説明

電力変換装置

【課題】昇圧回路と単相インバータを備えて直流を交流に変換するパワーコンディショナなどの電力変換装置において、パワーデバイスのスイッチング損失を低減する。
【解決手段】直流電源1の電圧を昇圧回路2で昇圧してコンデンサに充電した後、単相インバータ4で交流電力に変換して出力する際、昇圧回路2と単相インバータ4の各パワーデバイスをPWM制御するが、このとき各パワーデバイスのスイッチング周波数を決める2種類の三角波キャリア周波数をその発生手段17、18で発生し、制御手段8は交流出力電流の絶対値が閾値を超えた場合には、三角波キャリア周波数の低い方を使用してPWM制御を行い、交流出力電流の零付近を除く範囲でスイッチング回数を低下させて損失の低減を図り、かつ交流出力電流の零付近で電流リプルの最大振幅が増加するのを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、直流電力を交流電力に変換する電力変換装置に関し、特に太陽電池電圧を系統に連系するパワーコンディショナ等に用いる電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電用パワーコンディショナ等に用いられる電力変換装置は、太陽電池電圧を昇圧回路で昇圧し、交流電力を出力するのに十分な直流電圧を発生させて直流母線電圧を平滑するためのコンデンサを充電する。そして、それを直流電圧源として、MOSFETやIGBTといったスイッチング素子からなるパワーデバイスによって構成された単相インバータで交流電力に変換した後、この単相インバータから出力された交流電流に含まれる高調波ノイズをフィルタによって除去し、ノイズ除去後の交流電力を交流の系統に出力する。この場合の単相インバータ制御には、一定周波数の三角波キャリアと変調波との比較によりパルス幅変調制御を行う、いわゆるPWM制御法が広く適用されている。
【0003】
このような太陽光発電用パワーコンディショナ等に使用される電力変換装置において、パワーデバイスのスイッチング動作に伴う損失低減を図るための技術として、従来、昇圧回路と単相インバータを備えるとともに、両者の間に昇圧後のエネルギを蓄積するとともに高周波成分を除くためのエネルギ蓄積用コンデンサを設け、エネルギ蓄積用コンデンサの容量を小さくするとともに、太陽電池電圧が単相インバータで交流電力を系統に出力するのに十分な場合には、昇圧回路を動作させずに単相インバータでPWM制御を行うことにより交流出力を行う一方、太陽電池電圧が単相インバータで交流電力を系統に出力するのに十分で無い場合には、昇圧回路のパワーデバイスをスイッチング動作させて直流電圧を昇圧し、その際の昇圧区間が部分的に凸形の波形となるようにPWM制御するとともに、単相インバータは昇圧回路の出力電圧に同期して出力電流の極性を切替える動作を行うようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4200244号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載の従来技術では、昇圧回路と単相インバータとをいずれも系統電圧の全周期において高周波スイッチングする場合に比較して、交流出力電圧の1周期内における昇圧回路および単相インバータの総スイッチング回数が減少するため、スイッチング損失を低減することができる。
【0006】
しかし、上記の特許文献1記載の従来技術では、昇圧回路と単相インバータの各パワーデバイスのスイッチング周波数を決定するための三角波キャリア周波数については特に言及されておらず、一般的には一定の三角波キャリア周波数を用いてスイッチング動作を行っているため、スイッチング回数を更に削減することが難しく、スイッチング損失の低減には自ずと限界がある。
【0007】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、昇圧回路と単相インバータを備えた電力変換装置において、交流出力電流の一周期の間に昇圧回路と単相インバータの各パワーデバイスのスイッチング回数を従来よりも削減してスイッチング損失の低減を図るとともに、その際に交流出力電流の零付近のリップルも増加させないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電力変換装置は、直流電源の電圧を昇圧する昇圧回路と、この昇圧回路により昇圧された電力を充電するエネルギ蓄積用コンデンサと、このエネルギ蓄積用コンデンサに充電された電力を交流電力に変換して出力する単相インバータと、この単相インバータからの交流出力電流の高周波ノイズを取り除くフィルタと、上記昇圧回路と上記単相インバータの各パワーデバイスをPWM制御する制御手段と、上記各パワーデバイスのスイッチング周波数を決める2種類の互いに異なる三角波キャリア周波数を発生させる三角波キャリア周波数発生手段とを備えている。そして、上記制御手段は、上記エネルギ蓄積用コンデンサの蓄積電力で上記単相インバータをPWM制御して交流電力に変換出力できる期間では、上記昇圧回路による昇圧なしで上記直流電源からの電力を上記エネルギ蓄積用コンデンサに充電するとともに、上記単相インバータの上記パワーデバイスをPWM制御する一方、上記エネルギ蓄積用コンデンサの蓄積電力では上記単相インバータをPWM制御して交流電力に変換出力できない期間では、上記昇圧回路の上記パワーデバイスをPWM制御して昇圧された電力を上記エネルギ蓄積用コンデンサに充電するとともに、上記昇圧回路の出力電圧に対して上記単相インバータの出力電流の極性を切り替える制御を行うものである。そして、上記制御手段は、上記フィルタから出力される交流出力電流の電流リップルを考慮して予め設定された三角波キャリア周波数切替用の閾値に基づき、上記フィルタの上記交流出力電流の絶対値が上記閾値を超えた場合には上記2種類の三角波キャリア周波数の内、三角波キャリア周波数の低い方を使用して上記PWM制御を行うものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明の電力変換装置によれば、交流出力電流の一周期の間に部分的に三角波キャリア周波数を低下させるので、従来のように三角波キャリア周波数が一定のものを使用する場合よりも、昇圧回路と単相インバータの各パワーデバイスのスイッチング回数を削減でき、スイッチング損失の低減を図ることができる。その際、電流リプルが最も大きくなる交流出力電流の瞬時値が零付近では、三角波キャリア周波数を低下させないので、電流リプルの最大振幅値を大きくすることが無い。これにより、支障なくスイッチング回数を低下させることができ、従来よも更にスイッチング損失の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1における電力変換装置の全体構成を示す回路図である。
【図2】この発明の実施の形態1における電力変換装置の動作説明に供する波形図である。
【図3】この発明の実施の形態2における電力変換装置の全体構成を示す回路図である。
【図4】この発明の実施の形態2における電力変換装置の動作説明に供する波形図である。
【図5】この発明の実施の形態3における電力変換装置の全体構成を示す回路図である。
【図6】この発明の実施の形態3における電力変換装置の動作説明に供する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における電力変換装置の全体構成を示す回路図である。
この実施の形態1における電力変換装置は、太陽電池等の直流電源1に昇圧回路2が接続され、この昇圧回路2の出力側には昇圧後のエネルギを蓄積するとともに高周波ノイズを除くためのエネルギ蓄積用コンデンサ3が接続され、また入力側には昇圧回路2をバイパスさせて直流電源1とエネルギ蓄積用コンデンサ3とを直接に接続するためのバイパス用パワーデバイス7が接続されている。また、エネルギ蓄積用コンデンサ3と並列に単相インバータ4の入力側が接続され、この単相インバータ4の出力側には高周波ノイズを除くためのフィルタ5が接続され、このフィルタ5の出力側が系統6に接続されている。
【0012】
ここに、昇圧回路2は、直流リアクトル2aとダイオード2bとパワーデバイス2cで構成され、単相インバータ4は、4つのパワーデバイス4a〜4dをフルブリッジ型に接続して構成されている。また、フィルタ5は、リアクトル5aとコンデンサ5bで構成されている。なお、昇圧回路2を構成するパワーデバイス2c、および単相インバータ4を構成する各パワーデバイス4a〜4dは、MOSFETやIGBTといったスイッチング素子とこれに逆並列に接続された還流用のダイオードで構成されている。
【0013】
さらに、この電力変換装置を制御動作させるため、直流電源1の近傍には直流電源電圧Viを検出するための電圧センサ9および直流電源電流Iiを検出するための電流センサ10が設置され、エネルギ蓄積用コンデンサ3近傍には母線電圧Vcを検出するための電圧センサ11が設置されている。また、フィルタ5のリアクトル5a近傍にはフィルタ電流Ifを検出するための電流センサ13が設置され、フィルタ5のコンデンサ5b近傍には交流出力電圧Voを検出するための電圧センサ14が設置され、さらに、フィルタ5の出力側には系統6への交流出力電流Ioを検出するための電流センサ15が設置されている。
【0014】
また、この電力変換装置は、上記の各電圧センサ9、11、14および電流センサ10、13、15に基づいて、昇圧回路2および単相インバータ4の各パワーデバイス2c、4a〜4dを制御動作させるための制御手段8、およびこの制御手段8が昇圧回路2と単相インバータ4の各パワーデバイス2c、4a〜4dをPWM制御する際のスイッチング周波数を決定する三角波キャリア周波数を発生する2つの三角波キャリア周波数発生器17、18を備えている。なお、制御手段8による制御動作については後に詳述する。また、上記2つの三角波キャリア周波数発生器17、18が特許請求の範囲における三角波キャリア周波数発生手段に対応している。
【0015】
ここで、2つの三角波キャリア周波数発生器17、18の内、一方の三角波キャリア周波数発生器17で発生される三角波キャリア周波数fは、交流出力電流の零付近でリプル電流の振幅を増加させない程度の周波数になるように設定されている。また、他方の三角波キャリア周波数発生器18で発生される三角波キャリア周波数fは、昇圧回路2と単相インバータ4のスイッチング回数を削減することを考慮して設定されている。したがって、一方の三角波キャリア周波数fを基準にした場合に、他方の三角波キャリア周波数fの方が小さくなるように(f<f)予め設定されている。
【0016】
次に、上記構成を備えた電力変換装置において、制御手段8による昇圧回路2および単相インバータ4の各パワーデバイス2c、4a〜4dに対する制御動作について、図2に示す波形図を参照して説明する。
【0017】
なお、図2(a)は直流電源電圧Viの波形、図2(b)は交流出力電圧Voの波形、図2(c)は交流出力電流Ioの波形、図2(d)は三角波キャリア周波数の切り替え波形、図2(e)は昇圧回路通流率、図2(f)はバイパス用パワーデバイス7に与えるスイッチング制御信号S1の波形である。交流出力電圧Voと交流出力電流Ioの波形は、実際には位相にずれがあるが、ここでは説明の便宜上、同位相としている。
【0018】
制御手段8は、電圧センサ11で検出される母線電圧Vcと電圧センサ14で検出される系統6の交流出力電圧Voの絶対値とを比較する。そして、図2(b)に示すように、母線電圧Vcが交流出力電圧の絶対値|Vo|以上の場合(Vc≧|Vo|)(例えば図2でtb〜tcの期間)には、昇圧回路2を動作させる必要がないので、スイッチング制御信号S1により、バイパス用パワーデバイス7をオンにして導通させ、昇圧回路2による昇圧なしに直流電源1によってエネルギ蓄積用コンデンサ3を充電するバイパス状態にする。
【0019】
このように、母線電圧Vcが交流出力電圧の絶対値|Vo|以上で(Vc≧|Vo|)、バイパス用パワーデバイス7がオンされて昇圧回路2がバイパス状態になっている場合、制御手段8は、各センサ11、13、14、15で検出される母線電圧Vc、フィルタ電流If、交流出力電圧Vo、および交流出力電流Ioの各検出値を用いて制御指令値を生成し、この生成した制御指令値と三角波キャリア周波数発生器17、18で発生される三角波キャリア(三角波キャリア周波数f、f)との比較によって単相インバータ4のパワーデバイス4a〜4dに対するスイッチング制御信号S3を生成し、単相インバータ4をPWM制御して系統6に連係した交流出力電流Ioを生成する。
【0020】
制御手段8は、この単相インバータ4をPWM制御する場合、三角波キャリア周波数f、fが交流出力電流Ioの零付近を挟む前後の位置で切り替わるように制御を行う。そのため、制御手段8は、図2(c)に示すように、電流センサ15で検出される交流出力電流の絶対値|Io|を、予め交流出力電流Ioのリップルの影響を考慮して設定された閾値Ish(例えば交流出力電流Ioのピークが10[A]の場合にはIsh=2[A]に設定)と比較する。
【0021】
そして、交流出力電流の絶対値|Io|が閾値Ish以上の場合(|Io|≧Ish)には、一方の三角波キャリア周波数発生器18で発生される三角波キャリア周波数f(<f)をもつ三角波キャリアを選択する。これに対して、交流出力電流の絶対値|Io|が小さくて閾値Ish未満である場合(|Io|<Ish)には、他方の三角波キャリア周波数発生器17で発生される三角波キャリア周波数fをもつ三角波キャリアを選択する。
【0022】
一方、制御手段8は、電圧センサ11で検出される母線電圧Vcと電圧センサ14で検出される系統6の交流出力電圧Voの絶対値とを比較した結果、母線電圧Vcが交流出力電圧の絶対値|Vo|未満の場合(Vc<|Vo|)(例えば図2でta〜tb、tc〜tdの各期間)には、昇圧回路2を動作させる必要があるので、バイパス用パワーデバイス7をオフにして昇圧回路2のバイパス状態を解消し、直流電源1から出力される直流電圧を昇圧回路2により昇圧してエネルギ蓄積用コンデンサ3を充電する状態にする。
【0023】
すなわち、制御手段8は、母線電圧Vcが交流出力電圧の絶対値|Vo|未満である場合(Vc<|Vo|)、バイパス用パワーデバイス7をオフして直流電源1とエネルギ蓄積用コンデンサ3とが直接に接続されるのを遮断した上で、各センサ9、10、11、13、14、15で検出される直流電源電圧Vi、直流電源電流Ii、母線電圧Vc、フィルタ電流If、交流出力電圧Vo、および交流出力電流Ioの各検出値を用いて制御指令値を生成し、この生成した制御指令値と三角波キャリア周波数発生器17、18で発生される三角波キャリア(三角波キャリア周波数f、f)との比較によって昇圧回路2のパワーデバイス2cに対するスイッチング制御信号S2を生成し、昇圧回路2をPWM制御して直流電源1から出力される直流電源電圧Viを昇圧する。その場合、昇圧回路2の通流率は、図2(e)に示すように、系統6への交流電圧波形の周期に同期した部分的に凸形の波形となる。このため、昇圧回路2からの出力電圧波形も部分的に凸形の波形となる。
【0024】
このように、制御手段8が昇圧回路2をPWM制御する際、単相インバータ4をPWM制御する場合と同様に、三角波キャリア周波数f、fが交流出力電流Ioの零付近を挟む前後の位置で切り替わるように制御を行う。そのため、制御手段8は、電流センサ15で検出される交流出力電流の絶対値|Io|を、予め電流リップルの影響を考慮して設定された閾値Ish(例えばIsh=2[A])と比較する。そして、交流出力電流の絶対値|Io|が閾値Ish以上の場合(|Io|≧Ish)には、一方の三角波キャリア周波数発生器18で発生される三角波キャリア周波数f(<f)をもつ三角波キャリアを選択する。これに対して、交流出力電流の絶対値|Io|が閾値Ish未満である場合(|Io|<Ish)には、他方の三角波キャリア周波数発生器17で発生される三角波キャリア周波数fをもつ三角波キャリアを選択する。
【0025】
また、制御手段8は、昇圧回路2に対する上記の制御に並行して、単相インバータ4に対しては交流出力電流の生成を行うPWM制御は行わず、単に昇圧回路2で昇圧された出力電圧に対してその出力電流の極性が交互に切り替わる制御を行う。すなわち、交流出力電圧Voが正側の状態で昇圧回路2が昇圧動作するとき(例えば図2のta〜tbの期間)には、パワーデバイス4a、4dを共にオン、パワーデバイス4b、4cを共にオフにする。交流出力電圧Voが負側の状態で昇圧回路2が昇圧動作するとき(例えば図2のtc〜tdの期間)には、パワーデバイス4b、4cを共にオン、パワーデバイス4a、4dを共にオフにする。これにより、単相インバータ4から交流出力電流Ioが生成される。
【0026】
以上のように、この実施の形態1の構成によれば、単相インバータ4に対するスイッチング制御信号S3や昇圧回路2に対するスイッチング制御信号S2のスイッチング周波数をfからfに部分的に低下させることができる。これにより、交流出力電流の1周期におけるスイッチング回数を三角波キャリア周波数発生器17のみを使用した場合に比べて低下させることができ、結果として、スイッチング損失を低減させることができる。例えば、交流出力が50Hzで、一方の三角波キャリア周波数発生器17から出力される三角波キャリア周波数fが20kHz、他方の三角波キャリア周波数発生器18から出力される三角波キャリア周波数fが15kHzであるとすれば、一方の三角波キャリア周波数発生器17のみを使用する場合と比べて、スイッチング回数を1周期において88回分だけ減少させることができる。
【0027】
また、交流出力電流のリプルは、三角波キャリアの周波数が一定であった場合には、交流出力電流Ioが零から遠ざかるにつれて小さくなる傾向にあるため、交流出力電流Ioのリプル振幅が最大となる零付近で三角波キャリア周波数をfに保って低下させないので、交流出力電流Ioの最大リプルを増加させないようにすることができる。
【0028】
実施の形態2.
図3はこの発明の実施の形態2における電力変換装置の全体構成を示す回路図、図4は同電力変換装置の動作説明に供する波形図である。なお、図3および図4において、図1および図2に示した実施の形態1の場合と対応もしくは相当する部分には同一の符号を付す。
【0029】
この実施の形態2の特徴は、実施の形態1(図1)で示した構成に対して、さらに、三角波キャリア周波数発生器19が設けられており、この三角波キャリア周波数発生器19は、その三角波キャリア周波数fが三角波キャリア周波数発生器18の三角波キャリア周波数fよりも周波数が低くなるように設定されている。したがって、各三角波キャリア周波数発生器17、18、19の三角波キャリア周波数の関係は、f<f<fとなっている。
【0030】
また、制御手段8には、図4に示すように、各三角波キャリア周波数発生器17、18、19を選択して切り替えるための第1の閾値Ish1と、この第1の閾値Ish1よりも少し大きな値をもつ第2の閾値Ish2の2つの閾値が予め設定されている。例えば、交流出力電流Ioのピークが10[A]の場合、Ish1=2[A]、Ish2=5[A]に設定されている。
【0031】
そして、制御手段8は、交流出力電流の絶対値|Io|が第1の閾値Ish1未満であれば(|Io|<Ish1)、三角波キャリア周波数発生器17の三角波キャリア(周波数f)を使用し、交流出力電流の絶対値|Io|が第1の閾値Ish1以上で、第2の閾値Ish2未満であれば(Ish1≦|Io|<Ish2)、三角波キャリア周波数発生器18の三角波キャリア(周波数f)を使用し、さらに、交流出力電流の絶対値|Io|が第2の閾値Ish2以上であれば(Ish2≦|Io|)、三角波キャリア周波数発生器19の三角波キャリア(周波数f)を使用するように、各三角波キャリア周波数発生器17、18、19を選択することで、昇圧回路2と単相インバータ4に対する各スイッチング制御信号S2、S3を生成する。
その他の構成、および作用、効果は、図1および図2に示した実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0032】
以上のように、この実施の形態2の構成によれば、制御手段8は、交流出力電流の絶対値|Io|を予め設定された第1、第2の各閾値Ish1、Ish2と比較することで各三角波キャリア周波数発生器17〜19の三角波キャリア周波数f、f、fを切替えるので、実施の形態1と比較して、交流出力電流の1周期におけるスイッチング回数をさらに低下させることができ、スイッチング損失を低減することができる。
【0033】
その場合でも、交流出力電流のリプル振幅が最大となる零付近では、各三角波キャリア周波数発生器17の三角波キャリア周波数fが選択されて、三角波キャリア周波数を低下させないので、交流出力電流の最大リプルを増加させないようにすることができる。
【0034】
なお、この実施の形態2では、第1、第2の各閾値Ish1、Ish2を設定するとともに、これに応じて3つの三角波キャリア周波数発生器17、18、19を設けることで、各三角波キャリア周波数f、f、fを選択切り替えするようにしているが、これに限らず、さらに3つ以上の閾値を設定するとともに、これに応じて4つ以上の三角波キャリア周波数発生器を設けて三角波キャリア周波数を選択切り替えできるようにすることも可能である。
【0035】
実施の形態3.
図5はこの発明の実施の形態3における電力変換装置の全体構成を示す回路図、図6は同電力変換装置の動作説明に供する波形図である。なお、図5および図6において、図3および図4に示した実施の形態2の場合と対応もしくは相当する部分には同一の符号を付す。
【0036】
この実施の形態3の電力変換装置の特徴は、実施の形態2(図3)で示した構成部分から、バイパス用パワーデバイス7が省略されている。このため、制御手段8からは、実施の形態2のようなバイパス用パワーデバイス7をオン/オフ制御するためのスイッチング制御信号S1は出力されない。
【0037】
この場合、昇圧回路2のパワーデバイス2cをPWM制御して昇圧を行わない場合には、昇圧回路2の直流リアクトル2aとダイオード2bを通してエネルギ蓄積用コンデンサ3の充電を行う。
その他の構成、および作用、効果は、図3および図4に示した実施の形態2の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0038】
この実施の形態3の構成によれば、昇圧回路2による昇圧を行わない場合、バイパス用パワーデバイス7を使用する場合と比べて、直流リアクトル2aとダイオード2bの導通損失が増加するものの、実施の形態2のようにバイパス用パワーデバイス7を制御する必要がないので、制御手段8による制御動作が容易になるとともに、部品点数を削減できるので、コスト削減を図ることができる。
【0039】
なお、この実施の形態3の電力変換装置では、実施の形態2(図3)で示した構成部分からバイパス用パワーデバイス7を省略しているが、これに限らず、実施の形態1(図1)で示した構成部分からバイパス用パワーデバイス7を省略することも可能で、この実施の形態3の場合と同様な効果を得ることができる。
【0040】
また、上記の各実施の形態1〜3では、フィルタ5の出力側に設けた電流センサ15で検出される交流出力電流の絶対値|Io|を閾値Ishと比較することで三角波キャリア周波数発生器17、18の切り替えを行っているが、フィルタ5内に設けた電流センサ13で検出されるリアクトル5aを流れるフィルタ電流Iiの絶対値|Ii|を閾値Ishと比較することで三角波キャリア周波数発生器17、18の切り替えを行うことも可能である。これにより、フィルタ5のコンデンサ5bに流れる無効電流も含めた単相インバータ4から出力される電流で制御することができるので、単相インバータ4の各パワーデバイス4a〜4dに流れる電流により近い値で制御することができる。
【0041】
また、上記の各実施の形態1〜3のパワーデバイス2c、4a〜4d、7やダイオード2bとして、ワイドバンドギャップ半導体を適用すると、更にスイッチング損失や導通損失が低減するため、一層高効率化を達成できることは言うまでもない。ワイドバンドギャップ半導体としては、例えば、炭化珪素、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドがある。
【0042】
このようなワイドバンドギャップ半導体によって形成されたスイッチング素子やダイオードは、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、スイッチング素子やダイオードの小型化が可能であり、これら小型化されたスイッチング素子やダイオードを用いることにより、これらの素子を組み込んだ半導体モジュールの小型化が可能となる。また、耐熱性も高いため、ヒートシンクの放熱フィンの小型化や、水冷部の空冷化が可能であるので、半導体モジュールの一層の小型化が可能になる。更に電力損失が低いため、スイッチング素子やダイオードの高効率化が可能であり、延いては半導体モジュールの高効率化が可能になる。なお、スイッチング素子及びダイオードの両方がワイドバンドギャップ半導体によって形成されていることが望ましいが、いずれか一方の素子がワイドバンドギャップ半導体よって形成されていてもよく、この実施の形態1〜3に記載の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 直流電源、2 昇圧回路、2a 直流リアクトル、2b ダイオード、
2c パワーデバイス、3 エネルギ蓄積用コンデンサ、4 単相インバータ、
4a〜4d パワーデバイス、5 フィルタ、5a リアクトル、5b コンデンサ、
6 系統、7 バイパス用パワーデバイス、8 制御手段、
9,11,14 電圧センサ、10,13,15 電流センサ、
17,18,19 三角波キャリア周波数発生器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源の電圧をパワーデバイスを用いて昇圧する昇圧回路と、上記昇圧回路により昇圧された電力を充電するエネルギ蓄積用コンデンサと、上記エネルギ蓄積用コンデンサに充電された電力をパワーデバイスを用いて交流電力に変換して出力する単相インバータと、上記単相インバータからの交流出力電流の高周波ノイズを取り除くフィルタと、上記昇圧回路と上記単相インバータの各パワーデバイスをPWM制御する制御手段と、上記各パワーデバイスのスイッチング周波数を決める2種類の互いに異なる三角波キャリア周波数を発生させる三角波キャリア周波数発生手段とを備え、
上記制御手段は、上記エネルギ蓄積用コンデンサの蓄積電力で上記単相インバータをPWM制御して交流電力に変換出力できる期間では、上記昇圧回路による昇圧なしで上記直流電源からの電力を上記エネルギ蓄積用コンデンサに充電するとともに、上記単相インバータの上記パワーデバイスをPWM制御する一方、上記エネルギ蓄積用コンデンサの蓄積電力では上記単相インバータをPWM制御して交流電力に変換出力できない期間では、上記昇圧回路の上記パワーデバイスをPWM制御して昇圧された電力を上記エネルギ蓄積用コンデンサに充電するとともに、上記昇圧回路の出力電圧に対して上記単相インバータの出力電流の極性を切り替える制御を行うと共に、
上記制御手段は、上記フィルタから出力される交流出力電流の電流リップルを考慮して予め設定された三角波キャリア周波数切替用の閾値に基づき、上記フィルタの上記交流出力電流の絶対値が上記閾値を超えた場合には上記2種類の三角波キャリア周波数の内、三角波キャリア周波数の低い方を使用して上記PWM制御を行う電力変換装置。
【請求項2】
上記三角波キャリア周波数発生手段は、請求項1記載の構成に代えて、上記フィルタから出力される交流出力電流の電流リップルを考慮して予め設定されたn種類(nは3以上の整数)の互いに異なる三角波キャリア周波数を発生させるものであり、また上記制御手段には、三角波キャリア周波数切替用の(n−1)個の互いに異なる閾値が設定されており、上記フィルタの上記交流出力電流の絶対値が、最も低い閾値よりも低い範囲では上記n種類の三角波キャリア周波数の内、最も高い三角波キャリア周波数を使用し、上記フィルタの上記交流出力電流の絶対値が上記各閾値を越える度に順次低い三角波キャリア周波数を使用して上記PWM制御を行う請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
上記エネルギ蓄積用コンデンサと上記直流電源の正極側とを接続するバイパス用パワーデバイスを備え、上記制御手段は、上記エネルギ蓄積用コンデンサの蓄積電力で上記単相インバータをPWM制御して交流電力に変換出力できる期間では、上記バイパス用パワーデバイスを導通して上記昇圧回路をバイパスさせて上記直流電源からの電力を上記エネルギ蓄積用コンデンサに充電する一方、上記エネルギ蓄積用コンデンサの蓄積電力では上記単相インバータでPWM制御して交流電力に変換出力できない期間では、上記バイパス用パワーデバイスを非導通にして上記昇圧回路により昇圧された電力を上記エネルギ蓄積用コンデンサに充電する制御を行う請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
上記制御手段は、上記フィルタの上記交流出力電流の絶対値の代わりに、上記フィルタを構成するリアクトルに流れる電流の絶対値に基づいて上記三角波キャリア周波数を切り替える請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
上記昇圧回路と上記単相インバータのパワーデバイスは、ワイドバンドギャップ半導体によって形成されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
上記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドである請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
上記バイパス用パワーデバイスは、ワイドバンドギャップ半導体によって形成されている請求項3又は請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項8】
上記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドである請求項7に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−55794(P2013−55794A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192239(P2011−192239)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】