説明

電力変換装置およびそれを用いた電気掃除機

【課題】単相交流電源からの入力電流の波形を改善し、高い力率で動作する電力変換装置および電気掃除機を提供する。
【解決手段】入力端子24、25と出力端子26、27を有するマトリクス回路23、インダクタンス素子28、コンデンサ30を設け、制御回路48は、電源電圧検知手段50と出力電圧検知手段52の出力を受け、双方向スイッチング素子41〜44のオンオフを制御することにより、単相交流電源20からの入力電流波形を改善し高力率を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、業務用や一般家庭用や業務用の各種電気機器などに使用され、モータ(電動機)などを負荷とする電力変換装置およびそれを用いた電気掃除機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電力変換装置は、6個の双方向スイッチング素子を、単相の交流電源と、3相の負荷の間に接続し、単相の交流から直接3相の交流への電力変換を行うものであった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図10は、特許文献1に記載された従来の電力変換装置の回路図を示すものである。
【0004】
図10に示すように、交流電源1、交流電源1に接続されたマトリクスコンバータ回路2、マトリクスコンバータ回路2から接続されて、負荷となる3相のモータ3が接続され、マトリクスコンバータ回路2の動作を制御する制御部4が設けられたものとなっている。
【0005】
マトリクスコンバータ回路2は、2個のトランジスタ5、6、ダイオード7、8を用いた双方向スイッチ10、双方向スイッチ10と同様の構成で組まれた双方向スイッチ11、12、13、14、15を有するものとなっており、マトリクスコンバータ回路2内の合計12個のトランジスタのオンオフが制御部4によって制御される結果、3相の交流電圧がモータ3に供給されて駆動されるものであった。
【特許文献1】特開2005−45912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、交流電源1として、日本国内の100V50Hzまたは60Hzなどの単相の交流電源を用いる場合、交流電源の電圧波形は正弦波であり、零ベルトとなる点付近の低電圧期間における電力変換が困難となる。
【0007】
特に3相のモータとして一般的に高効率が得られるとされる永久磁石を使用したものを駆動する場合には、速度に比例して発生する誘導起電力が高いものとなるため、低電圧期間においては入力電流を受けることができず、交流電源から供給する入力電流は、波形のピーク点付近のみとなり、入力電流のピーク電流値が跳ね上がって波形の歪みが増える。その結果、力率としては低いものであった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するもので、低電圧期間においても交流電源からの入力電流が受けられるようにして入力電流波形を改善し、交流電源から供給する電力の力率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の電力変換装置は、2つの入力端子と複数の出力端子との組み合わせに複数の双方向スイッチング素子を設けて成るマトリクス回路と、単相交流電源から前記入力端子への経路に接続したインダクタンス素子と、前記出力端子間に接続したコンデンサと、前記単相交流電源の電圧を検知する電源電圧検知手段と、前記出力端子間の電圧を検知する出力電圧検知手段と、前記電源電圧検知手段と前記出力電圧検知手段の出力に基づいて前記複数の双方向スイッチング素子のオンオフを制御する制御回路とを備えたものである。
【0010】
これによって、本発明は上記課題を解決するもので、単相交流電源の零電圧付近の低電圧期間においても単相交流電源からの入力電流を受けるようにして入力電流波形を改善し、単相交流電源から供給する電力の力率を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、単相交流電源の零電圧点付近の低電圧期間においても交流電源からの入力電流が受けられるようにして入力電流波形を改善し、高い力率で動作する電力変換装置およびそれを用いた電気掃除機を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第1の発明は、2つの入力端子と複数の出力端子との組み合わせに複数の双方向スイッチング素子を設けて成るマトリクス回路と、単相交流電源から前記入力端子への経路に接続したインダクタンス素子と、前記出力端子間に接続したコンデンサと、前記単相交流電源の電圧を検知する電源電圧検知手段と、前記出力端子間の電圧を検知する出力電圧検知手段と、前記電源電圧検知手段と前記出力電圧検知手段の出力に基づいて前記複数の双方向スイッチング素子のオンオフを制御する制御回路とを備えた電力変換装置とするものである。
【0013】
この構成により、単相交流電源の零電圧付近の低電圧期間においても単相交流電源からの入力電流を受けるようにして入力電流波形を改善し、単相交流電源から供給する電力の力率を高めることができる。
【0014】
また、第2の発明は、特に第1の発明の双方向スイッチング素子を、2つの電流の向きのそれぞれに対してオンオフ制御が可能なものとし、単相交流電源からインダクタンス素子と2つの双方向スイッチング素子を通して電流が流れる上下同時導通期間を有する構成とする。
【0015】
これにより、前記単相交流電源の零電圧付近の低電圧期間において、出力電圧が入力電圧よりも高い状態となっても、昇圧動作によって、前記単相交流電源からの入力電流が受けられるものとなり、入力電流波形が大幅に改善され、前記単相交流電源から供給する力率を高めることができる。
【0016】
また、第3の発明は、特に第1の発明または第2の発明の制御回路を、出力電圧検知手段の信号の絶対値と、電源電圧検知手段の信号の積にほぼ比例した入力電流となるように、双方向スイッチング素子のオンオフを制御する構成とすることにより、負荷に供給する出力側の力率も高め、負荷に対して高効率の電力供給を可能とするものとなる。
【0017】
また、第4の発明は、特に第1から第3のいずれかの発明の構成に加え、単相交流電源からの入力電流を検知する電流検知手段を設け、制御回路は入力電流波形が、前記単相交流電源とほぼ相似波形となるように双方向スイッチング素子のオンオフを制御し、負荷に三相の電力を供給する構成とすることにより、前記単相交流電源からの力率を高く確保すると同時に、負荷に対する力率も十分高いものとし、高効率での電力変換を可能とするものとなる。
【0018】
また、第5の発明は、特に第4の発明の負荷を、永久磁石を有する三相電動機とした構成とすることにより、負荷である電動機として高効率であると共に、誘導起電力よりも単相交流電源の電圧の方が低くなる状態にあっても、単相交流電源から入力電流を受け取れることから、入力側の力率も高くすることができる。
【0019】
また、第6の発明は、特に第1から第5のいずれか1つの発明の制御回路を、単相交流電源の周波数および出力周波数よりも高い周波数を持った鋸波をキャリア波としたパルス幅変調を行い、1回の上下同時導通の後のフライバック期間に複数の電流経路を切り替えて双方向スイッチング素子のオンオフを制御する構成とすることにより、比較的簡単な構成でありながら、入力電流波形の改善が可能となり、高力率が実現できるものとなる。
【0020】
また、第7の発明は、特に第1から第6のいずれかの発明の双方向スイッチング素子を、SiC半導体を用いた構成とすることにより、小型で低損失が実現でき、装置の小型化、軽量化、高効率化が可能となる。
【0021】
また、第8の発明は、第1から第7のいずれか1つの発明の電力変換装置と、前記電力変換装置から電力が供給される電動機と、前記電動機によって回転駆動されるファンとを有する電気掃除機としたことにより、単相交流電源からの電力供給であっても高い力率で動作すると共に、強い吸引力が得られ、小型・軽量で使い勝手の優れたものとすることができる。
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における電力変換装置の回路図である。
【0024】
図1において、100V50Hzの単相交流電源20にA1、A2端子を接続した電力変換装置21は、B1、B2端子から負荷22に交流の出力を行うものである。電力変換装置21の構成は、マトリクス回路23が、2つの入力端子24、25と、2つの出力端子26、27を有し、単相交流電源20から入力端子24への経路に接続したインダクタンス素子28、出力端子26、27の間に接続したコンデンサ30を接続している。
【0025】
ここで、本実施の形態における負荷22は、抵抗のように電圧と電流とが常に比例関係にあるというものではなく、例えば同期電動機のように、電流とは無関係に電圧源となるようなものが接続されている状態にある。
【0026】
本実施の形態において、マトリクス回路23は、2つの入力端子24、25と2つの出力端子26、27の4通りの組み合わせに対応して、入力端子数と出力端子数の積とある4個の双方向スイッチング素子41、42、43、44を有しており、制御回路48によって、双方向スイッチング素子41、42、43、44のオンオフが制御されるものとなっている。
【0027】
さらに単相交流電源20の電圧を検知する電源電圧検知手段50、出力端子26、27間の電圧を検知する出力電圧検知手段52が設けられており、制御回路48は、電源電圧検知手段50と出力電圧検知手段52の出力を受け、電源電圧検知手段50と出力電圧検知手段50からの信号の積に応じて双方向スイッチング素子41、42、43、44のオンオフを制御するものとなっている。
【0028】
図2は、本発明の第1の実施の形態における電力変換装置の双方向スイッチング素子の等価回路図である。
【0029】
図2において、SiC半導体55、56は、それぞれ炭化珪素を主成分とし、シリコンよりも大きなバンドギャップを有したNチャンネルのMOSFET構造であって、逆方向の耐圧も十分なものが確保できるとともに、等価的に2つのSiC半導体55、56が逆
方向に接続された構造となっている。
【0030】
そして、SiC半導体55、56は、ゲートGxとソースSx間に駆動信号(ゲート信号)が入力されると、端子Xから端子Yの方向への電流が流れる状態となり、ゲートGyとソースSy間に駆動信号(ゲート信号)が入力されると、端子Yから端子Xの方向への電流が流れる状態となるものである。従って、双方向スイッチング素子41、42、43、44は、いずれも端子Xから端子Y、端子Yから端子Xという2つの電流の向きのそれぞれに対してオンオフ制御が可能なものとなっている。
【0031】
図1において、例えば単相交流電源20の出力電圧の極性として、A1がA2より高電位となる状態で、双方向スイッチング素子41のゲートGxと双方向スイッチング素子42のゲートGyが、制御回路48からオン信号となった場合には、単相交流電源20からインダクタンス素子28と2つの双方向スイッチング素子41、42を通して電流が流れる状態となり、このような状態を上下同時導通と呼ぶものとする。
【0032】
直流電圧を入力して動作する一般的なブリッジ型のインバータにおいては、このような上下のスイッチング素子の同時導通は、過電流破壊の原因となるため行わない。しかし、本実施の形態においては、インダクタンス素子28が挿入されているため、前者とは状況が異なる。
【0033】
本実施の形態においては、直列接続された2つの双方向スイッチング素子が同時にONしている上下同時導通期間には、それ以外の双方向スイッチング素子はオフ状態になっており、インダクタンス素子28に磁気的にエネルギーが蓄えられる一方、負荷22の端子間電圧、すなわちコンデンサ30の端子間電圧となる出力電圧は、完全に開放状態になる。従って、出力電圧が250Vというような高電圧であって、かつその時の入力電圧が50Vしかないような状態であっても、入力電流をインダクタンス素子28に流れ込ませることが可能となり、インダクタンス素子28には磁気エネルギーを蓄えるものとなる。
【0034】
そして、上下同時導通期間にインダクタンス素子28に磁気的に蓄えられたエネルギーは、その後の双方向スイッチング素子のオンオフ状態を切り替えることにより、フライバック動作によって、コンデンサ30および負荷22へと昇圧動作を行わせながら供給することができる。
【0035】
図3は、本発明の第1の実施の形態における電力変換装置の動作波形図である。
【0036】
図3において、(ア)は単相交流電源20からの入力電圧Vinおよび負荷22への出力電圧Voutを示し、(イ)は単相交流電源20からの入力電流Iinを示し、(ウ)は負荷22への出力電流Ioutを示し、(エ)は入力パワーPinを示している。損失が無視できる場合には、出力パワーPoutは入力パワーPinと同等と考えても良い。
【0037】
図3(ア)に示す出力電圧Voutに関しては、負荷22は、電圧源としての特性があることから、電圧の大きさ(振幅)としては、絶対値のピークが280Vであって、これは入力電圧Vinの振幅の2倍に相当し、周波数は、250Hzで、入力周波数50Hzの5倍である。
【0038】
特に本実施の形態においては、制御回路48は、マイクロコンピュータを内部に含んでおり、出力電圧検知手段52からの信号の絶対値と、電源電圧検知手段50の信号との積をマイクロコンピュータにてデジタル計算し、求めた積にほぼ比例した入力電流となるように、双方向スイッチング素子41、42、43、44のオンオフを制御するものとなっている。
【0039】
なお、前記マイクロコンピュータ内にはテーブルが用意されており、出力電圧検知手段52からの信号と、電源電圧検知手段50からの信号とに応じて上下同時導通期間の設定、およびフライバック期間にオンオフされる双方向スイッチング素子の選定が行われ、その結果、単相交流電源20からの入力電流が図3(イ)の波形となる。
【0040】
この場合、図3(ウ)に示される出力電流Iout波形、および図3(エ)に示される入力パワーPin波形は、いずれも図3(イ)と同様に単相交流電源20の周波数である50Hzの倍の100Hz(10ms周期)で包絡線を持ったような波形となる。
【0041】
本実施の形態においては、負荷22は単相で正弦波の電圧源であるため、単相交流電源20と負荷22のいずれにも電圧の零点、およびその付近の低電圧期間が存在するが、そのような期間に大きな電流を流しても、いわゆる力率が低い状態となり、有効な電力の伝達ができず、電力変換装置の効率を悪くするものとなる。
【0042】
よって、本実施の形態においては、出力電圧検知手段52の信号の絶対値と電源電圧検知手段の信号との積に、入力電流Iinがほぼ比例したものとすることにより、負荷22に供給する出力側の力率としても高いものが得られるものとなり、条件として与えられた入出力電圧の中では、最大の効率で電力供給が行うことができる。
【0043】
なお、本実施の形態においては、単相交流電源20からの入力電流Ioutを検知する手段は設けていないが、図3(イ)に示すような電流波形を、より精度良く実現しようとする場合には、電流検知手段などを設けてフィードバック制御すればよい。特に、負荷22に必要な電流値が変化するような特性のものである場合には、有効に作用する。
【0044】
(実施の形態2)
図4は、本発明の第2の実施の形態における電力変換装置の回路図である。
【0045】
図4において、100V50Hzの単相交流電源20にA1、A2端子を接続した電力変換装置61は、U、V、W端子から負荷62に三相の交流を出力するものである。電力変換装置61の構成は、マトリクス回路63が2つの入力端子64、65と3つの出力端子66、67、68とを有し、単相交流電源20から入力端子64への経路に接続したインダクタンス素子28と、出力端子66、67の間に接続したコンデンサ70と、出力端子67、68の間に接続したコンデンサ71と、出力端子66、68間に接続したコンデンサ72とを有している。
【0046】
本実施の形態において、マトリクス回路63は、2つの入力端子64、65と3つの出力端子66、67、68の6通りの組み合わせに対応して、入力端子数と出力端子数の積とある6個の双方向スイッチング素子81、82、83、84、85、86を有しており、制御回路88によって、双方向スイッチング素子81、82、83、84、85、86のオンオフが制御されるものとなっている。
【0047】
なお、双方向スイッチング素子81、82、83、84、85、86は、いずれも第1の実施の形態と同様にSiC半導体を用いたもので構成している。
【0048】
第1の実施の形態と同様に、単相交流電源20の電圧を検知する電源電圧検知手段50が設けられている他、出力端子66、67、68の各線間の電圧を検知する出力電圧検知手段92が設けられており、その上さらに、単相交流電源20からの入力電流Iinを検知する電流検知手段90を備えたものとなっている。
【0049】
本実施の形態においては、制御回路88は、電源電圧検知手段50、出力電圧検知手段92の信号に加えて、電流検知手段90からの信号も受け、入力電流波形Iinが正弦波の単相交流電源20とほぼ相似波形、すなわち正弦波となるように双方向スイッチング素子81、82、83、84、85、86のオンオフを制御し、負荷62に三相の電力を供給するものとなっている。
【0050】
図5(ア)は、電力変換装置の負荷62となる三相電動機の断面構成を示す断面図、図5(イ)は同三相電動機の結線を示す結線図である。
【0051】
図5(ア)に見られるように、三相電動機として構成した負荷62は、珪素鋼板を積層した表面に4つの永久磁石100、101、102、103を貼り付けて構成した鉄心104を、出力軸105を中心として回転自在に設けた回転子106と、回転子106の外側に設けた固定子107とを有する構成である。その固定子107は、やはり珪素鋼板を積層して構成した鉄心108、巻線110、111、112、113、114、115によって構成している。
【0052】
図5(イ)に示される巻線110、111、112、113、114、115の結線により、三相の入力端子U、V、Wが引き出されており、回転の速度に比例した振幅と周波数を持った誘導起電力が各巻線に発生し、中性点Nからの各相電圧が120度の位相差を有するほぼ正弦波となり、電力変換装置61の線間の出力電圧Vuv、Vvw、Vwuについても、前記誘導起電力によってほぼ正弦波の電圧に近いものとなる。
【0053】
図6は、本発明の第2の実施の形態における電力変換装置の動作波形図である。
【0054】
図6において、(ア)は単相交流電源20からの入力電圧Vinおよび負荷62への線間の出力電圧Vuv、Vvw、Vwuを示し、(イ)は単相交流電源20からの入力電流Iinを示し、(ウ)は負荷62への出力電流Iuv、Ivw、Iwuを示し、(エ)は入力パワーPinを示している。損失が無視できる場合には、出力パワーPoutは入力パワーPinと同等と考えてもよい。
【0055】
図6(ア)に示す電圧に関しては、負荷62は、永久磁石100、101、102、103からの誘導起電力による電圧源としての特性があることから、電圧の大きさ(振幅)としては、絶対値のピークが280Vであって、これは入力電圧Vinの振幅の2倍に相当し、周波数は250Hzで入力周波数50Hzの5倍となっている。
【0056】
負荷62は、4極構成の回転子106が毎分7500回転していることから、周波数は250Hzとなっている。
【0057】
図6(イ)に示す入力電流Iinに関して、本実施の形態においては、制御回路88は、単相交流電源20からの入力電流波形が、電源電圧検知手段50で検知した単相交流電源20の電圧と相似の正弦波波形となるように、双方向スイッチング素子81、82、83、84、85、86のオンオフを制御するものとなっている。
【0058】
なお、電源電圧検知手段50の出力に対する入力電流Iinの値の比例定数としては、本実施の形態においては、一定値とはせず、出力電圧検知手段92で検知される三相の出力電圧の値が所定値となるように、フィードバック制御されて決定されるものとなっている。
【0059】
これにより、例えば負荷62のトルクが変化した場合においても、三相の出力電圧として所定の値が確保され、かつ入力電流Iinの波形としては、単相交流電源20の電圧波
形に相似となる正弦波のものが流れ、Iinの大きさ(振幅)がトルクに応じて必要となるように変化するものとなる。よって、単相交流電源20からの力率は、ほぼ完全に1となり、系統への負担を最小限とすることができる。
【0060】
図6(ウ)に示した各出力電流波形は、2つの出力端子の間に出力される電流、例えば負荷62のU相から流れ込み、V相から引き出される電流をIuvとして記載している。本実施の形態では、単相交流電源20から入力されるパワーを、瞬時の線間の誘導起電力の自乗に比例するように3相に分配し、各出力電流が定まる方法を取っている。
【0061】
それによって、単相交流電源20から入力されるパワー、すなわち変換パワーは、単相交流電源20の位相によって図6(エ)に示すように変動する。しかし、各瞬時における銅損が最小になるように、三相への電流分配が行われるものとなり、単相交流電源20からの力率を1とした上で、最も効率が良い電力変換が行われるものとなる。
【0062】
なお、第1の実施の形態に示したように、単相交流電源20からの入力電流を、各相の出力電圧の絶対値と単相交流電源20の電圧との積に比例するようにしても良く、その場合には、入力電流Iinの波形には若干の歪みが発生するが、ほとんど問題となるレベルではなく、負荷62の銅損としては最低とすることができる。
【0063】
図7は、本発明の第2の実施の形態における電力変換装置の出力電圧波形図である。
【0064】
図7においては、三相の電圧U、V、Wは中性点を基準として示しており、例えば時刻taにおける各端子の電位は、U>V>Wの順となるため、各線間電圧とてしは、UV間電圧はUa−Vaで正の値、VW間電圧はVa−Waで正の値、WU間電圧はWa−Uaで負の値となる。
【0065】
図8は、本発明の第2の実施の形態における電力変換装置の制御回路の動作波形図であり、負荷62の位相として、図7のtaのタイミングに相当した時点であって、かつ単相交流電源20の極性として、A1>A2の電位となっている場合の一例として示したものである。
【0066】
図8(ア)は、制御回路88内のマイクロコンピュータでPWM(パルス幅変調)を行うためのキャリア波Cyと、コンペアレジスタ値CR0、CR1、CR2、CR3の波形を示し、図8(イ)は双方向スイッチング素子81〜86のオンオフ状況を示したものである。図8(イ)に示すように、各双方向スイッチング素子に対して、端子Xから端子Yの方向のオンオフ信号「x」と、端子Yから端子Xの方向のオンオフ信号「y」とを各双方向スイッチング素子の番号にサフィックスとして追記し、オンの期間に「ON」のハッチング付き長方形を配しており、その他の期間はオフ状態に制御されていることを示している。
【0067】
本実施の形態においては、制御回路88は、単相交流電源20の周波数50Hzおよび出力周波数250Hzよりも高い周波数となる15.625kHz(64マイクロ秒周期)を持った鋸波をキャリア波Cyとし、Cyとコンペアレジスタ値CR0〜CR3を比較することによりパルス幅変調を行っている。
【0068】
なお、Cy、CR0〜CR3は、現実的にはすべてマイクロコンピュータ内のデジタル値であり、1024段階(10BIT)の分解能のものである。
【0069】
本実施の形態においては、CR0は上下同時導通期間を決める値となり、Cy<CR0となる期間、すなわちt0〜t1、t3〜t4、t6〜t7において、インダクタンス素
子28に単相交流電源20の電圧がほぼそのまま印加される状態となり、インダクタンス素子28へのエネルギーの蓄積が磁気的に行われるものとなる。
【0070】
それぞれの上下同時導通期間にインダクタンス素子28に蓄えられたエネルギーは、次の上下同時導通期間が開始するまでの期間に、コンデンサ70、71、72、および負荷62に昇圧して出力されるフライバック期間となる。
【0071】
上下同時導通期間の長さは、CR0に比例して上下同時導通期間が設定されるものとなり、それ以外の期間がフライバック期間となる。本実施の形態においては、1回の上下同時導通の後のフライバック期間に複数の電流経路を切り替える制御を行っている。
【0072】
すなわち、上下同時導通期間t0〜t1の後のフライバック期間t1〜t3においては、CR1の値によってt2がその中間に定まり、t1〜t2についてはUV端子間に出力される電流経路とし、t2〜t3についてはUW端子間に出力され電流経路に切り替えが行われる制御がなされている。
【0073】
信号81xについては、t0〜t3の期間ずっとオン状態が保たれたものとなっている。これは上下同時導通期間およびフライバック期間について、電位関係がU>V>Wであるという事情からの結果である。
【0074】
また、上下同時導通期間t3〜t4の後のフライバック期間t4〜t6においても、CR2の値によってt5がその中間に定まり、t4〜t5についてはVW端子間に出力される電流経路とし、t5〜t6についてはUV端子間に出力され電流経路に切り替えが行われる制御がなされている。
【0075】
電位関係がU>Wであることから、t5においては、双方向スイッチング素子83、86がオフされ、代わりに双方向スイッチング素子81、84がオンされて、電流経路の切り替えが行われる。
【0076】
同様に、上下同時導通期間t6〜t7の後のフライバック期間t7〜t9においては、CR3の値によってt8がその中間に定まり、t7〜t8についてはWU端子間に出力される電流経路とし、t8〜t9についてはVW端子間に出力され電流経路に切り替えが行われる制御がなされている。
【0077】
信号86yについては、t6〜t9の期間ずっとオン状態が保たれたものとなっているが、これは上下同時導通期間およびフライバック期間について、電位関係がU>V>Wであるという事情からの結果である。
【0078】
ここで、一般的なインバータ装置においては、キャリア波として三角波を用いているが、本実施の形態においては、特にキャリア波として鋸波を用いていることから、簡単な構成でありながら、上下同時導通期間とその後のフライバック期間を2つの電流経路で切り替えて双方向スイッチング素子81〜86のオンオフ制御を行うという複雑な手順が実現できるものとなる。
【0079】
コンペアレジスタ値CR0について、本実施の形態においては、単相交流電源20のからの入力電圧の瞬時値に応じて、t0〜t9の期間同一値を保っている。CR1〜CR3については、それぞれ3相の各出力電圧に応じてフライバック期間内2つの電流経路の分配が最適に行われるように、キャリア周期毎に設定している。
【0080】
しかし、必ずしもこのような周期でのコンペアレジスタ値の更新に限定されるものでは
なく、例えばキャリア周期毎にCR0を更新していくようにしても良い。
【0081】
なお、図8(イ)に示す各オンオフ信号について、オン期間が始まる点(ターンオン)については、図8(ア)波形のキャリア波Cyと各コンペアレジスタ値CR0〜CR3の交点となっているのに対し、オン期間が終わる点(ターンオフ)については、すべて上記交点となる時点から所定の遅れ時間tdを経た時点としている。
【0082】
これは、インダクタンス素子28を経由する電流経路が断たれると、各双方向スイッチング素子に、高電圧(インダクションキック)が発生して破壊する可能性があるため、インダクタンス素子28を経由する電流経路が常に存在するように、オフする期間をtdだけ遅延しているものである。
【0083】
本実施の形態においては、双方向スイッチング素子81〜86は、いずれも2つの電流の向きのそれぞれに対してオンオフ制御が可能なものを使用していることから、上下同時導通期間からフライバック期間に移行する際、およびフライバック期間内に複数の電流経路を順に切り替える際にも、遅延時間tdを設けたことによる出力端子間の短絡は発生することがない。そのため、コンデンサ70、71、72が双方向スイッチング素子81〜86の内のオンされる経路で大きな短絡電流を発生しない、良好な動作が可能になる。
【0084】
なお、一般的にスイッチング素子自身のターンオンとターンオフの遅延時間を比較した場合、ターンオフの方がより長い時間を要するという傾向があるため、例えば別段tdを設定しなくても、1つの素子をターンオフさせる信号を出すと同時に別素子をターンオンさせる信号を出せば、オン期間がオーバーラップするという性質があり、それをtdの代用とすることもできる。
【0085】
このように、本実施の形態においては、3つのキャリア波周期(64マイクロ秒の3倍)を周期として、t0〜t9の動作が繰り返されることにより、三相の電力が負荷62に供給されるものとなる。従って、1つのキャリア周期(64マイクロ秒)内ではコンペアレジスタ値は、CR0以外にはCR1〜CR3のいずれか1つで済み、PWM信号の生成が比較的簡単なハード構成で実現した上で、比較的バランス良く三相電力が供給できる。
【0086】
なお、上述した本実施の形態の順序でフライバック動作を切り替える必要は必ずしもなく、例えば1回のキャリア周期のフライバック期間には1つの線間のみに出力するようにしてもよく、また一回のフライバック期間に電流経路をさらに多数切り替えてもかまわない。
【0087】
本実施の形態で使用しているインダクタンス素子28、及びコンデンサ70、71、72は、昇圧チョッパ回路としての動作に必要なものである。上下同時導通期間とフライバック期間の和を周期とした昇圧チョッパ回路としてのスイッチング周波数が高い場合には、それらのインダクタンス値、キャパシタンス値を小として、低コストで回路構成することができる。特に負荷62を電流ベクトル制御した電動機とする場合などについては、電流の制御の応答性を高めるため、コンデンサ70、71、72のキャパシタンス値は、なるべく小さくした方が有利となる傾向がある。
【0088】
なお、上下同時導通によって昇圧チョッパを行う期間として、単相交流電源20の低電圧期間だけにしてもよく、電圧が不足する期間のみを昇圧チョッパ動作で対処することができる。
【0089】
また、昇圧チョッパ動作を行う場合、インダクタンス素子28の電流が零となった後に、次の上下同時導通期間に入るようにすると、電流非連続モードとなるような設計にして
もよく、インダクタンス素子28に必要なインダクタンス値を電流連続モードで動作する場合と比べて小さくすることができるという効果もある。
【0090】
本実施の形態では、キャリア周期を64マイクロ秒という十分高い周波数としていることにより、インダクタンス素子28のインダクタンス値や、コンデンサ70、71、72のキャパシタンス値は小さいもので済み、電力変換装置の小型化・低コスト化が可能であるとともに、電流ベクトル制御のような電流の応答性が要求される場合にも対応することができる。
【0091】
(実施の形態3)
図9は、本発明の第3の実施の形態における電気掃除機の断面図である。
【0092】
図9において、電気掃除機は、実施の形態2で述べた構成の電力変換装置130、負荷131、負荷131に取り付けて回転するファン132を有し、紙パック133とともに筐体134内に納められ、ホース140とノズル141が紙パック133と連通するように筐体134に接続されたものとなっている。
【0093】
さらに、床面を移動自在とするための前輪142、後輪143が筐体134に回転自在に取り付けられ、電力変換装置130に単相交流電源150を接続するための電源プラグ151、および電源コード152が接続されたものとなり、真空式の電気掃除機という構成となっている。
【0094】
以上の構成において、ファン132が毎分数万回転で回転駆動され、ノズル141からホース140を通じて紙パック133内にゴミが集められ、掃除ができるものとなる。
【0095】
ここで、電力変換装置130は、100Vの実効値を出力する単相交流電源150を用いながらも、昇圧動作によって高い電圧を負荷131に供給できるから、小型・軽量に構成することができる。
【0096】
これにより、電気掃除機は、小型・軽量で使い勝手が良いものにできる一方、電力変換装置130の昇圧動作によって高い電圧で動作する負荷131がファン132を大きなトルクで回転駆動するので、高い吸引力で掃除することができる。
【0097】
なお、パワーの変動については、図6(エ)に示しているように、0から平均パワーの約2倍の最大値にまで、単相交流電源150の周波数の2倍(100Hz)で繰り返されることになり、トルクについても同等の変動が発生することになる。
【0098】
しかしながら、電気掃除機においては、大きな慣性が得られるため、上記の100Hzのトルク変動による振動、騒音、速度ムラなどは、従来からある整流子モータを使用した場合と同等であり、全く問題にならないものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上のように、本発明にかかる電力変換装置は、単相交流電源からの入力電流波形が改善され、高い力率で動作するので、動力を駆動する電力変換装置への利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施の形態1における電力変換装置の回路図
【図2】同電力変換装置に用いる双方向スイッチング素子の等価回路図
【図3】同電力変換装置の動作波形図
【図4】本発明の実施の形態2における電力変換装置の回路図
【図5】(ア)同電力変換装置の負荷の断面図(イ)同負荷の結線図
【図6】同電力変換装置の動作波形図
【図7】同電力変換装置の出力電圧波形図
【図8】同電力変換装置の制御回路の動作波形図
【図9】本発明の実施の形態3における電気掃除機の概略構成図
【図10】従来の技術における電力変換装置の回路図
【符号の説明】
【0101】
24、25、64、65 入力端子
26、27、66、67、68 出力端子
23、63 マトリクス回路
20、150 単相交流電源
28 インダクタンス素子
30、70、71、72 コンデンサ
50 電源電圧検知手段
52、92 出力電圧検知手段
48、88 制御回路
41、42、43、44、81、82、83、84、85、86 双方向スイッチング素子
90 電流検知手段
100、101、102、103 永久磁石
50、51 SiC半導体
132 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの入力端子と複数の出力端子との組み合わせに複数の双方向スイッチング素子を設けて成るマトリクス回路と、単相交流電源から前記入力端子への経路に接続したインダクタンス素子と、前記出力端子間に接続したコンデンサと、前記単相交流電源の電圧を検知する電源電圧検知手段と、前記出力端子間の電圧を検知する出力電圧検知手段と、前記電源電圧検知手段と前記出力電圧検知手段の出力に基づいて前記複数の双方向スイッチング素子のオンオフを制御する制御回路とを備えた電力変換装置。
【請求項2】
双方向スイッチング素子は、2つの電流の向きのそれぞれに対してオンオフ制御が可能であり、単相交流電源からインダクタンス素子と2つの双方向スイッチング素子を通して電流が流れる上下同時導通期間を有する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
制御回路は、出力電圧検知手段の信号の絶対値と、電源電圧検知手段の信号の積にほぼ比例した入力電流となるように、双方向スイッチング素子のオンオフを制御する請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
単相交流電源からの入力電流を検知する電流検知手段を有し、制御回路は入力電流波形が、単相交流電源とほぼ相似波形となるように双方向スイッチング素子のオンオフを制御し、負荷に三相の電力を供給する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
負荷は、永久磁石を有する三相電動機とした請求項4記載の電力変換装置。
【請求項6】
制御回路は、単相交流電源の周波数および出力周波数よりも高い周波数を持った鋸波をキャリア波としたパルス幅変調を行い、1回の上下同時導通の後のフライバック期間に複数の電流経路を切り替えて双方向スイッチング素子のオンオフを制御する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
双方向スイッチング素子は、SiC半導体を用いた請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電力変換装置と、前記電力変換装置から電力が供給される電動機と、前記電動機によって回転駆動されるファンとを有する電気掃除機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−154714(P2010−154714A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332577(P2008−332577)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】