説明

電動過給機の異常検出装置と検出方法

【課題】電動機の経時劣化を迅速かつより正確に検出する電動過給機の異常検出装置と異常検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】電動機によりコンプレッサを駆動して内燃機関の過給を行う電動過給機の異常検出装置であって、直流電源から前記電動機に供給される電力または電流に対して、電動機の定格回転速度を定める電動機定格回転速度導出手段(61,62)と、前記定格回転速度と実回転速度との差分が閾値以上の場合に異常検出信号を発生する異常有無判定手段(63)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関における吸気通路上に設けられた電動機で駆動される電動過給機の制御、特に電動過給機の異常検出に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を過給して出力増加を図る手段として、ターボチャージャーおよびスーパーチャージャーが知られている。ターボチャージャーは内燃機関の排気ガスで駆動されるタービンによってコンプレッサを駆動し、このコンプレッサで圧縮した空気で過給を行うようになっており、またスーパーチャージャーは内燃機関とコンプレッサをベルトやギア等で繋ぎ、その回転でコンプレッサを駆動し過給を行うようになっている。
【0003】
近年、ターボチャージャーの回転軸に電動機を取り付け、ターボチャージャーの動力をアシストする電動ターボチャージャー、また、吸気通路上に電動機で駆動する過給機を設け、内燃機関に依存せず吸入空気を過給する技術として、電動コンプレッサが開発されている。エンジン回転速度,スロットルポジション等に基づいてドライバの加速要求情報を取得し、要求レベルに応じて係る電動ターボチャージャー、電動コンプレッサなどの電動過給機を動作させることにより、内燃機関の出力が増加するとともに、運転者が要求する加速感に沿った車両の加速の実現が可能となる。
【0004】
係る電動過給機に用いる電動機は、0〜約20万rpmといった広範囲に渡って加減速を繰り返すため、電動機が劣化し、断線及び短絡、また焼き付き及び破損などの故障に至る可能性がある。このため、電動過給機の異常を迅速に検出する技術が知られている。
【0005】
例えば下記特許文献1によれば、直流電源から電動機に供給される電力もしくは電流の所定時間内における平均値を求め、予め記憶されている電力もしくは電流の定格値との差分を算出して、この差分が閾値以上の場合に、電動機に異常有りと判定している。
【0006】
電動機は、回転を繰り返すことによってベアリングが劣化した場合、徐々に回転し難くなっていく。劣化により回転が困難になっても、速度フィードバック制御を行っていれば、目標回転速度を定めて目標回転速度と実回転速度の差分が小さくなるように、直流電源から電動機に電力を供給するため、回転速度は維持されるが、通常とは供給する電力が異なる。
また、電動過給機に用いる電動機を構成する回転子の抵抗は、高回転に対応すべく、低く設計されている。このため、劣化により僅かに抵抗が変化した場合、力率や出力に大きな変動が生じてしまう。
以上のことから、特許文献1に示されるように、直流電源から供給される電力の差異に着目した手法は、迅速かつ正確に電動機の異常検出を行なうために有効と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−220124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、電動機の電力は運転条件によって異なる。例えば、急峻な山道などを走行し、加減速を頻繁に行った場合は、電動機を頻繁に駆動するため消費電力は大きい。これに対し、郊外などを一定速度で走行し、あまり加減速を行わないような場合は、電動機をほとんど駆動させないため消費電力は小さい。したがって、バッテリから供給される電力の差異に着目するとともに、運転条件の違いを考慮することが重要であるといえる。
【0009】
上記特許文献1では、所定時間内における電力及び電流の平均値を求め、予め記憶されている定格値との差分により、異常判定を行なう旨の記載はあるが、運転条件の違いに関して言及されていない。運転条件の違いによって、実際には電動機が劣化していない場合にも電力及び電流の平均値に差異が生じてしまう。また、平均値を求めるための所定時間を十分に長くすれば、運転条件の違いによる影響は少なくなるが、異常検出に遅れが生じてしまう。
【0010】
この発明は上記の課題を解消するためになされたもので、電動機の経時劣化を迅速かつより正確に検出する電動過給機の異常検出装置とその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、電動機によりコンプレッサを駆動して内燃機関の過給を行う電動過給機の異常検出装置であって、直流電源から前記電動機に供給される電力または電流に対して、電動機の定格回転速度を定める電動機定格回転速度導出手段と、前記定格回転速度と実回転速度との差分が閾値以上の場合に異常検出信号を発生する異常有無判定手段と、を備えたことを特徴とする電動過給機の異常検出装置およびその方法にある。
【発明の効果】
【0012】
この発明では、電動機の経時劣化を迅速かつより正確に検出する電動過給機の異常検出装置と検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施の形態による電動過給機の異常検出装置に関係する部分の内燃機関の制御システムの概略的な構成図である。
【図2】この発明による電動過給機の異常検出装置を含む電動過給機の制御装置の制御ブロック図である。
【図3】この発明による電動過給機の異常検出装置を含む電動機制御装置の動作フローチャートである。
【図4】コンプレッサの同一の仕事量における空気流量と過給圧比の関係を示した図である。
【図5】電動機の同一の回転速度ごとの空気流量と過給圧比の関係を示した図である。
【図6】この発明による定格過給圧(比)と空気流量と直流電源からの供給電力との関係を示す定格過給圧(比)マップの一例を示す図である。
【図7】この発明による定格過給圧(比)と空気流量と定格回転速度との関係を示す定格回転速度マップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明による電動過給機の異常検出装置では、直流電源から駆動装置に供給される電力及び電流、空気流量に基づき、定格過給圧を定め、更に空気流量と定格過給圧に基づき、電動機の定格回転速度を定め、定格回転速度と実回転速度との差分により異常を判定することにより、電動機の経時劣化を迅速かつより正確に検出する。
【0015】
以下、この発明による電動過給機の異常検出装置を各実施の形態に従って図面を用いて説明する。なお、各実施の形態において、同一もしくは相当部分は同一符号で示し、重複する説明は省略する。
【0016】
実施の形態1.
図1は、この発明の一実施の形態による電動過給機の異常検出装置に関係する部分の内燃機関の制御システムの概略的な構成図である。
【0017】
この実施の形態で説明する内燃機関(エンジン)1は4気筒のエンジンであり、後述する電動機12によりコンプレッサ9を駆動し、より多くの吸入空気を過給して、高出力化だけでなく低燃費化をも実現し得るものである。
【0018】
尚、適用されるエンジン1に、気筒数の制限はない。またエンジンの燃焼方式についても制限はなく、シリンダ内に燃料を噴射する直墳エンジン、およびスロットルバルブ7後のインテークマニホールド2内に燃料を噴射するポート噴射エンジンに適用することも可能である。
【0019】
大気中から取り込まれた空気は、まず、吸気管42においてエアクリーナー41によって大気中の塵埃を取り除かれる。次に、電動機12によって駆動するコンプレッサ9(電動機12とコンプレッサ9で電動過給機を構成)を介して、空気が圧縮される。ここで圧縮された空気は、圧力上昇により温度が上昇しているため、充填効率を向上させる目的でインタークーラ8で冷却を行う。この空気あるいはポート噴射エンジンの場合は混合気が、アクチュエータ6によって駆動されるスロットルバルブ7のスロットルポジションに応じて、エンジン内に吸入される。
【0020】
エンジンに吸入後に混合気に着火することで、エンジン内のシリンダー(図示省略)が押し下げられ、クランク(図示省略)によりシリンダーの上下運動を回転運動に変換し、車両の推進力となる動力として利用される。
【0021】
エンジン1での燃焼後の排気ガスは、エギゾーストマニホールド19を介し、さらに排気ガス浄化触媒(図示省略)などが一体となっているマフラー45により浄化され、大気中に排出される。
【0022】
電動機制御装置13はエンジン制御装置14から制御信号を受けて、電動機電力変換装置50を介して電動機12の制御を行う。また電動機12はモータ位置センサ46を備えている。直流電源であるバッテリ49は電動機電力変換装置50に直流の電力供給を行うと共にバッテリ電流センサ47、バッテリ電圧センサ48を備えている。電動機制御装置13は表示手段としての警告灯52を備えている。エンジン制御装置14は、スロットルバルブ7のアクチュエータ6のスロットルポジションセンサ20、アクセルペダルのアクセル開度センサ15(アクセル開度検出手段)、電動過給機の出力側通路43に設けられた空気流量検出(センサ)手段5、エンジン回転速度検出(センサ)手段21等から信号を受ける。
【0023】
図2は、この発明による電動過給機の異常検出装置を含む電動過給機の制御装置の制御ブロック図である。電動機制御装置13は、CPU,RAM,ROMなどからなる算術論理演算可能回路(マイクロコンピュータ等)である。駆動可否決定手段39は、エンジン制御装置(以下、エンジンECUと記す)14から出力された電動機12の駆動指令信号,電動機制御装置13のこの発明による電動過給機の異常検出装置に相当する異常検出手段60が出力する異常検出信号に基づき、駆動可否を決定し、電動機12の駆動指令もしくは停止指令を示す駆動可否信号を出力する。
【0024】
目標回転速度演算手段31は、エンジンECU14から出力されたスロットルポジション、空気流量、内燃機関の回転速度に基づき、目標回転速度値を定め出力する。実回転速度検出手段32はモータ位置センサ46からのモータ位置信号に基づき、実回転速度値を検出し出力する。差分器51−Aが求めた目標回転速度値と実回転速度値との差分に基づき、電動機制御量演算手段40は電動機制御量を出力する。
電動機電力変換装置50は、駆動可否決定手段39から駆動指令信号(駆動を示す駆動可否信号)が出力されている場合に限り、バッテリ49からの直流電力を電動機制御量に応じた交流電力に変換して電動機12に供給し、コンプレッサ9を駆動する。
【0025】
バッテリ電流検出手段33はバッテリ電流センサ47からバッテリ電流を、バッテリ電圧検出手段34はバッテリ電圧センサ48からバッテリ電圧を検出する。バッテリ電流とバッテリ電圧に基づき、バッテリ電力検出手段35は、バッテリ電力を求め出力する。
【0026】
ここで、電動機12は0〜約20万rpmといった広範囲に渡って加減速を繰り返すため、電動機が劣化し、断線及び短絡、また焼き付き及び破損などといった故障に至る可能性がある。そこで、電動機の異常を迅速に正確に検出すべく、異常検出手段60を備える。
【0027】
電動機12は回転を繰り返すことによってベアリングが劣化した場合、徐々に回転し難くなっていく。劣化により回転が困難になっても、速度フィードバック制御を行っていれば、目標回転速度を定めて目標回転速度と実回転速度の差分が小さくなるように、バッテリ49から電動機12に電力を供給するため、回転速度は維持されるが、通常とは供給する電力が異なる。
また、電動機12を構成する回転子の抵抗は、高回転に対応すべく、低く設計されている。このため、劣化により僅かに抵抗が変化した場合、力率や出力に大きな変動が生じてしまう。
以上のことから、バッテリ49から供給される電力の差異に着目した手法は、迅速かつより正確に異常検出を行なうために有効と考えられる。
【0028】
また、運転条件によって電動機12に供給される電力は異なる。例えば、急峻な山道などを走行し、加減速を頻繁に行った場合は、電動機を頻繁に駆動するため消費電力は大きい。これに対し、郊外などを一定速度で走行し、あまり加減速を行わないような場合は、電動機12をほとんど駆動させないため消費電力は小さい。したがって、バッテリ49から供給される電力の差異に着目するとともに、運転条件の違いを考慮することが重要であるといえる。
【0029】
式(1)に示すとおり、バッテリからの供給電力のうち、電動機の損失、メカロス(機械的損失)などを差し引いた値がコンプレッサ9の仕事である。
【0030】
コンプレッサ仕事=供給電力−(電動機の損失+インバータ損失+メカロス) (1)
【0031】
また、式(2)に示すとおり、コンプレッサ9の仕事は、過給圧と空気流量の積で求められるため、すなわち、バッテリからの供給電力と空気流量に対し、電動機12の正常動作時に出力されるべき過給圧が一意に定まる。
【0032】
コンプレッサ仕事=過給圧*空気流量 (2)
【0033】
図4は、横軸を空気流量、縦軸を過給圧比とし、コンプレッサ9の同一の仕事量ごとに空気流量と過給圧比の関係を示した図である。図5は、横軸を空気流量、縦軸を過給圧比とし、電動機12の同一の回転速度ごとに空気流量と過給圧比の関係を示した図である。なお、空気流量の単位は[m/s]を意味する。
【0034】
上述のとおり、バッテリ49からの供給電力と空気流量に基づき、電動機12の正常動作時に出力されるべき過給圧比が求まり、過給圧比と空気流量より、電動機12の正常動作時に出力されるべき回転速度が一意に定まる。
【0035】
したがって、異常検出手段60は、電力に対する定格過給圧演算手段61、電力に対する定格回転速度演算手段62、差分器51−B、異常有無判定手段63により構成される。また、電力に対する定格過給圧演算手段61と電力に対する定格回転速度演算手段62で電動機定格回転速度導出手段を構成する。
【0036】
電力に対する定格過給圧演算手段61は、バッテリ電力、空気流量に応じた定格過給圧(比)の値をROM内にマップを備えており、バッテリ電力検出手段35の出力(直流電源からの供給電力)と、エンジンECU14から出力された空気流量に応じて読み出した値を定格過給圧(比)として出力する。定格過給圧(比)マップの一例を図6に示す。縦軸が定格過給圧(比)、横軸が空気流量、奥行方向が直流電源(バッテリ)からの供給電力を示す(但し図6は斜視図)。
【0037】
また、電力に対する定格回転速度演算手段62は、過給圧(比)、空気流量に応じた定格回転速度の値をROM内にマップを備えており、電力に対する定格過給圧演算手段61の出力と、エンジンECU14から出力された空気流量に応じて読み出した値を定格回転速度として出力する。定格回転速度マップの一例を図7に示す。縦軸が定格過給圧(比)、横軸が空気流量、奥行方向が定格回転速度を示す(但し図7は斜視図)。
【0038】
差分器51−Bは、電力に対する定格回転速度演算手段62の出力と実回転速度検出手段32の実回転速度値との差分を出力する。異常有無判定手段63は、差分器51−Bの出力が閾値以上の場合、電動機12の異常を検出し異常検出信号を出力する。異常有無判定手段63の出力に基づいて、駆動可否決定手段39が駆動停止信号を出力し、電動機12の駆動を停止するとともに、警告灯52を点燈することにより、運転者に電動機12に異常が発生したことを教示する。
【0039】
なお、エンジンECU14は、図1に示すスロットルバルブ7のアクチュエータ6に設けられたスロットルポジションセンサ20からスロットルポジション(スロットル開度)を得る。ここで、スロットルポジションの代わりに、アクセルペダルのアクセル開度センサ15のアクセル開度を用いてもよい。スロットルバルブ7はいわゆる電子制御式スロットルバルブであり、ドライバがアクセルペダル15を踏み込むとアクセルペダル15の操作量をセンサで検出し、これに応じてアクチュエータ6が動作し、駆動しスロットルポジションを変化させるため、スロットルポジションはアクセル開度とほぼ同義とみなせる。しかしながら加速時などの過渡期においては、スロットルポジションが、アクセル開度と等しくなるまでにはいくらかの時間を要する。アクセル開度を用い制御をすれば、ドライバの加速要求に対する応答性が向上する。
【0040】
図3には電動機制御装置13の動作フローチャートを示し、以下に具体的な動作を説明する。図3はスタートからエンドまでS101からS114を含んでおり、電動機制御装置13は一連の処理を繰り返し行う。
【0041】
まず、ステップS101でエンジンECU14の出力を、空気流量値,エンジン回転速度値,駆動指令値,スロットルポジション値としてマイクロコンピュータのメモリ(図示しない)に書き込み記憶する。
【0042】
ステップS102ではメモリに記憶された異常検出値を得る。なお、初期値は異常なしを示す。
【0043】
ステップS103では実回転速度検出手段32でモータ位置センサ46からの信号に従って実回転速度値を演算し、メモリに書き込み記憶する。
【0044】
ステップS104ではバッテリ電流検出手段33、バッテリ電圧検出手段34でバッテリ電流センサ47の出力よりバッテリ電流値,バッテリ電圧センサ48の出力よりバッテリ電圧値をメモリに書き込み記憶する。
【0045】
次のステップS105では駆動可否決定手段39が、メモリに記憶された異常検出値,駆動指令値より電動機(モータ)駆動の可否を判断する。YES(異常検出値(異常無し),駆動指令値(有り))の時はステップS106へ、判断結果がNO(異常検出値(異常有り)または駆動指令値(0または無し))の時はステップS107へ進む。ステップS107では駆動可否決定手段39が、駆動可否信号として駆動指令停止指令を出力し、ステップS101に戻る。
【0046】
ステップS106では目標回転速度演算手段31が、メモリに記憶された空気流量値,エンジン回転速度値,スロットルポジション値から目標回転速度値を演算し、ステップ108へ進む。
【0047】
ステップS108ではバッテリ電力検出手段35が、メモリに記憶されたバッテリ電流値,バッテリ電圧値からバッテリ電力を演算し、メモリに記憶する。
【0048】
ステップS109では電力に対する定格過給圧演算手段61が、メモリに予め格納された図6に示す定格過給圧マップを参照し、メモリに記憶されたバッテリ電力、空気流量に応じた定格過給圧(比)を読み出し、メモリに記憶する。
【0049】
ステップS110では電力に対する定格回転速度演算手段62が、メモリに予め格納された図7に示す定格回転速度マップを参照し、メモリに記憶された定格過給圧、空気流量に応じた定格回転速度を読み出し、メモリに記憶する。
【0050】
ステップS111では差分器51−Bで、メモリに記憶された定格回転速度と実回転速度の差分を演算し、メモリに記憶する。
【0051】
ステップS112では異常有無判定手段63で、メモリに記憶された定格回転速度と実回転速度の差分が、メモリに予め記憶された閾値以上であるか否かを判断する。判断結果がYES(閾値以上)の時はステップS113へ進む。一方、判断結果がNO(閾値未満)の時は異常なしと判定され、ステップS114に進む。
【0052】
ステップS113では異常有無判定手段63で、異常検出信号を出力し、異常検出値としてメモリに書き込み記憶する。また異常検出信号に応じて、警告灯52を点燈させて運転者に過給機の異常を教示する。
【0053】
ステップS114では差分器51−Aで、目標回転速度値と実回転速度値の差分を演算し、電動機制御量演算手段40で、演算された差分に従って電動機制御量を定めて出力する。電動機電力変換装置50は、電動機制御装置13の駆動可否決定手段39から駆動停止指令が出力されていない場合に限り、電動機制御量演算手段40から出力される電動機制御量信号に応じて、バッテリ49からの直流電力を交流に変換し、電動機(モータ)12に供給する。
【0054】
以上のように、直流電源であるバッテリから電動過給機の駆動装置であり電動機(モータ)に供給される電力に対し、電動機の定格回転速度を定め、定格回転速度値と実回転速度値との差分の閾値との比較により異常を判定することにより、電動機の経時劣化による異常を迅速かつより正確に検出し、断線及び短絡、焼き付きや破損などを防ぐことが可能となる。
【0055】
なお、上記実施の形態では、バッテリ電流検出手段33の出力と、バッテリ電圧検出手段34の出力に基づき、バッテリ電力検出手段35においてバッテリ電力を求めて出力し、電力に対する定格過給圧演算手段61において、バッテリ電力検出手段35の出力と空気流量に基づき定格過給圧を定め出力し、電力に対する定格回転速度演算手段62において、電力に対する定格過給圧演算手段61の出力と空気流量に基づき電力に対する定格回転速度を求め出力することとした。しかしながら、バッテリ電流検出手段33の出力に基づき、電流に対する定格過給圧を求め、電流に対する定格過給圧と空気流量に基づき、電流に対する定格回転速度を求め出力することとしてもよい。異常検出のためにバッテリ49の電力を演算することなく、より簡易な構成で定格回転速度を演算することができる。
【0056】
この場合、図2におけるバッテリ電圧センサ48、バッテリ電圧検出手段34、バッテリ電力検出手段35は不要となる。さらに電力に対する定格過給圧演算手段61の代わりに電流に対する定格過給圧演算手段を設け、また図6の定格過給圧(比)マップの代わりに、図6の定格過給圧(比)マップの奥行方向が直流電源(バッテリ)からの供給電流[I]を示すものを予め準備してメモリに格納しておく。
【0057】
また、上記実施の形態では、電力に対する定格過給圧演算手段61において、空気流量と、バッテリ電力検出手段35の出力に応じて、電力に対する定格過給圧を求めることとしたが、バッテリ電力検出手段35の出力になまし処理を加えた後、定格過給圧演算手段61に入力する構成としてもよい。なまし処理は、電力の変化量はそのままに時間的にシフトするよう、例えば出力遅延回路等により、一定時間経過後に入力することとしてもよく、また一次のローパスフィルタなどで構成することとしてもよい。バッテリ49からの電力供給に対し、実際に電動機12が駆動するまでには、時間遅れが生じるため、バッテリ電力に対し、なまし処理を加えた後に異常判定に使用することにより、異常検出の精度を向上させることができる。
【0058】
この場合、電力に基づき定格回転速度を求める場合にはバッテリ電力検出手段35の出力側に、電流に基づき定格回転速度を求める場合には例えばバッテリ電流検出手段33の出力側に、すなわち定格過給圧演算手段61と定格回転速度演算手段62で構成される電動機定格回転速度導出手段の入力側に、出力遅延や一次のローパスフィルタの機能を有する出力または入力なまし処理手段を設ける。
【0059】
加えて、上記実施の形態では、異常有無判定手段63の異常判定に用いる閾値について言及しなかったが、バッテリ電流検出手段33の出力に基づき、バッテリ電流の変化率を定め、バッテリ電流変化率が大きいほど閾値を大きくすることとしてもよい。バッテリ電流の変化、すなわちトルク変動により系が不安定となるが、閾値を大きくすることにより、異常検出の精度を向上することができる。
【0060】
この場合、異常有無判定手段63が、さらにバッテリ電流検出手段33の出力に基づきバッテリ電流の変化率を求めるバッテリ電流変化率演算手段と、求めたバッテリ電流変化率に従って閾値を調整する(電流変化率が大きいほど異常判定に用いる閾値を大きくする)閾値調整手段と、を含むようにする。
【0061】
なお、上記実施の形態では異常有無判定手段63は、定格回転速度値と実回転速度値との差分が所定の閾値以上の場合、異常を検出することとしているが、複数の閾値を準備しておき、段階的に異常を検出することとしてもよい。例えば、第一の閾値と、第二の閾値を有し、第一の閾値は第二の閾値より小さな値とすることにより、第一の閾値に基づき軽度の異常、第二の閾値に基づき重度の異常を検出し、段階別に警告灯52を点燈(例えば異なる点燈パターン)し、運転者に教示することが可能である。運転者が異常を早期に認識し、修理を行うことにより、重大な故障を未然に防ぐことができる。
【0062】
この場合には異常有無判定手段63は、各閾値毎に異なる異常検出信号を出力し、駆動可否決定手段39は所定の段階以上の異常検出信号が入力された時に停止指令を示す駆動可否信号を出力するようにする。
【0063】
また、上記実施の形態では、異常を検出した場合、警告灯52により、運転者に異常を教示することとしているが、アラームまたはブザー等を使用し、運転者に異常を教示することとしてもよく、運転者に対し視覚だけでなく聴覚に訴えることができ、運転者はより迅速に異常を認識することが可能となる。
【0064】
この他、電動過給機は排気タービンを備え、電気エネルギーと排気エネルギーで過給されるいわゆる電動ターボチャージャーであってもよい。
【0065】
以上、この発明の変形例に関して説明したが、この発明はこれらの変形例に限られるものではなく、上記説明の原理の範囲内において、種々の変形が可能であることは当業者にとって明らかある。
【0066】
この発明において、直流電源から駆動装置に供給される電力及び電流に対し、電動機の定格回転速度を定め、定格回転速度と実回転速度との差分により異常を判定することにより、電動機の経時劣化、断線及び短絡、焼き付きや破損等といった異常を、迅速かつより正確に検出することができる電動過給機の異常検出装置とその方法を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
1 エンジン、2 インテークマニホールド、5 空気流量検出(センサ)手段、6 アクチュエータ、7 スロットルバルブ、8 インタークーラ、9 コンプレッサ、12 電動機、13 電動機制御装置、14 エンジン制御装置、15 アクセル開度センサ(アクセルペダル)、19 エギゾーストマニホールド、20 スロットルポジションセンサ、21 エンジン回転速度検出(センサ)手段、31 目標回転速度演算手段、32 実回転速度検出手段、33 バッテリ電流検出手段、34 バッテリ電圧検出手段、35 バッテリ電力検出手段、39 駆動可否決定手段、40 電動機制御量演算手段、41 エアクリーナー、42 吸気管、43 電動過給機の出力側通路、45 マフラー、46 モータ位置センサ、47 バッテリ電流センサ、48 バッテリ電圧センサ、49 バッテリ、50 電動機電力変換装置、51−A,51−B 差分器、52 警告灯、60 異常検出手段、61 定格過給圧演算手段、62 定格回転速度演算手段、63 異常有無判定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機によりコンプレッサを駆動して内燃機関の過給を行う電動過給機の異常検出装置であって、直流電源から前記電動機に供給される電力または電流に対して、電動機の定格回転速度を定める電動機定格回転速度導出手段と、前記定格回転速度と実回転速度との差分が閾値以上の場合に異常検出信号を発生する異常有無判定手段と、を備えたことを特徴とする電動過給機の異常検出装置。
【請求項2】
前記電動機定格回転速度導出手段が前記電動機に供給される電力に対して電動機の定格回転速度を定め、
前記内燃機関の空気流量に基づき、前記電力に対して出力されるべき正常な過給圧を電力に対する定格過給圧として定める定格過給圧演算手段と、
前記電力に対する定格過給圧に基づき、前記電力に対して出力されるべき正常な回転速度を電力に対する定格回転速度として定める定格回転速度演算手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動過給機の異常検出装置。
【請求項3】
前記電動機定格回転速度導出手段が前記電動機に供給される電流に対して電動機の定格回転速度を定め、
前記内燃機関の空気流量に基づき、前記電流に対して出力されるべき正常な過給圧を電流に対する定格過給圧として定める第2の定格過給圧演算手段と、
前記電流に対する定格過給圧に基づき、前記電流に対して出力されるべき正常な回転速度を電流に対する定格回転速度として定める第2の定格回転速度演算手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動過給機の異常検出装置。
【請求項4】
前記直流電源から供給される電力または電流の変化に対する電動機の動作遅れを考慮して、前記電動機定格回転速度導出手段に入力される供給される電力または電流を示す信号を遅らせるなまし処理手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電動過給機の異常検出装置。
【請求項5】
前記直流電源から供給される電力または電流の変化に対する電動機の動作遅れを考慮して、前記異常有無判定手段が、バッテリ電流を示す信号に基づきバッテリ電流の変化率を求めるバッテリ電流変化率演算手段と、求めたバッテリ電流変化率に従って電流変化率が大きいほど異常判定に用いる閾値が大きくなるように閾値を調整する閾値調整手段と、を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電動過給機の異常検出装置。
【請求項6】
前記異常有無判定手段が、異常検出信号に従って異常を知らせる表示手段を備えることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の電動過給機の異常検出装置。
【請求項7】
前記異常有無判定手段の異常検出信号に基づいて駆動停止信号を出力する駆動可否決定手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項に記載の電動過給機の異常検出装置。
【請求項8】
電動機によりコンプレッサを駆動して内燃機関の過給を行う電動過給機の異常検出方法であって、直流電源から前記電動機に供給される電力または電流に対して、電動機の定格回転速度を定める工程と、前記定格回転速度と実回転速度との差分が閾値以上の場合に異常と判定する工程と、を備えたことを特徴とする電動過給機の異常検出方法。
【請求項9】
前記異常判定に基づいて電動過給機の駆動を停止させる工程をさらに備えたことを特徴とする請求項8に記載の電動過給機の異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−72301(P2013−72301A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210114(P2011−210114)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】