性体により支持され、外部から入力される振動は減衰板が減衰液を攪拌することによる攪拌抵抗によって減衰される。減衰液としてはシリコーンオイルが通常使用されているが、特許文献1には、電磁コイルに電力を供給、停止させることによりケーシング内の磁性流体の粘度を増減させ、緩衝板が移動するときの流れ抵抗を変化させるようにした防振支持装置が記載されている。
【0003】
一方、直線方向の振動を減衰するダンパとしては、オイルや空気などの減衰流体が封入される円筒状の流体室を有する管状のハウジングと、このハウジングの内周面に沿って摺動するピストンが取り付けられたピストンロッドとを有するものがある。このタイプのダンパにおいては、ピストンによって流体室は2室に分割されるとともに、ピストンに設けられたオリフィスを介して2室は連通されており、ピストンロッドに外力が加わるとピストンが移動してオリフィスを介して一方の室から他方の室に流体が移動し、オリフィス抵抗によって振動が減衰される。このようなダンパとして、特許文献2には、減衰流体として磁性流体や電気粘性流体をハウジング内に封入し、ピストンに設けられた電磁コイルによりピストンを貫通するオリフィス抵抗を変化させるようにしたダンパが記載されている。
【特許文献1】特開平7−164877号公報
【特許文献2】米国特許第5878851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁性流体は磁性粒子を液媒体に懸濁させた液体であり、電磁コイルにより磁化させて磁性流体に磁界を発生させた場合の磁界の磁束密度は磁性材料からなる固体に発生させた場合に比して小さくなるので、特許文献1に記載されるように、液体室全体に磁界を発生させるようにすると、電磁コイルに大電力を供給して強磁界を発生させないと、十分な減衰力を得ることが難しい。従って、省電力を狙って必要時のみに電力供給させたり、減衰力を瞬間的に変化させようとする場合には応答性が悪いという課題がある。しかも、電磁コイルに大電流を供給して強磁界を発生させると、防振支持装置の外部に磁力が漏れる可能性があり、鉄製ゴミが防振支持装置に吸い寄せられることになるだけでなく、さらには強磁界漏れによる電子機器への影響が問題となる。
【0005】
一方、特許文献2に記載されるように、直線型のダンパにおいては、ピストンをハウジングの内周面に摺動接触させるようにしているので、磁性流体に含まれる磁性粒子により、ピストンとハウジングとの摺動面の摩耗や、ピストンシールを使用している場合には、シール材の摩耗、また、ハウジングを封止するシール部材とこのシール部材を貫通してハウジング内のピストンに接続されるピストンロッドとの摺動部(摺動シール)の摩耗がダンパの耐久性を低下させるという問題点がある。また、産業用機械に使用する防振支持装置は、スタッドの軸方向のみならず径方向にも荷重と振動が加わることから、軸方向と径方向が複合されたこじり運動の支持と減衰とを行う必要があるので、このようなピストンがハウジングに摺接し、直線方向のみを減衰するダンパでは、径方向はもちろんこじり方向の支持および振動には対応できないという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、磁性流体を減衰液とし、応答性が良く、しかも少ない消費電力で自由に減衰特性を調整することができる防振支持装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の防振支持装置は、一端に底壁部を有し他端の開口端部に弾性体が設けられ、液体収容室を形成する筒状のケースと、前記弾性体を貫通して前記弾性体に軸方向および径方向に移動自在に装着されるスタッドと、前記スタッドに固定され、前記液体収容室を相互に連通し合う前記開口端部側の第1室と前記底壁部側の第2室とに区画する減衰部材とを有する防振支持装置であって、前記液体収容室に封入される磁性流体と、前記ケースに沿って軸方向に延びて前記減衰部材に設けられ、前記ケースの内周面との間で前記第1室と前記第2室とを連通させる略環状の通路を形成するとともに当該通路を介して前記ケースとにより軸方向に延びる磁気回路を形成する磁気回路部と、前記磁気回路部と前記ケースとの何れか一方に設けられ、前記磁気回路部の軸方向両端部における前記通路内の磁性流体を横断して前記ケースと前記磁気回路部とにより形成される磁気回路に磁界を発生させる電磁コイルとを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の防振支持装置は、前記磁気回路部に前記電磁コイルを設け、当該電磁コイルの外周面と前記ケースの内周面との間に前記通路を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明の防振支持装置は、前記ケースに前記電磁コイルを設け、当該電磁コイルの内周面と前記磁気回路部の外周面との間に前記通路を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明の防振支持装置は、前記電磁コイルに供給される電力を変化させる電力調整手段を有し、前記電磁コイルに供給される電力値に応じて前記通路を流れる前記磁性流体の流動抵抗を調整することを特徴とする。
【0011】
本発明の防振支持装置は、前記通路の隙間寸法を前記スタッドの前記ケースに対する軸方向位置に応じて変化させることを特徴とする。
【0012】
本発明の防振支持装置は、前記スタッドの前記ケースに対する軸方向位置に応じて前記ケースの磁束密度を変化させる磁性体補助部材を前記ケースの外側に設け、前記電磁コイルに流れる電流の変化により前記スタッドの前記ケースに対する軸方向位置を検出する検出手段を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の防振支持装置は、前記スタッドを前記弾性体に固定することを特徴とする。
【0014】
本発明の防振支持装置は、前記スタッドの荷重を支持するばね部材を前記第2室内に配置することを特徴とする。
【0015】
本発明の防振支持装置は、前記スタッドを軸方向に移動自在に案内するガイドスリーブを前記弾性体に固定し、前記ガイドスリーブに前記スタッドと前記ガイドスリーブとの間をシールするシール部材を設け、前記ガイドスリーブを介して前記スタッドを前記弾性体に装着することを特徴とする。
【0016】
本発明の防振支持装置は、前記スタッドの荷重を支持する空気ばねを前記弾性体の外側に取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ケースの内周面との間で略環状の通路を形成する減衰部材の外周部にケースとともに磁気回路を形成する磁気回路部を設け、減衰部材の磁気回路部またはケースの何れか一方に電磁コイルを設けて、減衰部材とケースとに通路を横断するループ状の磁界ないし磁場を発生させるようにしたので、通路内を流れる磁性流体を磁化させるのみで、減衰特性を変化させて減衰部材の移動による振動を減衰させることができ、電磁コイルに大電流を供給することなく、小電流で振動を減衰させることができる。
【0018】
少ない消費電力で減衰力の調整ができるので、強磁界を発生させる必要がなく、磁界漏れによる電子機器などへの影響を考慮する必要がない。しかも、環状の通路内の限られた量の磁性流体を磁化させるのみで減衰作用が得られるので、瞬間的に流動性を変化させることができる。
【0019】
略環状の通路は、ケースとこれに対して摺動接触することなく軸方向に相対移動する減衰部材との間に形成されており、振動によりスタッドが軸方向に連続的に動作しても、減衰部材とケースは摺動接触していないため、磁性流体に含まれる磁性粒子に起因する摩耗が生じないので、防振支持装置の耐久性を高めることができる。また、減衰部材とケース間には間隙を有しているので、スタッドが軸方向以外の方向、すなわち径方向やこじり方向へ動作することができ、間隙の許容する範囲で振動を吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。実施の形態を示すそれぞれの図においては、共通の機能を有する部材には同一の符号が付されている。図1は本発明の一実施の形態である防振支持装置10aを示す断面図であり、図2は図1の分解斜視図であり、図3は減衰部材とケースとに流れる磁界を示す拡大断面図である。
【0021】
この防振支持装置は油圧ショベルやブルドーザなどの産業機械の運転台や荷台と車体との間に装着され、運転台等の荷重を支承するとともに車体側から運転台側に入力される振動を減衰するために使用される。図1に示す防振支持装置10aは、産業機械の運転台側の部材1に取り付けられるスタッド11と、車体側の部材2に取り付けられるケース12とを有しており、スタッド11の一端部にはこれを部材1に取り付けるためのボルト(図示省略)がねじ結合されるねじ孔13が形成されている。
【0022】
ケース12は一端に底壁部14が設けられた円筒形状の側壁部15とこれの他端に設けられたフランジ部16とを有し、ケース12のフランジ部16側が開口端部となり全体的としてカップ形状となっている。ケース12は鉄などの磁性材料により底壁部14,側壁部15およびフランジ部16が一体となって成形されている。フランジ部16は、図2に示すように四角形となっており、フランジ部16の四隅にはケース12を部材2に取り付けるためのボルトが貫通する取付孔17が形成されている。
【0023】
ケース12のフランジ部16には、これに対応させて図2に示すように四角形となったブラケット18が取り付けられるようになっている。ブラケット18は、フランジ部16に設けられた複数のカシメ部19をそれぞれ塑性変形させてブラケット18の外面側に折り曲げることによって、フランジ部16に取り付けられる。ブラケット18の四隅にはフランジ部16の取付孔17に対応させて図2に示すように取付孔17が形成されている。
【0024】
ブラケット18の中央部には、図1に示すように、ケース12側に向けて突出する円筒部21が設けられ、ブラケット18には円筒形状の防振ゴム22が弾性体として加硫接着されている。防振ゴム22は図1に示すようにブラケット18の外面と内面の両方から軸方向に突出し、内面から突出した部分の中に円筒部21が埋め込まれている。防振ゴム22の中心部にはスタッド11が加硫接着されており、スタッド11は防振ゴム22の中心部を貫通して防振ゴム22に固定されている。このようにスタッド11は防振ゴム22を貫通して防振ゴム22の弾性変形により軸方向および径方向のいずれの方向にも移動自在に防振ゴム22に装着されている。図1に示す防振支持装置10aにおいてはスタッド11が防振ゴム22に固定されていることから、スタッド11の軸方向および径方向の荷重は防振ゴム22により弾性支持されている。
【0025】
防振ゴム22はケース12の開口端部を閉塞しており、ケース12の内部には閉塞された液体収容室23が形成され、この液体収容室23には減衰液として磁性流体24が封入されている。磁性流体(magnetorheological(MR)fluid)24は、表面が界面活性剤により処理された微細な磁性粒子とこれを懸濁させる液媒体とを有する流体である。スタッド11の他端には減衰部材25がボルト26により固定され、このボルト26はスタッド11の他端部に形成されたねじ孔にねじ結合しており、減衰部材25により液体収容室23はケース12の開口端部側の第1室23aと底壁部側の第2室23bとに区画されている。減衰部材25は基部27とこれと一体となった円筒部28とを有し、鉄などの磁性材料により形成されており、円筒部28の内側は磁性流体24が入り込む凹部29となっている。
【0026】
円筒部28の外径はケース12の側壁部15の内径よりも小さくなっており、円筒部28とケース12の内面との間には円筒部28の軸方向長さに渡って環状ないし円筒状の通路31が形成され、この通路31により第1室23aと第2室23bとが連通されている。基部27には複数の貫通孔32が形成されており、貫通孔32を介して第1室23aと第2室23bは連通されている。したがって、スタッド11がケース12に対して相対的に軸方向に移動する方向に防振支持装置10aに振動荷重が加わると、液体収容室23内の磁性流体24は減衰部材25により攪拌されるとともに、第1室23aと第2室23bとの間を環状の通路31および貫通孔32を介して流れることになり、これらを流れる磁性流体24の流動抵抗によって外部から防振支持装置10aに加わる振動は減衰されることになる。
【0027】
減衰部材25の円筒部28には環状溝33が形成され、この環状溝33には電磁コイル34が装着されている。電磁コイル34の通電ケーブル35は、減衰部材25に形成されたガイド溝36とスタッド11に形成されたガイド孔37を介して外部に繰り出され、図3に示す電源ユニット38に接続されるようになっており、通電ケーブル35により電源ユニット38から電磁コイル34に電力が供給される。
【0028】
電磁コイル34に通電すると、磁性材料製の減衰部材25の円筒部28には電磁コイル34の両端面に対向する両端部41,42を磁極部とし、これら両端部41,42とコイル内方部43とにより円筒部28の外周領域には、軸方向に延びて発生磁界を案内する磁気回路(a magnetic circuit)が形成される。このように、円筒部28は両端部41,42とコイル内方部43とにより磁気回路部を構成しており、減衰部材25の磁気回路部に対応してケース12にも磁界を案内する磁気回路が形成される。これらの磁気回路には図3において破線で示すようにループ状となって磁界が案内される。ループ状となった磁界は両端部41,42とケース12との間で通路31内の磁性流体24を横断し、通路31内の磁性流体24が磁化される。これにより、通路31内の磁性流体24の流動性ないし粘度は変化し、磁化された磁性流体24は磁化されないときよりも流動抵抗が増大する。
【0029】
したがって、防振支持装置10aが設けられた産業機械を作動させるときに電源ユニット38から一定の電力を電磁コイル34に供給すると、産業機械の作動時に磁性流体24の通路31内における流動抵抗を所定値に設定することができて磁性流体による防振支持装置10aの減衰特性を変化させることができる。さらに、電源ユニット38には電磁コイル34に対する供給電力値を調整する電力調整機構が設けられており、防振支持装置10aが搭載される産業機械の種類や外部から防振支持装置10aに加わる振動負荷等に応じて流動抵抗を調整して減衰特性を調整することができる。電力調整機構を電源ユニット38に設ける場合には、車体に加速度センサを設けて車体に加わる加速度の値に応じて磁性流体24の流動抵抗を変化させるようにしても良いし、スタッド11の位置、すなわち沈み込み/伸び上がりを検出する位置検出手段を設けて、センサ情報に応じて印加電力を調整して磁性流体24の流動抵抗を変化させるようにしても良い。さらに、産業用機械の運転台には、複数の防振支持装置を備えることが普通であるので、それぞれに加速度センサ、位置検出手段、傾斜検出手段を単独または組み合わせて、複数の本発明の減衰支持装置の減衰力をそれぞれの設置場所に応じて調整することによって、より有効な防振システムとすることができる。
【0030】
また、本実施例における減衰部材25は、円筒形状をなしているので、スタッド11が径方向への振動または移動を受けた場合には、減衰部材25がケース12内を径方向へ移動するから、減衰部材25とケース12との間隙31は、一方が狭まり、他方が広がるので、磁性流体24は径方向へ移動することになる。この場合においても、磁性流体24の流動抵抗を調節することによって、径方向の減衰性を高めることができる。特に、径方向の振動に対して、減衰力を変えたい場合、たとえば車両の前後左右方向で減衰力に偏りを設けたい場合などでは、それに応じて、径方向部位において、磁界の強弱をつくることで、径方向振動にも適する防振支持装置とすることができる。
【0031】
図1に示すように、円筒部28の外径は全長に渡って同一となっており、通路31の径方向寸法は円筒部28の軸方向いずれの位置においても同一となっているが、円筒部28のみについてその外径をテーパー形状とし、または円筒部28の外径をテーパー状とするとともに、ケース12の内壁もテーパー状とすることによって、通路31の隙間寸法をスタッド11のケース12に対する軸方向位置に応じて変化させるようにしても良い。
【0032】
上述のように、減衰部材25に電磁コイル34を装着して円筒部28の外周領域とケース12とにより磁気回路部を形成し、これらの磁気回路部に両端部41,42の磁極部分で磁性流体24を横断するループ状の磁界ないし磁場を発生させるようにしたので、通路31内を流れる磁性流体24を磁化させるのみで、減衰部材25の移動による振動を減衰させることができ、電磁コイル34に大電流を供給することなく、小電流で振動を減衰させることができる。しかも、環状の通路31内の限られた量の磁性流体24を磁化させるのみで減衰作用が得られるので、瞬間的に流動性を変化させることができ、上述したように、加速度センサ、位置検出手段および傾斜検出手段などからの情報に応じて印加電力を調整し、磁性流体24の流動抵抗を変化させることによって応答性良く振動を減衰させることができる。
【0033】
略環状の通路31はケース12とこれに対して接触することなく軸方向に相対的に移動する減衰部材25との間により形成されており、振動によりスタッド11が軸方向に連続的に動作しても、減衰部材25とケース12は摺動接触していないため、磁性流体24に含まれる磁性粒子に起因する摩耗が生じないので、防振支持装置の耐久性を高めることができる。また、減衰部材25とケース11間には通路31による間隙を有しているので、スタッド11が軸方向以外の方向、すなわち径方向やこじり方向へ動作することができ、間隙の許容する範囲で振動を吸収することができる。
【0034】
図4は本発明の他の実施の形態である防振支持装置10bを示す断面図であり、この防振支持装置10bにおいては、第2室23bの凹部29内にスタッド11の軸方向の荷重を支持するばね部材として圧縮コイルばね44が配置されており、この圧縮コイルばね44の一端は減衰部材25の基部27に当接し、他端はケース12の底壁部14に当接している。図4に示すブラケット18の円筒部21はケース12の外方に向けて突出しており、円筒部21を覆うようにこれに固定されて液体収容室23を閉塞する防振ゴム22にはスタッド11が加硫接着により固定されている。図4に示す防振ゴム22は、図1に示した防振支持装置10aにおけるものよりも軸方向のばね定数が低く、スタッド11に加わる軸方向の荷重は、主として圧縮コイルばね44によって支持されている。
【0035】
ケース12のフランジ部16とブラケット18との間には、スタッド11と同軸状の円筒部45を有するブラケット46が挟み込まれ、ブラケット46にはフランジ部16およびブラケット18に形成された取付孔17に対応させて取付孔17が形成されており、ブラケット46には環状の防振ゴム47が加硫接着により固定されている。この防振ゴム47とスタッド11との間には隙間が形成されており、スタッド11がケース12に対して相対的に所定ストローク以上径方向に移動したときには防振ゴム47の内周面にスタッド11が接触してスタッド11の径方向移動を規制することになる。
【0036】
図5は本発明の他の実施の形態である防振支持装置10cを示す断面図であり、この防振支持装置10cにおける減衰部材25は、前述した基部27よりも厚み寸法が大きい円板状のディスクにより形成されている。ディスク状の減衰部材25の外周部には、環状溝33内に組み込まれる電磁コイル34の端面に対向して磁極部を形成する軸方向の両端部41,42とコイル内方部43とが設けられ、これらにより磁気回路部が構成されている。
【0037】
図6は本発明の他の実施の形態である防振支持装置10dを示す断面図であり、ブラケット18に固定された防振ゴム22の中央部には、スタッド11を軸方向に摺動自在に案内する円筒形状のガイドスリーブ48が固定されており、ガイドスリーブ48にはスタッド11の外周面とガイドスリーブ48の内周面との間から磁性流体24が漏れるのを防止するためのシール材49が組み込まれている。このように、図6に示すスタッド11はガイドスリーブ48を介して軸方向に移動自在となって防振ゴム22に装着されており、スタッド11に加わる軸方向の荷重は第2室23b内に配置された圧縮コイルばね44により支持される。スタッド11が径方向に移動すると、スタッド11をケース12の軸方向中心位置に向けて戻す方向に防振ゴム22から弾性力がスタッド11に加えられる。
【0038】
図7は本発明の他の実施の形態である防振支持装置10eを示す断面図であり、この防振支持装置10eにおいては、ブラケット18の円筒部21の内周面とガイドスリーブ48の内周面との間に防振ゴム22が固定され、円筒部21の外周面とスタッド11との間には空気ばね50が取り付けられており、空気ばね50によりスタッド11の軸方向の荷重が支持されるようになっている。空気ばね50は、締結バンド51aにより円筒部21の外周面に固定される内側部52aと反転部を介して内側部52aと一体となった外側部52bとを備えるゴム製のベローズ52を有し、ベローズ52の外側部52bは、スタッド11に固定される金属製の端板53の外周面に締結バンド51bにより固定されている。この防振支持装置10eにおいては、スタッド11の軸方向の荷重が空気ばね50により弾性支持されるので、第2室23bには図4および図5に示した圧縮コイルばね44は設けられていない。図7に示す空気ばね50はベローズ52と端板53とにより形成されているが、端板53に対応する部分をベローズ52と一体となったゴム製とした空気ばねとすることもできる。
【0039】
図8は本発明の他の実施の形態である防振支持装置10fを示す断面図であり、前述した防振支持装置10a〜10eにおいては減衰部材25に電磁コイル34が設けられているのに対して、この防振支持装置10fにおいてはケース12に電磁コイル34が設けられている。ケース12は、図8に示すように、底壁部側の第1ケース体12aと開口端部側の第2ケース体12bとを有し、これらのケース体12a,12bはコイルホルダー54により連結されている。コイルホルダー54は鉄などの磁性材料により形成されており、ケース12の一部を構成している。コイルホルダー54には液体収容室23内に開口する環状溝55が設けられ、この環状溝55に電磁コイル34が装着されており、通電ケーブル35はコイルホルダー54に形成された取り出し口37aから外部に延びている。
【0040】
磁性体製のコイルホルダー54は電磁コイル34の外側を覆う円筒部56と、電磁コイル34の両端面にそれぞれ対向する端部57,58とを有している。端部57,58はそれぞれケース体12a,12bの一部にオーバーラップしており、ケース体12a,12bのオーバーラップ部とともに磁極部を構成している。したがって、電磁コイル34に通電すると、円筒部56,端部57,58により軸方向に延びて発生磁界を案内する磁気回路部がケース12のコイルホルダー54に形成され、この磁気回路部と減衰部材25の円筒部28に磁界が形成される。
【0041】
図8に示す場合には、電磁コイル34の内周面がケース12の内周面よりも径方向外方にずれているが、電磁コイル34の内周面をケース12の内周面にほぼ一致させるようにしても良い。図8に示す防振支持装置10fは、ケース12の構造が図4に示す防振支持装置10bと相違しているが、他の構造は防振支持装置10bと同様である。このように、ケース12に電磁コイル34を設けるようにした構造は、図6および図7に示すように、スタッド11をガイドスリーブ48を介して防振ゴム22に装着するようにしたタイプにも適用することができる。
【0042】
図9は本発明の他の実施の形態である防振支持装置10gを示す断面図であり、この防振支持装置10gの基本構造は図4に示した防振支持装置10bと同様である。図9に示すケース12の外側には磁性材料からなるリング状の磁性体補助部材59が取り付けられている。磁性体補助部材59の外周面はテーパー形状となっており、厚み寸法がスタッド11の軸方向位置に応じて変化している。磁性体補助部材59はケース12とともに電磁コイル34により発生した磁界を案内する磁気回路を構成しており、円筒部28とケース12との軸方向の相対位置によって磁性体補助部材59を含めて磁気回路を流れる磁界の磁束密度は変化することになる。
【0043】
このように磁束密度が変化すると、電磁コイル34を流れる電流値は変化することになるので、その電流値を測定することによりスタッド11のケース12に対する相対的軸方向位置を検出することができる。この軸方向位置を検出するには、図3に示すように、電流計39からの検出信号を電源ユニット38に送るようにすれば、検出信号により電流値に応じてスタッド11の軸方向位置を検出することができる。この場合には電源ユニット38は検出手段を構成する。
【0044】
磁性体補助部材59は、図示する場合にはリング状となっておりケース12の外側面に密着させて嵌合固定することが望ましいが、接着やボルトなどにより固定するようにしても良い。その際には、磁気回路部の一部として作用できるように、ケース12の外側面に固着することが望ましい。なお、図示する場合には、ケース12とは別体の磁性材料からなるリングの部材により磁性体補助部材59を形成しているが、ケース12のうち磁性回路部として作用する部位にケース12自体の厚みを変えてケース12の一部により磁性体補助部材59を形成するようにしても良い。
【0045】
さらに、磁性体補助部材59は磁気回路部の一部として作用すれば良いので、必ずしもリング形状として外周全体に設ける必要はなく、たとえば、ケース12を略四角形断面とした場合には、4面のうち対向する2面のみに磁性体補助部材を設けるようにしても良く、断面円形のケース12の外周のうち相互に対向する各々円周方向120度の範囲についてのみ磁性体補助部材を設けるようにしても良い。このように磁性体補助部材を円周方向に部分的に設けると、水平方向の位置に応じて減衰作用に差異を設ける場合に有効となる。
【0046】
さらにこのとき、ケース12の外周面に設置する磁性体補助部材の大きさや、磁性材料を例えば強磁性体であるFe−Ni合金等と組み合わせることで、対応する磁性回路に生じる磁力に差異を生じせしめることもできる。たとえば、車体の前後左右方向、すなわち防振支持装置の径方向部位において、前記手段にて磁界の強弱をつくるようにすれば、内蔵する減衰部材の前後左右方向移動(振動)に対して、目的に応じた減衰力を設定することもできる。
【0047】
図10は本発明の他の実施の形態である防振支持装置10hを示す断面図であり、この防振支持装置10hの基本構造は図7に示した防振支持装置10eと同様である。この防振支持装置10hのケース12には図9に示した場合と同様に磁性体補助部材59が設けられており、スタッド11のケース12に対する相対的軸方向位置を検出することができる。この磁性体補助部材59は図1、図4および図5に示すように、スタッド11を防振ゴム22に固定するようにしたタイプのケース12にも設けることができる。
【0048】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。図示するそれぞれの防振支持装置10a〜10hにおいては、通路31の隙間寸法はその軸方向に沿って一定となっているが、上述のように、通路31の隙間寸法をスタッド11のケース12に対する軸方向位置に応じて変化させるようにしても良い。また、図示したそれぞれの防振支持装置はスタッド11が産業用機械の運転台ないし荷台側に固定され、ケース12が車体側に固定されているが、スタッド11を車体側に固定し、ケース12を運転台ないし荷台側に固定するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施の形態である防振支持装置を示す断面図である。
【図2】図1の分解斜視図である。
【図3】減衰部材とケースとにおける磁界の流れを示す拡大断面図である。
【図4】本発明の他の実施の形態である防振支持装置を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施の形態である防振支持装置を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施の形態である防振支持装置を示す断面図である。
【図7】本発明の他の実施の形態である防振支持装置を示す断面図である。
【図8】本発明の他の実施の形態である防振支持装置を示す断面図である。
【図9】本発明の他の実施の形態である防振支持装置を示す断面図である。
【図10】本発明の他の実施の形態である防振支持装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
11 スタッド
12 ケース
14 底壁部
15 側壁部
18 ブラケット
22 防振ゴム
23 液体収容室
23a 第1室
23a 第2室
24 磁性流体
25 減衰部材
28 円筒部
31 通路
34 電磁コイル
38 電源ユニット
44 圧縮コイルばね
48 ガイドスリーブ
50 空気ばね
54 コイルホルダー
59 磁性体補助部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に底壁部を有し他端の開口端部に弾性体が設けられ、液体収容室を形成する筒状のケースと、前記弾性体を貫通して前記弾性体に軸方向および径方向に移動自在に装着されるスタッドと、前記スタッドに固定され、前記液体収容室を相互に連通し合う前記開口端部側の第1室と前記底壁部側の第2室とに区画する減衰部材とを有する防振支持装置であって、
前記液体収容室に封入される磁性流体と、
前記ケースに沿って軸方向に延びて前記減衰部材に設けられ、前記ケースの内周面との間で前記第1室と前記第2室とを連通させる略環状の通路を形成するとともに当該通路を介して前記ケースとにより軸方向に延びる磁気回路を形成する磁気回路部と、
前記磁気回路部と前記ケースとの何れか一方に設けられ、前記磁気回路部の軸方向両端部における前記通路内の磁性流体を横断して前記ケースと前記磁気回路部とにより形成される磁気回路に磁界を発生させる電磁コイルとを有することを特徴とする防振支持装置。
【請求項2】
請求項1記載の防振支持装置において、前記磁気回路部に前記電磁コイルを設け、当該電磁コイルの外周面と前記ケースの内周面との間に前記通路を形成することを特徴とする防振支持装置。
【請求項3】
請求項1記載の防振支持装置において、前記ケースに前記電磁コイルを設け、当該電磁コイルの内周面と前記磁気回路部の外周面との間に前記通路を形成することを特徴とする防振支持装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の防振支持装置において、前記電磁コイルに供給される電力を変化させる電力調整手段を有し、前記電磁コイルに供給される電力値に応じて前記通路を流れる前記磁性流体の流動抵抗を調整することを特徴とする防振支持装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の防振支持装置において、前記通路の隙間寸法を前記スタッドの前記ケースに対する軸方向位置に応じて変化させることを特徴とする防振支持装置。
【請求項6】
請求項2記載の防振支持装置において、前記スタッドの前記ケースに対する軸方向位置に応じて前記ケースの磁束密度を変化させる磁性体補助部材を前記ケースの外側に設け、前記電磁コイルに流れる電流の変化により前記スタッドの前記ケースに対する軸方向位置を検出する検出手段を有することを特徴とする防振支持装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の防振支持装置において、前記スタッドを前記弾性体に固定することを特徴とする防振支持装置。
【請求項8】
請求項7記載の防振支持装置において、前記スタッドの荷重を支持するばね部材を前記第2室内に配置することを特徴とする防振支持装置。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか1項に記載の防振支持装置において、前記スタッドを軸方向に移動自在に案内するガイドスリーブを前記弾性体に固定し、前記ガイドスリーブに前記スタッドと前記ガイドスリーブとの間をシールするシール部材を設け、前記ガイドスリーブを介して前記スタッドを前記弾性体に装着することを特徴とする防振支持装置。
【請求項10】
請求項9記載の防振支持装置において、前記スタッドの荷重を支持するばね部材を前記第2室内に配置することを特徴とする防振支持装置。
【請求項11】
請求項9記載の防振支持装置において、前記スタッドの荷重を支持する空気ばねを前記弾性体の外側に取り付けることを特徴とする防振支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−125529(P2006−125529A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315028(P2004−315028)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000136354)株式会社フコク (97)
【Fターム(参考)】