説明

難揮散成分の揮散方法

【課題】 難揮散成分を簡便かつ効率良く液体中から揮散させる手段の提供。
【解決手段】 下記成分(A)及び(B):(A)フッ素含有エーテル油(例えば、2−(パ−フルオロヘキシル)エチル1,3−ジメチルブチルエ−テル、SP値は、13)を含む溶解剤、(B)難揮散成分(例えば、セドロ−ル、SP値は、20)を含有し、(フッ素含有エーテル油の溶解パラメータ)−(成分(B)の溶解パラメータ)の値が−8〜0(例えば、△SP値は、−7)である液体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難揮散成分の揮散を促進する方法及び難揮散成分の揮散が促進された液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
香気成分は、リラックス効果、鎮静効果、睡眠改善効果、自律神経調整効果などを有することから、芳香剤、化粧料、入浴剤等に広く配合されている。また、アロマテラピーにも広く使用されている。
【0003】
しかし、優れた生理作用を有するにもかかわらず、沸点が高く、揮散性の低い香気成分は、その効果を十分に発揮されない場合がある。このような香気成分を揮散させるには、加熱装置、スチーム発生装置などの特殊な装置が必要であった(特許文献1)。
【0004】
一方、一般に香気成分を溶剤に溶解させるとその揮散は抑制されることが知られている。そして、特許文献2には、香料を溶解パラメータが近い溶剤に溶解させると揮散が抑制でき、香料を溶解パラメータが大きく離れた溶剤に溶解させると揮散が促進されることが記載されている。
【特許文献1】国際公開WO 01/058435号
【特許文献2】特開2002−238986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献2に従って香気成分の揮散を促進させるためには、溶解パラメータの離れた溶剤を使用する必要があるが、香気成分の溶解性は溶解度パラメータが離れるに従って低下するため、安定な液体組成物が得られないという問題があった。
従って、本発明の目的は、難揮散成分が安定に溶解された状態であっても、揮散を促進する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、難揮散成分の溶解性と揮散促進作用とを両立すべく種々検討したところ、難揮散成分を、これと溶解パラメータの近似するフッ素含有エーテル油に混合させたところ、相互によく溶解し、かつ難揮散成分の揮散性が飛躍的に促進することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記成分(A)及び(B):
(A)フッ素含有エーテル油を含む溶解剤、
(B)難揮散成分
を含有し、(フッ素含有エーテル油の溶解パラメータ)−(成分(B)の溶解パラメータ)の値が−8〜0である液体組成物を提供するものである。
また、本発明は、難揮散成分と、当該難揮散成分の溶解パラメータよりも0〜8小さい溶解パラメータを有するフッ素含有エーテル油を含む溶解剤とを混合させることを特徴とする難揮散成分の揮散方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、揮散することにより種々の作用を発揮する難揮散成分を安定に溶解し、かつその揮散を飛躍的に促進させることができる。従って、本発明の液体組成物は、化粧料、入浴剤、芳香剤、香料等に応用することにより、従来揮散が十分でなかった難揮散成分を揮散させることができ、種々の生理効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられる成分(A)の溶解剤は、フッ素含有エーテル油を含むものである。フッ素含有エーテル油以外の溶剤、例えばスクワラン等の炭化水素油、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル油、パーフルオロオクタン酸エチル等のフッ素含有エステル油や2−パーフルオロヘキシルエタノール等のフッ素含有アルコール油では、例え前記溶解パラメータの差が−8〜0の範囲内であっても、難揮散成分の揮散促進効果は得られない。フッ素含有エーテル油としては、1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基とエーテル酸素を分子内に少なくとも一つ以上有するエーテル化合物が挙げられ、ヒドロフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基を有するエーテル又はポリエーテル化合物が好ましい。
当該パーフルオロアルキル基を有するポリエーテル化合物としては、例えば特開平10−291914号公報記載の次の一般式(1)で表されるものが好ましい。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1、R3、R4及びR5は同一でも異なっても良く、それぞれフッ素原子、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基又は炭素数1〜12のパーフルオロアルキルオキシ基を示し、R2はフッ素原子又は炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基を示し、p、q及びrは分子量が300〜100,000となる0以上の整数を示す。但し、p=q=r=0となることはない。)
【0012】
なお、ここで( )内に示される各パーフルオロアルキルオキシ基はこの順で並んでいる必要はなく、またランダム重合でもブロック重合でもかまわない。R1〜R5で示されるパーフルオロアルキル基及びパーフルオロアルキルオキシ基の炭素数は1〜6が好ましい。かかるパーフルオロポリエーテルとしては、例えば次の一般式(2)で示されるものが好ましい。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、m及びnは分子量が500〜10,000となる整数を示し、n/mは0.2〜2である)
より具体的には、例えばFOMBLIN HC−04(平均分子量1,500:アウジモント社製品名)、FOMBLIN HC−25(平均分子量3,200:アウジモント社製品名)、及びFOMBLIN HC−R(平均分子量6,250:アウジモント社製品名)が挙げられる。
また、次の一般式(3)で示されるものも好ましい。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、sは4〜500の数を示す。)
【0017】
ヒドロフルオロアルキル基を有するエーテルとしては、例えば特開平11−71222号記載の次の一般式(4)
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、kは1〜12の整数、hは0〜25の整数、iは0〜11の整数を示し、かつ、h+i=2k+1であり、xは1〜12の整数、yは0〜25の整数、zは0〜11の整数であり、かつ、y+z=2x+1である(ただし、hとyが同時に0であることはなく、iとzが同時に0であることもない)。)で表されるヒドロフルオロアルキルエーテルが挙げられる。
【0020】
パーフルオロアルキル基を有するエーテルとしては、例えば特開平10−175900号記載の次の一般式(5)
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、Rfは直鎖又は分岐の炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を示し、R6は直鎖又は分岐の炭素数3〜9のアルキル基または炭素数3〜9のシクロアルキル基を示す。lは1〜8の整数を示す。)
で表されるパーフルオロアルキルエーテルが挙げられる。
【0023】
成分(A)の溶解剤中のフッ素含有エーテル油以外の成分としては、成分(B)の難揮散成分の溶解性を妨げない溶解剤であり、化粧料、入浴剤、芳香剤、香料に通常使用される油性成分剤であれば特に制限されず使用できる。このような油性成分としてはエステル油類、フッ素含有エーテル以外のエーテル油類、炭素数12以上の高級アルコール油類、グリセリン脂肪酸エステル類、油脂類、ロウ類、炭化水素類、高級脂肪酸類、シリコーン油類、セラミド等の固体脂類からなる油性成分群(ただし、(B)の難揮散成分を除く)より選ばれる1種又は2種以上が挙げられるが、揮散促進作用の点から特にシリコーン油類が含有することが好ましい。さらにそれらを相溶させたり乳化させる場合には界面活性剤を使用することもできるが、これらは揮散促進の点から組成物全体の50質量%以下であることが好ましい。界面活性剤の例としてはアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤、界面活性高分子、天然界面活性物質等が挙げられる。
【0024】
また、成分(A)の溶解剤中のフッ素含有エーテル油の含有量も特に限定されないが、30〜100質量%が好ましく、より好ましくは40〜100質量%、さらに好ましくは50〜100質量%、特に好ましくは60〜100質量%であり、共存する溶解剤の種類によってはフッ素含有エーテル油の含有量が80〜100質量%必要となる場合もある。
【0025】
本発明における成分(B)の難揮散成分は、1気圧条件下で沸点250℃以上の成分であり、揮散することによりヒトに香気及び/又は何らかの生理作用を発揮するものを意味するが、特に香料成分であることがより好ましい。難揮散成分としては、沸点250℃以上のセスキテルペンアルコール類が好ましく、具体的には、セドロール(沸点295℃)、セドレノール(沸点270℃)、ファルネソール(沸点263℃)、パチョリアルコール、オイゲノール(沸点254〜255℃)、α−サンタロール(沸点302℃)、β−サンタロール(沸点309℃)、α−ビサボロール(沸点265℃)、β−カリオフィレンアルコール(沸点287〜297℃)、ベチベロール(沸点264℃)、スクラレオール(沸点340℃以上)、ゲラニルリナロール(沸点340℃)、イソフィトール(沸点310℃以上)、ネロリドール(沸点276℃)や、グロブロール、グアイオール(288℃)等を挙げることができる。中でも、特に入手も容易なセドロールが好ましい。
【0026】
本発明においては、(フッ素含有エーテル油の溶解パラメータ)−(成分(B)の溶解パラメータ)の値が−8〜0であることが、安定した溶解性と成分(B)の揮散性の両立を図る上で重要である。この値が0を超えても−8より小さくても安定な溶解物が得られない。より好ましいこの値は、−8〜−1であり、さらに好ましくは−7〜−1である。
なお、本発明における溶解パラメータδ値(solubility parameter)[単位:J1/2cm-3/2] は下記式により算出される予測値を意味する。
δ=(ΔEV/Vm1/2
ΔEV[単位:kJmol-1]:液体の1モルあたりの蒸発エネルギー
m[単位:cm3mol-1]:モル体積
ΔEV=2.54×10−4Tb2
b[単位:K]:実測の沸点
また、沸点が測定されていない化合物については、次に示す式により測定圧力p[mmHg]での沸点T[K]からTbを換算することができる。
b={Tα+(760α−pα)/A}1/α
A=14.1、
α=0.105
さらに、昇華性あるいは熱分解性の化合物など沸点が本質的に観測されないものでは、Hoyによる原子団寄与法(Allan F. M. Barton, CRC Handbook of Solubility Parameters and Other Cohesion Parameters 2nd ed., CRC Press (1991),p.165-167) で推算することができる。
【0027】
本発明の液体組成物中の成分(B)の含有量は特に制限されないが、溶解性及び揮散性の点から0.1〜35質量%、さらに0.1〜25質量%、特に0.1〜15質量%が好ましい。
【0028】
また、本発明液体組成物におけるフッ素含有エーテル油と成分(B)との含有質量比は、1000:1〜1:2、さらに100:1〜1:1、特に20:1〜2:1が好ましい。
【0029】
本発明の液体組成物には、成分(A)及び成分(B)以外に、通常化粧料、入浴剤、芳香剤、香料として用いられている公知の成分、例えば保湿剤、粉体類(シリコーン系、有機系、無機系粉体等)、紫外線吸収剤、アルコール類(成分(A)として記載した以外の一級アルコール類)、多価アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、着色剤、薬効成分、生薬類、無機塩類、無機酸及びその塩類、有機酸及びその塩類、ビタミン類等を配合することができる。
【0030】
本発明の液体組成物においては、(B)難揮散成分と、当該難揮散成分の溶解パラメータよりも0〜8小さい溶解パラメータを有するフッ素含有エーテル油とを接触させることにより、難揮散成分の揮散が飛躍的に促進されている。
本発明の液体組成物は、通常の方法によって製造でき、可溶化系、乳化系、粉末分散可溶化系、粉末分散乳化系、粉末分散油、エタノール溶液等の任意の剤型に調製することにより、生理効果を有する香気成分、揮散し難い香気成分等を効率的に揮散させることができるため、化粧水、乳液、クリーム、美容液、化粧油等のスキンケア化粧料やメイクアップ化粧料等の皮膚化粧料、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアトリートメント、セットローション、ヘアクリーム等の毛髪化粧料、浴用剤、芳香剤、香料等に応用することができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1〜8、比較例1〜14:香料組成物)
表1に示す難揮散成分1gを溶解剤99gに均一に溶解し、香料組成物を調製した。調製した香料組成物を図1記載の揮散量測定装置に1g入れ、下記の揮散量測定方法に従い、難揮散成分の揮散量を測定した。
【0032】
[揮散量の測定方法]
調製した組成物(図1の1)をガス洗浄ビン(図1の2)(100mL)の中に所定の量入れ、温水浴(図1の3)により30℃に加温し、テフロン(登録商標)チューブ(図1の4)により連結した定量ポンプ(図1の5)から流速0.5mL/分で60分間通気し、難揮散成分を揮散させた。揮散した難揮散成分を0℃に冷却した水を入れたインピンジャー(図1の6)に導き、捕集した。このものから揮散させた難揮散成分をヘキサンにより抽出し、得られたヘキサン溶液をガスクロマトグラフ分析することで揮散した難揮散成分を定量した(内部標準:n−オクタデカン)。
【0033】
(実施例9、10、比較例15:化粧料)
表2記載の成分(5)、(6)、及び(10)を30℃で均一混合した。これに、成分(1)〜(4)を80℃で溶解したものを攪拌しながら投入し、さらに成分(7)〜(9)を均一溶解したものを攪拌しながら投入し、最後にホモミキサー(4000rpm、2分間)をかけて化粧料を調製した。調製した化粧料を定量ろ紙(直径40mm)に250mg塗布し、これを図1記載の揮散量測定装置に入れ、前記の方法に従い難揮散成分の揮散量を測定した。
【0034】
(実施例11、比較例16:浴用剤)
表3記載の組成の液体浴用剤組成物を常法に従い製造した。図1記載の揮散量測定装置に液体浴用剤組成物を1g入れ、前記の方法に従い難揮散成分の揮散量を測定した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
実施例1〜8の香料組成物は、溶解剤としてフッ素含有エーテル油を使用したため、(フッ素含有油の溶解パラメータ値)−(難揮散成分の溶解パラメータ値)が−8〜0の範囲にある難揮散成分を高揮散させることが明らかとなった。一方、比較例1〜14で使用した溶解剤ではこれらの難揮散成分の揮散量は低いことがわかった。さらに、比較例15では、(フッ素含有エーテル油の溶解パラメータ値)−(難揮散成分の溶解パラメータ値)が−8〜0の範囲外の難揮散成分を使用したため、難揮散成分を溶解させることはできなかった。
【0039】
実施例9、10及び11では、化粧料中の溶解剤の一成分としてフッ素含有エーテル油を配合したため、(フッ素含有エーテル油の溶解パラメータ値)−(難揮散成分の溶解パラメータ値)が−8〜0の範囲にある難揮散成分であるセドロールを高揮散させることが明らかとなった。一方、比較例15及び16で使用した溶解剤ではフッ素含有エーテル油を用いなかったため、難揮散成分の揮散量は低いことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】揮散量測定装置の概略図を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1:組成物
2:ガス洗浄ビン
3:温水浴
4:チューブ
5:定量ポンプ
6:インピンジャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び(B):
(A)フッ素含有エーテル油を含む溶解剤、
(B)難揮散成分
を含有し、(フッ素含有エーテル油の溶解パラメータ)−(成分(B)の溶解パラメータ)の値が−8〜0である液体組成物。
【請求項2】
成分(B)が、セスキテルペンアルコールである請求項1記載の液体組成物。
【請求項3】
成分(B)が、セドロールである請求項1又は2記載の液体組成物。
【請求項4】
フッ素含有エーテル油が、1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基とエーテル酸素を分子内に少なくとも一つ以上有するエーテル化合物である請求項1〜3のいずれか1項記載の液体組成物。
【請求項5】
フッ素含有エーテル油の含有量が成分(A)の溶解剤の30〜100質量%である請求項1〜4のいずれか1項記載の液体組成物。
【請求項6】
(B)難揮散成分と、当該難揮散成分の溶解パラメータよりも0〜8小さい溶解パラメータを有するフッ素含有エーテル油を含む溶解剤とを混合させることを特徴とする難揮散成分の揮散方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−70067(P2006−70067A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−251684(P2004−251684)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】