説明

難燃剤、難燃性樹脂組成物及び難燃性樹脂加工品

【課題】樹脂への少量の添加でも難燃性、耐熱性に優れ、成形品の機械特性、電気特性、寸法安定性、成形性にも優れる、難燃剤及びそれを用いた難燃性樹脂組成物ならびに難燃性樹脂加工品を提供する。
【解決手段】ペンタエリスリトール二リン酸エステル二官能性基と、sym‐トリアジン‐2,4,6‐トリイルトリイミノ基とからなる三次元網目構造を有する化合物を難燃剤として用いる。そして、該化合物を、難燃性樹脂組成物の全体に対して、1〜30質量部含有させた難燃性樹脂組成物とし、この難燃性樹脂組成物を成形又は塗膜化して難燃性樹脂加工品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、樹脂成形品等に利用される難燃剤及びそれを用いた難燃性樹脂組成物ならびに難燃性樹脂加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミド等の熱可塑性樹脂や、エポキシ等の熱硬化性樹脂は、汎用樹脂、エンジニアリングプラスチックとして優れた成形加工性、機械的強度、電気特性を有していることから、電気、電子分野等を始めとして広く用いられている。そして、これらを加工・成形した樹脂加工品等は、高温による火災防止を目的とした安全上の観点から難燃性が要求されており、例えば、難燃グレードとしてUL94のような規格が設けられている。
【0003】
一般に、このような樹脂加工品等の難燃化には、ハロゲン物質が有効であることが知られており、ハロゲン系難燃剤を樹脂に添加して樹脂加工品等に難燃性を付与している。このハロゲン系難燃剤による難燃化のメカニズムは、主に熱分解によりハロゲン化ラジカルが生成し、この生成したハロゲン化ラジカルが燃焼源である有機ラジカルを捕捉することで、燃焼の連鎖反応を停止させ、高難燃性を発現させると言われている。
【0004】
しかし、ハロゲン化合物を大量に含む難燃剤は、燃焼条件によってはダイオキシン類が発生する可能性があり、環境への負荷を低減する観点から、近年ハロゲン量を低減させる要求が高まっている。したがって、ハロゲン物質を含有しない非ハロゲン系難燃剤が各種検討されている。
【0005】
このような非ハロゲン系難燃剤としては、金属水和物や赤リン等の無機難燃剤、尿素から誘導されるトリアジン系難燃剤、リン酸エステル等の有機リン系難燃剤等が検討されているが、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムといった金属水和物の場合、難燃性付与効果があまり高くないので、樹脂に多量に配合する必要がある。したがって、樹脂の成形性が悪くなったり、得られる成形品等の機械的強度が低下しやすく、使用可能な樹脂加工品等の用途が限定されるという問題がある。また、赤りんは、難燃効果は高いが、分散不良により電気特性を阻害したり、危険ガスが発生したり、成形性を低下するとともにブリード現象を起こしやすいものであった。
【0006】
一方、リン酸エステル等の有機リン系難燃剤としては、例えば、下記特許文献1には、ホスホリン構造を有する酸性リン酸エステルのピペラジン塩もしくは炭素数1〜6のアルキレンジアミン塩を難燃剤として使用することが開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、リン酸モノフェニル、リン酸モノトリル等の芳香族リン酸エステルとピペラジン等の脂肪族アミンとからなる塩を主成分とする樹脂用難燃剤が開示されている。
【0008】
更に、下記特許文献3には、ハロゲンフリーの難燃処方として優れた難燃効果を発現させると共に、成形品の耐熱性、耐水性の物性に優れ、また電気積層板用途における密着性に優れる難燃エポキシ樹脂を得るための難燃剤として、リン含有フェノール化合物を用いることが開示されている。
【0009】
更にまた、下記特許文献4には、特に高分子化合物の安定剤、難燃剤として有用である、二官能ヒドロキシル基を有する有機環状リン化合物が開示されている。
【特許文献1】特開2002−20394号公報
【特許文献2】特開2002−80633号公報
【特許文献3】特開2002−138096号公報
【特許文献4】特開平5−331179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1〜4に開示されているように、有機リン系難燃剤については種々の検討がなされ、様々なものがあるが、難燃性は不充分であり、充分な難燃性を付与するためには、高濃度で配合する必要があった。また、難燃性を向上させるために、ベース樹脂中に難燃剤を多量に配合すると、ベース樹脂の可塑化を招き、力学的・熱的強度が不足する傾向にあるため、成形品等として供することが出来なくなるという問題点があった。
【0011】
したがって本発明の目的は、樹脂への少量の添加でも難燃性、耐熱性に優れ、成形品の機械特性、電気特性、寸法安定性、成形性にも優れる、難燃剤及びそれを用いた難燃性樹脂組成物ならびに難燃性樹脂加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の難燃剤は、下式(I‐a)の化合物とメラミンとを反応させ、脱水縮合又は脱塩化水素縮合によりリン酸アミド結合を形成して得られる三次元網目構造のペンタエリスリトールジホスフィン酸系化合物を含有することを特徴とする。
【0013】
【化1】


(式中、XはOH又はClである。)
【0014】
また、本発明の難燃剤のもう一つは、下式(I)の構造で表される三次元網目構造のペンタエリスリトールジホスフィン酸系化合物を含有することを特徴とする。
【0015】
【化2】


(式中、Rは、sym‐トリアジン‐2,4,6‐トリイル基であり、Rは、下記式(A)で表される基である。)
【化3】

【0016】
上記化合物は、ペンタエリスリトール二リン酸エステル二官能性基と、sym‐トリアジン‐2,4,6‐トリイルトリイミノ基とからなる三次元網目構造を有する不溶性の粉末固体状の化合物であって、リンの含有率が20wt/wt%以上、窒素の含有率が18wt/wt%以上と高い。また、熱解離しやすいリン酸エステル結合と、リン酸第一アミド構造とを含んでおり、難燃効果の高いリンラジカルを発生しやすく、難燃性が著しく高い。また、分子内酸素を適度に多く含有しているので、樹脂分解時にスス成分が生成、堆積しやすく、それによって難燃性が向上する、いわゆるチャー効果も得られる。更には、この化合物は三次元網目構造を有する非水溶性で不溶性の粉末固体状の化合物であり、吸湿性を有していないので、水分含有量が増加しにくく、樹脂組成物に配合した時に、その樹脂が本来具有する良好な絶縁性や低誘電性等を損なうことがない。同時に、吸湿性がないので貯蔵安定性に優れ、微粉末状ないしペレット状で長期間保存できる。また、三次元網目構造であるために分解温度が適度に高く、樹脂と混練し成形する温度では安定であり、得られる樹脂組成物ないし成形品が燃焼する際には分解して、上述した難燃性を発揮する。更に、樹脂と混練すると均一な樹脂組成物を与える一般の有機化合物難燃剤では、それらが可塑剤として働くために、該樹脂組成物ないし成形品が脆弱になるが、本発明の難燃剤は三次元網目構造であるために不溶性であり、例えばその微粉末を樹脂と混練しても均一固溶された樹脂組成物となるのではなく、ベース樹脂中に該難燃剤微粒子が均一分散したコンポジットとなるため可塑化作用はなく、該樹脂組成物ないし成形品が脆弱になるような欠点を生じない。
【0017】
一方、本発明の難燃性樹脂組成物は、上記難燃剤と、樹脂とを含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の全体に対して、前記難燃剤を1〜30質量部含有することを特徴とする。
【0018】
本発明の難燃性樹脂組成物によれば、難燃剤として、難燃効果の高い上記化合物を用いているので、難燃剤の含有量が1〜30質量%と少量であっても、優れた難燃性を長期間付与できる。
【0019】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、無機充填剤を更に1〜45質量%含有することが好ましい。この態様によれば、寸法安定性に優れる樹脂加工品を得ることができる。
【0020】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、前記無機充填剤としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有し、前記層状のクレーを前記樹脂組成物の全体に対して1〜10質量%含有することが好ましい。シリケート層が積層してなる層状のクレーは、ナノオーダーで層状のクレーが樹脂中に分散して樹脂とハイブリット構造を形成するので、無機充填剤としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有することで、得られる樹脂加工品の耐熱性、機械強度等を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、強化繊維を更に5〜50質量%含有することが好ましい。この態様によれば、強化繊維の含有により、得られる樹脂加工品の引張り、圧縮、曲げ、衝撃等の機械的強度を向上させることができ、更に水分や温度に対する物性低下を防止することができる。
【0022】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、主骨格の末端に不飽和基を少なくとも一つ以上有する多官能性のモノマー又はオリゴマーである架橋剤を更に含有することが好ましい。この態様によれば、架橋剤と樹脂との結合によって、樹脂が3次元網目構造に架橋化するので、得られる樹脂成形品の化学的安定性、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、前記架橋剤が、主骨格にリンを含有する有機リン系反応性難燃剤であることが好ましい。この態様によれば、得られる樹脂成形品の難燃性、耐熱性、機械強度をより向上させることができる。
【0024】
そして、本発明の難燃性樹脂加工品は、上記難燃性樹脂組成物を成形又は塗膜化して得られたもの、あるいは成形又は塗膜化した後、電子線又は放射線の照射によって前記樹脂と前記架橋剤とを反応させて得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、難燃性に優れ、更には、良好な絶縁性や低誘電性を保持した電気・電子部品部材等に特に好適な難燃性樹脂加工品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。まず、本発明の難燃剤について説明する。
【0027】
本発明の難燃剤は、下式(I‐a)の化合物とメラミンとを反応させ、脱水縮合又は脱塩化水素縮合によりリン酸アミド結合を形成して得られる三次元網目構造のペンタエリスリトールジホスフィン酸系化合物であり、具体的には、下式(I)の構造で表される三次元網目構造のペンタエリスリトールジホスフィン酸系化合物を含有する化合物である。
【0028】
【化4】

(式中、XはOH又はClである。)
【0029】
【化5】

(式中、Rは、sym‐トリアジン‐2,4,6‐トリイル基であり、Rは、下記式(A)で表される基である。)
【化6】

【0030】
上記化合物(以下、「化合物(I)」とする)は、例えば、ペンタエリスリトールと、オキシ塩化リン等とを反応させて、下式(I‐a1)の化合物を合成し、この下式(I‐a1)の化合物と、メラミンとを塩基存在下にて反応させ、脱塩化水素縮合を行う方法や、あるいは、下式(I‐a1)の化合物を加水分解して下式(I‐a2)の化合物を合成し、この下式(I‐a2)の化合物と、メラミンとをメタノール溶液中で反応させ、その後脱水縮合を行う方法等によって合成できる。
【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
次に、上記難燃剤を用いた本発明の難燃性樹脂組成物について説明する。
【0034】
本発明の難燃性樹脂組成物は、樹脂と、上記化合物(I)からなる難燃剤とを含有する樹脂組成物である。
【0035】
本発明の難燃性樹脂組成物に用いることのできる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも使用可能であり特に限定されない。
【0036】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂等が挙げられる。
【0037】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ケイ素樹脂等が挙げられる。
【0038】
そして、上記本発明の難燃剤の含有量は、樹脂組成物全体に対して、1〜30質量%であることが必要であり、1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。本発明の難燃剤の含有量が1質量%未満であると、得られる樹脂加工品の機械的物性、熱的物性、電気的物性、難燃性が不十分である。また、30質量%を超えると、難燃剤が過剰となり、難燃剤がブリードアウトしたり、得られる樹脂加工品の機械的特性が低下することがある。
【0039】
また、上記本発明の難燃剤は、非水溶性の白色固体粉末であり、その粒子サイズは、用途に応じて選択されるが、混練の容易さを鑑みると直径5〜300μmであることが好ましく、表面積を確保して十分な難燃性を発揮できるという点から直径5〜80μmがより好ましく、更に粉末の粒度をそろえる容易さを鑑み、経済的であるという点から直径10〜50μmが最も好ましい。
【0040】
本発明の難燃性樹脂組成物は、無機充填剤を含有することが好ましい。無機充填剤を含有することによって、得られる樹脂加工品の機械的強度を向上させることができるとともに、寸法安定性を向上させることができる。また、無機充填剤は、難燃剤を吸着させる基体となって作用するので、該難燃剤の分散を均一化できる。
【0041】
無機充填剤としては、従来公知のものが使用可能である。代表的なものとして、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、錫、ステンレス鋼、アルミニウム、金、銀等の金属粉末、ヒュームドシリカ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸、含水珪酸カルシウム、含水珪酸アルミニウム、ガラスビーズ、カーボンブラック、石英粉末、雲母、タルク、マイカ、クレー、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、硫酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ケイソウ土等が挙げられる。これらの無機充填剤は、単独又は2種以上を併用することができる。また、公知の表面処理剤で処理されたものでもよい。
【0042】
本発明においては、無機充填剤として、シリケート層が積層してなる層状のクレーを用いることが特に好ましい。
【0043】
シリケート層が積層してなる層状のクレーとは、厚さが約1nm、一辺の長さが約100nmのシリケート層が積層された構造を有しているクレーである。したがって、この層状のクレーはナノオーダーで樹脂中に分散されて樹脂とのハイブリット構造を形成し、これによって、得られる樹脂加工品の耐熱性、機械強度等が向上する。層状のクレーの平均粒径は100nm以下であることが好ましい。
【0044】
上記層状のクレーとしては、モンモリロナイト、カオリナイト、マイカ等が挙げられ、分散性に優れる点からモンモリロナイトが好ましい。また、層状のクレーは、樹脂への分散性を向上させるために表面処理されていてもよい。このような層状のクレーは市販されているものを用いてもよく、例えば「ナノマー」(商品名、日商岩井ベントナイト株式会社製)や、「ソマシフ」(商品名、コーポケミカル社製)等が使用できる。
【0045】
そして、上記無機充填剤の含有量は、樹脂組成物の全体に対して1〜45質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。含有量が1質量%より少ないと、得られる樹脂加工品の機械的強度が不足し、寸法安定性が不充分であり、45質量%を超えると、得られる樹脂加工品が脆くなるので好ましくない。
【0046】
また、層状のクレーを含有する場合、その含有量は、樹脂組成物の全体に対して1〜10質量%が好ましい。
【0047】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、強化繊維を含有することが好ましい。強化繊維を含有することで、例えば成形品の場合には機械的強度が向上するとともに、寸法安定性を向上させることができる。
【0048】
強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維が挙げられる。強度、及び樹脂や無機充填剤との密着性の点からガラス繊維を用いることが好ましい。これらの強化繊維は、単独又は2種以上を併用することができる。また、公知の表面処理剤や被覆樹脂で表面処理されたものでもよい。
【0049】
上記強化繊維の表面処理に用いる表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤等が挙げられる。具体的には、メトキシ基及びエトキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシ基と、アミノ基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、イソシアネート基よりなる群から選択される少なくとも一種の反応性官能基を有するシランカップリング剤等が例示できる。
【0050】
また、強化繊維の表面処理に用いる被覆樹脂としては、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0051】
そして、強化繊維の配合量は、樹脂組成物の全体に対して5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。強化繊維の含有量が5質量%未満であると、得られる樹脂加工品の機械的強度が低下するとともに、寸法安定性が不充分であり、50質量%を超えると、樹脂組成物の加工が困難となる。
【0052】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤は、主骨格の末端に、アリル基やメタリル基等の不飽和基を少なくとも一つ以上有する多官能性のモノマー又はオリゴマーであることが好ましく、主骨格にリンを含有する有機リン系反応性難燃剤がより好ましい。架橋剤を含有することで、加熱や放射線照射等により樹脂と架橋剤とが結合して3次元網目構造が形成され、得られる樹脂加工品の化学的安定性、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性が向上する。なかでも架橋剤として有機リン系反応性難燃剤を用いることで、特に難燃性、耐熱性、機械強度をより向上させることができる。
【0053】
上記架橋剤としては、具体的には、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート及びそれらをラジカルオリゴメリゼーションして得られたオリゴマー、トリメリット酸トリアリル、トリメリット酸トリメタリルエステル、ピロメリット酸テトラアリル、ピロメリット酸テトラメタリルエステル、N,N,N’,N’,N”,N”‐ヘキサアリルメラミン、N,N,N’,N’,N”,N”‐ヘキサメタリルメラミンや、下記式(II‐1)〜(II‐8)に示す、トリス(2‐アリルフェニル)ホスフェート(下式II‐1)、2‐ナフチル‐ビス(N,N‐ジアリルアミド)ホスフェート(下式II‐2)、1,4‐ビス(N,N,N’,N’‐テトラアリルジアミドホスフォリル)‐2‐[9,10‐ジヒドロ‐9’‐オキサ‐10’‐ホスファフェナントレン‐10’‐オキサイド‐10’‐イル]ベンゼン(下式II‐3)、1,4‐ビス[フェニル(N,N‐ジアリルアミド)ホスフィニル]‐2‐[9,10‐ジヒドロ‐9’‐オキサ‐10’‐ホスファフェナントレン‐10’‐オキサイド‐10’‐イル]ベンゼン(下式II‐4)、4,4’‐ビス(N,N,N’,N’‐テトラアリルジアミドホスホリル)ビスフェノールA(下式II‐5)、4,4’‐ビス(N,N,N’,N’‐テトラアリルジアミドホスホリル)ビスフェニル(下式II‐6)、4,4’‐ビス[フェニル(N,N,‐ジアリルアミド)ホスフィニル]ビフェニル(下式II‐7)、4,4’‐ビス[フェニル(N,N,‐ジアリルジアミド)ホスフィニル]ビスフェノールF(下式II‐8)等が挙げられる。
【0054】
【化9】

【0055】
上記(II−1)〜(II−8)の化合物のうち、例えば(II−4)の化合物は、ジクロロフェニルホスフィンに、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)‐9−オキソ‐10−ホスホ−9,10−ジヒドロフェナンスレン‐10−オンとトリエチルアミンとを溶解したテトラヒドロフラン溶液を滴下して反応させることにより得ることができる。
【0056】
また、(II−5)の化合物は、ジメチルアセトアミド(DMAc)にオキシ塩化リンを加え、この溶液に、2,2'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとトリエチルアミンを溶解したDMAcの溶液を滴下して反応させ、次いで、ジアリルアミンとの混合液を反応させることにより得ることができる。なお、他の化合物も上記と同様な方法や、特開2004‐315672号公報に記載された方法等に基づいて合成することができる。
【0057】
樹脂と架橋剤との架橋反応は、樹脂のメチン、メチレン及びメチル基の部分で起こるので、これらの基の含量が比較的少ないポリエチレンテレフタラート等の樹脂は、6官能性のN,N,N’,N’,N”,N”‐ヘキサアリルメラミン、N,N,N’,N’,N”,N”‐ヘキサメタリルメラミンや、8官能性の上記(II‐3)、(II‐5)、(II‐6)等の化合物が特に好ましい。一方、メチレン基含量の多いナイロン‐6,6等の樹脂は、架橋反応が進みやすいため、6官能性等の架橋剤を使用すると硬くなりすぎてしまうので、3〜4官能性のトリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリメリット酸トリアリル、トリメリット酸トリメタリルエステル、ピロメリット酸テトラアリル、ピロメリット酸テトラメタリルエステル、上記(II‐1)、(II‐2)、(II‐4)、(II‐7)、(II‐8)の化合物等が好ましく、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、上記(II‐1)、(II‐2)、(II‐4)、(II‐7)、(II‐8)の化合物等が特に好ましい。
【0058】
本発明の難燃性樹脂組成物において、架橋剤の含有量は、架橋剤の種類によって適宜変更でき、樹脂組成物の全体に対して0.1〜6質量部が好ましい。3〜4官能性架橋剤においては、0.5〜6質量部がより好ましく、1〜3質量部が特に好ましい。また、6官能性ないしそれ以上の架橋剤においては、0.1〜4質量部がより好ましく、0.2〜2質量部が特に好ましい。
【0059】
また、本発明の難燃性樹脂組成物には、耐熱性、耐候性、耐衝撃性等の物性を著しく損わない範囲で、上記以外の常用の各種添加成分、例えば結晶核剤、着色剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤等の添加剤を配合してもよい。また、後述するように、例えば紫外線によって樹脂と架橋剤とを反応させる場合には、紫外線開始剤等を配合してもよい。
【0060】
着色剤としては特に限定されないが、後述する放射線照射によって褪色しないものが好ましく、例えば、無機顔料である、ベンガラ、鉄黒、カーボン、黄鉛等や、フタロシアニン等の金属錯体が好ましく用いられる。
【0061】
本発明の難燃性樹脂加工品は、上記本発明の難燃性樹脂組成物を成形又は塗膜化して得られたものである。
【0062】
本発明の難燃性樹脂組成物の成形は従来公知の方法が用いられ、例えば、樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合においては、熱可塑性樹脂と難燃剤とを溶融混練してペレット化した後、従来公知の射出成形、押出成形、真空成形、インフレーション成形等によって成形することができる。溶融混練は、単軸或いは二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロール等の通常の溶融混練加工機を使用して行うことができる。混練温度は熱可塑性樹脂の種類によって適宜選択可能であり、例えばポリアミド系樹脂の場合には240〜280℃で行うことが好ましい。また、成形条件も樹脂により適宜設定可能であり特に限定されない。なお、この段階では全く架橋は進行していないので、成形時の余分のスプール部は、熱可塑性樹脂としてのリサイクルが可能である。
【0063】
一方、樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合においては、上記と同様に、熱硬化性樹脂と難燃剤とを溶融混練してペレット化した後、例えば、従来公知の射出成形、圧縮成形、トランスファー成形等を用いて成形することができる。
【0064】
また、本発明の難燃性樹脂組成物を塗膜化する場合には、本発明の難燃性樹脂組成物をそのまま塗布してもよく、適宜溶剤等で希釈して塗布可能な溶液又は懸濁液とした後、従来公知の方法によって乾燥、塗膜化してもよい。塗膜化の方法としては、ローラー塗り、吹き付け、浸漬、スピンコート等のコーティング方法等を用いることができ特に限定されない。
【0065】
本発明の難燃性樹脂組成物が更に架橋剤を含有するものである場合、成形又は塗膜化した後、更に加熱又は放射線の照射によって前記樹脂と架橋剤とを反応させることが好ましい。
【0066】
加熱又は放射線の照射によって、架橋剤の末端の不飽和結合が、樹脂と反応して架橋反応し、難燃剤が樹脂中に安定して存在し、難燃剤によるブリードアウトが生じにくくなり、更には、得られる樹脂成形品の機械強度が向上する。
【0067】
架橋剤と樹脂とを反応させる手段として加熱を用いる場合、反応させる温度は、樹脂の成形温度より5℃以上高い温度とすることが好ましく、10℃以上高い温度とすることがより好ましい。
【0068】
また、架橋の手段として放射線を用いる場合には、電子線、α線、γ線、X線、紫外線等が利用できる。なお、本発明における放射線とは広義の放射線を意味し、具体的には、電子線やα線等の粒子線の他、X線や紫外線等の電磁波までを含む意味である。
【0069】
上記のうち、電子線又はγ線の照射が好ましい。電子線照射は公知の電子加速器等が使用でき、加速エネルギーとしては、2.5MeV以上であることが好ましい。γ線照射は、公知のコバルト60線源等による照射装置を用いることができる。ただし、γ線は電子線に比べて透過性が強いために照射が均一となり好ましいが、照射強度が強いため、過剰の照射を防止するために線量の制御が必要である。
【0070】
放射線の照射線量は5〜40kGyが好ましく、25〜35kGyがより好ましい。また、γ線照射の場合、照射線量は20〜30kGyがより好ましい。架橋のための放射線の照射線量が40kGyを超えると、併発する樹脂の分解がはなはだしくなり、酸化分解生成物による樹脂加工品の内部歪みが残留し、これによって変形や収縮等が発生するので好ましくない。また、5kGy未満では、架橋による3次元網目構造の形成が不均一となり、未反応の架橋剤がブリードアウトする可能性があるので好ましくない。上記範囲であれば、架橋によって上記の物性に優れる樹脂加工品が得られる。
【0071】
本発明の難燃性樹脂加工品は、上述のようにして得られるものであり、耐熱性、難燃性に加えて、機械特性、電気特性、寸法安定性、及び成形性に優れる。したがって、高度な耐熱性、難燃性が要求される電気部品又は電子部品、更には自動車部品や光学部品、例えば、電磁開閉器やブレーカー等の接点支持等のための部材、プリント基板等の基板、集積回路のパッケージ、電気部品のハウジング等として好適に用いることができる。
【0072】
電気部品又は電子部品の具体例としては、受電盤、配電盤、電磁開閉器、遮断器、変圧器、電磁接触器、サーキットプロテクタ、リレー、各種センサ類、各種モーター類、ダイオード、トランジスタ、集積回路等の半導体デバイス等が挙げられる。
【0073】
また、冷却ファン、バンパー、ブレーキカバー、パネル等の内装品、摺動部品、センサ、モーター等の自動車部品としても好適に用いることができる。
【0074】
更に、成形品のみならず、上記の成形品や繊維等への難燃性コーティング塗膜としても用いることもできる。
【0075】
また、上記の半導体デバイス等の電子部品又は電気部品の封止、被覆、絶縁等として用いれば、優れた耐熱性、難燃性を付与させることができる。すなわち、例えば、上記の樹脂組成物を封止して樹脂を硬化させ、更に上記の加熱又は放射線照射による反応を行うことにより、半導体チップやセラミックコンデンサ等の電子部品や電気素子を封止する難燃性封止剤として用いることができる。封止の方法としては、注入成形、ポッティング、トランスファー成形、射出成形、圧縮成形等による封止が可能である。また、封止対象となる電子部品、電気部品としては特に限定されないが、例えば、液晶、集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、コンデンサ等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0077】
〔難燃剤の合成〕
(実施例1)
蒸留したテトラヒドロフラン(以下、THF)600mlとトリエチルアミン250gとの混合溶液に、かき混ぜながら0℃にて、ペンタエリスリトール136.1g(1.0mol)のTHF200ml溶液と、オキシ塩化リン276.6g(2.0mol)のTHF200ml溶液とを別々に4時間かけて同時滴下した。同温度で6時間、室温で12時間反応させ、析出したアミン塩をろ去し、溶液部を減圧留去して、295gの残渣を得た。残渣の一部を採取して適量の酢酸エチルを加えてかき混ぜ、析出するアミン塩をろ去し、溶液を減圧留去して下式(I‐a1)の化合物を得た。なお、NMR及びTOF−Massスペクトルの測定により、この化合物が式(I‐a1)の化合物であることを確認した。
【0078】
・TOF−Massスペクトル(M/Z)
298.299(分子量計算値=296.966)
H−NMRスペクトル δ、ppm(CDCl
‐CH‐ 3.6
【0079】
【化10】

【0080】
次に、上式(I‐a1)の化合物の全量を、激しくかき混ぜている4.0mol/l水酸化ナトリウム水溶液1000mlに少しずつ加えて均一溶液を得た。次に、この均一液に、メラミン84.1g(0.667mol)を水1000mlに溶解して16.7mlの濃塩酸を加えて中和した溶液を、0〜5℃に冷却しながら混合し、約1時間かき混ぜた後、生成した白色沈殿をろ集し、120℃で減圧乾燥して、下式(I‐b)の化合物を338.1g(回収率98%)得た。なお、元素分析により、この化合物が式(I‐b)の化合物であることを確認した。
【0081】
・元素分析 wt/wt%[C21421224としての計算値]
C 24.48(24.43)、H 4.02(4.10)、N 16.22(16.28)、P 17.91(18.00)
【0082】
【化11】

【0083】
続いて、上式(I‐b)の化合物の258.1gを、約10mmHgの減圧下に加熱し、約1時間かけて昇温して300℃に4時間保持して脱水縮合させ、上式(I)の構造で表される三次元網目構造の化合物である目的物230.8g(回収率99.9%)を得た。なお、元素分析により、この化合物が目的の化合物であることを確認した。
【0084】
・元素分析 wt/wt%[C21301218としての計算値]
C 27.35(27.29)、H 3.30(3.27)、N 18.22(18.18)、P 20.06(20.10)
【0085】
(実施例2)
実施例1と同様にして、(I‐a1)を得て、この化合物を加水分解し、次いで、0〜5℃にて攪拌しながら濃塩酸を加えてpHを2.5に調整し、飽和するまで塩化ナトリウムを加えた。その後、まず400ml×3回のエーテルで抽出し、次に200ml×3回のエーテルで抽出し、得られたエーテル溶液全部をあわせて無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過したのち、減圧留去して、下式(I‐a2)の乳白色半固体状の化合物を242.5g(回収率93%)得た。なお、NMR及びTOF−Massスペクトルの測定により、この化合物が式(I‐a2)の化合物であることを確認した。
【0086】
・TOF−Massスペクトル(M/Z)
261.262(分子量計算値=260.08)
H−NMRスペクトル δ、ppm(CDCl
‐CH‐ 3.7(8H)、PO‐H 8.7(2H)
【0087】
【化12】

【0088】
次に、上式(I‐a2)の化合物260.1g(1.0mol)のメタノール溶液500mlに、メラミン84.1g(0.667mol)のメタノール溶液200mlを0〜5℃に冷却しながら混合し、約1時間かき混ぜた後、生成した白色沈殿をろ集し、120℃で減圧乾燥して、上式(I‐b)の化合物を337.6g(回収率98%)得た。なお、元素分析により、この化合物が上式(I‐b)の化合物であることを確認した。
【0089】
・元素分析 wt/wt%[C21421224としての計算値]
C 24.48(24.43)、H 4.02(4.10)、N 16.22(16.28)、P 17.91(18.00)
【0090】
続いて、得られた上式(I‐b)の化合物の258.1gを、実施例1と同様に処理し、目的物230.5g(回収率99.9%)得た。なお、元素分析により、この化合物が目的の化合物であることを確認した。
【0091】
・元素分析 wt/wt%[C21301218としての計算値]
C 27.35(27.29)、H 3.30(3.27)、N 18.22(18.18)、P 20.06(20.10)
【0092】
〔樹脂加工品の製造〕
(実施例3)
熱可塑性樹脂としてナイロン‐6/ナイロン‐6,6コポリマー(宇部興産社製:2123B)を47.3質量部、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)を25質量部、着色剤としてカーボンブラックを0.5質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)を0.2質量部、無機充填剤として粒径2μmのタルク(日本タルク社製)を7質量部及びナノ粒径のクレー(日商岩井ベントナイト(株)社製:ナノマー1.30T)を5質量部、難燃剤として実施例1の化合物を粉砕処理して平均粒径30μmとしたものを15質量部配合し、サイドフロー型2軸押出機(日本製鋼社製)で280℃にて混練して樹脂ペレットを得て、105℃、4時間乾燥した後、この樹脂ペレットを射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件で成形して、実施例3の樹脂加工品を得た。
【0093】
(実施例4)
実施例3において、強化繊維の配合量を20質量部とし、新たに、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレートを5質量部用いた以外は実施例3と同様の混合組成・成形加工条件で成形品を得た。その後、上記成形品に、コバルト60を線源としたγ線を25kGy照射して実施例4の樹脂加工品を得た。
【0094】
(実施例5)
実施例4において、熱可塑性樹脂としてナイロン−6,6(宇部興産社製:2020B)を46.3質量部用い、無機充填剤として粒径2μmのタルク(日本タルク社製)を7質量部及びナノ粒径のクレー(日商岩井ベントナイト(株)社製:ナノマー1.30T)を4質量部用い、難燃剤の配合量を12質量部とした以外は、実施例4と同様の混合・成形加工条件で成形し、実施例5の樹脂加工品を得た。
【0095】
(実施例6)
熱可塑性樹脂としてナイロン−6,6(宇部興産社製:2020B)を42.3質量部、無機充填剤としてシリカ(富士シリシア社製:サイリア530)11質量部及びナノ粒径のクレー(日商岩井ベントナイト(株)社製:ナノマー1.30T)4質量部、着色剤としてカーボンブラック0.5質量部、難燃剤として実施例1の化合物を粉砕処理して平均粒径20μmとしたものを12質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)0.2質量部を加えて混合した。
次いで、280℃に設定したサイドフロー型2軸押出し機を用いて上記混合物を溶融し、更に、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)30質量部を、押出し混練を用いてサイドから溶融した上記混合物に混ぜ込み、樹脂ペレットとした後、該樹脂ペレットを105℃で4時間乾燥させ、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度280℃、金型温度80℃、射出圧力78.4MPa、射出速度120mm/s、冷却時間15秒の一般的な条件で、実施例6の樹脂加工品(電気・電子部品並びに自動車用の成形品)を得た。
【0096】
(実施例7)
実施例6において、熱可塑性樹脂の配合量を40.3質量部とし、新たに架橋剤としてトリメタリルイソシアヌレートを2質量部用いた以外は実施例6と同様の混合組成・成形加工条件で成形品を得た。その後、上記成形品に、コバルト60を線源としたγ線を25kGy照射して実施例7の樹脂加工品を得た。
【0097】
(実施例8)
実施例7において、熱可塑性樹脂の配合量を38.3質量部とし、難燃剤の配合量を14質量部とした以外は実施例7と同様の混合・成形加工条件で成形し、実施例8の樹脂加工品を得た。
【0098】
(実施例9)
実施例8において、熱可塑性樹脂の配合量を44.2質量部とし、強化繊維の配合量を25質量部とし、酸化防止剤の配合量を0.3質量部とし、無機充填剤として粒径2μmのタルク(日本タルク社製)7質量部及びナノ粒径のクレー(日商岩井ベントナイト(株)社製:ナノマー1.30T)4質量部を用い、難燃剤として実施例1の化合物を粉砕処理して平均粒径30μmとしたものを16質量部、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレートオリゴマー(日本化成(株)社製)を3質量部用いた以外は実施例8と同様の混合・成形加工条件で成形し、実施例9の樹脂加工品を得た。
【0099】
(実施例10)
熱可塑性樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ株式会社製:トレコン1401X06)を51.3質量部、難燃剤として実施例1の化合物を粉砕処理して平均粒径40μmとしたものを16質量部、架橋剤としてピロメリット酸テトラアリルエステル(東京化成工業(株)社製)を3質量部、無機充填剤として粒径2μmのタルク(日本タルク社製)5質量部及びナノ粒径のクレー(日商岩井ベントナイト(株)社製:ナノマー1.30T)4質量部、着色剤としてカーボンブラック0.5質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)0.2質量部を加えて混合した。
次いで、245℃に設定したサイドフロー型2軸押出し機を用いて上記混合物を溶融し、更に、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)20質量部を、押出し混練を用いてサイドから溶融した上記混合物に混ぜ込み樹脂ペレットを得た後、該樹脂ペレットを130℃で3時間乾燥させたのち、射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度250℃、金型温度80℃、射出圧力78.4MPa、射出速度120mm/s、冷却時間15秒の一般的な条件で成形した後、この成形品に、住友重機社製の加速器を用い、加速電圧4.8MeVで、照射線量40kGyの電子線を照射して、実施例10の樹脂加工品(電気・電子部品並びに自動車用の成形品)を得た。
【0100】
(実施例11)
実施例10において、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(東ソー(株)社製:サスティールG−10)を48.3質量部用い、架橋剤として上記式(II‐6)の化合物を6質量部用いた以外は実施例10と同様の混合・成形加工条件で成形し、実施例11の樹脂加工品(電気・電子部品並びに自動車用の成形品)を得た。
【0101】
(実施例12)
実施例11において、熱可塑性樹脂としてエチレン‐ビニルアルコール共重合体((株)クラレ製:エバールL101)を48.3質量部用い、架橋剤としてトリメリット酸トリアリルエステル(東京化成工業(株)社製)を2質量部用い、難燃剤の配合量を20質量部とした以外は実施例11と同様の混合組成・成形加工条件で成形品を得た。その後、上記成形品にコバルト60線源から照射線量15kGyのγ線を照射して実施例12の樹脂加工品を得た。
【0102】
(実施例13)
実施例11において、熱可塑性樹脂として低密度ポリエチレン(日本ユニカー(株)製:ナックフレックスDFDJ−1137)を43.3質量部用い、架橋剤としてトリメタリルイソシアヌレート(日本化成(株)社製)を2質量部用い、難燃剤の配合量を25質量部とした以外は実施例11と同様の混合組成・成形加工条件で成形品を得た。その後、上記成形品にコバルト60線源から照射線量15kGyのγ線を照射して実施例13の樹脂加工品を得た。
【0103】
(実施例14)
主剤(長瀬ケミカル社製:XNR4012)100質量部に、硬化剤(長瀬ケミカル社製:XNH4012)50質量部及び硬化促進剤(長瀬ケミカル社製:FD400)1質量部を混合して得られた熱硬化性エポキシ系モールド樹脂の45質量部に、シリカ(富士シリシア社製:サイリア530)45質量部を分散させ、難燃剤として実施例1の化合物を粉砕処理して平均粒径20μmとしたものを10質量部添加してモールド成形品を得た。その後、上記成形品を、100℃、1時間反応させて実施例14の樹脂加工品(封止剤)を得た。
【0104】
(実施例15)
半導体封止用エポキシ樹脂(信越化学社製:セミコート115)84質量部に、難燃剤として実施例1の化合物を粉砕処理して平均粒径30μmとしたものを16質量部添加してモールド成形品を得た。その後、上記成形品を150℃、4時間反応させて実施例15の樹脂加工品(封止剤)を得た。
【0105】
(比較例1〜13)
実施例3〜15において、本発明の難燃剤を配合しなかった以外は、実施例3〜15と同様の混合・加工成形条件で成形し、比較例1〜13の樹脂加工品を得た。
【0106】
(比較例14)
実施例3において、強化繊維の配合量を15質量部とし、難燃剤として有機リン系の添加型難燃剤(三光化学社製:BCA)20質量部を用いた以外は実施例3と同様の混合・成形加工条件で成形し、比較例14の樹脂加工品を得た。
【0107】
なお、上記実施例3〜15および比較例1〜14の樹脂加工品における配合をまとめて表1及び表2(表中における各配合量の単位は質量部)に示す。
【0108】
【表1】


【0109】
【表2】

【0110】
<試験例>
実施例3〜15、比較例1〜14の樹脂加工品について、難燃性試験であるUL−94に準拠した試験片(長さ5インチ、幅1/2インチ、厚さ3.2mm)と、IEC60695−2法(GWFI)に準拠したグローワイヤ試験片(60mm角、厚さ1.6mm)を作製し、UL94試験、グローワイヤ試験(IEC準拠)、はんだ耐熱試験を行った。その結果をまとめて表3に示す。
なお、UL94試験は、試験片を垂直に取りつけ,ブンゼンバーナーで10秒間接炎後の燃焼時間を記録した。更に、消火後2回目の10秒間接炎し再び接炎後の燃焼時間を記録し、燃焼時間の合計と2回目消火後の赤熱燃焼(グローイング)時間と綿を発火させる滴下物の有無で判定した。
また、グローワイヤ試験は、グローワイヤとして先端が割けないように曲げた直径4mmのニクロム線(成分:ニッケル80%、クロム20%)、温度測定用熱電対として直径0.5mmのタイプK(クロメル−アルメル)を用い、熱電対圧着荷重1.0±0.2N、温度850℃で行った。なお、30秒接触後の燃焼時間が30秒以内のこと、サンプルの下のティッシュペーパーが発火しないことをもって燃焼性(GWFI)の判定基準とした。また、はんだ耐熱試験は、350℃のはんだ浴に10秒浸漬後の寸法変形率を示した。
【0111】
【表3】

【0112】
表3の結果より、実施例3〜15の樹脂加工品においては、難燃性はいずれもV−0と優れ、グローワイヤ試験においてもすべて合格しており、更に、はんだ耐熱試験後の寸法変形率も25%以下であった。また、実施例3と実施例4、実施例6と実施例7とをそれぞれ対比することで明らかなように、架橋剤を更に配合して架橋処理を施すことで、はんだ耐熱が向上した。
【0113】
一方、本発明の難燃剤を含有しない比較例1〜13においては、難燃性はHBと不充分であり、グローワイヤ試験においてもすべて不合格であり、更には、はんだ耐熱試験後の寸法変形率も実施例に比べて大幅に劣るものであった。また、難燃剤として、混練により樹脂と均一固溶する「添加型」の有機リン系難燃剤を用いた比較例14においては、難燃性はV−2と不充分であり、また添加した難燃剤が可塑化効果をもたらすため半田耐熱試験において、十分な結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、ハロゲンを含有しない、非ハロゲン系の難燃剤及び難燃性樹脂加工品として、電気部品や電子部品等の樹脂成形品や、半導体等の封止剤、コーティング塗膜等に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I‐a)の化合物とメラミンとを反応させ、脱水縮合又は脱塩化水素縮合によりリン酸アミド結合を形成して得られる三次元網目構造のペンタエリスリトールジホスフィン酸系化合物を含有することを特徴とする難燃剤。
【化1】


(式中、XはOH又はClである。)
【請求項2】
下式(I)の構造で表される三次元網目構造のペンタエリスリトールジホスフィン酸系化合物を含有することを特徴とする難燃剤。
【化2】


(式中、Rは、sym‐トリアジン‐2,4,6‐トリイル基であり、Rは、下記式(A)で表される基である。)
【化3】

【請求項3】
請求項1又は2に記載の難燃剤と、樹脂とを含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の全体に対して、前記難燃剤を1〜30質量部含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
無機充填剤を更に1〜45質量%含有する請求項3に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機充填剤は、シリケート層が積層してなる層状のクレーを含有し、前記層状のクレーを前記樹脂組成物の全体に対して1〜10質量%含有する請求項4に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
強化繊維を更に5〜50質量%含有する請求項3〜5のいずれか一つに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
主骨格の末端に不飽和基を少なくとも一つ以上有する多官能性のモノマー又はオリゴマーである架橋剤を更に含有する請求項3〜6のいずれか一つに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
前記架橋剤は、主骨格にリンを含有する有機リン系反応性難燃剤である請求項7に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれか一つに記載の難燃性樹脂組成物を成形又は塗膜化して得られたものであることを特徴とする難燃性樹脂加工品。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の難燃性樹脂組成物を成形又は塗膜化した後、電子線又は放射線の照射によって前記樹脂と前記架橋剤とを反応させて得られたものであることを特徴とする難燃性樹脂加工品。

【公開番号】特開2007−277473(P2007−277473A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108394(P2006−108394)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】