説明

電力供給システム

【課題】 抵抗加熱ヒータの劣化に起因する抵抗値の変化を高い分解能で検出することにより、抵抗加熱ヒータの交換時期を正確に予測できる電力供給システムを提供する。
【解決手段】 電力供給システム100は、抵抗加熱ヒータ106、供給電力調節器110、温度調整用調節計130、抵抗検出装置140、及び熱電対131、141を備えている。供給電力調節器110は、入力側フィルタ回路111、IGBT変換器112、カレントトランス113、電圧測定ライン123、電源変動検出手段フィードフォワード回路114、周波数変換回路115、出力側フィルタ回路116、カレントトランス117、電圧測定ライン118、及び負荷変動検出手段フィードバック回路119を備えている。抵抗検出装置140は、演算器(CPU)144、ヒータ製作時基準テーブル145、及びヒータ温度係数テーブル146を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理炉内に搬入した基板の表面に反応性ガスを供給して、所定の処理を施す基板処理装置に交流電力を供給する電力供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板やガラス基板等の表面に機能性薄膜を形成する場合には、制御対象である発熱体の一種である抵抗加熱ヒータを備える加熱炉内で前記基板を加熱しつつその表面に反応性ガスを供給して化学反応させていた。
【0003】
図9は、基板表面処理装置に交流電力を供給する従来の電力供給システム10の構成を示す回路図である。電力供給システム10は、交流電源11、受電用端子台12、保護用ブレーカ(NFB)13、電源トランスTR、サイリスタ16、抵抗加熱ヒータ5、熱電対8、及び温度調整用調節計15を備えている。抵抗加熱ヒータ5は、常温で抵抗値が非常に小さく高温になると抵抗値が大きくなる二ケイ化モリブデンで構成されている。サイリスタ16は、電源トランスTRで変圧された交流電圧の位相を制御して抵抗加熱ヒータ5に印加するスイッチ素子である。また、サイリスタ16は、温度検出手段としての熱電対8での抵抗加熱ヒータ5の測定温度が炉の設定温度よりも低い場合に、抵抗加熱ヒータ5に供給する交流電力を増大させ、一方で炉の設定温度よりも高い場合に、抵抗加熱ヒータ5に供給している交流電力を減少させる。
【0004】
抵抗加熱ヒータ5は、使用時間が長くなるに従って劣化して断線し易くなる。基板の処理中に抵抗加熱ヒータ5が断線してしまうと、成膜不良が生じるため、基板を廃棄するか不良薄膜を除去するかしなければならなくなり、コスト面のみならず生産効率面でも多大な損失が発生する。
【0005】
そこで、抵抗加熱ヒータ5に印加される交流電圧及び交流電流を測定して抵抗加熱ヒータ5の抵抗値を算出し、算出した抵抗値の変化を観察することにより、抵抗加熱ヒータ5の劣化の進行状態を把握して断線を予測する技術(特許文献1や特許文献2)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−165200号公報
【特許文献2】特開2006− 85907号公報
【特許文献3】特開2006−107013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の技術では、抵抗加熱ヒータに印加される交流電圧は、サイリスタによって位相制御されるため、その波形が正弦波ではなく図10(a)に実線で示す正弦波の一部が欠損したような不連続な波形となる。ここで、図10(b)は、制御信号がサイリスタに入力されるタイミングを示している。また、図10(b)では、交流電源の半サイクル毎に、サイリスタへの制御信号の入力時から電源電圧がゼロボルトになるまでの期間すなわち抵抗加熱ヒータに交流電圧が印加される期間を有効電力期間Aと表示しており、一方で電源電圧がゼロボルトの時からサイリスタに制御信号が入力されるまでの期間すなわち抵抗過熱ヒータに交流電圧が印加されない期間を無効電力期間Bと表示している。図10から明らかなように、サイリスタに制御信号が入力さ
れた直後には、抵抗加熱ヒータに印加される交流電圧の波形に急峻な立ち上がりが生じる。このとき、抵抗加熱ヒータに印加される交流電流は、交流電圧の急峻な立ち上がりに追随できずに交流電圧よりも緩やかに増大していく。また、このとき、抵抗加熱ヒータに印加される交流電流には、交流電圧の急峻な立ち上がりに起因する様々な周波数の高調波電流が含まれる。この高調波電流は、電流計による交流電流の測定値を撹乱するノイズである。
【0008】
このように、特許文献1や特許文献2に記載の技術では、抵抗加熱ヒータに印加される交流電流が交流電圧の急峻な立ち上がりに追随できずに遅延するため、電流計による測定値が交流電圧の値から導出される理論値よりもやや小さくなる。さらに、交流電圧の急峻な立ち上がりに起因して発生した高調波電流が交流電流の電流計による測定値を撹乱させるため、その交流電流の測定値にゆらぎが生じる。
【0009】
したがって、特許文献1や特許文献2に記載の技術では、抵抗加熱ヒータに印加された交流電圧及び交流電流を継続的に測定してその測定値から抵抗加熱ヒータの抵抗値(実測抵抗値)を算出し、算出した実測抵抗値の経時的な変化量に基づいて抵抗加熱ヒータの劣化の進行状態を把握しようとすると、正弦波波形の交流電圧を用いて抵抗加熱ヒータの抵抗値を測定した場合と比較して、実測抵抗値がやや高く算出されてしまう問題がある。また、この問題に起因して、抵抗加熱ヒータの劣化の進行による抵抗値の増大が相対的に小さく見えてしまい見過ごされてしまう問題もある。さらに、高調波電流の発生に起因して抵抗加熱ヒータの実測抵抗値にゆらぎが生じるため、このゆらぎの中に抵抗加熱ヒータの劣化に起因する抵抗値の変化が埋もれてしまうことから、抵抗加熱ヒータの劣化の進行、特に使用開始後初期における劣化の進行を正確に把握することが困難であるという問題もある。
【0010】
一方で、高速スイッチング電力制御用素子を利用した電力供給システム(特許文献3)が開発されている。特許文献3に記載の技術では、図9に示すサイリスタ16の代わりにIGBT等の高速スイッチング素子を用いて交流電源11から供給される交流電力を抵抗加熱ヒータに供給する。
【0011】
本発明の目的は、抵抗加熱ヒータの劣化に起因する抵抗値の変化を検出することができ、ひいては抵抗加熱ヒータの交換時期を正確に予測できる電力供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、正弦波波形を有する交流電圧の波高値を制御する供給電力調節器と、前記供給電力調節器によって制御された交流電圧が印加されることによって発熱する発熱体と、前記発熱体に印加された交流電圧及び交流電流を測定する測定器と、前記測定器によって得られた電圧値及び電流値から前記発熱体の抵抗値を算出し、算出した前記抵抗値に基づいて前記発熱体の劣化診断を行う演算器と、を備える電力供給システムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発熱体の劣化の進行状態を正確に把握して、発熱体の交換時期を正確に予測することができる。また、基板処理と抵抗加熱ヒータの劣化診断を並行して行うことができるので、リアルタイムでの劣化の進行状態を監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る電力供給システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1における供給電力調節器の主要部の構成を示す回路図である。
【図3】図1における供給電力調節器の主要部の構成を示すブロック図である。
【図4】図2に示す供給電力調節器による交流電圧の制御態様を説明する図である。
【図5】図1における抵抗検出装置の動作を示すフロー図である。
【図6】本発明に係る電力供給システムを備えた基板処理装置の構成を示す斜視図である。
【図7】図6における反応炉の断面及び基板支持具の構成を示す図である。
【図8】本発明に係る実施例における炉内温度及び抵抗加熱ヒータの抵抗値の測定結果を示す図である。
【図9】従来のサイリスタを備えた電力供給システムの構成を示すブロック図である。
【図10】図9の電力供給システムから出力される交流電圧の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態を図面に即して説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る電力供給システム100の構成を示すブロック図である。電力供給システム100は、交流電源101、受電用端子台102、保護用ブレーカ(NFB)103、電源トランス104、分配用端子台105、抵抗加熱ヒータ106、炉107、供給電力調節器110、電圧測定ライン128、温度調整用調節計130、抵抗検出装置140、熱電対131、141、及びカレントトランス142を備えている。また、供給電力調節器110は、入力側フィルタ回路111、IGBT変換器112、カレントトランス113、電圧測定ライン123、電源変動検出手段フィードフォワード回路114、周波数変換回路115、出力側フィルタ回路116、カレントトランス117、電圧測定ライン118、及び負荷変動検出手段フィードバック回路119を備えている。また、抵抗検出装置140は、A/D変換器143、演算器(CPU)144、ヒータ製作時基準テーブル145、ヒータ温度係数テーブル146、DO出力手段147、及び通信インターフェイス(I/F)148を備えている。
【0017】
交流電源101は、例えば周波数50/60Hz、AC200Vの単相の商用電源である。交流電源101は、受電用端子台102に連結されており、抵抗加熱ヒータ106に対して交流電力を供給する。受電用端子台102は、交流電源101からの電力を抵抗加熱ヒータ106側へ渡す端子で構成されたものである。抵抗加熱ヒータ106は、ニケイ化モリブデン、炭化珪素、カーボン、鉄−クロム−アルミ系合金、またはニッケル−クロム系合金から選択される発熱体である。
【0018】
受電用端子台102には、保護用ブレーカ103が接続され、さらに電源トランス104が接続されている。交流電源101から供給される電力は、受電用端子台102に受電された後に、保護用ブレーカ103を介して電源トランス104に供給される。
【0019】
保護用ブレーカ103は、抵抗加熱ヒータ106に過度の電力が供給されることを防止するためのものであり、通常時は交流電源101と抵抗加熱ヒータ106とを導通状態にしており、抵抗加熱ヒータ106に過度の電力が供給されそうなときには交流電源101と抵抗加熱ヒータ106との導通を遮断する。
【0020】
電源トランス104は、交流電源101の交流電圧を、抵抗加熱ヒータ106で使用可能な電圧に変換するものである。電源トランス104で変圧された電力は、入力側フィルタ回路111を介して、周波数変換回路115が制御するIGBT変換器112へ供給され、さらに出力側フィルタ回路116を介して分配用端子台105に接続された抵抗加熱
ヒータ106に供給される。なお、電源トランス104は、抵抗加熱ヒータ106の仕様によっては使用されない場合もある。
【0021】
供給電力調節器110は、高速スイッチング動作する変換器の出力を抵抗加熱ヒータ106に電力として供給するものであり、その変換器のデバイスには、高速スイッチング電力制御用素子であるIGBT(Insulated−Gate Bipolar Transistor/絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)が用いられている。供給電力調節器110は、交流電圧をIGBT変換器112で直接スイッチングしてパルス幅変調した交流電圧を抵抗加熱ヒータ106に印加する。供給電力調節器110が抵抗加熱ヒータ106に印加する交流電圧の波形は、図4の(e)電圧波形Cまたは(i)電圧波形Cに示す歪みのない正弦波波形となる。そのため、抵抗加熱ヒータ106に印加される交流電圧には、図10に示す無効電力期間Bが存在しない。
【0022】
熱電対131は、炉107内の温度を測定して温度調整用調節計130に出力するものであり、抵抗加熱ヒータ106の測定温度を炉107の設定温度に一致させるためのものである。また、熱電対131は、縦型炉である炉107内に設置されており、炉107内で生じた熱起電力をその炉内温度を示すデータとして温度調整用調節計130に出力する。一般的に、熱電対131は、抵抗加熱ヒータ106の近傍に設置されている。
【0023】
熱電対141は、抵抗加熱ヒータ106の温度を測定して抵抗加熱ヒータ106の劣化診断を実施するためのものである。熱電対141は、抵抗加熱ヒータ106の近傍に設置されており、抵抗加熱ヒータ106の発熱によって生じた熱起電力を抵抗加熱ヒータ106の温度を示すデータとして抵抗検出装置140に出力する。なお、熱電対141は、熱電対131と同様の素材で構成され、同様に炉107内温度を示すデータとして温度調整用調節計130にも出力されるように構成されてもよい。
【0024】
カレントトランス142は、抵抗加熱ヒータ106に流れる電流を測定して電気信号に変換し、その電気信号を抵抗検出装置140に出力するものである。なお、カレントトランス142は、負荷変動を精度良く測定するために、分配用端子台105よりも抵抗加熱ヒータ106側に設置されることが好ましい。
【0025】
温度調整用調節計130は、熱電対131の熱起電力に対応する温度と予め設定している抵抗加熱ヒータ106の設定温度とに基づいて、IGBT変換器112のオン/オフを制御するためのフィードバック制御信号を周波数変換回路115に出力する。また、温度調整用調節計130は、熱電対131の熱起電力に対応する温度や前記フィードバック制御信号を通信インターフェイス148を介して図示しない上位の管理装置等へ送信したりする。具体的には、温度調整用調節計130は、熱電対131による炉107の炉内測定温度とその設定温度との温度差(温度変動)を算出し、この温度変動に応じて、抵抗加熱ヒータ106に供給すべき電力量を演算し、周波数変換回路115に演算結果をフィードバック制御信号として出力する。また、温度調整用調節計130は、温度異常を検出した時には、通信インターフェイス148を介して上位の管理装置等にアラームを出力する。本実施形態では、図1で示したように熱電対131が検出する温度に基づいて温度調整用調節計130による温度制御が行われているが、図示しないものの熱電対141でも代用できる。
【0026】
A/D変換器143は、電圧測定ライン128による抵抗加熱ヒータ106に印加されている交流電圧の測定値を変換して、またカレントトランス142による測定電流値を変換して、また熱電対141からの温度測定値を変換して、演算器144へ出力するものである。
【0027】
ヒータ温度係数テーブル146は、劣化診断のための診断基準データすなわち抵抗加熱ヒータ106の抵抗温度係数、抵抗加熱ヒータ106の長さ、及び抵抗加熱ヒータ106の断面積等のデータを一組で格納しているメモリである。
【0028】
ヒータ製作時基準テーブル145は、抵抗加熱ヒータ106の作製時(初回使用時)における抵抗加熱ヒータ106の温度及び抵抗値の実測データを一組で格納しているメモリである。ヒータ製作時基準テーブル145は、抵抗加熱ヒータ106の初回使用時において、A/D変換器143からの出力に基づいて演算器144が算出した抵抗加熱ヒータ106の抵抗値(実測初期抵抗値)をその測定時の温度と関連付けて格納している。
【0029】
つまり、ヒータ温度係数テーブル146は、抵抗加熱ヒータ106の理論抵抗値を算出するときに使用するデータを格納したメモリであり、一方でヒータ製作時基準テーブル145は、抵抗加熱ヒータ106の抵抗値と温度の初期値(実測初期値)を格納したメモリである。したがって、ヒータ製作時基準テーブル145とヒータ温度係数テーブル146は、どちらも同質のデータを格納しているため、演算器144が抵抗加熱ヒータ106の劣化診断を実施する際には、択一的に使用される。
【0030】
演算器144は、A/D変換器143で変換されたデジタル信号に基づいて抵抗加熱ヒータ106の抵抗値(実測抵抗値)を随時算出する。また、演算器144は、ヒータ製作時基準テーブル145にアクセスして熱電対141による測定温度に関連付けられた抵抗加熱ヒータ106の実測初期抵抗値を取得するか、あるいはヒータ温度係数テーブル146にアクセスしてそこに格納されているデータを取得し、取得したデータを用いて熱電対141による測定温度に対応する抵抗加熱ヒータ106の理論抵抗値を算出する。そして、演算器144は、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値と前記実測初期抵抗値または前記理論抵抗値とを比較する。そして、演算器144は、その比較結果を通信インターフェイス148を介して上位の管理装置等に送信するとともに、その比較結果が所定の条件を満たしたときには、抵抗加熱ヒータ106が断線する可能性が高いと判断して、DO出力手段147にアラームを発信するように命令する。本実施形態では、図1で示したように、熱電対141が検出する温度に基づいて抵抗検出装置140による温度制御が行われているが、図示しないものの熱電対131でも代用できる。
【0031】
DO出力手段147は、演算器144からの命令に従って抵抗加熱ヒータ106を交換するように報知するアラーム、例えば警告音を出力する。通信インターフェイス148は、演算器144及び温度調整用調節計130と上位の管理装置等とを接続するインターフェイスである。
【0032】
次に、図2を参照しながら、入力側フィルタ回路111、出力側フィルタ回路116、及びIGBT変換器112の構成、機能、及び動作について説明する。
【0033】
入力側フィルタ回路111は、フィルタ方式にLCを用いたローパスフィルタであり、フィルタ要素がCLCの順に配置されているものである。コイルLは、入力ライン及びコモンラインにL1−1とL1−2とに分割されて挿入されている。なお、LCの前のコンデンサC1−1は、交流電源の正弦波波形に乗った高調波ノイズを除去することと損失低減とを目的として設置されたものであって、非常に小さな容量のコンデンサであることが望ましい。ローパスフィルタの遮断周波数は、交流電源の正弦波波形や高調波ノイズの観点からスイッチング周波数(IGBTが1秒間にON/OFFする回数で本実施形態では20KHzとする)の1/10〜1/40(500Hz〜2KHz)に設定されている。したがって、入力側フィルタ回路111は、高調波ノイズを遮断して目的とする商用周波数(50または60Hz)程度の交流電力を確実に抵抗加熱ヒータ106に供給することができる。また、入力側フィルタ回路111は、IGBT変換器112を高速・高周波で
スイッチング動作させることによって発生する電磁ノイズを抑制する。つまり、入力側フィルタ回路111は、交流電源101側につながるIGBT変換器112の入力ラインに電磁ノイズが誘導されることを抑制し、交流電源101にノイズ障害が発生することを防止できる。
【0034】
出力側フィルタ回路116は、入力側フィルタ回路111と同様に、フィルタ方式にLCを用いたローパスフィルタであり、フィルタ要素がLCCの順に配置されているものである。コイルLは、出力ライン及びコモンラインにL2−1とL2−2とに分割されて挿入されている。なお、LCの後のコンデンサC2−2は、入力側フィルタ回路111で説明したように、交流電源の正弦波波形に乗った高調波ノイズを除去するためのコンデンサである。さらに、このローパスフィルタの遮断周波数も同様に500Hz〜2kHzである。出力側フィルタ回路116は、IGBT変換器112でスイッチングして得た出力をスムージング(平滑化)するとともに、出力中に含まれる高調波ノイズを有効に除去する。
【0035】
IGBT変換器112は、電力用IGBT変換器112aと回生用IGBT変換器112bとを備えている。IGBT変換器112は、正の電圧・電流と負の電圧・電流の波形のスイッチングを別々に行うタブラアーム型である。電力用IGBT変換器112aは、高速整流回路FRD1と、IGBT2を有するチョッパー部と、から構成されている。チョッパー部は、チョッパー部PWM(Pulse Width Modulation/パルス幅変調)信号が加えられる上アームと下アームを備えている。回生用IGBT変換器112bは、IGBT3と高速整流回路FRD2を備えている。IGBT2は、交流電力を高速・高周波の基本キャリア周波数で直接スイッチする。例えば、PWM方式によるスイッチのタイミングは供給元の交流電圧のゼロクロス点であり、そのゼロクロス点を基準に制御信号(PWM信号)が合わされる。そして、IGBT変換器112は、合わせたキャリア周波数で交流電源101の交流電圧をスイッチしてパルス幅変調波を得て、これを出力側フィルタ回路116を介して抵抗加熱ヒータ106に印加する。なお、IGBT変換器112は、交流電圧の周波数を周波数制御方式で略連続的に変化させることもできる。一般に、誘導電動機等、周波数で回転速度を制御する装置等には、周波数可変幅と誘導電動機等に印加される電圧を制御し、電動機の始動時スリップを改善する安定した回転を得る方法が用いられる。本発明では、抵抗付加が制御対象であるため、パルス幅制御を用いている。
【0036】
次に、図3を参照しながら、電源変動検出手段フィードフォワード回路114、周波数変換回路115、負荷変動検出手段フィードバック回路119、及び温度調整用調節計130の構成、機能、及び動作について説明する。
【0037】
電源変動検出手段フィードフォワード回路114は、入力側フィルタ回路111から出力される交流電圧の変動を検出して、その変動に応じたフィードフォワード制御信号を周波数変換回路115に出力する。電源変動検出手段フィードフォワード回路114は、入力側フィルタ回路111から出力された交流電流を測定するカレントトランス113と、入力側フィルタ回路111の出力線間電圧を測定する電圧測定ライン123と、を備えている。電源変動検出手段フィードフォワード回路114は、交流電源の電源変動を検出するために、カレントトランス113による実測電流値と設定電流との差、ならびに電圧測定ライン123による実測電圧値と設定電圧との差を求める。これらの差の積(電力)が電源変動となる。この電源変動がフィードフォワード制御信号として周波数変換回路115に入力される。
【0038】
負荷変動検出手段フィードバック回路119は、抵抗加熱ヒータ106に供給される交流電力の変動を検出して、その変動に応じたフィードバック信号を周波数変換回路115
に出力する。負荷変動検出手段フィードバック回路119は、出力側フィルタ回路116の出力線間電圧を測定する電圧測定ライン118と、抵抗加熱ヒータ106に印加される交流電流を測定するカレントトランス117と、に接続されている。負荷変動検出手段フィードバック回路119は、電圧測定ライン118による実測電圧値と設定電圧との差及びカレントトランス117による実測電流値と設定電流との差を求める。これらの差の積(電力)が負荷変動となる。この負荷変動が周波数変換回路115にフィードバック制御信号として入力される。
【0039】
周波数変換回路115は、前記温度変動、前記電源変動、及び前記負荷変動に応じて、IGBT変換器112をパルス幅変調方式で制御する。具体的には、周波数変換回路115は、電源変動検出手段フィードフォワード回路114から出力されたフィードフォワード制御信号、負荷変動検出手段フィードバック回路119から出力されたフィードバック制御信号、及び温度調整用調節計130から出力されたフィードバック制御信号に基づいて、抵抗加熱ヒータ106に供給するべき電力量(目標電力量)を算出する。次いで、周波数変換回路115は、IGBT変換器112から出力される交流電圧の波高値がこの目標電力量に応じた値となるように、IGBT変換器112で使用されるパルス幅変調方式におけるデューティ比を調節する。次いで、周波数変換回路115は、調節後のデューティ比を含むゲート制御信号を、IGBT変換器112を構成する各IGBTのゲートに入力する。なお、周波数変換回路115は、IGBT変換器112が周波数制御方式によって交流電圧の波高値を制御する場合には、前記目標電力量に対応する周波数を含むゲート制御信号をIGBT変換器112に入力する。
【0040】
また、電力供給システム100における抵抗加熱ヒータ106の実測可能な抵抗値は、従来の電力供給システム10における抵抗加熱ヒータ5の実測可能な抵抗値よりも小さくなる。つまり、電力供給システム100によれば、IGBT変換器112から歪みのない正弦波波形の交流電圧が出力されるため、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値のゆらぎが小さくなるからである。さらに、小さい抵抗値でも実測できるようになるほど、実測抵抗値のゆらぎが低減されるので、抵抗加熱ヒータ106の劣化に起因する実測抵抗値の瞬間的な変化が検出できるようになる。
【0041】
また、温度調整用調節計130及び周波数変換回路115は、次のようにして抵抗加熱ヒータ106の温度が設定温度となるように制御する。
【0042】
温度調整用調節計130は、炉107内の測定温度とその設定温度との温度差を求め、この温度差に応じて、抵抗加熱ヒータ106に供給すべき電力量を演算し、周波数変換回路115に演算結果を出力する。周波数変換回路115は、温度調整用調節計130からの出力値に応じたデューティ比を持つゲート制御信号をIGBT変換器112に入力する。IGBT変換器112は、入力側フィルタ回路111から出力された交流電圧の波高値を、周波数変換回路115からのゲート制御信号に応じたディーティ比を用いて制御し、波高値が制御された交流電圧を出力側フィルタ回路116を介して抵抗加熱ヒータ106に印加する。そして、波高値が制御された交流電圧が抵抗加熱ヒータ106に印加されることにより、抵抗加熱ヒータ106に印加される交流電流が変化して抵抗加熱ヒータ106の温度が変化する。
【0043】
このように、温度調整用調節計130と周波数変換回路115の間では、温度変動の検出→制御演算→出力値の出力→温度の変化→温度変動の検出→・・・という閉じたループにより、フィードバック制御が行われる。したがって、電力供給システム100によれば、炉107の温度を検出してから、温度調整用調節計130及び周波数変換回路115によって抵抗加熱ヒータ106に供給する目標電力量が設定されるため、良好なフィードバック制御が可能になる。さらに、電力供給システム100によれば、抵抗加熱ヒータ10
6の温度変動が補正されて抵抗加熱ヒータ106に安定した交流電圧が印加されるため、抵抗加熱ヒータ106の温度を一定に保持することができる。
【0044】
抵抗加熱ヒータ106の温度が良好にフィードバック制御されている時に、交流電源101の交流電圧が変動すると、この変動は入力側フィルタ回路111の出力に電源変動となって現れる。この電源変動は、カレントトランス113と電圧測定ライン123によって測定され、電源変動検出手段フィードフォワード回路114で検出される。そして、この電源変動を検出した電源変動検出手段フィードフォワード回路114は、その電源変動に応じたフィードフォワード制御信号を周波数変換回路115に出力する。このフィードフォワード制御信号を入力された周波数変換回路115は、このフィードフォワード制御信号に従って、実測電力量と目標電力量との差に応じたデューティ比を含むゲート制御信号をIGBT変換器112に出力する。このような一連のフィードフォワード制御により、交流電源101に起因する電源変動が補正されて、抵抗加熱ヒータ106に安定した電力が供給されるようになる。また、このフィードフォワード制御により、入力側フィルタ回路111から熱電対131までの応答特性が改善される。
【0045】
また、炉107の温度が良好にフィードバック制御されている時に、抵抗加熱ヒータ106に外乱(例えば外気が当たる等)が生じたり、抵抗加熱ヒータ106の性質が多少変化したりすると、それはIGBT変換器112の抵抗値の変動または抵抗加熱ヒータ106に提供される電力量の変動(負荷変動)として現れる。すなわち、抵抗加熱ヒータ106に印加される交流電圧及び交流電流が変動する。この負荷変動は、カレントトランス117と電圧測定ライン118で測定され、負荷変動検出手段フィードバック回路119によって検出される。負荷変動検出手段フィードバック回路119から、負荷変動に応じたフィードバック制御信号が周波数変換回路115に入力される。周波数変換回路115は、このフィードバック制御信号に従って、実測電力量と設定電力量との差に応じたデューティ比を含むゲート制御信号をIGBT変換器112に出力する。このゲート制御信号がIGBT変換器112に入力されることにより、負荷変動に基づくフィードバック制御が実施されることになる。したがって、電力供給システム100によれば、負荷変動が補正されることにより、抵抗加熱ヒータ106への安定した電力供給が可能になる。
【0046】
このような負荷変動制御は、外乱→ヒータ温度変化→熱電対検出の3ステップを経る温度変動制御と比べて、外乱→電力変動検出と2ステップであり、熱電対検出のステップが省略できるため、応答特性が速い。
【0047】
次に、図3を適宜参照しながら、周波数変換回路115が、前記電源変動に基づくフィードフォワード制御信号と、前記負荷変動に基づくフィードバック制御信号と、温度変動に基づくフィードバック制御信号と、を入力されて、IGBT変換器112にゲート制御信号を出力する際の制御処理について、より具体的に説明する。
【0048】
電源変動検出手段フィードフォワード回路114は、カレントトランス113による実測電流値及び電圧測定ライン123による実測電圧値を、実効値(RMS)からAC/DC変換器114a、114bでそれぞれDC変換し、演算器114cで電流(DC)×電圧(DC)=一次側電力を計算して、これを一次側電源変動フィードバック信号FB1として周波数変換回路115に入力する。
【0049】
負荷変動検出手段フィードバック回路119は、カレントトランス117による実測電流値及び電圧測定ライン118による実測電圧値を、実効値(RMS)からAC/DC変換器119a、119bでそれぞれDC変換し、演算器119cで電流(DC)×電圧(DC)=二次側電力を計算して、これを二次側負荷変動フィードバック信号FB2として周波数変換回路115に入力する。
【0050】
温度調整用調節計130は、炉107内の測定温度とその設定温度との温度差を求め、この温度差に応じて、抵抗加熱ヒータ106に供給すべき目標電力量を演算し、その演算結果を周波数変換回路115に入力する。
【0051】
周波数変換回路115は、内部に2個の電力ゲイン調整器115a、115bと、1個の電力設定ゲイン調整器115cと、を備え、個別に調整可能なアナログ演算またはCPU演算により、それぞれの信号レベルのレベル調整を行う。そして、レベル調整されたそれぞれの信号は、加算器115fに入力されて加算される。この加算もアナログ演算またはCPU演算によって行われる。
【0052】
上記のような構成において、周波数変換回路115に一次側電源変動フィードバック信号FB1及び二次側負荷変動フィードバック信号FB2がそれぞれ入力されると、一次側フィードバック電源変動信号FB1及び二次側負荷変動フィードバック信号FB2は、電力ゲイン調整器115a、115bでゲインが調整され、インバータ115d、115eによってそれぞれ負に反転されて加算器115fに入力される。そして、加算器115fでは、予め電力設定信号を出力するときのフィードバック信号FB1´(FB2´)とフィードバック信号FB1(FB2)が比較される。その差が電源変動(負荷変動)として、電力設定信号に加算される。
【0053】
温度調整用調節計130から周波数変換回路115に電力設定信号が入力されると、電力設定信号は、電力設定ゲイン調整器115cでゲインが調整されて加算器115fに入力される。周波数変換回路115は、電源変動または負荷変動が生じた場合、上記のようにゲイン調整した一次側電源変動フィードバック信号FB1及び二次側負荷変動フィードバック信号FB2の変動分を、加算器115f内で電力設定信号に加算して、最適な電力設定信号をゲート制御信号(IGBT周波数設定信号)として出力する。
【0054】
このように高速スイッチング電力制御用半導体変換器を構成する素子として高周波で大容量のIGBT変換器112を用いて、炉107の温度変動に対するフィードバック制御に、電源変動に対するフィードフォワード制御及び負荷変動に対するフィードバック制御を組み込んだため、電力供給システム100によれば、炉107の温度安定度、ならびに電源変動及び負荷変動に対する安定度を著しく改善することができ、さらに抵抗加熱ヒータ106の温度安定性を高めることもできる。
【0055】
図4は、図2に示す供給電力調節器110の要部のスイッチング動作、並びに図2に示す各ポイント((a)〜(e)、(f)〜(i))での交流電圧の波形を示したものである。以下、図2及び図4を適宜参照しながら、IGBT変換器112の機能及び動作について詳述する。
【0056】
図2に示す端子台TB1に、図4の(a)電圧波形Aの波形を有する交流電圧が印加される。なお、アームを介して加えられるIGBT変換器112へのPWM信号(ゲート制御信号)の入力周波数は20KHz(50μsec)で固定されている。図2に示すIGBT2の上アーム及び下アームに、それぞれ図4の(b)及び(c)に示すチョッパー部PWM信号が加えられる。図2に示すIGBT変換器112の出力波形は、図4の(d)電圧波形Bである。これは、IGBT2がONの時(PWM信号が加えられている時)に限り交流電源101を通電させ、一方でIGBT2がOFFの時には交流電源101からの通電を遮断するからである。IGBT変換器112の出力波形は、出力側フィルタ回路116により平滑化される。この平滑化により、出力側フィルタ回路116から分配用端子台105を介して、図4の(e)電圧波形Cに示すような歪みのない正弦波波形を有する商用周波数の交流電圧が抵抗加熱ヒータ106に印加されるようになる。このように、
IGBT2のONの期間を変えることにより、抵抗加熱ヒータ106に印加される交流電圧の波高値を制御することができる。したがって、IGBT2に入力されるPWM信号のデューティ比を調節することにより、交流電源101の周波数を変えることなく、抵抗加熱ヒータ106に印加される交流電圧の波高値のみを0〜100%の範囲で制御することができる。
【0057】
なお、IGBT2の上アーム及び下アームに加えられるチョッパー部PWM信号のパルス幅を、図4の(f)及び(g)に示すように、上記の(b)及び(c)に示すパルス幅よりも広くした場合には、IGBT変換器112から出力される交流電圧の波形は、図4の(h)電圧波形Bに示す波形となる。さらに、図4の(h)電圧波形Bは出力側フィルタ回路116によって平滑化されるため、出力側フィルタ回路116に印加される交流電圧の波形は、図4の(i)電圧波形Cに示す正弦波波形となる。なお、図4の(i)電圧波形Cの波高値は、IGBT2に入力されたPWM信号のパルス幅の差を反映して、図4の(e)電力波形Cの波高値よりも大きくなっている。ちなみに、本発明の一実施形態では、IGBT変換器112内に組込んだIGBT2で交流電源101との通電を直接スイッチしているため、IGBT変換器112の入力側にダイオード全波整流回路が不要である。
【0058】
このIGBT変換器112を構成するスイッチング素子であるIGBT2は、電圧駆動のゲートを組み合わされたバイポーラパワートランジスタであり、ゲート駆動消費電力が少なく高速スイッチングに適している。また、高周波で動作する大容量の素子であり、オン電圧がMOSFET(SSR)より大幅に小さい。IGBT2は、無効電力を低減するために、高周波で制御されることが好ましい。
【0059】
図5は、抵抗検出装置140が抵抗加熱ヒータ106の劣化診断を実施する際の抵抗検出装置140の動作を示すフロー図である。
【0060】
まず、ステップS110では、演算器144がヒータ製作時基準テーブル145にアクセスして、ヒータ製作時基準テーブル145に抵抗加熱ヒータ106の実測初期抵抗値が格納されているか確認する。ヒータ製作時基準テーブル145に実測初期抵抗値が格納されている場合は、演算器144は、ヒータ製作時基準テーブル145から実測初期抵抗値を取得して内蔵メモリに保持した後に、ステップS130の動作を行う。一方で、ヒータ製作時基準テーブル145に抵抗加熱ヒータ106の実測初期抵抗値が格納されていない場合は、演算器144は、ステップS120の動作を行う。
【0061】
次いで、ステップS120では、演算器144が、ヒータ温度係数テーブル146にアクセスして、劣化診断用データすなわち抵抗加熱ヒータ106の抵抗温度係数、抵抗加熱ヒータ106の長さ、及び抵抗加熱ヒータ106の断面積のデータを取得する。この劣化診断用データを取得した演算器144は、抵抗加熱ヒータ106の設定温度域の理論抵抗値Rthを算出して内蔵メモリに保持する。なお、抵抗加熱ヒータ106の理論抵抗値Rthは、任意の温度T℃での抵抗温度係数をρ、抵抗加熱ヒータ106の長さをL、抵抗加熱ヒータ106の断面積をSとすると、「Rth=ρ×L/S」の式から算出される。
【0062】
次いで、ステップS130では、演算器144が、A/D変換器143によって変換された、抵抗加熱ヒータ106に印加された交流電圧及び交流電流の測定値から抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値を算出する。なお、演算器144は、算出した抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値を、通信インターフェイス148を介して上位の管理装置等に常時提供する。
【0063】
次いで、ステップS140では、演算器144が、ステップS110で取得した抵抗加熱ヒータ106の実測初期抵抗値またはステップS120で算出した理論抵抗値Rthのいずれかを基準抵抗値として、この基準抵抗値とステップS130で算出した抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値との差を算出する。
【0064】
次いで、ステップS150では、演算器144が、ステップS140で算出した差が所定の閾値を越えるか判定する。ステップS140で算出した差が所定の閾値を越える場合は、演算器144は、抵抗加熱ヒータ106が断線する危険性が高いすなわち交換時期に達したと判定して、DO出力手段147にアラームを出力するように命令する。演算器144から命令を受けたDO出力手段147は、スピーカ等の警報装置を作動させることにより、電力供給システム100の管理者に抵抗加熱ヒータ106が交換時期に達したことを通知する。
【0065】
図6は、本発明の一実施形態に係る電力供給システム100を備えた半導体製造装置610の構成を示す斜視図である。半導体製造装置610は、バッチ式縦型熱処理装置であり、主要部が配置される筐体612を有する。
【0066】
筐体612内の背面側上側には、反応炉640(炉107)が配置されている。この反応炉640内に、複数枚の基板754を装填した基板支持具630が挿入され、熱処理が行われる。
【0067】
図7は、反応炉640の断面及び反応炉640内に挿入された基板支持具630を示す図である。反応炉640は、石英製の反応管742を有する。この反応管742は、上端部が閉塞され下端部が開放された円筒形状をしている。この反応管742の下方には、反応管742を支持するよう石英製のアダプタ744が配置されている。この反応管742とアダプタ744により反応容器743が形成されている。また、反応容器743におけるアダプタ744を除いた反応管742の周囲には、抵抗加熱ヒータ106が配置されている。抵抗加熱ヒータ106は、反応管742とアダプタ744の接点付近から鉛直上方向に順にH5、H4、H3、H2、及びH1と符号付けされた5つのセクションで構成されている。これらの各セクションH1〜H5それぞれの抵抗加熱ヒータ106は、別個独立に温度制御され、また必要に応じて個別に新たな抵抗加熱ヒータ106に交換される。つまり、各セクションH1〜H5には、個別に動作する電力供給システム100がそれぞれ設置されている。
【0068】
反応容器743の下部は、基板支持具630を挿入するために開放されている。この開放部分(炉口部)は、炉口シールキャップ748がアダプタ744の下端部フランジの下面に当接することにより密閉される。炉口シールキャップ748は、基板支持具630を支持しており、また基板支持具630と共に昇降可能に設けられている。基板支持具630は、多数枚、例えば25〜100枚の基板754を略水平状態で隙間をもって多段に支持し、反応管742内に装填される。
【0069】
アダプタ744には、アダプタ744と一体化したガス供給口756及びガス排気口759が設けられている。ガス供給口756にはガス導入管760が、ガス排気口759には排気管762が、それぞれ接続されている。
【0070】
ガス導入管760からガス供給口756に導入された処理ガスは、アダプタ744の側壁部に設けられたガス導入経路764及びノズル766を介して反応管742内に供給される。
【0071】
次に、半導体製造装置610の動作について説明する。なお、以下の説明において、半
導体製造装置610の各構成要素の動作は、コントローラ770により制御される。
【0072】
まず、ポッドステージ614に複数枚の基板754を収容したポッド616がセットされると、ポッド搬送装置618がポッド616をポッドステージ614からポッド棚620へ搬送してストックする。次いで、ポッド搬送装置618が、ポッド棚620にストックしたポッド616をポッドオープナ622に搬送してセットする。ポッドオープナ622がポッド616の蓋を開いた後に、基板枚数検知器624がポッド616に収容されている基板754の枚数を確認する。
【0073】
次いで、基板移載機626のツイーザ632が、ポッドオープナ622の位置にあるポッド616から基板754を取り出し、ノッチアライナ628に移載する。このノッチアライナ628は、基板754を回転させながら、ノッチを検出し、整列させる。次に、基板移載機626のツイーザ632は、ノッチアライナ628から基板754を取り出し、基板支持具630に移載する。
【0074】
このようにして、1バッチ分の基板754を基板支持具630に移載すると、例えば600℃程度に設定された反応管742内に複数枚の基板754を装填した基板支持具630が挿入され、炉口シールキャップ748が反応炉640を密封する。次いで、反応炉640が熱処理温度まで昇温された後に、処理ガスがガス導入管760からガス供給口756、ガス導入経路764、及びノズル766を介して反応管742内に導入される。基板754を熱処理する際には、反応炉640内の温度は、例えば1000℃に保持される。
【0075】
基板754の熱処理が終了すると、例えば反応炉640内の温度が600℃程度まで下げられた後に、基板支持具630が反応管742からアンロードされる。そして、基板支持具630に支持されている全ての基板754が冷えて室温になるまで、基板支持具630は所定位置に留め置かれる。
【0076】
次いで、待機させた基板支持具630の基板754が所定温度まで冷却されると、基板移載機626が、基板支持具630から基板754を取り出し、ポッドオープナ622にセットされている空のポッド616に搬送して収容する。
【0077】
次いで、ポッド搬送装置618が、基板754が収容されたポッド616をポッド棚620またはポッドステージ614に搬送して一連の処理が完了する。
【0078】
(本発明に係る一実施形態による効果)
抵抗加熱ヒータ106は、使用時間が増えるに従って、その実測抵抗値が徐々に増大していくとともに、断線の発生率も高くなっていくという特性を有している。つまり、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値の変化量は、抵抗加熱ヒータ106の断線の発生率を示す良い指標となりうる。
【0079】
そこで、電力供給システム100によれば、供給電力調節器110が交流電圧の正弦波波形を維持したまま波高値を制御するとともに交流電圧から高調波ノイズを取り除くため、抵抗検出装置140による抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値の変化が高い分解能で検出されるようになる。そして、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値の変化が高い分解能で検出されることにより、抵抗加熱ヒータ106の劣化を詳細に、かつ、正確に把握することが可能になる。特に、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値が低い時には、抵抗加熱ヒータ106の劣化に起因する実測抵抗値の変化量が相対的に大きく見えるため、抵抗加熱ヒータ106の劣化の進行状態がより正確に把握されるようになる。そこで、抵抗加熱ヒータ106は中低温時に抵抗値が低いことから、抵抗加熱ヒータ106が中低温時にその実測抵抗値の変化量をモニタリングすることにより、抵抗加熱ヒータ106の劣化の進行状
態を一層正確に把握することができる。
【0080】
このように電力供給システム100によれば、作業者の経験に基づく主観的な劣化診断ではなく客観的な基準に基づく正確な劣化診断が可能になるため、断線が生じる前に抵抗加熱ヒータ106を確実に交換できるようになる。
【0081】
また、電力供給システム100によれば、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値の変化を高い分解能で検出できるため、抵抗加熱ヒータ106の劣化の進行状態をその使用開始後初期段階から正確に把握することができる。そのため、電力供給システム100によれば、予備の抵抗加熱ヒータ106を準備しておいて定期的に交換する必要がなくなるとともに、抵抗加熱ヒータ106が寿命予測範囲期間内で突発的に断線して基板処理作業を中断せざるを得なくなるという問題も生じ難くなる。
【0082】
さらに、電力供給システム100によれば、抵抗加熱ヒータ106の断線による基板処理中の加熱不良を確実に防止できるため、基板処理中のロット不良の発生を防止して基板処理の生産性を改善することができる。特に、炉107が縦型炉である場合に、その生産性が著しく改善する。
【0083】
また、電力供給システム100によれば、演算器144から通信インターフェイス148を介して送信される抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値と基準抵抗値との差を、上位の管理装置等を用いてモニタリングすることができる。ここで、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値が徐々に高くなっていく過程においては、実測抵抗値に瞬間的なピークが出現し、そのピークの出現頻度及び最大値が抵抗加熱ヒータ106の劣化の進行に伴って増大していく。したがって、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値と基準抵抗値との差をモニタリングしながらそのピークの出現頻度及び最大値を計測することにより、抵抗加熱ヒータ106の劣化診断を実施することができる。このピークの出現頻度及び最大値の計測による劣化診断は、抵抗加熱ヒータ106が中低温の時や抵抗加熱ヒータ106の使用開始後初期段階での劣化診断に特に有用である。
【0084】
また、供給電力調節器110によれば、IGBT変換器112で発生した電磁ノイズが入力側フィルタ回路111によって抑制されるため、交流電源交流電源101からの交流電圧に電磁ノイズが混入し難くなる。したがって、電力供給システム100によれば、交流電圧に含まれる電磁ノイズに起因する障害の発生を防止することができる。また、電力供給システム100によれば、交流電源101からIGBT変換器112に至る入力ケーブルに電磁ノイズが誘導されることを抑制できる。さらに、電力供給システム100によれば、IGBT変換器112の出力に含まれる高調波ノイズが出力側フィルタ回路116によって抑制されるため、抵抗加熱ヒータ106に印加される交流電圧に含まれる高調波ノイズを減衰させることできる。
【0085】
また、電力供給システム100によれば、回生用IGBT変換器112bがIGBT変換器112外で発生する逆起電力を回生して交流電源101に戻しているため、交流電源101のエネルギー効率を大幅に改善することができる。特に、IGBT変換器112は高速・高周波でスイッチング動作しているため、逆起電力の発生回数もそれだけ多く、電力回生が頻繁に行われることになる。
【0086】
また、電力供給システム100によれば、電源変動がフィードフォワード制御により、負荷変動及び温度変動がフィードバック制御により、IGBT変換器112での交流電圧の波高値の制御に反映されるため、抵抗加熱ヒータ106の温度安定性を改善することができる。換言すれば、電力供給システム100は、温度調整用調節計130による炉107の温度変動に基づくフィードバック制御に加えて、電源変動検出手段フィードフォワー
ド回路114による電源変動に基づくフィードフォワード制御と、負荷変動検出手段フィードバック回路119による負荷変動に基づくフィードバック制御と、を同時に実施することにより、抵抗加熱ヒータ106が低中温の時や抵抗加熱ヒータ106への供給電力が小さい時でも、抵抗加熱ヒータ106の抵抗値を正確に測定することができる。したがって、電力供給システム100によれば、安定した電力制御が可能となるため、その使い勝手がよくなる。
【0087】
また、電力供給システム100によれば、高速スイッチング素子であるIGBT変換器112が利用されているため、温度応答性に優れているとともに、進相コンデンサの補正に依存しないため、電磁ノイズが発生し難い構造であることから、電磁ノイズを嫌う計装ラインの構成素子として好適である。したがって、電力供給システム100の各構成要素の誤動作や破損、ならびに周辺機器に対する誤動作の誘引等の問題が発生することを防止できる。
【0088】
また、電力供給システム100によれば、IGBT変換器112で発生した電磁ノイズが入力側フィルタ回路111によって除去されるため、交流電源101への電磁ノイズの混入を効果的に抑制することができる。さらに、電力供給システム100によれば、IGBT変換器112から出力される交流電圧に含まれる高調波ノイズが出力側フィルタ回路116によって除去されるため、供給電力調節器110から歪みのない正弦波波形の交流電圧が出力されることから、システム全体の省電力化が可能になる。したがって、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値を低温時でも正確に算出することができる。
【0089】
半導体製造装置610によれば、電力供給システム100を備えているため、反応炉640内の温度安定性を改善することができ、その結果、高性能な半導体装置を製造することができる。
【0090】
また、半導体製造装置610によれば、基板支持具630が反応管742内に挿入された後で基板754が加熱処理される前のスタンバイ状態によらず常に抵抗加熱ヒータ106の劣化診断が可能であるため、抵抗加熱ヒータ106の劣化診断用の時間を別個設ける必要がなくなり、基板処理の生産性を高めることができる。
【0091】
(本発明に係る一実施形態の変形例)
本発明に係る一実施形態では、温度調整用調節計130によって検出された抵抗加熱ヒータ106の温度変動に基づくフィードバック制御信号に、電源変動検出手段フィードフォワード回路114によって検出された電源変動に基づくフィードフォワード制御信号及び負荷変動検出手段フィードバック回路119によって検出された負荷変動に基づくフィードバック制御信号が周波数変換回路115によって加算された後にIGBT変換器112に入力される場合について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではない。例えば、本発明に係る一実施形態を一部変形して、周波数変換回路115が、前記温度変動に基づくフィードバック制御信号に、前記電源変動に基づくフィードフォワード制御信号または前記負荷変動に基づくフィードバック制御信号のいずれかを加算してIGBT変換器112に入力するようにしてもよい。前記電源変動に基づくフィードフォワード制御信号を加算した場合は、IGBT変換器112が電源変動を打ち消すように補正した交流電圧を出力するため、抵抗加熱ヒータ106への供給電力が安定する。一方で、前記負荷変動に基づくフィードバック制御信号を加算した場合は、IGBT変換器112が負荷変動を打ち消すように補正した交流電圧を出力するため、供給電力調節器110の動作に起因する電圧の変化が抑制されて抵抗加熱ヒータ106への供給電力が安定する。
【0092】
また、本発明に係る一実施形態では明示しなかったが、例えばA/D変換器143と演算器144が、あるいは温度調整用調節計130と通信インターフェイス148が、デー
タ通信回線を介して接続されていても良い。このように、電力供給システム100内の各構成要素がデータ通信回線を介して接続される場合には、電力供給システム100の設計自由度が著しく高くなるため、電力供給システム100の適用範囲や用途を拡大することができる。
【0093】
また、本発明に係る一実施形態では、1つの反応炉640を5つのセクションH1〜H5毎に別個独立に温度制御する場合、すなわち各セクションH1〜H5に電力供給システム100を1つずつ設置する場合について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではなく、例えば1つの反応炉640をセクション分けすることなく1つの電力供給システム100で温度制御するようにしてもよい。さらに、同型の反応炉640を複数同時に温度制御する場合には、例えば1つの反応炉640をサンプルとして、このサンプルの反応炉640にのみ電力供給システム100を設置し、その他の反応炉640にはサンプルの反応炉640と同じ条件で電力供給を行うようにしてもよい。
【0094】
また、本発明の一実施形態では、炉107及び反応炉640が縦型炉である場合について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではなく、例えば炉107及び反応炉640が横型炉や枚葉式炉であってもよい。
【0095】
また、本発明の一実施形態では、供給電力調節器110がカレントトランス117及び電圧測定ライン118を備え、一方で抵抗検出装置140がカレントトランス142及び分配用端子台105の前段に配置された電圧測定ライン128に接続されている場合について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではなく、例えば供給電力調節器110と抵抗検出装置140がカレントトランスと電圧測定ラインを共用するように構成してもよい。
【実施例】
【0096】
(実施例1)
本発明の一実施形態に係る電力供給システム100を備える半導体製造装置610を用いて、基板支持具630に装填した基板754を反応管742内で熱処理した。この熱処理における具体的な加熱条件は、次のとおりである。
【0097】
(1)基板754を保持した基板支持具630を室温の反応管742内に挿入して密封する。
(2)次いで、抵抗加熱ヒータ106の設定温度を100℃〜380℃に、かつ、この温度範囲を1時間周期で往復するように設定して、供給電力調節器110から抵抗加熱ヒータ106に波高値が制御された歪みのない正弦波波形の交流電圧を印加する。
(3)次いで、供給電力調節器110から抵抗加熱ヒータ106に通電を開始してから10時間経過後に、抵抗加熱ヒータ106の設定温度を750℃に修正する。
(4)次いで、抵抗加熱ヒータ106の設定温度を750℃に修正してから1時間経過後に、抵抗加熱ヒータ106の設定温度を再度100℃〜380℃に、かつ、この温度範囲を1時間周期で往復するように設定し直す。
(5)次いで、抵抗加熱ヒータ106の設定温度を100℃〜380℃に再設定してから10時間経過後に、抵抗加熱ヒータ106の設定温度を750℃に再度修正する。
(6)次いで、抵抗加熱ヒータ106の設定温度を750℃に再修正してから1時間経過後に、抵抗加熱ヒータ106の設定温度を再度100℃〜380℃に、かつ、この温度範囲を1時間周期で往復するように設定し直す。
(7)次いで、抵抗加熱ヒータ106の設定温度を100℃〜380℃に再設定してから5時間経過後に、供給電力調節器110から抵抗加熱ヒータ106への交流電力の供給を止めて、反応管742及び基板754等を放熱させて室温に戻す。
【0098】
実施例1では、原則的に上記(1)〜(7)の各熱処理工程が繰り返し実施されるが、(5)工程及び(6)工程が実施されない場合や(6)工程の後に再度(5)工程及び(6)工程が繰り返し実施される場合もある。
【0099】
なお、実施例1で使用した抵抗加熱ヒータ106は未使用品であって全く劣化していないものであった。また、実施例1では、演算器144がヒータ温度係数テーブル146にアクセスして抵抗加熱ヒータ106の理論抵抗値を温度毎に算出し、その算出した理論抵抗値を基準抵抗値として使用した。また、実施例1では、演算器144が、抵抗加熱ヒータ106−H3すなわち反応炉640の中央部のセクションに配置された抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値と前記基準抵抗値との差を常時算出し続けた。
【0100】
(比較例1)
比較例1では、実施例1で使用した反応炉640において、供給電力調節器110を従来の電力供給システム10におけるサイリスタ16に置換して、実施例1と同一の加熱条件で基板754を熱処理した。また、比較例1においても、未使用の抵抗加熱ヒータ106を使用するとともに、抵抗加熱ヒータ106の理論抵抗値を基準抵抗値として使用した。さらに、比較例1においても、演算器144が、抵抗加熱ヒータ106−H3の実測抵抗値と理論抵抗値との差を常時算出し続けた。
【0101】
(実施例1と比較例1との対比)
図8は、実施例1及び比較例1における抵抗加熱ヒータ106−H3の測定温度(上段の線分)と、その測定時の抵抗加熱ヒータ106−H3の実測抵抗値と理論抵抗値との差(下段の線分)と、を示したグラフである。図8では、左側が比較例1すなわち位相制御方式による熱処理の結果を示しており、一方で中央から右側が実施例1すなわち電圧波高値制御方式による熱処理の結果を示している。
【0102】
図8のグラフから、比較例1における抵抗加熱ヒータ106−H3の実測抵抗値と理論抵抗値との差の方が、実施例1における抵抗加熱ヒータ106−H3の実測抵抗値と理論抵抗値との差よりも大きいことが分かる。このように、比較例1における抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値がその理論抵抗値よりも比較的大きな値となる理由は、比較例1の位相制御方式では、抵抗加熱ヒータ106に印加される交流電圧の波形が正弦波波形ではなく急峻な立ち上がりを有する歪んだ波形であるため、この交流電圧の歪んだ波形に交流電流が追随できずに遅延してしまうからであると考えられる。
【0103】
また、図8のグラフから、実施例1における抵抗加熱ヒータ106−H3の実測抵抗値と理論抵抗値との差の線分に瞬間的なピークが形成されていることが分かる。このピークは、抵抗加熱ヒータ106の劣化に起因していると考えられ、実際に図8の実施例1を示す線分では、抵抗加熱ヒータ106−H3の使用時間が増えるに従って、このピークの出現頻度が高まるとともに、このピークの最大値が大きくなっている。
【0104】
したがって、本発明の一実施形態に係る電力供給システム100によれば、このようなピークの出現頻度とピークの最大値とをモニタリングし続けることにより、抵抗加熱ヒータ106の劣化の進行状態を正確に把握することができる。特に、電力供給システム100によれば、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値と理論抵抗値との差が比較的小さいため、抵抗加熱ヒータ106の劣化に起因する図8に示すピークの発生を確認し易い。そこで、本発明の一実施形態に係る電力供給システム100では、抵抗加熱ヒータ106の実測抵抗値と理論抵抗値との差に関する閾値を予め設定しておき、図8に示すピークが前記閾値を所定の頻度で超えた場合に、抵抗加熱ヒータ106の劣化が進行して交換時期に達したと診断するようにしてもよい。
【0105】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0106】
第1の態様は、
半導体製造装置に備えられた制御対象(発熱体)の電流値を検出する電流検出手段と、
前記制御対象の電圧値を検出する電圧検出手段と、
前記電流検出手段が検出する電流値と前記電圧検出手段が検出する電圧値に基づいて前記制御対象の抵抗値を算出する抵抗値算出手段と、
前記抵抗値算出手段が算出した抵抗値を前記制御対象の劣化診断に用いる演算器と、
前記抵抗値算出手段が算出した抵抗値を、他の半導体製造装置に備えられた制御対象の劣化診断に用いる診断基準データとして、通信回線を介して送信する送信手段と、を備える抵抗検出装置と、
交流電源の交流電圧を、制御信号のデューティ比に応じた交流電圧に変換して前記制御対象に印加する電力用変換器(IGBT変換器)と、
前記電力用変換器のスイッチング動作によって生じる逆起電力を回生して前記交流電源に戻す回生用変換器(IGBT変換器)と、を備える供給電力調節器と、を具備する電力供給システムである。
【0107】
第2の態様は、前記第1の態様に係る電力供給システムにおいて、
前記供給電力調節器が、
前記制御対象の温度変動を検出する温度変動検出手段と、
前記交流電源から前記電力用変換器に供給される電力から前記交流電源の電源変動を検出する電源変動検出手段と、
前記電力用変換器から前記制御対象に供給される電力から負荷変動を検出する負荷変動検出手段と、
前記温度変動検出手段、前記電源変動検出手段、及び前記負荷変動検出手段による各検出結果に応じて、前記供給電力調節器に加える前記制御対象に供給すべき電力量に応じた制御信号の周波数を制御する周波数可変手段と、を備えた電力供給システムである。
【0108】
第3の態様は、
制御対象の温度を測定する温度測定手段と、
前記制御対象の理論抵抗値の算出に使用されるデータを格納しているヒータ温度係数テーブルと、
前記制御対象の実測初期抵抗値を温度データと共に格納しているヒータ作成時基準テーブルと、
前記温度測定手段によって測定された前記制御対象の温度に対応する基準抵抗値を、前記ヒータ温度係数テーブルに格納されているデータから算出するか、または前記ヒータ作成時基準テーブルに格納されている実測初期抵抗値を取得するかして、さらに前記制御対象に印加されている交流電圧及び交流電流の測定値から前記制御対象の実測抵抗値を算出し、算出した前記実測抵抗値と前記基準抵抗値とを比較する演算器と、を備える抵抗検出装置である。
【0109】
第4の態様は、
交流電圧に含まれる高調波ノイズを除去する入力側フィルタ回路と、
前記入力側フィルタ回路からの出力の電源変動を検出して、検出した電源変動を打ち消すフィードフォワード制御信号を出力する電源変動検出手段フィードフォワード回路と、
前記入力側フィルタ回路から出力された交流電圧の正弦波波形の波高値を制御するIGBT変換器と、
前記IGBT変換器から出力された前記交流電圧に含まれる高調波ノイズを除去する出力側フィルタ回路と、
前記出力側フィルタ回路からの出力の電源変動を検出して、検出した電源変動(負荷変動)を打ち消すフィードバック制御信号を出力する負荷変動検出手段フィードバック回路と、
前記出力側フィルタ回路から出力された前記交流電圧が印加された制御対象(発熱体)の測定温度と前記制御対象の設定温度との温度差を解消する温度調整用制御信号、前記フィードフォワード制御信号、及び前記フィードバック制御信号に応じて、前記IGBT変換器に前記交流電圧の正弦波波形の波高値を調節させる周波数変換回路と、を備える供給電力調節器である。
【0110】
第5の態様は、
温度測定手段が制御対象(発熱体)の温度を測定する温度測定ステップと、
演算器が、ヒータ温度係数テーブルから前記制御対象の理論抵抗値の算出用データを取得して前記温度測定ステップでの測定温度に対応する前記理論抵抗値を算出するか、またはヒータ作成時基準テーブルから前記温度測定ステップでの測定温度に対応する前記制御対象の実測初期抵抗値を取得するか、する基準抵抗値取得ステップと、
前記演算器が、前記制御対象に印加されている交流電圧及び交流電流の測定値から前記制御対象の実測抵抗値を算出する実測抵抗値算出ステップと、
前記演算器が、前記基準抵抗値取得ステップで算出または取得した前記制御対象の基準抵抗値と、前記実測抵抗値算出ステップで算出した前記実測抵抗値と、を比較する抵抗値比較ステップと、
前記演算器が、前記抵抗値比較ステップでの比較結果が所定の閾値を超えるか判定することにより、前記制御対象の劣化診断を実施する劣化診断ステップと、を有する制御対象の劣化診断方法である。
【0111】
第6の態様は、前記第5の態様において、
前記抵抗値比較ステップでの比較結果が所定の閾値を超えると前記演算器が判定した場合に、前記制御対象の交換を促す警報が発信される警報発信ステップと、
前記警報が発信された場合に、前記制御対象を交換する交換ステップと、を有する半導体装置の製造方法である。
【0112】
第7の態様は、
基板を熱処理する反応炉に設置された抵抗加熱ヒータを制御対象とする電力供給システムを備えた半導体製造装置であって、
前記制御対象の温度を測定する温度測定手段(熱電対)と、
前記制御対象の理論抵抗値の算出に使用されるデータを格納しているヒータ温度係数テーブルと、
前記制御対象の実測初期抵抗値を測定温度と共に格納しているヒータ作成時基準テーブルと、
前記温度測定手段による前記制御対象の測定温度に対応する基準抵抗値を、前記ヒータ温度係数テーブルに格納されているデータから算出するか、または前記ヒータ作成時基準テーブルに格納されている実測初期抵抗値を取得するかして、さらに前記制御対象に印加されている交流電圧及び交流電流の測定値から前記制御対象の実測抵抗値を算出し、算出した前記実測抵抗値と前記基準抵抗値とを比較する演算器と、を備える抵抗検出装置と、
交流電圧に含まれる高調波ノイズを除去する入力側フィルタ回路と、
前記入力側フィルタ回路からの出力の電源変動を検出して、検出した前記電源変動を打ち消すフィードフォワード制御信号を出力する電源変動検出手段フィードフォワード回路と、
前記入力側フィルタ回路から出力された交流電圧の正弦波波形の波高値を制御するIGBT変換器と、
前記IGBT変換器から出力された交流電圧に含まれる高調波ノイズを除去する出力側
フィルタ回路と、
前記出力側フィルタ回路からの出力の電源変動を検出して、検出した前記電源変動(負荷変動)を打ち消すフィードバック制御信号を出力する負荷変動検出手段フィードバック回路と、
前記出力側フィルタ回路から出力された前記交流電圧が印加された前記制御対象の測定温度と前記制御対象の設定温度との温度差を解消する温度調整用制御信号、前記フィードフォワード制御信号、及び前記フィードバック制御信号に応じて、前記IGBT変換器に前記交流電圧の正弦波波形の波高値を調節させる周波数変換回路と、を備える供給電力調節器と、
を具備する半導体製造装置である。
【0113】
第8の態様は、
波高値の制御された交流電圧が供給されることによって発熱する抵抗加熱ヒータと、
前記抵抗加熱ヒータの温度変動を検出する熱電対と、
波高値が制御される前の交流電圧及び交流電流から電源変動を検出する電源変動検出手段フィードフォワード回路と、
前記抵抗加熱ヒータに印加される交流電圧及び交流電流から負荷変動を検出する負荷変動検出手段フィードバック回路と、
前記温度変動、前記電源変動、及び前記負荷変動に応じた制御信号を出力する周波数変換回路と、
前記制御信号に応じてパルス幅変調方式によって交流電圧の正弦波波形を維持したまま波高値を制御するIGBT変換器と、
前記抵抗加熱ヒータに印加されている交流電流を測定するカレントトランスと、
前記抵抗加熱ヒータに印加されている交流電圧を測定する電圧測定ラインと、
前記カレントトランスによる測定電流値及び前記電圧測定ラインによる測定電圧値から前記抵抗加熱ヒータの実測抵抗値を算出し、算出した前記実測抵抗値に基づいて前記抵抗加熱ヒータの劣化診断を実施する抵抗検出装置と、
を備える電力供給システムである。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明に係る電力供給システム及びこの電力供給システムを備える基板処理装置は、半導体基板やガラス基板等に対する薄膜形成処理のみならず、アニール処理や酸化・還元処理にも適用できる。
【符号の説明】
【0115】
100 電力供給システム
106 抵抗加熱ヒータ
107 炉
110 供給電力調節器
112 IGBT変換器
114 電源変動検出手段フィードフォワード回路
115 周波数変換回路
119 負荷変動検出手段フィードバック回路
130 温度調整用調節計
144 演算器
145 ヒータ製作時基準テーブル
146 ヒータ温度係数テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正弦波波形を有する交流電圧の波高値を制御する供給電力調節器と、
前記供給電力調節器によって制御された交流電圧が印加されることによって発熱する発熱体と、
前記発熱体に印加された交流電圧及び交流電流を測定する測定器と、
前記測定器によって得られた電圧値及び電流値から前記発熱体の抵抗値を算出し、算出した前記抵抗値に基づいて前記発熱体の劣化診断を行う演算器と、を備えることを特徴とする電力供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−108596(P2011−108596A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265385(P2009−265385)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(592230092)株式会社国際電気セミコンダクターサービス (17)
【Fターム(参考)】