説明

電動パワーステアリング装置

【課題】電動パワーステアリング装置において、ウォーム軸の噛み合い部分に適正な予圧を付与して騒音の発生を抑制すること。
【解決手段】第2の軸受23の周方向に離隔する複数箇所に付勢部材60によって付勢力を与える。付勢部材60は板ばねからなる。付勢部材60は片持ち状の弾性片からなる第1および第2の付勢部62,63をX字状に交差して有する。第2の軸受23の外輪27の外周を覆う弾性部材30を介して、ウォーム軸18の第2の端部18bを付勢する。ウォーム軸18の回転方向R1,R2に応じた方向にその回転方向R1,R2に応じた大きさの付勢力F1,F2を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータにより操舵補助力を発生する電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の電動パワーステアリング装置(EPS:Electric Power Steering System) には減速機が用いられている。例えばコラム型EPSでは、電動モータの出力軸の回転をウォーム軸およびウォームホイールを介して減速することで、電動モータの出力を増幅して舵取り機構に伝達し、ステアリング操作をトルクアシストするようにしている。
上記のウォーム軸とウォームホイールとの噛み合いには適度なバックラッシが必要であるが、例えば悪路を走行した場合、路面からの逆入力によりバックラッシに起因した歯打ち音(ラトル音)が発生することがある。
【0003】
歯打ち音が発生しないようにするためには、各部品の加工精度の範囲内でウォーム軸とウォームホイールとの間に生ずるバックラッシ量を厳密に調整しておく必要がある。従来、ウォーム軸およびウォームホイールを組み付けるときに、各部品を寸法精度のばらつき度合いに応じて選別し、互いの組合せ精度が適正になるもの同士を組み合わせるようにしている(いわゆるマッチング組立)が、この作業に非常に手間がかかり、製造コストが高くなっていた。
【0004】
また、マッチング組立により初期にはバックラッシが適切な範囲に設定されていたとしても、経時変化による歯部の摩耗等によりバックラッシが増大し、異音を発生するおそれがある。
そこで、ウォーム軸の一端を径方向ウォームホイール側に進退自在に支持し、付勢手段によってウォーム軸の一端を径方向ウォームホイール側に付勢することで、ウォーム軸およびウォームホイールの回転中心間の距離(いわゆる芯間距離)を自動的に調整してバックラッシをなくすことが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−43739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウォーム軸およびウォームホイールの歯の諸元からすると、実際にウォーム軸およびウォームホイールによって駆動が伝達されるときに、ウォーム軸がウォームホイールから受ける駆動反力の方向は、上記の付勢手段の付勢方向と異なっている。したがって、ウォーム軸およびウォームホイールの噛み合い部分に適正な予圧を負荷することができない。
また、ウォーム軸が正逆回転する場合に、その正方向への回転時と逆方向への回転時とでは、ウォーム軸がウォームホイールから受ける駆動反力の方向が異なる。これに対して、従来は、単一の付勢方向に付勢するのみであり、この点からも、噛み合い部分に適正な予圧を負荷することができない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、噛み合い部分に適正な予圧を付与することができ騒音の発生を抑制することができる電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、操舵補助用の電動モータの出力軸に連結されたウォーム軸、およびウォーム軸に噛み合うウォームホイールを含み、操舵機構に動力を伝達するための伝動装置と、ウォーム軸をウォーム軸とウォームホイールとの中心間距離を短くする方向に付勢する付勢手段とを備え、上記付勢手段は、ウォーム軸を支持する軸受の周方向に離隔する複数箇所に付勢力を与える板ばねを含むことを特徴とするものである。
【0008】
本発明では、軸受の周方向に離隔する複数箇所に付勢力を与えるので、ウォーム軸が正逆回転する場合において、その回転方向に応じた方向にその回転方向に応じた大きさの付勢力を付与することが可能となる。その結果、常に、噛み合い部分に適正な予圧を付与することができ、騒音の発生を抑制することができる。
また、本発明において、上記板ばねは、それぞれ上記軸受に付勢力を付与する第1および第2の付勢部を含み、第1および第2の付勢部の付勢力は互いに異なる場合がある。この場合、板ばねの各付勢部によって軸受を介してウォーム軸をその回転方向に応じた適正な方向へその回転方向に応じた適正な大きさの付勢力で付勢することが可能となる。
【0009】
また、本発明において、上記板ばねは、ベースと、ベースの一端および他端から傾斜状に延びてX字状に交差する一対の弾性片を含み、一対の弾性片によって上記第1および第2の付勢部が構成される場合がある。この場合、X字状に交差する一対の弾性片がたすき掛け状に軸受と接触してこれを弾性付勢することにより、軸受が上記の中心間距離を短くする方向以外の方向に変位することを効果的に抑制することができる。
【0010】
また、本発明において、上記中心間距離を短くする方向と交差する方向へ上記軸受が変位することを抑制する手段を備える場合がある。この場合、軸受が上記中心間距離を短くする方向と交差する方向に変位することを抑制することにより、ウォーム軸とウォームホイールの噛み合い予圧をより適正化することができる。
特に、上記抑制する手段は上記軸受の外周と軸受保持孔の内周との間に介在する弾性部材を含んでいれば、軸受が上記中心間距離を短くする方向と交差する方向に変位して打音を発生することを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態の電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結しているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結される中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されるピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン歯7aに噛み合うラック歯8aを有して自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラックバー8とを有している。ピニオン軸7およびラックバー8により、ラックアンドピニオン機構からなる操舵機構Aが構成されている。
【0012】
ラックバー8は車体に固定されるハウジング9内に図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラックバー8の両端部はハウジング9の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する操向用の車輪11に連結されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン歯7aおよびラック歯8aによって、自動車の左右方向に沿ってのラックバー8の直線運動に変換される。これにより、車輪11の転舵が達成される。
【0013】
ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連なる入力側のアッパーシャフト3aと、ピニオン軸7に連なる出力側のロアーシャフト3bとに分割されており、これらアッパーおよびロアーシャフト3a,3bはトーションバー12を介して同一の軸線上で相対回転可能に互いに連結されている。
トーションバー12を介するアッパーおよびロアーシャフト3a,3b間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ13が設けられており、このトルクセンサ13のトルク検出結果は、ECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)14に与えられる。ECU14では、トルク検出結果や図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、駆動回路15を介して操舵補助用の電動モータ16を駆動制御する。電動モータ16の出力回転が減速機17を介して減速されてピニオン軸7に伝達され、ラックバー8の直線運動に変換されて、操舵が補助される。
【0014】
減速機17は、電動モータ16により回転駆動されるウォーム軸18と、このウォーム軸18に噛み合うと共にステアリングシャフト3のロアーシャフト3bに一体回転可能に連結されるウォームホイール19を備える。
図2を参照して、ウォーム軸18は電動モータ16の出力軸20と同軸上に配置される。ウォーム軸18は、その軸長方向に離隔する第1および第2の端部18a,18bを有し、第1および第2の端部18a,18b間の中間部に歯部18cを有する。
【0015】
ウォームホイール19は、ステアリングシャフト3のロアーシャフト3bの軸方向中間部に一体回転可能に且つ軸方向移動不能に連結されている。ウォームホイール19は、ロアーシャフト3bに一体回転可能に結合される環状の芯金19aと、芯金19aの周囲を取り囲み外周に歯部19cを形成した合成樹脂部材19bとを備える。芯金19aは、例えば合成樹脂部材19bの樹脂成形時に金型内にインサートされるものである。
【0016】
ウォーム軸18の第1の端部18aと電動モータ16の出力軸20の対向端部とは、動力伝達継手21を介して同軸上に動力伝達可能に連結されている。
ウォーム軸18の第1および第2の端部18a,18bは、対応する第1および第2の軸受22,23をそれぞれ介して減速機17のハウジング17aに回転自在に支持されている。第1および第2の軸受22,23は例えば玉軸受からなる。
【0017】
第1および第2の軸受22,23の内輪24,25が、ウォーム軸18の第1および第2の端部18a,18bに一体回転可能に嵌合されている。各内輪24,25はそれぞれウォーム軸18の対応する互いに逆向きの位置決め段部18d,18eに当接している。第1および第2の軸受22,23の外輪26,27は、減速機17のハウジング17aの対応する軸受保持孔28,29に保持されている。
【0018】
第2の軸受23の外輪27の端面は、ハウジング17aの端壁17bに当接することで軸方向に位置決めされている。一方、第1の軸受22の外輪26は、対応する軸受保持孔28に連なるねじ孔35にねじ込まれた予圧調整用およびバックラッシ調整用のねじ部材36によって、ハウジング17aの位置決め段部17cに押し当てられて軸方向に位置決めされている。
【0019】
第2の軸受23のための軸受保持孔29は、ウォーム軸18とウォームホイール19の中心間距離D1(ウォーム軸18の回転中心C1とウォームホイールの回転中心C2との距離に相当)が長短する方向X1,X2に偏倚可能に保持することのできる孔に形成されている。
具体的には、図3に示すように、軸受保持孔29は第2の軸受23の外輪27の外径よりも所定量大きな内径を有する円孔に構成されている。したがって、軸受保持孔29と第2の軸受23との両者の関係のみでは、第2の軸受23は任意の径方向に変位可能となる。しかるに、その変位可能な方向を、外輪27の外周面に嵌め合わされた、抑制手段としての環状の弾性部材30によって上記の方向X1,X2に規制し、これにより、上記方向X1,X2と直交する方向Vへの第2の軸受23の変位を抑制するようにしている。
【0020】
すなわち、上記弾性部材30は、例えば合成樹脂からなる。弾性部材30は、環状をなす主体部31と、主体部31の外周面に形成されたリブ32,33とを備える。各リブ32,33は、主体部31の外周面から、上記中心間距離D1が長短する方向X1,X2と直交する方向Vに突出して軸受保持孔29の内周面に弾性的に接触している。各リブ32,33として、それぞれ1ないし複数が設けられる。例えば、第2の軸受23が軸受保持孔29と同心の位置にあるときに、リブ32,33が設けられていない主体部31の残りの部分と軸受保持孔29の内周面との間には隙間が設けられるようになっている。
【0021】
これにより、第2の軸受23および弾性部材30は、上記中心間距離D1が長短する方向X1,X2に沿って偏倚可能に軸受保持孔29により保持されることになる。また、リブ32,33は、第2の軸受23が上記方向X1,X2と交差する方向としての上記直交する方向Vへ変位することを抑制する。
そして、第2の軸受23は、付勢部材60によって弾性部材30を介して上記中心間距離D1が短くなる方向X2に弾性的に付勢されている。
【0022】
具体的には、ハウジング17aは軸受保持孔29の軸心と直交する方向に開放するねじ孔70を形成しており、そのねじ孔70にねじ部材71がねじ込まれている。このねじ部材71が上記の付勢部材60を保持する凹部からなる保持部72を有している。
図3および図4を参照して、付勢部材60は保持部72の底72aと第2の軸受23の外輪27を覆う弾性部材30との間に介在する板ばねからなる。その板ばねは、保持部72の底72aにより受けられる平板からなるベース61と、それぞれ第2の軸受23に付勢力F1,F2を付与する第1および第2の付勢部62,63とを含む。
【0023】
図3を参照して、保持部72はベース61の一端611および他端612をそれぞれ受ける内壁72b,72cを有している。これにより、保持部72は、ベース61が第2の軸受23の周方向に変位することを規制している。
図3および図4を参照して、第1および第2の付勢部62,63は、ベース61の一端611および他端612から傾斜状に延びてX字状に交差する一対の長尺の弾性片からなる。第1および第2の付勢部62,63は、ベース61によってそれぞれ片持ち支持されている。それぞれ弾性片からなる第1および第2の付勢部62,63は、第2の軸受23の周方向に離隔する複数箇所に弾性部材30を介して付勢力F1,F2を与えることになる。
【0024】
また、図4に示すように、第1の付勢部62を構成する弾性片は2本であり、第2の付勢部63を構成する弾性片は1本が設けられ、第2の付勢部63の弾性片が第1の付勢部62の2本の弾性片の間に入り込む態様をなして、第1および第2の付勢部62,63の弾性片が互いにX字状に交差している。第1および第2の付勢部62,63は、互いの弾性片の数を異ならせることにより、互いの付勢力F1,F2を異ならせている。互いの弾性片の長さや幅を異ならせることにより、互いの付勢力F1,F2を異ならせることもできる。
【0025】
図3に示すように、第1の付勢部62の付勢力F1は、ウォーム軸18が第1の回転方向R1に回転したときに、ウォーム軸18がウォームホイール19から受ける駆動反力の径方向成分G1の反対方向に上記径方向成分G1に抗する力として第2の軸受23を付勢する。
同様に、第2の付勢部63の付勢力F2は、ウォーム軸18が第2の回転方向R2に回転したときに、ウォーム軸18がウォームホイール19から受ける駆動反力の径方向成分G2の反対方向に上記径方向成分G2に抗する力として第2の軸受23を付勢する。
【0026】
各付勢部62,63を構成する弾性片がそれぞれ接触する弾性部材30の周方向位置は、弾性片の形状の変更等により、適宜に調整することができる。
次いで、図2、図2のV−V線に沿う断面図である図5および分解斜視図である図6を参照して、動力伝達継手21について詳述する。まず、図2を参照して、動力伝達継手21は、電動モータ16の出力軸20に一体回転可能に連結された第1の係合部材41と、減速機17の入力軸としてのウォーム軸18の第1の端部18aに一体回転可能に連結された第2の係合部材42と、第1および第2の係合部材41,42の間に介在し両係合部材41,42間にトルクを伝達する弾性部材43とを備える。第1および第2の係合部材41,42は例えば金属製である。弾性部材43は例えば合成ゴム製又はポリウレタン等の合成樹脂製である。
【0027】
次いで、図5および図6を参照して、弾性部材43は、環状をなす主体部44と、主体部44から放射方向に延びる複数の係合腕45とを含む。複数の係合腕45は主体部44の周方向Zに等間隔で配置される。各係合腕45はそれぞれ周方向Zに対向する一対の動力伝達面46を有している。
図6を参照して、第1および第2の係合部材41,42は、それぞれ出力軸20およびウォーム軸18を嵌合させるための嵌合孔49,50を形成する環状の主体部51,52と、主体部51,52の互いの対向面53,54にそれぞれ突出形成された複数の第1および第2の係合突起55,56とを備えている。
【0028】
第1および第2の係合部材41,42の第1および第2の係合突起55,56は、それぞれ対応する主体部51,52の周方向に等間隔に配置されている。
動力伝達継手21の組立状態で、図5に示すように、第1および第2の係合部材41,42の第1および第2の係合突起55,56が周方向に交互に配置され、周方向に相隣接する第1および第2の係合突起55,56間に、弾性部材43の対応する係合腕45が挟持される。換言すると、周方向に隣接する第1および第2の係合突起55,56が弾性部材43の対応する係合腕45を周方向に挟んで互いに噛み合わされる。
【0029】
また、図5および図6に示すように、第1および第2の係合突起55,56は、弾性部材43の対応する係合腕45の動力伝達面57,58をそれぞれ含む。
本実施の形態によれば、第2の軸受23の周方向に離隔する複数箇所に板ばねからなる付勢部材60によって付勢力を与えるので、ウォーム軸18が正逆回転する場合において、その回転方向R1,R2に応じた方向にその回転方向R1,R2に応じた大きさの付勢力F1,F2を付与することが可能となる。その結果、常に、噛み合い部分に適正な予圧を付与することができ、騒音の発生を抑制することができる。
【0030】
また、付勢部材60を構成する板ばねに第1および第2の付勢部62,63を設けると共に、これらの付勢部62,63の付勢力を互いに異ならせてあるので、各付勢部62,63によって、第2の軸受23を介してウォーム軸18をその回転方向R1,R2に応じた適正な方向へ、その回転方向に応じた適正な大きさの付勢力F1,F2で付勢することが可能となる。
【0031】
しかも、第1および第2の付勢部62,63をX字状に交差する一対の弾性片により構成した。したがって、X字状に交差する一対の弾性片がたすき掛け状に第2の軸受23と接触してこれを弾性付勢することにより、第2の軸受23が中心間距離D1を長短する方向X1,X2以外の方向に変位することを効果的に抑制することができる。
さらに、第2の軸受23と軸受保持孔29との間に介在する、リブ32,33付きの弾性部材30によって、第2の軸受23が中心間距離D1を長短する方向X1,X2以外の方向に変位することを抑制することにより、ウォーム軸18とウォームホイール19の噛み合い予圧をより適正化することができる。
【0032】
また、弾性部材30によって第2の軸受23と軸受保持孔29との間の打音の発生を防止することができる。特に、弾性部材30のリブ32,33によって打音の発生を確実に防止することができる。
次いで、図7は本発明の別の実施の形態を示している。図7を参照して、本実施の形態が図3の実施の形態と異なるのは、付勢部材60Aの第1および第2の付勢部62A,63Aを各1本の弾性片により構成した点、各弾性片の先端部に第2の軸受23の外輪27に沿う円弧状部64を形成した点である。
【0033】
また、弾性部材30を廃止し、円孔からなる軸受保持孔29の内周面に、互いの間に二面幅を形成する一対の平坦部291,292を設け、平坦部291,292によって、第2の軸受23が、中心間距離D1が長短する方向X1,X2と直交する方向Vへ変位することを抑制するようにした。
本実施の形態においても、図3の実施の形態と同様の作用効果を奏することができ、噛み合い部分に適正な予圧を付与することができると共に、騒音の発生を抑制することができる。
【0034】
次いで、図9Aは本発明のさらに別の実施の形態を示している。図9Aおよび図9Bを参照して、本実施の形態では、ウォーム軸18の第2の端部18bの端面に、例えば円錐状テーパ面からなる保持凹部18fが設けられ、この保持凹部18fに鋼製のボール80が保持されている。一方、ハウジング17aの端壁17bに形成した開口部17dに、合成樹脂製の蓋部材81が例えば圧入により固定されている。
【0035】
蓋部材81には、中心間距離D1が長短する方向X1,X2に沿って延びる案内溝82が形成されており、この案内溝82によってボール80が中心間距離D1が長短する方向X1,X2に沿って変位するように案内される。これにより、ウォーム軸18の第2の端部18bの偏倚方向が中心間距離D1が長短する方向X1,X2に規制される。
本実施の形態では、簡単な構造を用いて、ウォーム軸18の偏倚方向を規制することができ、常に適正な噛み合い予圧を与えることができる。特に、ボール80を用いることにより、ウォーム軸18をスムーズに偏倚させることができる。しかも、ボール80と摺接する蓋部材81を合成樹脂製としたので、騒音低減効果を高くすることができる。
【0036】
次いで、図10は本発明のさらに別の実施の形態を示している。図10を参照して、本実施の形態では、電動モータ16の出力軸20とウォーム軸18とを連結する動力伝達継手21Aとして、ウォーム軸18の第1の端部18aに例えば圧入やスプライン嵌合により一体回転可能に連結された筒状の継手本体85と、継手本体85と出力軸20とに跨がるように両者に巻かれて両者を連結する圧縮コイルばね等の弾性部材86とを備える。弾性部材86の一端86aは例えば溶接により継手本体85に固定され、弾性部材86の他端86bは例えば溶接により出力軸20の外周に固定されている。
【0037】
動力伝達継手21Aは、その弾性部材86によって出力軸20とウォーム軸18との間で動力伝達する。また、弾性部材86はウォーム軸18を第2の軸受23側(図10において左方)へ弾性的に付勢する。また、弾性部材86はウォーム軸18の軸線が出力軸20の軸線に対して傾斜(チルト)することを許容する。
一方、第2の軸受23の外輪27と軸受保持孔29との間には、例えばゴム製の筒状の弾性部材87が介在している。弾性部材87はその一端に環状側壁88を有しており、この環状側壁88は第2の軸受23の外輪27の端面とハウジング17aの端壁17bとの間に挟持されている。また、第2の軸受23の内輪25の内周面および、これに嵌合するウォーム軸18の第2の端部18bの少なくとも一方に、ウォーム軸18の揺動を許容するためのクラウニングが施され、所定の曲率が与えられている。他方、第1の軸受22には、ウォーム軸18の揺動に見合う軸受隙間が設定されている。
【0038】
本実施の形態では、ウォーム軸18とウォームホイール19とを負の隙間を持たせて組み立てるとともに、弾性部材86を用いてウォーム軸18とウォームホイール19との中心間距離D1を自動調整する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施の形態の電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】電動パワーステアリング装置の要部の断面図である。
【図3】図2のIII −III 線に沿う断面図である。
【図4】付勢部材の斜視図である。
【図5】図2のV−V線に沿う断面図である。
【図6】動力伝達継手の分解斜視図である。
【図7】本発明の別の実施の形態の電動パワーステアリング装置の要部の断面図である。
【図8】図7の実施の形態の付勢部材の斜視図である。
【図9】図9Aは、本発明の別の実施の形態の電動パワーステアリング装置の要部の断面図であり、図9Bは図9Aの9B−9B線に沿う断面図である。
【図10】本発明の別の実施の形態の電動パワーステアリング装置の要部の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 電動パワーステアリング装置
2 操舵部材
3 ステアリングシャフト
5 中間軸
7 ピニオン軸
8 ラックバー
10 タイロッド
11 車輪
A 操舵機構
16 電動モータ
17 減速機
17a ハウジング
18 ウォーム軸
19 ウォームホイール
20 電動モータの出力軸
21,21A 動力伝達継手
29 軸受保持孔
30 弾性部材(中心間距離を短くする方向と交差する方向へ軸受が変位することを抑制 する手段)
31 主体部
32,33 リブ
60,60A 付勢部材
61 ベース
611 一端
612 他端
62,62A 第1の付勢部(弾性片)
63,63A 第2の付勢部(弾性片)
64 円弧状部
71 ねじ部材
72 保持部
80 ボール
81 蓋部材
82 案内溝
85 継手本体
86 弾性部材
87 弾性部材
88 環状側壁
X1 中心間距離を長くする方向
X2 中心間距離を短くする方向
V 直交する方向(交差する方向)
R1 第1の回転方向
R2 第2の回転方向
F1,F2 付勢力
G1,G2 駆動反力の径方向成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵補助用の電動モータの出力軸に連結されたウォーム軸、およびウォーム軸に噛み合うウォームホイールを含み、操舵機構に動力を伝達するための伝動装置と、
ウォーム軸をウォーム軸とウォームホイールとの中心間距離を短くする方向に付勢する付勢手段とを備え、
上記付勢手段は、ウォーム軸を支持する軸受の周方向に離隔する複数箇所に付勢力を与える板ばねを含むことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、上記板ばねは、それぞれ上記軸受に付勢力を付与する第1および第2の付勢部を含み、第1および第2の付勢部の付勢力は互いに異なる電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項2において、上記板ばねは、ベースと、ベースの一端および他端から傾斜状に延びてX字状に交差する一対の弾性片を含み、一対の弾性片によって上記第1および第2の付勢部が構成される電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、上記中心間距離を短くする方向と交差する方向へ上記軸受が変位することを抑制する手段を備える電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項4において、上記抑制する手段は上記軸受の外周と軸受保持孔の内周との間に介在する弾性部材を含む電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−111133(P2006−111133A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300561(P2004−300561)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】