説明

電力増幅器の歪補償装置、電力増幅器の歪補償装置における故障検出方法

【課題】無線送信機の電力増幅器の出力の歪補償を行うとき、歪補償の故障検出を低処理負荷となる方法で行うようにすること。
【解決手段】ベースバンド信号を分岐して得た参照信号(Ref信号)と、電力増幅器18の出力をフィードバックして得たフィードバック信号(FB信号)との、位相を合わせた後の差分値を減算器5で算出する。積分器20は、この差分値を積算する。故障判定部22は、積分器20により得られる積算値と所定の閾値とを比較し、積算値が所定の閾値よりも大きいことを条件として歪補償装置の故障であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線送信機の電力増幅器の出力の歪補償を行う歪補償装置において、歪補償の故障を検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムで使用される無線送信機では、電力増幅器(以下適宜、単に「増幅器」という。)の増幅特性を直線化して非線形歪を抑え、隣接チャネル漏洩電力を低減する技術が重要である。無線送信機の電力増幅器の出力の歪補償を行う歪補償装置としては、適応プリディストータ型歪補償装置が知られている。
【0003】
適応プリディストータ型歪補償装置では、非線形歪を解消するため、増幅器の非線形性を考慮して予め非線形性の逆特性を表す補償係数を入力信号に乗算することで、増幅前の入力信号に前歪処理(プリディストーション)を施す。この補償された入力信号が増幅器で増幅されるとき、入力信号に与えられた特性(上記逆特性)と増幅器自体の非線形性が相殺されるため、増幅器の出力特性を線形にすることができる。
【0004】
図6には、従来の歪補償装置100の例が示されている。この従来の歪補償装置100には、送信系とフィードバック系とが含まれる。
【0005】
図6に示す歪補償装置のうち、送信系を構成するのは、ミキサ106、歪補償制御部108、イコライザ109、デジタルアナログ変換器110(DAC)、局部発振器111、直交変調器112(MOD)、電力増幅器118、である。
この歪補償装置100では、電力増幅器118の非線形性を補償する目的で、歪補償装置100に入力されるデジタルのベースバンド信号(I信号、Q信号)に対し、歪補償制御部108で生成された補償係数がミキサ106で乗算される。これにより、前歪処理(プリディストーション)が行われる。
【0006】
歪前処理が施されたベースバンド信号(I信号、Q信号)は、イコライザ109により周波数特性が補償された後、デジタルアナログ変換器110に入力されてアナログ変換される。直交変調器112は、局部発振器111からの基準搬送波信号(無線周波数)、及び基準搬送波信号の位相を90度シフトした搬送波信号を、アナログ変換されたI信号及びQ信号によりそれぞれ変調(直交変調)して加算する。直交変調器112により生成された送信用無線信号は、電力増幅器118により所望のレベルまで増幅されて、アンテナ(図示しない)から空間に放射される。
【0007】
一方、図6に示す歪補償装置のうち、フィードバック系を構成するのは、遅延器103、演算器105、方向性結合器132、局部発振器133、ダウンコンバータ134、アナログデジタル変換器136(ADC)、NCO(Numerically Controlled Oscillator)137、直交検波器138(DEM)、である。
この歪補償装置100において、電力増幅器118から出力される無線信号の一部は、方向性結合器132により分離される。ダウンコンバータ134は、この分離された無線信号の一部に対して局部発振器133からの信号を混合して、中間周波数の信号に変換する。アナログデジタル変換器136は、この中間周波数帯の信号をデジタル信号に変換する。直交検波器138は、NCO137からの信号を用いて、中間周波数の信号に対して直交検波を行い、ベースバンド信号(I信号、Q信号)を生成する。
【0008】
以下の説明では、フィードバック系の信号をFB信号と適宜表記する。
遅延器103は、参照信号(Ref信号)として入力されるベースバンド信号(I信号、Q信号)と、直交検波器138からのベースバンドのFB信号との位相を合わせるために設けられている。演算器105は、位相合わせをさせられたRef信号と、直交検波器138からのFB信号との差分値(誤差)を算出し、算出された差分値が歪補償制御部108へフィードバックされる。この歪補償装置100では、歪補償制御部108は、演算器105で生成される誤差が0となるように補償係数を算出する。
以下の特許文献1〜4には、上述した適応プリディストータ型歪補償装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開番号WO2003/103166
【特許文献2】特開2008−78702号公報
【特許文献3】特開2006−270246号公報
【特許文献4】特開2006−279780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述した従来の歪補償装置は、装置が正常に動作していることを監視する目的で、アナログデジタル変換器136にて生成される中間周波数のデジタル信号に対して高速フーリエ変換処理を行うFFT(Fast Fourier Transform)処理部140(図6参照)を備えていた。このような従来の歪補償装置では、FFT結果に基づいて歪補償機能の故障検出を行うようにしていた。
【0011】
この従来の歪補償装置の故障検出方法について、図7〜9を参照して説明する。
図7は、搬送波(キャリア)が4個存在する場合の電力増幅器の出力電力(周波数スペクトラム)の測定例を例示する図であって、(a)は出力異常時、(b)は出力正常時、を示す。図8は、図7と同一条件におけるFFT処理部の出力を例示する図であって、(a)は出力異常時、(b)は出力正常時、を示す。図9は、FFT処理結果に対する、キャリアに応じた監視領域の相違を示す図である。
【0012】
図7を参照すると、出力正常時と比較して、出力異常時の周波数スペクトラムは、サイドローブが持ち上がり、4個のキャリア周波数領域に隣接するチャネルに出力信号が漏洩し、隣接妨害が生じていることが分かる。この漏洩電力は、他チャネルに対して雑音となり、そのチャネルに対する通信品質を劣化させてしまう。
図8が示すFFT処理結果は、電力増幅器のフィードバック信号(無線信号)を中間周波数にダウンコンバートした後の信号であるから、図7と同様の波形(異常時にはサイドローブが持ち上がる波形)となっている。なお、図8では、FFTポイント数が1024であり、2個のキャリアが左右端の領域に折り返して表示されている。
図7及び図8から、フィードバック信号のFFT結果を監視する(例えば、4個のキャリア周波数領域の周辺の周波数における電力の低下度合いを測定する)ことにより、歪補償機能の正常動作又は異常動作の判定(故障検出)が可能であることが分かる。
【0013】
しかしながら、実際の運用において、フィードバック信号のFFT処理結果に基づいて、歪補償機能の故障検出を行うことは不利益な側面がある。
不利益な側面として第1に、フィードバック信号のFFT処理結果を監視する場合、設定されるキャリアに応じてFFT処理結果に対して監視すべき周波数領域をその都度設定するという点がある。例えば図9(a)は4個のキャリアC1〜C4が設定されている場合(図7及び図8と同様の場合)であるが、この場合、監視すべき周波数領域はサイドローブの領域、すなわち、キャリアC1より少し低い周波数領域と、キャリアC4より少し高い周波数領域とになる。図9(b)に示すように単一のキャリアC1のみが設定されている場合、監視すべき周波数領域は、サイドローブの領域、すなわちキャリアC1の上下の周波数領域となる。図9(c)に示すように、キャリアC1,C3及びC4が設定されている場合、監視すべき周波数領域は、3次歪を考慮して、キャリアC4より少し高い周波数領域と、キャリアC1より少し離れた低周波数領域となる。したがって、FFT処理結果を監視する場合、監視すべき周波数領域を、上位から設定されるキャリア配置、IM(Inter Modulation)特性を考慮してその都度設定することになって、煩雑である。
【0014】
その他の不利益な側面として、FFT処理をハードウエアで行う場合にはハードウエアの規模が大きいために経済的でなく、また、FFT処理をソフトウエアで行う場合には処理速度を考慮するとCPUに与える負荷が大きい、という点がある。
【0015】
よって、発明の1つの側面では、無線送信機の電力増幅器の出力の歪補償を行うとき、歪補償機能の故障検出を低処理負荷となる方法で行うようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の観点では、無線送信機の電力増幅器の出力の歪補償を行うとともに、当該歪補償の故障を検出する故障検出機能を備えた、電力増幅器の歪補償装置である。この歪補償装置は、前記増幅器への入力信号を分岐した参照信号と、前記増幅器の出力をフィードバックしたフィードバック信号との差分値を算出する差分算出部と、前記差分値を積算する積算部と、前記積算部により得られる積算値に基づいて前記歪補償装置の故障の有無を判定する故障判定部と、を有する。
第2の観点では、この電力増幅器の歪補償装置の各部と同様の処理方法を備えた、電力増幅器の歪補償装置における故障検出方法、が提供される。
【発明の効果】
【0017】
無線送信機の電力増幅器の出力の歪補償を行うとき、歪補償機能の故障検出を低処理負荷となる方法で行うようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態の歪補償装置の構成を表すブロック図。
【図2】実施形態の歪補償装置の歪補償制御部の構成例を示すブロック図。
【図3】実施形態の歪補償装置の歪補償制御部のLUTが保有する参照テーブルの一例を示す図。
【図4】実施形態の歪補償装置における故障検出の構成例を示す図。
【図5】実施形態の歪補償装置において、ACLRと監視対象のカウント値との関係を示す図。
【図6】従来の歪補償装置の構成を表すブロック図。
【図7】電力増幅器の出力(周波数スペクトラム)の測定例を例示する図。
【図8】従来の歪補償装置のFFT処理部の出力を例示する図。
【図9】FFT処理部の出力において監視すべき周波数領域を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、無線送信機に使用される電力増幅器の歪補償装置の好適な実施形態について、図1を参照して説明する。この歪補償装置は、例えば電力増幅器の故障などによって歪補償が正常に動作しない場合、すなわち故障が生じた場合に、その故障検出を経済的かつ低処理負荷となる方法で行うようにしたものである。
【0020】
図1は、実施形態の歪補償装置1の構成を表すブロック図である。この歪補償装置1には、送信系と、フィードバック系と、故障検出系とが含まれる。
【0021】
図1に示す歪補償装置のうち、送信系は、ミキサ6、歪補償制御部8、イコライザ9、デジタルアナログ変換器10(DAC)、局部発振器11、直交変調器12(MOD)、電力増幅器18、を含む。
この歪補償装置1では、電力増幅器18の非線形性を補償する目的で、歪補償装置1に入力されるデジタルのベースバンド信号(I信号、Q信号)に対し、歪補償制御部8で生成された補償係数がミキサ6で乗算される。これにより、前歪処理(プリディストーション)が行われる。
歪前処理が施されたベースバンド信号(I信号、Q信号)は、イコライザ9により周波数特性が補償された後、デジタルアナログ変換器10に入力されてアナログ変換される。直交変調器12は、局部発振器11からの基準搬送波信号(無線周波数)、及び基準搬送波信号の位相を90度シフトした搬送波信号を、アナログ変換されたI信号及びQ信号によりそれぞれ変調(直交変調)して加算する。直交変調器12により生成された送信用無線信号は、電力増幅器18により所望のレベルまで増幅されて、アンテナ(図示しない)から空間に放射される。
【0022】
図1に示す歪補償装置のうち、フィードバック系は、遅延器3、演算器5(差分算出部)、方向性結合器32、局部発振器33、ダウンコンバータ34、アナログデジタル変換器36(ADC)、NCO(Numerically Controlled Oscillator;数値制御型発振器)37、直交検波器38(DEM)、を含む。
この歪補償装置1において、電力増幅器18から出力される無線信号の一部は、方向性結合器32により分離される。ダウンコンバータ34は、この分離された無線信号の一部に対して局部発振器33からの信号を混合して、中間周波数の信号に変換する。アナログデジタル変換器36は、この中間周波数帯の信号をデジタル信号に変換する。直交検波器38は、NCO37からの信号を用いて、中間周波数の信号に対して直交検波を行い、ベースバンド信号(I信号、Q信号)を生成する。
【0023】
以下の説明では、フィードバック系の信号をFB信号と適宜表記する。
遅延器3は、参照信号(Ref信号)として入力されるベースバンド信号(I信号、Q信号)と、直交検波器38からのベースバンドのFB信号との位相を合わせるために設けられている。演算器5は、位相合わせをさせられたRef信号と、直交検波器38からのFB信号との差分値(誤差)を算出し、算出された差分値が歪補償制御部8へフィードバックされる。この歪補償装置1では、歪補償制御部8は、演算器5で生成される誤差が0となるように補償係数を算出する。
【0024】
図1に示す歪補償装置のうち、故障検出系は、積分器20(積算部)、メモリ24及び故障判定部22を含む。
積分器20は、例えばデジタルカウンタにより構成され、演算器5により算出される差分値(位相合わせをさせられたRef信号と、直交検波器38からのFB信号との誤差)を積算する。積分器20のカウント値は、逐次故障判定部22に送られる。
故障判定部22は、メモリ24に格納されている閾値と、積分器20から送られるカウント値とを比較する。そして、故障判定部22は、カウント値が閾値を上回ったときに、故障を報知するためのアラーム信号を生成する。
【0025】
次に、図2を参照して、歪補償制御部8の構成例について説明する。図2は、歪補償装置1の歪補償制御部8の構成例を、周辺部位とともに示すブロック図である。
図2に例示する歪補償制御部8は、例えばDSP(Digital Signal Processor)を用いて構成され、演算回路8d、LUT(Look Up Table)8e及びアドレス生成部8fを有する。
【0026】
演算回路8dは、演算器5で得られた差分値を用いて、既に算出されている補償係数hn(p)から入力信号に乗算するための補償係数hn+1(p)を新たに算出する。ここで、nは繰り返し回数、pは入力信号のパワー(入力電力)であり、p=(I2+Q2)(IはI信号の値、QはQ信号の値)である。すなわち、補償係数hk(p)(kは1以上の整数)(以降、補償係数を代表して表すときhk(p)と表す。)は、入力信号(参照信号Ref)とフィードバック信号(FB信号)との差分に応じて繰り返し算出される。なお、pは、(I2+Q2)の替わりに(I2+Q2(1/2)を用いてもよい。
【0027】
図2に示す演算回路8dには、すでに算出されているn番目の補償係数hn(p)から(n+1)番目の補償係数hn+1(p)を算出するフローが示されている。この補償係数hn+1(p)の算出は、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムを用いた適応信号処理を用いて以下のように行われる。
以下、入力信号、すなわちRef信号(I信号およびQ信号)を複素表示でx(t)と表し、入力信号に対応するフィードバック信号(FB信号)を複素表示でy(t)と表し、その差分(誤差)をe(t)と表す。
【0028】
まず、差分e(t)に対して、更新量のステップパラメータサイズを表すμが乗算器8gを用いて乗算され、さらに、この乗算結果に、乗算器8hを用いて、hn(p)・y*(t)が乗算される。hn(p)・y*(t)(y*(t)は、y(t)複素共役である。)は、フィードバック信号y(t)から複素共役生成部8iを用いて生成された複素共役フィードバック信号y*(t)と補償係数hn(p)とが、乗算器8jにより乗算して得られた信号である。さらに、乗算器8hで算出されたhn(p)・y*(t)・μ・e(t)に、加算器8kを用いてn番目の補償係数hn(p)が加算されることにより(n+1)番目の補償係数hn+1(p)が算出される。なお、加算器8kや乗算器8jに用いるn番目の補償係数hn(p)は、加算器8kによる加算のために、遅延調整回路8lによりタイミング調整される。
【0029】
LUT8eは、演算回路8dで逐次算出される補償係数hk(p)(kは1以上の整数)を、Ref信号のパワーpから定まるアドレス値と対応付けて、補償係数h(p)として記録したテーブルである。LUT8eは、後述するアドレス生成部8fからアドレス信号が供給されると、このアドレス信号を用いてLUT8eの入力信号のパワーpに対応する補償係数h(p)を参照して取り出し、この補償係数h(p)をミキサ6に出力する。
アドレス生成部8fは、歪補償前のRef信号x(t)から、Ref信号のエンベロープ信号を生成し、このエンベロープ信号から求まるパワーpに基づいてアドレス信号を生成する。アドレス信号は、例えば、パワーpのレベルに応じて定まる10ビットのアドレス値(0〜1023のいずれかの値)を持つ。さらに、LUT8eにおいて補償係数を補償係数hn+1(p)に更新するとき、アドレス信号を遅延出力するために、アドレス生成部8fは遅延調整器(図示せず)を備える。
【0030】
図3は、LUT8eが保有する参照テーブルの一例を示す図である。入力信号のパワーpを量子化したパワーpiに対応したアドレス値が設定され、このアドレス値の参照テーブルには補償係数h(pi)(iは0〜1023の整数)が記録されている。
LUT8eは、図3に示すように、アドレス生成部8fから供給されたアドレス信号のアドレス値に応じて、このアドレス値に対応した補償係数h(p)を取り出す。ミキサ6は、この補償係数h(p)を入力信号x(t)に乗算する。入力信号x(t)はI信号とQ信号を含み、補償係数h(p)もI信号およびQ信号に対応した2つの値(実部と虚部)を有するので、ミキサ6における乗算もこれらの信号及び値に対応した乗算処理を行うように構成されている。
【0031】
上述した歪補償制御が正常に行われたとしたならば、前歪処理によって電力増幅器18の出力の非線形歪が解消されて、電力増幅器18からのフィードバック信号に基づいて生成されるベースバンド信号(直交検波器38からのFB信号)と、入力信号(すなわち、Ref信号)とが概ね同一となる。すなわち、演算器5で算出される差分値(図2ではe(t))が0又は非常に小さな値となる。逆に、この差分値が継続的に大きな値を示すとすれば、フィードバック系の故障(例えば、電力増幅器18、ダウンコンバータ34、直交検波器38等の故障)によりFB信号が予定する値よりも大きく乖離する場合、又は歪補償制御部8の各部が正常に動作している場合が考えられる。これらの故障を検出するためには、演算器5で算出される差分値を監視するのが合理的である。かかる観点から、本実施形態の歪補償装置では、演算器5の差分値を積分し、その積分値(前述したカウント値)を所定の閾値と比較することにより、故障を検出するようにしている。
【0032】
次に、図4を参照して、実施形態の歪補償装置における故障検出機能の構成についてさらに説明する。図4は、本実施形態の歪補償装置における故障検出の構成例を示す図である。本実施形態の故障検出方法として、図4(a),(b)に示す構成のいずれかを適用することができる。
【0033】
図4(a)に示す構成例では、演算器5は、Ref信号とFB信号のうちI信号(振幅レベル)同士を減算する減算器51と、Ref信号とFB信号のうちQ信号(振幅レベル)同士を減算する減算器52とを含む。そして、積分器22は、減算器51のカウント値を積分する実部積分器221と、減算器52のカウント値を積分する虚部積分器222とを含む。図4(a)に示す構成例において、故障判定部22(図4には図示せず)は、実部積分器221と虚部積分器222の各々のカウント値をそれぞれ独立に所定の閾値と比較して、いずれか一方、又は双方のカウント値が閾値よりも大きくなった時点でアラーム信号を出力する。
【0034】
図4(b)に示す構成例では、図4(a)の構成と比較して、演算器5はさらに、乗算器53,54及び減算器55を含む。乗算器53はRef信号のI信号とQ信号を乗算し、乗算器54はFB信号のI信号とQ信号を乗算する。減算器55は、乗算器53の出力値から乗算器54の出力値を減算する。図4(b)では、減算器51,52の出力は、歪補償制御部8の演算に使用されるに過ぎない。図4(b)に示す構成例では、減算器55の出力は、Ref信号とFB信号の電力値の差分値となる。そして、積分器22は、この電力値の差分値を積分し、その積分値が閾値よりも大きくなった時点でアラーム信号を出力する。
【0035】
次に、図5を参照して、ACLR(Adjacent Cannel Leakage power Ratio;隣接チャネル漏洩電力)と、積分器22のカウント値との関係について説明する。図5は、所定の条件の下での試験結果において取得された結果を示しており、縦軸のカウント値は積分器22のデジタル値を量子化したレベルで表示している。
図5の(a)は、図4の(a)の構成により測定された、Ref信号とFB信号の信号振幅の誤差のカウント値(積分値)と、ACLRとの関係を示している。図5の(a)から、カウント値は、ACLRに対して単調増加の関係にあることが分かる。
一方、図5の(b)は、図4の(b)の構成により測定された、Ref信号とFB信号の電力の誤差のカウント値(積分値)と、ACLRとの関係を示している。図5の(b)からも、カウント値は、ACLRに対して単調増加の関係にあることが分かる。
図5はまた、Ref信号とFB信号の信号振幅又は電力の誤差のカウント値を監視することにより、ACLRが大きくなり過ぎる状況を監視できることを表している。つまり、ACLRが許容最大値以下となるような閾値を、図5に基づいて設定しておけばよい。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の電力増幅器の歪補償装置は、入力したベースバンド信号を分岐して得た参照信号と、電力増幅器の出力をフィードバックして得たフィードバック信号との、位相を合わせた後の差分値に基づいて前歪処理を行うことで、電力増幅器の出力の歪補償を行うとともに、歪補償の故障を検出する故障検出機能を備える。この故障検出機能では、前歪処理に用いられる差分値の積分値を所定の閾値と比較することにより正常/故障を判定する。よって、例えば差分値に対するカウンタと比較器のみで故障検出機能を構成することができ、故障検出を経済的かつ低処理負荷となる方法で行うことができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の電力増幅器の歪補償装置、及びその故障検出方法は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【0038】
以上の各実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
無線送信機の電力増幅器の出力の歪補償を行う歪補償装置であって、
前記増幅器への入力信号を分岐した参照信号と、前記増幅器の出力をフィードバックしたフィードバック信号との差分値を算出する差分算出部と、
前記差分値を積算する積算部と、
前記積算部により得られる積算値に基づいて前記歪補償装置の故障の有無を判定する故障判定部と、
を有する、電力増幅器の歪補償装置。
(付記2)
前記差分値は、前記増幅器への入力信号の同相成分若しくは直交成分のいずれか、又は同相成分及び直交成分の双方に基づいて算出されることを特徴とする、
付記1に記載された、電力増幅器の歪補償装置。
(付記3)
前記差分値は、前記増幅器への入力信号の電力値に基づいて算出されることを特徴とする、
付記1に記載された、電力増幅器の歪補償装置。
(付記4)
無線送信機の電力増幅器の出力の歪補償を行う歪補償装置における故障検出方法であって、
前記増幅器への入力信号を分岐した参照信号と、前記増幅器の出力をフィードバックしたフィードバック信号との、位相を合わせた後の差分値を算出し、
前記差分値を積算し、
前記積算部により得られる積算値に基づいて前記歪補償装置の故障の有無を判定する、
電力増幅器の歪補償装置における故障検出方法。
【符号の説明】
【0039】
1…歪補償装置、3…遅延器、5…演算器、6…ミキサ、8…歪補償制御部、9…イコライザ、10…デジタルアナログ変換器、11…局部発振器、12…直交変調器、18…電力増幅器、20…積分器、22…故障判定部、24…メモリ、32…方向性結合器、33…局部発振器、34…ダウンコンバータ、36…アナログデジタル変換器、37…NCO、38…直交検波器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線送信機の電力増幅器の出力の歪補償を行う歪補償装置であって、
前記増幅器への入力信号を分岐した参照信号と、前記増幅器の出力をフィードバックしたフィードバック信号との差分値を算出する差分算出部と、
前記差分値を積算する積算部と、
前記積算部により得られる積算値に基づいて前記歪補償装置の故障の有無を判定する故障判定部と、
を有する、電力増幅器の歪補償装置。
【請求項2】
前記差分値は、前記増幅器への入力信号の同相成分若しくは直交成分のいずれか、又は同相成分及び直交成分の双方に基づいて算出されることを特徴とする、
請求項1に記載された、電力増幅器の歪補償装置。
【請求項3】
前記差分値は、前記増幅器への入力信号の電力値に基づいて算出されることを特徴とする、
請求項1に記載された、電力増幅器の歪補償装置。
【請求項4】
無線送信機の電力増幅器の出力の歪補償を行う歪補償装置における故障検出方法であって、
前記増幅器への入力信号を分岐した参照信号と、前記増幅器の出力をフィードバックしたフィードバック信号との、位相を合わせた後の差分値を算出し、
前記差分値を積算し、
前記積算部により得られる積算値に基づいて前記歪補償装置の故障の有無を判定する、
電力増幅器の歪補償装置における故障検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−258597(P2010−258597A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104211(P2009−104211)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】