説明

電力変換装置

【課題】電力変換装置に含まれる回路の故障箇所を特定することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】 電源の正負両端に接続される電源線P、Nの間に、接続されたスイッチング素子Q1〜Q6と、スイッチング素子Q1〜Q6の順方向導通時に流れる電流の向きと逆方向で、スイッチング素子Q1〜Q6と並列に接続されたダイオードD1〜D6と、スイッチング素子Q1〜Q6の低電位側端子とダイオードD1〜D6のアノード端子との接続点よりもスイッチング素子側に接続され、電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段によって検出された検出電流に基づいてスイッチング素子Q1〜Q6の故障を検出する故障検出手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各相に備えられたスイッチング素子を用いて、電動機の各相に電圧を印加することで電動機の各相に電流を流して電動機を駆動するインバータと、インバータの各相のスイッチング素子にそれぞれ直列に配置された電流検出器と、インバータのスイッチング素子をONする所定の組み合せを示すテストパターンを記憶し、このテストパターンと当該テストパターンの応答として電流検出器で検出される各相の電流検出値とに基づいて短絡故障箇所を特定する短絡箇所特定手段とを備えた電動機装置であって、インバータの各相の上側又は下側のいずれか1つのスイッチング素子をオンさせると共に、他のスイッチング素子をオフさせて、下側スイッチング素子のグランド側に直列に接続された電流検出値が過電流を示す値より大きい場合に、当該他のスイッチング素子が故障した、と判断するものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/129658号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スイッチング素子に接続されたダイオードが短絡故障した場合でも、当該スイッチング素子が故障していると判定してしまう問題があった。
【0005】
本発明は、電力変換装置に含まれる回路の故障箇所を特定することができる電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、スイッチング素子の低電位側端子と、ダイオードのアノード端子との接続点よりもスイッチング素子側に接続され、電流を検出する電流検出手段を備えることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スイッチング素子の故障の有無に応じて、電流検出手段の検出電流が変化するため、電力変換装置に含まれる回路の故障箇所を特定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る電力変換装置を含むモータ制御システムのブロック図である。
【図2】図1のインバータのU相の回路を示す回路図である。
【図3】図1のモータ制御システムの回路図である。
【図4】図1の電力変換装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図5】図1の電力変換装置の制御手順のうち、上アーム回路における故障検知の制御手順を示すフローチャートである。
【図6】図1の電力変換装置の制御手順のうち、下アーム回路における故障検知の制御手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の変形例に係る電力変換装置を含むモータ制御システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
《第1実施形態》
図1は、本発明の実施形態に係る電力変換装置を含むモータ制御システムを示すブロック図である。詳細な図示は省略するが、本例の電気自動車は、三相交流電力の永久磁石モータ102を走行駆動源として走行する車両であり、モータ102は電気自動車の車軸に結合されている。以下、電気自動車を例に説明するが、ハイブリッド自動車(HEV)にも本発明を適用可能であり、車両以外の装置の電力変換装置にも適用可能である。
【0011】
本例のモータ駆動システムは、上述した三相交流モータ102と、モータ102の電源であるバッテリ101と、当該バッテリ101の直流電力を交流電力に変換するインバータ100と、を備える。インバータ100の回路内はバスバーで接続されており、バッテリ101とインバータ100との接続及びインバータ100とモータ102との接続は例えば強電ハーネスで接続されている。
【0012】
バッテリ101は、直流電源であって、インバータ100に接続されている。バッテリ101には、例えばリチウムイオン電池などの二次電池が搭載されている。バッテリ101とインバータ100との間には、図示しないリレーが接続されており、当該リレーは車両のキースイッチ(図示しない)のON/OFF操作に連動して駆動する。なお、モータ102は発電機としても作用し、モータ102により発電された交流電力は、インバータ100により直流に変換され、バッテリ101に入力され、バッテリ101が充電される。
【0013】
インバータ100は、上アーム回路10、30、50と、下アーム回路20、40、60と、平滑用のコンデンサ71と、放電抵抗72と、駆動回路80と、制御部90とを有し、バッテリ101の直流電力を交流電力に変換して、モータ102に供給する。上アーム回路10、30、50は、スイッチング素子Q1、Q3、Q5とダイオードD1、D3、D5とをそれぞれ並列に接続した回路であり、下アーム回路20、40、60は、スイッチング素子Q2、Q4、Q6とダイオードD2、D4、D6とをそれぞれ対応して並列に接続した回路である。本例では、2つのスイッチング素子Q1〜Q6を直列に接続した3対の回路が、電源線P及び電源線Nとの間に接続されることにより、バッテリ101に並列に接続され、各対のスイッチング素子を接続する各接続点とモータ102の三相入力部とがそれぞれ電気的に接続されている。各スイッチング素子Q1〜Q6には、例えば、絶縁ゲートパイポーラトランジスタ(IGBT)、または、MOSFETが用いられる。各ダイオードD1〜D6には、例えばFRD(Fast Recovery Diode)が用いられ、以下、本例では、スイッチング素子Q1〜Q6として、IGBTを用いる。
【0014】
図1に示す例でいえば、スイッチング素子Q1とQ2、スイッチング素子Q3とQ4、スイッチング素子Q5とQ6がそれぞれ対になって直列に接続され、スイッチング素子Q1とQ2の間とモータ4のU相、スイッチング素子Q3とQ4の間とモータ4のV相、スイッチング素子Q5とQ6の間とモータ4のW相がそれぞれ接続されている。各スイッチング素子Q1〜Q6は、制御部90により制御され、高周波でスイッチングされる。
【0015】
スイッチング素子Q1のコレクタ端子はダイオードD1のカソード端子に接続され、スイッチング素子Q1のエミッタ端子はダイオードD1のアノード端子に接続されている。スイッチング素子Q1のゲート端子は駆動回路80に接続されている。他のスイッチング素子Q2〜Q6の各端子も同様に、ダイオードD2〜D6の各端子及びコントローラ108に接続されている。各ダイオードD1〜D6は、各スイッチング素子Q1〜Q6の順方向に対して、逆方向に接続されている。
【0016】
上アーム回路10、30、50には、スイッチング素子Q1、Q3、Q5のエミッタ電流を検出するための電流センサ11、31、51と、スイッチング素子Q1、Q3、Q5のコレクタ電流を検出するための電流センサ12、32、52が設けられている。下アーム回路20、40、60には、スイッチング素子Q2、Q4、Q6のエミッタ電流を接続するための電流センサ21、41、61が設けられている。また、電源線P及び電源線Nの間の中間電位を測定するための電圧センサ73が、上アーム回路10と下アーム回路20との間に接続されている。
【0017】
電流センサ11、12、21、31、32、41、51、52、61は、例えばシャント抵抗、ホール効果素子、オンチップセンサ等を用いて、電流を検出する。また電圧センサ73は、バスバーに対して抵抗値の高い、例えば直径を細くしたワイヤなどを接続して電圧を検出する、あるいは、四端子方、四端子対法などを用いて電圧を検出する。
【0018】
ここで、図1及び図2を用いて、電流センサ11、12、21及び電圧センサ73の接続について、説明する。図2は、図1に示すインバータ100の回路のうち、U相部分の回路を示す回路図である。なお、上アーム回路30、下アーム回路40における、電流センサ31、32、41の接続、及び、上アーム回50及び下アーム回路60における、電流センサ51、52、61の接続は、上アーム回路10、下アーム回路20における、電流センサ11、12、21の接続と同様であるため、説明を省略する。
【0019】
図2に示すように、電流センサ11は、スイッチング素子Q1のエミッタ端子とダイオードD1のアノード端子との接続点よりもスイッチング素子Q1側に接続され、スイッチング素子Q1のエミッタ端子に流れる電流を検出する。言い換えると、電流センサ11とスイッチング素子Q1との接続点が、スイッチング素子Q1のエミッタ端子とダイオードD1のアノード端子との接続点よりもスイッチング素子Q1側にある。なお、スイッチング素子Q1のエミッタ端子と電流センサ11の接続端子とを接続する場合には、スイッチング素子Q1のエミッタ端子と電流センサ11の接続端子との接続点は、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との間の接続線とダイオードD1のアノード端子との接続点より、スイッチング素子Q1側にあればよい。
【0020】
電流センサ12は、電源線Pと、スイッチング素子Q1のコレクタ端子及びダイオードD1のカソード端子の接続点との間に接続され、電源線Pとスイッチング素子Q1のコレクタ端子及びダイオードD1のカソード端子との間に流れる電流を検出する。
【0021】
電流センサ21は、スイッチング素子Q2のエミッタ端子と、ダイオードD2のアノード端子との接続点よりもスイッチング素子Q2側に接続され、スイッチング素子Q2のエミッタ端子に流れる電流を検出する。言い換えると、電流センサ21とスイッチング素子Q2との接続点が、スイッチング素子Q2のエミッタ端子とダイオードD2のアノード端子との接続点よりもスイッチング素子Q2側にある。なお、スイッチング素子Q2のエミッタ端子と電流センサ21の接続端子とを接続する場合には、スイッチング素子Q2のエミッタ端子と電流センサ21の接続端子との接続点は、スイッチング素子Q2と電源線Nとの間の接続線とダイオードD2のアノード端子との接続点より、スイッチング素子Q2側にあればよい。
【0022】
電圧センサ73は、上アーム回路10及び下アーム回路20の直列回路とモータ102のU相入力部との接続点と、スイッチング素子Q2のコレクタ端及びダイオードD2のカノード端子の接続点との間に接続され、上アーム回路10と下アーム回路20との間であって、モータ102の三相入力部との接続点における電位を検出する。
【0023】
これにより、本例は、電流センサ11、12とスイッチング素子Q1及びダイオードD1とを対応させて接続し、電流センサ21とスイッチング素子Q2及びダイオードD2とを対応させ、電流センサ31、32とスイッチング素子Q3及びダイオードD3とを対応させ、電流センサ41とスイッチング素子Q4及びダイオードD4を対応させ、電流センサ51、52とスイッチング素子Q5及びダイオードD5とを対応させ、電流センサ61とスイッチング素子Q6及びダイオードD6を対応させて接続する。
【0024】
図1に戻り、駆動回路80は、制御部90により生成されるスイッチング信号に基づいて、各スイッチング素子Q1〜Q6のゲート端子に駆動信号を送信することで、各スイッチング素子Q1〜Q6のオン及びオフを切り換えるための駆動回路である。
【0025】
制御部90は、ユーザによるアクセル操作等に基づき、外部から入力されるトルク指令と、モータ102に設けられた回転子位置センサ(図示しない)の検出値、モータ102の各相の相電流を検出する電流センサ(図示しない)の検出電流、及び、バッテリ101の電圧を検出する電圧センサ(図示しない)の検出電圧を読み込み、モータ102からの出力トルクがトルク指令と一致させるよう、スイッチング信号(PWM信号)を生成し、駆動回路80に送信する。
【0026】
また制御部90は、電流センサ11、12、21、31、32、41、51、52、61の検出値及び電圧センサ73の検出値に基づき、インバータ100の回路における故障箇所を特定する。
【0027】
次に、図1及び図3を用いて、制御部90の制御内容のうち、回路の故障箇所を検知する制御について、説明する。ここで、図3に示すように、電流センサ11はU相のうち、P側(正極側)のスイッチング素子Q1のエミッタ電流を検出するセンサであるため、電流センサ11の検出電流をIspe(u)とし、電流センサ12の検出電流をIspc(u)と称し、電流センサ21の検出電流をIsne(u)21とする。そして、V相、W相についても、電流センサ31の検出電流をIspe(v)31とし、電流センサ32の検出電流をIspc(v)、電流センサ41の検出電流をIsne(v)、電流センサ51の検出電流をIspe(w)と称し、電流センサ52の検出電流をIspc(w)、電流センサ61の検出電流をIsne(w)とする。また、電圧センサ73の検出電圧をVsncとする。図3は、本例のモータ制御システムの回路図であって、電流センサ11、12、21、31、32、41、51、52、61の各検出電流及び電圧センサ72の検出電圧に付された記号を説明するための図である。
【0028】
まず、弱電系の制御回路を電気的に導通させることで、本例のモータ制御システムを起動させて、インバータ100とバッテリ101との間の図示しないリレースイッチをオンさせることで、インバータ100とバッテリ101との間を導通させて、モータ102を制御する前に(すなわちスイッチング素子Q1〜Q6のいずれもオフの状態で)、以下の故障箇所の検知制御を開始する。
【0029】
制御部90は、スイッチング素子Q1〜Q6及びダイオードD1〜D6の故障箇所を特定するために、電圧センサ73の検出電圧(Vsnc)を用いて、上アーム回路10、30、50と下アーム回路20、40、60のどちらの回路で短絡故障が生じているか否かを判定する。
【0030】
制御部90には、上アーム回路10、30、50で故障が生じていることを示す閾値電圧(Vpn)及び下アーム回路20、40、60で故障が生じていることを示す閾値電圧(0(V))が予め設定されている。例えば、スイッチング素子Q1またはダイオードD1で短絡故障が生じている場合には、上アーム回路10と電源線Pとの接続点から、上アーム回路10と下アーム回路20との接続点との間が短絡するため、Vsncは、バッテリ101の電圧である強電電圧(Vpn)を検出する。上アーム回路30に含まれるスイッチング素子Q3またはダイオードD3が短絡故障した場合、あるいは、上アーム回路50に含まれるスイッチング素子Q5またはダイオードD5が短絡故障した場合にも、同様に、上アーム回路30内、あるいは、上アーム回路50内で短絡し、モータ102のU相の接続線を介して、電圧センサ73の接続点まで導通する。そのため、Vsncは、バッテリ101の電圧である強電電圧(Vpn)を検出する。すなわち、制御部90は、VsncがVpnである場合に、上アーム回路10、30、50で故障が生じていると判断する。
【0031】
また、例えば、スイッチング素子Q2またはダイオードD2で短絡故障が生じている場合には、下アーム回路20の正極側から下アーム回路20と電源線Nとの接続点まで短絡するため、Vsncは、バッテリ101の負極側の電位である0(V)を検出する。下アーム回路40に含まれるスイッチング素子Q4またはダイオードD4が短絡故障した場合、あるいは、下アーム回路60に含まれるスイッチング素子Q6またはダイオードD6が短絡故障した場合にも、同様に、下アーム回路40内、あるいは、下アーム回路60内で短絡し、電源線Nからモータ102のU相の接続線を介して、電圧センサ73の接続点まで導通する。そのため、Vsncは、0(V)を検出する。すなわち、制御部90は、Vsncが0(V)である場合に、下アーム回路20、40、60で故障が生じていると判断する。
【0032】
制御部90は、上アーム回路10、30、50と下アーム回路20、40、60のいずれかで短絡故障が生じていることを特定すると、上アーム回路10、30、50が故障している場合には、Ispc(u)、Ispc(v)、Ispc(w)、Ispe(u)、Ispe(v)及びIspe(w)に基づいて、スイッチング素子Q1、Q3、Q5及びダイオードD1、D3、D5のどの素子で短絡故障が生じているかを特定し、下アーム回路10、30、50が故障している場合には、Ispc(u)、Ispc(v)、Ispc(w)、Isne(u)、Isne(v)及びIsne(w)に基づいて、スイッチング素子Q2、Q4、Q6及びダイオードD2、D4、D6のどの素子で短絡故障が生じているかを特定する。
【0033】
上アーム回路10、30、50における故障箇所の検知制御について説明する。制御部90は、上アーム回路10、30、50で故障していると検知した場合には、スイッチング素子Q2、スイッチング素子Q4またはスイッチング素子Q6のいずれかの素子のゲート端子に検知パルスを印加することにより、スイッチング素子Q2、スイッチング素子Q4またはスイッチング素子Q6のいずれかをオン状態として、上アーム回路10、30、50の回路内に含まれる素子の導通状態を検知する。スイッチング素子Q2、Q4、Q6への検知パルスの入力は、U相から始まり、V相、W相に順に入力する。制御部90は、U相のスイッチング素子Q2に検知パルスを印加している場合には、スイッチング素子Q1及びダイオードD1での短絡故障を検知し、V相のスイッチング素子Q4に検知パルスを入力している場合には、スイッチング素子Q3及びダイオードD3での短絡故障を、W相のスイッチング素子Q6に検知パルスを入力している場合には、スイッチング素子Q5及びダイオードD5での短絡故障を検知する。
【0034】
検知パルスは、故障箇所を特定するためにスイッチング素子Q1〜Q6のオン及びオフを切り換えるための信号(検知パルスをスイッチング素子のゲート端子に供給することによりオンさせ、供給しないことによりオフさせる信号)であり、スイッチング素子Q1〜Q6を破壊しない程度の電流をスイッチング素子Q1〜Q6に流すための故障検知用の信号である。また検知パルスのオン時間(供給時間)は、パルスをスイッチング素子Q1〜Q6のゲート端子に入力して電流を流すことで、スイッチング素子Q1〜Q6が発熱しない程度の時間に設定されている。
【0035】
スイッチング素子Q1で短絡故障が生じている場合に、スイッチング素子Q2に検知パルスを印加すると、バッテリ101からの微少電流が、電源線Pからスイッチング素子Q1のコレクタ端子及びエミッタ端子を通り、スイッチング素子Q2を通り、電源線Nへ流れ、電流センサ11、12が当該電流を検出する。そのため、制御部90は、Ispc(u)及びIspe(u)がゼロでない場合には、スイッチング素子Q1で短絡故障が生じていると判断する。
【0036】
また、ダイオードD1で短絡故障が生じている場合に、スイッチング素子Q2に検知パルスを印加すると、バッテリ101からの微少電流が、電源線PからダイオードD1を通り、スイッチング素子Q2のコレクタ端子に入り、スイッチング素子Q2を通り、電源線Nへ流れる。この時、電流センサ12は当該電流を検出するが、電流センサ11はダイオードD1の接続点よりスイッチング素子Q1のエミッタ端子側に接続されているため、電流センサ11は当該電流を検出しない。そのため、制御部90は、Ispc(u)がゼロではなく、かつ、Ispe(u)がゼロである場合には、ダイオードD1で短絡故障が生じていると判断する。
【0037】
また、スイッチング素子Q1及びダイオードD1で故障が生じていない場合に、スイッチング素子Q2に検知パルスを印加すると、バッテリ101からの微少電流は、オフ状態のスイッチング素子Q1、及び、当該微少電流に対し逆向きのダイオードD1を流れず、電流センサ11、12は電流を検出しない。そのため、制御部90は、Ispc(u)及びIspe(u)がゼロである場合には、スイッチング素子Q1及びダイオードD1は正常であると判断する。そして、U相において、短絡故障が検知されない場合には、制御部90は、検知していない他の相に移行し、上アーム回路30、50の故障検知を行う。
【0038】
上アーム回路30、50における短絡故障検知は、U相である上アーム回路10での検知方法と同様であり、制御部90は、スイッチング素子Q4に検知パルスを印加し、Ispc(v)及びIspe(v)がゼロでない場合にはスイッチング素子Q3で短絡故障が生じていると判断し、Ispc(v)がゼロではなく、かつ、Ispe(v)がゼロである場合には、ダイオードD3で短絡故障が生じていると判断し、Ispc(v)及びIspe(v)がゼロである場合には、スイッチング素子Q3及びダイオードD3は正常であると判断する。
【0039】
また、制御部90は、スイッチング素子Q6に検知パルスを印加し、Ispc(w)及びIspe(w)がゼロでない場合にはスイッチング素子Q5で短絡故障が生じていると判断し、Ispc(w)がゼロではなく、かつ、Ispe(w)がゼロである場合には、ダイオードD5で短絡故障が生じていると判断し、Ispc(w)及びIspe(w)がゼロである場合には、スイッチング素子Q5及びダイオードD5は正常であると判断する。これにより、制御部90は、電流センサ11、12、31、32、51、52の検出電流に基づいて、スイッチング素子Q1、Q3、Q5及びダイオードD1,D3、D5の故障箇所を特定する。
【0040】
次に、下アーム回路20、40、60における故障箇所の検知制御について説明する。下アーム回路20、40、60で故障していると検知した場合には、スイッチング素子Q1、スイッチング素子Q3またはスイッチング素子Q5のいずれかの素子のゲート端子に検知パルスを印加して、下アーム回路20、40、60の回路内に含まれるスイッチング素子Q2、Q4、Q6の導通状態を検知し、スイッチング素子Q2、スイッチング素子Q4またはスイッチング素子Q6のいずれかの素子のゲート端子に検知パルスを印加して、下アーム回路20、40、60の回路内に含まれるダイオードD2、D4、D6の導通状態を検知する。スイッチング素子Q1、Q3、Q5への検知パルスの入力、及び、スイッチング素子Q2、Q4、Q6への検知パルスの入力は、U相から始まり、V相、W相に順に入力する。
【0041】
制御部90は、スイッチング素子Q1に検知パルスを印加している場合には、スイッチング素子Q2の短絡故障を検知し、スイッチング素子Q2に検知パルスを印加している場合には、ダイオードD2の短絡故障を検知する。また制御部90は、スイッチング素子Q3及びスイッチング素子Q5にそれぞれ検知パルスを印加している場合にはスイッチング素子Q4及びスイッチング素子Q6の短絡故障をそれぞれ検知し、スイッチング素子Q4及びスイッチング素子Q6にそれぞれ検知パルスを印加している場合にはダイオードD4及びダイオードD6の短絡故障をそれぞれ検知する。
【0042】
スイッチング素子Q2で短絡故障が生じている場合に、スイッチング素子Q1に検知パルスを印加すると、バッテリ101からの微少電流が、電源線Pからスイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2を通り、電源線Nへ流れ、電流センサ21が当該電流を検出する。そのため、制御部90は、Isne(u)がゼロでない場合には、スイッチング素子Q2で短絡故障が生じていると判断する。一方、Isne(u)がゼロである場合には、制御部90は、スイッチング素子Q2が正常であると判断し、検知していない他の相の下アーム回路40、60の故障検知、あるいは、ダイオードD2の故障検知に移行する。
【0043】
ダイオードD2で短絡故障が生じている場合に、スイッチング素子Q2に検知パルスを印加することで、モータ102からダイオードD1に還流電流が流れている状態からスイッチング素子Q2をターンオンさせると、還流ダイオードであるダイオードD1の順方向に流れていた電流が、リカバリ電流として逆方向に流れ出し、短絡しているダイオードD2とを通って電源線Nと下アーム回路20との接続点まで流れ、電流センサ12が当該リカバリ電流を検出する。そのため、制御部90は、Ispc(u)がゼロでない場合には、ダイオードD2で短絡故障が生じていると判断する。一方、Ispc(u)がゼロである場合には、制御部90は、ダイオードD2が正常であると判断し、検知していない他の相の下アーム回路40、60の故障検知に移行し、あるいは、スイッチング素子Q2の故障検知を行っていない場合にはスイッチング素子Q2の故障検知に移行する。
【0044】
下アーム回路40、60における短絡故障検知は、U相である下アーム回路20での検知方法と同様であり、制御部90は、スイッチング素子Q3に検知パルスを印加し、Isne(v)がゼロでない場合にはスイッチング素子Q4で短絡故障が生じていると判断し、スイッチング素子Q4に検知パルスを印加し、Ispc(v)がゼロでない場合にはダイオードD4で短絡故障が生じていると判断する。また、制御部90は、スイッチング素子Q5に検知パルスを印加し、Isne(w)がゼロでない場合にはスイッチング素子Q6で短絡故障が生じていると判断し、スイッチング素子Q6に検知パルスを印加し、Ispc(w)がゼロでない場合にはダイオードD6で短絡故障が生じていると判断する。これにより、制御部90は、電流センサ11、31、51、22、42、62の検出電圧に基づいて、スイッチング素子Q2、Q4、Q6及びダイオードD2、D4、D6の故障箇所を特定する。
【0045】
次に、図4〜図6を用いて、本例の制御部90における故障箇所検知の制御手順を説明する。図4は制御部90における故障箇所検知の制御手順を示すフローチャートであり、図5は制御部90における上アーム回路10、30、50の故障箇所検知の制御手順を示すフローチャートであり、図6は制御部90における下アーム回路20、40、60の故障箇所検知の制御手順を示すフローチャートである。なお、図5及び図6において、スイッチング素子Q1はU相で電源線P側のIGBTであるため、IGBT(UP)と称しており、他のスイッチング素子Q2〜Q6についても、同様に、IGBT(UN)、IGBT(VP)、IGBT(VN)、IGBT(WP)、IGBT(WN)と称している。またダイオードD1〜D6についても、同様に称している。
【0046】
ステップS1にて、本例のモータ制御システムは、制御部90を含む弱電系の制御回路を駆動させる。ステップS2にて、制御部90は、バッテリ101とインバータ100との間のリレースイッチ(図示しない)をオンにし、インバータ100とバッテリ101との間を導通させる。ステップS3にて、制御部90は、電圧センサ73の検出電圧(Vsnc)を検出する。ステップS4にて、制御部90は、Vsncが閾値電圧(Vpn)と等しいか否かを判断する。VsncがVpnと等しい場合には、図5に示す上アーム回路10、30、50の故障箇所の検知制御に遷る。
【0047】
一方、VsncがVpnと等しくない場合には、制御部90は、Vsncが閾値電圧(0(V))と等しいか否かを判断する(ステップS5)。Vsncが0(V)と等しい場合には、図6に示す下アーム回路20、40、60の故障箇所検知制御に遷る。一方、Vsncが0(V)と等しくない場合には、制御部90は、インバータ100に含まれる回路に短絡故障が生じていないと判断し、故障箇所の検知制御を終了する。
【0048】
次に、図5を用いて、上アーム回路10、30、50の故障箇所の検知制御の制御手順について説明する。ステップS401にて、制御部90は、駆動回路80を介して、スイッチング素子Q2に検知パルスを印加する。ステップS402にて、制御部90は電流センサ12の検出電流(Ispc(u))を検出する。ステップS403にて、制御部90はIspc(u)がゼロと等しいか否かを判断する。Ispc(u)がゼロと等しい場合には、ステップS409に遷る。
【0049】
一方、Ispc(u)がゼロと等しくない場合には、ステップS404にて、制御部90は電流センサ11の検出電流(Ispe(u))を検出する。ステップS405にて、制御部90はIspe(u)がゼロと等しいか否かを判断する。Ispe(u)がゼロと等しい場合には、ステップS408に遷る。
【0050】
一方、Ispe(u)がゼロと等しくない場合には、制御部90は、スイッチング素子Q1が短絡故障していると判断する(ステップS406)。そして、ステップS407にて、制御部90は、フェールセーフ制御処理として、インバータ100とバッテリ101との間のリレースイッチ(図示しない)をオフにし、ユーザに対して、短絡故障が生じている旨の通知を行い、本例の制御を終了する。なお、制御部90は短絡故障を通知する際に、特定した故障箇所が分かるように通知してもよい。
【0051】
ステップS405に戻り、Ispc(u)がゼロと等しい場合には、制御部90は、ダイオードD1が短絡故障していると判断し(ステップS408)、ステップS407へ遷る。
【0052】
ステップS403に戻り、Ispc(u)がゼロと等しい場合には、ステップS409にて、制御部90は、駆動回路80を介して、スイッチング素子Q4に検知パルスを印加する。ステップS410にて、制御部90は電流センサ32の検出電流(Ispc(v))を検出する。ステップS411にて、制御部90はIspc(v)がゼロと等しいか否かを判断する。Ispc(v)がゼロと等しい場合には、ステップS416に遷る。
【0053】
一方、Ispc(v)がゼロと等しくない場合には、ステップS412にて、制御部90は電流センサ31の検出電流(Ispe(v))を検出する。ステップS413にて、制御部90はIspe(v)がゼロと等しいか否かを判断する。Ispe(v)がゼロと等しい場合には、ステップS415に遷る。
【0054】
一方、Ispe(v)がゼロと等しくない場合には、制御部90は、スイッチング素子Q3が短絡故障していると判断し(ステップS414)、ステップS407に遷る。
【0055】
ステップS413に戻り、Ispe(v)がゼロと等しい場合には、制御部90は、ダイオードD3が短絡故障していると判断し(ステップS415)、ステップS407へ遷る。
【0056】
ステップS411に戻り、Ispc(v)がゼロと等しい場合には、ステップS416にて、制御部90は、駆動回路80を介して、スイッチング素子Q6に検知パルスを印加する。ステップS417にて、制御部90は電流センサ51の検出電流(Ispe(w))を検出する。ステップS418にて、制御部90はIspe(w)がゼロと等しいか否かを判断する。Ispe(w)がゼロと等しい場合には、ステップS420に遷る。
【0057】
一方、Ispe(w)がゼロと等しくない場合には、制御部90は、スイッチング素子Q5が短絡故障していると判断し(ステップS419)、ステップS407に遷る。
【0058】
ステップS418に戻り、Ispe(w)がゼロと等しい場合には、制御部90は、ダイオードD5が短絡故障していると判断し(ステップS420)、ステップS407へ遷る。
【0059】
次に、図6を用いて、下アーム回路20、40、60の故障箇所の検知制御の制御手順について説明する。ステップS501にて、制御部90は、駆動回路80を介して、スイッチング素子Q1に検知パルスを印加する。ステップS502にて、制御部90は電流センサ21の検出電流(Isne(u))を検出する。ステップS503にて、制御部90はIsne(u)がゼロと等しいか否かを判断する。Isne(u)がゼロと等しい場合には、ステップS506に遷る。
【0060】
一方、Isne(u)がゼロと等しくない場合には、制御部90はスイッチング素子Q2が短絡故障していると判断する(ステップS504)。そして、ステップS507にて、制御部90はフェールセーフ制御処理を行い、本例の制御を終了する。
【0061】
ステップS503に戻り、Isne(u)がゼロと等しい場合には、ステップS506にて、制御部90は、駆動回路80を介して、スイッチング素子Q3に検知パルスを印加する。ステップS507にて、制御部90は電流センサ41の検出電流(Isne(v))を検出する。ステップS508にて、制御部90はIsne(v)がゼロと等しいか否かを判断する。Isne(v)がゼロと等しい場合には、ステップS510に遷る。
【0062】
一方、Isne(v)がゼロと等しくない場合には、制御部90はスイッチング素子Q4が短絡故障していると判断し(ステップS509)、ステップS505に遷る。
【0063】
ステップS508に戻り、Isne(v)がゼロと等しい場合には、ステップS510にて、制御部90は、駆動回路80を介して、スイッチング素子Q5に検知パルスを印加する。ステップS511にて、制御部90は電流センサ61の検出電流(Isne(w))を検出する。ステップS512にて、制御部90はIsne(w)がゼロと等しいか否かを判断する。Isne(w)がゼロと等しい場合には、ステップS514に遷る。
【0064】
一方、Isne(w)がゼロと等しくない場合には、制御部90はスイッチング素子Q6が短絡故障していると判断し(ステップS513)、ステップS505に遷る。
【0065】
ステップS512に戻り、Isne(w)がゼロと等しい場合には、ステップS514にて、制御部90は、駆動回路80を介して、スイッチング素子Q2に検知パルスを印加する。ステップS515にて、制御部90は電流センサ12の検出電流(Ispc(u))を検出する。ステップS516にて、制御部90はIspc(u)がゼロと等しいか否かを判断する。Ispc(u)がゼロと等しい場合には、ステップS518に遷る。
【0066】
一方、Ispc(u)がゼロと等しくない場合には、制御部90はダイオードD2が短絡故障していると判断し(ステップS517)、ステップS505に遷る。
【0067】
ステップS516に戻り、Ispc(u)がゼロと等しい場合には、ステップS518にて、制御部90は、駆動回路80を介して、スイッチング素子Q4に検知パルスを印加する。ステップS519にて、制御部90は電流センサ32の検出電流(Ispc(v))を検出する。ステップS520にて、制御部90はIspc(v)がゼロと等しいか否かを判断する。Ispc(v)がゼロと等しい場合には、ステップS522に遷る。
【0068】
一方、Ispc(v)がゼロと等しくない場合には、制御部90はダイオードD4が短絡故障していると判断し(ステップS517)、ステップS505に遷る。ステップS520に戻り、Ispc(v)がゼロと等しい場合には、制御部90は残りのダイオードD6が短絡故障していると判断し(ステップS522)、ステップS505に遷る。
【0069】
上記のように、本例は、正極側スイッチング素子Q1、Q3、Q5の低電位側端子と、正極側ダイオードD1、D3、D5のアノード端子との接続点よりもスイッチング素子Q1、Q3、Q5側に電流センサ11、31、51を接続し、負極側スイッチング素子Q2、Q4、Q6の低電位側端子と、負極側ダイオードD2、D4、D6のアノード端子との接続点よりもスイッチング素子Q2、Q4、Q6側に電流センサ21、41、61を接続する。これにより、スイッチング素子Q1〜Q6及びダイオードD1〜D6の故障箇所を流れる電流の経路によって、電流センサ11、21、31、41、51、61の検出値が異なるため、検出値のパターン応じて、インバータ100の回路における短絡故障の箇所を特定することができる。
【0070】
また本例は、上アーム回路10、30、50と下アーム回路20、40、60との間に、電源線PN間の中間電位を検出する電圧センサ73を接続する。これにより、電圧センサ73の検出電圧から、上アーム回路10、30、50と下アーム回路20、40、60のどちらで短絡故障が生じているか判断することができる。また、スイッチング素子Q1〜Q6に検知パルスを印加する前に、上アーム回路10、30、50と下アーム回路20、40、60のどちらで短絡故障が生じているか判断することができるため、具体的に、スイッチング素子Q1〜Q6及びダイオードD1〜D6のどの素子で短絡故障が生じているか特定する際の制御ステップを減少させることができ、その結果として、故障箇所の特定するための時間を短縮化させることができる。また、上アーム回路10、30、50と下アーム回路20、40、60のどちらで短絡故障が生じているか特定することができれば、スイッチング素子Q1〜Q6の故障箇所を流れる電流の経路によって、電流センサ11、21、31、41、51、61の検出値が異なるため、検出値のパターン応じて、少なくともスイッチング素子Q1〜Q6のどの素子で短絡故障が生じているか特定することができる。
【0071】
また本例は、電源線Pと、正極側スイッチング素子Q1、Q3、Q5の高電位側端子であるコレクタ端子及び正極側ダイオードD1、D3、D5のカソード端子との間に、電流センサ12、32、52を接続する。これにより、スイッチング素子Q1〜Q6及びダイオードD1〜D6の故障箇所を流れる電流の経路によって、電流センサ11、12、21、31、32、41、51、52、61の検出値が異なるため、検出値のパターン応じて、スイッチング素子Q1〜Q6及びダイオードD1〜D6のどの素子で短絡故障が生じているか特定することができる。
【0072】
また本例において、制御部90は、電圧センサ73の検出電圧から上アーム回路10、30、50が故障していると判断した時には、スイッチング素子Q2、Q4、Q6に検知パルスを印加して、電流センサ11、31、51の検出電流に基づいて、上アーム回路10、30、50の故障箇所を特定する。これにより、スイッチング素子Q1、Q3、Q5及びダイオードD1、D3、D5のどの素子で短絡故障が生じているか特定することができる。
【0073】
また本例において、制御部90は、電流センサ11、21、31、41、51、61の検出電流及び電圧センサ73の検出電圧に基づいて、インバータ100の中から故障したスイッチング素子Q1〜Q6を特定する。これにより、スイッチング素子Q1〜Q6のうち、どの素子で短絡故障が生じているか特定することができる。
【0074】
また本例において、制御部90は、電流センサ11、12、21、31、32、41、51、52、61の検出電流及び電圧センサ73の検出電圧に基づいて、インバータ100の中から故障したスイッチング素子Q1〜Q6及びダイオードD1〜D6を特定する。これにより、スイッチング素子Q1〜Q6及びダイオードD1〜D6のうち、どの素子で短絡故障が生じているか特定することができる。
【0075】
また本例において、制御部90は、モータ102を制御する前に、スイッチング素子Q1〜Q6に検知パルスを印加して、故障箇所を特定する。これにより、モータ102のモータ制御、当該モータ制御のための電力変換を行う制御の前に故障検知を行うことによって、短絡故障が起きているものに対して、安全に検査し、その後のフェール動作へ移行させることができる。
【0076】
また本例において、制御部90は検知パルスを、スイッチング素子Q1〜Q6が発熱する時間より短い時間、スイッチング素子Q1〜Q6の制御端子であるゲート端子に印加する。これにより、スイッチング素子Q1〜Q6の保護を図ることができる。
【0077】
なお、電圧センサ73は、上アーム回路30と下アーム回路40との間、または、上アーム回路50と下アーム回路60との間に接続してもよい。また電圧センサ73の基準電位は、必ずしも負極側の電位とする必要はなく、弱電のグランドを基準電位としてもよい。また本例は閾値電圧をVpnにしたが、Vpnより低い電圧を閾値としてもよい。本例は閾値電圧を0(V)にしたが、0(V)より高い電圧を閾値としてもよい。
【0078】
なお、本例において、インバータ100は3相の変換回路としたが必ずしも3相にする必要はなく、多相であってもよい。また本例は、上アーム回路10及び下アーム回路20のみの直列回路に適用することもできる。すなわち、例えば、電圧センサ73の検出電圧に基づき、上アーム回路10あるいは下アーム回路20のどちらで短絡故障が生じているか否かを判断する。そして、例えば上アーム回路10で短絡故障が生じていることが特定された場合には、制御部90はスイッチング素子Q2に検知パルスを印加して、電流センサ11の電流を検出する。Ispe(u)がゼロでない場合には、オフであるはずのスイッチング素子Q1が導通していることになるから、スイッチング素子Q1で短絡故障が生じていると判断する。一方、Ispe(u)がゼロである場合には、短絡故障を特定した上アーム回路10の回路素子のうち残りの素子であるダイオードD1で短絡故障していると判断する。下アーム回路20の短絡故障の特定方法は、上アーム回路10の方法と基本的に同じであり、スイッチング素子Q1に検知パルスを印加して、電流センサ21の検出電流に基づいて、短絡箇所を特定すればよい。
【0079】
また本例において、電流センサ12、32、52を接続しなくても、少なくともスイッチング素子Q1〜Q6のうち、どのスイッチング素子で故障が生じているかを特定することができる。すなわち、例えば、電圧センサ73の検出電圧に基づいて上アーム回路10、30、50あるいは下アーム回路20、40、60のどちらで短絡故障が生じているか否かを判断する。そして、例えば上アーム回路10、30、50で短絡故障が生じていることが特定された場合には、制御部90はスイッチング素子Q2に検知パルスを印加して、電流センサ11の電流を検出する。Ispe(u)がゼロでない場合には、スイッチング素子Q1で短絡故障が生じていると判断する。一方、Ispe(u)がゼロである場合には、スイッチング素子Q1が正常であることが検知されるため、制御部9は、他の相であるV相、W相のスイッチング素子Q3、Q5について、同様な短絡箇所の検知制御を行えばよい。下アーム回路20、40、60の短絡故障の特定方法は、上アーム回路10、30、50の方法と基本的に同じであり、スイッチング素子Q1、Q3、Q5に検知パルスを印加して、電流センサ21、41、61の検出電流に基づいて、短絡箇所を特定すればよい。
【0080】
なお、本例は、図7に示すように、電圧センサ73の代わりに電流センサ74を、上アーム回路10及び下アーム回路20の直列回路とモータ102のU相入力部との接続点と、スイッチング素子Q2のコレクタ端及びダイオードD2のカノード端子の接続点との間に接続してよく、電流センサ74はモータ102のU相入力部から下アーム回路20に流れる電流を検出するセンサである。図7は、本発明の変形例に係る電力変換装置を含むモータ制御システムのブロック図である。
【0081】
例えば、スイッチング素子Q1またはダイオードD1で短絡故障している場合には、制御部90がスイッチングQ2に検知パルスを印加することで、微小電流が、短絡故障の上アーム回路10及びスイッチング素子Q2を流れるため、電流センサ74及び電流センサ21は当該電流を検出する。また、スイッチング素子Q3またはダイオードD3、あるいは、スイッチング素子Q5またはダイオードD5で短絡故障している場合には、制御部90がスイッチングQ2に検知パルスを印加することで、微小電流が、短絡故障の上アーム回路30又は上アーム回路50を通り、モータ102を介して、スイッチング素子Q2を流れるため、電流センサ74及び電流センサ21は当該電流を検出する。
【0082】
下アーム回路20、40、60で短絡故障が生じているか否かを検出する場合には、スイッチング素子Q1に検知パルスを印加し、電流センサ11及び電流センサ12の検出電流に基づき、判断すればよい。すなわち、例えば下アーム回路20で短絡故障が生じている場合には、制御部90がスイッチングQ1に検知パルスを印加することで、スイッチング素子Q1及び短絡故障の下アーム回路20を流れるため、電流センサ11及び電流センサ12は当該電流を検出する。また、スイッチング素子Q2またはダイオードD2、あるいは、スイッチング素子Q4またはダイオードD6で短絡故障している場合には、制御部90がスイッチングQ1に検知パルスを印加することで、微小電流が、スイッチング素子Q1を通り、モータを介して、短絡故障の下アーム回路40又は上アーム回路60を流れるため、電流センサ11及び電流センサ12は当該電流を検出する。
【0083】
これにより、本例は、電流センサ74の検出電流と、電流センサ11、12の検出電流に基づいて、上アーム回路10、30、50及び下アーム回路20、40、60のどちらで短絡故障が生じているか特定することができる。そして、上アーム回路10、30、50及び下アーム回路20、40、60のいずれの回路が故障したか特定した後は、図5に示す検知制御処理及び図6に示す検知制御処理をそれぞれ行うことで、スイッチング素子Q1〜Q6及びダイオードD1〜D6のどの素子で短絡故障が生じているか特定することができる。なお、図7に示す回路において、下アーム回路20、40、60の故障を特定する場合には、電流センサ31、32又は電流センサ51、52の検出電流に基づいて特定してもよい。
【0084】
なお、本例の電流センサ11、31、51が本発明の「第1の電流検出手段」に相当し、電流センサ12、32、52が「第2の電流検出手段」に、電流センサ21、41、61が「第3の電流検出手段」に、電圧センサ73が「電圧検出手段」に、電流センサ74が「第4の電流検出手段」に、制御部90が「故障検出手段」及び「故障特定手段」に、インバータ100の回路が「変換回路」に相当する。
【符号の説明】
【0085】
100…インバータ
10、30、50…上アーム回路
20、40、60…下アーム回路
Q1〜Q6…スイッチング素子
D1〜D6…ダイオード
11、12、21、31、32、41、51、52、61、74…電流センサ
71…平滑コンデンサ
72…放電抵抗
73…電圧センサ
80…駆動回路
90…制御部
101…バッテリ
102…モータ
P、N…電源線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源の正負両端にそれぞれ接続される電源線の間に、接続されたスイッチング素子と、
前記スイッチング素子の順方向導通時に流れる電流の向きと逆方向で、前記スイッチング素子と並列に接続されたダイオードと、
前記スイッチング素子の低電位側端子と、前記ダイオードのアノード端子との接続点よりも前記スイッチング素子側に接続され、電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段によって検出された検出電流に基づいて前記スイッチング素子の故障を検出する故障検出手段と、を備える
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記スイッチング素子は、
前記電源線の間に、直列接続された複数のスイッチング素子であり、
前記ダイオードは
前記複数のスイッチング素子にそれぞれ対応して接続された複数のダイオードであり、
前記電流検出手段は、
前記複数のスイッチング素子のうち正極側のスイッチング素子の低電位側端子と、前記複数のダイオードのうち正極側のダイオードのアノード端子との接続点よりも前記正極側のスイッチング素子側に接続され、電流を検出する第1の電流検出手段と、
前記複数のスイッチング素子のうち負極側のスイッチング素子の低電位側端子と、前記複数のダイオードのうち負極側のダイオードのアノード端子との接続点よりも前記負極側のスイッチング素子側に接続され、電流を検出する第2の電流検出手段とを有し、
前記故障検出手段は、
前記第1の電流検出手段によって検出された検出電流と、前記第2の電流検出手段によって検出された検出電流とに基づいて前記スイッチング素子の故障を検出する
ことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記正極側のスイッチング素子及び前記正極側のダイオードを含む上アーム回路と、前記負極側スイッチング素子及び前記負極側ダイオードを含む下アーム回路との間に接続され、前記両端の中間電位を検出する電圧検出手段をさらに備え、
前記故障検出手段は前記第1の電流検出手段によって検出された検出電流と前記第2の電流検出手段によって検出された検出電流及び電圧検出手段によって検出された検出電圧に基づいて前記スイッチング素子及びダイオードの故障を検出する
ことを特徴とする請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
正極側の前記電源線と、前記正極側のスイッチング素子の高電位側端子及び前記正極側のダイオードのカソード端子との間に接続され、電流を検出する第3の電流検出手段をさらに備え、
前記故障検出手段は前記第1の電流検出手段によって検出された検出電流と前記第2の電流検出手段によって検出された検出電流、前記第3の電流検出手段によって検出された検出電流及び電圧検出手段によって検出された検出電圧に基づいて前記スイッチング素子及びダイオードの故障を検出する
ことを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記正極側のダイオードのアノード端子と、前記負極側スイッチング素子の高電位側端子及び前記負極側ダイオードのカソード端子との間に接続され、電流を検出する第4の電流検出手段をさらに備え、
前記故障検出手段は前記第1の電流検出手段によって検出された検出電流と前記第2の電流検出手段によって検出された検出電流、前記第4の電流検出手段によって検出された検出電流及び電圧検出手段によって検出された検出電圧に基づいて前記スイッチング素子及びダイオードの故障を検出する
ことを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項6】
正極側の前記電源線と、前記正極側のスイッチング素子の高電位側端子及び前記正極側のダイオードのカソード端子との間に接続され、電流を検出する第3の電流検出手段と、
前記正極側のダイオードのアノード端子と、前記負極側スイッチング素子の高電位側端子及び前記負極側ダイオードのカソード端子との間に接続され、電流を検出する第4の電流検出手段とをさらに備え、
前記故障検出手段は前記第1の電流検出手段によって検出された検出電流と前記第2の電流検出手段によって検出された検出電流、前記第3の電流検出手段によって検出された検出電流及び前記第4の電流検出手段によって検出された検出電流に基づいて前記スイッチング素子及びダイオードの故障を検出する
ことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記故障検出手段は、電力変換装置に含まれる回路の故障箇所を特定する故障特定手段をさらに備え、
前記故障特定手段は、
前記電圧検出手段の検出電圧から前記上アーム回路が故障している判断した時には、前記負極側スイッチング素子のオン及びオフを切り換える信号を前記負極側スイッチング素子に出力し、前記第1の電流検出手段により検出される検出電流に基づいて前記上アーム回路の故障箇所を特定する
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記電源線の間で、前記複数のスイッチング素子を並列に複数接続し、前記複数のダイオード、前記第1の電流検出手段及び前記第2の電流検出手段を、前記複数接続されたそれぞれのスイッチング素子と対応させて接続した多相の変換回路を備えると共に、
前記故障検出手段は、前記変換回路の故障箇所を特定する故障特定手段をさらに備え、
前記故障特定手段は、
前記第1の電流検出手段の検出電流、前記第2の電流検出手段の検出電流及び前記電圧検出手段の検出電圧に基づいて、前記変換回路に含まれる前記複数のスイッチング素子の中から、故障したスイッチング素子を特定する
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記電源線の間で、前記複数のスイッチング素子を並列に複数接続し、前記複数のダイオード、前記第1の電流検出手段、前記第2の電流検出手段、及び、前記第3の電流検出手段を、前記複数接続されたそれぞれのスイッチング素子と対応させて接続した多相の変換回路を備えると共に、
前記故障検出手段は前記変換回路の故障箇所を特定する故障特定手段をさらに備え、
前記故障特定手段は、
前記第1の電流検出手段の検出電流、前記第2の電流検出手段の検出電流、前記第3の電流検出手段の検出電流、及び、前記電圧検出手段の検出電圧に基づいて、前記変換回路に含まれる前記複数のスイッチング素子及び前記複数のダイオードの中から、故障したスイッチング素子及びダイオードを特定する
ことを特徴とする請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記電源線の間で、前記複数のスイッチング素子を並列に複数接続し、前記複数のダイオード、前記第1の電流検出手段、前記第2の電流検出手段、及び、前記第3の電流検出手段を、前記複数接続されたそれぞれのスイッチング素子と対応させて接続した多相の変換回路を備えると共に、
前記故障検出手段は、前記変換回路の故障箇所を特定する故障特定手段をさらに備え、
前記故障特定手段は、
前記第1の電流検出手段の検出電流、前記第2の電流検出手段の検出電流、前記第3の電流検出手段の検出電流、及び、前記第4の電流検出手段の検出電流に基づいて、前記変換回路に含まれる前記複数のスイッチング素子及び前記複数のダイオードの中から、故障したスイッチング素子及びダイオードを特定する
ことを特徴とする請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記複数のスイッチング素子の間の接続点に接続されるモータ備えるとともに、
前記故障検出手段は、電力変換装置に含まれる回路の故障箇所を特定する故障特定手段をさらに備え、
前記故障特定手段は、
前記モータが制御される前に、前記スイッチング素子のオン及びオフを切り換える信号を前記スイッチング素子に印加して、前記故障箇所を特定する
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記故障検出手段は、電力変換装置に含まれる回路の故障箇所を特定する故障特定手段とをさらに備え、
前記故障特定手段は、
前記故障箇所を特定するために前記スイッチング素子のオン及びオフを切り換える信号を、前記スイッチング素子が発熱する時間より短い時間、前記スイッチング素子の制御端子に印加する
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−99187(P2013−99187A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241996(P2011−241996)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】