説明

除吸放出性シートおよびその製造方法

【課題】保湿剤、消臭剤、清涼剤、芳香剤、消炎剤、保湿剤、皮膚栄養補給剤、防腐剤、抗菌剤、植物由来のエッセンシャルオイルなどを含む水分を吸水、吸液する機能と、それらを徐々に放出、放散する機能とを併せ持つ不織布状の除吸放出性シートを提供する。
【解決手段】(A)合成繊維(ただし、後記親水性繊維および高吸水性繊維を除く。以下同じ)/親水性繊維=100〜20/0〜80重量%(ただし、合成繊維+親水性繊維=100重量%)からなる表面層、(B)合成繊維/親水性繊維/高吸水性繊維=10〜90/5〜80/5〜80重量%(ただし、合成繊維+親水性繊維+高吸水性繊維=100重量%)からなる内層、および(C)合成繊維/親水性繊維=100〜60/0〜40重量%(ただし、合成繊維+親水性繊維=100重量%)からなる裏面層なり、各層は層間が合成繊維の熱接着により一体化されており、かつ揮散性成分および/または移行性成分の吸収性と放出性を有する除吸放出性シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に水分、さらには例えば保湿剤、消臭剤、清涼剤、芳香剤、消炎剤、保湿剤、皮膚栄養補給剤、防腐剤、抗菌剤、植物由来のエッセンシャルオイルなどを含む水分を吸水、吸液する機能と、それらを徐々に放出、放散する機能とを併せ持ち(以下「除吸放出性」ともいう)、食品用ドリップシート、ウエットワイパー、衛材吸収体、保湿シート、フェイスマスク、濡れマスク、化粧用シートなどに有用な不織布状の除吸放出性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主に吸水性物質からなるシート状構造体は、例えば(1)食品や身体から発生する水分や血液を吸収するドリップシートや衛材吸収体、(2)床、家具、キッチン、ヒトの手・足・顔などを清浄にするウエットワイパー、(3)特に顔面に装着して使用する保湿シート、フェイスマスク、濡れマスク、化粧用シートなどの用途が知られている。
これらのシート状構造体は、水分や薬剤の担持体として各種の親水剤、吸水剤、親水繊維などを付与、あるいは含有する織編み物、不織布、繊維構造体などが使用される。これらのシート状構造体としては、例えば次のような先行技術が挙げられる。
【0003】
特許文献1[特開2000−229850号公報(薬剤を含有して吸水および保水機能をもつ徐放性の構造物)]には、例えば合成繊維不織布、吸水紙、吸水膨潤性ポリマー(高吸水性ポリマー「SAP」)とセルロースパルプの混合物の層、さらにこの上に吸水紙の順で積層し、エンボスローラーで一体化し、得られたシートに水分を吸水させてから顔面に貼付して、冷感と清涼感を長く維持する構造体が提示されている。しかしながら、パルプからなる吸水紙は、耐水性が悪いため、水分付与後の取り扱い性に問題を有している。しかも、本発明におけるような合成繊維とパルプの複合により形成される層、シート、不織布については記載も示唆もない。また、吸水膨潤性ポリマーは、粉末として記載されており、本発明の高吸水性繊維(SAF)についてもなんら記載も示唆も無い。
【0004】
また、特許文献2[特開2004−43442号公報(保湿シート剤)]には、グリセリン、多価アルコールなどの不揮発性かつ水親和性を有する溶媒と、ヒドロキシプロピルセルロースなどの吸水性組成物からなる保湿シートが提案されているが、該吸水性組成物は液体、粉体であり、繊維状はなんら記載、示唆がない。また、同特許文献には、支持体として不織布が例示されているが、汎用的に知られている繊維を挙げているだけで混率なども具体的な限定はない。
【0005】
さらに、特許文献3[特開昭61−68042号公報(衛生用品用芳香付与剤)]には、衛生用品用芳香付与剤として、高度の水膨潤性と含水性を有する水不溶性ポリマー粉体、つまり高吸水性ポリマー粉体に香料を包蔵させたものを、一対の不織布シートの間に介在させ、生理用ナプキン、ベビー用ナプキンなどの衛生用品に適用することが開示されている。この例においても、高吸水性繊維(SAF)についてはなんら開示、示唆されてない。また、粉体の場合は、繊維よりも表面積が小さいので、吸水、吸湿、放出などの性能が充分発揮されにくいという欠点を有する。
【0006】
さらに、特許文献4[特開平6−158500号公報(鮮度保持シート)には、高吸水繊維と熱融着繊維とからなる吸水、吸湿性に優れた不織布であって、果物、野菜などの水やけ防止の鮮度保持シートが示されている。しかしながら、本発明の意図する徐放性の機能については全く触れられておらず、またSAF以外の親水性繊維についてもなんら記載がない。
【0007】
【特許文献1】特開2000−229850号公報
【特許文献2】特開2004−43442号公報
【特許文献3】特開昭61−68042号公報
【特許文献4】特開平6−158500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、保湿剤、消臭剤、清涼剤、芳香剤、消炎剤、保湿剤、皮膚栄養補給剤、防腐剤、抗菌剤、植物由来のエッセンシャルオイルなどを含む水分を吸水、吸液する機能と、それらを徐々に放出、放散する機能とを併せ持つ不織布状の除吸放出性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)合成繊維(ただし、後記親水性繊維および高吸水性繊維を除く。以下同じ)/親水性繊維=100〜20/0〜80重量%(ただし、合成繊維+親水性繊維=100重量%)からなる表面層、
(B)合成繊維/親水性繊維/高吸水性繊維=10〜90/5〜80/5〜80重量%(ただし、合成繊維+親水性繊維+高吸水性繊維=100重量%)からなる内層、および
(C)合成繊維/親水性繊維=100〜60/0〜40重量%(ただし、合成繊維+親水性繊維=100重量%)からなる裏面層からなり、
各層は層間が合成繊維の熱接着により一体化されており、かつ揮散性成分および/または移行性成分の吸収性と放出性を有することを特徴とする、除吸放出性シートに関する。
ここで、本発明の除吸放出性シートは、各層のうち少なくとも1層が不織布で構成されていることが好ましい。
また、本発明の除吸放出性シートは、上記合成繊維のうち、少なくとも50重量%以上が熱接着性繊維からなり、また上記親水性繊維のうち、少なくとも50重量%以上がセルロース系パルプおよび/またはレ−ヨンからなるものが好ましい。
このような除吸放出性シートは、好ましくは、上記熱接着性繊維の融点以上の温度を加えて熱接着処理するか、さらに熱圧カレンダー処理を加えるか、あるいは、熱接着性繊維の融点以上の温度を加えて熱接着処理した後に、(A)表面層に水分を付与し、しかるのちに熱圧カレンダー処理して得られる。
本発明の除吸放出性シートは、(A)表面層または(C)裏面層をキャリアシートとして用い、他の層をエアレイド法で形成するとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の除吸放出性シートは、以上のように構成されているので、下記のような効果を奏する。
(1)高吸水性ポリマー(SAP)からなる繊維(SAF)を適用することによって、粉体状のSAPの欠点である、吸液し膨潤したのちのゴツゴツ感、肌触りの悪さ、硬さ、風合いの悪さなどが解消される。
(2)SAFと共に親水性繊維を併用することにより、吸水性能を大きく損ねずにSAFの膨潤による厚みの増大が緩和され、商品としての実用性が改善される。
(3)親水性繊維としては、パルプ、レーヨンが好適であり、このうち、パルプを用いると、吸水速度も速く、水分保持能力も高く、一方、レーヨンを用いると、耐水強力が高いものが得られる。
(3)さらに、合成繊維を併用することにより、耐水性を改善することができる。
(4)合成繊維として、特に熱接着性繊維を使用することにより、シートの強度がアップし、実用性が高まる。
(5)SAFを含有してない表面層(または裏面層)は、高吸水層(内層)を保護、ガードし、取り扱い性をアップすることができる。この場合、合成繊維の比率が高ければ表面強度、耐摩耗性が高まり、親水性繊維の比率が高ければ吸水性能が高まる。(なお、徐放性の観点からは、表面層のパルプ比率は低いほうが好ましい。)
(6)本発明では、(A)表面層または(C)裏面層をキャリアシートとして用いれば、他の層をエアレイド法で形成することにより、本発明の複合層を効率的に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(B)内層
本発明の除吸放出性シートは、(B)内層として、(a)合成繊維/(b)親水性繊維/(c)高吸水性繊維=10〜90/5〜80/5〜80重量%(ただし、(a)+(b)+(c)=100重量%)からなる。
本発明の除吸放出性シートは、内層に(a)合成繊維、(b)親水性繊維および(c)高吸水性繊維が含有されていれば、いかなる製法のシートでもよい。すなわち、本発明の除吸放出性シートを構成する(B)内層は、エアレイド法、カード法などの乾式不織布法、湿式不織布法などの不織布製造方法で製造されたものであれば如何なるものでもよいが、好ましくはエアレイド法によるウェブ層からなるものが好ましい。
【0012】
かかる(B)内層は、例えばエアレイド法で、(a)合成繊維、(b)親水性繊維、および(c)高吸水性繊維(SAF)を含むウェブ層(内層)を形成する。すなわち、多孔質ネットコンベア上に位置する単台または多数台の噴き出し部から、上記(a)〜(c)成分を含む混合物を噴出し、ネットコンベア下面に配置した空気サクション部で吸引しながらネットコンベア上にウェブ層(内層)を形成するものである。このとき、ネットコンベア上には、キャリアシートとなる後記裏面層(あるいは表面層)をあらかじめ載置しておけば、一挙にウェブ層(内層)とキャリアシートとなる裏面層(あるいは表面層)との積層体が得られる。その後、インラインあるいはアウトラインで、表面部(あるいは裏面層)を積層し、熱風処理を加えて、エアレイド層の繊維間結合、ならびにキャリアシート(裏面層あるいは表面層)および表面層(あるいは裏面層)との熱接着を形成して不織布シートとして一体化させる。
なお、(B)内層は、(a)〜(c)成分をエアレイド法によりウェブ層を形成させるにあたり、2層以上の多層構造で形成しても良く、この場合(a)〜(c)成分の比率は全体として上記の比率とすれば良い。
この際、以上のウェブ層には、合成繊維として、熱接着性繊維を併せて混合しておくと、粉末の固定・脱落防止、層間剥離強力の向上などの効果が期待できる。
【0013】
(B)内層を構成するウェブ層に用いられる(a)合成繊維は、得られるシートの一体化、強度付与、耐水性付与などに供与する。この(a)合成繊維としては、(b)親水性繊維および(c)高吸水性繊維以外の合成繊維であり、なかでも熱接着性繊維が好ましく用いられる。熱接着性繊維としては、熱接着性複合繊維が好適である。例えば、低融点成分を鞘成分とし、高融点成分を芯成分とする芯鞘型、一方が低融点、他方が高融点成分であるサイドバイサイド型などが挙げられる。これらの複合繊維の両方の成分の組み合わせとしては、PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)/PE、PP/低融点共重合PP、PET/低融点共重合ポリエステルなどが挙げられる。ここで、上記低融点共重合ポリエステルの例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを基本骨格として、イソフタル酸、5−金属スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバチン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族多価アルコールなどとの変性共重合などが挙げられる。

【0014】
低融点成分である熱接着成分の融点は、通常、100〜160℃、好ましくは110〜155℃である。100℃未満の場合、不織布としての耐熱性が低いので、温水で濡らして使用するときに、シート強力が弱くなる可能性がある。一方、160℃を超えると、不織布製造工程における熱処理温度を高くする必要が生じ、生産性が落ち、実用的でないばかりか、ウェブ層と表裏層との加熱一体化における接着効果も期待できなくなる。
【0015】
ここで、熱接着性繊維の繊維長は、ウェブ層の製法がエアレイド法の場合、3〜10mm、好ましくは3〜6mmである。繊維長が3mm未満の場合は、強度アップなどの効果が十分で無く、一方、10mmを超えると、繊維どうしが絡まり易くなり、工程性や地合いの悪化につながりやすい。なお、ウェブの製法がカード法の場合は、繊維長は30〜100mm、好ましくは35〜80mmが好適である。
また、熱接着性繊維の繊度は、1〜10dtex、好ましくは1.5〜6.6dtexである。熱接着性繊維の繊度は、細い繊維の方が構成繊維本数が増えて、得られるシートの一体化、強度付与、耐水性付与、さらには親水性繊維や高吸水性繊維の固定効果が大きくなる。しかしながら、1dtex未満の場合は、エアレイド法でウェブを形成するにあたり、細い繊維どうしが絡まり易くなり、他の繊維との混合も難しくなって、地合いの不均一性や塊状欠点発生のリスクが大になる。一方、10dtexを超えた太い繊維の場合は、硬い風合いとなるので、人に対する優しさにかけ、また、同一混合率でも繊維本数がダウンする結果となるので、得られるシートの一体化、強度付与、耐水性付与、さらには親水性繊維や高吸水性繊維の固定効果が劣るものとなり、さらにヒートシール性付与などの効果が薄れる。
【0016】
(a)合成繊維中の熱接着性繊維の割合は、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは70〜100重量%である。50重量%未満では、(B)内層全体の形態保持性に欠け、またシート強力や層間剥離強力に欠け、実用性が悪化する。
【0017】
なお、(B)内層を構成する(a)合成繊維には、熱接着性繊維以外の他の繊維として、例えばPP繊維、PET繊維、PBT繊維、ナイロン6繊維、ナイロン6,6繊維、芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維などを混合しておいても良い。この場合、他の繊維の比率は50重量%以下に留めるのが好ましい。50重量%を超えると、不織布強力やヒートシール性に影響が出るばかりか、熱接着性のない繊維は実使用中に脱落し易くなる。
(a)合成繊維中の熱接着性繊維以外の他の繊維の繊度や繊維長も、上記熱接着性繊維と同様である。
【0018】
以上の熱接着性繊維などの(a)合成繊維は、捲縮していても、していなくてもよく、またストランドチョップであってもよい。捲縮している場合、ジグザグ型の二次元捲縮繊維およびスパイラル型やオーム型などの三次元(立体)捲縮繊維の何れも使用できる。
【0019】
なお、以上の(a)合成繊維には、ポリオレフィン系合成パルプを併用してもよい。
ここで、ポリオレフィン系合成パルプは、例えば、高温、高圧状態にあるポリオレフィン、水の沸点よりも低い沸点を有する脂肪族炭化水素および/または芳香族炭化水素から選ばれるポリマー用溶媒、および水よりなる分散液であって、減圧領域中に急速に放出したときに、実質的にすべての溶媒が蒸発し、かつ水の実質的蒸発を起こさない温度にある分散液を、ノズルを通して減圧領域中に放出して、ポリオレフィンを水中に分散した繊維状物質として回収し、この水中に分散した繊維状物質を、界面活性剤を混合した状態で叩解またはリファイニングすることによって得られる。このポリオレフィン系合成パルプの製造方法は、例えば、特公昭52−47049号公報の第1欄の特許請求の範囲、第3欄第5行〜第19欄第25行に詳述されている。
ポリオレフィン系合成パルプは、平均繊維長が0.5〜3mm、平均繊維径が1〜100μmのものが好適に使用できる。
また、このポリオレフィン系合成パルプの例としては、三井化学(株)製のSWPが挙げられる。
【0020】
これらのポリオレフィン系合成パルプは、多分岐繊維構造(フィブリル化して、多分岐、高比表面積を有する)なので、(b)親水性繊維や(c)高吸水性繊維の捕捉性に優れる特徴を有する。また、エアレイド法により上記基材シートに吹き付けると、気流中でポリオレフィン系合成パルプと(b)親水性繊維(さらには(c)高吸水性繊維)とが一体となったウェブ層が、該シート上に均一に載置されることになる。
【0021】
(B)内層を構成するウェブ層中における(a)合成繊維の割合は、(a)〜(c)成分中に、10〜90重量%、好ましくは25〜80重量%である。10重量%未満では、(b)親水性繊維や(c)高吸水性繊維の捕捉、固定、脱落防止の効果が確保できなくなり、またシート強力、層間剥離強力に欠ける。一方、90重量%を超えると、熱処理後のシートの柔軟性が失われてくるばかりか、(b)親水性繊維や(c)高吸水性繊維の周囲を多くの熱接着性繊維などの(a)合成繊維で覆う状態となり、除吸放出性や水分や液体の吸収性が保てなくなる。
【0022】
また、(B)内層に用いられる(b)親水性繊維は、JIS L1030−2 表1に規定される公定水分率が、10重量%以上、15重量%未満の繊維と定義する。この(b)親水性繊維は、実使用時に水分や揮散性成分を吸収・保持、徐放し、(c)高吸水性繊維(SAF)の機能・効果を補助する。本発明では、(c)高吸水性繊維(SAF)とともに、(b)親水性繊維を併用することにより、吸水性能を大きく損ねずにSAFの膨潤による厚みの増大も緩和され、商品としての実用性が改善される。
【0023】
(b)親水性繊維としては、セルロース系パルプや、レーヨンが挙げられる。
このうち、セルロース系パルプとしては、木材パルプ以外に、リンターパルプ、バガスなどの非木材系パルプなどを粉砕したものが挙げられる。セルロース系パルプは、吸水速度も速く、水分保持能力も高いという特徴を有する。
セルロース系パルプは、シート状のフラッフパルプをハンマーミルなどで粉砕することによってエアレイド法に好適に使用することができる。
一方、レーヨンとしては、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ケン化アセテート人絹などが挙げられ、ビスコースレーヨンが一般的である。レーヨンは、耐水強力が高い。
レーヨンは、単糸繊度が、通常、1〜10dtex、好ましくは1.2〜6.6dtex、繊維長は、エアレイド法の場合3〜10mm、好ましくは3〜6mmである。カーディング法の場合、その繊維長は、30〜100mm、好ましくは35〜80mmである。
【0024】
以上の(b)親水性繊維の(B)内層中における割合は、5〜80重量%、好ましくは10〜70重量%である。5重量%未満では、実使用時に水分を吸収・保持、徐放し、(c)高吸水性繊維(SAF)の機能・効果を補助するという効果が得られない。一方、80重量%を超えると、シート強度、ヒートシール強度が弱くなって使用に耐えられなくなり実用性に欠ける。
【0025】
さらに、(B)内層に用いられる(c)高吸水性繊維とは、生理食塩水を1,200重量%以上、6,000重量%未満吸水し、20℃、相対湿度60%下での吸湿性が15重量%以上である繊維を指称する。
繊維状の高吸水性ポリマーである(c)高吸水性繊維(SAF)を適用することによって、粉体状の高吸水性ポリマー(SAP)の欠点である、吸液し膨潤したのちのゴツゴツ感、肌触りの悪さ、硬さ、風合いの悪さなどが解消される。
【0026】
(c)高吸水性繊維としては、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸−ビニルアルコキシ共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム架橋体、デンプン−アクリル酸ナトリウムグラフト共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体またはそのケン化物などからなる繊維のほか、カルボン酸基を持つモノマーと、カルボン酸基と反応してエステル架橋結合を形成し得るヒドロキシル基および/またはアミノ基を持つモノマーと、カルボン酸アルカリ金属塩基を持つモノマーを共重合し、熱により架橋した繊維(例えば、Technical Absorbents社製のOASIS、または特開平6−207358号公報の段落「0010」〜「0017」に記載のもの)などが挙げられる。
以上の(c)高吸水性繊維は、単糸繊度が、通常、2〜20dtex、好ましくは5〜15dtexで、繊維長が、エアレイド法の場合3〜10mm、好ましくは5〜8mmである。カーディング法の場合は、その繊維長は30〜100mm、好ましくは35〜80mmである。
【0027】
以上の(c)高吸水性繊維の(B)内層中における割合は、5〜80重量%、好ましくは7〜60重量%である。5重量%未満では、本発明のシートに適用される揮散性成分や移行性成分などを含む水分を吸水、吸液する機能と、それらを徐々に放出、放散する機能とを併せ持つ、本発明の除吸放出性シートが得られない。一方、80重量%を超えると、シートの強度、特に湿潤強度が弱くなり使用に耐えられなくなり、さらにヒートシール性、層間剥離強力なども低下し、また空気中の湿気を吸収してシートが膨潤するなどの問題も生じて実用性に欠け、好ましくない。
【0028】
ここで、揮散性成分や移行性成分とは、揮散性、揮発性、蒸発性、あるいは移行性の物質で、例えば保湿剤、消臭剤、清涼剤、芳香剤、消炎剤、保湿剤、皮膚栄養補給剤、防腐剤、抗菌剤、植物由来のエッセンシャルオイルなどが挙げられる。これらの成分の通常の使用における含有量は、少な過ぎると効果が無く、多過ぎるとヒトの肌や器具類への刺激、影響が強くなり、好ましくない。
このうち、上記揮散性、揮発性、蒸発性の成分とは、例えば水分、エタノールやイソプロパノールなどの低級アルコール、芳香剤、消臭剤、清涼剤、さらにこれらの混合体などが挙げられる。
また、移行性の成分とは、揮散しにくいが、ヒト、器具、家具、などに接触すると移行する物質であり、例えば高級アルコール、グリセリンなどの保湿剤、皮膚栄養補給剤、防腐剤、抗菌剤、エッセンシャルオイルなどが挙げられる。
【0029】
上記保湿剤の例としては、アルキレングリコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなど)、グリセリン類(例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリンなど)、ポリアルキレングリコール類、糖アルコール類、メチルセルロース、尿素、アミノ酸類(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、セリン、リジンなど)、動植物由来成分(ヒアルロン酸塩類、コンドロイチン硫酸塩、コラーゲン、キチン・キトサン誘導体、アルギン酸ナトリウム、イソフラボン類含有植物抽出物、海藻抽出物)、油性成分(ヒマシ油、オリーブ油、ヒマワリ油、カカオ油、パーム油、椿油、大豆油、ナタネ油、ヤシ油、流動パラフィン、ワセリン類、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸などの天然および合成脂肪酸類、ステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール、ラウリルアルコールなどの天然および合成高級アルコール類、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸オクチルドデシル、ステアリルオレートなどのエステル類)などが挙げられる。
【0030】
また、上記消臭剤の例としては、天然物由来の成分(お茶の葉エキス、柿タンニン、桃エキス、ポリフェノール、カテキンなど)、天然、人工の酵素類、セラミックなどが挙げられる。
さらに、清涼剤の例としては、メントール、メントール誘導体、ハッカ油、カンフル、チモールなどが挙げられる。
さらに、抗菌・防腐剤の例としては、各種アルコール(エタノール、ベンジルアルコールなど)、安息香酸、安息香酸ナトリウム、有機酸(クエン酸、サリチル酸など)、第4級アンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベン、パラオキシ安息酸エチル、ヒノキチオールなどが挙げられる。
【0031】
さらに、芳香剤・フレグランスの例としては、動物性香料(ムスク、アンバーグリス、シベット、カストリウムなど)、植物性香料(ローズ油、レモン油、ラベンダー油、ユーカリ油、オレンジ油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油、ジャスミン油、カモミル油、イランイラン油、アニスシード油など)、各種合成香料(ネイチャーアイデンティカル、アーティフィシャル)などが挙げられる。
【0032】
以上のエアレイド法で形成する(B)内層(ウェブ層)は、目付が10〜200g/m、好ましくは20〜150g/mである。10g/m未満の場合、得られるシートの除吸放出性効果が乏しく、また不織布強力、ヒートシール強力が低くなり、実用に適さない。一方、200g/mを超えると、厚過ぎて板状となり、柔軟性が乏しく、好ましくない。
【0033】
本発明のウェブ層を作製するエアレイド法は、カード法などの既存の乾式不織布製造法に較べて、空気流によって容易に単繊維に解繊され易い、長さの短い繊維が使用できるので、極めて地合いの良好な、つまり均一性の良好な不織布が得られるという特徴を有するばかりか、(a)〜(b)成分、さらにはこれに加えて(c)成分を混合しつつ一挙にウェブを形成することが可能であり、さらに層状構造も容易に形成できるので、本発明に好適である。エアレイド法では均一性の良好な不織布が得られるが、一方、既存のカード法不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布では得られ難い。また、本製造法によれば、タテ/ヨコの強力比率がほぼ1/1に近いというメリットも有する。
【0034】
(A)表面層、(C)裏面層
本発明の除吸放出性シートにおいて、(A)表面層や(C)裏面層は、高吸水層である(B)内層を保護、ガードし、取り扱い性を向上させる役目を果たす。(A)表面層[および(C)裏面層]において、合成繊維の比率が高ければ表面強度、耐摩耗性が高まり、一方、親水性繊維の比率が高ければ吸水性能が高まる。徐放性の観点からは、(A)表面層では、パルプなどの(b)親水性繊維の比率は低いほうが好ましい。
ここで、(A)表面層および(C)裏面層に用いられる(a)合成繊維や(b)親水性繊維は、(B)内層に用いられる(a)合成繊維や(b)親水性繊維と同様であるので、その説明は省略する。
また、(A)表面層や(C)裏面層は、(B)内層と同様に、エアレイド法、カード法などの乾式不織布法、湿式不織布法、スパンボンド法、メルトブロー法などの不織布製造方法で製造されたものであれば如何なるものでもよいが、好ましくはエアレイド法によるウェブ層からなるものが好ましい。
【0035】
(A)表面層は、(a)合成繊維が20〜100重量%、好ましくは40〜100重量%、(b)親水性繊維が80〜0重量%、好ましくは60〜0重量%[ただし、(a)+(b)=100重量%]である。(a)合成繊維が20重量%未満[(b)親水性繊維が80重量%を超える]では、表面耐摩耗性、シート強度、製袋時のヒートシール強度、湿潤強度、層間剥離強度などに欠けるものとなる。
【0036】
以上の好ましくはエアレイド法で形成する(A)表面層(ウェブ層)は、目付が10〜100g/m、好ましくは12〜70g/mである。10g/m未満の場合、表面耐摩耗性、シート強度、ヒートシール強度、徐放湿性に欠けるものとなり、好ましくない。一方、100g/mを超えると、厚過ぎて板状となり、柔軟性に乏しく、好ましくない。
【0037】
一方、(C)裏面層は、(a)合成繊維が60〜100重量%、好ましくは70〜100重量%、(b)親水性繊維が40〜0重量%、好ましくは30〜0重量%[ただし、(a)+(b)=100重量%]である。(a)合成繊維が40重量%未満[(b)親水性繊維が60重量%を超える]では、シート強度、ヒートシール強度が低下し、実用性に欠ける。
【0038】
以上の好ましくはエアレイド法で形成する(C)裏面層(ウェブ層)は、目付が10〜100g/m、好ましくは12〜70g/mである。10g/m未満の場合、シート強度、ヒートシール強度が低下し、一方、100g/mを超えると、厚過ぎて板状となり、柔軟性に乏しく、好ましくない。
【0039】
通気性シート
本発明の除吸放出性シートは、取り扱い性の向上や、強度補強の役割で、表裏面層として、あるいは、表裏面の層に加えて別の通気性シートを積層・一体化しても良い。エアレイド法の場合はキャリアシートとして一挙に複合化ができるので好適である。
通気性シートとしては、熱接着性で、かつ耐水性のある材料で構成されているシートが好ましく、エアレイド法のキャリアシートとして積層一体化するには通気性は大きい方が好ましい。
通気性シートとしては、除吸放出性シートの表裏に、好ましくは、目付けが10〜50g/mの、スパンレース不織布、サーマルボンド不織布、エアスルー不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、エアレイド不織布、湿式不織布、織編物、ガーゼ、および寒冷紗の群から選ばれた少なくとも1種の通気性シートが用いられる。
特に、スパンレース不織布は、繊維間交絡でシート状になっているので、繊維状/樹脂状のバインダーが少なくて済む(ゼロでも良い)ため、柔らかいという特徴を有する。
通気性シートの素材としては、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維などの合成繊維は、耐水性が良く、強い。
上記通気性シートは、内層との一体化のために熱接着法を使う場合は、バインダー繊維として、内層に用いられる熱接着性繊維を50重量%以下程度混合して用いてもよい。
【0040】
除吸放出性シートの製造方法
本発明の除吸放出性シートをエアレイド法で作るにあたり、まず、通気性シートをキャリアシートとしてネットコンベア上に置いておき(通気性シートを用いる場合)、この上に上記裏面層となるウェブ層を堆積させ、引き続き、内層となるウェブ層を堆積させていくことで、容易に複合シート化することができる。
例えば、通気性シートをネットコンベア上に載置し、裏面層となるウェブ層を形成させ、引き続き内層となるウェブ層を形成させ、さらに、インラインあるいはアウトラインで、表面層となるエアレイド不織布を積層する。
なお、上記通気性シートは、熱接着性で、かつ耐水性のある材料で構成されているシートが好ましく、かつ通気性は大きい方が好ましい。エアレイド法は、通気性材料の上部から繊維と空気の混合体を噴出させ、下部からサクションで空気を引きつつ、通気性材料上に繊維層を形成する方法なので、基材となる基材シートの通気度は重要な要件となる。JIS L1096・A法(ガーレ法)による通気度は、好ましくは0.5〜2秒/300ccである。
通気性シートの目付けは、通常、10〜50g/m、好ましくは12〜40g/mである。10g/m未満では、ウェブ層の形成が難しく、かつ取扱い性の向上や強度補強の役割が希薄になる。一方、50g/mを超えると、全体として板状となり、好ましくない。
なお、通気性シートを構成する繊維の繊度は、通常、0.1〜8dtex、好ましくは0.5〜6.6dtexである。
通気性シートを本発明のシートの裏面層および/または表面層に積層することにより、取り扱い性が向上し、また、得られるシートの強度を補強することができる。
【0041】
なお、表裏層に用いられるシートとして、エアレイド不織布を採用する場合には、多孔質ネットコンベア上に位置する単台または多数台の噴き出し部から、内層に用いられるのと同様の熱接着性繊維を含む(a)合成繊維および(b)親水性繊維を噴出し、ネットコンベア下面に配置した空気サクション部で吸引しながらネットコンベア上に表面層となるウェブ層を形成し、この上に、さらに上記内層となるウェブ層を形成し、さらに、引き続いて、熱接着性繊維を含む(a)合成繊維および(b)親水性繊維を用いて表面層となるウェブ層を形成させればよい。
【0042】
なお、上記(a)合成繊維には、各種の添加物を含有、または表面処理していても良い。例えば、芳香剤、着色剤、抗菌剤、消臭剤、防黴剤、親水化剤などが挙げられる。
これらの添加物、表面処理剤は、表面層、内層、裏面層の各ウェブ層に含有、または処理されていても良い。
【0043】
表面層/内層、裏面層/内層の一体化
これらの各層との一体化は、各層を別個に作製してから一体化しても良いし、一挙に多層構造を形成しても良い。この場合は、エアレイド法が好適である。
一体化の手段としては、(1)熱接着、(2)バインダー処理、(3)交絡などが挙げられる。
(1)熱接着:各層にバインダー繊維を含有させておくのが良い。バインダー繊維としては、(a)合成繊維を構成する熱接着性繊維が挙げられる。
(2)バインダー処理:被接着面にホットメルト樹脂の溶融スプレー、ホットメルト粉体樹脂の散布/加熱溶融、液状ケミカルバインダーのコートもしくはスプレー後、加熱処理などが挙げられる。
(3)交絡:表面層/内層/裏面層を一体積層し、ニードルパンチによる交絡処理する。
これらの一体化処理のうち、少なくとも内層がエアレイド法で作製される場合、例えば、裏面層をキャリアシートとして用い、内層をエアレイド法で形成したあとに表面層を重ねて一体化し、加熱接着などにより一体化することが最も好ましい手段である。この(1)熱処理の詳細は、次のとおりである。
【0044】
熱処理
本発明の除吸放出性シートは、以上のようにして得られる表面層/内層/裏面層からなるシート積層体を熱処理することが好ましい。熱処理としては、熱風処理、および熱風処理後の低圧による熱圧処理が挙げられる。
このうち、繊維間結合を形成するための熱風処理としては、熱接着性繊維として熱接着性複合繊維を用いる場合、該複合繊維の低融点成分の融点以上の温度が必要である。しかしながら、低融点成分の融点よりも30℃以上高い場合、あるいは高融点成分(芯鞘型複合繊維の芯成分、あるいはサイドバイサイド型複合繊維の高融点成分)の融点以上の場合は、繊維の熱収縮が大きくなり易く、地合いの悪化を招いたり、はなはだしい場合は繊維の劣化を生じるので好ましくない。
熱風処理温度は、通常、110〜190℃、好ましくは120〜175℃である。
【0045】
乾熱カレンダー処理
また、熱風処理したのち低圧下での熱圧処理、具体的には熱圧カレンダー処理を加えても良い。カレンダー処理に用いるローラーとしては、全体に均一な熱圧を加えるため、平滑表面の一対の金属ローラー、または金属ローラーと弾性ローラーの組み合わせを用いることが好ましいが、多段ローラーであっても良い。また、本発明の趣旨を損なわない範囲であれば、凸凹表面のエンボスローラーであっても良い。
【0046】
カレンダー処理の場合、単に厚さ調整のためであれば常温(非加熱)〜高温度の任意の温度で加圧すれば良い。圧力は希望する厚さになるよう適宜選択することができる。熱圧カレンダーにより繊維間の熱結合を補強し、強度、表面耐摩耗性、層間剥離防止などを向上するためであれば、ローラー表面の温度は、熱接着性複合繊維の低融点成分の融点以上の温度が必要である。しかしながら、低融点成分の融点よりも30℃以上高い場合、あるいは高融点成分(芯鞘型複合繊維の芯成分、あるいはサイドバイサイド型複合繊維の高融点成分)の融点以上の場合は、繊維の熱収縮が大きくなり易いばかりか、ローラー表面への粘着が発生し、工程性に欠ける。融点未満の場合は、当然のことながら繊維間結合の補強が充分でなくなる。
繊維間結合を補強する場合の熱処理温度は、通常、110〜190℃、好ましくは120〜175℃である。
【0047】
また、カレンダー処理の線圧は、幅方向で均一な接圧になるよう設定すれば、任意の圧力を選択することができる。高圧の場合は密度・不織布強力・層間強力がアップし、厚さがダウンする。低圧の場合は勿論これに反する影響が出る。不織布強力を重視するのであれば極力高圧のほうが好ましい。柔軟性を重視するのであれば低圧の方が好ましい。カレンダー処理の線圧は、通常、10〜500N/cmの範囲で任意に選択できる。また、一対のローラー間に任意の隙間を設けても良い。表面層に接するローラーの温度が高い場合、または、ローラー間の圧力が高圧の場合は、表面状態が平滑化し、剛直化し過ぎてしまうので好ましくない。
【0048】
水付与カレンダー処理
一方、繊維層に極く少量の水を付与してから、カレンダー装置によって熱圧を加え、セルロース繊維間の水酸基に水素間結合を生じさせて、本発明の除吸放出性シートを得ることができる。カレンダー処理する前の繊維層に少量の水を噴霧しておいてから熱オーブンを通過させ、あらかじめ若干のセルロース間に水素間結合を生じさせておいても良い。
【0049】
水の付与量は、繊維層に対し、5〜50重量%であり、好ましくは6〜40重量%、さらに好ましくは7〜30重量%である。また、この際の水としては蒸気であってもよく、蒸気を使用することにより熱効率が上がる。水の付与量が5重量%未満では、セルロース繊維間の水素結合が少なく、シート強度アップの効果が小さい。一方、水の付与量が50重量%を超えると、熱圧カレンダーを多段にして十分に水分を蒸発させる必要が生じるが、未蒸発水分が残るリスクがあるうえ、セルロース繊維間の水素結合が強固となり過ぎてペーパーライクになり、柔軟性に欠ける。
また、水に、CMC(カルボキシルメチルセルロース)や部分ケン化ポバールなどの水溶性バインダーを10重量%以下の少量混合しておいても良い。
水の付与方法としては噴霧、コーティング、含浸などの方法が挙げられるが、パルプ層の地合いに影響しにくい方法としては、片面もしくは両面からの噴霧法が好ましい。
【0050】
カレンダー処理に用いるローラーとしては、全体に均一な熱圧を加えるため、平滑表面の一対の金属ローラーを用いることが好ましいが、多段ローラーであっても良い。また、本発明の趣旨を損なわない範囲であれば、凸凹表面のエンボスローラーであっても良い。カレンダー処理においては、1対の加熱ローラーの隙間を調整し所望の厚さのシートに加工する方法が好ましい。この場合、隙間は小さいほど圧力が高まり、強度付与のためには好ましいが、高目付け品の処理には、隙間を設けるのが良い。隙間は、0〜3mm、さらに好ましくは0〜2mmである。
【0051】
カレンダー処理により熱接着する際の温度は、用いる熱接着性合成繊維の種類や、全体の目付により適宜選択されるが、100〜200℃であり、好ましくは110〜190℃で、さらに好ましくは120〜180℃である。熱圧処理温度が100℃未満では、水の沸点以下であるため、セルロース繊維どうしの水素間結合を生じにくく、シート強度が出ない。一方、200℃を超えると、セルロース繊維が劣化し始めるので、逆にシート強度が弱くなり好ましくない。
【0052】
カレンダー処理の線圧は、所望の風合いに応じて10〜500N/cmの範囲で任意に選択することができる。10N/cm未満では、セルロース繊維間の水素結合が不十分で、一方、500N/cmを超えると、不織布の密度が高くなりすぎて硬い風合いのものとなってしまう。
【0053】
なお、得られる本発明の除吸放出性シートの厚さは、通常、0.3〜6mm、好ましくは0.5〜5mmであるが、用途に応じて設定することができる。
また、本発明の除吸放出性シートの総目付けは、30〜500g/m、好ましくは35〜300g/mである。
【0054】
得られる本発明の除吸放出性シートは、使用に先立ち、保湿剤、消臭剤、清涼剤、芳香剤、消炎剤、保湿剤、皮膚栄養補給剤、防腐剤、抗菌剤、植物由来のエッセンシャルオイルなどを、該シート重量に対し、1〜500重量%、好ましくは5〜200重量%程度、付与して用いる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1
まず、あらかじめ、表面層として、PET/PE複合繊維[PET(ポリエチレンテレフタレート)/PE(ポリエチレン)系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、2.2dt×51mm)90重量%とレーヨン繊維(オーミケンシ(株)製、3.3dt×51mm)10重量%となるように混合してカード法でウェブを作製し、エアスルー式で135℃で60秒、熱風加熱して、カード・エアスルー方式の目付け15g/mの不織布を作製した。
一方、裏面層として、PET/PE複合繊維[PET/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、2.2dt×5mm)]のみ(100重量%)を10g/mとなるようエアレイド法でネット上に形成した。
次いで、この上に内層として、PET/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、4.4dt×5mm)を20重量%、木材パルプ(Weyerhaeuser社、NF405の粉砕品)を60重量%、SAFとして、Technical Absorbents社製の「OASIS Type101、10dt×6mm」を20重量%になるよう混合し、合計35g/mのウェブ層をエアレイド法で上記裏面層シートの上に形成した。
さらに、内層の上に、あらかじめ作製された上記表面層を載置し、エアスルー方式で135℃で90秒、熱風加熱して、3層を一体化させた。
得られたシートは、総目付けが60g/m、厚さが1.2mmであった。
結果を表1に示す。
なお、このシートを、水分で濡らして軽く絞ってから、上記表面層が顔面サイドに来るようマスクの内側に入れ、さらに顔面サイドにガーゼを置いて使用した。装着後4時間経過しても保湿性を保ち、適度な湿気があって呼吸が楽であった。
一方、SAFを全てパルプで置き換えたものは、約1.5時間で乾いてしまい、濡れマスクとしては実用的でなかった。
【0057】
実施例2
エアレイド法におけるキャリアシート(通気性シート)として、PP−SMMS(ポリプロピレン製のスパンボンド/メルトブロー/メルトブロー/スパンボンドの複合不織布)(旭化成(株)製、PMA015、目付け15g/m)を用いた。
このキャリアシートの上に、裏面層として、PET/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、2.2dt×5mm)を80重量%、木材パルプ(Weyerhaeuser社製、NF405の粉砕品)を20重量%となるよう混合し、合計12g/mのウェブ層をエアレイド法で上記キャリアシートの上に形成した。
さらに、この上に、内層として、PET/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、4.4dt×5mm)を30重量%、木材パルプ(Weyerhaeuser社製、NF405の粉砕品)を50重量%、SAFとして、Technical Absorbents社製の「OASIS Type101、10dt×6mm」を20重量%となるよう混合し、合計25g/mのウェブ層をエアレイド法で上記裏面層シートの上に形成した。
さらに、この内層の上に、表面層として、PET/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、2.2dt×5mm)を80重量%、木材パルプ(Weyerhaeuser社製、NF405の粉砕品)を20重量%となるよう混合し、合計10g/mのウェブ層をエアレイド法で上記内層シートの上に形成し、引き続き、熱風炉で135℃で90秒、加熱一体化してから、さらに80℃×線圧100N/cmのドット状エンボスローラー(金属/金属)で、引張強度向上と表面耐摩耗性向上のためにエンボス処理した。
得られたシートは、総目付けが62g/m、厚さが0.7mmであった。
結果を表1に示す。
なお、このシートに、お茶の葉エキスの消臭剤(白井松新薬(株)製、FS−500M)を5重量%含有する蒸留水を、シート重量の2倍量含浸し、家具用ワイパーとして使用した。湿度55%の室内に放置30分後でも消臭性ウエットワイパーとして有効であった。
一方、SAFなしのものは、約15分で風乾してしまった。
【0058】
実施例3
まず、あらかじめ、表面層として、PET/PE複合繊維[PET(ポリエチレンテレフタレート)/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、4.4dt×51mm)]50重量%とレーヨン繊維(オーミケンシ(株)製、3.3dt×51mm)50重量%となるように混合してカード法でウェブを作製し、次いで140℃、線圧100N/cmの金属/コットンの一対の熱圧カレンダーで熱圧処理して、カード・サーマルボンド方式(熱圧カレンダー)の目付け15g/mの不織布を作製した。
一方、通気性シートとして、厚さ20μmの穴あきポリエチレンフィルム(三菱化学(株)製、目付け15g/m)を用意した。
ここで、裏面層として、PET/PE複合繊維[PET/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、4.4dt×5mm)]のみ(100重量%)を15g/mとなるようエアレイド法でネット上にウェブを形成した。
次いで、この上に内層として、PP(ポリプロピレン)/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(チッソ(株)製、11dt×5mm)を45重量%、木材パルプ(Weyerhaeuser社製、NF405の粉砕品)を25重量%、SAFとして、Technical Absorbents社製の「OASIS Type101、10dt×6mm」を30重量%なるよう混合し、合計35g/mのウェブ層をエアレイド法で上記裏面層シートの上に形成した。
さらに、内層の上に、あらかじめ作製された上記表面層を載置し、エアスルー方式で135℃で90秒、熱風加熱して、3層を一体化させた。
さらに、一体化された裏面層の表面に、オレフィン系ホットメルト接着剤[(株)松村石油研究所製、モレスコメルトTN715]を2g/mとなるようにスプレーして、上記穴あきポリエチレンフィルムからなる通気性シートを積層・一体化した。
このようにして得られたシートは、総目付けが80g/m、厚さが1.9mmであった。
結果を表1に示す。
なお、このシートを、食肉のドリップ吸収体として使用した。すなわち、PPトレイ上にこの吸収体を載置し、その上に250gに豚モモ肉の塊を載せ、全体をラップで密封し、ドリップ液を吸収させた。24時間経過後でも内部は適度な湿気が維持されて肉は新鮮なままであった。
一方、SAFなしのものを使用したら、肉の変色が生じていた。
【0059】
実施例4
まず、あらかじめ、裏面層として、PET/PE複合繊維[PET/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、2.2dt×51mm)90重量%とレーヨン繊維(オーミケンシ(株)製、3.3dt×51mm)10重量%となるように混合してカード法でウェブを作製し、エアスルー式で135℃で60秒、熱風加熱して、カード・エアスルー方式の目付け25g/mの不織布を作製した。
あらかじめ作製しておいた上記裏面層をキャリアシートとして用い、このキャリアシートの上に、内層として、PET/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、4.4dt×5mm)を60重量%、木材パルプ(Weyerhaeuser社製、NF405の粉砕品)を30重量%、SAFとして、Technical Absorbents社製の「OASIS Type101、10dt×6mm」を10重量%となるよう混合し、合計40g/mのウェブ層をエアレイド法で上記裏面層シートの上に形成した。
さらに、この内層の上に、表面層として、PET/PE系熱接着性芯鞘型複合繊維(帝人ファイバー(株)製、2.2dt×5mm)のみ(100重量%)、25g/mのウェブ層をエアレイド法で上記内層シートの上に形成し、引き続き、熱風炉で135℃で90秒、加熱一体化してから、さらに120℃×線圧500N/cmのフラットローラー(金属/金属)でフラットカレンダー処理した。
得られたシートは、総目付けが90g/m、厚さが0.7mmであった。
結果を表1に示す。
なお、このシートを用いて、柿抽出物系消臭剤(リリース科学工業(株)製、パンシルFG−60)に芳香剤(パリ・フグランス社、「パリ・ヒルトン」)を微量加えて、シートにスプレーして5g/m付与した。人数4人が毎日使用する靴箱の内部壁面にこのシート(20cm)を貼り付けたところ、悪臭がなく、かつ芳香もほぼ3週間維持された。その後、さらに上記スプレー液を付与したら、さらに3週間性能が維持された。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の除吸放出性シートは、食品用ドリップシート、ウエットワイパー、衛材吸収体、保湿シート、フェイスマスク、濡れマスク、化粧用シートなどのほか、さらに生活環境、例えば住居、家具、道具、家庭内機器、携帯機器、自動車などに置いて消臭、芳香、加湿、保湿、抗菌などの作用を付与する各種の器具類に適用するシートに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)合成繊維(ただし、後記親水性繊維および高吸水性繊維を除く。以下同じ)/親水性繊維=100〜20/0〜80重量%(ただし、合成繊維+親水性繊維=100重量%)からなる表面層、
(B)合成繊維/親水性繊維/高吸水性繊維=10〜90/5〜80/5〜80重量%(ただし、合成繊維+親水性繊維+高吸水性繊維=100重量%)からなる内層、および
(C)合成繊維/親水性繊維=100〜60/0〜40重量%(ただし、合成繊維+親水性繊維=100重量%)からなる裏面層からなり、
各層は層間が合成繊維の熱接着により一体化されており、かつ揮散性成分および/または移行性成分の吸収性と放出性を有することを特徴とする、除吸放出性シート。
【請求項2】
各層のうち少なくとも1層が不織布で構成されている、請求項1記載の除吸放出性シート。
【請求項3】
合成繊維のうち、少なくとも50重量%以上が熱接着性繊維からなり、親水性繊維のうち、少なくとも50重量%以上がセルロース系パルプおよび/またはレ−ヨンからなる、請求項1または2記載の除吸放出性シート。
【請求項4】
上記熱接着性繊維の融点以上の温度を加えて熱接着処理するか、さらに熱圧カレンダー処理を加えるか、あるいは、熱接着性繊維の融点以上の温度を加えて熱接着処理した後に、(A)表面層に水分を付与し、しかるのちに熱圧カレンダー処理して得られる、請求項3記載の除吸放出性シート。
【請求項5】
(A)表面層または(C)裏面層をキャリアシートとして用い、他の層をエアレイド法で形成することを特徴とする、請求項1〜4いずれかに記載の除吸放出性シートの製造方法。

【公開番号】特開2008−155566(P2008−155566A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349342(P2006−349342)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(591196315)金星製紙株式会社 (36)
【Fターム(参考)】