説明

防錆剤窒素ヘテロ環化合物を含む防錆剤

【課題】ハードコート特性と防錆機能を有する高分子組成物を提供する。
【解決手段】
(a)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(b)HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物:
を、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率で反応させて得られる反応生成物を含む、高分子物質と、
(c)イミダゾール系窒素へテロ環化合物、トリアゾール系窒素へテロ環化合物、テトラゾール系窒素へテロ環化合物、及びピラゾール系窒素へテロ環化合物、並びにこれらの化合物の塩から成る群から選択される少なくとも一種の化合物と、
を含む、高分子組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製品に適用できる高分子組成物、特に無機質防錆コーティング剤、及び金属表面の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼、鋳鉄、炭素鋼、ステンレス鋼などの鉄、鉄合金、銅及び銅合金、亜鉛及び亜鉛合金、アルミニウム及びアルミニウム合金、マグネシウム及びマグネシウム合金、ニッケル、ニッケル合金、クロム、クロム合金等の金属、金属製品の防錆処理に窒素ヘテロ環化合物からなる有機防錆剤が使われている。この防錆剤は、耐食性、耐酸化性は優れるものの、表面硬度、耐熱性、耐酸化性、金属密着性、塗装密着性などの点で、まだ改善すべき課題が残されている。
【0003】
【特許文献1】WO 00/40777
【特許文献2】特開2000−119596号公報
【特許文献3】特公昭61−17911号公報
【非特許文献1】防錆管理1993年11月号,P417「防錆剤としてのカルボキシベンゾトリアゾール」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
係る防錆処理の前工程において、スケールの除去、酸化皮膜の除去のための酸洗浄が行われている。係る酸洗浄後の水洗が不充分であると、残存する酸性イオンによる腐食が発生しやすいこと、表面硬度、耐熱性、耐酸化性、密着性にマイナスとなる等の技術課題や、且つ、複雑な防錆処理工程の簡略化などの技術課題が残されている。また、防錆力、表面硬度、密着性に優れるが、環境保護の立場から問題となっているクロメート処理の代替処理技術も望まれている。
【0005】
本発明は、前記した従来の防錆剤及び防錆処理技術の課題である、酸洗浄による腐食要因を除去し、表面硬度の高い皮膜の形成、耐熱性、耐酸化性、金属および塗装密着性に優れた防錆皮膜の提供、およびクロメート対応処理技術の提供をするものである。
【0006】
本発明は、ゾルゲル法などで必要とされる加水分解などの複雑な工程を要せず、透明性が高く、かつハードコート特性に優れた新規高分子物質に、特定の窒素ヘテロ環化合物を配合してなる新規な高分子組成物、すなわち、防錆コーティング組成物を提供すること、及び、該高分子組成物を使用する新規な金属表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
金属箔、金属板、金属製品の表面の錆や熱延スケール、酸化皮膜を除去する酸性洗浄液として、塩酸や硫酸、混酸等の無機酸を主要成分とする防錆前処理が行われている。この防錆前処理工程では、処理スピード、洗浄液の濃度、および水洗度合に依存し、残存する酸性イオンに起因した金属表面の腐食が発生しやすく、防錆処理工程の前に酸洗浄工程による腐食要因を取り除くことが重要である。係る方策として、アミンスルホン系水溶性高分子を酸洗浄液に配合する酸洗浄が効果を発揮する。この酸洗浄では、無機酸による金属表面のスケール除去、酸化膜の除去による表面活性化と同時に、アミンスルホンのアミノ基と二酸化イオウがミクロ分極した金属表面の±極に付着し表面に腐食防止皮膜が形成されるため、新たに防食性が付与されると考えられる。また、この皮膜は無機質防錆ハードコーティング剤と化学的に結合するため、金属と防錆皮膜との密着性を更に改善する働きを有する。
【0008】
本発明は前記の課題を解決したものであり、
(a)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(b)HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物:
を、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率で反応させて得られる反応生成物を含む、高分子物質と、
(c)イミダゾール系窒素へテロ環化合物、トリアゾール系窒素へテロ環化合物、及びテトラゾール系窒素へテロ環化合物、及びピラゾール系窒素ヘテロ環化合物、並びにこれらの化合物の塩から成る群から選択される少なくとも一種の化合物と、
を含む、高分子組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、金属表面を、アミンスルホン系水溶性高分子を含む酸性水溶液で洗浄し次いで、前記の高分子組成物を、該洗浄した金属表面に塗布する、ことを包含する、金属表面の処理方法に関する。
【0010】
更に、本発明は、前記の高分子組成物を含むコーティング剤に関する。
【0011】
本発明の前記高分子組成物を、前記アミンスルホン系水溶性高分子を含む酸性水溶液で洗浄した金属表面(すなわち、防錆前処理工程で活性処理された金属表面)に塗布することにより、アミノ基、二酸化イオウ、官能エステル基、SiO結合、BO結合などの働きにより、9Hレベルの鉛筆硬度、260℃の半田耐熱性、200℃レベルの耐酸化性を付与でき、更に、防錆処理後の化粧塗装との密着性も向上させることを可能にした。性能的には、クロメート処理の有する表面硬度、金属密着性、耐食性に匹敵するため、クロメート処理の代替も可能にするものである。
【発明の効果】
【0012】
ゾル・ゲル法などで必要とされる加水分解などの複雑な工程を要せず、しかも耐候性が高く、優れた光学特性(例えば透明性など)と、かつハードコート特性に優れた、防錆特性を有する高分子組成物が得られる。本発明の高分子組成物あるいは防錆コーティング組成物は、ガラス、セラミックス、金属及びプラスチックなどへの応用が可能である。
本発明の金属表面の処理方法は、アミンスルホン系水溶性高分子を酸腐食抑制剤として配合した酸性水溶液で金属表面を洗浄することによる当該防錆前処理工程での表面活性化と防食対策を両立させ、しかも、前記高分子組成物中のボロシリケートマトリックスによる耐熱性及び耐酸化性の向上、皮膜表面の鉛筆硬度の向上、(c)成分の窒素ヘテロ環化合物と変性一体化された防錆力による耐食性の向上、アミノ基や二酸化イオウ基による防錆皮膜と金属との密着性の向上、防錆皮膜の官能基と塗料との密着性の向上、などをもたらす効果を発揮する。このため、例えばマグネシウムやマグネシウム合金の表面硬度及び耐食性の向上、銅や銅合金の表面硬度と半田耐熱性及び耐酸化性の向上、塗装化粧する金属製品の耐摩耗性の向上、などの優れた機能、性能を発揮する。また、機能及び性能が向上した本発明の高分子組成物を使用する金属表面処理方法は、機能及び性能の点でクロメート処理にも匹敵するので、環境保護の点から、クロメート処理の代替技術になり得る産業上の利点を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(詳細な説明)
本発明における(a)成分と(b)成分とを反応させて得られる反応生成物を含む高分子物質に関しては、本発明者により、すでに、2005年5月31日に日本特許出願がなされ(特願2005−159037)、また、2006年5月31日にPCT国際出願がなされた(PCT/JP2006/310859)。本件出願は、これらの日本特許出願及びPCT国際出願の内容を参照することにより、本出願に取り込む。
【0014】
(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)と(b)成分(ホウ素化合物)を混合すると、反応し、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、固化する。これは、ホウ素化合物が、(a)成分中のアミノ基を介して架橋剤として働き、これらの成分を高分子化させて、その結果、粘稠な液体となり、固化するからであると考えられる。なお、(a)成分は液体である。本発明では、上記(a)成分と(b)成分との反応に際し、水を使用しない。
【0015】
(a)成分は、以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物である。
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす。)
【0016】
ここで、Rはアミノ基含有の有機基を表わすが、たとえば、モノアミノメチル、ジアミノメチル、トリアミノメチル、モノアミノエチル、ジアミノエチル、トリアミノエチル、テトラアミノエチル、モノアミノプロピル、ジアミノプロピル、トリアミノプロピル、テトラアミノプロピル、モノアミノブチル、ジアミノブチル、トリアミノブチル、テトラアミノブチル、及び、これらよりも炭素数の多いアルキル基またはアリール基を有する有機基を挙げることができるが、それらに限定されない。γ―アミノプロピルや、アミノエチルアミノプロピルが特に好ましく、γ―アミノプロピルが最も好ましい。
【0017】
(a)成分中のR’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わす。その中でも、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0018】
(a)成分中のnは1〜3から選択される整数を表わす。その中でも、nは2〜3であるのが好ましく、nは3であるのが特に好ましい。
すなわち、(a)成分としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0019】
(b)成分は、HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物である。(b)成分は、好ましくは、HBOである。
【0020】
(a)成分と(b)成分との反応における両成分の使用量は、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率であり、好ましくは、0.02モル〜8モルの比率、より好ましくは、0.02モル〜5モルの比率である。
(a)成分1モルに対し、(b)成分が0.02モル未満では、固化に要する時間が長くなったり、充分に固化しなかったりすることがある。また、(b)成分が8モルを越すと、(b)成分が(a)成分に溶解せず残ってしまうことがある。
【0021】
本発明の高分子物質(a)成分と(b)成分との混合条件(温度、混合時間、混合方法など)は、適宜選択することができる。通常の室温条件では、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、その後、固化する。固化する時間や得られる反応生成物の粘度や剛性はホウ素化合物の割合でも異なる。
【0022】
前記ホウ素化合物(b)は、好ましくは、炭素数1〜7のアルコールに溶解したホウ素化合物アルコール溶液である。炭素数1〜7のアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、各種プロピルアルコール、各種ブチルアルコール、及びグリセリンなどが挙げられるが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。当該アルコール溶液を使用することにより、(b)成分を(a)成分に溶解する時間を短縮できる。なお、取り扱い上アルコール中のホウ素化合物の濃度は高いほうが好ましい。
【0023】
前記反応生成物は、好ましくは、水を添加して加水分解する工程を経ないで(a)成分と(b)成分を反応させて得られる反応生成物である。
【0024】
(c)成分は、イミダゾール系窒素へテロ環化合物、トリアゾール系窒素へテロ環化合物、テトラゾール系窒素へテロ環化合物、及びピラゾール系窒素へテロ環化合物、並びにこれらの化合物の塩から成る群から選択される少なくとも一種の化合物である。
【0025】
(c)成分を配合することにより、本発明の高分子組成物には、防錆機能が付与される。
【0026】
(c)成分としては、2−メチル−4,5−ジベンジルイミダゾール、2−メチル−4−(4−クロロフェニルメチル)イミダゾール、2−フェニル−4−(4−メチルフェニルメチル)イミダゾール、3−ヒドロキシ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3,5−ピラゾール、3−メチル−5−ヒドロキシピラゾール、4−アミノピラゾール、5−フェニル−1,2,3,4−テトラゾール、1−(3−アミノフェニル)−1,2,3,4−テトラゾール、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1,2,3,4−テトラゾール、及び、それらの各化合物の塩を挙げることができ、更に、それらの単独の化合物又は塩、あるいは、それらの化合物又は塩の2種以上の混合物を挙げることができる。
【0027】
(c)成分として、好ましくは、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール及び2−フェニル−4−(4−メチルフェニルメチル)イミダゾールを挙げることができる。
【0028】
(c)成分は、本発明の高分子組成物中に、好ましくは1重量%〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%添加する。防錆力は、防錆剤の濃度に依存するが、(c)成分の量が、1重量%未満であると防錆効果を示しにくいことがあり、50重量%を超えると防錆力が飽和するため経済性の点で好ましくない。
【0029】
本発明の金属表面の処理方法は、防錆処理であり、金属表面を、アミンスルホン系水溶性高分子を含む酸性水溶液で洗浄する防錆前処理工程と、次いで、洗浄した金属表面に前記の高分子組成物を塗布する防錆後処理工程と、を包含する。
【0030】
本発明の金属表面の処理方法において使用される金属としては、例えば、鉄、鋳鉄、炭素鋼、ステンレス鋼などの鉄及び鉄合金、銅、黄銅、白銅などの銅及び銅合金、亜鉛及び亜鉛合金、アルミニウム及びアルミニウム合金、マグネシウム及びマグネシウム合金、ニッケル及びニッケル合金、クロム及びクロム合金等の金属、及び、それらの金属を用いた金属製品を挙げることができる。
【0031】
本発明の金属表面の処理方法において使用されるアミンスルホン系水溶性高分子としては、例えば、ポリアミンスルホン、ジアリルアミン炭酸塩・二酸化イオウ共重合体、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化イオウ共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・マレイン酸・二酸化イオウ三元共重合体などから選択される少なくとも1種の化合物を挙げることができる。
【0032】
これらのアミンスルホン系水溶性高分子の分子量及びモノマー組成などの物理的特性及び化学的特性は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量としては、2000〜100000を挙げることができる。
【0033】
本発明で使用されるアミンスルホン系水溶性高分子を含む酸性水溶液を調製する手段は特に限定されないが、例えば、アミンスルホン系水溶性高分子を水、塩酸、硫酸、混酸などの酸に溶解させて酸性水溶液を調製することができる。溶解させた時のアミンスルホン系水溶性高分子の酸性水溶液中の濃度は特に限定されないが、例えば、1〜50重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。アミンスルホン系水溶性高分子の酸性水溶液中の濃度が、1重量%未満の場合には、金属表面の腐食防止効果が発揮されにくいことがあり、また、50重量%を超える場合は、経済性の点で好ましくない。
【0034】
本発明の処理方法において酸性水溶液で金属表面を洗浄する手段は特に限定されないが、例えば、対象金属の箔、板、製品部品などを、酸性水溶液中に浸漬したり、酸性水溶液を金属表面に散布したりすることを挙げることができる。この金属表面洗浄工程(酸洗浄工程)により、金属表面のスケール除去や酸化皮膜の除去が行われ表面が活性化されるが、同時に、ミクロ分極した金属表面の±極に、アミンスルホン系水溶性高分子のアミノ基と二酸化イオウが付着し、金属表面に腐食防止皮膜を形成し酸腐食を抑制する働きをする。
【0035】
本発明の処理方法において前記金属表面洗浄工程(酸洗浄工程)で洗浄された金属表面に本発明の高分子組成物を塗布する工程は、防錆処理工程であり、その手段は特に限定されないが、例えば、当該高分子組成物を金属表面にスプレー又は刷毛塗りするか、又は、金属を当該高分子組成物の液あるいはその溶液中に浸漬させるなどの方法で行うことができる。塗布温度は特に限定されないが、例えば、室温〜100℃を挙げることができる。塗布後は乾燥してもよく、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、室温〜200℃を挙げることができる。乾燥時間は特に限定されないが、例えば、乾燥時間の目安として、防錆皮膜がタックフリーになるまでの乾燥では、数分〜数十分の短時間で乾燥が終了することがある。また、塗布の厚みは特に限定されないが、例えば、高分子組成物の濃度を変えて塗布することにより、塗膜は数μm〜数十μmの範囲の厚みで形成することができ、この厚みで、機能及び性能を特に顕著に発揮することができる。
【0036】
本発明の高分子組成物は、(d)成分として、金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの縮合物を更に含むことができる。すなわち、前記(a)成分と(b)成分との反応に際して、あるいは、反応後、(d)成分を添加させることができる。(d)成分を添加することにより、得られる反応生成物中の金属塩の含有率を高めることができ、電気特性や化学特性をより向上させることができるとともに、(d)成分を用いない場合と同様の粘稠な液体の状態となるので、繊維やフィルム状に加工することができる。
【0037】
(d)成分の金属アルコキシドの金属としては、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sb、などを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、Si、Ti、Zr、Alであり、より好ましくは、Si、Ti、Zrであり、また、(d)成分の金属アルコキシドは液体であることが好ましいため、Si、Tiが特に好ましい。(d)成分の金属アルコキシドのアルコキシド(アルコキシ基)としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、及びそれ以上の炭素数を有するアルコキシ基を挙げることができる。メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシが好ましく、メトキシ及びエトキシがより好ましい。
【0038】
(d)成分の金属アルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、プロピルトリプロポキシチタン、ブチルトリブトキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、メチルトリメトキシジルコニウム、エチルトリエトキシジルコニウム、プロピルトリプロポキシジルコニウム、及びブチルトリブトキシジルコニウムなどを挙げることができる。
その中でも、好ましいものとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、及びメチルトリメトキシシランを挙げることができ、より好ましいものとしては、テトラエトキシシラン及びテトラメトキシシランを挙げることができる。
【0039】
(d)成分の金属アルコキシドの使用量は、(a)成分1モルに対して10モル以下の比率が好ましい。より好ましくは、0.1モル〜5モルの比率である。(a)成分1モルに対し、(d)成分が0.1モル未満では、前述したような(d)成分を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、(d)成分が5モルを越すと、白濁してしまうことがある。
【0040】
(d)成分の金属アルコキシドの縮合物としては、以下の式(d1)及び(d2)からなる群から選択される少なくとも1種の式で表わされる金属アルコキシドの縮合物(d)を挙げることができる。
【化1】


(式中、Rは、アルキル基を表わし、その一部は水素であってもよく、Rは、夫々独立に同一であっても異なっていてもよく、mは2〜20から選択される整数を表わし、Mは、Si、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の金属を表わす。)
【0041】
すなわち、前記(a)成分と(b)成分との反応に際して、あるいは、反応後、(d)成分を添加することができる。(d)成分を添加することにより、硬度を高めることができ、電気特性や化学特性をより向上させることができるとともに、粘稠な液体の状態となるので、繊維やフィルム状に加工することができる。
【0042】
(d)成分である前記金属アルコキシドの縮合物の添加量は、前記(a)成分1モルに対し、金属アルコキシドモノマー重量換算で、2〜50モルであるのが好ましく、4モル以上であるのが、より好ましい。すなわち、(d)成分の添加量が多すぎる場合には、硬度が低下する傾向があり、逆に、少なすぎる場合には、Si含有量が少なくなるので用途によっては硬度が低下したり化学的耐久性の問題が発生することがある。また、(d)成分の添加量が多すぎる場合には、本発明の高分子組成物を得るための硬化時間が長くなる傾向がある。
【0043】
(d)成分中のRはアルキル基を表わし、その一部は水素であってもよく、Rは、夫々独立に同一であっても異なっていてもよいが、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びそれ以上の炭素数を有するアルキル基であり、メチル基あるいはエチル基であるのが好ましい。
【0044】
(d)成分中のmは、2〜20から選択される整数を表わすが、3〜10であるのが好ましく、5であるのが最も好ましい。
【0045】
(d)成分中のMは、Si、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の金属を表わすが、SiまたはTiであるのが好ましく、Siが最も好ましい。
【0046】
(d)成分を構成する金属アルコキシドモノマー単位としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、プロピルトリプロポキシチタン、ブチルトリブトキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、メチルトリメトキシジルコニウム、エチルトリエトキシジルコニウム、プロピルトリプロポキシジルコニウム、及びブチルトリブトキシジルコニウムなどを挙げることができる。
【0047】
(d)成分が前記式(d1)で表わされる場合には、テトラエトキシシランの縮合物(5量体)又はテトラメトキシシランの縮合物(5量体)であるのが好ましく、前記式(d2)で表わされる場合には、エチルトリエトキシシランの縮合物(5量体)又はメチルトリメトキシシランの縮合物(5量体)であるのが好ましい。
【0048】
本発明の高分子組成物は、上記のように、(d)成分として、金属アルコキシド(モノマー)及び/又は金属アルコキシドの縮合物を含むことができるが、金属アルコキシドモノマーの粘性は、同縮合物に比べて低いため、金属アルコキシドモノマーを更に含有させることにより、得られる高分子組成物の基材への密着性が向上することがあるという優位点があるが、金属アルコキシドモノマーの含有量を、同縮合物と同量以上など多くすると、塗膜を厚くした時の被膜性が低下してしまうことがある。
【0049】
本発明の高分子組成物は、前記(d)成分の代わりにあるいは(d)成分に加えて、合成樹脂((e)成分)を更に含むことができる。すなわち、前記(a)成分と(b)成分との反応に際して、あるいは、反応後、(d)成分の代わりにあるいは(d)成分に加えて、(e)成分を添加させることができる。(e)成分を加えることで、得られる反応生成物にクラック防止性を付与することができ、(e)成分を含む高分子組成物は、透明性樹脂へのハードコート剤として使用できる。
【0050】
(e)成分の合成樹脂としては、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及び紫外線硬化性樹脂などを挙げることができ、具体的には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂を挙げることができ、様々な重合度(分子量)を有する合成樹脂を使用することができる。その中でもエポキシ樹脂、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エポキシアクリレート、ビニルエステル樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF、オリゴビニルエステル、オリゴエステルアクリレートなどが好ましい。
【0051】
(e)成分の使用量は、組成物全体に対して50重量%以下の比率が好ましい。より好ましくは、1重量%〜40重量%の比率である。(e)成分が1重量%未満では、前述したような(e)成分を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、(e)成分が40重量%を越すと、樹脂硬化剤を添加する必要があることがあり、また、高い硬度が得られないことがある。
【0052】
本発明の高分子組成物に(e)成分を含有させしかも(d)成分として金属アルコキシドの縮合物を含有させる時は、(d)成分の金属アルコキシドの縮合物の含有量を少なめにすることが好ましい。すなわち、(e)成分を含有して(d)成分の含有量が多い場合には、本発明の高分子組成物を得るための硬化時間が長くなる傾向があり、湿気硬化時間が長くなる問題が発生することがある。この場合、具体的には、(d)成分の添加量は、前記(a)成分1モルに対し、金属アルコキシドモノマー重量換算で、2〜20モルであるのが好ましい。
【0053】
本発明の組成物は、前記(e)成分の代わりにあるいは(e)成分に加えて、ジオール系化合物を更に含むことができる。ジオール系化合物を加えることで、前述したような(e)成分を添加する効果と同様の効果が得られることがある。
【0054】
当該ジオール系化合物としては、特に限定されないが、ポリカプトラクトンジオール、1,6ヘキサンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオールを挙げることができる。その中でもポリエステルジオールが特に好ましい
【0055】
当該ジオール系化合物は、組成物全体に対して50重量%以下の比率が好ましい。より好ましくは、1重量%〜40重量%の比率である。1重量%未満では、前述したようなジオール系化合物を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、40重量%を越すと、樹脂硬化剤を添加する必要があることがあり、また、高い硬度が得られないことがある。
【0056】
本発明の高分子組成物は、上記で列挙した成分以外にも、その用途に応じて、着色剤、防黴剤、光触媒材料、防食剤、防藻剤、撥水剤、導電性材料、などを含ませることができる。
【0057】
本発明の高分子組成物を主成分として含ませることにより、コーティング剤を得ることができる
【0058】
本発明の高分子組成物を、無機基材または有機基材に塗布することにより、機能材料を得ることができる。無機基材または有機基材としては、金属、木材、石材、プラスチック、繊維製品等あらゆるものを挙げることができる。このように、本発明の高分子組成物は、その粘度を1ポイズ以下でも塗工できるため基材の内部に含浸させることにより、その基材材料の素材を活かしながら改質することも可能である。
更に光触媒を含有させてバインダーとして使用しても、通常の有機物バインダーに比べ、経時的に分解することは少ない。また、基材に塗布することにより、基材表面に耐熱性や電気絶縁性を付与することができる。
【0059】
本発明の高分子組成物としての用途は、光表示材及び装置のハードコート用が有用である。例えば、液晶用(具体的には、AG・ARフィルム、TACフィルム、偏光膜、セパレートフィルム、透明電極、カラーフィルター、配向膜、位相差フィルム、プリズムシート、拡散板、導光板、反射板など)のハードコート用として、また、プラズマディスプレーについてもPC、PPコートのハードコート用として有用である。
【0060】
本発明の高分子組成物は、無機物質(Si)を骨格とするため、光触媒を添加してコーティング剤などとして使用しても、有機物(炭素骨格の)接着剤に比べ、分解、劣化しにくい傾向にある。
【0061】
本発明の金属表面の処理方法は、従来の脱脂工程、酸洗浄工程及びクロム酸処理工程によるクロメート処理に代わる方法としても展開できるものである。
【実施例】
【0062】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳しく説明する。
下記の実施例に示す配合の高分子組成物(防錆コーティング組成物)は、(a)成分と(b)成分を室温で充分混合してから、反応変性した後、(c)成分、及び必要に応じて(d)成分や(e)成分を添加攪拌することにより、試料を調製した。
なお、(b)成分と、(c)成分はイソプロパノールに分散し10重量%イソプロパノール分散液にして配合した。
【0063】
実施例1
(a)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン221g(1モル)、(b)成分としてホウ酸61.8g(1モル)、(d)成分としてテトラエトキシシラン832g(4モル)、(e)成分としてビスフェノールFを全量に対し5重量%(58.7g)、(c)成分として、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールを全量に対し20重量%(293.4g)、添加配合して、本発明の高分子組成物を得た。
【0064】
実施例2
(a)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン221g(1モル)、(b)成分としてホウ酸61.8g(1モル)、(d)成分としてテトラエトキシシラン832g(4モル)、(e)成分としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを全量に対し5重量%(58.7g)、(c)成分として、2−フェニル−4−(4−メチルフェニルメチル)イミダゾールを全量に対し20重量%(293.4g)、添加配合して、本発明の高分子組成物を得た。
【0065】
実施例3
(a)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン221g(1モル)、(b)成分としてホウ酸12.4g(0.2モル)、(d)成分としてテトラエトキシシランの5量体600g(TEOSモノマー換算4モル)、(c)成分として、2−フェニル−4−(4−メチルフェニルメチル)イミダゾールを全量に対し20重量%(208.4g)、添加配合して、本発明の高分子組成物を得た。
【0066】
実施例4
(a)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン221g(1モル)、(b)成分としてホウ酸61.8g(1モル)、(e)成分としてビスフェノールFを全量に対し5重量%(14.9g)、(c)成分として、2−フェニル−4−(4−メチルフェニルメチル)イミダゾールを全量に対し20重量%(74.4g)、添加配合して、本発明の高分子組成物を得た。
【0067】
比較例1
(a)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン221g(1モル)、(b)成分としてホウ酸61.8g(1モル)、(d)成分としてテトラエトキシシラン832g(4モル)、(e)成分としてビスフェノールFを全量に対し5重量%(58.7g)添加配合して、本発明の高分子組成物を得た。
【0068】
評価方法
10重量%の塩酸水溶液に対し、ジアリルアミン塩酸塩・二酸化イオウ共重合体の20重量%の水溶液を10重量%添加して得られる酸性洗浄液に、薄板鋼板、ガラスエポキシ銅張積層板、及び、マグネシウム合金板(マグネシウム90重量%、アルミニウム9重量%、亜鉛1重量%)を、それぞれ、室温で10分間浸漬し、水洗後、実施例1〜4および比較例1の配合の高分子組成物を、約10μmの厚みの皮膜を形成するように、塗布した。その後、50℃の温度で10分間乾燥し、タックフリーの状態とし、室温で3日間、養生して防錆処理した試験体を製作した。試験体は、以下の試験で性能評価を行った。
(1)表面硬度(鉛筆硬度):JIS−K5400に準拠した鉛筆引っかき試験による評価。
(2)防錆性:5重量%の塩水を噴射した後、室温で24時間後の発錆状況を目視評価。
面積比で0〜5%を良好(○)、それ以外を不良(△)とした。
(3)耐酸化性:200℃のオーブンに1時間保持し、表面状態を目視で評価した。
評価基準は、変化なし(○)、やや変化(△)、かなり変色(×)とした。
(4)耐熱性:260℃の半田浴に3秒間浸漬し、付着面積比で評価した。100%を良好(○)とし、それ以外を不良(△)とした。
(5)塗装密着性:メタリックサティン粉末を、マグネシウム合金板に塗装し、200℃で15分間焼付け処理をした試験片を、トラバース式磨耗試験機で、荷重50g/cm、ストロークサイクル500回後の試験片の碁盤目試験による評価をした。これらの得られた結果を表1に示した。
【0069】
【表1】

【0070】
以上、実施例で示した様に、防錆前処理を含む本発明の高分子組成物により表面処理された金属及び金属合金の製品は、優れた耐食性、表面硬度、耐熱性、耐酸化性、金属・塗料との密着性を有することが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の高分子組成物は、金属の防錆コーティング組成物などとして利用でき、金属表面に塗布することにより、環境保護の点から、クロメート処理の代替技術になり得る。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(b)HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物:
を、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率で反応させて得られる反応生成物を含む、高分子物質と、
(c)イミダゾール系窒素へテロ環化合物、トリアゾール系窒素へテロ環化合物、テトラゾール系窒素へテロ環化合物、及びピラゾール系窒素へテロ環化合物、並びにこれらの化合物の塩から成る群から選択される少なくとも一種の化合物と、
を含む、高分子組成物。
【請求項2】
前記ホウ素化合物(b)が、炭素数1〜7のアルコールに溶解したホウ素化合物アルコール溶液である、請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項3】
(d)金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの縮合物を更に含む、請求項1又は請求項2に記載の高分子組成物。
【請求項4】
(d)成分中の金属が、Si、Ti及びZrから成る群から選択される少なくとも1つの元素である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子組成物。
【請求項5】
(e)合成樹脂を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子組成物。
【請求項6】
金属表面を、アミンスルホン系水溶性高分子を含む酸性水溶液で洗浄し、次いで、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子組成物を、該洗浄した金属表面に塗布する、
ことを包含する、金属表面の処理方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子組成物を含む、コーティング剤。

【公開番号】特開2008−127515(P2008−127515A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316514(P2006−316514)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】