説明

電動ディスクブレーキ

【課題】電動ディスクブレーキにおいて、ピストンの軸回りの回り止めを確実に行い、また、ピストンのシールを容易に交換可能とする。
【解決手段】電動モータ16により、差動減速機構11を介してボールランプ機構10の回転ディスク13を回転させて、直動ディスク14を前進させ、ピストン9によってブレーキパッド3A、3BをディスクロータDに押付けて制動力を発生させる。キャリパ本体4にスリーブ24を取付け、スリーブ24にピストン9を挿入する。キャリパ本体4の案内部23と、スリーブ24のボール案内溝28と、ピストン9のボール溝32との間にボール33を装填し、ボール33の転動によってピストン9を軸方向に沿って移動可能に支持し、また、軸回りに回り止めする。スリーブ24をキャリパ本体5から取外すことにより、ダストシール37及びピストンシール38を容易に交換することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータによってブレーキパッドをディスクロータに押圧して制動力を発生させる電動ディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動ディスクブレーキとして、電動モータのロータの回転運動をボールねじ機構、ボールランプ機構等の回転−直動変換機構を用いてピストンの直線運動に変換し、ピストンによってブレーキパッドをディスクロータに押圧させることにより、制動力を発生させるものが知られている。電動ディスクブレーキは、運転者によるブレーキペダルの作動量(踏力又は変位量)をセンサによって検出し、制御装置によって、この検出値に基づいて電動モータの回転を制御することより、所望の制動力を発生させる。そして、例えば特許文献1には、回転−直動変換機構としてボールランプ機構を用いた電動ディスクブレーキが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−89029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転−直動変換機構を備えた電動ディスクブレーキでは、ピストンを推進する回転−直動変換機構の直動部材、例えば上記特許文献1のものではボールランプ機構の直動ディスクをピストンと共に軸回りの回転に対して回り止めを行なっている。このとき、特許文献1に記載されたものでは、直動ディスクをピストンに対して固定し、ピストンの前端部に取付けたピンをブレーキパッドの裏板に形成された凹部に係合することによって、これらの回り止めを行なっている。
【0005】
ところが、上記特許文献1におけるピストンの回り止め構造では、電動ディスクブレーキのメンテナンス作業時等において、ピストンを大きく後退させると、ピストンのピンがブレーキパッドの裏板の凹部から外れてしまう。
【0006】
本発明は、ピストンの作動位置によらずにピストンの軸回りの回り止めを行うことができる電動ディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、キャリパ本体の内部に、電動モータと、該電動モータの回転を直線運動に変換する回転−直動変換機構と、該回転−直動変換機構によってキャリパ本体内を移動して、ブレーキパッドをディスクロータに押圧するピストンとを備えた電動ディスクブレーキにおいて、
前記キャリパ本体に、前記ピストンが挿入される円筒状のスリーブを取付け、前記ピストンの外周面及び前記スリーブの内周面に互いに対向して軸方向に沿って延びる案内溝を形成し、前記案内溝に係合部材を装填して、前記スリーブと前記ピストンとを軸方向に移動可能かつ軸回りの回転を阻止するように支持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電動ディスクブレーキによれば、ピストンの作動位置によらずにピストンの軸回りの回り止めを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動ディスクブレーキの縦断面図である。
【図2】図1の電動ディスクブレーキのピストン案内部分のA−A線による縦断面である。
【図3】図1ピストン及びスリーブの斜視図である。
【図4】図1に示す電動ディスクブレーキのスリーブの側面図である。
【図5】図1に示す電動ディスクブレーキのスリーブの正面図である。
【図6】図1に示す電動ディスクブレーキのピストンの側面図である。
【図7】図1に示す電動ディスクブレーキにおいて、ブレーキパッドが摩耗した状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る電動ディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型ディスクブレーキであって、車輪と共に回転するディスクロータDと、サスペンション部材等の車体側の非回転部分(図示せず)に固定されるキャリア2と、ディスクロータDの両側に配置されてキャリア2によって支持される一対のブレーキパッド3A、3Bと、ディスクロータDを跨ぐように配置されてキャリア2に対してディスクロータDの軸方向に沿って移動可能に支持されたキャリパ本体4とを備えている。
【0011】
キャリパ本体4には、ディスクロータDの一側に対向して開口する貫通穴を有する円筒状のシリンダ部5及びシリンダ部5からディスクロータDを跨いで反対側へ延びる爪部6が一体的に形成されている。キャリパ本体4のシリンダ部5内には、ピストンユニット7及びモータ/制御装置ユニット8が設けられている。
【0012】
ピストンユニット7は、シリンダ部5に挿入されて軸方向に沿って移動可能に案内される有底円筒状のピストン9と、ピストン9の内部に収容された回転−直動変換機構であるボールランプ機構10及び差動減速機構11と、パッド摩耗補償機構12とを一体化したものである。
【0013】
ボールランプ機構10は、回転ディスク13及び直動ディスク14の傾斜溝間に鋼球であるボール15が介装されており、回転ディスク13と直動ディスク14とを相対回転させることにより、傾斜溝間でボール15が転動して、回転ディスク13と直動ディスク14とを回転角度に応じて軸方向に相対移動させる。これにより、回転運動を直線運動に変換する。なお、本実施形態においては、回転−直動変換機構をボールランプ機構10としているが、ボールネジ機構やローラランプ機構、精密ローラネジ機構等としてもよい。
【0014】
差動減速機構11は、ボールランプ機構10と、モータ/制御装置ユニット8の電動モータ16との間に介装され、電動モータ16のロータ17の回転を所定の減速比で減速してボールランプ機構10の回転ディスク13に伝達する。パッド摩耗補償機構12は、ブレーキパッド3A、3Bの摩耗(ディスクロータDとの接触位置の変化)に対して、電動モータ16の回転時に調整スクリュ18を回転させて前進させ、ピストンユニット7を追従させるようになっている。
【0015】
モータ/制御装置ユニット8には、電動モータ16、電動モータ16の回転位置を検出するレゾルバ19、電動モータ16のロータ17の回転位置を保持するための駐車ブレーキ機構21及び電動モータ16及び駐車ブレーキ機構21の作動を制御する制御装置22が一体的に組込まれている。そして、制御装置22により、運転者によるブレーキペダルの操作、あるいは、トラクション制御、車両安定化制御等の自動ブレーキ制御を実行するために車両に搭載された車載コントローラ(図示せず)から指令された制動力信号及びレゾルバ19からの回転位置信号に基づいて、電動モータ16のステータ20のコイルに制御電流を供給してロータ17の回転を制御する。また、運転者による駐車ブレーキの操作により、駐車ブレーキ機構21を作動させる。
【0016】
次に、本実施形態の要部である、シリンダ部5のピストン9の案内部の構造について、更に図2乃至図6を参照して説明する。
シリンダ部5のディスクロータD側の開口部には、大径のボール案内部23が形成され、ボール案内部23には、円筒状のスリーブ24が嵌合されている。スリーブ24は、円筒部25の軸方向の一端部よりの部位に外側フランジ26が形成され、外側フランジ部26の直径方向両側に延びる耳部に一対のボルト穴27が貫通されている。円筒部25には、円筒部25を径方向に貫通し、軸方向に沿って延びるボール案内溝28(案内溝)が周方向に等間隔で複数(図示の例では5つ)形成されている。スリーブ24の外側フランジ26に対してボール案内溝28とは反対側の端部には、外周溝29が形成されている。
【0017】
スリーブ24は、円筒部25をボール案内部23内に嵌合し、外側フランジ部26をボール案内部23の開口縁部に当接した状態で、ボルト穴27にボルト(図示せず)を挿入してキャリパ本体4にネジ込むことによって固定されている。ボール案内部23とスリーブ24の円筒部25との間は、ボール案内部23の開口縁部に設けられたOリング30によってシールされている。
【0018】
ピストン9は、その開口端側が拡径されて、スリーブ24の円筒部25内に嵌合する案内部31が形成されている。案内部31には、スリーブ24のボール案内溝28に対向して、これと同数のボール溝32が案内溝として形成されている。そして、キャリパ本体4のボール案内部23と、各スリーブ24のボール案内溝28と、ピストン9のボール溝32との間に、係合部材であるボール33(鋼球)が装填されている。ボール33は、ボール案内部23、ボール案内溝28及びボール溝32に接触しながら転動し、スリーブ24に対して、ピストン9を軸方向に沿って移動可能に支持すると共に、ピストン9の軸回りの回転を阻止している。なお、ピストン9の底部と、ピストン9の内部に挿入されたボールランプ機構10の直動部材14とは、凹凸嵌合によって軸回りに相対回転しないように、互いに固定されている。
【0019】
ボール溝32は、案内部31上において、ピストン9の底部側の端部から開口端部付近まで延ばされている。ピストン9の円筒部には、ボール溝32の端部に隣接する部位にスナップリング34が取付けられており、キャリパ本体5からスリーブ24を取外した状態でも、ボール33が脱落することなく、ボール溝32内で保持されるようになっている。ボール案内溝28及びボール溝32の軸方向長さは、ピストン9の最大ストローク、すなわち、ピストン9が図1に示す最も後退した位置から図7に示す最も前進した位置(なお、図7は、ブレーキパッド3A、3Bが摩耗して、その残量が0の状態を示している。)との間の移動距離の1/2以上となっている。
【0020】
ピストン9の底部の側壁に外周溝36が形成され、この外周溝36及びスリーブ24の先端部の外周溝29に、ゴム又は合成樹脂等の可撓性を有する蛇腹状のシール部材であるダストシール37が嵌合して、スリーブ24とピストン9との間をシールしている。また、スリーブ12の先端部に形成された内周溝にリップシール38が装着され、このリップシール38のリップ部をピストン9の外周面に摺動可能に接触させることにより、ダストシール37の内側において、これらの間をシールしている。
【0021】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
運転者によるブレーキ操作に基づいて、制御装置22によって電動モータ16に制御電流を供給してロータ17を回転させる。ロータ17の回転は、差動減速機構11によって所定の減速比で減速され、ボールランプ機構10の回転ディスク13を回転させる。ボールランプ機構10では、回転ディスク13の回転を直動部材14の直線運動に変換してピストン9を前進させる。ピストン9の前進により、一方のブレーキパッド3BがディスクロータDに押圧され、その反力によってキャリパ本体4が移動して、爪部6が他方のブレーキパッド3AをディスクロータDに押圧して制動力を発生させる。ブレーキパッド3A、3Bが摩耗した場合には、制動時にパッド摩耗補償機構12によって、摩耗量に応じて調整スクリュ18を回転させて前進させ、これにより、ボールランプ機構10を摩耗に追従して前進させて摩耗を補償する。
【0022】
また、車載の制御装置によって、車輪速センサ、傾斜センサ、アクセルセンサ等の各種センサ(図示せず)を用いて、各車輪の回転速度、車両速度、車両加速度、操舵角、車両横加速度、車体の傾斜、アクセルペダルの踏込み量等の車両状態を検出し、これらの検出に基づいて電動モータ16の回転を制御することにより、倍力制御、アンチロック制御、トラクション制御、車両安定化制御、坂道発進補助制御等を実行する。
【0023】
ピストン9は、キャリパ本体4のボール案内部23と、各スリーブ24のボール案内溝28と、ピストン9のボール溝32との間に装填されたボール33によって径方向に位置決めされた状態で支持され、ボール33の転動により、軸方向に沿って円滑に移動することができ、また、ピストン9の作動位置によらずに軸回りの回転が確実に阻止される。このようにして、軸回りの回転が阻止されたピストン9によってボールランプ機構10の直動部材14の回り止めを確実に行うことができる。これにより、ブレーキパッド3Bに電動モータ16の回転力が作用することがない。したがって、従来の電動ディスクブレーキのように、ピンを介してブレーキパッドに回転力が伝達されることがなく、ピンからの荷重でブレーキ鳴き等の原因となる虞がなくなる。また、ボール33を用いているので、組み付けの際の方向性の懸念等がなく、容易に組み付けを行なうことができる。
【0024】
ここで、一般的に電動ディスクブレーキにおいては、ピストンとピストンを案内するキャリパとの間に、これらの摺動部への水分及び異物の侵入を防止するため、シール部材が設けられている。例えば上記特許文献1のものでは、シール性を高めるために2重構造のシールが設けられている。このシールは、破損又は劣化した場合、交換する必要があるので、容易に交換可能であることが望ましい。このとき、特に、上記特許文献1のもののように、2重構造のシールは、内側のシールの交換が困難である場合が多く、問題となっている。
【0025】
そこで、本実施形態の電動ディスクブレーキ1のメンテナンスにおいて、ダストシール37及びピストンシール38を交換する場合について説明する。
先ず、電動モータ18を回転させてピストン9を図1に示す初期位置まで後退させる。そして、ボルトを外してスリーブ24をダストシール37と共にキャリパ本体4及びピストン9から取外す。このとき、ボール33は、スナップリング34によってピストン9のボール溝32内で保持されるので、キャリパ本体4から脱落することがない。このようにして、スリーブ24をキャリパ本体4から取外すことにより、ダストシール37及びピストンシール38を容易に交換することができる。ダストシール37及びピストンシール38を交換した後、ボール33がスリーブ23のボール案内溝28に挿入されるように、スリーブ24をキャリパ本体4の案内部23に挿入し、外側フランジ26をキャリパ本体4に当接させ、ボルトをネジ込むことによって、スリーブ24をキャリパ本体4に取付ける。このようにして、ピストンユニット7及びモータ/制御装置ユニット8をキャリパ本体4から取外すことなく、ダストシール37及びピストンシール38を容易に交換することができる。
【0026】
なお、上記実施形態では、スリーブ24のボール案内溝28は、円筒部25を径方向に貫通しているが、貫通しないものでもよい。この場合は、ピストン9のボール溝32を充分深くして、スリーブ24をキャリパ本体5から取外したとき、ボール33がピストン9のボール溝32から脱落しないようにする。また、スリーブ24をキャリパ本体5に取付ける際、ボール33がスリーブ24のボール案内溝28に容易に挿入されるように、ボール案内溝28の開口をテーパ状に形成するとよい。
【0027】
上記実施形態では、ボール33を転動体として、ピストン9を案内しているが、ローラ等の他の転動体を用いてもよい。また、ピストン9及びスリーブ24の溝内にボールの代わりに、転動体ではなく他の係合部材を摺動可能に装填して、ピストン9の移動可能に案内するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 電動ディスクブレーキ、3A、3B ブレーキパッド、5 キャリパ本体、9 ピストン、10 ボールランプ機構(回転−直動変換機構)、16 電動モータ、24 スリーブ、28 ボール案内溝(案内溝)、32 ボール溝(案内溝)、33 ボール(係合部材)、D ディスクロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパ本体の内部に、電動モータと、該電動モータの回転を直線運動に変換する回転−直動変換機構と、該回転−直動変換機構によってキャリパ本体内を移動して、ブレーキパッドをディスクロータに押圧するピストンとを備えた電動ディスクブレーキにおいて、
前記キャリパ本体に、前記ピストンが挿入される円筒状のスリーブを取付け、前記ピストンの外周面及び前記スリーブの内周面に互いに対向して軸方向に沿って延びる案内溝を形成し、前記案内溝に係合部材を装填して、前記スリーブと前記ピストンとを軸方向に移動可能かつ軸回りの回転を阻止するように支持したことを特徴とする電動ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記係合部材は、ボールであり、前記スリーブの案内溝は、前記スリーブを径方向に貫通していることを特徴とする請求項1に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記ピストンと前記スリーブとの間をシールするシール部材が設けられ、該シール部材は、一端部が前記スリーブに結合され、他端部が前記ピストンに結合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記シール部材の内側に、前記スリーブと前記ピストンとの間をシールするピストンシールが設けられていることを特徴とする請求項3に記載の電動ディスクブレーキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−255652(P2010−255652A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103007(P2009−103007)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】