説明

雨水排水支援制御装置

【課題】雨水流入予測を行なうためのデータを逐時取得して、演算処理を行なうことにより逐次的な流入予測を精度よく行なうことができる雨水排水支援制御装置を提供すること。
【解決手段】雨水排水支援制御装置はデータセンタ30と、複数の雨水排水施設50とに配置されている。各雨水排水施設50には各種パラメータを含む予測モデルを有する支援情報予測部23と、データ送受信部26とが設けられている。データセンタ30には、支援情報予測部23の予測モデルのパラメータを調整する予測精度診断機能30fが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下水道システムにおける雨水排水設備の制御技術に係わり、特に複数設置された雨水排水施設用の支援制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
雨水排水制御においては、ポンプ場等への流入に対して、適切なタイミングで雨水ポンプや流入ゲートを操作することが求められている。この要求に対して、ポンプ場に「いつ、どのくらいの雨水流入があるか」という情報を精度よく把握できれば、雨水ポンプの起動停止や流入ゲートの開閉のタイミングを正確に把握できる。
【0003】
これらを把握するための各種情報としては、レーダ雨量計、地上雨量計、管渠内水位計等から得られる計測値があり、これらの計測値をもとに流出解析、流入量予測が行なわれ、この流出解析や流入量予測を活用した制御が検討され、一部実施されている。
【0004】
雨水流入量を予測する方法としては、物理モデルや懸念モデルを用いて降雨の流出の時間的な変化を追跡するホワイトボックス的なアプローチ(拡張RRL法、汎用流出解析ソフト(MOUSEなど)の水理学モデル、水文学モデルに基づく)と、過去の降雨量と流入量のデータのみから予測モデルを構築するブラックボックス的なアプローチ(システム同定手法、重回帰分析など)がある。なお、拡張RRL法は特許文献1に開示され、システム同定手法を適用した流入量予測は例えば特許文献2に開示されている。
【0005】
また、流入量予測結果を基にしたポンプ制御に関しては、設定水位自動制御を基本として、流入量予測値を用いて設定水位の変更を行なう予測制御などがある。これは、特許文献3において、ポンプ井への雨水流入量とポンプ定格に基づいてポンプの運転台数を予測計算する手法として提案されている。また、雨水流入量予測および雨水ポンプ制御を海外の汎用ソフト(MOUSE等)を用いて行なうシステムが国内に浸透しつつある。汎用ソフトはもともと雨水流出解析のシミュレータとしてオフラインで使用されてきたものであったが、監視制御システムと連結してオンラインの動作も可能となってきている。
【0006】
さらに特許文献4に示す雨水流入量予測装置も知られている。
【0007】
また、雨水排水施設の運転においては、気象状況も有用な情報となる場合が多いが、特許文献5に示す細密気象モデルを用いた気象情報(特開2003−344556)も考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−147960号公報
【特許文献2】特開2000−257140号公報
【特許文献3】特開2000−328642号公報
【特許文献4】特開2000−56835号公報
【特許文献5】特開2003−344556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、ポンプ場等の雨水排水設備は、雨水流入量の予測技術の進歩によりその精度が向上しているが、各雨水排水設備毎で独自に運用が行なわれいるため、広域雨水排水制御という観点からは、必ずしも充分な制御が出来ていなかった。
【0010】
また、各々の設備にの運転を行うための人員を配備する必要もあるため、広域雨水排水制御という観点からは、多数の人員が必要となり、問題があった。
【0011】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、広域で雨水排水制御を行うため、複数の雨水排水設備を統括するデータセンタを設け、このデータセンタから各雨水排水設備の運用に必要な支援情報を各雨水排水設備に提供することにより、広域の雨水配水制御を効果的、かつ効率的に行う雨水排水支援制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、データセンタと、データセンタに連結された複数の雨水排水施設に設置される雨水排水支援制御装置において、各雨水排水施設に設けられ、当該雨水排水施設の運転予測を行なう各種パラメータを含む予測モデルを有する支援情報予測部と、データセンタに設けられ、各雨水排水施設に設置された支援情報予測部の予測精度を診断する予測精度診断部とを備え、各雨水排水施設に、支援情報予測部とデータセンタの予測制度診断部との間で信号の送受信を行なうデータ送受信部を設けたことを特徴とする雨水排水支援制御装置である。
【0013】
また本発明は、データセンタと、データセンタに連結された複数の雨水排水施設に設置される雨水排水支援制御装置において、各雨水排水施設に設けられ、当該雨水排水施設の運転予測を行なう各種パラメータを含む予測モデルを有する支援情報予測部と、データセンタに設けられ、各雨水排水施設に設置された支援情報予測部の予測モデルのパラメータを調整するパラメータ調整部とを備え、各雨水排水施設に、支援情報予測部とデータセンタのパラメータ調整部との間で信号の送受信を行なうデータ送受信部を設けたことを特徴とする雨水排水支援制御装置である。
【0014】
本発明は、データセンタと、データセンタに連結された複数の雨水排水施設に設置される雨水排水支援制御装置において、データセンタに設けられ、各雨水排水施設の運転予測を行なう各種パラメータを含む予測モデルを有する支援情報予測部と、データセンタに設けられ、支援情報予測部の予測モデルのパラメータを調整するパラメータ調整部と、各雨水排水施設側に設置され、支援情報予測部で予測された運転状態が送られる携帯端末とを備え、データセンタに、支援情報予測部と、携帯端末との間で信号の送受信を行なうデータ送受信部を設けたことを特徴とする雨水排水支援制御装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上述のように、複数の雨水排水設備を統括するデータセンタを設け、このデータセンタから各雨水排水設備の運用に必要な支援情報を各雨水排水設備に提供することにより、広域の雨水排水制御を効果的、かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明による雨水排水支援制御装置が設置されるデータセンタと雨水排水処理施設を示す図。
【図2】図2は、雨水排水支援制御装置の第1の実施の形態を示す概略構成図。
【図3】図3は、本発明による雨水排水支援制御装置の第1の実施の形態の構成を示すブロック線図。
【図4】図4は、本発明による雨水流入量予測部の構成を示すブロック線図。
【図5】図5は、図4の降雨量計測器の配置例を示す図。
【図6】図6は、図4に示す寄与降雨量演算部が用いる流入寄与関数の例を示す図。
【図7】図7は、図8に示す非線形予測モデルを示す概略図。
【図8】図8は、データセンタの構造を示す図。
【図9】図9(a)、(b)は、図3におけるデータセンタに設けられた予測精度診断機能に関する表示部の画面表示内容を示す説明図。
【図10】図10(a)、(b)は、本発明の実施例で採用された精度診断機能を有する表示部の表示画面を示す説明図。
【図11】図11は、本発明による雨水排水支援制御装置の第2の実施の形態の構成を示すブロック線図。
【図12】図12は、データセンタにおける処理内容を示すフローチャート。
【図13】図13は、降雨量と降雨強度との関係により雨量データ分類を行なうことを示す図。
【図14】図14は、本発明による雨水排水支援制御装置の第3の実施の形態の構成を示すブロック線図。
【図15】図15は、図14におけるデータセンタに設けられた気象情報に関する表示部の画面表示内容を示す説明図。
【図16】図16は、本発明による雨水排水支援制御装置の第4の実施の形態を示す概略構成図。
【図17】図17は、本発明による雨水排水支援制御装置を示すブロック線図。
【図18】図18は、雨水排水支援制御装置の作用を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず図1により、本発明による広域の雨水排水支援制御の概略構成について説明する。下水処理場Aまたは雨水ポンプ場B等からなる複数の雨水排水施設50は、伝送路を介して、各雨水排水設備へ支援情報を適用するデータセンタ30に接続されている。図1では、雨水排水設備は2箇所が図示されているが、もちろん3箇所以上でも構わない。
【0018】
雨水排水施設50は下水処理場Aまたは雨水ポンプ場Bからなり、いずれもポンプ井5aと、ポンプ井5a内に設置された雨水ポンプ5と、雨水ポンプ5の出口側に設けられた吐出弁6とを備えている。各ポンプ井5aの入口には流入ゲート4が設置され、流入ゲート4の入口側および出口側には各々流入渠水位計13、水位計9が設けられている。
【0019】
また下水処理場Aにおいては、水位計13、9からの信号が制御演算部20に入力され、制御演算部20により雨水ポンプ5、流入ゲート4および吐出弁6が制御される。
【0020】
また雨水ポンプ場Bにおいては、水位計13、9からの信号が制御演算部20に入力され、この制御演算部20により雨水ポンプ5、流入ゲート4および吐出弁6が制御される。
【0021】
また下水処理場Aにおいて、流入幹線1および流入渠2を経てポンプ井5a内に流入雨水が流入する。また雨水ポンプ場Bにおいて、ポンプ井5a内に流入雨水が流入する。
【0022】
さらに下水処理場Aおよび雨水ポンプ場Bにおいて、ポンプ井5a内に流入した雨水は雨水ポンプ5によって、河川へ排水されるようになっている。
【0023】
また制御演算部20は、上述のように流入ゲート4、雨水ポンプ5および吐出弁6を制御するものであり、制御演算部20には地上雨量計11から降雨量信号が入力される。また制御演算部20には、データ収集手段10(図1では代表例として雨量レーダデータ処理装置12aを図示)が接続されている。
【0024】
このうち雨量レーダデータ処理装置12aには雨量レーダ12が接続されている。図1では、雨量レーダデータ処理装置12a及び雨量レーダ12は下水処理場Aの制御演算部20に接続しているが、ポンプ場Bの制御演算部20にも同様に接続されていてもよい。
【0025】
<第1の実施の形態>
以下、図2乃至図12により、本発明による雨水排水施設用の雨水排水支援制御装置の第1の実施の形態について説明する。本実施の形態は、各雨水排水施設での雨水流入量予測機能に関する精度診断をデータセンタで行う形態である。
【0026】
図2は、本実施の形態の雨水排水支援制御装置の概略を示す図である。図2に示すように、雨水排水支援制御装置であるデータセンタ30は、複数の雨水排水処理施設50(下水処理場、雨水ポンプ場等)に接続されており、雨水排水処理施設50には、地上雨量計11、レーダ雨量計12、流入渠水位計13および流出量計14からなるデータ収集手段10が接続されている。
【0027】
データセンタ30は、制御部30bと、制御部30bに連結された表示部30aおよび入力部30cと、データ送受信部30dとが設置されている。
【0028】
また各雨水排水処理施設50は、ポンプ、ゲート設備等の制御対象を制御するコントローラ部28と、コントローラ部28からの制御信号に基づいて所定の制御演算を行う制御演算部20とから構成されている。ここで制御演算部20は、雨水排水処理施設50に流入する雨水流入量を予測する予測モデルを有する支援情報予測部(流入量予測部)23と、さらにデータセンタ30との間で信号の送受信を行なうデータ送受信部26が設けられている。
【0029】
図3は、雨水排水支援制御装置の具体的な構成を示す図であり、データ収集手段10および制御演算部20と、データセンタ30との関係を示している。
【0030】
データ収集手段10は、地上流量、レーダ流量、流入渠水位および流出量のデータを収集する。データ収集手段10は、下水流入経路に沿って配された4種の計測手段、すなわち地上雨量計11、レーダ雨量計12、流入渠水位計13および流出量計14を有し、これら各検出手段からの検出データを得て制御演算部20に送る。
【0031】
制御演算部20は、これら検出データに基づいて流入量を予測して予測結果を他の要素に供給したり、排水機場のポンプを運転制御したりする。そのために、データ収集部21、データ記憶部22、支援情報予測部(流入量予測部)23、演算部24、データ送受信部26、および気象データ部27を有する。
【0032】
データ収集部10は、地上雨量計11、レーダ雨量計12、流入渠水位計13および流出量計14からの各データを収集し、データ記憶部22に格納する。データ記憶部22は、流入量予測部23に対して格納されているデータ中から予測に必要なデータを供給する。流入量予測部23は流入量を予測し、予測された流入量予測結果は、演算部24に与えられて必要な単位変換等の演算処理が施された上で、運転支援部25および通信部26に与えられる。
【0033】
運転支援部25は、予測装置20の予測結果を利用してコントローラ部28を介してゲート設備の吐出弁VおよびポンプP等の制御対象の運転を制御し、下水流入量に応じて流入渠からの流出量を制御する。
【0034】
また、データ送受信部26は、データセンタ30との信号の送受信を行うもので、演算部24からの予測結果だけでなく、データ収集部21からのデータを含め、各種通信線(各種回線およびネットワーク)を介してデータセンタ30に送信し、またそれらから制御演算部20へのデータの取り込みを行なう。
【0035】
ここにおいて、制御演算部20における各要素21乃至28の動作は、監視制御部29との信号およびデータの授受を伴いつつ制御される。そして、信号およびデータならびに制御内容は、表示部29aに表示され、また監視制御部29の動作は入力部29bによる入力に応じて定められる。
【0036】
ここでは、このようにプロセスフロー画面の部品を使って表示することで、従来技術のように新規に画面を作成することなく、流入予測の表示が可能となる。
【0037】
また、流入予測機能に関する入出力項目、例えば、ポンプ吐出量、流入渠水位などを固定化し、モデルを都度作成しないことで、設計時間、調整時間やコスト削減を図ることができる。
【0038】
次に図4は、各雨水排水施設50の各構成の機能の面から説明するための図である。なお、この図は、基本的に図3と対応するものである。
【0039】
図4に示すように、現在までの降雨量を計測する降雨量計測部1Aと、対象施設に流入する現在までの雨水流入量を計測する流入量計測部3Aとが設けられ、降雨量計測部1Aには、降雨量計測部1Aが計測した現在までの降雨量に基づいて、例えば線形予測法などによって将来の降雨量を予測する降雨量予測部2Aが接続されている。
【0040】
また、降雨量計測部1A及び流入量計測部3Aは、モデル同定部4Aに接続されている。
【0041】
モデル同定部4Aには、モデル同定部4Aによって決定された非線形予測モデルに従って、降雨量予測部2Aによって予測された将来の降雨量に基づいて対象施設に流入する将来の雨水流入量を予測する予測部5Aが接続されている。
【0042】
なお、図4において、降雨量予測部2Aと、モデル同定部4Aと、予測部5Aとによって流入量予測部23が構成され、また図4において流入量予測部23の作用を説明するため、流入量計測部3Aおよび降雨量計測部1Aを便宜上示す。このうち流入量データ記憶部3mと降雨量データ記憶部1mはデータ記憶部22に対応し、流入量計測器3Sと降雨量計測器1Sはデータ収集手段10に対応している。
【0043】
降雨量計測部1Aは、図4に示すように、対象施設が対応する領域内に複数設けられた降雨量計測器1sと、各降雨量計測器1sが計測した物理量データを降雨量データに変換する降雨量演算部1pと、降雨量演算部1pによって演算された降雨量データからノイズ成分を除去するノイズ低減部1rと、ノイズ成分を除去された降雨量データを記憶する降雨量データ記憶部1mとを有している。
【0044】
各降雨量計測器1sは、一般に地上雨量計やレーザ雨量計で構成され、例えば図5に示すように、対象流域(対象施設が対応する領域)内を略均等に分割する部分領域の略中心A,B,Cに設けられる。降雨量計測器1sとして、地上雨量計11およびレーダ雨量計12を用いてもよい。
【0045】
降雨量演算部1pは、テレメータなどの送受信器を介して、各降雨量計測器1sに電気的に接続されている。
【0046】
ノイズ低減部1rは、デジタルローパスフィルタとして、デジタルの遮断周波数ωdに基づいて、データのサンプリング周期をTとしてアナログの周波数ωa=tan(ωdT)を計算し、ωaに関するアナログフィルタH(s)を設計し、これに双一次変換s=(z−1)/(z+1)を施して次式で示すデジタルフィルタ
【数1】

を設計することによって構成されている。あるいは移動平均、中間値処理などの数学的処理によるものであってもよい。
【0047】
一方、流入量計測部3Aは、図4に示すように、対象領域としてのポンプ場の入口や、貯留管の入口付近に設置された流入量計測器3sと、流入量計測器3sが計測した物理量データを流入量データに変換する流入量演算部3pと、流入量演算部3pによって演算された流入量データからノイズ成分を除去するノイズ低減部3rと、ノイズ成分を除去された流入量データを記憶する流入量データ記憶部3mとを有している。
【0048】
流入量計測器3sは、例えば流量計や水位計で構成される。流入量計測器3sとして、流入渠水位計13を用いてもよい。流入量演算部3pは、必要に応じてテレメータなどの送受信器を介して、流入量計測器3sに電気的に接続される。またノイズ低減部3rは、ノイズ低減部1rと略同様に構成される。
【0049】
モデル同定部4Aは、降雨量から雨水流入量を求めるための非線形予測モデル4mと、降雨量計測部1Aによって計測された現在までの降雨量と流入量計測部3Aによって計測された対象施設に流入する現在までの雨水流入量とに基づいて非線形予測モデル4mの次数及び係数パラメータを決定する変数決定部4dと、各降雨計測部1によって計測された雨水の現在までの降雨量データのうち、対象時点前の所定の先行降雨考慮時間分の先行降雨に基づいて、各流入寄与降雨量を演算する寄与降雨量演算部4cを有している。
【0050】
具体的には、寄与降雨量演算部4cは、対象時点前の所定の先行降雨考慮時間分の先行降雨に対して、図6(a)や図6(b)に示すような流入寄与関数を掛け合わせることによって、対象時間に近い先行降雨をより重視した流入寄与降雨量を求めるようになっている。
【0051】
そして変数決定部4dは、寄与降雨量演算部4cによって演算された複数の流入寄与降雨量と、流入量計測部3によって計測された対象施設に流入する現在までの雨水流入量とに基づいて、非線形予測モデル4mの次数及び係数パラメータを決定するようになっている。
【0052】
非線形予測モデル4mは、複数入力のBlock-orientedモデルとして構成されており、具体的には、図7に示すようなモデルである。Block-orientedモデルは、線形の伝達関数と非線形要素を、任意の個数かつ任意の配置で組合わせたものである。図7に示す場合、モデルの入力側に多項式で表される非線形要素を有している。図7において、n,m,l,pは次数であり、a,b,c,dはパラメータである。
【0053】
また、降雨量予測部2Aは、各降雨量計測部1Aが計測した降雨量データに基づいて、各降雨量計測部1Aに対応する複数の将来の予測降雨量データを予測するようになっている。さらに降雨量予測部2Aは、寄与降雨量推定部2cを有しており、複数の将来の予測降雨量データから、複数の将来の流入寄与降雨量を推定するようになっている。寄与降雨量推定部2cによる演算は、図6(a)、図6(b)を用いて説明した寄与降雨量演算部4cによる演算と略同様である。
【0054】
そして流入量予測部5Aは、モデル同定部4Aによって決定された複数入力のBlock-orientedモデルに従って、複数の将来の流入寄与降雨量(予測降雨量データに基づいている)に基づいて、対象施設に流入する将来の雨水流入量を予測するようになっている。
【0055】
図8はデータセンタ30の外観を示す図であり、データセンタ30は制御部30bを中心に、表示部30aと、キーボード等の入力部30cと、データ送受信部30dと、及び記憶部30eに接続されている。
【0056】
図9(a)は、データセンタ30に設けられた表示部30aの画面表示内容を示したものである。図9(a)はプロセスフロー画面であり、この図9(a)における左側に排水機場における排水路およびポンプが図示されるとともに、1分当たり流入量「1200.0m/min」が、また中央および右側には、現在、5分後および10分後の3時点の流入量がグラフ表示されている。
【0057】
ここでは、このようにプロセスフロー画面の部品を使って表示することで、従来技術のように新規に画面を作成することなく、流入予測の表示が可能となる。
【0058】
また、流入量予測機能に関する入出力項目、例えば、ポンプ吐出量、流入渠水位などを固定化し、モデルを都度作成しないことで、設計時間、調整時間やコスト削減を図ることができる。
【0059】
そして、図9(b)は、表示部30aのもう一つの画面表示内容を示したもので、流入量予測データと実績データとを重ねて表示することにより両者間の差が明確化されるようにしている。
【0060】
次に、以上のような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。
【0061】
まず各降雨量計測部1Aの降雨量計測器1sが降雨量を計測し、雨水排水処理施設50内の降雨量演算部1pが各降雨量計測器1sに計測された物理量データを降雨量データに変換し、ノイズ低減部1rがローパスフィルタとして降雨量演算部1pによって演算された降雨量データからノイズ成分を除去し、降雨量データ記憶部1mがノイズ成分を除去された降雨量データを記憶する。また、これと共にデータ送受信部26を介してデータセンタ30にも降雨量データを送信する。データセンタ30では、受診した降雨量データをデータセンタ30の記憶部30eに記憶する。
【0062】
一方、各流入量計測部3の流入量計測器3sが流入量を計測し、雨水排水処理施設50内の流入量演算部3pが流入量計測器3sに計測された物理量データを流入量データに変換し、ノイズ低減部3rがローパスフィルタとして流入量演算部3pによって演算された流入量データからノイズ成分を除去し、流入量データ記憶部3mがノイズ成分を除去された流入量データを記憶する。また、これと共にデータ送受信部26を介してデータセンタ30にも流入量データを送信する。データセンタ30では、受診した流入量データをデータセンタ30の記憶部30eに記憶する。
【0063】
次に、雨水排水処理施設50内のモデル同定部4Aの寄与降雨量演算部4cが、各降雨量データに基づいて、対象時点前の所定の先行降雨考慮時間分の先行降雨に対して図6(a)あるいは図6(b)に示す流入寄与関数を掛け合わせて、対象時間に近い先行降雨をより重視した流入寄与降雨量を各々求める。
【0064】
そして変数決定部4dが、寄与降雨量演算部4cによって演算された複数の流入寄与降雨量と、流入量計測部3によって計測された対象施設に流入する現在までの雨水流入量とに基づいて、複数入力のBlock-orientedモデル4mの次数及び係数パラメータを決定する。
【0065】
具体的には、まずBlock-orientedモデル4mの伝達関数の次数n,m,lが、例えばAIC規範(赤池情報量規範)などによって求められる。次に、非線形の次数pが、非線形性の強さと推定パラメータの数を考慮して決定される。そして、伝達関数の係数と非線形項を表す多項式の係数a,b,c,d(iはパラメータの数に対応している)が、予測対象時点からみて過去における流入寄与降雨量と流入量データとの関係に最も近くなるように推定される。推定方法としては、例えば最小2乗法が用いられる。このようにして、Block-orientedモデル4mの次数及び係数パラメータが決定され、予測モデルが確立、決定される。
【0066】
一方、降雨量予測部2Aが、各降雨量計測部1Aが計測した降雨量データに基づいて、各降雨量計測部1Aに対応する複数の将来の予測降雨量データを予測する。ここで降雨量予測部2Aの寄与降雨量推定部2cが、寄与降雨量演算部4cと略同様にして、複数の将来の予測降雨量データから複数の将来の流入寄与降雨量を推定する。
【0067】
そして流入量予測部5Aが、モデル同定部4Aによって決定された複数入力の予測モデル(Block-orientedモデル)に従って、複数の将来の流入寄与降雨量に基づいて、対象施設に流入する将来の雨水流入量を演算し、予測する。
【0068】
この結果に基づき、コントローラ28を介して、雨水ポンプ5、吐出弁6、流入ゲート4等を制御し、運転を行う。
【0069】
以下に予測精度診断についての具体的手順について説明する。
【0070】
このような状態で、雨水排水施設50のオペレータが、支援情報予測部23の予測精度診断を行いたいときは、入力部29bより、予測精度診断を受けたい期間(日時、時間等)を指定し、予測精度診断依頼の入力を行う。
【0071】
これを受けて、監視制御部29は、支援情報予測部23から指定された期間に対応する予測値を読み出し、依頼元の雨水処理場を特定する信号を付加して予測精度診断依頼信号を作成し、データ送受信部26を介して、データセンタ30に送信する。
【0072】
データセンタ30では、この予測精度診断依頼信号を受取ると、依頼元の処理場を確認し、指定された期間の実測値を、データセンタ30内の記憶部から読み出す。そして、記憶部から読み出したデータと、精度診断依頼元から送信されてきた予測データとを比較する。
【0073】
図10(a)、(b)により、精度診断機能30fに関するデータセンタ30の表示部30aにおける表示画面を示す。図10(a)は流入量の予測データおよび実績データの経時変化の様子をグラフ表示として表示し、図10(b)はそれら相互間の誤差を数値として表にして示している。例えば10:00では予測データが101mで実績データが100mであり、誤差が1mである。同様に、10:05、10:10と予測および実績の各データを比較していくことにより精度診断を行なうことができる。
【0074】
また、これらの精度診断結果から流入量予測値と同実績値との一致、不一致、及びデータの解離度等を算出し、その結果を予測精度診断レポートとして、依頼元の雨水排水処理施設50に送信する。
【0075】
雨水排水処理施設50では、データ記録部22に保存するため、雨水排水設備のオペレータは見たいときにデータ(データの値、トレンドグラフなど)を表示部29aに表示することにより、雨水排水処理施設50のオペレータが、予測精度が明確に認識できる。
【0076】
なお、上記実施の形態では、予測精度診断機能等は、データセンタ30に有しているが、これに限られない。例えば、データセンタ30が、自治体等の下水道関係施設に設けられる場合、その機能の一部を、当該システムの納入元の製造メーカ等が運用する運用センター等で分担し、前記データセンタ30と接続して、機能分担して実現してもよい。
【0077】
<第2の実施の形態>
次に、本発明による雨水排水施設用の雨水排水支援制御装置の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態に加えて、流入量予測に必要なパラメータ調整をデータセンタに追加した実施の形態である。
【0078】
本実施の形態の構成を図11に示す。基本構成は、第1の実施の形態の構成である図3と比較すると、データセンタ30の制御部30bに、パラメータ調整機能30gを追加した点が異なる。
【0079】
以下に、パラメータ調整処理の手順について説明する。
【0080】
上記の実施の形態で説明した精度診断機能で精度が劣化した場合は、過去のデータが多く蓄積できた場合に流入量予測のシステム同定にて導出されるパラメータを変更することになる。システム同定では、降雨データと流入量データ結果からパラメータを求める。そのデータを選ぶ場合は降雨の強さを分類して、小雨、通常降雨、大雨、長時間降雨、短時間降雨などに分類を行い、いろいろな成分を取り入れる必要がある。また、降雨が発生している前後だけのデータを使う必要があるのでその切り出しなど行い、パラメータを求める。
【0081】
図12は、制御演算部20の支援情報予測部23における予測モデルのパラメータを調整する処理内容をフローチャートとして示したものである。このパラメータの調整処理はデータセンタ30のパラメータ調整機能30gにおいて行なわれる。
【0082】
まず、雨水排水施設50のオペレータが、支援情報予測部23の予測精度診断を行いたいときは、入力部29bより、前記実施の形態で説明した予測精度診断を受けた結果、予測精度が良くないと判断した場合は、パラメータ調整依頼の入力を行う。
【0083】
これを受けて、監視制御部29は、支援情報予測部23で設定されているパラメータ情報を読み出し、依頼元の雨水処理場を特定する信号を付加してパラメータ調整依頼信号を作成し、データ送受信部26を介して、データセンタ30に送信する。
【0084】
次にデータセンタ30のパラメータ調整機能30gにより、流入量予測値と実際の流入量との間の流入量誤差が大きいか否かが判定される(ステップS1)。なお、実際の流入量は、流入渠水位計13の計測水位の変化により求められてデータ収集部21に入力される。
【0085】
いま流入量予測値とデータ収集部21により収集した実際の流入量との誤差が大きい場合は、ステップS2に移行して制御演算部20のデータ記憶部22からシステム同定データのパラメータを求めるために、過去のデータから過去の流入量データ、過去の雨量データを収集し、データセンタ30のパラメータ調整機能30gへ送られる。
【0086】
そして、ステップS3に移行して、パラメータ調整機能30gは、収集されたデータ中から雨が所定量以上降らなかった日を除外して所定量の降雨があった日、つまり雨量計測日の抽出が行なわれる。
【0087】
雨量計測日が検索できたら、パラメータ調整機能30gではステップS4により雨量計測日における雨量計測時間の抽出を行なう。
【0088】
まずデータ記憶部22に格納されたデータから雨量がはじめて計測された時刻を調べ、雨量が始めて計測された時刻の所定時間(例えば30分)前から所定時間(例えば2時間)後のデータを調べる(ステップS4)。
【0089】
そして、この間(2時間30分)が切り出し時間とされ(ステップS5)、この切り出し時間に該当する雨量計測データが抜き出される(ステップS6)。
【0090】
この抜き出されたデータについて、データセンタ30のパラメータ調整機能30gにおいて、ステップS7によりその土地の利用状況に応じて決まる降雨に対する排水施設への流入の係数である流出係数演算が行なわれる。そして、ステップS8による流域面積あたりの降雨量が計画流出係数との比較の結果が流域面積当たりの降雨量が計画流出係数に比べて良好(例えば、計画流出係数が0.6であれば、0.1や0.2などの数字は除外する)であれば(ステップS9)、雨量データの分類を行なう。良好でなければステップS7に戻り、改めて流出係数の演算を行ない、ステップS8,S9による処理を繰り返す。
【0091】
雨量データの分類は、降雨強度と降雨量との2次元平面に計測データをプロットして降雨強度と降雨量との関係から、図13に示すように、夕立、小雨、通常、台風、長雨の5項目に5分類し(ステップS10)、これら各分類項目ごとに少なくとも1つのデータを選択する。種々の降雨状況のデータを揃えることが予測精度を向上する上では欠かせない。
【0092】
また、これとは別にもう一つの検証用データを選択する。そして、ステップS11に移行して、データセンタ30のパラメータ調整機能30gにおいて、システム同定を行い、新しいパラメータを算出する。
【0093】
また、本件をマクロ、あるいはソフトウェア化することで作業効率が上がる。
【0094】
なお、上記実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、予測精度診断機能30fやパラメータ調整機能30g等は、データセンタ30に有しているが、これに限られない。例えば、データセンタ30が、自治体等の下水道関係施設に設けられる場合、その機能の一部を、当該システムの納入元の製造メーカ等が運用する運用センター等で分担し、前記データセンタ30と接続して、機能分担して実現してもよい。
【0095】
<第3の実施の形態>
次に、本発明による雨水排水施設用の雨水排水支援制御装置の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、データセンタ30に気象情報配信機能を追加した実施の形態である。
【0096】
本実施の形態の構成を図14に示す。基本構成は、第2の実施の形態の構成である図11に、データセンタ30に気象データ等を配信するサービスセンタ40を接続し、更にデータセンタ30の制御部30bに、気象情報配信機能30hを追加し、気象情報サービスで得られる予報を基に雨量を算出し、前記下水流入予測装置を改造した長期流入予測(1時間先から48時間先程度)を行えるようにした点が特徴である。
【0097】
なお、第1の実施の形態及び第2の実施の形態で説明した予測精度診断機能30f、パラメータ調整機能30gについては、本実施の形態においては必ずしも必要ではなく省略してもよい。
【0098】
ここで、サービスセンタ40から配信される気象情報としては、気象庁等から配信される雨量レーダ等でも構わないが、より精度の高い流入量予測を行うためには、例えば細密気象モデルを用いた気象情報(特開2003−344556)等を用いるとより効果的である。
【0099】
図15は、気象情報に関する表示例であり、上記予測装置20が流量予測の対象とする地区が日本地図上に濃いトーンで示されている。また、流入予測の画面表示図9(a)あるいは図9(b)と気象情報サービスの画面図15を同時あるいは切り替えで表示する。また、この画面には、気象現況とか天気予報とかの気象情報サービスを、併せてまたは単独で表示してもよい。
【0100】
気象情報サービスで得られる予報を基づいた長期流入予測によって、下水処理場またはポンプ場の人員配備計画支援、下水処理場またはポンプ場の気象情報の雨の予測を用いた管渠内貯留量演算による合流改善支援、下水処理場またはポンプ場の流入渠水位、ポンプ井水位および送水先処理場への送水計画支援などに使用することができる。
【0101】
なお、上記実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、予測精度診断機能、パラメータ調整機能30g、気象情報配信機能30h等は、データセンタ30に有しているが、これに限られない。例えば、データセンタ30が、自治体等の下水道関係施設に設けられる場合、その機能の一部を、当該システムの納入元の製造メーカ等が運用する運用センター等で分担し、前記データセンタ30と接続して、機能分担して実現してもよい。
【0102】
<第4の実施の形態>
次に図16乃至図18により、本発明による雨水排水施設用の雨水排水支援制御装置の第2の実施の形態について説明する。
【0103】
図16に示すように、雨水排水支援制御装置はデータセンタ30と、データセンタ30に連結された複数の雨水排水処理施設50に設置されており、このうち雨水排水処理施設50は下水処理場A、雨水ポンプ場Bからなり、単一のデータセンタ30の周囲に複数配置されている。この場合、雨水排水処理施設50は、前述の第1乃至第3の実施の形態の雨水排水処理施設50と略同一の構成を有している。
【0104】
データセンタ30は、支援情報予測部(支援情報演算部)202と、パラメータ調整部30bと、表示部30aと、入力部30cとを有している。またデータセンタ30には支援情報予測部202と、雨水排水処理施設50および雨水排水処理施設50側に設置された複数の携帯端末206との間で信号の送受信を行なうデータ送受信部30dが設けられている。
【0105】
各雨水排水処理施設50は、ポンプ、ゲート設備等の制御対象を制御するコントローラ部28と、データ送受信部26とを有する制御演算部20を備えている。
【0106】
また各雨水排水処理施設50には、地上雨量計11、レーダ雨量計12、流入渠水位計13および流出量計14からなるデータ収集手段10が設けられ、データ収集手段10の各種検出手段からの検出データが制御演算部20に送られるようになっている。
【0107】
次に図17により、予測装置121について説明する。予測装置121はデータセンタ30内に設置され、予測装置121は雨水排水処理施設50への雨水流入量を予測する流入予測部202aと、流入予測部202aで予測した雨水流入量に基づいて雨水排水処理施設50に設置された雨水ポンプ5および流入ゲート4(図1参照)の運転状態を求める運転予測部202bとからなる支援情報演算部202と、支援情報演算部202と各携帯端末206との間で信号の送受信を行なうデータ送受信部30dとを備えている。
【0108】
このうち各々の携帯端末206は、雨水排水処理施設50側に設置され、具体的には下水処理場Aまたは雨水ポンプ場Bの運転員が携帯している。
【0109】
また予測装置121のデータ送受信部30dには、携帯端末206の位置を検出する位置情報検出部207が接続され、さらに予測装置121には位置情報検出部207からの信号に基づいて携帯端末の位置が予め定められた範囲外にあるか否か判定する位置情報判定部203が設けられている。
【0110】
ところでデータ送受信部30dと携帯端末206との間、およびデータ送受信部30dと下水処理場Aの制御演算部20との間はADSL、IP−VPN等の専用回線で接続され、また下水処理場Aの制御演算部20と雨水ポンプ場Bの制御演算部20との間は光ファイバ等のネットワークにより接続されている。
【0111】
ここで、下水処理場Aの制御演算部20および雨水ポンプ場Bの制御演算部20は、いずれもコントローラ部28と、外部との間で信号の送受信を行なうデータ送受信部26とを有している。
【0112】
更に支援情報演算部202には、パラメータ調整部30bが接続され、パラメータ調整部30bには、表示部30aと入力部30cとが各々接続されている。
【0113】
支援情報演算部202の流入予測部202aと運転予測部202bは、各パラメータを含む流入予測モデルと運転予測モデルを有し、これら流入予測モデルと運転予測モデルのパラメータはパラメータ調整部230bにより調整される。またパラメータの調整は入力部30cからの入力信号によって行なわれ、支援情報演算部202の制御内容は表示部30aに表示される。
【0114】
次にこのような構成からなる本実施の形態の作用について図18により説明する。
【0115】
なおここで述べる作用は、データセンタ30内の予測装置121により下水処理場Aおよび雨水ポンプ場Bの雨水ポンプ5が運用される場合の作用である。
【0116】
図17および図18に示すように、まず、データセンタ30の支援情報演算部202の流入予測部202aにおいて、流入量予測モデルを構築し、その流入量予測モデルを基に流入量予測値を演算する。この際、流入量予測モデルは、パラメータ調整部30bにより地上雨量計11からの降雨量信号、雨水ポンプ5の運転状況、水位計13からの流入渠水位、水位計9からのポンプ井水位、流入ゲート4の運用状況などの各信号を基にオフラインで予め決定しておく(図1参照)。あるいは流入予測部202aに予測モデルをオンラインで逐次的にパラメータ調整部30bを介して更新するような機構を設けておいてもよい。このようにオンラインで逐次的に予測モデルを更新することにより、流域の変化に追従してモデル更新がなされ、予測精度の劣化を抑えることができる。
【0117】
このオンラインで逐次的にモデルを更新する手法の代表的な手法としては、システム同定手法における逐次最小2乗法が知られている。この逐次最小2乗法は計算負荷が少なく、比較的小規模な計算機でも実装ができると同時にプロセスの変動に追従してモデルパラメータの更新ができるという利点があるが、雨水排水の分野では実用例はない。しかし、雨水排水プロセスのように、プロセスの変動が自然現象の複合要因の結果として表われ、変動が生じやすい系に対しては、モデル更新手段を設けておくことは非常に有効であることから、予測モデルをオンラインで逐次的に更新するような機構は有効である。
【0118】
次に流入予測部202aで求めた流入量予測結果を基に支援情報演算部202の運転予測部202bで、ポンプの運転予測を行なう。運転予測手法に関しては、流入量予測値を基に直接ポンプ運転台数を判定してもよく、また流入予測値を入力とし、ポンプ井水位予測値を出力とするポンプ井水位予測モデルを別途構築し、ポンプ井水予測値を基にポンプ運転台数を判定してもよい。
【0119】
また、従来から行なわれている固定のポンプ井水位設定値を用いた設定水位自動制御に対して、流入量予測値を基に設定水位補正量を演算し、その値を基に設定水位を変更することにより、ポンプの起動停止タイミングを変えるポンプ運転の予測を行なってもよい。また、汎用流出解析ソフトの場合は、そのソフト自身が持っているポンプ制御機能を用いる。なお、各種設定水位およびポンプ台数制御用の運転順序はプロセス制御装置11から与えられる。
【0120】
次に支援情報演算部202の運転予測部202bから出力されるポンプ起動に関する予測値が、データ送受信部30dから携帯端末206に対して配信される。配信結果を受けて、運転員は、機場へ直行して手動操作を行なうか、携帯端末206から直接雨水ポンプ5やゲート4の操作を行なうかの判断を行なう(図1および図17参照)。
【0121】
例えば、降雨時に何分後かに無人の雨水ポンプ場Bへ雨水の流入が予測されて、その支援情報が雨水ポンプ場Bの運転員が所有する携帯端末206に配信されたとする。この支援情報が地上雨量計11に基づく、10分から30分先程度の比較的短時間先の予測情報であり、雨水流入時刻までに運転員が雨水ポンプ場Bへ到着することが困難である場合は、携帯端末206を通して雨水ポンプ場Bの雨水ポンプ5の起動指令を行なう。このことにより、早いタイミングでの対応が可能となり、浸水被害の危険性から雨水ポンプ場Bを守ることができる。また、支援情報がレーダ雨量計12に基づいて求められた1時間以上先の予測情報である場合は、余裕を持って雨水ポンプ場Bへ向かうことができ、来るべく雨水流入への対応を安心して行なうことが期待できる。
【0122】
なお、データ送受信部30dから携帯端末206へ送られる支援情報の内容としては、何分後かの雨水流入量やポンプ井の予測値、雨水ポンプ運転予測時刻の予測データのみでもよいし、これらのデータに加えて推奨する操作、判断をメッセージ形式にして、かつその支援項目を携帯端末の画面上で選択するのみで、操作を実行できるような支援情報としてもよい。なお、携帯端末206の操作を実行する場合には、誤操作防止のため、操作選択後実行前に確認操作を入れるものとする。
【0123】
また、データ送信部30dから専用回線を介して、携帯端末206へ支援情報を送信する場合、受信者である運転員が、対応が必要な雨水ポンプ場Bへ即座に移動することが困難であったり、携帯端末206からその雨水ポンプ場Bの機器操作を行なうのが困難であるような遠方にいることがある。その場合は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)などの位置情報検出部207により携帯端末206の位置を検出し、この位置情報を基に位置情報判定部204により運転員の場所が遠方か否かを判定し、その運転員に対しては、支援情報表示のみ提供し、携帯端末を通して操作することができないよう制限を設けることとする。
【0124】
また、携帯端末206から操作を行なう場合に、複数の運転員により操作が重複したり、ある運転員による適切な操作が、別の運転員による誤った操作により変更されてしまう可能性がある。これを防ぐために、操作情報判定部207を設け、操作する運転員の優先度設定、推奨する操作情報の支援情報として携帯端末206に配信する。また、携帯端末206を通して運転員が操作した場合、その操作情報がデータ送受信部30dから支援情報の配信を受けている運転員全員の携帯端末206に配信され、このようにして現状の操作状況を把握することができる。これにより、複数の運転員による操作の混乱、誤操作をまねかないようなシステムを構築できる。
【0125】
ここで、支援情報演算部202は、1つのみ実装するのではなく、複数実装してもよい。支援情報演算部202、202Aを複数実装することにより、実装した異なる複数の支援情報演算部202、202A間で、ある支援情報演算部202の演算結果を用いて雨水排水支援制御を行なっている場合に、この支援情報演算部202が正常に動作しなくなった場合でも、自動的に他の支援情報演算部202Aに切り替えることにより、雨水排水支援制御が継続できる。
【0126】
また、それら複数の支援情報演算部202、202Aの性能を予め定められた手法および周期で性能判定部202cにより判定しておき、予め定められた周期毎に最良の性能をもつ支援情報演算部202を用いて雨水排水支援制御を行なうことを考慮してもよい。
【0127】
異なる複数の支援制御出力の判定に関しては、性能判定部202cにおいて複数の支援情報演算部202、202Aの性能を予め定められた周期(例えば、制御周期。周期は運用に合わせて再設定できる)で、操作量やポンプ運転時間、ポンプ運転コストなどを指標とした最適制御により判定する。そして、予め定めた(運用に合わせた)周期毎に最適な制御性能をもつ支援制御モデルを選択し、その支援情報演算部202の出力をコントローラ部28に入力したり、データ送受信部30dを介して携帯端末206に配信を行なって、適切な雨水排水支援制御を行なう。
【0128】
なお、ある支援情報演算部202がセンサ値異常などの異常診断結果により正常に動作しないと判定された場合には、直ちに自動で他方の支援情報演算部202Aに切り替わり、その支援情報演算部202Aが動作するような機構を設ける。
【0129】
性能判定部202cにおいて上述した最適制御問題を解くことにより、雨水排水プロセスの制御問題を定量的に評価できるので、ポンプ運転時間を平準化し、運転切替回数を少なくすることができるような雨水排水支援制御方法および装置を提供することができる。上述のように性能判定部202cにおいて制御性能判定(異常診断に基づくもの判定と評価関数値に基づく判定)を行なうことにより、雨水排水支援制御の信頼性を向上させ、安定した雨水排水支援制御運用ができる。
【0130】
性能判定部202cにおいて最適制御系を構成する際、例えば、モデル予測制御の基本的な概念として知られているReceding horizon制御を適用する。このReceding horizon制御とは、最適化問題を解く区間をサンプリング周期毎にシフトしながらオンライン最適化を繰り返す制御であり、制約条件を陽な形で取り扱うことが可能である。つまり、制御入力やプロセス出力にかかる制約条件を直接制御アルゴリズムに反映させることができるという利点がある。この場合、制約条件としてはポンプ井水位の上下限を考慮する。以上により、与えられた雨水排水支援制御問題を、制約条件を含む最適化問題に帰着させることができる。
【0131】
性能判定部202cにおいて最適制御問題を解く手法としては、分岐限定法や遺伝的アルゴリズムなどの適用が考えられる。分岐限定法は、解空間上の部分空間を一括チェックし、当該空間内に解候補が存在しうるかどうかを事前に検証することで、不必要な検索手続きを予め排除することができ、演算時間はかかるものの最適解を探索できるという利点がある。遺伝的アルゴリズムは、最適解ではなく準最適解しか検索することができないが、局所的な極小解に陥りにくい点や高速演算が期待できるなどの利点がある。
【0132】
以上により、雨水排水支援制御問題に、モデル予測制御つまりReceding horizon制御を適用することにより制御系を体系的に扱うことができるとともに、常に最適な制御性能をもつ制御装置で雨水排水制御を行なうことができるので、ポンプ運転時間を平準化し、運転切替回数を少なくすることができ、運転オペレータの手動操作が介入するといった問題を解決できるような雨水排水支援制御系を確立することが期待できる。
【0133】
なお、上記までの方法は地上雨量計11を用いて雨水ポンプ場Bの流入量、ポンプ井流入量、ポンプ井水位を予測することを想定している。地上雨量計11のみだと、精度よい降雨予測が行なえないため、10分から15分先の予測が限界と思われる。予測装置121にレーダ雨量計12の情報を基にした降雨量や降雨強度の予測値を取り込むことにより、30分から数時間先の予測情報を取り入れた雨水排水支援制御装置を提供することも可能である。
【0134】
レーダ雨量計12により観測されたデータは、雨量レーダデータ処理装置12aにて各種データ処理が行なわれ、一定時間先までの降雨状況の予測が可能である(図1参照)。また、気象業務センター等から降雨状況の予測も含めた各種気象データが配信されている。雨量レーダデータ処理装置12aからの情報を伝送路を介してデータセンタ30の予測装置121へと送り、その降雨量や降雨強度の予測値をもとに、流入量予測を行なうことにより、30分から数時間先の流入量予測を行なうことができ、結果的に予測装置121の信頼性を高めることができる。
【0135】
また、上述した降雨予測や気象情報、流入量予測、水位予測などの各種予測情報、またそれらの現在値を用いて、天候モードを判定し、そのモードに基づいて雨水排水制御を行なうことも考えられる。
【0136】
具体的には、各種情報から小雨モードと判定された場合には、すぐに雨水排水は行なわず、ゲート4を制御して、予め設置してある増補幹線もしくは貯留管に降雨時初期の雨水を取りこむ。これにより汚濁濃度の高い初期雨水(ファーストフラッシュ)が下水処理場Aや雨水ポンプ場Bに流入することを抑制する運用ができる。一方で、小雨モードでない場合や、ポンプ井5aの水位が規定値以上に達した場合には、直ちに雨水排水制御を行なう。このように上述した各種予測情報を用いてモードを切り換えて雨水排水支援制御を行なうことにより、近年重要視されている合流改善問題にも対処することができる。
【0137】
なお、上記実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、支援情報演算機能や、パラメータ調整機能は、データセンタ30に有しているが、これに限られない。例えば、データセンタ30が、自治体等の下水道関係施設に設けられる場合、その機能の一部を、当該システムの納入元の製造メーカ等が運用する運用センター等で分担し、前記データセンタ30と接続して、機能分担して実現してもよい。
【0138】
上記実施の形態において、具体的なプロセスとして予測演算処理を用いた雨水排水ポンプ場における雨水排水プロセスを対象としているが、本実施例の考え方はその他のプロセスに対しても適用できる。例えば、排水機場における河川水位予測を用いた河川への雨水排水プロセスなど、ポンプ制御を用いたプロセスに対して、特に効果的である。
【符号の説明】
【0139】
4 流入ゲート
5 雨水ポンプ
6 吐出弁
9 水位計
10 データ収集手段
11 地上雨量計
12 レーダ雨量計
13 流入渠水位計
14 流出量計
20 制御演算部
21 データ収集部
22 データ記憶部
23 支援情報予測部
24 演算部
26 データ送受信部
28 コントローラ部
30 データセンタ
30a 表示部
30b 制御部
30c 入力部
30d データ送受信部
30e 記憶部
30f 予測精度診断機能部
30g パラメータ調整部
30h 気象情報配信部
40 サービスセンタ
50 雨水排水処理施設
202 支援情報演算部
203 位置情報判定部
204 操作情報判定部
206 携帯端末
207 位置情報検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データセンタと、このデータセンタに連結された複数の雨水排水施設に設置される雨水排水支援制御装置において、
前記データセンタに設けられ、前記複数の雨水排水施設の運転予測を行なう各種パラメータを含む予測モデルを有する支援情報予測部と、
前記データセンタに設けられ、前記支援情報予測部の予測モデルのパラメータを調整するパラメータ調整部と、
前記雨水排水施設側に設置され、前記支援情報予測部で予測された運転状態が送られる携帯端末とを備え、
前記データセンタに、前記支援情報予測部と、前記携帯端末との間で信号の送受信を行なうデータ送受信部を設けたことを特徴とする雨水排水支援制御装置。
【請求項2】
前記データセンタに、前記携帯端末の位置を検出する位置情報検出部と、この位置情報検出部からの信号に基づいて、前記携帯端末の位置が予め定められた範囲内にあるか否か判定する位置情報判定部とを設け、
前記データ送受信部は前記位置情報判定部からの信号に基づいて、前記携帯端末の位置が予め定められた範囲外にあるとき、前記携帯端末に携帯端末が予め定められた範囲外にあることを伝えることを特徴とする請求項1記載の雨水排水支援制御装置。
【請求項3】
前記支援情報予測部は複数設けられ、正常かつ最適な前記支援情報予測部が用いられることを特徴とする請求項1記載の雨水排水支援制御装置。
【請求項4】
前記データセンタに、前記支援情報予測部の性能を所定周期により判定する性能判定部を設け、
この性能判定部により正常かつ最良と認められた前記支援情報予測部が用いられることを特徴とする請求項3記載の雨水排水支援制御装置。
【請求項5】
前記性能判定部は前記雨水排水施設の雨水ポンプの操作量、ポンプ運転時間、ポンプ運転コストを指標として前記各支援情報予測部の性能を判定することを特徴とする請求項4記載の雨水排水支援制御装置。
【請求項6】
前記性能判定部は、雨水流入量、ポンプ井の水位の上下限を制約条件としたReceeding horizon制御により前記各支援情報予測部の性能を判定することを特徴とする請求項4記載の雨水排水支援制御装置。
【請求項7】
前記支援情報予測部はオンラインで更新可能な予測モデルを内蔵することを特徴とする請求項1記載の雨水排水支援制御装置。
【請求項8】
前記携帯端末は複数設けられるとともに、この各携帯端末は少なくとも前記雨水排水施設の雨水ポンプまたは流入ゲートを操作する機能を有し、
前記データセンタに、前記複数の携帯端末の操作の優先順を各携帯端末に送る操作情報判定部を設けたことを特徴とする請求項1記載の雨水排水支援制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−154029(P2011−154029A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20021(P2011−20021)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【分割の表示】特願2006−28653(P2006−28653)の分割
【原出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】