説明

電動倍力装置

【課題】電動倍力装置において、電気系統の失陥等により、電動モータが作動不能になった場合における操作力を軽減する。
【解決手段】ブレーキペダルのストロークに基づき、コントローラにより電動モータ105の作動を制御して、ベルト伝動機構113及びボール−ネジ機構120を介して押圧部材140を推進し、プライマリピストン178を押圧してブレーキ液圧を発生させる。ブレーキペダルのストロークに対して、反力バネ152により一定の反力を付与する。電動モータ105が作動不能になった場合、ブレーキペダルに連結されたプランジャ104が押圧部材140に当接して、プライマリピストン178を直接推進して制動機構を維持する。このとき、連結切換機構190により、プランジャ104と可動バネ受151との連結を解除して、反力バネ152の反力がプランジャ104に作用しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のブレーキ装置に組込まれる倍力装置において、倍力源として電動モータを用いた電動倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動倍力装置として、例えば特許文献1に記載されたものが公知である。この電動倍力装置は、ブレーキペダルに連結された入力ロッドと、マスタシリンダのピストンを押圧する押圧部材と、回転−直動変換機構を介して押圧部材を駆動する電動モータと、入力ロッドに一定の反力を付与するストロークシミュレータと、入力ロッドの移動に応じて電動モータの作動を制御するコントローラとを備えている。これにより、ブレーキペダルの操作量に応じて、コントローラによって電動モータの作動を制御して押圧部材によってマスタシリンダのピストンを推進してブレーキ液圧を発生させて所望の制動力を得る。
【0003】
そして、ブレーキペダルの操作量に対して、コントローラにより電動モータの出力を適宜調整することにより、入力に対する出力の比率、いわゆる倍力比を変化させることができ、倍力制御、ブレーキアシスト制御、回生協調制御等の種々のブレーキ制御を実行することができる。このとき、回生協調制御等によって電動モータの出力が変動した場合でも、ブレーキペダルの操作量に対して、ストロークシミュレータによって一定の反力を付与しているので運転者に違和感を与えることがない。
【0004】
また、万一、電気系統等の失陥により、電動モータが作動不能になった場合には、ブレーキペダルに連結された入力ロッドによって押圧部材を直接押圧することで、マスタシリンダのピストンを前進させることができ、制動機能を維持できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−30599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載された電動倍力装置では、次のような問題がある。万一、電動モータが作動不能になり、ブレーキペダルに連結された入力ロッドによって押圧部材を直接押圧せざるを得ない場合、電動モータの正常時よりも入力ロッドのストロークを大きくすると共に、大きな操作力を必要とすることになる。この場合にも入力ロッドのストロークに対してストロークシミュレータによる反力がブレーキペダルに作用するため、その分、ブレーキペダルを操作するための必要踏力が大きくなり、運転者への負担が大きくなる。
【0007】
本発明は、電気系統の失陥等により、電動モータが作動不能になった場合における操作力を軽減し得る電動倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る電動倍力装置は、ハウジングと、該ハウジングに設けられてブレーキペダルに連結される入力部材と、前記ブレーキペダルの操作に応じて作動する電動モータと、該電動モータの作動により、マスタシリンダのピストンを推進する伝達機構と、前記ハウジングに対する前記入力部材の移動に対して反力を発生する反力発生機構とを備え、
前記伝達機構は、前記入力部材に対して相対移動可能に設けられて前記電動モータの作動により直線運動する直動部材と、前記直動部材と前記ピストンとの間に介装された押圧部材とを備え、
前記反力発生機構は、前記入力部材と前記出力部材との相対位置に応じて、前記入力部材又は前記出力部材のいずれかに選択的に連結するための連結切換機構を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電動倍力装置によれば、電気系統の失陥等により、電動モータが作動不能になった場合における操作力を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動倍力装置が組込まれた自動車のブレーキシステムの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置のマスタシリンダに連結された状態を示す縦断面図である。
【図3】図2に示す電動倍力装置のプランジャ、可動バネ受、直動部材及び押圧部材が組立てられた状態を一部破断して示す斜視図である。
【図4】図2に示す電動倍力装置の可動バネ受の斜視図である。
【図5】図2に示す電動倍力装置のストロークシミュレータの連結切換機構の各作動状態を示す説明図である。
【図6】図2に示す電動倍力装置の倍力制御状態を示す縦断面図である。
【図7】図2に示す電動倍力装置の回生協調制御状態を示す縦断面図である。
【図8】図2に示す電動倍力装置において、倍力制御中において、電動モータの駆動力が消失した状態を示す縦断面図である。
【図9】図2に示す電動倍力装置において、倍力制御中において、電動モータの駆動力が消失し、連結切換機構によってプランジャが直動部材に連結された状態を示す縦断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る電動倍力装置を示す縦断面図である。
【図11】図10に示す電動倍力装置のプランジャ、可動バネ受、直動部材及び押圧部材が組立てられた状態を一部破断して示す斜視図である。
【図12】図10に示す電動倍力装置のストロークシミュレータの連結切換機構の各作動状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態について、図1乃至図9を参照して説明する。
本実施形態に係る電動倍力装置が組込まれた車両3を図1に示す。図1は、車両3が搭載しているブレーキシステム1および走行用駆動システム70の概要を示すシステム図である。本発明に係る電動倍力装置は、乗用車を含め、トラックあるいはバスなど、様々な種類の車両に適用することができる。以下、これらの代表例として、前輪駆動の乗用車に本発明を適用した例を用いて、本実施形態について説明する。また、本発明は、エンジンのみが発生するトルクに基づき走行する車両(以下エンジン車という)、エンジンと電動機の両方が発生するトルクに基づき走行するハイブリッド車、あるいは、電動機のみが発生するトルクに基づき走行する純粋な電気自動車(以下EVという)等、走行システムの種類に制限されることなく、様々な走行方式の車両に適用することができる。これらの車両を代表例して、以下、EVに適用した例を用いて本発明に係る実施形態を説明する。なお、本発明をエンジン車、ハイブリッド車、あるいはEV等、本発明の適用車両の種類が変わっても、以下に説明の基本部分は、略そのまま適用可能である。
【0012】
〔走行用駆動システム70〕
車両3に搭載された走行用駆動システム70は、例えば数百ボルトの高電圧直流電力を蓄電する蓄電システム72と、交流電力を受けて車両3を走行するためのトルクを発生するモータの機能と車両の走行エネルギーに基づき交流電力を発生するゼネレータの機能を有する回転電気機械(以下モータゼネレータという)82と、蓄電システム72からの高電圧直流電力を受けてモータゼネレータ82に供給する交流電力を発生し、またモータゼネレータ82が発生した交流電力を直流電力に変換する電力変換装置74と、外部から商用電力を受電するための受電用コネクタ84と、受電した電力に基づいて蓄電システム72を充電する充電装置86と、を備えている。
【0013】
〔走行用駆動システム70の充電動作〕
受電用コネクタ84は、蓄電システム72に蓄電するための電力を車外の商用電源から受電するための電力用コネクタである。操作者によって受電用コネクタ84が車外の商用電源に接続されると、交流電力が受電用コネクタ84を介して充電装置86に供給される。充電装置86は、交流電力を直流電力に変換すると共に、蓄電システム72へ供給する電流が予め定められた範囲内となるように供給する電流値を制御する。また、蓄電システム72の充電状態(以下、SOCという)を表す情報が蓄電システム72から充電装置86へ以下で述べる情報伝送線23を介して伝送され、充電装置86は蓄電システム72のSOCが規定値、例えば満充電に対し80パーセントのSOCに達するまで蓄電システム72の充電動作を続け、蓄電システム72のSOCが規定値に達すると蓄電システム72への充電動作を停止する。また、充電装置86の上記充電動作中には、必要に応じ、搭載されている様々なシステムを動作させるための制御装置の電源用電力を電力供給線21に供給する。この制御電力を受け、仮に低電圧電源40の電力供給が十分でない状態であっても、蓄電システム72の制御装置は正常に動作することができる。上記蓄電システム72は、例えばリチウムイオン二次電池を備えており、リチウムイオン二次電池の端子電圧から上記SOCを求めることができる。
【0014】
〔走行用駆動システム70の走行動作〕
次に車両3の走行状態における走行用駆動システム70の動作を説明する。車両3の走行状態では、モータゼネレータ82は、モータとして走行用のトルクを発生する力行運転状態とゼネレータとして運転し交流電力を発生する回生運転状態とがある。モータゼネレータ82は、永久磁石を備えた回転子を有する永久磁石モータであってもよいし、誘導電動機であってもよい。永久磁石モータの方が誘導電動機よりも小型で大きなトルクを発生することができる。
【0015】
力行運転状態では、図示しないアクセルペダル等の操作部の操作量に基づき、モータゼネレータ82が発生する目標トルクが図示しない制御装置で演算される。電力変換装置74の制御装置76は、情報伝送線23を介して上記目標トルクを受信し、受信した目標トルクに基づき電力変換装置74のインバータ回路78の電力変換動作を制御する。インバータ回路78は、蓄電システム72から高電圧の直流電力を受け、上記制御装置76の制御に基づいて交流電力を発生し、モータゼネレータ82に供給する。モータゼネレータ82は、インバータ回路78が発生した交流電力を受け、前記目標トルクを発生する。一方、回生運転(回生制動)時には、モータゼネレータ82は、車両3の運動エネルギーを電力に変換する、すなわち、ブレーキ操作による減速中に発電機として動作して蓄電システム72に電力を回生する。
【0016】
モータゼネレータ82の力行運転あるいは回生運転の切替は、モータゼネレータ82の回転子の回転速度と交流電力による回転磁界との速度関係や位相関係を制御することにより行われる。例えば、インバータ回路78が、モータゼネレータ82の回転子の回転速度より早い回転磁界を発生する交流電力を発生すると、即ち回転子の磁極位置より進み位相の交流電力を発生すると、モータゼネレータ82は、モータとして作用する。逆にインバータ回路78が、モータゼネレータ82の回転子の回転速度より遅い回転磁界を発生する交流電力を発生すると、即ち回転子の磁極位置より遅れ位相の交流電力を発生すると、モータゼネレータ82は、ゼネレータとして作用する。インバータ回路78の動作は、制御装置76により制御される。インバータ回路78は、上アームを構成する半導体スイッチと下アームを構成する半導体スイッチとを直列に接続した直列回路を3相分並列接続することで、ブリッジ回路を構成し、上記直列回路の両端を蓄電システム72と接続し、各相の上下アームの接続点をモータゼネレータ82のU相、V相、W相の各端子にそれぞれ接続するように構成されている。上下アームの導通状態を制御装置76により制御することで、上述のインバータ回路78の制御がなされる。代表的な制御方式としてPWM制御方式がある。
【0017】
〔低電圧電源装置40〕
車両3は、低電圧、例えば14ボルトあるいは28ボルトを基準電圧とする低電圧の直流電力を蓄電する低電圧電源装置40と、蓄電している低電圧直流電力を供給するための電力供給線21を備えている。走行用駆動システム70および後述するブレーキシステム1には、電力供給線21を介して低電圧電源装置40から直流電力が供給され、制御回路の動作電源や低電圧のモータなどの電源として使用される。
【0018】
低電圧電源装置40はDC−DC変換装置とバッテリとを備えており、上述の高電圧蓄電システム72に蓄電されている高電圧直流電力を受け、前記DC−DC変換装置により低電圧の直流電圧に変換し、前記バッテリに蓄電する。上記高電圧蓄電システム72は、例えばリチウムイオン2次電池を有して上記高電圧直流電力を蓄電する。また、上記低電圧電源装置40は、前記バッテリとして鉛バッテリを有し、鉛バッテリに上記低電圧直流電力を蓄電すると共に前記電力供給線21を介して蓄えている低電圧の直流電力を供給する。
【0019】
〔車載情報ネットワーク〕
車両3には情報を伝送するための情報伝送線23が設けられている。この情報伝送線23を介して、ブレーキシステム1、走行用駆動システム70及び低電圧電源装置40が、それぞれの動作に使用する情報の授受を行っている。この情報伝送線23は、車両3に搭載された図1に記載されていない様々な装置やシステムとも繋がっており、車両3内の情報ネットワークを形成している。情報の伝送方式としては例えばCAN方式が使用される。
【0020】
〔ブレーキシステムの構成〕
車両3のブレーキシステムは電動アクチュエータ100と液圧制御ユニット300と各車輪に対して制動力を発生するホイルシリンダ50を有している。ホイルシリンダ50は、4つの車輪にそれぞれ設けられ、液圧によって制動力を発生する例えば公知のディスクブレーキ又はドラムブレーキとすることができる。電動アクチュエータ100は、車両3のエンジンルームと車室とを区画する隔壁であるダッシュパネル5に取り付けられている。電動アクチュエータ100は、電動倍力装置101と、マスタシリンダ171と、制御装置161とを備えている。電動倍力装置101の入力ロッド103は、車室内に延出してブレーキペダル7に機械的に連結されており、運転者によるブレーキペダル7の操作に基づき、変位する。運転者によるブレーキ操作量は、ブレーキペダル7の変位として入力ロッド103に伝達され、入力ロッド103の軸方向の変位として電動倍力装置101に伝達される。また、ブレーキペダル7の変位は、ストロークセンサ11により検出され、電気信号に変換され、情報伝送線23を介して制御装置161(以下、ECU161という)に伝達される。なお、運転者によるブレーキ操作量は、ブレーキペダル7への踏力を検出する踏力センサにより検出するようにしても良い。
【0021】
ECU161はブレーキペダル7の操作量である変位(あるいは踏力)に基づいて、後述する動作により、電動倍力装置101を制御してマスタシリンダ171のピストンを制御し、マスタシリンダ171は、制動力発生するための液圧を発生する。電動アクチュエータ100が発生したブレーキ液圧は、2系統のアクチュエーション管路13、15を介して液圧制御ユニット300に伝えられる。液圧制御ユニット300は、2系統のアクチュエーション管路13、15を介して供給されたブレーキ液圧に基づき、各車輪に制動力を発生させるための各車輪のホイルシリンダ50に供給するブレーキ液圧を発生して、4系統のファンデーション管路31、33、35、37を介して各車輪のホイルシリンダ50に送り、それぞれの車輪で制動力を発生させる。
【0022】
また、液圧制御ユニット300は、電動アクチュエータ100の液圧に基づくことなく、各ホイルシリンダ50の液圧を制御することができる。これにより、車両3の走行状態、運転状態等に応じて液圧制御ユニット300の作動を制御することにより、アンチロックブレーキ制御(ABS)、トラクション制御、あるいは、アンダーステア及びオーバステアを抑制する車両安定化制御等のブレーキ制御の実行が可能となっている。
【0023】
液圧制御ユニット300には、内部の電動モータ、電磁弁等の作動を制御するための制御装置361(以下、ECU361という)が設けられている。電動倍力装置101及び液圧制御ユニット300のECU161、361は、電源装置40から電力供給21の電力線を介して直流電力を受け、この直流電力を交流電力に変換し、交流電力を電動モータに供給するようになっている。そして、供給する交流電力を制御することにより、電動モータの回転方向や回転トルクを制御することができるようになっている。図1では、電動アクチュエータ100と液圧制御ユニット300とは、電動倍力装置101とECU161とが、また、液圧制御ユニット300のハウジング300HとECU361とがそれぞれ分離して図示されているが、これらのECU161、361は、電動倍力装置101、ハウジング300Hに対して一体構造としても、別体構造としてもよい。なお、電源装置40は例えば14ボルト系のバッテリでもよいし、更に異なる電圧系の電池であってもよい。
【0024】
そして、回生制動時には、モータゼネレータ82の回生運転によって運動エネルギーが電力に変換された分だけ車両3に制動力が発生するので、ECU161、361は、ブレーキ液圧による制動力が、回生が無い場合に比して回生によって発生した制動力に相当する分だけ小さくなるように電動アクチュエータ100若しくは液圧制御ユニット300を制御する回生協調制御を実行する。回生協調制御を行うために、制御装置76は、回生量あるいは、回生量に相当する制動力、トルク、ブレーキ液圧などの情報を、車両通信系統23を介して、回生制動要求としてECU161、361へ伝達するようになっている。
【0025】
ECU161、361は、車両3内に張り巡らされている車両通信系統23に接続され、時分割多重通信方式の電気信号を用いて情報を送受信するようになっている。ここで、電気信号の形式はシリアル通信でもよいし、CANやFlexRay、LAN等の多重通信でもよい。なお、電力供給線21および車両通信系統23は万一の失陥時に備えて多重化して構成されていてもよい。例えば、電力供給線21の電力線が、独立した二系統から成り立っており、おのおのが電力供給源となる蓄電手段あるいは発電手段を備えている構成となっていてもよい。また、例えば車両通信系統23が独立した2系統から成り立っていてもよい。上記車両通信系統23には、ストロークセンサ11も接続されている。
【0026】
〔電動倍力装置101の構成〕
図2に示すように、電動アクチュエータ100は、電動倍力装置101にマスタシリンダ171が結合されて構成される。マスタシリンダ171は、圧力室を2室持つ、所謂、タンデム型マスタシリンダであり、そのシリンダボディ173には、プライマリ及びセカンダリの2つの液圧ポート175、177を有している。これら液圧ポート175、177には、それぞれ2系統の液圧回路を有する液圧制御ユニット300が接続されている。
【0027】
タンデム型のマスタシリンダ171は、シリンダボディ173のシリンダボア内に直列に配置された一対のプライマリピストン178及びセカンダリピストン179が摺動可能に挿入されている。プライマリ及びセカンダリピストン178、179(以下、ピストン178、179という)の前進により、2つの液圧ポート175、177から等しいブレーキ液圧を供給し、ピストン178、179の後退時には、ホイルシリンダ50の摩擦ライニングの摩耗やブレーキ液の戻り遅れ等に応じてリザーバ181からリザーバポート182、183を介して適宜ブレーキ液を補充する。そして、万一、2系統の液圧回路のうちの一方が失陥した場合でも、他方の液圧回路に液圧が供給されるので、制動機能を維持することができる。
【0028】
電動倍力装置101は、前部の小径のフロントハウジング110A、後部の大径のリアハウジング110B及びこれら間の中間ハウジング110Cからなるハウジング110を有しており、フロントハウジング110Aの前端部に、マスタシリンダ171が取り付けられている。ハウジング110は、マスタシリンダ171が取付けられた前部側をエンジンルーム内へ、その反対側のリアハウジング110Bの入力ロッド103が突出された円筒部111を車室内へ配置してダッシュパネル5に固定されている。
【0029】
電動倍力装置101は、マスタシリンダ171のピストン178、179を駆動するための電動モータ105と、電動モータ105によってベルト伝動機構113を介して駆動されるアシスト機構としての回転−直動変換機構であるボール−ネジ機構120と、ボール−ネジ機構120によって推進されてピストン178、179を押圧する押圧部材140と、入力ロッド103及び後述のプランジャ104に連結される反力発生機構であるストロークシミュレータ150とを備えている。ボール−ネジ機構120、押圧部材140及びストロークシミュレータ150は、同軸上に配置されて略円筒状のハウジング110に収容されている。このハウジング110のフロントハウジング110Aの前端部には、マスタシリンダ171が結合され、リアハウジング110Bの円筒部111からは、入力ロッド103が突出している。電動モータ105は、マスタシリンダ171及びハウジング110の側部に配置されてハウジング110に結合されている。
【0030】
押圧部材140は、プライマリピストン178の後方にプライマリピストン178と同軸上に配置され、プライマリピストン178の円筒状の後端部内に挿入されてプライマリピストン178を押圧する棒状のロッド部141と、他端側の当接部143と、これらの間に配置された大径の案内部145とが一体に形成されている。
【0031】
ボール−ネジ機構120は、円筒状の直動部材121と、直動部材121が挿入される円筒状の回転部材131と、これらの間に形成された螺旋状のネジ溝123、133に装填された複数の鋼球からなるボール135とを備えている。直動部材121は、全体が筒状に形成されて外周に螺旋状のネジ溝123を有し、ハウジング110内で軸方向に沿って移動可能に支持され、軸回りに回転しないように回り止めされている。回転部材131は、ハウジング105内でベアリング137、138によって軸回りに回転可能、かつ、軸方向に移動しないように支持されている。そして、回転部材131を回転させることにより、ネジ溝123、133内をボール135が転動して直動部材121が軸方向に移動する。
【0032】
直動部材121の前部に形成された案内ボア126内には、押圧部材140の案内部145が軸方向に沿って摺動可能、すなわち直動部材121に対して後退端を有して相対移動可能に挿入されている。案内ボア126の後端部には、ボア径が縮径された段部127が形成されている。段部127には、押圧部材140の後部の当接部143が挿通され、案内部145の後端部が当接している。これにより、直動部材121がマスタシリンダ171側へ前進したときに、段部127が案内部145を押圧し、押圧部材140が直動部材121と共に前進してロッド部141がマスタシリンダ171のプライマリピストン178を押圧する。また、押圧部材140は、案内部145が段部127から離間することにより、直動部材121の移動を伴わずに単独で前進することができる。フロントハウジング110Aの前端部と直動部材121との間には、圧縮コイルバネである戻しバネ139が設けられている。圧縮コイルばね139と直動部材121との間には、環状のバネ受139Aが介装されている。戻しバネ139は、直動部材121をハウジング110の後部側に付勢し、バネ受139Aが中間ハウジング110Cに当接することにより、直動部材121の後退位置を規定している。なお、上記押圧部材140には、戻しバネ139の付勢力が付与されないようになっている。
【0033】
回転部材131の外周部には、プーリ134が取付けられ、このプーリ134及び電動モータ105の出力軸に取付けられたプーリ(図示せず)にベルト136が巻装されている。これらによってベルト伝動機構113が構成され、電動モータ105によって回転部材131が回転駆動される。なお、ベルト伝動機構113に、歯車減速機構等の減速機構を組み合わせてもよい。ベルト伝動機構113の代りに、歯車伝動機構、チェーン伝動機構等の他の公知の伝動機構を用いることができる。また、伝達機構を介さずに電動モータ105によって回転部材131を直接駆動するようにしてもよい。
【0034】
電動モータ105は、例えば公知のDCモータ(ブラシ付き)、DCブラシレスモータ、ACモータ等とすることができるが、制御性、静粛性、耐久性等の観点から本実施形態ではDCブラシレスモータを採用している。
【0035】
次に、図3乃至図5も参照してストロークシミュレータ150について説明する。図2乃至図5を参照して、ストロークシミュレータ150は、リアハウジング110Bの円筒部111内に設けられた可動バネ受151、反力バネ152、及び鋼球からなる係合ボール(係合部材、転動体)154を備えている。また、ストロークシミュレータ150の内部には、入力ロッド103と連結されて、該入力ロッド103とともに入力部材を構成するプランジャ104が設けられている。なお、本発明の転動体としては、球体でなくとも、例えば、円柱形状のコロでもよい。
【0036】
可動バネ受151は、小径部155及び大径部156を有する段付の円筒状で、大径部156が円筒部111内に嵌合して軸方向に沿って摺動可能に案内されている。円筒部111の前端部の内周部には、段部157が形成され、段部157と可動バネ受151と間に圧縮コイルばねである反力バネ152が設けられている。そして、反力バネ152のバネ力によって可動バネ受151が後方に付勢されている。本実施形態では、反力バネ152として、コイルドウェーブスプリングを用いている。可動バネ受151は、円筒部111内の後端部の内周溝に嵌合された止輪158に当接することによって後退位置が規定されている。可動バネ受151の小径部155は、円筒部111内に挿入された直動部材145の後部の案内ボア128内に摺動可能に挿入されている。
【0037】
プランジャ104は、可動バネ受151の小径部155内に軸方向に沿って摺動可能に嵌合されている。プランジャ104の前部には、押圧部材140の当接部143の後端部に対向する小径部159が一体に形成され、小径部159の基部には、テーパ部160が形成されている。プランジャ104の後端部には、凹部104Aが形成され、凹部104Aに入力ロッド103の先端部が連結されている。直動部材121内には、後部の案内ボア128と段部127との間に大径の係合ボア162が形成され、係合ボア162と後部の案内ボア128との間にはテーパ部163が形成されている。可動バネ受151の小径部155の側壁の前部には、円周方向に沿って等間隔で配置されたボール穴164が設けられ、各ボール穴164内には、それぞれ係合ボール154が装填され、該係合ボール154が可動バネ受151の小径部155の径方向、ひいてはプランジャ(入力部材)104の径方向に移動可能に案内されている。
【0038】
プランジャ104の小径部159の外径(半径)と直動部材121の後部の案内ボア128の内径(半径)との差は、係合ボール154の直径と略等しくなっている。また、プランジャ104の可動バネ受151の小径部155内に嵌合する嵌合部104Bの外径(半径)と直動部材121の係合ボア162の内径(半径)との差も係合ボール154の直径に略等しくなっている。
【0039】
そして、プランジャ104の小径部159、テーパ部160、係合ボール154、バネ受部材151のボール穴164、直動部材121の係合ボア162及びテーパ部163により、連結切換機構190が構成されている。連結切換機構190は、次のように作動する。図5(A)に示すように、ボール穴164に装填された係合ボール154が、プランジャ104の小径部159と直動部材121の案内ボア128との間にある状態では、案内ボア128によって係合ボール154の径方向外側への移動が阻止される。このため、プランジャ104の前進に対して、係合ボール154、ボール穴164及びテーパ部160が係合することにより、プランジャ104と可動バネ受151とが連結して、可動バネ受151がプランジャ104と共に前進する。このとき、プランジャ104と共に移動する可動バネ受151は、直動部材121に対して軸方向に自由に移動することができる。
【0040】
また、図5(E)に示すように、プランジャ104の前進により、ボール穴164に装填された係合ボール154がプランジャ104の嵌合部104Bと係合ボア162との間にある状態では、プランジャ104の前進に対して、テーパ部160によって押圧された係合ボール154が径方向外側に移動してテーパ部160から離脱している。このため、プランジャ104は、可動バネ受151から離脱して、単独で前進する。このとき、プランジャ104の嵌合部104Bによってボール穴164内の係合ボール154の径方向内側への移動が阻止される。このため、直動部材121の前進に対して、係合ボール154、ボール穴164及びテーパ部164が係合することにより、可動バネ受151は、直動部材121に連結されて、直動部材121と共に前進する。
【0041】
そして、初期状態では、図2及び図5(A)に示すように、直動部材121及び可動バネ受151が戻しバネ139及び反力バネ152のバネ力により後退位置にある。この状態では、ボール穴164内の係合ボール154は、直動部材121の案内ボア128とプランジャ104の小径部159との間でテーパ部160に当接している。このとき、プランジャ104の小径部159の先端部と押圧部材140の当接部143の後端部との間には所定の隙間cが形成されている。そして、図5(C)に示すように、直動部材121に対して、プランジャ104が前進して、小径部159の先端部が押圧部材140の当接部143の後端部に当接したとき、係合ボール154がプランジャ104の小径部159と直動部材121の係合ボア162との間に移動するようになっている。
【0042】
〔電動倍力装置101の作動〕
以上のように構成した電動倍力装置101は、上述したECU161によって電動モータ105が制御されて車両3を制動することになる。ECU161が行う制御と共に電動倍力装置101の作動について次に説明する。
【0043】
(通常制動時)
通常の制動時には、運転者により、ブレーキペダル7が操作されると、その操作量がストロークセンサ11によって検出される。検出された信号は、車両通信系統23を介してECU161で受信され、ブレーキペダル7の操作量に応じて、出力センサ(電動モータ105の回転位置、電動モータ105の電流値、若しくは、アクチュエーション管路13、15中に設けられる液圧センサの液圧値等)の検出を監視しながら、電動モータ105の作動を制御する。
【0044】
電動倍力装置101においては、電動モータ105によってベルト伝動機構113を介してボール−ネジ機構120が駆動され、戻しバネ139のバネ力に抗して直動部材121が前進する。この直動部材121の前進によって押圧部材140がプライマリピストン178を押圧し、マスタシリンダ171に液圧を発生させる。この液圧が液圧制御ユニット300を介して各車輪のホイルシリンダ50に供給されて車両3に制動力を発生させる。これにより、図5(A)及び図6に示すように、ブレーキペダル7の操作によるプランジャの前進に対して、直動部材121及び押圧部材140が前進するので、押圧部材140の当接部143の後端部とプランジャ104の小径部159の先端部との間の隙間cが維持される。なお、上記隙間cは、必ずしも一定量が維持されるわけではなく、入力に対する出力の比率を可変として電動モータ105を制御する場合には、ブレーキペダル7の非操作時の隙間cよりも大きくなったり、あるいは、小さくなったりしえるものとなっている。
【0045】
このとき、ストロークシミュレータ150においては、ボール穴164に装填された係合ボール154が、プランジャ104の小径部159と直動部材121の案内ボア128との間にあるので、連結切換機構190によって可動バネ受151とプランジャ104とが連結されて一体に移動する。これにより、プランジャ104の前進、すなわち、ブレーキペダル7の踏込みに対して、反力バネ152のバネ力により、踏込量に応じた一定の反力が付与される。このため、運転者は、その反力に応じてブレーキペダル7の操作量を調整することができ、所望の制動力を発生させることができる。
【0046】
(回生制動時)
ECU161が、ブレーキペダル7の操作量に対する電動モータ105の制御量を変化させることにより、車両3において減速時に車輪の回転によって発電機として駆動電動アクチュエータ71を駆動する回生制動時に回生制動分だけマスタシリンダ171の液圧を減圧して所望の制動力を得る回生協調制御を実行することができる。この場合、図5(B)及び図7に示すように、直動部材121の前進量が減少する分だけ隙間cが小さくなるが、押圧部材140の当接部143の後端部とプランジャ104の小径部159の先端部とが当接することなく、隙間cが維持される。したがって、連結切換機構190は、上述の通常制動時と同様、プランジャ104と可動バネ受151との連結状態を維持するので、反力バネ152によりブレーキペダル7の踏込量に応じた一定の反力が付与される。このとき、回生制動分だけマスタシリンダ171の液圧が変動するが、車両の減速度はブレーキペダル7の操作量に応じたものとなり、ブレーキペダル7の踏力に対する反力バネ157による反力は変動しないので、運転者に違和感を与えることがない。
【0047】
(失陥時)
電動倍力装置101においては、万一、電動モータ105、ECU161あるいはボール−ネジ機構120等の失陥により、電動モータ105による制御が不可能になった場合、運転者がブレーキペダル7を操作しても、電動モータ105が作動せず、ボール−ネジ機構120の直動部材121が前進しなくなる。この場合には、ブレーキペダル7が踏込まれると、図5(C)に示すように、直動部材121に対してプランジャ104が前進して、プランジャ104の小径部159の先端部が押圧部材140の当接部143に当接する。
【0048】
このとき、ボール穴164に装填された係合ボール154がプランジャ104の大径部と係合ボア162との間に移動する。そして、ブレーキペダル7が更に踏込まれると、図5(D)及び(E)に示すように、プランジャ104の前進に対して、テーパ部160によって押圧された係合ボール154が径方向外側に移動してテーパ部160から離脱する。このため、プランジャ104は、可動バネ受151との連結が解除されて単独で前進する。そして、プランジャ104によって押圧された押圧部材140が直動部材121の段部127から離間して前進し、押圧部材140のロッド部141がマスタシリンダ171のプライマリピストン178を押圧してブレーキ液圧を発生させる。
【0049】
このようにして、ブレーキペダル7の操作、すなわち運転者の踏力によってプライマリピストン178を前進させることができ、マスタシリンダ171に液圧を発生させて制動機能を維持することができる。このとき、プランジャ104が可動バネ受151から離脱することにより、ブレーキペダル7の踏込みに対して反力バネ157の反力が付与されなくなるので、電動モータ105、ECU161あるいはボール−ネジ機構120等の失陥時において、ブレーキペダル7の操作力を軽減することができる。また、上記押圧部材140には、戻しバネ139の付勢力が付与されないようになっているので、この点においても、ブレーキペダル7の操作力を軽減することができる。
【0050】
この場合、図5(E)に示すように、ボール穴164内の係合ボール154がプランジャの104の嵌合部104Bと直動部材121の係合ボア162との間にある状態では、可動バネ受151は、係合ボール154が直動部材121のテーパ部163に当接することにより、直動部材121に対して後退方向の移動が阻止される。このため、可動バネ受151は、直動部材121の前進により、直動部材121と共に前進することになる。
【0051】
また、上述の通常制動時(図6参照)において、失陥により電動モータ105による制御が不可能になった場合、電動モータ105による駆動力の喪失により、図8に示すように、戻しバネ139のバネ力により、直動部材121及び押圧部材140が後退して、マスタシリンダ171のブレーキ液圧が低下する。これに対して、運転者が制動力を維持しようとしてブレーキペダル7を更に踏込むと、図9に示すように、プランジャ104が前進して押圧部材140の当接部143に当接する。その後は、プランジャ104によって押圧部材140を直接押圧することにより、マスタシリンダ171でブレーキ液圧を発生させることになり、制動機能を維持することができる。このとき、連結切換機構190では、上述のようにボール穴164内の係合ボール154が移動してプランジャ104が可動バネ受151から離脱することにより、プランジャ104が、反力バネ152による反力を受けることなく前進することができるので、ブレーキペダル7の操作力を軽減することができる。
【0052】
そして、プランジャ104によって押圧部材140を直接押圧している状態で電動モータ105による制御が失陥から回復した場合、電動モータ105の駆動により直動部材121が前進し、ストロークセンサ11が検出するブレーキペダル7のストロークに応じた通常の倍力制御による位置まで移動する。このとき、可動バネ受151は、連結切換機構190により直動部材121と共に前進する。その後、直動部材121がプランジャ104に対して、通常の制御位置まで移動すると、係合ボール154が移動して、可動バネ受151は、直動部材121との連結が解除され、プランジャ104に連結される。その結果、反力バネ152による反力がプランジャ104に作用する。このようにして、円滑に通常の制御状態に復帰することができる。
【0053】
上記実施形態の電動倍力装置101によれば、電気系統の失陥等により、電動モータ105が作動不能になった場合に、連結切換機構190により、プランジャ104と直動部材121との相対位置に応じて、プランジャ104又は直動部材121のいずれかに選択的に連結する。このため入力ロッド103を介してブレーキペダル7に連結されたプランジャ104が、反力バネ152による反力を受けることなく前進することができるので、ブレーキペダル7の操作力を軽減することができる。
【0054】
次に、本発明の第2実施形態について、図10乃至図12を参照して説明する。
なお、本実施形態に係る電動倍力装置は、上記第1実施形態に対して、ストロークシミュレータの連結切換機構が異なる以下は同様の構造であるから、以下の説明においては、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同じ参照符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0055】
図10及び図11に示すように、本実施形態に係る電動倍力装置210では、ストロークシミュレータ150の連結切換機構192は、直動部材121の内周部に軸方向に沿って形成された案内溝193と、可動バネ受151の小径部155の外周部に突出された案内溝193よりも幅が狭い案内凸部194とが係合することにより、直動部材121と可動バネ受151とは、軸方向に沿って摺動可能、かつ、軸回りに一定の範囲で相対回転可能となっている。そして、案内凸部194に取付けられた略V字形の板バネ195によって、可動バネ受151は、後部側から見て右回りの回転方向に付勢されている。
【0056】
直動部材121の内周部には、可動バネ受151の小径部155に挿入され、その内周面に沿って軸方向に延びる案内部196が固定されている。プランジャ104の外周部には、軸方向に沿って延びる案内部196よりも幅広の案内溝197が形成されている。直動部材121の案内部196とプランジャ104の案内溝197とが係合することにより、プランジャ104は、可動バネ受151の小径部155内で軸方向に移動可能、かつ、軸回りに直動部材121に対して一定の範囲で回転可能となっている。そして、案内部196の側面部に取付けられた略V字形の板バネ198によって、プランジャ104は、後部側から見て左回りの回転方向に付勢されている。
【0057】
直動部材121に固定された案内部196の基部は、板バネ198とは反対側に拡幅されて拡幅部196Aが形成され、拡幅部196Aの端部にプランジャ104の先端部に対向する傾斜部199が形成されている。また、傾斜部199に隣接して側面部に長方形の切欠き部200が形成されている。プランジャ104の案内溝197に隣接する先端部は、直動部材121の案内部196に形成された傾斜部199に対向して、一部が傾斜部199と同じ角度で切欠かかれて傾斜部201が形成されている。可動バネ受151の小径部155の先端の内周部には、プランジャ104の傾斜部201に隣接する先端部に対向して連結切換凸部202が突出されている。連結切換凸部202は、直動部材121に設けられた案内部196の切欠き部200に挿入可能な長方形で、プランジャ104の傾斜部201に対向する角部に、直動部材121及びプランジャ104の傾斜部199、201と同じ角度の傾斜部203が形成されている。なお、直動部材121の案内部196及びプランジャ104の案内溝197は、図示の例では、周方向に沿って等間隔で3組ずつ設けられているが、3組以外でもよく、1組でもよい。
【0058】
これにより、初期状態では、図12(A)に示すように、プランジャ104は、板バネ198のバネ力により付勢されて、その傾斜部201が直動部材121の案内部196の傾斜部199に対して一定距離をもって対向する位置にある。また、可動バネ受151は、板バネ195のバネ力により付勢されて、その連結切換凸部202が、プランジャ104の先端部に対向する位置にあり、プランジャ104の先端部が可動バネ受けの151の連結切換凸部202に当接している。この状態では、可動バネ受151の連結切換凸部202がプランジャ104に当接しているので、プランジャ104の前進に対して、可動バネ受151が共に前進して反力バネを圧縮し、そのバネ力が作用する。
【0059】
プランジャ104が直動部材121に対して一定距離だけ前進すると、図12(B)に示すように、プランジャ104の傾斜部201が直動部材121の案内部196の傾斜部199に当接する。更にプランジャ104が前進すると、図12(C)に示すように、プランジャ104が傾斜部199、201に沿って板バネ198のバネ力に抗して、後方から見て右回りに回転する。そして、プランジャ104が案内部196の拡幅部196Aに沿って更に前進すると、プランジャ104の傾斜部201と連結切換凸部202の傾斜部203とが当接し、これらの傾斜部201、203に沿って連結切換凸部202が後方から見て左回りの回転方向に押圧され、可動バネ受151が板バネ195のバネ力に抗して回転することにより、連結切換凸部202が直動部材121の案内部196の切欠き部200に挿入される。
【0060】
更にプランジャ104が前進すると、図12(D)に示すように、連結切換凸部202が切欠き部200に格納され、プランジャ104は、可動バネ受151から離脱して移動し、プランジャ104の前進に対して反力バネ152のバネ力が作用しなくなる。この状態では、連結切換凸部202が案内部196の切欠き部200に係合しているので、可動バネ受151は、直動部材121に連結されており、直動部材121と共に移動することになる。
【0061】
また、図12(D)に示す状態からプランジャ104が直動部材121に対して一定位置まで後退すると、連結切換凸部が傾斜部201に沿って移動して可動バネ受151が板バネ195のバネ力によって回転し(図12(C)参照)、また、プランジャ104の傾斜部201が案内部196の傾斜部199に沿って移動することにより、可動バネ受151が板バネ198のバネ力により回転する(図12(B)参照)。これにより、連結切換凸部202は、直動部材121の案内部196の切欠き部200との連結が解除され、プランジャ104の先端部に当接するので、反力バネ157のバネ力がプランジャ104に作用することになる。
【0062】
このようにして、連結切換機構192により、可動バネ受151は、直動部材121とプランジャ104との相対位置に応じて、プランジャ104と連結してプランジャ104と共に移動し、また、直動部材121と連結して直動部材121と共に移動する。これにより、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
なお、本発明の反力発生機構としてのストロークシミュレータは、ハウジングに対する前記入力部材の相対移動に対して反力を発生するものであれば、よく、コイルスプリング、ガスばね、ゴム等の弾性体であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
7…ブレーキペダル、101…電動倍力装置、103…入力ロッド(入力部材)、104…プランジャ(入力部材)、105…電動モータ、110…ハウジング、120…ボール−ネジ機構(アシスト機構)、121…直動部材、140…押圧部材、150…ストロークシミュレータ(反力発生機構)、171…マスタシリンダ、178…プライマリピストン(ピストン)、190…連結切換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、該ハウジングに設けられてブレーキペダルに連結される入力部材と、前記ブレーキペダルの操作に応じて作動する電動モータと、該電動モータの作動により、マスタシリンダのピストンを推進するアシスト機構と、前記ハウジングに対する前記入力部材の移動に対して反力を発生する反力発生機構とを備え、
前記アシスト機構は、前記入力部材に対して相対移動可能に設けられて前記電動モータの作動により直線運動する直動部材と、前記直動部材と前記ピストンとの間に介装された押圧部材とを備え、
前記反力発生機構は、前記入力部材と前記直動部材との相対位置に応じて、前記入力部材又は前記直動部材のいずれかに選択的に連結するための連結切換機構を備えている倍力装置。
【請求項2】
前記反力発生機構は、前記入力部材と前記直動部材とが所定の相対位置範囲にあるときに前記入力部材と係合し、前記入力部材が前記直動部材に対して所定の相対位置範囲以上に移動したときに前記入力部材から離脱する請求項1に記載の倍力装置。
【請求項3】
前記反力発生機構は、前記入力部材が前記直動部材よりも前記マスタシリンダピストンの液圧発生方向に移動したときに前記入力部材から離脱する請求項1に記載の倍力装置。
【請求項4】
前記反力発生機構に対して、前記入力部材及び前記直動部材のそれぞれの間に、前記入力部材と前記直動部材との相対移動に伴って係合解除する係合部材が設けられている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の倍力装置。
【請求項5】
前記直動部材が筒状に形成され、該直動部材の内周に前記入力部材が配置されるとともに、前記前記反力発生機構の一部が前記直動部材と前記入力部材との間に配置され、
前記係合部材は、前記前記反力発生機構の一部に対して前記入力部材または前記直動部材のいずれかに跨るように前記入力部材の径方向に移動する転動体を有している請求項4に記載の倍力装置。
【請求項6】
前記直動部材が筒状に形成され、該直動部材の内周に前記入力部材が配置されるとともに、前記前記反力発生機構の一部が前記直動部材と前記入力部材との間に配置され、
前記係合部材は、前記入力部材または前記直動部材のいずれかに跨るように前記入力部材の周方向に移動する前記前記反力発生機構の一部に設けられた係止部である請求項4に記載の倍力装置。
【請求項7】
前記アシスト機構と前記マスタシリンダピストンとの間には、前記アシスト機構に対して相対移動可能な押圧部材が設けられ、
該押圧部材と前記入力部材との間には、少なくとも前記ブレーキペダルの非操作状態あるときに隙間が設けられ、
該隙間は、前記直動部材が前記電動モータにより移動しているときには、維持されている請求項1乃至6のいずれか一項に記載の倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−10469(P2013−10469A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145697(P2011−145697)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】