説明

電動式直動アクチュエータおよび電動式ディスクブレーキ装置

【課題】電動モータのロータ軸の回転をロックおよびアンロック可能なロック機構を有してなる小型コンパクトで重量バランスに優れた電動式直動アクチュエータを提供する。
【解決手段】電動モータ11のロータ軸12の回転をギヤ減速機構13により減速して回転軸10に伝達し、外輪部材5を軸方向に移動させ、その外輪部材5により電動式ディスクブレーキの可動ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けて、ブレーキディスクを制動する。ギヤ減速機構13の中間ギヤ33に複数の係止孔41を等間隔に形成し、リニアソレノイド43により進退されるロックピン42を係止孔41に係合させて電動モータ11のロータ軸12の回転をロックする。リニアソレノイド43を電動モータ11とハウジング1間に配置して、その電動モータ11およびハウジング1の径方向の寸法増加を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブレーキパッド等の被駆動部材を直線駆動する電動式直動アクチュエータおよびその電動式直動アクチュエータを用いた電動式ディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータを駆動源とする電動式直動アクチュエータにおいては、電動モータのロータ軸の回転運動を運動変換機構によって軸方向に移動自在に支持された被駆動部材の直線運動に変換するようにしている。
【0003】
電動式直動アクチュエータに採用された運動変換機構として、ボールねじ機構やボールランプ機構が知られているが、これらの運動変換機構においては、ある程度の増力機能を有するものの、電動式ディスクブレーキ装置等で必要とされるような大きな増力機能を確保することができない。
【0004】
そこで、上記のような運動変換機構を採用した電動式直動アクチュエータにおいては、遊星歯車機構等の減速機構を別途組込んで駆動力の増大を図るようにしており、上記減速機構を組込む分、構成が複雑となり、電動式直動アクチュエータが大型化するという問題があった。
【0005】
そのような問題点を解決するため、本件出願人は、減速機構を組込むことなく大きな増力機能を確保することができ、直動ストロークが比較的小さい電動式ディスクブレーキ装置への採用に好適な電動式直動アクチュエータを特許文献1および特許文献2において既に提案している。
【0006】
ここで、上記特許文献1および2に記載された電動式直動アクチュエータにおいては、電動モータによって回転駆動される回転軸と軸方向に移動自在に支持された外輪部材との間に遊星ローラを組込み、上記回転軸の回転により、その回転軸との接触摩擦によって遊星ローラを自転させつつ公転させ、その遊星ローラの外径面に形成された螺旋溝または円周溝と外輪部材の内径面に設けられた螺旋突条との噛み合いによって外輪部材を軸方向に移動させるようにしている。
【0007】
ところで、特許文献1および2に記載の電動式直動アクチュエータを採用した電動式ディスクブレーキ装置においては、運転手のブレーキペダルの操作に応じて制動力を制御するサービスブレーキ機能しか有していないため、駐車時には、電動モータに対する通電状態を継続して制動力を維持する必要が生じ、電力消費の点で極めて不利である。
【0008】
ここで、特許文献3に記載された電動ブレーキ装置のように、駐車ブレーキロック機構を付加し、その駐車ブレーキロック機構の作動により、電動モータにおけるロータの制動解除方向への回転を規制することによって、上記のような不都合の解消に大きな効果を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−65777号公報
【特許文献2】特開2010−90959号公報
【特許文献3】特開2006−183809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献3記載された電動ブレーキ装置においては、駐車ブレーキロック機構を有するものの、その駐車ブレーキロック機構をロータの周囲に配置しているため、径方向の寸法が大きくなり、車両に組み付けた際にホイールに干渉する可能性がある。
【0011】
また、ロータの周囲に駐車ブレーキロック機構を配置しているため、電動モータ側の重量が重くなって重量バランスが悪い。その重量バランスの悪化は制動時のブレーキパッドの接触に悪影響を与え、制動が不安定となり、ブレーキ鳴きを発生させる可能性がある。
【0012】
さらに、特許文献3に記載された電動ブレーキ装置においては、駐車ブレーキロック機構を構成する爪付き揺動アームやその揺動アームを揺動させるソレノイド、アーム復帰用のねじりばね等の各種部品をユニット化して組付け性を高めるようにしているが、走行時の飛び石等からユニットの損傷を防ぐために、強固な防護カバーで保護する必要が生じる。
【0013】
この発明の課題は、電動モータのロータ軸の回転をロックおよびアンロック可能なロック機構を有してなる小型コンパクトで重量バランスに優れた電動式直動アクチュエータおよびその電動式直動アクチュエータを採用した電動式ディスクブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、この発明に係る電動式直動アクチュエータにおいては、電動モータと、その電動モータのロータ軸の回転を減速して出力するギヤ減速機構と、そのギヤ減速機構の出力ギヤの軸心に沿って軸方向に移動可能なスライド部材と、前記出力ギヤの回転運動を直線運動に変換して前記スライド部材に伝達する回転・直動変換機構と、前記電動モータのロータ軸の回転をロックおよびアンロック可能なロック機構とを有してなる電動式直動アクチュエータにおいて、前記ロック機構が、ギヤ減速機構を形成する複数のギヤのうちの一つのギヤの側面周方向に設けられた複数の係止部と、その係止部に対して進退可能に設けられ、前進時に前記係止部に係合してギヤをロックするロックピンと、前記電動モータと前記スライド部材および回転・直動変換機構を収容するハウジング間に組み込まれてそのロックピンを進退させるピン駆動用アクチュエータとからなる構成を採用したのである。
【0015】
また、この発明に係る電動式ディスクブレーキ装置においては、電動式直動アクチュエータによりブレーキパッドを直線駆動し、そのブレーキパッドでブレーキディスクを押圧して、そのブレーキディスクに制動力を付与するようにした電動式ディスクブレーキ装置において、前記電動式直動アクチュエータがこの発明に係る上述の電動式直動アクチュエータからなり、その電動式直動アクチュエータのスライド部材に前記ブレーキパッドを連結した構成を採用したのである。
【0016】
上記の構成からなる電動式ディスクブレーキ装置において、電動式直動アクチュエータの電動モータを駆動すると、その電動モータのロータ軸の回転はギヤ減速機構で減速されて出力ギヤから出力され、その出力ギヤの回転は回転・直動変換機構により直線運動に変換されてスライド部材に伝達される。このため、スライド部材が前進し、そのスライド部材に連結されたブレーキパッドがブレーキディスクに押し付けられ、ブレーキディスクが制動される。
【0017】
駐車に際しては、上記のように、ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付け、ブレーキディスクに駐車に必要な制動力が付加される状態において、ピン駆動用アクチュエータの作動によりロックピンを前進させ、係止部に対するロックピンの係合によってギヤをロックする。そのギヤのロック状態において、電動モータに対する通電を遮断して、電気エネルギの無駄な消費を抑制する。
【0018】
上記のような係止部とロックピンの係合によるギヤのロック状態、つまり、電動モータのロータ軸のロック状態では、ブレーキディスクからの反力によりギヤ減速機構の複数のギヤのそれぞれに制動解除方向への回転力が負荷され、係止部とロックピンの係合部に回転トルクが作用する。この回転トルクは出力ギヤの位置で大きく、入力ギヤに至るに従って次第に小さい。
【0019】
このため、係止部とロックピンからなるロック機構が出力ギヤに近接していると、係止部とロックピンの係合部に比較的大きな回転トルクが負荷され、強度が不足する場合に係合部に変形が生じる。その変形を防止するためには、剛性を高めて強度を向上させる必要が生じ、電動式直動アクチュエータの重量増加を招くことになる。
【0020】
上記のような不都合を解消するため、ロック機構を形成する係止部は、出力ギヤを除く他のギヤの側面に設けるのが好ましい。より好ましくはロータ軸に取付けられた入力ギヤと近接する部位のギヤである。
【0021】
ここで、係止部は、貫通状の係止孔であってもよく、あるいは、ギヤの半径方向に延びる放射状配置の径方向溝部であってもよい。このような係止部は、周方向に間隔をおいて設けられているため、ピン駆動用アクチュエータを駆動してロックピンを係合させる場合に位相ずれが生じて、ロックピンを係合させることができない場合が生じる。この場合、ロックピンを前進させた状態で電動モータの駆動により、ギヤを制動方向に回転させ、係止部をロックピンと対向する位置までギヤを回転させて、係止部にロックピンを係合させる。
【0022】
係止部として係止孔を採用する場合において、その係止孔の周方向の一端部にロックピンと係合してギヤが制動解除方向(スライド部材を後退動させる方向)に回転するのを防止するロック面を設け、かつ、他端部にギヤが制動方向(スライド部材を前進動させる方向)に回転する場合にロックピンを係止孔から抜け出る方向に移動させるテーパ面を設けておくと、ギヤを制動方向にスムーズに回転させることができ、ブレーキディスクに駐車に必要な規定の押圧力を確実に負荷することができる。
【0023】
一方、係止部として径方向溝部を採用する場合において、その径方向溝部の周方向の一側にロックピンと係合してギヤが制動解除方向(スライド部材を後退動させる方向)に回転するのを防止するロック面を設け、かつ、他側にギヤが制動方向(スライド部材を前進動させる方向)に回転する場合にロックピンを径方向溝部から抜け出る方向に移動させるテーパ面を設けておくと、ギヤを制動方向にスムーズに回転させることができ、ブレーキディスクに駐車に必要な規定の押圧力を確実に負荷することができる。
【0024】
上記いずれの係止部の採用においても、ロックピンを弾性部材によりギヤに向けて付勢することによって、係止部にロックピンを確実に係合させることができる。
【0025】
この発明に係る電動式直動アクチュエータにおいて、ピン駆動用アクチュエータとしてリニアソレノイドを採用することにより、コンパクトな電動式直動アクチュエータを得ることができる。
【0026】
また、回転・直動変換機構として、ギヤ減速機構の出力ギヤを支持する回転軸と、その回転軸と同軸上に配置されてハウジングによりスライド自在に支持された外輪部材と、前記回転軸を中心にして回転自在に支持されたキャリアと、そのキャリアにより回転自在に支持されて回転軸の外径面と外輪部材の内径面間に組み込まれた遊星ローラとを有し、前記遊星ローラの外径面に前記外輪部材の内径面に設けられた螺旋突条に噛合する螺旋溝または円周溝を形成し、前記回転軸の回転により、その回転軸との接触摩擦により遊星ローラを回転させてスライド部材としての外輪部材を軸方向に移動させるようにした構成からなるものを採用することができる。
【0027】
上記のような回転・直動変換機構に代えて、ギヤ減速機構の出力ギヤを支持する回転軸と、その回転軸と同軸上に配置された円筒状のハウジングと、そのハウジングの内径面と前記回転軸の外径面間に組み込まれた複数の遊星ローラとを有し、前記遊星ローラの外径面に前記回転軸の外径面に設けられた螺旋突条に噛合する円周溝を、螺旋突条と同一のピッチで形成して、その円周溝と螺旋突条の係合により、前記回転軸の回転運動をスライド部材としての遊星ローラの直線運動に変換するようにした構成のものを採用してもよい。
【発明の効果】
【0028】
この発明に係る電動式直動アクチュエータにおいては、ピン駆動用アクチュエータの作動によりロックピンを前進させてギヤの側面に形成された係止部に係合させることにより、ギヤの回転を規制して、電動モータのロータ軸をロックすることができるため、スライド部材を軸方向に移動させた任意の位置でロックすることができる。このため、電動式直動アクチュエータを電動式ブレーキ装置に採用することにより、駐車時に、ブレーキパッドがブレーキディスクを規定の押圧力で押圧する状態でそのブレーキパッドをロックすることができ、電動モータへの通電を解除状態にすることができる。
【0029】
また、ギヤの側面に形成された係止部に対してロックピンを進退自在とし、そのロックピンを進退させるピン駆動用アクチュエータを電動モータとスライド部材および回転・直動変換機構を収容するハウジング間に配置したことにより、電動モータおよびハウジングの径方向寸法の増大を抑えることができ、小型コンパクトな電動式直動アクチュエータを得ることができる。
【0030】
さらに、電動モータとスライド部材を収容するハウジング間にピン駆動用アクチュエータを配置することにより、重量バランスを崩すようなことがなく、制動不安定になるのを防止することができ、しかも、電動モータやハウジングによってピン駆動用アクチュエータが保護されるため、その保護カバーを簡便なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明に係る電動式直動アクチュエータの実施の形態を示す縦断面図
【図2】図1の一部を拡大して示す断面図
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図
【図4】図1のギヤ減速機構部を拡大して示す断面図
【図5】(a)は、図4のV−V線に沿った断面図、(b)は、(a)のb−b線に沿った断面図
【図6】(c)は、係止部の他の例を示す断面図、(d)は、(c)のd−d線に沿った断面図
【図7】(e)は、係止部の他の例を示す断面図、(f)は、(e)のf−f線に沿った断面図
【図8】(g)は、係止部の他の例を示す断面図、(h)は、(g)のh−h線に沿った断面図
【図9】この発明に係る電動式ディスクブレーキ装置の実施の形態を示す縦断面図
【図10】回転・直動変換機構の他の例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1乃至図5は、この発明に係る電動式直動アクチュエータAの実施の形態を示す。図1に示すように、ハウジング1は、円筒状をなし、その一端には径方向外方に向けてベースプレート3が設けられ、そのベースプレート3の外側面およびハウジング1の一端開口がカバー4によって覆われている。
【0033】
ハウジング1内にはスライド部材としての外輪部材5が組込まれている。外輪部材5は回り止めされ、かつ、ハウジング1の内径面に沿って軸方向に移動自在とされ、その内径面には、図2に示すように、断面V字形の螺旋突条6が設けられている。
【0034】
ハウジング1内には、外輪部材5の軸方向一端側に軸受部材7が組込まれている。軸受部材7は円盤状をなし、その中央部にはボス部7aが設けられている。軸受部材7は、ハウジング1の内径面に取付けたストッパリング8によってカバー4側に移動するのが防止されている。
【0035】
軸受部材7のボス部7a内には一対の転がり軸受9が軸方向に間隔をおいて組込まれ、その転がり軸受9によって外輪部材5の軸心上に配置された回転軸10が回転自在に支持されている。
【0036】
図1に示すように、ベースプレート3には電動モータ11が支持され、その電動モータ11のロータ軸12の回転は、カバー4内に組込まれたギヤ減速機構13によって回転軸10に伝達されるようになっている。
【0037】
外輪部材5の内側には回転軸10を中心にして回転可能なキャリア14が組込まれている。図2および図3に示すように、キャリア14は、軸方向で対向する一対のディスク14a、14bを有し、一方のディスク14aの片面外周部には他方のディスク14bに向けて複数の間隔調整部材14cが周方向に間隔をおいて設けられ、その間隔調整部材14cの端面にねじ込まれるねじ15の締付けによって一対のディスク14a、14bが互いに連結されている。
【0038】
一対のディスク14a、14bのうち、軸受部材7側に位置するインナ側ディスク14bは、回転軸10との間に組込まれたすべり軸受16によって回転自在に、かつ、軸方向に移動自在に支持されている。
【0039】
一方、アウタ側ディスク14aには、中心部に段付き孔からなる軸挿入孔17が形成され、その軸挿入孔17内に嵌合されたすべり軸受18が回転軸10で回転自在に支持されている。回転軸10にはすべり軸受18のアウタ側端面に隣接してスラスト荷重を受ける金属ワッシャWが嵌合され、そのワッシャWは回転軸10の軸端部に取り付けられた止め輪19によって抜止めされている。
【0040】
キャリア14には、一対のディスク14a、14bによって両端部が支持された複数のローラ軸20が周方向に間隔をおいて設けられている。ローラ軸20のそれぞれは、一対のディスク14a、14bに形成された長孔からなる軸挿入孔21内に軸端部が挿入されて径方向に移動自在の支持とされ、そのローラ軸20の軸端部を巻き込むようにして掛け渡された弾性リング22によって径方向内方に向けて付勢されている。
【0041】
複数のローラ軸20のそれぞれには遊星ローラ23が回転自在に支持されている。遊星ローラ23のそれぞれは、回転軸10の外径面と外輪部材5の内径面間に配置される組み込みとされ、ローラ軸20の軸端部に掛け渡された弾性リング22により回転軸10の外径面に押し付けられて、その外径面に弾性接触し、上記回転軸10が回転すると、その回転軸10の外径面に対する接触摩擦によって回転するようになっている。
【0042】
遊星ローラ23の外径面には、図2に示すように、断面V字状の複数の螺旋溝24が軸方向に等間隔に形成され、その螺旋溝24のピッチは、外輪部材5に設けられた螺旋突条6のピッチと同一とされて、その螺旋突条6に噛合している。なお、螺旋溝24に代えて、複数の円周溝を螺旋突条6と同一のピッチで軸方向に等間隔に形成してもよい。
【0043】
図2に示すように、キャリア14のインナ側ディスク14bと遊星ローラ23の軸方向の対向部間には、ワッシャ25およびスラスト軸受26が組込まれている。また、キャリア14と軸受部材7の軸方向の対向部間には環状のスラスト板27が組み込まれ、そのスラスト板27と軸受部材7間にスラスト軸受28が組み込まれている。
【0044】
図2に示すように、外輪部材5のハウジング1の他端部開口から外部に位置する他端の開口はシールカバー29の取付けにより閉塞されて内部に異物が侵入するのが防止されている。
【0045】
また、ハウジング1の他端開口部にはベローズ30の一端部が連結され、そのべローズ30の他端部は外輪部材5の他端部に連結され、上記ベローズ30によってハウジング1内に異物が侵入するのが防止されている。
【0046】
図1および図4に示すように、ギヤ減速機構13は、電動モータ11のロータ軸12に取付けられた入力ギヤ31の回転を一次減速ギヤ列G乃至三次減速ギヤ列Gにより順次減速して回転軸10の軸端部に取付けられた出力ギヤ32に伝達して、回転軸10を回転させるようにしており、そのギヤ減速機構13に電動モータ11のロータ軸12をロックおよびアンロック可能なロック機構40が設けられている。
【0047】
図4および図5に示すように、ロック機構40は、二次減速ギヤ列Gにおける出力側の中間ギヤ33の側面に複数の係止孔41を同一円上に等間隔に設け、その複数の係止孔41のピッチ円上の一点に対して進退可能に設けられたロックピン42をピン駆動用アクチュエータとしてのリニアソレノイド43により進退させ、係止孔41に対するロックピン42の係合によって、中間ギヤ33をロックするようにしている。
【0048】
ここで、ソレノイド43は、保護カバー44により保護されている。この保護カバー44はベースプレート3に支持されてハウジング1と電動モータ11間に配置されており、その保護カバー44のフロントプレート45にロックピン42をスライド自在に支持するピン孔46が形成されている。
【0049】
実施の形態で示す電動式直動アクチュエータAは上記の構造からなり、図9は、その電動式直動アクチュエータAを採用した電動式ディスクブレーキ装置Bを示す。この電動式ディスクブレーキ装置Bにおいては、電動式直動アクチュエータAにおけるハウジング1の他端部にキャリパボディ部50を一体に設け、そのキャリパボディ部50内に外周部の一部が配置されたブレーキディスク51の両側に固定ブレーキパッド52と可動ブレーキパッド53を設け、その可動ブレーキパッド53を外輪部材5の他端部に連結一体化している。
【0050】
図9に示すような電動式ディスクブレーキ装置Bへの電動式直動アクチュエータAの使用状態において、図1に示す電動モータ11を駆動すると、その電動モータ11のロータ軸12の回転がギヤ減速機構13により減速されて回転軸10に伝達される。
【0051】
回転軸10の外径面には、複数の遊星ローラ23のそれぞれ外径面が弾性接触されているため、上記回転軸10の回転により遊星ローラ23が回転軸10との接触摩擦により、自転しつつ公転する。
【0052】
このとき、遊星ローラ23の外径面に形成された螺旋溝24は外輪部材5の内径面に設けられた螺旋突条6に噛合しているため、その螺旋溝24と螺旋突条6の係合によって、外輪部材5が軸方向に移動し、その外輪部材5に連結一体化された可動ブレーキパッド53がブレーキディスク51に押し付けられ、ブレーキディスク51に制動力が負荷されることになる。
【0053】
駐車に際しては、上記のように、可動ブレーキパッド53をブレーキディスク51に押し付け、そのブレーキディスク51に駐車に必要な制動力を負荷する状態において、リニアソレノイド43を作動し、ロックピン42を中間ギヤ33の側面に向けて前進させるようにする。
【0054】
ロックピン42の前進時、そのロックピン42に複数の係止孔41の一つが対向する状態にあると、図5(a)、(b)に示すように、係止孔41にロックピン42が係合し、その係合によって中間ギヤ33がロックされる。この時、電動モータ11のロータ軸12もロックされることになるため、電動モータ11に対する通電を遮断しておくことができ、電気エネルギの無駄な消費を抑制することができる。
【0055】
ここで、ロックピン42の前進時、そのロックピン42と係止孔41との間に位相のずれがあると、係止孔41にロックピン42を係合させることができない。この場合、ロックピン42を前進させた状態で電動モータ11の駆動により、中間ギヤ33を制動方向(図5(イ)の矢印で示す方向)に回転させ、係止孔41をロックピン42と対向する位置まで中間ギヤ33を回転させて、係止孔41にロックピン42を係合させる。
【0056】
上記のような係止孔41とロックピン42の係合による中間ギヤ33のロック状態、つまり、電動モータ11のロータ軸12のロック状態では、ブレーキディスク51からの反力によりギヤ減速機構13のそれぞれのギヤに制動解除方向への回転力が負荷されるため、係止孔41とロックピン42の係合部に回転トルクが付加されることになる。この回転トルクは出力ギヤ32の位置で大きく、入力ギヤ31に至るに従って次第に小さくなる。
【0057】
実施の形態では、二次減速ギヤ列Gの出力側の中間ギヤ33の側面に複数の係止孔41を設けたものであるため、係止孔41とロックピン42の係合部に付加される回転トルクは比較的小さく、上記係止孔41とロックピン42の係合部が損傷するようなことはない。
【0058】
その損傷をより効果的に防止するため、入力ギヤ31に近接する中間ギヤに係止孔41を設けるのが好ましい。その係止孔41の形成位置に合わせてロックピン42の設置位置を決定する。
【0059】
図1に示す実施の形態では、ハウジング1と電動モータ11間にロック機構40を形成するロックピン駆動用のリニアソレノイド43を配置しているため、ハウジング1および電動モータ11の径方向寸法の増大を抑えることができ、小型コンパクトな電動式直動アクチュエータを得ることができる。
【0060】
また、ハウジング1と電動モータ11間にリニアソレノイド43を配置しているため、重量バランスを崩すようなことがなく、制動不安定になるのを防止することができ、しかも、電動モータ11やハウジング1によってリニアソレノイド43が保護されるため、保護カバー44として簡便なものを採用することができる。
【0061】
図5においては、係止孔41を係止部としたが、係止部はこれに限定されない。図6乃至図8は、係止部の他の例を示す。図6(c)、(d)においては、中間ギヤ33の径方向に延びる複数の突出部60を放射状配置に設け、隣接する突出部60間に形成された径方向溝部61を係止部としている。
【0062】
図7(e)、(d)においては、図5に示す場合と同様に、係止孔41を係止部としており、その係止孔41の周方向の一端部にロックピン42に対する係合によって中間ギヤ33が制動解除方向に回転するのを防止するロック面41aを設け、かつ、他端部に中間ギヤ33の制動方向への回転によってロックピン42を係止孔41から抜け出る方向に移動させるテーパ面41bを設けている。
【0063】
上記のように、係止孔41の他端部にテーパ面41bを設けておくと、中間ギヤ33を制動方向にスムーズに回転させることができ、ブレーキディスク51に駐車に必要な規定の押圧力を確実に負荷することができる。
【0064】
図8(g)、(h)においては、図6に示す場合と同様に、径方向溝部61を係止部とし、その径方向溝部61の周方向の一側にロックピン42に対する係合によって中間ギヤ33が制動解除方向に回転するのを防止するロック面61aを設け、かつ、他側に中間ギヤ33の制動方向への回転によってロックピン42を径方向溝部61から抜け出る方向に移動させるテーパ面61bを設けている。
【0065】
図8に示すように、径方向溝部61の周方向の他側にテーパ面61bを設けると、図7に示す場合と同様に、中間ギヤ33を制動方向にスムーズに回転させることができ、ブレーキディスク51に駐車に必要な規定の押圧力を確実に負荷することができる。
【0066】
図1に示す電動式直動アクチュエータにおいては、回転軸10の回転運動を直線運動に変換する回転・直動変換機構として、その回転軸10の外径面とハウジング1の内径面間に遊星ローラ23を組込み、その遊星ローラ23の外径面に外輪部材5の内径面に設けられた螺旋突条6に噛合する螺旋溝24または円周溝を形成したものを示したが、回転・直動変換機構はこれに限定されるものではない。例えば、
【0067】
図10は、回転・直動変換機構の他の例を示す。この例においては、回転軸10の外径面に螺旋突条70を設け、その回転軸10の外径面とハウジング1の内径面間に組み込まれた複数の遊星ローラ23のそれぞれ外径面に螺旋突条70と同一ピッチで複数の円周溝71を形成し、上記回転軸10の回転により、螺旋突条70と円周溝71の係合によって遊星ローラ23を自転させつつ公転させて、その遊星ローラ23を軸方向に移動させるようにしている。この場合、遊星ローラ23の軸方向力をスラスト軸受72を介して被駆動部材に伝達する。
【符号の説明】
【0068】
A 電動式直動アクチュエータ
B 電動式ディスクブレーキ装置
1 ハウジング
5 外輪部材
6 螺旋突条
10 回転軸
11 電動モータ
12 ロータ軸
13 ギヤ減速機構
14 キャリア
23 遊星ローラ
24 螺旋溝
31 入力ギヤ
32 出力ギヤ
33 中間ギヤ
40 ロック機構
41 係止孔(係止部)
41a ロック面
41b テーパ面
42 ロックピン
43 リニアソレノイド(ピン駆動用アクチュエータ)
51 ブレーキディスク
53 可動ブレーキパッド
60 突出部
61 径方向溝部(係止部)
61a ロック面
61b テーパ面
70 螺旋突条
71 円周溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、その電動モータのロータ軸の回転を減速して出力するギヤ減速機構と、そのギヤ減速機構の出力ギヤの軸心に沿って軸方向に移動可能なスライド部材と、前記出力ギヤの回転運動を直線運動に変換して前記スライド部材に伝達する回転・直動変換機構と、前記電動モータのロータ軸の回転をロックおよびアンロック可能なロック機構とを有してなる電動式直動アクチュエータにおいて、
前記ロック機構が、ギヤ減速機構を形成する複数のギヤのうちの一つのギヤの側面周方向に設けられた複数の係止部と、その係止部に対して進退可能に設けられ、前進時に前記係止部に係合してギヤをロックするロックピンと、前記電動モータと前記スライド部材および回転・直動変換機構を収容するハウジング間に組み込まれてそのロックピンを進退させるピン駆動用アクチュエータとからなることを特徴とする電動式直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記係止部が、前記出力ギヤを除く他のギヤの側面に設けられた請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記係止部が、前記電動モータのロータ軸に取付けられた入力ギヤと近接する部位のギヤに設けられた請求項2に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記係止部が、前記電動モータのロータ軸に取付けられた入力ギヤと出力ギヤ間の中間ギヤに設けられた請求項2に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項5】
前記係止部が、貫通状の係止孔からなる請求項1乃至4のいずれかの項に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項6】
前記係止孔の周方向の一端部にロックピンと係合してギヤがスライド部材を後退動させる方向に回転するのを防止するロック面を設け、かつ、他端部にギヤがスライド部材を前進動させる方向に回転する場合にロックピンを係止孔から抜け出る方向に移動させるテーパ面を設けた請求項5に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項7】
前記係止部が、ギヤの側面に形成された放射状配置の径方向溝部からなる請求項1乃至4のいずれかの項に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項8】
前記径方向溝部の周方向の一側にロックピンと係合してギヤがスライド部材を後退動させる方向に回転するのを防止するロック面を設け、かつ、他側にギヤがスライド部材を前進動させる方向に回転する場合にロックピンを後退動させるテーパ面を設けた請求項7に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項9】
前記ピン駆動用アクチュエータが、リニアソレノイドからなる請求項1乃至8のいずれかの項に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項10】
前記ロック機構が、前記ロックピンをギヤに向けて付勢する弾性部材を有してなる請求項1乃至8のいずれかの項に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項11】
前記回転・直動変換機構が、ギヤ減速機構の出力ギヤを支持する回転軸と、その回転軸と同軸上に配置されてハウジングによりスライド自在に支持された外輪部材と、前記回転軸を中心にして回転自在に支持されたキャリアと、そのキャリアにより回転自在に支持されて回転軸の外径面と外輪部材の内径面間に組み込まれた遊星ローラとを有し、前記遊星ローラの外径面に前記外輪部材の内径面に設けられた螺旋突条に噛合する螺旋溝または円周溝を形成し、前記回転軸の回転により、その回転軸との接触摩擦により遊星ローラを回転させてスライド部材としての外輪部材を軸方向に移動させるようにした構成からなる請求項1乃至10のいずれかの項に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項12】
前記回転・直動変換機構が、ギヤ減速機構の出力ギヤを支持する回転軸と、その回転軸と同軸上に配置された円筒状のハウジングと、そのハウジングの内径面と前記回転軸の外径面間に組み込まれた複数の遊星ローラとを有し、前記遊星ローラの外径面に前記回転軸の外径面に設けられた螺旋突条に噛合する円周溝を、螺旋突条と同一のピッチで形成して、その円周溝と螺旋突条の係合により、前記回転軸の回転運動をスライド部材としての遊星ローラの直線運動に変換するようにした構成からなる請求項1乃至10のいずれかの項に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項13】
電動式直動アクチュエータによりブレーキパッドを直線駆動し、そのブレーキパッドでブレーキディスクを押圧して、そのブレーキディスクに制動力を付与するようにした電動式ディスクブレーキ装置において、
前記電動式直動アクチュエータが請求項1乃至12のいずれかの項に記載の電動式直動アクチュエータからなり、その電動式直動アクチュエータのスライド部材に前記ブレーキパッドを連結したことを特徴とする電動式ディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−87889(P2012−87889A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235613(P2010−235613)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】