説明

電動パワーステアリング装置

【課題】トーションバーのねじれ共振によるステアリングシャフトの振動を抑制し、操舵フィーリングを向上させる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】ウォームホイール21内部の回転中心から離れた外周付近に設けられた空間部28に、磁石22および強磁性体23とで形成された磁気回路26中に設けた開口部27を回転中心方向に開口させたダンパー29が回転自在に保持される。反磁性体の部材からなる円板24がアッパーシャフト8に保持され、円板24の外周に近い部分がダンパー29の開口部27に非接触に挟まれて交叉して配置される。ダンパー29と円板24との角速度差が発生すると、円板24がダンパー29の開口部27を移動し、円板24に流れる渦電流により磁界ができ、ダンパー29の磁界と反発し、円板24の回転に抵抗力が発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置には、操舵力に応じたアシストをするために、操舵トルクを検出するトルクセンサがステアリングシャフトに設けられている。このトルクセンサはトーションバーのねじれ角に応じて操舵トルクを検出している。ところが、このトーションバーはばね特性を持つため、トーションバーに結合された慣性の異なるモータやステアリングホイールに外力が加わる場合や、モータの出力トルクの変動が発生するような場合に、トーションバーのねじれによりステアリングシャフトの振動を起こすようになる。このため、振動対策としてステアリングシャフトに摩擦を付与する手段を講じている。
【0003】
例えば、このステアリングシャフトに摩擦を付与する手段として、ステアリングシャフトの周囲に配置された摩擦部材の外周に導電性高分子材料からなる高分子アクチュエータを設置し、この高分子アクチュエータへ駆動回路から通電してステアリングシャフトの径方向へ収縮させ、上記摩擦部材へ接触させて振動を抑制したものが有る。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−94342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなステアリングシャフトに摩擦を付与して振動を抑制する手段を設けるものは、電圧を印加するための駆動回路を必要とし、また、ステアリングシャフトに摩擦を付与するため車両におけるアシストの応答性を低下させ、操舵フィーリングを低下させるおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、トーションバーのねじれ共振によるステアリングシャフトの振動を抑制し、操舵フィーリングを向上させる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両のステアリング機構に与えるアシストトルクを発生させるモータと、トーションバーを介してアッパーシャフトとロアーシャフトを連結した回転軸であるステアリングシャフトと、前記モータの出力軸に継合されるウォーム軸と、前記ロアーシャフトを介してステアリング機構に繋がり、前記ウォーム軸に噛合するウォームホイールとを備え、前記モータの回転によって操舵補助するようにした電動パワーステアリング装置において、前記ウォームホイールは、内部の回転中心から離れた外周部付近に空間部が設けられ、この空間部に磁石と強磁性体とで形成された磁気回路中に設けた開口部と、その開口部を回転中心方向に開口させたダンパーと、前記アッパーシャフトに保持され、外周部が前記ダンパーの開口部に非接触に挟まれて配置された反磁性体の円板とを有することを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、ウォームホイール内部の空間部分の回転中心から離れた位置に、磁石と強磁性体部材からなるU字型のダンパーと外周付近がダンパーの開口部に非接触に挟まれた反磁性体の円板からなる減衰機構が配置される。ダンパーは回転自在に減速機のウォームホイールに保持され、ステアリングホイールに連動したアッパーシャフトが回転すると、アッパーシャフトに保持された円板が回転する。トーションバーの両端にはそれぞれアッパーシャフトとロアーシャフトが結合され、トーションバーのねじれ共振によりトーションバーの両端に角速度差が発生すると、円板がダンパーの開口部を移動し、円板内に磁束の変化により渦電流が流れ、磁界ができる。この磁界により円板とダンパーの相対角速度を減速させる方向に、相対角速度に比例した粘性抵抗となる抵抗力が発生する。このように、トーションバーのねじれ共振により両端の角速度差が増加すると、渦電流によるブレーキが作用しトーションバーの両端の角度差変化を抑制し、ステアリングシャフトの振動を低減できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記ウォームホイールの空間部に配置された前記ダンパーと前記円板との隙間に高粘度の粘性流体を封入することを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、ウォームホイール内に配置されたダンパーと円板の隙間に高粘度の流体を封入することにより、粘性抵抗を発生させ、トーションバーのねじれ共振によるステアリングシャフトの振動減衰に作用するとともに、渦電流による発熱を吸収低減できる。
【発明の効果】
【0011】
トーションバーのねじれ共振によるステアリングシャフトの振動を抑制し、操舵フィーリングを向上させる電動パワーステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電動パワーステアリング装置の構成を示す概念図。
【図2】本発明の実施形態の電動パワーステアリング装置における減速機の断面図。
【図3】本発明の実施形態の電動パワーステアリング装置における減衰機構の動作を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成を、それに関連する車両の構成と共に示す概略図、図2は本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置における減速機の断面図、図3は本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置における減衰機構の動作を説明する図である。
【0014】
図1に示す電動パワーステアリング装置1は、モータ18、減速機19、トルクセンサ11、および、電子制御ユニット(以下、ECUという)12を備えたコラムアシスト型の電動パワーステアリング装置である。
【0015】
電動パワーステアリング装置1は、操舵部材としてのステアリングホイール2と、ステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助する操舵補助機構5とを備えている。転舵機構4としては、例えばラックアンドピニオン機構が用いられている。
【0016】
ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6及び中間軸7等を介して機械的に連結されている。ステアリングホイール2の回転は、ステアリングシャフト6及び中間軸7等を介して転舵機構4に伝達される。これにより、転舵輪3が転舵される。
【0017】
ステアリングシャフト6は、直線状に延びている。また、ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸(以下、アッパーシャフトという)8と、中間軸7に連結された出力軸(以下、ロアーシャフトという)9とを含む。アッパーシャフト8とロアーシャフト9とは、トーションバー10を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。すなわち、ステアリングホイール2に一定値以上の操舵トルクτが入力されると、アッパーシャフト8およびロアーシャフト9は、互いに相対回転しつつ同一方向に回転するようになっている。
【0018】
ステアリングシャフト6の周囲に配置されたトルクセンサ11は、アッパーシャフト8およびロアーシャフト9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に入力された操舵トルクτを検出する。また、トルクセンサ11のトルク検出結果は、制御装置としてのECU12に入力される。中間軸7は、ステアリングシャフト6と転舵機構4とを連結している。
【0019】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、ラック軸14とを含む。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示せず)を介して転舵輪3が連結されている。
ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転する。また、ピニオン軸13の先端(図1では下端)には、ピニオン16が連結されている。
【0020】
ラック軸14は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の途中部には、上記ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることで、転舵輪3を転舵することができる。
【0021】
操舵補助機構5は、モータ18と、モータ18の出力トルクを転舵機構4に伝動するための伝動装置としての減速機19とを含む。減速機19としては、例えばウォームギヤなどの食い違い軸歯車機構や、平行軸歯車機構などを用いることができる。本実施形態では、減速機19として、ウォームギヤが用いられている。すなわち、減速機19は、駆動ギヤとしてのウォーム軸20と、このウォーム軸20と噛み合う従動ギヤとしてのウォームホイール21とを含む。
【0022】
ウォーム軸20は、図示しない動力伝達継手を介してモータ18の回転軸(図示せず)に連結されている。ウォーム軸20は、モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、ステアリングシャフト6に同行回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォーム軸20によって回転駆動される。
【0023】
モータ18がウォーム軸20を回転駆動すると、ウォーム軸20によってウォームホイール21が回転駆動され、ウォームホイール21およびステアリングシャフト6が同行回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、モータ18によってウォーム軸20を回転駆動することで、転舵輪3が転舵され、運転者の操舵が補助される。
【0024】
図2において、減速機19のウォーム軸20は、ウォームホイール21に噛合する。トーションバー10は、一端部がステアリングホイール2(図1参照)と一体に回転するステアリングシャフト6のアッパーシャフト8に結合され、他端部が減速機19のウォームホイール21から突出するロアーシャフト9に結合されている。
【0025】
ウォームホイール21内部の回転中心から離れた外周付近に設けられた空間部28に、後述するダンパー29(図3参照)が回転自在に保持される。ダンパー29は図2に示す所定の位置に配置される。そして、反磁性体の部材からなる円板24がアッパーシャフト8に保持され、円板24の外周に近い部分がダンパー29の開口部27(図3参照)に非接触に挟まれるように交叉して配置される。
【0026】
ダンパー29は図3に示すように、磁石22と強磁性体23から構成された略U字状になっており、開口部27が形成されている。その開口部27には、磁気回路26が形成され磁束25が流れる。この磁束25は、開口部27に配置された円板24の外周付近を貫通し、円板24が回転すると、円板24の磁気回路26に近づく部分と遠ざかる部分での磁束の量が変化する。このとき電磁誘導により磁束の変化を打ち消すように渦電流が流れる。そして、この渦電流により磁界ができ、この磁界とダンパー29の磁界との間で反発が生じ、円板24の回転に粘性抵抗となる抵抗力が発生する。
【0027】
すなわち、ダンパー29と円板24が同じ角速度で回転するときは、相対角速度は0であり抵抗力は発生しないが、トーションバー10(図2参照)のねじれ共振によりダンパー29と円板24との角速度差が発生すると、回転するダンパー29と円板24との相対角速度を減速させる方向に、相対角速度に比例した大きさの抵抗力が発生する。
【0028】
さらに、ウォームホイール21内のダンパー29の開口部27と円板24との隙間に高粘度の粘性流体を封入すると、この粘性流体の粘性抵抗の増加により円板24の回転に抵抗力が発生するとともに、渦電流による発熱を冷却できる。
【0029】
以上のように、本実施形態では、ウォームホイール内部の空間部に、磁気回路を形成するダンパーとその開口部を移動する反磁性体の円板からなる減衰機構を配置し、トーションバーのねじれ共振により生じる両端の角速度差に比例して円板の回転を減速させる方向に抵抗力を発生させる。その結果、トーションバーのねじれ共振によるステアリングシャフトの振動が抑制され、操舵フィーリングが向上する。
【0030】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々適用が可能である。
なお、本実施形態では、渦電流を発生させるダンパーをウォームホイール内部の一ヶ所に配置したが、複数のダンパーを配置してそれぞれ抵抗力を発生させてもよい。また、ウォームホイール内部の外周に沿って広範囲にダンパーを設けてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1:電動パワーステアリング装置、2:ステアリングホイール、5:操舵補助機構、
6:ステアリングシャフト、8:アッパーシャフト、9:ロアーシャフト、
10:トーションバー、11:トルクセンサ、12:ECU、18:モータ、
19:減速機、20:ウォーム軸、21:ウォームホイール、22:磁石、
23:強磁性体、24:円板、25:磁束、26:磁気回路、
27:ダンパー開口部、28:ウォームホイール空間部、29:ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリング機構に与えるアシストトルクを発生させるモータと、
トーションバーを介してアッパーシャフトとロアーシャフトを連結した回転軸であるステアリングシャフトと、
前記モータの出力軸に継合されるウォーム軸と、
前記ロアーシャフトを介してステアリング機構に繋がり、前記ウォーム軸に噛合するウォームホイールと、を備え、
前記モータの回転によって操舵補助するようにした電動パワーステアリング装置において、
前記ウォームホイールは、内部の回転中心から離れた外周部付近に空間部が設けられ、この空間部に磁石と強磁性体とで形成された磁気回路中に設けた開口部と、その開口部を回転中心方向に開口させたダンパーと、
前記アッパーシャフトに保持され、外周部が前記ダンパーの開口部に非接触に挟まれて配置された反磁性体の円板と、を有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ウォームホイールの空間部に配置された前記ダンパーと前記円板との隙間に高粘度の粘性流体を封入することを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−158309(P2012−158309A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21269(P2011−21269)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】