説明

難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物および絶縁電線

【課題】酸化防止剤がブルームし難く、高い耐熱性が得られる難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物を提供すること。また他の課題は、この難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物を絶縁体として用いた絶縁電線を提供すること。
【解決手段】難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物は、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂と、ヒンダードフェノール酸化防止剤およびセミヒンダードフェノール系酸化防止剤と、酸化亜鉛および硫化亜鉛からなるブルーム防止剤と、金属水酸化物からなる難燃剤と、架橋触媒とを含有している。上記組成物を、混練水加熱架橋してなる架橋ポリオレフィン系樹脂を絶縁体として絶縁電線に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物およびこれを用いた絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などの車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線の絶縁体としては、一般に、ハロゲン系難燃剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物が広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、この種の塩化ビニル樹脂組成物は、ハロゲン元素を含有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時などの燃焼時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題があった。
【0004】
そのため、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、近年では、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂に、金属水酸化物等のノンハロゲン系難燃剤を添加してなる、ハロゲン元素を含有しないノンハロゲン系樹脂組成物への代替が進められている。
【0005】
また、自動車のワイヤーハーネス等のように、高温を発する箇所には、塩化ビニル樹脂の架橋電線や、ポリオレフィン架橋電線が用いられていた。これらの電線の架橋方法は、電子線で架橋する方式が主流であったが、電子線架橋は、高価な電子線架橋装置等を必要とし、設備費用が高価であり、製品コストが上昇してしまうという問題があった。そこで、安価な設備で架橋可能なシラン架橋が注目されている。
【0006】
ノンハロゲン系架橋ポリオレフィン系樹脂組成物には、耐熱性を高めるために酸化防止剤等が添加されている。
【0007】
このようなノンハロゲン系架橋ポリオレフィン系樹脂組成物としては、例えば、特許文献1に記載されるように、架橋ポリオレフィン系樹脂にフェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤を配合したものや、特許文献2に記載されるように、ヒンダードフェノール系あるいはチオビスフェノール系等の酸化防止剤を併用したもの等が知られている。
【0008】
【特許文献1】特開平11−181187号公報
【特許文献2】特開平11−255977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
耐熱性が要求される絶縁電線等では、耐熱性を上げるために、架橋ポリオレフィン系樹脂に酸化防止剤を多量添加する必要がある。
【0010】
しかしながら、酸化防止剤をポリオレフィン系樹脂に多量に添加すると、酸化防止剤が樹脂表面に析出(ブルーム)してしまい、耐熱性が低下するという問題があった。
【0011】
自動車などの分野では、さらに高い耐熱性を要求される場合があり、上述した従来のノンハロゲン系架橋ポリオレフィン系樹脂組成物では、耐熱性を向上させることが難しかった。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、酸化防止剤がブルームし難く、高い耐熱性が得られる難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物を提供することにある。また、他の課題は、この難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物を絶縁体として用いた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意研究した結果、特定の酸化防止剤と特定のブルーム防止剤を組み合わせることで、酸化防止剤がブルームし難く、高い耐熱性を有する難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂が得られるという知見を得た。
【0014】
すなわち、本発明に係る難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物は、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびセミヒンダードフェノール系酸化防止剤と、酸化亜鉛および硫化亜鉛からなるブルーム防止剤と、金属水酸化物からなる難燃剤と、架橋触媒とを含有することを要旨とするものである。
【0015】
ここで、上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、テトラキス−〔メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンであると良い。
【0016】
そして、上記セミヒンダードフェノール系酸化防止剤は、3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンであると良い。
【0017】
また、上記難燃剤は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウムから1種または2種以上選択されると良い。
【0018】
さらに、上記シラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.5〜10重量部、上記セミヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.5〜10重量部、上記酸化亜鉛を0.5〜10重量部、上記硫化亜鉛を0.5〜10重量部、上記金属水酸化物を50〜200重量部含有していると良い。
【0019】
一方、本発明に係る絶縁電線は、上記難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物を混練水加熱架橋してなる架橋ポリオレフィン系樹脂を絶縁体として有することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物は、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびセミヒンダードフェノール系酸化防止剤と、酸化亜鉛および硫化亜鉛からなるブルーム防止剤と、金属水酸化物からなる難燃剤と、架橋触媒とを含有しており、それを架橋した難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂は、ブルームし難く、高い耐熱性が得られる。
【0021】
また、本発明に係る絶縁電線は、上記難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物を混練水加熱架橋してなる架橋ポリオレフィン系樹脂を絶縁体として有しているので、耐熱性に優れ、高温負荷などがかかる部位に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤、ブルーム防止剤、難燃剤および架橋触媒を含有している。初めに、本発明に係る難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物の各成分について説明する。
【0023】
本発明のポリオレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトポリマーを含有してなる。例えば、シラングラフトポリマーは、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤およびジクミルパーオキサイド(DCP)等の架橋剤を添加し、押出機などを用いて加熱混練押出しながら、シランカップリング剤をオレフィン系樹脂にグラフト重合させると良い。ポリオレフィン系樹脂には、シラングラフトしないオレフィン系樹脂を添加しても良い。また、ポリオレフィン系樹脂には、ポリプロピレン系エラストマーを添加しても良い。
【0024】
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体などのエチレン系共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−アクリル酸エステル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エステル共重合体などのプロピレン系共重合体などを例示することができる。これらは、単独で用いても良いし、併用しても良い。
【0025】
オレフィン系樹脂として、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体である。
【0026】
ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン、メタロセン超低密度ポリエチレンなどを例示することができる。これらは、単独で用いても良いし、併用しても良い。好ましくは、メタロセン超低密度ポリエチレンである。
【0027】
オレフィン系樹脂の密度としては、柔軟性に優れる観点から、0.901g/cm以下であることが好ましい。もっとも、密度が低くなるにつれて樹脂の結晶化度が低くなるため、シラングラフト化された樹脂がガソリンに対して膨潤するのを抑え、耐ガソリン性が向上する観点から、0.880g/cm以上であることが好ましい。
【0028】
したがって、オレフィン系樹脂としては、密度が0.880〜0.901g/cmの範囲内にあるメタロセン超低密度ポリエチレンが、特に好ましい。このようなメタロセン超低密度ポリエチレンを単独で用いても良いし、このようなメタロセン超低密度ポリエチレンの2種以上を併用しても良い。
【0029】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシランなどのビニルアルコキシシランやノルマルヘキシルトリメトキシシラン、ビニルアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0030】
シランカップリング剤の配合量は、オレフィン系樹脂100重量部に対して、0.5〜5重量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、3〜5重量部の範囲内である。シランカップリング剤の配合量が0.5重量部未満では、シランカップリング剤のグラフト量が少なく、十分な架橋度が得られにくい。一方、5重量部を超えると、混練時に架橋反応が進みすぎてゲル状物質が発生しやすい。そうすると、製品表面に凹凸が発生しやすく、量産性が悪くなりやすい。また、溶融粘度も高くなりすぎて押出機に過負荷がかかり、作業性が悪化しやすくなる。
【0031】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、トリス〔(3,5−ジ−t−ブチル−4−ビドロキシベンジル)イソシアルレート、〕、n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンなどを例示することができる。この中でも好ましくは、下記化1で表されるテトラキス−〔メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンを用いると良い。
【0032】
【化1】

【0033】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量は、上記シラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、3〜5重量部の範囲内である。
【0034】
セミヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンなどを例示することができる。この中でも好ましくは、下記化2で表される3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンを用いると良い。
【0035】
【化2】

【0036】
セミヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量は、上記シラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、3〜5重量部の範囲内である。
【0037】
ブルーム防止剤としては、酸化亜鉛および硫化亜鉛を用いる。酸化亜鉛および硫化亜鉛の配合量は、上記シラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、それぞれ0.5〜10重量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、3〜5重量部の範囲内である。
【0038】
難燃剤には、金属水酸化物を用いる。金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウムから1種または2種以上選択されると良い。
【0039】
金属水酸化物の配合量は、上記シラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、50〜200重量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、70〜120重量部の範囲内である。
【0040】
架橋触媒は、シランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトポリマーを含有するポリオレフィン系樹脂を、シラン架橋させるシラノール縮合触媒である。例えば、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルト等の金属カルボン酸塩や、チタン酸エステル、有機塩基、無機酸、有機酸などを例示することができる。
【0041】
架橋触媒は、具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチド(ジブチル錫ビスオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチル錫β−メルカプトプロピオン酸塩ポリマーなど)、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などを例示することができる。好ましくは、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチドである。
【0042】
架橋触媒の量は、後述する触媒バッチ中の成分で、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.5〜5重量部の範囲内で配合されていることが好ましい。より好ましくは、1〜3重量部の範囲内である。
【0043】
次に、本発明に係る絶縁電線およびその製造方法について説明する。
【0044】
本発明に係る絶縁電線は、上記難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物を混練水加熱架橋してなる架橋ポリオレフィン系樹脂を絶縁体として、導体の外周に被覆して製造される。
【0045】
絶縁電線に用いる導体の材質としては、例えば、軟銅、錫メッキ軟銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを例示することができる。また、導体径は、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。また、絶縁体の厚さについても、特に制限はなく、導体径などを考慮して適宜定めることができる。
【0046】
導体に被覆される絶縁体は、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂よりなるシラングラフトバッチと、オレフィン系樹脂にヒンダードフェノール系酸化防止剤、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤、酸化亜鉛、硫化亜鉛、金属水酸化物を配合してなる難燃剤バッチと、オレフィン系樹脂に架橋触媒を配合してなる触媒バッチとを混練し、成形した後、水架橋して製造される。
【0047】
a成分(シラングラフトバッチ)とb成分(難燃剤バッチ)の混合比率は、a成分:b成分=40:60〜10:90が好ましい。また、a成分およびb成分とc成分(触媒バッチ)の混合比率は、(a成分+b成分):c成分=100:1〜100:10が好ましい。
【0048】
シラングラフトバッチと、難燃剤バッチと、触媒バッチは、それぞれ成形前に別々に調製される。この際、シラングラフトバッチのシランカップリング剤と架橋剤は、あらかじめドライブレンドしておき、混練機中で一括して混練すると良い。また、シラングラフトバッチの混練時間は、好ましくは0.01〜10分、より好ましくは、0.1〜5分が良い。
【0049】
調製された各バッチは、それぞれペレット状に押出される。成形前ではシラングラフトバッチと、難燃剤バッチと、触媒バッチの3つの成分に分けておき、成形工程で3成分をはじめて混練する。すなわち、最終の成形工程ではじめて、シラングラフトバッチのシラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂が、難燃剤バッチの金属水酸化物の水分と混練されることになる。
【0050】
3成分を混練するには、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機を用いることができる。混練前には、通常のタンブラーなどでドライブレンドすることもできる。混練時の加熱温度は、樹脂が流動する温度であれば良く、通常実施される加熱温度、例えば、100〜250℃の範囲内であれば良い。混練時間は、0.1〜2分間の範囲内で行なわれる。
【0051】
3成分を混練して得られた組成物を、混練後すぐに押出成形機などを用いて、導体の外周に押出被覆する。そして、被覆した樹脂を、水蒸気あるいは水にさらすことにより架橋を行なうと良い。このとき、常温〜90℃の温度範囲内で、48時間の範囲内で行なうことが好ましい。より好ましくは、温度が60〜80℃の範囲内であり、12〜24時間の範囲内である。
【実施例】
【0052】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0053】
(供試材料)
本実施例において使用した供試材料の製造元、商品名を示す。
【0054】
(A)樹脂
ポリオレフィン系樹脂[ダウ・ケミカル日本(株)製、商品名「エンゲージ 8100」]
ポリプロピレン系エラストマー[日本ポリプロ(株)製、商品名「ニューコム NAR6」]
【0055】
(B)難燃剤
水酸化マグネシウム[協和化学工業(株)製、商品名「キスマ5」]
【0056】
(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
テトラキス−〔メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン[チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名「Irganox 1010」]
【0057】
(D)セミヒンダードフェノール系酸化防止剤
3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン[(株)アデカ製、商品名「アデカスタブAO−80」]
【0058】
(E)ブルーム防止剤
酸化亜鉛(亜鉛華)[ハクスイテック(株)製、商品名「酸化亜鉛」]
硫化亜鉛[和光純薬工業(株)製、商品名「硫化亜鉛」]
【0059】
(F)架橋触媒
ジブチルスズジラウレート[(株)アデカ製、 商品名「Mark BT−11」]
【0060】
(G)シランカップリング剤
ビニルトリメトキシシラン[東レダウコーニング社製、 商品名「SZ6300」]
【0061】
(H)架橋剤
ジクミルパーオキサイド(DCP)[日本油脂(株)製、商品名「パークミルD」]
【0062】
(組成物および絶縁電線の作製)
まず、後述の表1および表2に示すa成分(シラングラフトバッチ)、b成分(難燃剤バッチ)、c成分(触媒バッチ)を、それぞれ混合する。
【0063】
a成分のポリオレフィン樹脂、シランカップリング剤および架橋剤は、あらかじめ50rpmで2分攪拌混合した後、2軸押出機を用い、各シリンダー温度を180〜200℃に設定して、スクリュー回転100rpmでシラングラフトバッチを製造した。このシラングラフトバッチが十分にグラフトされているかを確認するため、得られたシラングラフトバッチを湿度90%、温度85℃の高湿高温槽で24時間、水加熱架橋を行い、ゲル分率を測定した。製造したシラングラフトバッチはすべて、ゲル分率が60%以上の値となり、十分にグラフトされていることを確認した。
【0064】
次いで、a成分、b成分、c成分を規定の比率で、混練機に投入して混練した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して本実施例に係る組成物と比較例に係る組成物を得た。そして、得られた各組成物を、外径φ2.4mmの導体の外周に0.7mm厚で押出被覆し、湿度90%、温度85℃の高湿高温槽で24時間、水加熱架橋を行い、外径φ3.8mmの本実施例および比較例に係る絶縁電線を製造した。
【0065】
(試験方法)
以上のように作製した本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線および比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線について、ブルームの有無、耐熱性、成形品の外観、発泡の有無、柔軟性、耐ガソリン性を評価した。以下に、各評価方法について説明する。
【0066】
(ブルームの有無)
本実施例および比較例に係る絶縁電線を、湿度95%、温度80℃の高湿高温槽中に24時間放置した後、絶縁電線の表面の白い粉の有無を目視で確認した。表面に白い粉があるものをブルーム有りとした。
【0067】
(耐熱性)
各電線の外径に等しい径を有する物体に、本実施例および比較例に係る絶縁電線を6回巻き付け、180℃の恒温槽内で120〜360時間加熱した後、常温まで冷却した。その結果、絶縁体に亀裂が発生しなかったものを合格とし、亀裂が生じたものを不合格とした。
【0068】
(成形品の外観)
本実施例および比較例に係る絶縁電線の表面を、目視と手触りで確認し、表面が綺麗な外観のものを○とし、表面にザラツキや凹凸のあるものを×とした。
【0069】
(発泡の有無)
発泡の有無の判定は、本実施例および比較例に係る絶縁電線の表面を薄くスライスして、空隙がないものを○とし、空隙のあるものを×とした。
【0070】
(柔軟性)
本実施例および比較例に係る絶縁電線を手で折り曲げた際の手感触により判断した。すなわち、触感が良好のものを合格とし、良好でないものを不合格とした。
【0071】
(耐ガソリン性)
本実施例および比較例に係る絶縁電線を、ISO1817に規定される液体に、温度23±5℃で20時間浸漬させた。その後絶縁電線を取り出して表面を拭い、室温で30分乾燥させた後、5分以内に電線の外径を測定し、規定のマンドレルに巻き付けた。次式で表される外径変化率の値が15%以内のものを合格とした。また、絶縁体の亀裂の有無を確認した。
外径変化率={(浸漬前の外径−浸漬後の外径)/浸漬前の外径}×100(%)
【0072】
以下の表1および2に組成物の成分配合および評価結果を示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
本実施例に係る、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤、酸化亜鉛、硫化亜鉛を併用して配合された難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物からなる絶縁体に被覆された絶縁電線は、表1に示すように、酸化防止剤がブルームし難く、高い耐熱性が得られることが確認できた。
【0076】
これに対し、表1および表2に示すように、ブルーム防止剤を含有していない比較例1および比較例2に係る絶縁電線は、酸化防止剤のブルームが生じ、耐熱性が不合格であった。
【0077】
また、ブルーム防止剤を含有している比較例3〜比較例7の絶縁電線は、酸化亜鉛または硫化亜鉛のいずれか一方のブルーム防止剤を含有していればブルームが生じないものの、どちらか一方のブルーム防止剤の場合、あるいは両方のブルーム防止剤に酸化防止剤がどちらか一方のみ含有された場合では、十分な耐熱性が得られなかった。
【0078】
以上、本実施形態、実施例に係る難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物および絶縁電線について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂と、
ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびセミヒンダードフェノール系酸化防止剤と、
酸化亜鉛および硫化亜鉛からなるブルーム防止剤と、
金属水酸化物からなる難燃剤と、
架橋触媒とを含有することを特徴とする難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、テトラキス−〔メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンであることを特徴とする請求項1に記載の難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記セミヒンダードフェノール系酸化防止剤は、3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンであることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記難燃剤は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウムから1種または2種以上選択されることを特徴とする請求項1から3の何れか1に記載の難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記シラングラフトポリマーを含むポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.5〜10重量部、前記セミヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.5〜10重量部、前記酸化亜鉛を0.5〜10重量部、前記硫化亜鉛を0.5〜10重量部、前記金属水酸化物を50〜200重量部含有することを特徴とする請求項1から4の何れか1に記載の難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1に記載の難燃シラン架橋ポリオレフィン系樹脂組成物を混練水加熱架橋してなる架橋ポリオレフィン系樹脂を絶縁体として有することを特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2008−303251(P2008−303251A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149615(P2007−149615)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】