電動モータの潤滑構造
【課題】高温・高速回転に対応する電動モータの潤滑構造を提供する。
【解決手段】
筐体と、主軸と、筐体と主軸の間に配設され筐体に対して主軸を回転自在に保持するために軸方向に離間して配置される複数の転がり軸受と、主軸に配設されたロータと、筐体に配設されたステータとからなる電動モータにおいて、転がり軸受は、筐体に固定される静止輪と、主軸に固定される回転輪と、静止輪と回転輪とを回転自在に支持する複数の転動体と、回転輪と静止輪で形成される両端部の開口の少なくとも筐体外部側に配設される密封装置と、密封装置で区画される転がり軸受内部空間に封入されているグリース組成物を備えるものであり、筐体内部には、潤滑油が封入されていることを特徴とする電動モータの潤滑構造とする。
【解決手段】
筐体と、主軸と、筐体と主軸の間に配設され筐体に対して主軸を回転自在に保持するために軸方向に離間して配置される複数の転がり軸受と、主軸に配設されたロータと、筐体に配設されたステータとからなる電動モータにおいて、転がり軸受は、筐体に固定される静止輪と、主軸に固定される回転輪と、静止輪と回転輪とを回転自在に支持する複数の転動体と、回転輪と静止輪で形成される両端部の開口の少なくとも筐体外部側に配設される密封装置と、密封装置で区画される転がり軸受内部空間に封入されているグリース組成物を備えるものであり、筐体内部には、潤滑油が封入されていることを特徴とする電動モータの潤滑構造とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの潤滑構造に関し、特に、グリース組成物を封入して使用される形態の転がり軸受を有する電動モータの、転がり軸受の潤滑に係わる潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動モータとしては図10に概略図で示される基本構造を有するものが各種回転装置に使用されている。図10に示される電動モータは、筐体(ハウジング)4と主軸1との間に転がり軸受10、20を配設し、筐体4の内部内周にステータ(固定子)3を配置し、主軸1にはロータ(回転子)2が取り付けられている。筐体4の軸受20の側の側面端部は蓋(カバー)5により塞がれており、反対側の軸受10の側の筐体4の側面端部開口からは主軸1が延伸している。
【0003】
軸受10、20は、転がり軸受であり、図10に示した例では深溝玉軸受である(特許文献1)。深溝玉軸受は予圧をかけて使用することにより、軸方向剛性、半径方向剛性ともに良好なものとすることができ、かつ、高速回転にも適し、さらには安価であるため広く電動モータに使用されている。ここで、予圧構造は図示していないが、種々の構造が存在する。
【0004】
軸受10、20として、広く電動モータに使用されている転がり軸受の例を図11に示す。図11に示す転がり軸受10もしくは転がり軸受20は、主に静止輪として電動モータ筐体に固定されて使用される外輪(静止輪)11と、主に回転輪として電動モータの主軸に固定されて使用される内輪(回転輪)12と、外輪11と内輪12を回転自在に支持する転動体である複数の玉13と、転動体である玉13を相互に離間保持するための保持器14と、外輪11と内輪12とで形成される端部開口を塞ぐ密封装置15、16とからなる。この例における密封装置15、16は金属製の板から成形されたシールド板である。また、外輪11と内輪12と、密封装置15、16で形成される軸受内部空間には、転がり軸受10、20の潤滑のためにグリース組成物が封入されている。転がり軸受の潤滑の方法としては、グリース組成物を封入して潤滑する方法の他に、潤滑油を循環させたり、オイルミスト軸受に供給させたりする方法があるが、循環装置やオイルミスト発生装置が電動モータとは別途に必要であり、コストがかかるためグリース組成物を封入して潤滑する方法が広く採用されている。
【0005】
このような電動モータでは、転がり軸受の寿命がモータ全体の寿命を決定する原因となる場合が多いため、転がり軸受の寿命の改善の研究が鋭意行われている。さらに、電動モータのように転がり軸受に負荷される荷重条件が比較的厳しくない場合には、転がり軸受の寿命は潤滑の良し悪しにより左右され易いため、転がり軸受の潤滑、転がり軸受に封入するグリースの改善に関する研究も日夜行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−021424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電動モータに要求される性能も日々厳しくなってきている。具体的には、より高温まで使用でき、かつ、より高速回転に耐えられるものが要求されている。そればかりではなく、エネルギー損失を減らし地球環境に貢献するために、より一層の低トルク回転性能も求められている。かかる要求は、特に、今現在普及しつつある電気自動車やハイブリッド自動車の駆動に使用される電動モータにおいて特に厳しいものがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究の結果、以下の構成からなる電動モータの潤滑構造を発明するに至った。
【0009】
すなわち、筐体と、主軸と、筐体と主軸の間に配設され筐体に対して主軸を回転自在に保持するために軸方向に離間して配置される複数の転がり軸受と、主軸に配設されたロータと、筐体に配設されたステータとからなる電動モータにおいて、
転がり軸受は、筐体に固定される静止輪と、主軸に固定される回転輪と、静止輪と回転輪とを回転自在に支持する複数の転動体と、回転輪と静止輪で形成される両端部の開口の少なくとも筐体外部側に配設される密封装置と、密封装置で区画される転がり軸受内部空間に封入されているグリース組成物を備えるものであり、
筐体内部には、潤滑油が封入されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
前記構成によれば、筐体内部には潤滑油が封入されている。かかる電動モータが通電され回転することによる筐体内部の温度上昇や空気の流れ、あるいは振動等により筐体内部に封入した潤滑油が微粒子状(ミスト状)になったり、気化したり、跳ね飛ばされたりして筐体内部の空間を潤滑油雰囲気とする。その雰囲気の一部が転がり軸受内部に入り込み、潤滑油を適度に軸受内部に送り込むことになる。そのため、軸受内部の潤滑は長期に渡り良好に安定したものとなる。また、ことさら回転トルクを上昇させることも無い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る構造を示す図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る構造を示す図である。
【図3】本発明の第三の実施形態に係る構造を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第一例を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第二例を説明する図である。
【図6】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第三例を説明する図である。
【図7】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第四例を説明する図である。
【図8】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第五例を説明する図である。
【図9】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第六例を説明する図である。
【図10】一般的な電動モータを説明する概要図である。
【図11】一般的に電動モータに使用される転がり軸受を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明に係る電動モータの潤滑構造の第一の実施形態を示す。本発明による電動モータの潤滑構造は、電動モータの細部の構造に関わらず広く電動モータに適用できるため、電動モータの要部のみを示す図としている。
【0013】
基本的に、本発明に係る電動モータは、筐体(ハウジング)4と主軸1との間に転がり軸受10、20を配設し、筐体4の内部内周にステータ(固定子)3を配置し、主軸1にはロータ(回転子)2が取り付けられている構造を有する。筐体4の軸受20の側の側面端部は蓋(カバー)5により塞がれており、反対側の軸受10の側の筐体4の側面端部開口からは主軸1が延伸している。
【0014】
図4は、図1に示す電動モータに使用されている転がり軸受10、20の一例を示すものである。転がり軸受10、20は、基本的に、静止輪として電動モータ筐体に固定されて使用される外輪11と、電動モータの主軸に固定されて使用される内輪12と、外輪11と内輪12を回転自在に支持する転動体である複数の玉13と、転動体である玉13を相互に離間保持するための保持器14と、外輪11と内輪12とで形成される端部開口を塞ぐ密封装置15、16とからなる。この例における密封装置15、16は金属製の板から成形されたシールド板である。また、外輪11と内輪12と、密封装置15、16で形成される軸受内部空間には、転がり軸受10、20の潤滑のためにグリース組成物(図4では図示せず)が封入されている。
【0015】
図1に示す第一の実施形態は、軸を水平にして使用する横置きの電動モータに関する潤滑構造であり、潤滑油30は筐体の下部に封入されている。
【0016】
この状態から、電動モータが通電され、電動モータ内部の回転部分である主軸1、ロータ2が回転することにより発生する風圧により潤滑油30が微粒子化(ミスト化)したり気化したりすることで、電動モータ内部空間が潤滑油雰囲気になる。また、電動モータに通電するとステータ3に電流が流れ、その電流によりステータ3の温度が上昇することによっても前記微粒子化や気化が促進される。さらに、モータ使用時の振動等により跳ね上げられた潤滑油によっても前記微粒子化や気化が促進される。
【0017】
一方、転がり軸受に封入されたグリース組成物は、使用が進むにつれ基油が分離したり、転がり軸受内部での攪拌によるせん断を受けたりして、主にその成分である基油が分離して少なからず軸受外部に流出してしまう場合がある。
【0018】
かかる基油の分離による流出は、グリース組成物で転がり軸受を潤滑する限り、ある程度は避けられない現象である。短期的には、転がり軸受の内部空間から基油が多少流出しても、いわゆるなじみ状態となり回転トルク等が安定し特段の問題は無いが、長期的な観点からすると転がり軸受の潤滑が十分行われなくなり、転がり軸受の寿命等に影響を与えてしまうことになる。すなわち、長期的に転がり軸受の寿命を改善するためには、この流出する基油部分を補うことが必要である。
【0019】
ここで、基油の分離・流出を見込んで、転がり軸受内部になるべく多くのグリース組成物を当初から封入しておくと、転がり軸受内部でのグリース組成物の攪拌抵抗が増加し、回転トルクの上昇や回転トルク変動を引き起こす可能性が高くなる。また、グリース組成物自体も攪拌により軸受外部に流出してしまうおそれが高くなる。そのため、当初転がり軸受内部に封入しておけるグリース組成物の量は、ころがり軸受の内部の空間の容積(外輪、内輪、密封装置で区画された内部空間の容積から、転動体と保持器の体積を除いた容積。ただし、密封装置が無い場合は、外輪、内輪の端面をもって区画とし、保持器が無い転がり軸受の場合は保持器の体積を考えない。)の50%以下とするのが通常である。
【0020】
第一の実施形態では、電動モータ内部に封入され、電動モータの回転により微粒子化あるいは気化した油、もしくは、振動等により筐体4内部に跳ね上げられた油が、転がり軸受10、20内部に適度に入り込み、転がり軸受10、20に当初封入してあったグリース組成物から分離流出してしまう基油を補うことが可能である。
【0021】
そのため、転がり軸受の寿命をより一層長期化することが可能である。また、基油分が随時適切に補われるため、高速回転にも対応可能である。さらには、当初転がり軸受内に封入するグリース組成物の量を過度に増やす必要もなく、低トルク、低トルク変動での使用が可能である。
【0022】
図4に示す両側矢印、内側、外側の記載は、転がり軸受10、20の好ましい組み付け方向を示す。内側とは、主軸1の端部から向かってロータ2側を示す。また、図4に示す転がり軸受10、20は、合成樹脂製であり軸方向片側に開口を有する冠型保持器14を備えている。すなわち、転がり軸受10、20においては、保持器14の開口部をロータ側に向けて組み付けることが好ましい。これにより、電動モータ内部に発生した潤滑油の微粒子や気化成分あるいは跳ねかけられた潤滑油を軸受内部空間に適度に取り込むことが可能となる。
【0023】
図2は、本発明の第二の実施形態を示し、いわゆる縦置きで使用される電動モータに本発明の潤滑構造を適用したものである。縦置きに合わせて潤滑油30の配置を第一の実施形態から変更している。作用効果は、第一の実施形態と同様である。
【0024】
図3は、本発明の第三の実施形態を示し、いわゆる縦置きで使用される電動モータに本発明の潤滑構造を適用したものである。縦置きに合わせて潤滑油30の配置を第一の実施形態から変更している。第三の実施形態の場合、主軸1の回転により潤滑油30が微粒子化されたり、気化される。この場合、転がり軸受10への作用は少なくなるが、電動モータの構造は基本的な構造で済むため、コスト的に非常に有利である。
【0025】
図4〜図9は、前記第一〜第三の実施形態に使用される転がり軸受10、20の第一〜第六の例を示すものである。図4に示す例については、前記第一の実施形態の中で説明済みなので説明を省略する。また、図5〜図9においては、グリース組成物G1、G2の好ましい封入形態も併せて示してある。
【0026】
図5は、図4に示す転がり軸受10、20において、グリース組成物G1、G2が好ましい封入形態で封入されている状態を示す。図5における両側矢印及び内側、外側の記載については図4と同様である。
【0027】
図5に示す通り、グリース組成物G1、G2は、転がり軸受10、20内部空間で回転時に回転に付随して回転する部分にはなるべく触れないように封入することが好ましい。本発明の潤滑構造を備えない電動モータで、かかるグリース組成物封入形態とすると、外輪12と転動体13、内輪12と転動体13との接触部の潤滑が不良となり軸受寿命に影響を与える可能性もあるが、本発明の潤滑構造を備えていれば、電動モータ内部から潤滑油が供給されるため特段の問題は生じない。
【0028】
さらには、回転に付随して動く部分に、半固形状であるグリース組成物が介在しないため、低トルクであり、トルク変動も少なくすることができる。
【0029】
図6は、転がり軸受10、20の外輪11と内輪12で形成される端部開口の片側のみを密封装置16で塞いだ形態のものである。密封装置16は金属板製のシールド板である。両側矢印、外側、内側の説明は図4と同様である。図6に示す例の場合は、密封装置16のある側を外側に向け、反対側を内側に向けることが好ましい。また、合成樹脂製の冠型保持器14については、開口部を内側に向けることが好ましい。また、グリース組成物G1、G2の好ましい封入形態を併せて示してある。
【0030】
図7は、転がり軸受10、10の両端部を接触タイプの密封装置15、16である接触シールで塞いだ例を示す。また、保持器14は、金属板から成形した金属保持器の例を示している。図7の形態において軸受は転動体を中心として軸方向に対称形状であるため、電動モータに組み付ける方向は任意である。
【0031】
図7に示す通り接触シールであっても、接触部等を伝わって多少の潤滑油が転がり軸受10、20の内部に侵入するため、本発明の潤滑構造の効果は発揮される。
【0032】
図8は、図7に示す例において、密封装置15、16に空気孔17、18を設けたものである。空気孔17、18を設けることにより、電動モータ内部、転がり軸受10、20内部、外部の気圧差を低減することが可能であり、気圧差に起因する各種の影響を低減することができる。さらに、接触シールの接触部等を伝わるだけでなく、空気孔を通して電動モータ内部から潤滑油が供給されるため、本発明の効果がより発揮されることになる。
【0033】
図9は、外側の密封装置16を接触シールとし、内側の密封装置15を金属板から成形した非接触のシールド板としたものである。内側の密封装置15を非接触としてあるため、電動モータ内部から良好に潤滑油が供給され、外側の密封装置16を接触シールとしたので外部からの異物の侵入を効果的に防止し、外部からの異物の影響を低減することが可能である。また、図8に示すように接触シールに空気孔を設けてもよい。
【0034】
以上、電動モータの形態で第一〜第三の形態、転がり軸受10、20の形態で第一〜第六の形態を示したが、本発明の潤滑構造の効果を損なわない限り、これら形態に限定されるものではない。また、これら形態を組合せて適用することも可能である。例えば一つの電動モータにおいて、転がり軸受10と転がり軸受20が異なる密封装置を有するものであってもかまわない。また、例えば、転がり軸受10と転がり軸受20に当初封入するグリース組成物として異なるグリース組成物を封入することも可能である。
【0035】
また、潤滑油については、転がり軸受の潤滑に寄与するものであれば特に制限無く各種の潤滑油が使用できる。例えば、各種の鉱油、合成油、動植物油、あるいはこれらの混合油、さらに、これらの油に酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、摩耗防止剤等を配合したものが使用できる。
【0036】
好ましくは、鉱油もしくは合成油を使用する。さらに好ましくは、転がり軸受に封入するグリース組成物の基油と相互に溶解するものを使用する。潤滑油の粘度についても、低粘度のものから高粘度のものまで各種のものが使用できるが、好ましくは、転がり軸受に封入するグリース組成物の基油の粘度と同程度のものを使用する。
【0037】
また、電動モータ内部への潤滑油の封入形態は、潤滑油をそのまま封入した形態を示したが、これに限られるものではない。ただし、潤滑油をそのまま封入する場合は、電動モータが置かれる定常状態の姿勢において、封入した潤滑油が電動モータ内部の回転部分に触れない程度の封入量とすることが好ましい。封入した潤滑油が電動モータ内部の回転部分に触れると、少なからず攪拌抵抗が生じ、電動モータの動力損失につながる恐れがある。
【0038】
また、潤滑油の封入形態として、多孔質材やスポンジ状の油吸収材に潤滑油を吸収させた形態で電動モータ内部に封入することもできる。
【0039】
また、ステータ部は一般的にコイルの巻き線部を有しているため、巻き線に潤滑油を浸み込ませておいたり、ステータの一部を潤滑油に浸漬させておいてもよい。この場合、ステータに通電されることにより、ステータが発熱するため、潤滑油の微粒子化や気化が促進されより早期に電動モータ内部を潤滑油雰囲気とすることができる。
【0040】
尚、本発明の電動モータの潤滑構造は、転がり軸受の内径寸法と回転速度の積で示されるdm値が70万以上の高速回転においてその効果を一層発揮する。また、dm値が100万以上であれば、より一層、120万以上であればさらに一層その効果を発揮する。電動モータが高速回転する場合は、ロータも高速回転し、前記した潤滑油の微粒子化や気化を促進するためである。
【0041】
さらに、本発明の電動モータの潤滑構造における転がり軸受には、電動モータの回転に伴い潤滑油が供給されるため、当初封入するグリース組成物の量を少なくすることが可能であり、この点もdm値が100万を超える高速回転に適している。具体的には、当初軸受に封入するグリース組成物の量を、転がり軸受の内部空間の容積の30%以下とすることも可能である。
【0042】
dm値が100万を超える高速回転で使用する電動モータに本発明の潤滑構造を適用する場合の転がり軸受においては、密封装置は非接触タイプのものが好ましい。また、保持器は、合成樹脂製のものとすることが好ましい。具体的には、保持器の材質として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の耐熱性合成樹脂、あるいは、これらの樹脂にガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF)等の強化材を10〜40質量%の配合量となるように含有させたものを好適に使用できる。より好ましくは、ポリアミド46(PA46)もしくはポリフェニレンサルファイド(PPS)にガラス繊維(GF)を10〜40質量%配合した樹脂組成物とする。
【0043】
さらに、本発明の電動モータの潤滑構造における転がり軸受の内輪、外輪、転動体を形成する材料としては、SUJ2等の軸受鋼、浸炭鋼、ステンレス鋼のような金属材料、あるいはセラミックのような無機材料等各種の材料が使用できる。好ましくは、SUJ2等の軸受鋼を使用する。ただし、dm値が100万以上で使用される場合には、転動体をセラミックとすることが好ましい。
【0044】
さらに、本発明の電動モータの潤滑構造は、微粒子化あるいは気化した潤滑油によりその効果が発揮されるため、微粒子化や気化が促進される高温でのしように適した潤滑構造でもある。例えば、電動モータの使用温度が100℃を超えるような場合においても好適に使用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の電動モータの潤滑構造は、各種の電動モータに適用することが可能である。特に、高速、高温での使用に適するため、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用の電動モータに本発明の潤滑構造を適用することにより、信頼性の高い駆動用電動モータ、さらには、一層信頼性の高い自動車を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 主軸
2 ロータ(回転子)
3 ステータ(固定子)
4 筐体(ハウジング)
5 蓋(カバー)
10 転がり軸受
11 外輪(静止輪)
12 内輪(回転輪)
13 転動体(玉)
14 保持器
15 密封装置
16 密封装置
G1 グリース組成物
G2 グリース組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの潤滑構造に関し、特に、グリース組成物を封入して使用される形態の転がり軸受を有する電動モータの、転がり軸受の潤滑に係わる潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動モータとしては図10に概略図で示される基本構造を有するものが各種回転装置に使用されている。図10に示される電動モータは、筐体(ハウジング)4と主軸1との間に転がり軸受10、20を配設し、筐体4の内部内周にステータ(固定子)3を配置し、主軸1にはロータ(回転子)2が取り付けられている。筐体4の軸受20の側の側面端部は蓋(カバー)5により塞がれており、反対側の軸受10の側の筐体4の側面端部開口からは主軸1が延伸している。
【0003】
軸受10、20は、転がり軸受であり、図10に示した例では深溝玉軸受である(特許文献1)。深溝玉軸受は予圧をかけて使用することにより、軸方向剛性、半径方向剛性ともに良好なものとすることができ、かつ、高速回転にも適し、さらには安価であるため広く電動モータに使用されている。ここで、予圧構造は図示していないが、種々の構造が存在する。
【0004】
軸受10、20として、広く電動モータに使用されている転がり軸受の例を図11に示す。図11に示す転がり軸受10もしくは転がり軸受20は、主に静止輪として電動モータ筐体に固定されて使用される外輪(静止輪)11と、主に回転輪として電動モータの主軸に固定されて使用される内輪(回転輪)12と、外輪11と内輪12を回転自在に支持する転動体である複数の玉13と、転動体である玉13を相互に離間保持するための保持器14と、外輪11と内輪12とで形成される端部開口を塞ぐ密封装置15、16とからなる。この例における密封装置15、16は金属製の板から成形されたシールド板である。また、外輪11と内輪12と、密封装置15、16で形成される軸受内部空間には、転がり軸受10、20の潤滑のためにグリース組成物が封入されている。転がり軸受の潤滑の方法としては、グリース組成物を封入して潤滑する方法の他に、潤滑油を循環させたり、オイルミスト軸受に供給させたりする方法があるが、循環装置やオイルミスト発生装置が電動モータとは別途に必要であり、コストがかかるためグリース組成物を封入して潤滑する方法が広く採用されている。
【0005】
このような電動モータでは、転がり軸受の寿命がモータ全体の寿命を決定する原因となる場合が多いため、転がり軸受の寿命の改善の研究が鋭意行われている。さらに、電動モータのように転がり軸受に負荷される荷重条件が比較的厳しくない場合には、転がり軸受の寿命は潤滑の良し悪しにより左右され易いため、転がり軸受の潤滑、転がり軸受に封入するグリースの改善に関する研究も日夜行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−021424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電動モータに要求される性能も日々厳しくなってきている。具体的には、より高温まで使用でき、かつ、より高速回転に耐えられるものが要求されている。そればかりではなく、エネルギー損失を減らし地球環境に貢献するために、より一層の低トルク回転性能も求められている。かかる要求は、特に、今現在普及しつつある電気自動車やハイブリッド自動車の駆動に使用される電動モータにおいて特に厳しいものがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究の結果、以下の構成からなる電動モータの潤滑構造を発明するに至った。
【0009】
すなわち、筐体と、主軸と、筐体と主軸の間に配設され筐体に対して主軸を回転自在に保持するために軸方向に離間して配置される複数の転がり軸受と、主軸に配設されたロータと、筐体に配設されたステータとからなる電動モータにおいて、
転がり軸受は、筐体に固定される静止輪と、主軸に固定される回転輪と、静止輪と回転輪とを回転自在に支持する複数の転動体と、回転輪と静止輪で形成される両端部の開口の少なくとも筐体外部側に配設される密封装置と、密封装置で区画される転がり軸受内部空間に封入されているグリース組成物を備えるものであり、
筐体内部には、潤滑油が封入されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
前記構成によれば、筐体内部には潤滑油が封入されている。かかる電動モータが通電され回転することによる筐体内部の温度上昇や空気の流れ、あるいは振動等により筐体内部に封入した潤滑油が微粒子状(ミスト状)になったり、気化したり、跳ね飛ばされたりして筐体内部の空間を潤滑油雰囲気とする。その雰囲気の一部が転がり軸受内部に入り込み、潤滑油を適度に軸受内部に送り込むことになる。そのため、軸受内部の潤滑は長期に渡り良好に安定したものとなる。また、ことさら回転トルクを上昇させることも無い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る構造を示す図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る構造を示す図である。
【図3】本発明の第三の実施形態に係る構造を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第一例を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第二例を説明する図である。
【図6】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第三例を説明する図である。
【図7】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第四例を説明する図である。
【図8】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第五例を説明する図である。
【図9】本発明の実施形態に使用される転がり軸受の第六例を説明する図である。
【図10】一般的な電動モータを説明する概要図である。
【図11】一般的に電動モータに使用される転がり軸受を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明に係る電動モータの潤滑構造の第一の実施形態を示す。本発明による電動モータの潤滑構造は、電動モータの細部の構造に関わらず広く電動モータに適用できるため、電動モータの要部のみを示す図としている。
【0013】
基本的に、本発明に係る電動モータは、筐体(ハウジング)4と主軸1との間に転がり軸受10、20を配設し、筐体4の内部内周にステータ(固定子)3を配置し、主軸1にはロータ(回転子)2が取り付けられている構造を有する。筐体4の軸受20の側の側面端部は蓋(カバー)5により塞がれており、反対側の軸受10の側の筐体4の側面端部開口からは主軸1が延伸している。
【0014】
図4は、図1に示す電動モータに使用されている転がり軸受10、20の一例を示すものである。転がり軸受10、20は、基本的に、静止輪として電動モータ筐体に固定されて使用される外輪11と、電動モータの主軸に固定されて使用される内輪12と、外輪11と内輪12を回転自在に支持する転動体である複数の玉13と、転動体である玉13を相互に離間保持するための保持器14と、外輪11と内輪12とで形成される端部開口を塞ぐ密封装置15、16とからなる。この例における密封装置15、16は金属製の板から成形されたシールド板である。また、外輪11と内輪12と、密封装置15、16で形成される軸受内部空間には、転がり軸受10、20の潤滑のためにグリース組成物(図4では図示せず)が封入されている。
【0015】
図1に示す第一の実施形態は、軸を水平にして使用する横置きの電動モータに関する潤滑構造であり、潤滑油30は筐体の下部に封入されている。
【0016】
この状態から、電動モータが通電され、電動モータ内部の回転部分である主軸1、ロータ2が回転することにより発生する風圧により潤滑油30が微粒子化(ミスト化)したり気化したりすることで、電動モータ内部空間が潤滑油雰囲気になる。また、電動モータに通電するとステータ3に電流が流れ、その電流によりステータ3の温度が上昇することによっても前記微粒子化や気化が促進される。さらに、モータ使用時の振動等により跳ね上げられた潤滑油によっても前記微粒子化や気化が促進される。
【0017】
一方、転がり軸受に封入されたグリース組成物は、使用が進むにつれ基油が分離したり、転がり軸受内部での攪拌によるせん断を受けたりして、主にその成分である基油が分離して少なからず軸受外部に流出してしまう場合がある。
【0018】
かかる基油の分離による流出は、グリース組成物で転がり軸受を潤滑する限り、ある程度は避けられない現象である。短期的には、転がり軸受の内部空間から基油が多少流出しても、いわゆるなじみ状態となり回転トルク等が安定し特段の問題は無いが、長期的な観点からすると転がり軸受の潤滑が十分行われなくなり、転がり軸受の寿命等に影響を与えてしまうことになる。すなわち、長期的に転がり軸受の寿命を改善するためには、この流出する基油部分を補うことが必要である。
【0019】
ここで、基油の分離・流出を見込んで、転がり軸受内部になるべく多くのグリース組成物を当初から封入しておくと、転がり軸受内部でのグリース組成物の攪拌抵抗が増加し、回転トルクの上昇や回転トルク変動を引き起こす可能性が高くなる。また、グリース組成物自体も攪拌により軸受外部に流出してしまうおそれが高くなる。そのため、当初転がり軸受内部に封入しておけるグリース組成物の量は、ころがり軸受の内部の空間の容積(外輪、内輪、密封装置で区画された内部空間の容積から、転動体と保持器の体積を除いた容積。ただし、密封装置が無い場合は、外輪、内輪の端面をもって区画とし、保持器が無い転がり軸受の場合は保持器の体積を考えない。)の50%以下とするのが通常である。
【0020】
第一の実施形態では、電動モータ内部に封入され、電動モータの回転により微粒子化あるいは気化した油、もしくは、振動等により筐体4内部に跳ね上げられた油が、転がり軸受10、20内部に適度に入り込み、転がり軸受10、20に当初封入してあったグリース組成物から分離流出してしまう基油を補うことが可能である。
【0021】
そのため、転がり軸受の寿命をより一層長期化することが可能である。また、基油分が随時適切に補われるため、高速回転にも対応可能である。さらには、当初転がり軸受内に封入するグリース組成物の量を過度に増やす必要もなく、低トルク、低トルク変動での使用が可能である。
【0022】
図4に示す両側矢印、内側、外側の記載は、転がり軸受10、20の好ましい組み付け方向を示す。内側とは、主軸1の端部から向かってロータ2側を示す。また、図4に示す転がり軸受10、20は、合成樹脂製であり軸方向片側に開口を有する冠型保持器14を備えている。すなわち、転がり軸受10、20においては、保持器14の開口部をロータ側に向けて組み付けることが好ましい。これにより、電動モータ内部に発生した潤滑油の微粒子や気化成分あるいは跳ねかけられた潤滑油を軸受内部空間に適度に取り込むことが可能となる。
【0023】
図2は、本発明の第二の実施形態を示し、いわゆる縦置きで使用される電動モータに本発明の潤滑構造を適用したものである。縦置きに合わせて潤滑油30の配置を第一の実施形態から変更している。作用効果は、第一の実施形態と同様である。
【0024】
図3は、本発明の第三の実施形態を示し、いわゆる縦置きで使用される電動モータに本発明の潤滑構造を適用したものである。縦置きに合わせて潤滑油30の配置を第一の実施形態から変更している。第三の実施形態の場合、主軸1の回転により潤滑油30が微粒子化されたり、気化される。この場合、転がり軸受10への作用は少なくなるが、電動モータの構造は基本的な構造で済むため、コスト的に非常に有利である。
【0025】
図4〜図9は、前記第一〜第三の実施形態に使用される転がり軸受10、20の第一〜第六の例を示すものである。図4に示す例については、前記第一の実施形態の中で説明済みなので説明を省略する。また、図5〜図9においては、グリース組成物G1、G2の好ましい封入形態も併せて示してある。
【0026】
図5は、図4に示す転がり軸受10、20において、グリース組成物G1、G2が好ましい封入形態で封入されている状態を示す。図5における両側矢印及び内側、外側の記載については図4と同様である。
【0027】
図5に示す通り、グリース組成物G1、G2は、転がり軸受10、20内部空間で回転時に回転に付随して回転する部分にはなるべく触れないように封入することが好ましい。本発明の潤滑構造を備えない電動モータで、かかるグリース組成物封入形態とすると、外輪12と転動体13、内輪12と転動体13との接触部の潤滑が不良となり軸受寿命に影響を与える可能性もあるが、本発明の潤滑構造を備えていれば、電動モータ内部から潤滑油が供給されるため特段の問題は生じない。
【0028】
さらには、回転に付随して動く部分に、半固形状であるグリース組成物が介在しないため、低トルクであり、トルク変動も少なくすることができる。
【0029】
図6は、転がり軸受10、20の外輪11と内輪12で形成される端部開口の片側のみを密封装置16で塞いだ形態のものである。密封装置16は金属板製のシールド板である。両側矢印、外側、内側の説明は図4と同様である。図6に示す例の場合は、密封装置16のある側を外側に向け、反対側を内側に向けることが好ましい。また、合成樹脂製の冠型保持器14については、開口部を内側に向けることが好ましい。また、グリース組成物G1、G2の好ましい封入形態を併せて示してある。
【0030】
図7は、転がり軸受10、10の両端部を接触タイプの密封装置15、16である接触シールで塞いだ例を示す。また、保持器14は、金属板から成形した金属保持器の例を示している。図7の形態において軸受は転動体を中心として軸方向に対称形状であるため、電動モータに組み付ける方向は任意である。
【0031】
図7に示す通り接触シールであっても、接触部等を伝わって多少の潤滑油が転がり軸受10、20の内部に侵入するため、本発明の潤滑構造の効果は発揮される。
【0032】
図8は、図7に示す例において、密封装置15、16に空気孔17、18を設けたものである。空気孔17、18を設けることにより、電動モータ内部、転がり軸受10、20内部、外部の気圧差を低減することが可能であり、気圧差に起因する各種の影響を低減することができる。さらに、接触シールの接触部等を伝わるだけでなく、空気孔を通して電動モータ内部から潤滑油が供給されるため、本発明の効果がより発揮されることになる。
【0033】
図9は、外側の密封装置16を接触シールとし、内側の密封装置15を金属板から成形した非接触のシールド板としたものである。内側の密封装置15を非接触としてあるため、電動モータ内部から良好に潤滑油が供給され、外側の密封装置16を接触シールとしたので外部からの異物の侵入を効果的に防止し、外部からの異物の影響を低減することが可能である。また、図8に示すように接触シールに空気孔を設けてもよい。
【0034】
以上、電動モータの形態で第一〜第三の形態、転がり軸受10、20の形態で第一〜第六の形態を示したが、本発明の潤滑構造の効果を損なわない限り、これら形態に限定されるものではない。また、これら形態を組合せて適用することも可能である。例えば一つの電動モータにおいて、転がり軸受10と転がり軸受20が異なる密封装置を有するものであってもかまわない。また、例えば、転がり軸受10と転がり軸受20に当初封入するグリース組成物として異なるグリース組成物を封入することも可能である。
【0035】
また、潤滑油については、転がり軸受の潤滑に寄与するものであれば特に制限無く各種の潤滑油が使用できる。例えば、各種の鉱油、合成油、動植物油、あるいはこれらの混合油、さらに、これらの油に酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、摩耗防止剤等を配合したものが使用できる。
【0036】
好ましくは、鉱油もしくは合成油を使用する。さらに好ましくは、転がり軸受に封入するグリース組成物の基油と相互に溶解するものを使用する。潤滑油の粘度についても、低粘度のものから高粘度のものまで各種のものが使用できるが、好ましくは、転がり軸受に封入するグリース組成物の基油の粘度と同程度のものを使用する。
【0037】
また、電動モータ内部への潤滑油の封入形態は、潤滑油をそのまま封入した形態を示したが、これに限られるものではない。ただし、潤滑油をそのまま封入する場合は、電動モータが置かれる定常状態の姿勢において、封入した潤滑油が電動モータ内部の回転部分に触れない程度の封入量とすることが好ましい。封入した潤滑油が電動モータ内部の回転部分に触れると、少なからず攪拌抵抗が生じ、電動モータの動力損失につながる恐れがある。
【0038】
また、潤滑油の封入形態として、多孔質材やスポンジ状の油吸収材に潤滑油を吸収させた形態で電動モータ内部に封入することもできる。
【0039】
また、ステータ部は一般的にコイルの巻き線部を有しているため、巻き線に潤滑油を浸み込ませておいたり、ステータの一部を潤滑油に浸漬させておいてもよい。この場合、ステータに通電されることにより、ステータが発熱するため、潤滑油の微粒子化や気化が促進されより早期に電動モータ内部を潤滑油雰囲気とすることができる。
【0040】
尚、本発明の電動モータの潤滑構造は、転がり軸受の内径寸法と回転速度の積で示されるdm値が70万以上の高速回転においてその効果を一層発揮する。また、dm値が100万以上であれば、より一層、120万以上であればさらに一層その効果を発揮する。電動モータが高速回転する場合は、ロータも高速回転し、前記した潤滑油の微粒子化や気化を促進するためである。
【0041】
さらに、本発明の電動モータの潤滑構造における転がり軸受には、電動モータの回転に伴い潤滑油が供給されるため、当初封入するグリース組成物の量を少なくすることが可能であり、この点もdm値が100万を超える高速回転に適している。具体的には、当初軸受に封入するグリース組成物の量を、転がり軸受の内部空間の容積の30%以下とすることも可能である。
【0042】
dm値が100万を超える高速回転で使用する電動モータに本発明の潤滑構造を適用する場合の転がり軸受においては、密封装置は非接触タイプのものが好ましい。また、保持器は、合成樹脂製のものとすることが好ましい。具体的には、保持器の材質として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の耐熱性合成樹脂、あるいは、これらの樹脂にガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF)等の強化材を10〜40質量%の配合量となるように含有させたものを好適に使用できる。より好ましくは、ポリアミド46(PA46)もしくはポリフェニレンサルファイド(PPS)にガラス繊維(GF)を10〜40質量%配合した樹脂組成物とする。
【0043】
さらに、本発明の電動モータの潤滑構造における転がり軸受の内輪、外輪、転動体を形成する材料としては、SUJ2等の軸受鋼、浸炭鋼、ステンレス鋼のような金属材料、あるいはセラミックのような無機材料等各種の材料が使用できる。好ましくは、SUJ2等の軸受鋼を使用する。ただし、dm値が100万以上で使用される場合には、転動体をセラミックとすることが好ましい。
【0044】
さらに、本発明の電動モータの潤滑構造は、微粒子化あるいは気化した潤滑油によりその効果が発揮されるため、微粒子化や気化が促進される高温でのしように適した潤滑構造でもある。例えば、電動モータの使用温度が100℃を超えるような場合においても好適に使用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の電動モータの潤滑構造は、各種の電動モータに適用することが可能である。特に、高速、高温での使用に適するため、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用の電動モータに本発明の潤滑構造を適用することにより、信頼性の高い駆動用電動モータ、さらには、一層信頼性の高い自動車を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 主軸
2 ロータ(回転子)
3 ステータ(固定子)
4 筐体(ハウジング)
5 蓋(カバー)
10 転がり軸受
11 外輪(静止輪)
12 内輪(回転輪)
13 転動体(玉)
14 保持器
15 密封装置
16 密封装置
G1 グリース組成物
G2 グリース組成物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、主軸と、筐体と主軸の間に配設され筐体に対して主軸を回転自在に保持するために軸方向に離間して配置される複数の転がり軸受と、主軸に配設されたロータと、筐体に配設されたステータとからなる電動モータにおいて、
転がり軸受は、筐体に固定される静止輪と、主軸に固定される回転輪と、静止輪と回転輪とを回転自在に支持する複数の転動体と、回転輪と静止輪で形成される両端部の開口の少なくとも筐体外部側に配設される密封装置と、密封装置で区画される転がり軸受内部空間に封入されているグリース組成物を備えるものであり、
筐体内部には、潤滑油が封入されていることを特徴とする電動モータの潤滑構造。
【請求項1】
筐体と、主軸と、筐体と主軸の間に配設され筐体に対して主軸を回転自在に保持するために軸方向に離間して配置される複数の転がり軸受と、主軸に配設されたロータと、筐体に配設されたステータとからなる電動モータにおいて、
転がり軸受は、筐体に固定される静止輪と、主軸に固定される回転輪と、静止輪と回転輪とを回転自在に支持する複数の転動体と、回転輪と静止輪で形成される両端部の開口の少なくとも筐体外部側に配設される密封装置と、密封装置で区画される転がり軸受内部空間に封入されているグリース組成物を備えるものであり、
筐体内部には、潤滑油が封入されていることを特徴とする電動モータの潤滑構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−226593(P2011−226593A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98006(P2010−98006)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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