電力変換装置
【課題】信頼性向上を図ることができる電力変換装置の提供。
【解決手段】直流電力を交流電力に変換するスイッチング素子と、制御回路からの駆動信号に基づいてスイッチング素子をオンオフ駆動する駆動回路と、制御回路からの駆動信号を駆動回路に伝達する信号伝達ユニット(20)とを備え、信号伝達ユニット(20)は、プリント基板(1)上に絶縁部材を挟んで対向するように設けられ、該プリント基板の導体パターンにより形成された一対のコイル(2,3)と、プリント基板(1)に実装され、一対のコイル(2,3)の一方に制御回路からの駆動信号を印加する第1の信号回路(4)と、プリント基板(1)に実装され、一対のコイル(2,3)の他方に誘起される電圧を検出する第2の信号回路(6)とを備えることを特徴とする。
【解決手段】直流電力を交流電力に変換するスイッチング素子と、制御回路からの駆動信号に基づいてスイッチング素子をオンオフ駆動する駆動回路と、制御回路からの駆動信号を駆動回路に伝達する信号伝達ユニット(20)とを備え、信号伝達ユニット(20)は、プリント基板(1)上に絶縁部材を挟んで対向するように設けられ、該プリント基板の導体パターンにより形成された一対のコイル(2,3)と、プリント基板(1)に実装され、一対のコイル(2,3)の一方に制御回路からの駆動信号を印加する第1の信号回路(4)と、プリント基板(1)に実装され、一対のコイル(2,3)の他方に誘起される電圧を検出する第2の信号回路(6)とを備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置において、省エネルギーのために、モータをIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体素子で制御する方法があるが、近年、半導体素子、特にIGBTの低価格化により広く利用されるようになっている。
【0003】
ところで、電力変換装置の上アームIGBTのエミッタは出力に接続されているため、上アームIGBTは主電源接地端子に対して電位的にフロート状態で駆動される。例えば、上アームIGBTがオン状態では、主電源と同じ高電圧がIGBTに加わる。そのため、マイコンからの信号で上アームIGBTを駆動するためには、信号をマイコン側の低電位から高電位に伝える必要がある。
【0004】
従来は、低電位から高電位に信号を伝える方法として、フォトカプラやトランス(パルストランス)が知られている。フォトカプラは、発光素子として化合物半導体を使うため高価であり、また、長期間使用すると発光素子の発光強度が低下し、動作し難くなるという問題があった。また、パルストランスはフォトカプラよりも高価であるため、コスト面でフォトカプラ以上に問題がある。
【0005】
これに対して、近年半導体プロセスを応用し、基板上にパルストランスを作成する技術が提案されている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。特許文献1に記載のパルストランスでは、駆動回路が形成された基板上に二次コイルを形成し、その二次コイル上に絶縁体を形成し、さらに絶縁体上に一次コイルを形成している。非特許文献1によれば、絶縁体はシリコン酸化膜で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−530807号公報
【0007】
【非特許文献1】M.ミュンツァー(M.Munzer)外3名、「Coreless transformer a new technology for half bridge driver IC’s」、Proceedings PCIM Europe 2003 PE9-2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、IGBTのオンオフにより上下アームの各アース電位が変化するため、パルストランスのコイル間の電圧Vも変化する。コイル間には浮遊容量Cがあるため、コイル間電圧が時間的に変化すると、(dV/dt)・Cに応じた変位電流がコイル間の絶縁体領域に生じることになる。電源電圧が数百ボルトと高くなると、絶縁体にかかる電界も大きくなるため、高電圧で長時間使用すると絶縁劣化を招くという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係る電力変換装置は、直流電力を交流電力に変換するスイッチング素子と、制御回路からの駆動信号に基づいてスイッチング素子をオンオフ駆動する駆動回路と、制御回路からの駆動信号を駆動回路に伝達する信号伝達ユニットとを備え、信号伝達ユニットは、プリント基板上に絶縁部材を挟んで対向するように設けられ、該プリント基板の導体パターンにより形成された一対のコイルと、プリント基板に実装され、一対のコイルの一方に制御回路からの駆動信号を印加する第1の信号回路と、プリント基板に実装され、一対のコイルの他方に誘起される電圧を検出する第2の信号回路とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電力変換装置の信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】回転電機の駆動システムを示すブロック図である。
【図2】ドライバ回路174のU相に関する概略構成を示すブロック図である。
【図3】信号伝達ユニット20の斜視図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】第1の実施の形態の変形例における信号伝達ユニット20の斜視図である。
【図6】図5のA−A断面図である。
【図7】第2の実施の形態における信号伝達ユニット20の斜視図である。
【図8】コイル22,23の詳細を示す図であり、(a)は平面図、(b)はB−B断面図、(c)はC−C断面図、(d)はD−D断面図である。
【図9】第2の実施の形態の変形例における信号伝達ユニット20の斜視図である。
【図10】コイル22の断面図である。
【図11】変形例2を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1は、ハイブリッド自動車等の電気車に用いられる回転電機の駆動システムを示すブロック図であり、本実施の形態による電力変換装置100を備えている。なお、本発明の電力変換装置は、ハイブリッド自動車等に限らず、鉄道用のインバータや、ダンプトラックや産業用ミルなどに適用可能である。バッテリ136からの直流電力は電力変換装置100で交流の電力に変換され、モータ192に供給される。電力変換装置100にはインバータ装置140とコンデンサモジュール500とが備えられ、インバータ装置140はインバータ回路144と制御部170とを有している。
【0013】
インバータ回路144は3相ブリッジ回路により構成されており、U相、V相およびW相に対応した3つの上下アーム直列回路150(150U〜150W)を備えている。上下アーム直列回路150U,150V,150Wはそれぞれ、バッテリ136の正極側と負極側に電気的に接続されている直流正極端子314と直流負極端子316との間に電気的に並列に接続されている。インバータ装置140は、モータ192に供給する交流の位相や周波数、電力を制御する。例えば、モータ192の回転子の回転に対し進み位相の交流電力を供給することにより、モータ192はトルクを発生する。一方、遅れ位相の交流電力を発生することで、モータ192は発電機として作用し、モータ192は回生制動状態の運転となる。
【0014】
各上下アーム直列回路150U〜150Wは、上アームとして動作するIGBT328およびダイオード156と、下アームとして動作するIGBT330およびダイオード166とを有している。IGBT328,330はスイッチング用半導体素子である。各上下アーム直列回路150U〜150Wの中点部分(中間電極169)の交流端子159には、モータ192への交流電力線(交流バスバー)186が接続されている。交流電力線186は、交流コネクタ188を介してモータ192の電機子巻線の対応する相巻線に電気的に接続されている。
【0015】
制御部170は、インバータ回路144を駆動制御するドライバ回路174と、信号線176を介してドライバ回路174へ制御信号を供給する制御回路172とを有している。上アームのIGBT328および下アームのIGBT330は、制御部170から出力された駆動信号を受けて導通および遮断動作が一定の順で切り替わり、この切り替わり時のモータ192の固定子巻線の電流は、ダイオード156,166によって作られる回路を流れる。その結果、バッテリ136から供給された直流電力は三相交流電力に変換され、モータ192の電機子巻線に供給される。なお、上述のとおり、インバータ装置140はモータ192が発生する三相交流電力を直流電力に変換することもできる。
【0016】
IGBT328,330は、コレクタ電極153,163、エミッタ電極(信号用エミッタ電極端子155,165)、ゲート電極(ゲート電極端子154,164)を備えている。IGBT328,330のコレクタ電極153,163とエミッタ電極との間にはダイオード156,166が図示するように電気的に接続されている。ダイオード156,166は、カソード電極及びアノード電極の2つの電極を備えており、IGBT328,330のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極がIGBT328,330のコレクタ電極に、アノード電極がIGBT328,330のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。
【0017】
スイッチング用パワー半導体素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよい。なお、MOSFETは、ソース電極とドレイン電極との間に、ドレイン電極からソース電極に向かう方向が順方向となる寄生ダイオードを備えているので、IGBTのように、別途、ダイオード(ダイオード156やダイオード166)を設ける必要がない。
【0018】
モータ192の電機子巻線の各相巻線に対応して設けられた3つの上下アーム直列回路150U,150V,150Wは、電気的に並列接続されている。上アームのIGBT328のコレクタ電極153は正極端子(P端子)157を介してコンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極に、下アームのIGBT330のエミッタ電極は負極端子(N端子)158を介してコンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極にそれぞれ電気的に接続(直流バスバーで接続)されている。
【0019】
コンデンサモジュール500は、IGBT328,330のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制する平滑回路を構成するためのものである。コンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極にはバッテリ136の正極側が、コンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極にはバッテリ136の負極側がそれぞれ直流コネクタ138を介して電気的に接続されている。これにより、コンデンサモジュール500は、バッテリ136と上下アーム直列回路150に対して電気的に並列接続される。
【0020】
制御部170は、制御回路172とドライバ回路174とを備えている。制御回路172は、他の制御装置やセンサなどからの入力情報に基づいて、IGBT328,330のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する。ドライバ回路174は、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、IGBT328,330をスイッチング動作させるためのドライブ信号を生成する。
【0021】
制御回路172はIGBT328,330のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と記述する)を備えている。マイコンには入力情報として、モータ192に対して要求される目標トルク値、上下アーム直列回路150からモータ192の電機子巻線に供給される電流値、及びモータ192の回転子の磁極位置が入力されている。目標トルク値は、不図示の上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ180から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、モータ192に設けられた回転磁極センサ(不図示)から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても構わない。
【0022】
制御回路172内のマイコンは、目標トルク値に基づいてモータ192のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電圧指令値を、検出された磁極位置に基づいてU相、V相、W相の電圧指令値に変換する。そして、マイコンは、U相、V相、W相の電圧指令値に基づく基本波(正弦波)と搬送波(三角波)との比較に基づいてパルス状の変調波を生成し、この生成された変調波をPWM(パルス幅変調)信号としてドライバ回路174に出力する。
【0023】
図2は、ドライバ回路174のU相に関する概略構成を示すブロック図である。なお、V相およびW相に関しても同様の構成となっている。制御回路172から出力された上アームIGBT328への信号は、ドライバ回路174の信号伝達ユニット20Uaに入力される。一方、制御回路172から出力された下アームIGBT330への信号は、ドライバ回路174の信号伝達ユニット20Ubに入力される。信号伝達ユニット20Ua,20Ubは同一構成を有しており、送信回路200と、受信回路204と、一対のコイル2,3を備えている。コイル2,3はパルストランスとして機能するものであり、本実施の形態では、一対のコイル2,3をパルストランス部202と呼ぶことにする。
【0024】
パルストランス部202を介して送信回路200から受信回路204に伝送された信号は、バッファ回路206により増幅され、ドライブ信号として上アームIGBT328および下アームIGBT330へ入力される。送信回路200と受信回路204はパルストランス部202によって電気的に絶縁され、信号伝達ユニット20Ua,20Ubの送信回路200のアースは制御回路172のアースと同電位とされる。一方、上アームIGBT328に関する受信回路204およびバッファ回路206のアースは、下アームIGBT328のアースと同電位とされている。また、下アームIGBT330のアースは、バッテリ136のアースと同電位とされる。制御回路172のアースとバッテリ136のアースは、一般的にはトランス等で絶縁されている。ただし、電位差はほぼ一定である。
【0025】
図3は、信号伝達ユニット20の斜視図である。なお、図2では、IGBT328,330に対応して設けられた信号伝達ユニットの符号をそれぞれ20Ua,20Ubと表示したが、これらは同一構造を有しているので、以下では、信号伝達ユニット20と称することにする。図3に示すように、信号伝達ユニット20は、送信回路200を集積化したIC4と、受信回路204を集積化したIC6と、コイル2,3をプリント基板上に実装したものであり、これらの実装部品は保護用の絶縁物8により覆われている。絶縁物8はレジンなどが用いられる。なお、図3では、内部構造を示すために、絶縁物8の一部を破断面とした。
【0026】
図4は、図3のA−A断面図である。なお、図4では絶縁物8の図示を省略した。プリント基板1には多層基板が用いられ、図4に示す例では導体層を4つ備えた4層構造の多層基板が用いられている。パルストランス部202を構成するコイル2,3は、プリント基板1の導体パターンによって形成されている。コイル2は1層目の導体パターンで形成されており、渦巻き状の平面コイルを成している。一方、コイル3は4層目の導体パターンで形成された平面コイルを成しており、コイル2に対向する位置に配置されている。そのため、これら2つのコイル2,3の磁気結合によりトランスが形成されることになる。コイル2とコイル3との間には3層分の基板絶縁部が介在することになる。
【0027】
プリント基板1の表面側に形成されたコイル2は、ワイヤボンデング5および端子7を介してIC4に接続されている。一方、4層目の導体パターンに形成されたコイル3は、基板表面まで達する貫通パターン3a(例えば、後述するビア)により端子7に接続され、ワイヤボンデング5によりIC6に接続されている。信号伝達ユニット20のプリント基板1は、はんだボール9によってドライバ回路174の基板上に実装されている。信号伝達ユニット20と外部との間の入出力は、はんだボール9を通じて行われる。なお、本実施形態では、ドライバ回路174の基板(プリント基板)とは別のプリント基板1にパルストランス部202のコイル2,3を形成したが、ドライバ回路174の基板上に直接コイル2,3を形成するようにしても構わない。
【0028】
本実施の形態における、パルストランス部202の動作を説明する。制御回路172からの信号は、はんだボール9を通じてIC4の送信回路200に伝えられる。駆動信号を受信した送信回路200は、受信した信号に基づき信号電流を短時間だけコイル2に流す。その結果、コイル2に信号電流が流れたときに、コイル2と磁気結合しているコイル3に電圧が発生する。IC6の受信回路204は、コイル3に発生した電圧を検知して信号を受信する。このような機構により、低電位側(制御回路172)から高電位側(上下アーム直列回路150U)に信号を伝えることが可能となる。
【0029】
ところで、図2において、上アーム側のアースは、上アームIGBT328がオンあるいは上アーム側のダイオード156に電流が還流しているときには、高電圧電源136の高電位にほぼ等しい電位となる。一方、下アームIGBT330がオンあるいは下アーム側のダイオード166に電流が還流しているときには、上アーム側のアースは下アームアース電位にほぼ等しい電位となる。すなわち、IGBT328,330のオン、オフにより上アームアース電位は大きく変化する。
【0030】
そのため、パルストランス部202のコイル2,3間にも、上下アーム間アース電圧の時間変化(dV/dt)が加わることになる。この電圧の時間変化(dV/dt)と、パルストランス部202のコイル2,3間の浮遊容量Cの積dV/dt×Cが、コイル2,3間の絶縁物に変位電流として流れる。
【0031】
従来のトランスに巻線を巻いた構造のパルストランスでは、巻線の間隔が広く浮遊容量が小さかったため、変位電流が小さかった。また、シリコン基板にコイルを形成するパルストランスでは、絶縁物はシリコン酸化膜で形成されているため、半導体プロセスの制限により、絶縁物の厚さは10μm程度にしかできない。そのため、変位電流の大きさが、トランスに巻線を巻いたパルストランスに比べて10倍以上となり、高電圧で長時間使用すると絶縁劣化が生じるということを、本発明者は見出した。
【0032】
一方、本実施の形態によれば、コイル2とコイル3とは、プリント基板1の厚い絶縁部で絶縁されるため、基板絶縁部の厚さを1mm程度とすることで、シリコン基板にパルストランスを形成する場合に比べて、絶縁物厚さを100倍程度に大きくすることができる。そのため、浮遊容量Cの大きさは1/100に小さくなり、電圧の時間変化(dV/dt)と浮遊容量Cとの積が小さくなって、変位電流の影響を著しく低減することができる。その結果、スイッチング時の電圧変化に対するパルストランス部202の信頼性向上を図ることができる。
【0033】
また、IC4,6を実装するプリント基板1の導電パターンを利用してコイル2,3を形成しているので、トランスに巻線を巻いた構造のパルストランスに比べてコスト低減を図ることが出来る。さらに、プリント基板1上にコイル2およびコイル3によりパルストランス部202を形成し、同じプリント基板1上にIC4,6を配置してワイヤボンデングで接続する構造としているため、配線距離を短くでき、IGBTなど他の部品からのノイズによる影響を抑制することができる。
【0034】
[変形例]
図5,6は、上述した第1の実施の形態の変形例を示す図である。図5は、図3の場合と同様に信号伝達ユニット20を示す斜視図である。図6は、図5のA−A断面図である。この変形例においては、プリント基板1に、コイル2,3に対するシールド導体10をさらに設けた。その他の構造は第1の実施の形態と同様である。
【0035】
図6に示すように、プリント基板1は5層構造を有しており、5層目の導体パターンにシールド導体10を形成している。プリント基板1が実装されるドライバ回路174の回路基板は、インバータ回路144を構成するIGBTモジュールの上部に配置されることが多い。そのような場合、図5,6に示すようなシールド導体10をコイル3の下側に配置することで、IGBT328,330のスイッチング時に発生するノイズを遮断することができる。その結果、信号系に関する耐ノイズ性能を向上させることができる。なお、ノイズ遮断効果を大きくするため、シールド導体10はIC4のアース電位とすることが望ましい。
【0036】
なお、上述した実施の形態では送信側のコイル2を基板表面側に設けたが、コイル2,3の配置を逆にして、コイル3を表面側に形成しても良い。
【0037】
−第2の実施の形態−
図7,8は、第2の実施の形態を説明する図である。上述した第1の実施の形態では、導体パターンでコイル2,3を形成する際に、プリント基板1の基板表面に平行な平面コイルを構成した。第2の実施の形態では、図7に示すように、コイルの軸が基板表面と平行となるようなソレノイド状のコイル22,23を形成して、パルストランス部202とした。
【0038】
図8は、コイル22,23の構造を説明する図であり、(a)は平面図、(b)はB−B断面図、(c)はC−C断面図、(d)はD−D断面図である。コイル22,23は同一構造を有しており、プリント基板1の表面側に形成された導体パターン22a,23aと裏面側に形成された導体パターン22c、23cとを、基板垂直方向に貫通するビア(スルーホールビア)22b、23bにより連結することにより、矩形断面形状を有するソレノイド状のコイル22,23を形成している。ビア22b、23bは基板垂直方向に形成された穴の内表面にメッキ層を形成したメッキ穴であり、ビアホール内には絶縁物12が充填されている。
【0039】
[変形例1]
図9,10は、第2の実施の形態の変形例1を示す図である。図9は信号伝達ユニット20の斜視図であり、プリント基板1にノイズ防止用のシールド導体13、14を設けた点が、図7に示す構成と異なる。図10は、コイル22の断面図であり、図8のB−B断面と同一箇所の断面を示したものである。図8に示したプリント基板1は3層構造の多層基板であるが、図10に示すプリント基板1は5層構造を有している。また、ビア22bは上側の三層を貫通している。コイル22に対応して設けられたシールド導体13は、コイル22の下側の導体パターン22cよりも下層の同ターパターンで形成されている。コイル23に対するシールド導体14も同様の構成である。
【0040】
シールド導体13,14も上述したシールド導体10と同様の目的で設けられたものであり、IGBT328,330のスイッチング時に発生するノイズを遮断することができる。その結果、信号系に関する耐ノイズ性能を向上させることができる。なお、ノイズ遮断効果を大きくするため、シールド導体13はIC4のアース電位とし、シールド導体14はIC6のアース電位とすることが望ましい。
【0041】
[変形例2]
上述した第2の実施の形態では、コイル22,23をソレノイド状のコイルとしたが、第1の実施の形態のように平面型のコイルとしても良い。図11は、平面型のコイルとした場合の一例を示したものである。E−E断面図を見ると、コイルは渦巻き状に3巻されている。外側のコイル配線は導体パターン221a,221cとビア221b,221dで構成され、中間のコイル配線は導体パターン222a,222cとビア222b,222dで構成され、内側のコイル配線は導体パターン223a,223cとビア223bで構成されている。
【0042】
上述した第2の実施の形態では、第1の実施の形態の作用効果に加えて、次のような作用効果を奏する。コイル22,23の軸が基板厚さ方向に対して垂直な方向(基板面に対して水平な方向)を向いており、基板面に平行な磁束をコイル23で検出するようにしているので、基板面に対して垂直方向のスイッチングノイズに対して影響を受け難い構造となっている。また、コイル2,3を形成するための基板スペースを抑えることもできる。
【0043】
上述した実施の形態が奏する作用効果をまとめると、以下のようになる。
(1)送信側のIC4と受信側のIC6とが実装されたプリント基板1の導体パターンを利用して、パルストランス部202を構成する一対のコイル2およびコイル3をプリント基板1自体に形成し、プリント基板1の絶縁基板をコイル2,3間の絶縁に用いているので、絶縁距離を十分大きくすることができ、時間変化dV/dtによる変位電流の影響を低減でき、信頼性向上を図ることができる。
【0044】
(2)さらに、プリント基板1のコイル3よりも裏面に近い側にシールド導体層10を設けたことにより、プリント基板1の下方に設けられているスイッチング素子からのスイッチングノイズを遮蔽することができ、ノイズの影響を低減することとで信頼性向上を図ることができる。
【0045】
(3)一対のコイルの各々22,23は、コイルの軸がプリント基板1の表面に対して平行となるように形成され、それらのコイル22,23をプリント基板1の厚さ方向と直交する方向に並べて配置したことにより、スイッチングノイズの影響を抑えることができる。また、プリント基板1にコイル22,23を形成する際のスペースをより小さくすることができる。
【0046】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
1:プリント基板、2,3,22,23:コイル、22b,23b,221b、221d、222b、222d、223b:ビア、4,6:IC、10,13,14:シールド導体、20,20Ua,20Ub:信号伝達ユニット、100:電力変換装置、136:バッテリ、140:インバータ装置、144:インバータ回路、150,150U〜150W:上下アーム直列回路、156,166:ダイオード、170:制御部、172:制御回路、174:ドライバ回路、192:モータ、200:送信回路、202:パルストランス部、204:受信回路、206:バッファ回路、328,330:IGBT
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置において、省エネルギーのために、モータをIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体素子で制御する方法があるが、近年、半導体素子、特にIGBTの低価格化により広く利用されるようになっている。
【0003】
ところで、電力変換装置の上アームIGBTのエミッタは出力に接続されているため、上アームIGBTは主電源接地端子に対して電位的にフロート状態で駆動される。例えば、上アームIGBTがオン状態では、主電源と同じ高電圧がIGBTに加わる。そのため、マイコンからの信号で上アームIGBTを駆動するためには、信号をマイコン側の低電位から高電位に伝える必要がある。
【0004】
従来は、低電位から高電位に信号を伝える方法として、フォトカプラやトランス(パルストランス)が知られている。フォトカプラは、発光素子として化合物半導体を使うため高価であり、また、長期間使用すると発光素子の発光強度が低下し、動作し難くなるという問題があった。また、パルストランスはフォトカプラよりも高価であるため、コスト面でフォトカプラ以上に問題がある。
【0005】
これに対して、近年半導体プロセスを応用し、基板上にパルストランスを作成する技術が提案されている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。特許文献1に記載のパルストランスでは、駆動回路が形成された基板上に二次コイルを形成し、その二次コイル上に絶縁体を形成し、さらに絶縁体上に一次コイルを形成している。非特許文献1によれば、絶縁体はシリコン酸化膜で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−530807号公報
【0007】
【非特許文献1】M.ミュンツァー(M.Munzer)外3名、「Coreless transformer a new technology for half bridge driver IC’s」、Proceedings PCIM Europe 2003 PE9-2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、IGBTのオンオフにより上下アームの各アース電位が変化するため、パルストランスのコイル間の電圧Vも変化する。コイル間には浮遊容量Cがあるため、コイル間電圧が時間的に変化すると、(dV/dt)・Cに応じた変位電流がコイル間の絶縁体領域に生じることになる。電源電圧が数百ボルトと高くなると、絶縁体にかかる電界も大きくなるため、高電圧で長時間使用すると絶縁劣化を招くという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係る電力変換装置は、直流電力を交流電力に変換するスイッチング素子と、制御回路からの駆動信号に基づいてスイッチング素子をオンオフ駆動する駆動回路と、制御回路からの駆動信号を駆動回路に伝達する信号伝達ユニットとを備え、信号伝達ユニットは、プリント基板上に絶縁部材を挟んで対向するように設けられ、該プリント基板の導体パターンにより形成された一対のコイルと、プリント基板に実装され、一対のコイルの一方に制御回路からの駆動信号を印加する第1の信号回路と、プリント基板に実装され、一対のコイルの他方に誘起される電圧を検出する第2の信号回路とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電力変換装置の信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】回転電機の駆動システムを示すブロック図である。
【図2】ドライバ回路174のU相に関する概略構成を示すブロック図である。
【図3】信号伝達ユニット20の斜視図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】第1の実施の形態の変形例における信号伝達ユニット20の斜視図である。
【図6】図5のA−A断面図である。
【図7】第2の実施の形態における信号伝達ユニット20の斜視図である。
【図8】コイル22,23の詳細を示す図であり、(a)は平面図、(b)はB−B断面図、(c)はC−C断面図、(d)はD−D断面図である。
【図9】第2の実施の形態の変形例における信号伝達ユニット20の斜視図である。
【図10】コイル22の断面図である。
【図11】変形例2を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1は、ハイブリッド自動車等の電気車に用いられる回転電機の駆動システムを示すブロック図であり、本実施の形態による電力変換装置100を備えている。なお、本発明の電力変換装置は、ハイブリッド自動車等に限らず、鉄道用のインバータや、ダンプトラックや産業用ミルなどに適用可能である。バッテリ136からの直流電力は電力変換装置100で交流の電力に変換され、モータ192に供給される。電力変換装置100にはインバータ装置140とコンデンサモジュール500とが備えられ、インバータ装置140はインバータ回路144と制御部170とを有している。
【0013】
インバータ回路144は3相ブリッジ回路により構成されており、U相、V相およびW相に対応した3つの上下アーム直列回路150(150U〜150W)を備えている。上下アーム直列回路150U,150V,150Wはそれぞれ、バッテリ136の正極側と負極側に電気的に接続されている直流正極端子314と直流負極端子316との間に電気的に並列に接続されている。インバータ装置140は、モータ192に供給する交流の位相や周波数、電力を制御する。例えば、モータ192の回転子の回転に対し進み位相の交流電力を供給することにより、モータ192はトルクを発生する。一方、遅れ位相の交流電力を発生することで、モータ192は発電機として作用し、モータ192は回生制動状態の運転となる。
【0014】
各上下アーム直列回路150U〜150Wは、上アームとして動作するIGBT328およびダイオード156と、下アームとして動作するIGBT330およびダイオード166とを有している。IGBT328,330はスイッチング用半導体素子である。各上下アーム直列回路150U〜150Wの中点部分(中間電極169)の交流端子159には、モータ192への交流電力線(交流バスバー)186が接続されている。交流電力線186は、交流コネクタ188を介してモータ192の電機子巻線の対応する相巻線に電気的に接続されている。
【0015】
制御部170は、インバータ回路144を駆動制御するドライバ回路174と、信号線176を介してドライバ回路174へ制御信号を供給する制御回路172とを有している。上アームのIGBT328および下アームのIGBT330は、制御部170から出力された駆動信号を受けて導通および遮断動作が一定の順で切り替わり、この切り替わり時のモータ192の固定子巻線の電流は、ダイオード156,166によって作られる回路を流れる。その結果、バッテリ136から供給された直流電力は三相交流電力に変換され、モータ192の電機子巻線に供給される。なお、上述のとおり、インバータ装置140はモータ192が発生する三相交流電力を直流電力に変換することもできる。
【0016】
IGBT328,330は、コレクタ電極153,163、エミッタ電極(信号用エミッタ電極端子155,165)、ゲート電極(ゲート電極端子154,164)を備えている。IGBT328,330のコレクタ電極153,163とエミッタ電極との間にはダイオード156,166が図示するように電気的に接続されている。ダイオード156,166は、カソード電極及びアノード電極の2つの電極を備えており、IGBT328,330のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極がIGBT328,330のコレクタ電極に、アノード電極がIGBT328,330のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。
【0017】
スイッチング用パワー半導体素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよい。なお、MOSFETは、ソース電極とドレイン電極との間に、ドレイン電極からソース電極に向かう方向が順方向となる寄生ダイオードを備えているので、IGBTのように、別途、ダイオード(ダイオード156やダイオード166)を設ける必要がない。
【0018】
モータ192の電機子巻線の各相巻線に対応して設けられた3つの上下アーム直列回路150U,150V,150Wは、電気的に並列接続されている。上アームのIGBT328のコレクタ電極153は正極端子(P端子)157を介してコンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極に、下アームのIGBT330のエミッタ電極は負極端子(N端子)158を介してコンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極にそれぞれ電気的に接続(直流バスバーで接続)されている。
【0019】
コンデンサモジュール500は、IGBT328,330のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制する平滑回路を構成するためのものである。コンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極にはバッテリ136の正極側が、コンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極にはバッテリ136の負極側がそれぞれ直流コネクタ138を介して電気的に接続されている。これにより、コンデンサモジュール500は、バッテリ136と上下アーム直列回路150に対して電気的に並列接続される。
【0020】
制御部170は、制御回路172とドライバ回路174とを備えている。制御回路172は、他の制御装置やセンサなどからの入力情報に基づいて、IGBT328,330のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する。ドライバ回路174は、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、IGBT328,330をスイッチング動作させるためのドライブ信号を生成する。
【0021】
制御回路172はIGBT328,330のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と記述する)を備えている。マイコンには入力情報として、モータ192に対して要求される目標トルク値、上下アーム直列回路150からモータ192の電機子巻線に供給される電流値、及びモータ192の回転子の磁極位置が入力されている。目標トルク値は、不図示の上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ180から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、モータ192に設けられた回転磁極センサ(不図示)から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても構わない。
【0022】
制御回路172内のマイコンは、目標トルク値に基づいてモータ192のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電圧指令値を、検出された磁極位置に基づいてU相、V相、W相の電圧指令値に変換する。そして、マイコンは、U相、V相、W相の電圧指令値に基づく基本波(正弦波)と搬送波(三角波)との比較に基づいてパルス状の変調波を生成し、この生成された変調波をPWM(パルス幅変調)信号としてドライバ回路174に出力する。
【0023】
図2は、ドライバ回路174のU相に関する概略構成を示すブロック図である。なお、V相およびW相に関しても同様の構成となっている。制御回路172から出力された上アームIGBT328への信号は、ドライバ回路174の信号伝達ユニット20Uaに入力される。一方、制御回路172から出力された下アームIGBT330への信号は、ドライバ回路174の信号伝達ユニット20Ubに入力される。信号伝達ユニット20Ua,20Ubは同一構成を有しており、送信回路200と、受信回路204と、一対のコイル2,3を備えている。コイル2,3はパルストランスとして機能するものであり、本実施の形態では、一対のコイル2,3をパルストランス部202と呼ぶことにする。
【0024】
パルストランス部202を介して送信回路200から受信回路204に伝送された信号は、バッファ回路206により増幅され、ドライブ信号として上アームIGBT328および下アームIGBT330へ入力される。送信回路200と受信回路204はパルストランス部202によって電気的に絶縁され、信号伝達ユニット20Ua,20Ubの送信回路200のアースは制御回路172のアースと同電位とされる。一方、上アームIGBT328に関する受信回路204およびバッファ回路206のアースは、下アームIGBT328のアースと同電位とされている。また、下アームIGBT330のアースは、バッテリ136のアースと同電位とされる。制御回路172のアースとバッテリ136のアースは、一般的にはトランス等で絶縁されている。ただし、電位差はほぼ一定である。
【0025】
図3は、信号伝達ユニット20の斜視図である。なお、図2では、IGBT328,330に対応して設けられた信号伝達ユニットの符号をそれぞれ20Ua,20Ubと表示したが、これらは同一構造を有しているので、以下では、信号伝達ユニット20と称することにする。図3に示すように、信号伝達ユニット20は、送信回路200を集積化したIC4と、受信回路204を集積化したIC6と、コイル2,3をプリント基板上に実装したものであり、これらの実装部品は保護用の絶縁物8により覆われている。絶縁物8はレジンなどが用いられる。なお、図3では、内部構造を示すために、絶縁物8の一部を破断面とした。
【0026】
図4は、図3のA−A断面図である。なお、図4では絶縁物8の図示を省略した。プリント基板1には多層基板が用いられ、図4に示す例では導体層を4つ備えた4層構造の多層基板が用いられている。パルストランス部202を構成するコイル2,3は、プリント基板1の導体パターンによって形成されている。コイル2は1層目の導体パターンで形成されており、渦巻き状の平面コイルを成している。一方、コイル3は4層目の導体パターンで形成された平面コイルを成しており、コイル2に対向する位置に配置されている。そのため、これら2つのコイル2,3の磁気結合によりトランスが形成されることになる。コイル2とコイル3との間には3層分の基板絶縁部が介在することになる。
【0027】
プリント基板1の表面側に形成されたコイル2は、ワイヤボンデング5および端子7を介してIC4に接続されている。一方、4層目の導体パターンに形成されたコイル3は、基板表面まで達する貫通パターン3a(例えば、後述するビア)により端子7に接続され、ワイヤボンデング5によりIC6に接続されている。信号伝達ユニット20のプリント基板1は、はんだボール9によってドライバ回路174の基板上に実装されている。信号伝達ユニット20と外部との間の入出力は、はんだボール9を通じて行われる。なお、本実施形態では、ドライバ回路174の基板(プリント基板)とは別のプリント基板1にパルストランス部202のコイル2,3を形成したが、ドライバ回路174の基板上に直接コイル2,3を形成するようにしても構わない。
【0028】
本実施の形態における、パルストランス部202の動作を説明する。制御回路172からの信号は、はんだボール9を通じてIC4の送信回路200に伝えられる。駆動信号を受信した送信回路200は、受信した信号に基づき信号電流を短時間だけコイル2に流す。その結果、コイル2に信号電流が流れたときに、コイル2と磁気結合しているコイル3に電圧が発生する。IC6の受信回路204は、コイル3に発生した電圧を検知して信号を受信する。このような機構により、低電位側(制御回路172)から高電位側(上下アーム直列回路150U)に信号を伝えることが可能となる。
【0029】
ところで、図2において、上アーム側のアースは、上アームIGBT328がオンあるいは上アーム側のダイオード156に電流が還流しているときには、高電圧電源136の高電位にほぼ等しい電位となる。一方、下アームIGBT330がオンあるいは下アーム側のダイオード166に電流が還流しているときには、上アーム側のアースは下アームアース電位にほぼ等しい電位となる。すなわち、IGBT328,330のオン、オフにより上アームアース電位は大きく変化する。
【0030】
そのため、パルストランス部202のコイル2,3間にも、上下アーム間アース電圧の時間変化(dV/dt)が加わることになる。この電圧の時間変化(dV/dt)と、パルストランス部202のコイル2,3間の浮遊容量Cの積dV/dt×Cが、コイル2,3間の絶縁物に変位電流として流れる。
【0031】
従来のトランスに巻線を巻いた構造のパルストランスでは、巻線の間隔が広く浮遊容量が小さかったため、変位電流が小さかった。また、シリコン基板にコイルを形成するパルストランスでは、絶縁物はシリコン酸化膜で形成されているため、半導体プロセスの制限により、絶縁物の厚さは10μm程度にしかできない。そのため、変位電流の大きさが、トランスに巻線を巻いたパルストランスに比べて10倍以上となり、高電圧で長時間使用すると絶縁劣化が生じるということを、本発明者は見出した。
【0032】
一方、本実施の形態によれば、コイル2とコイル3とは、プリント基板1の厚い絶縁部で絶縁されるため、基板絶縁部の厚さを1mm程度とすることで、シリコン基板にパルストランスを形成する場合に比べて、絶縁物厚さを100倍程度に大きくすることができる。そのため、浮遊容量Cの大きさは1/100に小さくなり、電圧の時間変化(dV/dt)と浮遊容量Cとの積が小さくなって、変位電流の影響を著しく低減することができる。その結果、スイッチング時の電圧変化に対するパルストランス部202の信頼性向上を図ることができる。
【0033】
また、IC4,6を実装するプリント基板1の導電パターンを利用してコイル2,3を形成しているので、トランスに巻線を巻いた構造のパルストランスに比べてコスト低減を図ることが出来る。さらに、プリント基板1上にコイル2およびコイル3によりパルストランス部202を形成し、同じプリント基板1上にIC4,6を配置してワイヤボンデングで接続する構造としているため、配線距離を短くでき、IGBTなど他の部品からのノイズによる影響を抑制することができる。
【0034】
[変形例]
図5,6は、上述した第1の実施の形態の変形例を示す図である。図5は、図3の場合と同様に信号伝達ユニット20を示す斜視図である。図6は、図5のA−A断面図である。この変形例においては、プリント基板1に、コイル2,3に対するシールド導体10をさらに設けた。その他の構造は第1の実施の形態と同様である。
【0035】
図6に示すように、プリント基板1は5層構造を有しており、5層目の導体パターンにシールド導体10を形成している。プリント基板1が実装されるドライバ回路174の回路基板は、インバータ回路144を構成するIGBTモジュールの上部に配置されることが多い。そのような場合、図5,6に示すようなシールド導体10をコイル3の下側に配置することで、IGBT328,330のスイッチング時に発生するノイズを遮断することができる。その結果、信号系に関する耐ノイズ性能を向上させることができる。なお、ノイズ遮断効果を大きくするため、シールド導体10はIC4のアース電位とすることが望ましい。
【0036】
なお、上述した実施の形態では送信側のコイル2を基板表面側に設けたが、コイル2,3の配置を逆にして、コイル3を表面側に形成しても良い。
【0037】
−第2の実施の形態−
図7,8は、第2の実施の形態を説明する図である。上述した第1の実施の形態では、導体パターンでコイル2,3を形成する際に、プリント基板1の基板表面に平行な平面コイルを構成した。第2の実施の形態では、図7に示すように、コイルの軸が基板表面と平行となるようなソレノイド状のコイル22,23を形成して、パルストランス部202とした。
【0038】
図8は、コイル22,23の構造を説明する図であり、(a)は平面図、(b)はB−B断面図、(c)はC−C断面図、(d)はD−D断面図である。コイル22,23は同一構造を有しており、プリント基板1の表面側に形成された導体パターン22a,23aと裏面側に形成された導体パターン22c、23cとを、基板垂直方向に貫通するビア(スルーホールビア)22b、23bにより連結することにより、矩形断面形状を有するソレノイド状のコイル22,23を形成している。ビア22b、23bは基板垂直方向に形成された穴の内表面にメッキ層を形成したメッキ穴であり、ビアホール内には絶縁物12が充填されている。
【0039】
[変形例1]
図9,10は、第2の実施の形態の変形例1を示す図である。図9は信号伝達ユニット20の斜視図であり、プリント基板1にノイズ防止用のシールド導体13、14を設けた点が、図7に示す構成と異なる。図10は、コイル22の断面図であり、図8のB−B断面と同一箇所の断面を示したものである。図8に示したプリント基板1は3層構造の多層基板であるが、図10に示すプリント基板1は5層構造を有している。また、ビア22bは上側の三層を貫通している。コイル22に対応して設けられたシールド導体13は、コイル22の下側の導体パターン22cよりも下層の同ターパターンで形成されている。コイル23に対するシールド導体14も同様の構成である。
【0040】
シールド導体13,14も上述したシールド導体10と同様の目的で設けられたものであり、IGBT328,330のスイッチング時に発生するノイズを遮断することができる。その結果、信号系に関する耐ノイズ性能を向上させることができる。なお、ノイズ遮断効果を大きくするため、シールド導体13はIC4のアース電位とし、シールド導体14はIC6のアース電位とすることが望ましい。
【0041】
[変形例2]
上述した第2の実施の形態では、コイル22,23をソレノイド状のコイルとしたが、第1の実施の形態のように平面型のコイルとしても良い。図11は、平面型のコイルとした場合の一例を示したものである。E−E断面図を見ると、コイルは渦巻き状に3巻されている。外側のコイル配線は導体パターン221a,221cとビア221b,221dで構成され、中間のコイル配線は導体パターン222a,222cとビア222b,222dで構成され、内側のコイル配線は導体パターン223a,223cとビア223bで構成されている。
【0042】
上述した第2の実施の形態では、第1の実施の形態の作用効果に加えて、次のような作用効果を奏する。コイル22,23の軸が基板厚さ方向に対して垂直な方向(基板面に対して水平な方向)を向いており、基板面に平行な磁束をコイル23で検出するようにしているので、基板面に対して垂直方向のスイッチングノイズに対して影響を受け難い構造となっている。また、コイル2,3を形成するための基板スペースを抑えることもできる。
【0043】
上述した実施の形態が奏する作用効果をまとめると、以下のようになる。
(1)送信側のIC4と受信側のIC6とが実装されたプリント基板1の導体パターンを利用して、パルストランス部202を構成する一対のコイル2およびコイル3をプリント基板1自体に形成し、プリント基板1の絶縁基板をコイル2,3間の絶縁に用いているので、絶縁距離を十分大きくすることができ、時間変化dV/dtによる変位電流の影響を低減でき、信頼性向上を図ることができる。
【0044】
(2)さらに、プリント基板1のコイル3よりも裏面に近い側にシールド導体層10を設けたことにより、プリント基板1の下方に設けられているスイッチング素子からのスイッチングノイズを遮蔽することができ、ノイズの影響を低減することとで信頼性向上を図ることができる。
【0045】
(3)一対のコイルの各々22,23は、コイルの軸がプリント基板1の表面に対して平行となるように形成され、それらのコイル22,23をプリント基板1の厚さ方向と直交する方向に並べて配置したことにより、スイッチングノイズの影響を抑えることができる。また、プリント基板1にコイル22,23を形成する際のスペースをより小さくすることができる。
【0046】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
1:プリント基板、2,3,22,23:コイル、22b,23b,221b、221d、222b、222d、223b:ビア、4,6:IC、10,13,14:シールド導体、20,20Ua,20Ub:信号伝達ユニット、100:電力変換装置、136:バッテリ、140:インバータ装置、144:インバータ回路、150,150U〜150W:上下アーム直列回路、156,166:ダイオード、170:制御部、172:制御回路、174:ドライバ回路、192:モータ、200:送信回路、202:パルストランス部、204:受信回路、206:バッファ回路、328,330:IGBT
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換するスイッチング素子と、
制御回路からの駆動信号に基づいて前記スイッチング素子をオンオフ駆動する駆動回路と、
前記制御回路からの駆動信号を前記駆動回路に伝達する信号伝達ユニットとを備え、
前記信号伝達ユニットは、
プリント基板上に絶縁部材を挟んで対向するように設けられ、該プリント基板の導体パターンにより形成された一対のコイルと、
前記プリント基板に実装され、前記一対のコイルの一方に前記制御回路からの駆動信号を印加する第1の信号回路と、
前記プリント基板に実装され、前記一対のコイルの他方に誘起される電圧を検出する第2の信号回路とを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電力変換装置において、
前記一対のコイルの各々は、前記プリント基板の表面に対して平行に設けられた平面型コイルであって、それらのコイルを前記プリント基板の厚さ方向に並べて配置したことを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載された電力変換装置において、
前記プリント基板の裏面側に設けられたコイルと前記プリント基板の裏面との間に、前記一対のコイルへのスイッチングノイズを遮蔽するシールド導体層を設けたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載された電力変換装置において、
前記シールド導体層の電位を、前記裏面側のコイルが接続されている前記信号回路のアース電位としたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載された電力変換装置において、
コイルの軸が前記プリント基板の表面に対して平行となるように、前記一対のコイルの各々を、前記プリント基板の基板面に平行に形成された導体パターンと、基板面に垂直に形成されたビアホールとにより形成したことを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項5に記載された電力変換装置において、
前記第1の信号回路に接続されたコイルと前記プリント基板の裏面との間に設けられ、該コイルへのスイッチングノイズを遮蔽する第1のシールド導体層と、
前記第2の信号回路に接続されたコイルと前記プリント基板の裏面との間に設けられ、該コイルへのスイッチングノイズを遮蔽する第2のシールド導体層とを設けたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項6に記載された電力変換装置において、
前記第1のシールド導体層の電位を前記第1の信号回路のアース電位とし、前記第2のシールド導体層の電位を前記第2の信号回路のアース電位としたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換するスイッチング素子と、
制御回路からの駆動信号に基づいて前記スイッチング素子をオンオフ駆動する駆動回路と、
前記制御回路からの駆動信号を前記駆動回路に伝達する信号伝達ユニットとを備え、
前記信号伝達ユニットは、
プリント基板上に絶縁部材を挟んで対向するように設けられ、該プリント基板の導体パターンにより形成された一対のコイルと、
前記プリント基板に実装され、前記一対のコイルの一方に前記制御回路からの駆動信号を印加する第1の信号回路と、
前記プリント基板に実装され、前記一対のコイルの他方に誘起される電圧を検出する第2の信号回路とを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電力変換装置において、
前記一対のコイルの各々は、前記プリント基板の表面に対して平行に設けられた平面型コイルであって、それらのコイルを前記プリント基板の厚さ方向に並べて配置したことを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載された電力変換装置において、
前記プリント基板の裏面側に設けられたコイルと前記プリント基板の裏面との間に、前記一対のコイルへのスイッチングノイズを遮蔽するシールド導体層を設けたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載された電力変換装置において、
前記シールド導体層の電位を、前記裏面側のコイルが接続されている前記信号回路のアース電位としたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載された電力変換装置において、
コイルの軸が前記プリント基板の表面に対して平行となるように、前記一対のコイルの各々を、前記プリント基板の基板面に平行に形成された導体パターンと、基板面に垂直に形成されたビアホールとにより形成したことを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項5に記載された電力変換装置において、
前記第1の信号回路に接続されたコイルと前記プリント基板の裏面との間に設けられ、該コイルへのスイッチングノイズを遮蔽する第1のシールド導体層と、
前記第2の信号回路に接続されたコイルと前記プリント基板の裏面との間に設けられ、該コイルへのスイッチングノイズを遮蔽する第2のシールド導体層とを設けたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項6に記載された電力変換装置において、
前記第1のシールド導体層の電位を前記第1の信号回路のアース電位とし、前記第2のシールド導体層の電位を前記第2の信号回路のアース電位としたことを特徴とする電力変換装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−263671(P2010−263671A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110861(P2009−110861)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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