説明

電力変換装置及びその制御方法

【課題】回路の寄生インダクタンスとスイッチング素子の接合容量による高周波振動を抑制しつつ、スイッチング素子の損失の低減が可能な電力変換装置を提供する。
【解決手段】制御スイッチング素子4とダンピング抵抗3の並列接続で構成した振動制御部を電力変換回路の入力電源1と主スイッチング素子7の間に設置し、制御スイッチング素子4と主スイッチング素子7の間にはRon(S2)<E(Rg)x fsw /(D x I2)の関係を有しており、主スイッチング素子7がターンオフし、主スイッチング素子7の電流がゼロになった後に、制御スイッチング素子4をオフし、回路の寄生インダクタンス2と主スイッチング素子の接合容量間で発生する高周波振動をダンピング抵抗3で抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体素子を用いた電力変換装置及びその制御方法に関し、特に半導体素子のノイズ低減と損失低減において改善された特性を有する電力変換装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力変換装置の高電力密度化(電力密度=電力変換器の出力電力/電力変換器の体積)の要望が大きくなっている。高電力密度化を実現するには電力変換装置の体積を小さくすることが要求される。
【0003】
電力変換装置の体積の主要部分は冷却器とコンデンサやインダクタなどの受動部品であり、冷却器の小型化には電力変換器の損失の低減、受動部品の小型化にはスイッチング周波数の高周波化が必要である。
【0004】
電力変換器の損失の大部分は半導体素子の損失であり、近年、低損失を実現可能な半導体素子としてSi製のスーパージャンクションMOSFET(以下、SJ-MOSと記述)やSiC製のMOSFET(以下、SiC-MOSと記述)が期待されている。
【0005】
SJ-MOSとSiC-MOSは半導体中の電流を流すためのキャリアが電子のみであるユニポーラデバイスであるので、キャリアが電子と正孔のバイポーラデバイスであるIGBTと比較してスイッチングが高速である。高速スイッチングにより、スイッチング損失を低減できるので、スイッチング周波数の高周波化が可能である。
【0006】
図2にインダクタンス負荷でのSJ-MOSのターンオフ時のドレイン−ソース間電圧波形を示す。ターンオフでは、ドレイン−ソース間電圧が立ち上がり、Vdcに到達すると電圧が振動している。
【0007】
この振動は回路の寄生インダクタンスとSJ-MOSの接合容量の間で発生しており、回路の寄生抵抗によって減衰される。このとき回路の寄生インダクタンスに蓄えられていたエネルギーが寄生抵抗によって消費される。
【0008】
回路の寄生インダクタンスは一般的に数十nH〜数百nHのオーダーであり、また、半導体素子の接合容量は数百pF〜数nFのオーダーであるので、振動の周波数は数十MHzオーダーの高周波となり、これは高周波ノイズ源になるといった問題がある。
【0009】
半導体素子に接続されるゲート抵抗の値を大きくすることによりスイッチング速度を低速にして、振動を抑えることも試みられている(特許文献1参照)。
しかしながら、この手段によりスイッチング速度を低速にすると、主スイッチング素子のドレイン−ソース間の電圧の低下及び主スイッチング素子のドレイン電流の減少が遅延し、その結果スイッチング損失が増加するといった問題があった。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−159707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、回路の寄生インダクタンスとスイッチング素子の接合容量による高周波振動を抑制しつつ、スイッチング素子の損失の低減が可能な電力変換装置を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の電力変換装置は、電力変換回路の入力電源と、制御スイッチング素子とダンピング抵抗の並列接続で構成した振動制御部と、主スイッチング素子とを回路ループ状に接続した電力変換装置であって、
前記制御スイッチング素子と前記主スイッチング素子とが、Ron(S2)<E(Rg) x fsw /(D x I2)の関係を有しており、前記主スイッチング素子がターンオフし、前記主スイッチング素子の電流がゼロになった後に、前記制御スイッチング素子をターンオフするように、前記主スイッチング素子及び前記制御スイッチング素子のそれぞれのゲート電圧を制御するタイミング制御装置をさらに備えていることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するための本発明の電力変換装置の、 電力変換回路の入力電源と、制御スイッチング素子とダンピング抵抗の並列接続で構成した振動制御部と、主スイッチング素子とを回路ループ状に接続し、前記制御スイッチング素子と前記主スイッチング素子とが、Ron(S2)<E(Rg) x fsw /(D x I2)の関係を有するように構成された電力変換装置の前記主スイッチング素子をターンオフし、前記主スイッチング素子の電流がゼロになった後に、前記制御スイッチング素子をターンオフすることを特徴とする電力変換装置の制御方法。

【発明の効果】
【0014】
上記構成によれば、高周波振動はダンピング抵抗により速やかに減衰させることができる。また、スイッチング速度を高速化できるのでスイッチング損失を低減できる。すなわち、高周波ノイズ低減と損失低減を両立することが可能である。

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明実施形態1の電力変換装置の等価回路である。
【図2】図2は、スーパージャンクションMOSFETのスイッチング波形図である。
【図3】図3は、本発明の主スイッチング素子の電圧・電流波形および、主スイッチング素子と制御スイッチング素子のゲート信号タイミングを表す図である。
【図4】図4は、通常のチョッパ回路の等価回路図である。
【図5】図5は、制御スイッチング素子のオン抵抗に対する損失の比率を示すグラフである。
【図6】図6は、振動抑制部なしでのSJ-MOSの電圧波形のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】図7は、本発明による振動抑制部ありでのSJ-MOSの電圧波形のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施形態2のインバータの等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
[第1の実施の形態]
まず、本発明の第1の実施の形態による電力変換装置について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係わる電力変換装置の等価回路である。制御スイッチング素子104とダンピング抵抗103が並列接続されており、入力電源101、還流ダイオード106、主スイッチング素子107の回路ループ中に設置される。制御スイッチング素子105は、制御スイッチング素子ゲート回路105によって駆動され、主スイッチング素子107は、主スイッチング素子ゲート回路108によって、それぞれ駆動される。また、制御スイッチング素子ゲート回路105及び主スイッチング素子ゲート回路108は、タイミング制御回路110によって、それぞれターンオン及びターンオフのタイミングを制御される。
【0018】
主スイッチング素子の波形およびゲート信号、制御スイッチング素子のゲート信号の様子を図3に示す。主スイッチング素子のゲート信号がオンからオフになると、主スイッチング素子のドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇が開始する。Vdsが入力直流電源の値Vdcと同じになると主スイッチング素子のドレイン電流Idの下降が開始する。
【0019】
Idがゼロになると主スイッチング素子のチャネル部に流れる電流はゼロとなり、図1に示す寄生インダクタンス102、主スイッチング素子107の寄生容量(図示していない)との間でLC共振が発生する。この共振は、直流電源101、制御スイッチング素子104、還流ダイオード106、主スイッチング素子107の回路ループで起こっている。
【0020】
電流がゼロになった後に制御スイッチング素子104のゲート信号をオンからオフにし、制御スイッチング素子104をオフにする。すなわち、上記タイミング制御回路110は、主スイッチング素子107をターンオフした後、主スイッチング素子107の電流がゼロになった段階で、制御スイッチング素子104をターンオフする。
【0021】
この動作により、直流電源101、ダンピング抵抗103、還流ダイオード106、主スイッチング素子107の回路ループが形成され、ダンピング抵抗103によって共振が抑えられる。
【0022】
次に、本発明による損失低減効果について説明する。図4は電力変換装置の例としてチョッパ回路を示す。チョッパ回路は入力電源411、回路の寄生インダクタンス412、還流ダイオード413、主スイッチング素子415、ゲート回路416、負荷414から構成される。
【0023】
図4のチョッパ回路での主スイッチング素子の損失は式1で表せる。


式1

ここで、
右辺の第1項は導通損失、第2項はスイッチング損失である。
D: 主スイッチング素子のデューティ(1周期中にオンしている期間の割合)
Ron(S1): 主スイッチング素子のオン抵抗
I: チョッパ回路の負荷電流
E(Rg): 主スイッチング素子のゲート抵抗に依存するスイッチングエネルギー
Eoss: 主スイッチング素子の接合容量に蓄積されるエネルギー
fsw: スイッチング周波数

【0024】
本発明の電力変換器装置では主スイッチング素子のオン期間と同等の期間に制御スイッチング素子はオンしており、この期間において制御スイッチング素子にて導通損失が発生する。
【0025】
また、主スイッチング素子のミラー期間がゼロになるように動作させることにより、式1のE(Rg)をゼロにできることが発明者による実験で確認できている。
【0026】
このとき、制御スイッチング素子と主スイッチング素子の損失の和は式2のように表される。


式2

ここで、
Ron(S2): 制御スイッチング素子のオン抵抗
その他のパラメータは式1と同じである。

【0027】
本発明の方式により損失を低減するためには、P2<P1の関係を成立させればよいことになる。式1と式2をP2<P1の関係に代入すると以下の関係式が得られる。

式3

【0028】
式3を満たす抵抗値について検討した。主スイッチング素子は1200V耐圧のSiC-MOSとし、オン抵抗は0.36Ωである。E(Rg)は実験により測定し、直流電圧600V、I=7Aにおいて100uJである。その他のパラメータとして、D=0.5、fsw = 100kHzとした。上記パラメータを式3に代入するとRon(S2)は0.367Ωより小さくすればよいことになる。
【0029】
図5は上記の回路条件において、制御スイッチング素子のオン抵抗に対する損失の比率を示す。上記計算で得られたように、制御スイッチング素子のオン抵抗が0.367Ωの時に損失の比率が1、すなわち従来の損失と同じになっている。また、図より、制御スイッチング素子のオン抵抗を0.367Ωよりも小さくすることによって損失の比率が小さくなることがわかる。
【0030】
次に、本発明による高周波振動抑制の効果を示す。回路シミュレーションにより、本発明の振動抑制部のあり、無しについて検証した。
【0031】
図6は振動抑制部なしの場合でのSJ-MOSの電圧波形を示す。ターンオフ後に高周波振動が発生していることが確認できる。
【0032】
図7は振動抑制ありの場合でのSJ-MOSの電圧波形を示す。ターンオフ後に高周波振動が抑制されていることが確認できる。これより、本発明の有効性が実証された。
【0033】
なお、上記実施の形態においては、制御スイッチング素子として、SiC-SITs素子を用いることが好ましい。このSiC製の素子を用いた場合、Siと比較して、単位面積当たりのオン抵抗値が低く、その結果、小サイズの回路をとすることが出来る。
【0034】
また、このSiC-SITs素子に替えて、GaN-HEMT素子を用いても良い。GaNを用いた素子は、Si-IGBTや、SiC製素子と比較して、さらにオン抵抗値が低く、素子の小型化にとって有利である。
【0035】
さらに、Si-IGBT素子を、制御スイッチング素子の材料として用いた場合、Si-SJMOSFETと比較して、低いオン抵抗と高い素子電圧を有する回路を実現することが出来る。
【0036】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態による電力変換装置について説明する。
【0037】
図8は本発明の振動制御部を適用した三相インバータ回路を示す。この回路は入力の直流電力を主スイッチング素子812、還流ダイオード813を用いて交流電力に変換し、負荷818へ供給する。主スイッチング素子は6個使用されており、主スイッチング素子ゲート回路816によって、所定のタイミングでスイッチング動作する。
【0038】
インバータの入力側にコンデンサ811が接続されており、コンデンサ811と各相の配線中に寄生インダクタンス819が存在する。また、各相の配線部においても寄生インダクタンス820が存在する。
【0039】
振動抑制部を構成する制御スイッチング素子814とダンピング抵抗815は各相に設置されており、制御スイッチング素子814は制御スイッチング素子ゲート回路816によって駆動される。
【0040】
上記主スイッチング素子ゲート回路816及び制御スイッチング素子ゲート回路817は、それぞれ図示していないタイミング制御回路によって、主スイッチング素子812がターンオフし、主スイッチング素子電流がゼロになった段階で、制御スイッチング素子814をターンオフするようタイミング制御する。

【符号の説明】
【0041】
101…直流電源
102…回路の寄生インダクタンス
103…ダンピング抵抗
104…制御スイッチング素子
105…制御スイッチング素子ゲート回路
106…還流ダイオード
107…主スイッチング素子
108…主スイッチング素子ゲート回路
109…負荷
110…タイミング制御回路
211…直流電源
212…回路の寄生インダクタンス
213…還流ダイオード
214…負荷
215…主スイッチング素子
216…主スイッチング素子ゲート回路
811…直流電源
812…主スイッチング素子
813…還流ダイオード
814…制御スイッチング素子
815…ダンピング抵抗
816…制御スイッチング素子ゲート回路
817…主スイッチング素子ゲート回路
818…負荷
819…寄生インダクタンス
820…寄生インダクタンス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換回路の入力電源と、制御スイッチング素子とダンピング抵抗の並列接続で構成した振動制御部と、主スイッチング素子とを回路ループ状に接続した電力変換装置であって、
前記制御スイッチング素子と前記主スイッチング素子とが、Ron(S2)<E(Rg) x fsw /(D x I2)の関係を有しており、前記主スイッチング素子がターンオフし、前記主スイッチング素子の電流がゼロになった後に、前記制御スイッチング素子をターンオフするように、前記主スイッチング素子及び前記制御スイッチング素子のそれぞれのゲート電圧を制御するタイミング制御装置をさらに備えていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記制御スイッチング素子として、SiC製の静電誘導型トランジスタを用いたことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御スイッチング素子として、GaN製の高電子移動度トランジスタを用いたことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御スイッチング素子として、Si製のIGBTを用いたことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記ダインピング抵抗の抵抗値Rと前記回路の寄生インダクタンスLと主スイッチング素子の接合容量Cは、R;4L/Cの関係が成立するようにダンピング抵抗の抵抗値を設定したことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御スイッチング素子の単位面積当たりのオン抵抗は前記主スイッチング素子の単位面積当たりのオン抵抗よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
電力変換回路の入力電源と、制御スイッチング素子とダンピング抵抗の並列接続で構成した振動制御部と、主スイッチング素子とを回路ループ状に接続し、前記制御スイッチング素子と前記主スイッチング素子とが、Ron(S2)<E(Rg) x fsw /(D x I2)の関係を有するように構成された電力変換装置の前記主スイッチング素子をターンオフし、前記主スイッチング素子の電流がゼロになった後に、前記制御スイッチング素子をターンオフすることを特徴とする電力変換装置の制御方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−188682(P2011−188682A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53286(P2010−53286)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】