説明

電力信号を変調してスパッタリングを制御するためのシステムおよび方法

【課題】アーク放電等異常放電を抑えてデブリを防ぎ、効率的で信頼性の高い膜を形成するためのスパッタリング用電源及びシステムを提供する。
【解決手段】真空チャンバ、基板を真空チャンバを通じて搬送するように構成された基板搬送システム、スパッタリングターゲットを支持するカソードであって、少なくとも部分的に真空チャンバ内にあるカソード、およびカソードに電力を供給するように構成された電源であって、変調電力信号を出力するように構成された電源を有するスパッタリングシステムを含む。態様に応じて、振幅変調電力信号、周波数変調電力信号、パルス幅電力信号、パルス位置電力信号、パルス振幅変調電力信号、あるいは他の種類の変調電力またはエネルギー信号を出力するように、この電源を構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、スパッタリング用電源およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]被覆基板は、ほぼ全ての場所で見受けられ、今日の消費者製品、太陽光関連製品、ガラスにとって重要である。例えば、被覆基板を用いる一般的な消費者製品には、携帯電話用のディスプレイ、コンピュータ用フラットパネルディスプレイ、フラットパネルテレビ、携帯情報端末、およびデジタル腕時計がある。このような被覆基板は、一般に、特定の基板上に、薄い層を堆積することによって形成される。多くの場合、この堆積した材料は、光を透過し、電流を通す透明導電性酸化物(TCO)である。例示的なTCOには、インジウムスズ酸化物(ITO)やアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)を含むが、当業者にはその他のTCOも明らかである。
【0003】
[0003]メーカは、スパッタリングとして知られているプロセスを用いてTCOや他の膜を基板上に堆積する。このスパッタリングには、ターゲットをイオンに衝突させることによりターゲットを原子化することが含まれる。ターゲットからスパッタリングされた原子は、スパッタリングプロセスの最中に、通常はターゲット近傍を通過する基板上に堆積される。スパッタリングされた原子は、基板上に集積し、結晶を形成し、最終的には膜を形成する。高密度でかつ高品質な結晶が、高品質な膜にとっては重要である。
【0004】
[0004]図1から図4に、実際のスパッタリングプロセスの態様を示す。例えば、図1に、「回転式マグネトロン」として知られるスパッタリングシステムを示す。このシステムは、多くの場合、コーティングガラスに用いられる。この基本的な回転式マグネトロンには、回転式のカソード10およびターゲット15が含まれており、どちらも真空チャンバ20内に位置する。この真空チャンバ20には、ガスを導入するためのガス導入口25と、真空チャンバ20からガスを排出するためのガス排出口30とが含まれる。この基本的なシステムには、また、電源35が含まれ、この電源は、数ある中でも、交流(AC),直流(DC)、または無線周波数(RF)ベースの電源が用いられる。この電源35は、エネルギーをカソード10に供給して、プラズマがカソード10の周囲で形成されるようにチャンバ20内のガスを励起する。このプラズマによって発生したガスイオンは、イオンがターゲット15に衝突し、ターゲット15の原子をスパッタリングするように、回転式カソード10内にある磁石アセンブリ40によって集束させられる。また、この回転式マグネトロンシステムには、スパッタリングプロセスの最中に、カソード10近傍で基板を移動させる基板搬送システム45が含まれる。ターゲット15からスパッタリングされた原子は、基板上に定着し、膜を形成する。
【0005】
[0005]図5に、別のスパッタリングシステムの部分的な断面を示す。このシステムは、回転式のカソードやターゲットではなく、平板型のカソード50と平板型のターゲット55を用いていることから「平板マグネトロン」と呼ばれる。回転式マグネトロンのように、平板マグネトロンは磁石60を用いて、プラズマからのイオンをターゲット55に衝突させる。この平板マグネトロンは、通常、ディスプレイ用の薄膜を供給するのに用いられる。
【0006】
[0006]図3に、平板マグネトロンに含まれる磁石アセンブリ70が発生させた磁場65を示す。この磁場は、電子や2次電子がレーストラックを通過し、あるいはその周辺に浮遊する際に、イオンを発生させるスパッタリングカソードの表面上および表面近傍にその電子を閉じ込める。発生したイオンは、ターゲット(図2に要素55として示す)に衝突を与える。図2でわかるように、この衝突は、ターゲット55の特定の部分に強く集中する。例えば、ターゲット55の2つの部分75は、著しくスパッタリングされるが、ターゲット55のその他の部分は、あまり変化していない。このスパッタリングプロセスによって形成されたパターンが、「レーストラック」として知られている。図4に、レーストラック80が十分に形成された平板型ターゲット75を示す。このターゲット75は、本来は、矩形ブロックであり、スパッタリングプロセスによってレーストラックエリア80の材料が原子化され、基板上に堆積されたものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[0007]薄膜を必要とする製品の増加により、薄膜業界は、近年、薄膜の品質にますます重点を置いてきている。低品質な薄膜は、基板上に集積する不要なデブリ、および/または基板上に不十分に形成される薄膜により生ずることが多い。薄膜業界は、この膜質に関する問題を、電源の変更やイオンアシスト堆積プロセスの導入などのさまざまな方法で取り組んできた。しかし、この業界では、この新たな薄膜用件に対して、そのデブリや膜形成問題への信頼性が高く、効率的で、かつビジネス上実用的な解答はいまだに得られていない。
【0008】
[0008]成膜業界(厚膜と薄膜の両方)が直面するデブリの問題には、2種類のデブリタイプが含まれる。第1のタイプのデブリには、ターゲットに起因するデブリが含まれ、第2のタイプのデブリには、成長中の膜自身および基板キャリアに起因するデブリが含まれる。この第2のタイプのデブリは、多くの場合、ターゲットに起因するデブリが膜に影響を与えた後に発生する。ターゲットに起因するデブリは、多くの場合、ノジュールや電気アークの結果である(ノジュールは、ターゲット上に材料が積み重なったものであり、多くの場合、スパッタリングされた材料が、基板上ではなくターゲットやカソード上に堆積されて形成される)。
【0009】
[0009]図5に、カソード90上、および/またはターゲット95上に形成される典型的なノジュール85の例を示す。この例では、カソード90およびターゲット95は、隣接する別個の構成要素として示される。例えば、ターゲット95はITOから形成され、カソード90に接合あるいは結合される。通常、システムは、ITOターゲット95をスパッタリングすべきであり、そのターゲット95を支持するカソード90をスパッタリングするものではない。他の実施形態では、カソード90およびターゲット95は、単一ユニットとして一体化される場合もあるし、回転式の場合もある。
【0010】
[0010]このスパッタリングシステムでのプラズマは、アルゴンガス100から形成される。電源(図示せず)によって、カソード90に電力が供給されてガスはイオン化し、それによって正に帯電したイオン105を形成し、そのイオン105は、負に帯電したカソード90およびターゲット95に引きつけられる。カソード90に印加された電力は、この態様では定常状態の直流である。当然のことながら、当業者であれば、他のタイプの電力を用いることも可能であろう。
【0011】
[0011]イオン105が一旦形成されると、このイオン105と、負に帯電したターゲット95との間での電気的引力により、ターゲットへ衝撃が加わり、ターゲット材料のスパッタリングが行われる。スパッタリングされた材料は、大部分が基板110上に膜115として堆積される。しかし、スパッタリングされた材料の一部は、カソード90、および/またはターゲット95上に再堆積してノジュール85を形成する。
【0012】
[0012]ノジュールは、重大な問題を引き起こす可能性があり、そのうち最も重大な問題は、アークとデブリである。負に帯電したターゲットに向かって引きつけられる正に帯電したイオンは、ノジュール上に集積し、そのノジュールが物理的に成長し、あるいは過剰成長する原因となる。そして、イオンがノジュール上に溜まるにつれて、ノジュールとターゲット表面の間で電位が生じ、その表面に沿って電流が流れる。そして、ある時点で、熱ストレスまたは絶縁破壊のいずれかによって、ノジュールとターゲット表面との間で、アークが生じる。基本的に、このアークによってノジュールは破裂して、粒子を基板に向けて吹き飛ばし、その結果、デブリが形成される。この粒子は、流星が月に影響を与えるのと同じように成長中の膜に影響を与える。
【0013】
[0013]膜に影響を与えるターゲット粒子は、次の3つの問題を引き起こす可能性がある。まず第1に、この粒子は、膜上で成長している結晶を壊す可能性がある。場合によっては、この影響によって膜表面に大きな傷が付いたり、クレーターが生じたりする。第2に、ターゲットに起因するデブリが、遊離して存在する膜粒子を壊し、その結果、堆積プロセス中に、膜に影を残す可能性がある。この粒子は、その後、膜の他の部分に再堆積する。最後に、ターゲットから吹き飛ばされた高温のデブリは、特に、ポリマー上に成長している場合は、成長中の膜を焼く可能性がある。
【0014】
[0014]たとえ、膜成長をデブリが妨げなくても、膜は、正しく形成しない場合もある。微結晶質、不均一な膜成長、および化学量論に関する重大な問題が成膜メーカを悩ませる。これらの特性の一部は、測定が可能であり、バルク材料の導電率の測定値からバルク抵抗も計算できる。膜質に関する問題を解決する1つの方法にイオンアシスト堆積がある。イオンアシスト堆積システムは、一般に、スパッタリングシステムに、別個のイオンソースを付加したものである。この特別なイオンソースは、膜の成長中に、その膜を定着させ緻密化するのに役立つ。このイオンソースは、カソードやターゲットとは異なり、非常に高価である。この高額な費用のために、イオンアシスト堆積は、広く採用されるには至っていない。
【0015】
[0015]従って、膜成長をアシストし、また、上記の問題を含むが、それに限定されることなく現在の技術に伴って存在する問題を解決するためのシステムと方法とが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[0016]図面に示した本発明の例示的な実施形態を以下に要約する。これらと他の実施形態は、「詳細な説明」の項でさらに十分に説明する。しかし、当然のことながら、本発明は、この「発明の概要」、あるいは「詳細な説明」に記載した形態に限定されることを意図するわけではない。当業者であれば、請求項で表現する本発明の精神と範囲とに含まれる多くの変更、等価物および代替構成があることは理解できよう。
【0017】
[0017]一実施形態は、真空チャンバと、基板を真空チャンバを通じて搬送するように構成された基板搬送システムと、少なくとも部分的に真空チャンバ内にあり、スパッタリングターゲットを支持するカソード、およびカソードに電力を供給するように構成された電源であって、変調電力信号を出力するように構成された電源とを含むスパッタリングシステムを含む。態様に応じて、振幅変調電力信号、周波数変調電力信号、パルス幅電力信号、パルス位置電力信号、パルス振幅変調電力信号、あるいは他の種類の変調電力またはエネルギー信号を出力するようにこの電源を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[0018]本発明のさまざまな目的および効果、さらにより詳細な理解は、添付の図面と共に、以下の「詳細な説明」および添付の請求項を参照することにより明らかであり、より容易に理解されよう。
【0019】
[0019]図面に関しては、似ている、または類似の要素は、複数の図面を通して同一の参照番号で示される。また、特に図6Aおよび図6Bに関しては、これらの図面は、パルス直流電源を含むスパッタリングシステムのアーク防止機能を示す。この図では、パルス直流電源(図示せず)を用いてパルス直流信号がカソード90に供給される。
【0020】
[0020]図6Bは、図6Aに対応するパルス直流信号を示す。安定電圧120は、マイナス100V(−100)近辺であることに留意されたい。周期的間隔で、電源は、電圧を短時間反転させる。例えば、この電源は、3〜4マイクロ秒の正のパルス125をカソード90に供給できる。この正のパルス125は、ターゲット95およびカソード90を正に帯電させる。図6Aは、「+」サインで示したこの電荷をターゲット95に反映した状態である。アルゴンイオン105もまた正に帯電しているので、それらは、ターゲット195上の同じ正電荷で反発され、一方では、同時に、電子が、プラズマ本体からカソードに向かって進み、正イオンと再結合してそれらを中性化させ、帯電した電荷を除去するということが起こる。このようにして、反転パルス125は、蓄積したイオンの一部をノジュール85から放出し、この反転状態(正電圧)の間に、基板方向に出ていくバルクプラズマのイオンが、より一層、基板に向かって送られやすくなり、成長中の膜にイオン衝突を与える。ノジュールは残るかもしれないが、ノジュール上のイオン、およびノジュール85とターゲット表面との間のアーク電位は大幅に減少する。
【0021】
[0021]さらに図6Bに関して言うと、反転パルス125の後に、電源は、通常の動作状態に戻る。つまり、電源は、順方向パルス130を供給し、ついで、約マイナス100(−100)Vの安定電圧135を供給する。反転パルスの周波数と持続時間、反転パルス電圧、および安定電圧は、ターゲット材料や、同じ材料でもターゲット品質に応じて変えることができる。さらに、これらのパラメータは、同じターゲットに対してでも時間に応じて変える場合がある。当業者であれば、使用する特定のターゲットに対してどのように正確なパラメータを選択するかは自明であろう。
【0022】
[0022]図7に、定常状態の直流電圧を用いたスパッタリングによって得られた膜特性を示す。このシステムでは、定常状態の直流電圧(約300V)が、カソード90およびターゲット95に印加される。イオン145が、ターゲット95に衝突し、スパッタリングされた材料140が基板110上に膜115として集積する。
【0023】
[0023]しかし、この膜115は均一ではない。この膜は、導電性に悪影響を与える複数の間隙を含む。このような間隙は、結晶が正しく形成されず、しかも、膜が高品質ではないことを示す。
【0024】
[0024]不完全結晶、および間隙は、堆積不良、および/または膜に影響を及ぼす高エネルギー粒子によって生じる可能性がある。例えば、不必要に高いカソード電圧は、スパッタリングされた原子140、反射された中性原子150、あるいは生成したイオン145に過大なエネルギーを与える可能性がある。この高エネルギー粒子は、成長中の膜115に影響を与え、膜に乱れを生じる。従って、カソード90の電圧制御は、高品質膜を生成するのに有用となる。
【0025】
[0025]ここで、図8Aおよび図8Bを参照すると、この図では、重畳されたRF波形とパルス直流波形(RFは図示せず)とを用いたスパッタリングプロセスの3つの段階が、段階ごとに示される。段階1では、重畳されたRF信号を備えたパルス直流電圧が、カソードおよびターゲットに印加される。この定常状態の直流電圧は、およそ100V〜125Vであり、RF波形は、13.56MHzで、+/−800V交流〜2200V交流であるが、この周波数に限定されることはない。この重畳されたRF信号または他の変調信号を用いて、カソード電圧を減少させることができ、イオン/堆積エネルギーをよりうまく制御することができる。同様に、スパッタリングされた材料140のエネルギーも、より低いカソード電圧によってよりうまく制御することができる。
【0026】
[0026]段階1の間に、ターゲット95はイオン145によって衝突され、ターゲット95はスパッタリングされる。段階1では、スパッタリングされた材料140が高密度であることに留意されたい。スパッタ率は高く、イオン密度は低く、電子155密度は高い。
【0027】
[0027]段階2では、電源(図示せず)は、カソード90に印加されている直流信号を反転させる。例えば、電源は、プラス50Vから250Vの間の電圧をパルス印加する。この段階2の間は、スパッタ率は低い。段階1と比較してスパッタリング種140が少ないことに留意されたい。
【0028】
[0028]しかし、段階2では、段階1と比較するとイオン145(負に帯電した所望の酸素イオンを含む)の生成が多い。この増加したイオン数は、段階3でターゲットに衝突するのに利用可能となる。また、この増加したイオン数は、成長中の膜115にも穏やかに影響を及ぼし、スパッタリングされた材料を緻密化し定着させ、それによって膜中の間隙を埋める。このプロセスを、膜表面のイオン145によって表す。
【0029】
[0029]最後に、電源は、段階3で電圧を定常状態に戻す。この段階は段階1と類似しており、スパッタリングされた材料140を生成して膜115の成長を続ける。
【0030】
[0030]このスパッタリング、堆積、イオン生成、およびコンパクト化のサイクルにより、より高品質な膜が生成される。基本的に、このようなサイクルは、膜1層をスパッタリングし、その層を緻密化し、ついで次の層をスパッタリングする。パルス直流へのRFの重畳は、このようなサイクルを生成する1つの手段である。他の変調信号によっても、類似の結果をもたらすことができる。
【0031】
[0031]図9Aおよび9Bに、パルス直流がある場合とない場合とで重畳されたRFを用いた利点を示す。RFおよびパルス直流の組み合わせをカソード90に印加することによって、良いスパッタリング結果を実現することができる。このタイプの膜の例示的な説明図を図9Bに示す。このシステムでは、カソード90は、パルス直流波形、および重畳されたRF信号または他の変調信号によって電力を供給される。得られた膜115は、均一で、十分に緻密化されている。
【0032】
[0032]図9Aに、図9Bのシステムよりはやや劣った膜115を生成するシステムを示す。ただし、図9Aに示すシステムも、良好な膜を生成することができる。このシステムの場合、カソード90は、定常状態の直流電圧と重畳されたRF信号とによって電力を供給される。得られた膜には、スパッタリングされた原子間に複数の間隙がある可能性がある。
【0033】
[0033]図10は、イオンエネルギー(EV)と膜質(バルク抵抗)との関連を示す例示的な図である。この図中の特定の値は、ターゲット材料に応じて変化する場合があるが、全体的な曲線は説明に役立つ。イオンエネルギーが低い(〜1EV)場合は、膜質は低下する(バルク抵抗が高いほど、膜質は劣る)。また、イオンエネルギーが非常に高い(〜1000EV)場合も、膜質は低下する。しかし、イオンエネルギーが中程度、例えば、30〜150EVの範囲で、かつ周波数を通じてイオン密度が制御される場合は、膜質は高くなる。この図は、スパッタリングプロセスの際にイオンエネルギーを制御することによって膜質が制御できることを明示する。あまりにも低いエネルギーのイオンでは、膜中の原子間で連鎖的に起こる衝突を引き起こさない。つまり、あまりにも低いエネルギーのイオンは、膜の原子を緻密化し、(原子のシャドウイングの減少によって)間隙を除去するのには役に立たない。また、あまりにも高いエネルギーのイオンは、成長中の膜結晶を破壊し、実際に間隙や粒界の数を増加させる可能性がある。イオンエネルギーを制御する1つの方法は、本明細書中で説明した重畳されたRFまたは他の変調電源を含む電力システムを用いることである。
【0034】
[0034]図11Aに、パルス直流波形を用いた電源の出力を示す。第1の波形は、周波数が350kHzであり、反転パルス持続時間は1.1μsである。また第2の波形は、周波数が200kHzであり、反転パルス持続時間は2.3μsである。図11Bに、これら2種類の直流波形に対応したイオンエネルギーを示す。イオンエネルギーは、高いレベルのスパイクを示し、これが基板上で成長する結晶を破壊する可能性があることに留意されたい。このようなスパイクを制限する電源は、高品質膜を生成するのに有用となる。
【0035】
[0035]図12に、本発明の原理に従って構成した電源160およびスパッタリングシステム165を示す。このシステムには、電圧スパイクを抑制またはクリッピングできる機能を含む変調電源160が含まれる。例えば、電源160には、RFプラズマ電源に接続(ここでの「接続」とは、「一体化」も意味する)したパルス直流電源が含まれる。あるいは、RFプラズマ電源に接続した直流または交流電源を含んでもよい。また、他の実施形態では、場合によっては、プログラム可能な変調電源と接続したパルス直流電源、直流電源、あるいは交流電源を含む。この変調電源は、場合によっては、周波数変調信号、振幅変調信号、パルス幅変調信号、パルス位置変調信号などを出力する(「スパッタリングシステム」とは、一体化した電源とスパッタリング装置とも言える)。
【0036】
[0036]図13に、本発明の原理に従って構成した電源とスパッタリングシステムの他の実施形態を示す。この態様には、RFプラズマ源170、およびスパッタリングシステム165と接続したRFマッチングネットワーク175が含まれる。また、この形態には、パルス直流電源180、およびスパッタリングシステム165と接続したRFフィルタ185が含まれる。これら2つの電源からの信号は、組み合わされてスパッタリングシステム165を駆動する。当業者であれば、これらの構成要素をどのようにして接続して動作させるかは自明であろうから、本明細書では詳細な説明は省く。
【0037】
[0037]図14に、本発明の原理に従って構成した特定の電源を示す。「電源」には、共に作動する複数の電源、あるいは所望の波形を生成できる単一ユニットが含まれることに留意されたい。この態様では、2つの異なる電源、つまり、RF電源190とパルス直流電源200とが結合し、単一の電源のように作動する。
【0038】
[0038]アドバンスドエナジー(ADVANCED ENERGY)社製のモデルRFG3001(3kW)RF電源によりRF信号が供給される。アドバンスドエナジー社は、コロラド州フォートコリンズ(Fort Collins,Colorado)にある会社である。この電源は、アークを内部または外部から抑制するためにその構成を変更することができ、この電源からの出力は、アドバンスドエナジー社製の直流アーク検出およびシャットダウン回路付きXZ90チューナなどのチューナ205に送給される。
【0039】
[0039]この態様でのパルス直流電源は、ピナクル(PINN交流LE)社製であり、内部アーク抑制付きの20kWの電源である。この電源からの出力は、高電流RFフィルタボックス210に送給される。これは、標準的な空冷または水冷のT型またはパイ型フィルタである。そして、RFフィルタボックスからの出力は、チューナからの出力と組み合わされスパッタリングシステムに供給される。
【0040】
[0040]図15に、本発明の原理に従って構成した電源およびスパッタリングシステムを示す。このシステムは、電源がパルス直流電力ではなく交流電源215である以外は図13に示したシステムと類似している。
【0041】
[0041]図16〜19に、変調交流電力信号を示す。この変調電力信号を用いて、スパッタリングシステムのイオン密度とイオンエネルギーとを制御することができ、それによって膜特性や膜質を制御することができる。これらの電力信号を用いて、前述のより高品質な膜を実現することができる。さらに、RF信号を、これらの変調電力信号に重畳して、さらに膜成長に影響を与えることができる。
【0042】
[0042]振幅、周波数、およびパルス幅またはパルス位置での変化を通じて、スパッタリング種に対するイオンの比率、スパッタ率、およびイオンとスパッタリング種のエネルギーを制御することができる。同様に重要なことは、基板上での表面移動が生じる時間を制御する、一部の変調方法の能力である。
【0043】
[0043]図16Aに、周波数変調電力信号を示す。周波数変調(FM)は、入力信号に従って、その瞬間の周波数の変化により、アナログまたはデジタル形式で情報を搬送波にエンコードすることである。図16の左端の波形に、任意の信号およびその周波数への影響を示す。
【0044】
[0044]図16Bに、イオン密度およびイオンエネルギーに対する周波数変調電力信号の影響を示す。パルス状の高周波数により、高濃度のイオンが作成される。より低い周波数領域の間は、スパッタ率が高く、より高い周波数領域の間は、スパッタ率は低い。スパッタリング種のイオンに対する比率は、この2つの異なる領域の間で変化する。スパッタ率が減少するに従って、イオン濃度が増加し、逆の場合もまた同じである。この変化により、膜成長を向上させる独自の原動力が得られる。
【0045】
[0045]図17Aに、振幅変調電力信号を示す。振幅変調は、一連の信号パルスの振幅にメッセージ情報がエンコードされる信号変調の形式である。これが従来の説明であるが、プラズマ源の場合は、電圧、電流、および電力レベルを、所望の割合がどれだけであっても変調することができる。
【0046】
[0046]図17Bに、イオン密度とイオンエネルギーとに対する振幅変調信号によって生じる影響を示す。この振幅変調は、スパッタ率を変化させ、新しいタイプのプロセスおよび膜成長を可能にする。
【0047】
[0047]図18Aに、パルス幅変調信号を示す。パルス幅変調は、通信チャネル上でデータを表す方法である。パルス幅変調では、データのサンプル値は、パルスの長さで表される。
【0048】
[0048]図18Bに、イオン生成およびイオンエネルギーに対する変調パルス幅信号の影響を示す。パルス状の高周波数により、高濃度のイオンが作成される。パルス幅が長い領域の間は、スパッタ率は高く、パルス幅が短い領域の間は、スパッタ率は低い。スパッタリング種のイオンに対する比率は、この2つの異なる部分の間で変化する。
【0049】
[0049]図19に、パルス位置変調信号を示す。パルス位置変調は、メッセージ情報を、一連の信号パルス間の時間間隔にエンコードする信号変調方式である。他の変調信号と同様に、エンコードされた情報は、イオン密度およびイオンエネルギーを変化させる。
【0050】
[0050]図20〜22に、変調直流電力信号を示す。この変調直流電力信号を用いて、スパッタリングシステムのイオン密度とイオンエネルギーとを制御することができ、それによって、膜特性および膜質を制御することができる。既存の直流および複合直流のスパッタリングのプロセスには、膜特性を効果的に制御する能力の点で、ある程度限界がある。この直流および複合直流のプロセスは、スパッタリングプロセス時のエネルギーを精密に制御する能力の欠如と同様に電力の限界を示す可能性があり、また現にそうである。スパッタリングカソードにパルス直流電源を用いることによって、スパッタリングエネルギーをうまく制御して多くの膜堆積プロセスや膜特性、特に導電性透明膜に利益をもたらした。このような制御は、これらの電源が、本質的に、ユーザの定義による周波数と強度とでプラズマを消灯し再点灯するという事実に基づいて実現される。このようないずれかのシステムでの電力パルスまたはプラズマ点灯の開始時ごとに、イオンを生成する電子エネルギー分布はより広がり、大部分のスパッタリング種およびイオンが発生する。直流および複合直流のプロセスでは、プラズマは、最初しか点灯されないために、この分布は、より低い平均電子エネルギー値に向かって安定化する。
【0051】
[0051]この点を考慮すれば、パルス電力の場合は、平均電子/イオンエネルギーをより高い値に増加させるための多くの開始時やプラズマ点灯機会があり、その結果、このような利益をプロセスに与える。パルス持続時間とデューティサイクルとを制御することによって、電子/イオンエネルギーを制御することができ、生成した特定のスパッタリング種およびイオンの相対数を制御することができる。パルス電力を用いることによって、操作者は、より多くのスパッタリング薄膜の特性を効果的に制御することができる。
【0052】
[0052]典型的なパルス直流電源を越えたエリア、つまり、ユーザが定義する周波数と、順方向および反転タイミングとを有する電源が、スパッタリングカソードへの出力電力および一般的なプラズマ源における新たなエリアである。この新しい方法およびシステムにより、1つまたは複数の方法で変調された電力が提供される。通常、この変調方法は、交流電源に役立ち、また直流電源にも役立つ。従って、このような直流システムの説明は、先に述べた交流システムの説明と類似している。
【0053】
[0053]図20に、パルス直流を用いたパルス振幅変調を示す。
【0054】
[0054]図21に、パルス直流を用いたパルス幅変調を示す。パルス幅変調では、データのサンプル値は、パルスの長さで表される。
【0055】
[0055]図22にパルス位置変調を示す。このパルス位置変調は、メッセージ情報を、一連の信号パルス間の時間間隔にエンコードする信号変調方式である。
【0056】
[0056]交流での実施例と全く同様に、振幅、周波数、およびパルス幅またはパルス位置の変化を用いて、スパッタリング種に対するイオンの比率、スパッタ率、およびイオンとスパッタリング種のエネルギーを制御することができる。同様に重要なことは、基板上での表面移動が生じる時間を制御する、一部の変調方法の能力である。
【0057】
[0057]要約すると、本発明の実施形態により、より高い歩留まり、より高い品質の薄膜、および標準的な直流、交流、およびRFスパッタリングプロセスと、最も適当なターゲット材料とで可能なものとは違った膜が可能になる。一実施形態では、これらは、スパッタリングエネルギー、イオン密度、スパッタ率、およびエネルギーを制御して膜成長の向上を図る能力を用いて実現される。当業者であれば、本発明における多くの変形形態や代替形態を構成することができ、また本明細書に記載の実施形態によって実現するものと実質的に同じ結果を実現する本発明の用法および構成も構築することができることは即座に理解できよう。従って、本発明は、開示した代表的な形態に限定されることを意図するわけではない。多くの変形形態、変更、および代替構成が、請求項で表現する本開示の発明の範囲と精神に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】スパッタリング用の例示的な回転式マグネトロンを示す。
【図2】例示的な平板マグネトロンおよびターゲットを示す。
【図3】例示的な平板マグネトロンの断面および対応する磁力線を示す。
【図4】平板型ターゲットに形成された例示的なレーストラックを示す。
【図5】ターゲット上に形成されたノジュールを示すブロック図である。
【図6A】パルス直流電源のアーク防止能力を示す。
【図6B】図6Aに対応したパルス直流波形を示す。
【図7】定常状態の直流電圧でスパッタリングして得られた膜特性を示す。
【図8A】パルス直流に重畳したRFを含む電力信号でスパッタリングする場合のプロセスにおける3つのフェーズを示す。
【図8B】図8Aに対応したパルス直流波形を示す。
【図9A】パルス直流がある場合とない場合での重畳されたRFにより得られた膜を示す。
【図9B】パルス直流がある場合とない場合での重畳されたRFにより得られた膜を示す。
【図10】バルク抵抗とイオンエネルギーとの関連を表す例示的な図を示す。
【図11A】ターゲットでのパルス直流測定、およびその結果得られたイオンエネルギーの測定値を示す。
【図11B】ターゲットでのパルス直流測定、およびその結果得られたイオンエネルギーの測定値を示す。
【図12】本発明の原理に従って構成した電源およびスパッタリングシステムを示す。
【図13】本発明の原理に従って構成した電源およびスパッタリングシステムを示す。
【図14】本発明の原理に従って構成した電源を示す。
【図15】本発明の原理に従って構成した電源およびスパッタリングシステムを示す。
【図16A】本発明の一態様で使用可能な周波数変調電力信号を示す。
【図16B】イオン密度およびイオンエネルギーに対する周波数変調電力信号の効果を示す。
【図17A】本発明の一態様で使用可能な振幅変調電力信号を示す。
【図17B】イオン密度およびイオンエネルギーに対する振幅変調信号の効果を示す。
【図18A】本発明の一態様で使用可能なパルス幅変調信号を示す。
【図18B】イオン生成およびエネルギーに対する変調パルス幅信号の効果を示す。
【図19】本発明の一態様で使用可能なパルス位置変調信号を示す。
【図20】本発明の一態様によるパルス直流を用いたパルス振幅変調を示す。
【図21】本発明の一態様によるパルス直流を用いたパルス幅変調を示す。
【図22】本発明の一態様で使用可能なパルス位置変調を示す。
【符号の説明】
【0059】
10:回転式のカソード
15:回転式のターゲット
20:真空チャンバ20
25:ガス導入口25
30:ガス排出口
35:電源
40:磁石アセンブリ
45:基板搬送システム
50:平板型のカソード
55:平板型のターゲット
60:磁石
65:磁場
70:磁石アセンブリ
75:ターゲット55の2つの部分
80:レーストラック
85:ノジュール
90:カソード
95:ターゲット
100:アルゴンガス
105:イオン
110:基板
115:膜
120:安定電圧
125:パルス
130:順方向パルス
135:安定電圧
140:材料、原子
145:イオン
150:中性原子
155:電子
160:変調電源
165:スパッタリングシステム
170:RFプラズマ源
175:RFマッチングネットワーク
180:パルス直流電源
185:RFフィルタ
190:RF電源
195:ターゲット
200:パルス直流電源
205:チューナ
210:RFフィルタボックス
215:交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングを行うためのシステムであって、
真空チャンバと、
前記真空チャンバを通じて基板を搬送するように構成された基板搬送システムと、
スパッタリングターゲットを支持するためのカソードであり、少なくとも部分的に前記真空チャンバ内にある前記カソードと、
変調電力信号を、前記カソードに供給し、それによってスパッタリングを可能にするように構成された電源と
を備えるシステム。
【請求項2】
前記電源が振幅変調電力信号を供給するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記電源が周波数変調電力信号を供給するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記電源がパルス幅電力信号を供給するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記電源がパルス位置電力信号を供給するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記電源がパルス振幅変調電力信号を供給するように構成されている、求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記電源がパルス直流電源を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記電源に接続されたマッチングネットワークをさらに備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記電源に接続されたチューナをさらに備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
スパッタリングを行うためのシステムであって、
真空チャンバと、
前記真空チャンバを通じて基板を搬送するように構成された基板搬送システムと、
スパッタリングターゲットを支持するためのカソードであり、少なくとも部分的に前記真空チャンバ内にある前記カソードと、
前記カソードに接続された変調電源であり、信号を前記カソードに出力するように構成された変調電源と
を備えるシステム。
【請求項11】
前記変調電源が、
パルス直流電源と、
無線周波数信号を出力するように構成された無線周波数電源と
を備え、
前記カソードに出力する前記信号が、前記無線周波数信号と組み合わせたパルス直流信号を含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記変調電源が、前記カソードに周波数変調信号を出力するように構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記変調電源が、前記カソードに振幅変調信号を出力するように構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
前記変調電源が、前記カソードにパルス幅変調信号を出力するように構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項15】
前記変調電源が、前記カソードにパルス位置変調信号を出力するように構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項16】
前記変調電源が、少なくとも2つの別個の電源を備える、請求項10に記載のシステム。
【請求項17】
イオン密度とスパッタ率とを制御するためのシステムであって、
電力信号をカソードに供給するように構成された電源と、
前記電源に接続された変調システムであって、前記電力信号の少なくとも1つの特性を変化させるように構成された変調システムと
を備え、
前記電力信号の前記特性が、振幅、周波数、パルス幅、およびパルス位置のうちの少なくとも1つを含む、システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2007−46152(P2007−46152A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−165117(P2006−165117)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(504448944)アプライド フィルムズ コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】