説明

電圧制御発振器

【課題】増幅用のトランジスタに帰還容量成分C1及び結合容量成分C2の直列回路を接続したコルピッツ発振回路を用いた電圧制御発振器において、部品点数の削減に寄与できる技術を提供すること。
【解決手段】トランジスタ21のベースに接続された第1の伝送線路41とトランジスタ21のエミッタとアースとの間に接続された第2の伝送線路42と、を備え、第1の伝送線路41及び第2の伝送線路42を互いに接近させて両者の間に線路間容量成分を形成する。この線路間容量成分を前記帰還容量成分C1として利用すると共に第2の伝送線路42とアースとの間に形成される寄生容量成分を前記結合容量成分C2として利用する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルピッツ発振回路を用いた電圧制御発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は、コルピッツ発振回路を用いた電圧制御発振器の回路構成の概略を示す図である。制御電圧は、可変容量素子であるバリキャップダイオードVDを介してコンデンサ101及びインダクタンス素子102を含む共振部に供給される。前記コンデンサ101は増幅部であるNPN型トランジスタ103のベースに接続され、前記ベースとコンデンサ101との接続点とアースとの間には、帰還容量であるコンデンサC10及び結合容量であるコンデンサC20の直列回路が接続されている。この例では、共振部により共振した周波数信号がトランジスタ21により増幅されて、結合容量であるコンデンサC20を介して共振部に帰還することにより、発振ループが構成されている。
【0003】
この種の電圧制御発振器は、例えば携帯端末などの通信機器に使用されるが、機器の小型化に伴って配置スペースの狭小化が要求され、このため部品搭載数を低減して回路を簡素化するという要請がある。
【0004】
特許文献1には、全体がマイクロストリップ線路で構成された高周波発振器において、平行に形成された2つのマイクロストリップ線路からなる結合線路を用いた技術が記載されている。また特許文献2には、互いに平行に伸びるマイクロストリップラインからなる結合線路を用いた誘電体共振器が記載されている。これら特許文献1、2は、上記の要請を解決するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−363919(図1、段落0015)
【特許文献2】特開2003−347845(図6及び段落0051)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、増幅用のトランジスタに帰還容量成分及び結合容量成分の直列回路を接続したコルピッツ発振回路を用いた電圧制御発振器において、部品点数の削減に寄与できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、共振部にベースが接続された増幅用のトランジスタと、このトランジスタのベースとアースとの間に接続されると共に互いに直列に接続され、その間が前記トランジスタのエミッタに接続された帰還容量成分及び結合容量成分と、を備えたコルピッツ発振回路を用いた電圧制御発振器において、
前記トランジスタのベースに接続された第1の伝送線路と、
前記トランジスタのエミッタとアースとの間に接続された第2の伝送線路と、を備え、
前記第1の伝送線路及び第2の伝送線路を互いに接近させて両者の間に線路間容量成分を形成し、この線路間容量成分を前記帰還容量成分として利用すると共に、第2の伝送線路とアースとの間に形成される寄生容量成分を前記結合容量成分として利用するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、増幅用のトランジスタに帰還容量成分及び結合容量成分の直列回路を接続したコルピッツ発振回路を用いた電圧制御発振器において、第1の伝送線路及び第2の伝送線路を互いに接近させて両者の間に線路間容量成分を形成し、この線路間容量成分を前記帰還容量成分として利用すると共に、第2の伝送線路とアースとの間に形成される寄生容量成分を前記結合容量成分として利用するように構成しているため、両容量成分を構成する素子を削減できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る電圧制御発振器の一実施形態の回路構成示す回路図である。
【図2】前記実施形態に用いられる結合線路の等価回路を示す回路図である。
【図3】前記実施形態に係る電圧制御発振器の概観を示す概観図である。
【図4】前記実施形態の回路の要部について基板に実装した状態の一例を示す平面図である。
【図5】前記実施形態に用いられる結合線路を示す説明図である。
【図6】本発明に係る電圧制御発振器の他の実施形態の回路構成示す回路図である。
【図7】本発明に係る電圧制御発振器の更に他の実施形態の回路構成示す回路図である。
【図8】本発明の動作を確認するために行ったシミュレーションに基づく特性図である。
【図9】本発明の動作を確認するために行ったシミュレーションに基づく特性図である。
【図10】従来のコルピッツ発振回路を適用した電圧制御発振器の回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明に係る電圧制御発振器の実施形態の全体構成を示す回路図である。共振部1は、導電線路からなるインダクタンス素子11と容量素子であるコンデンサ12との直列共振用の直列回路を備えている。インダクタンス素子11には、可変容量素子であるバリキャップダイオード13、14及び容量素子であるコンデンサ15からなる直列回路が並列に接続されていて、並列共振用の並列回路を構成している。即ちこの共振部1は、前記直列回路の直列共振周波数(共振点)と前記並列回路の並列共振周波数(反共振点)とを有しており、共振点の周波数により発振周波数が決まる。例えば共振点が反共振点よりも大きくなるように各回路要素の定数が設定されており、このように反共振点を持たせることにより共振点付近の周波数特性が急峻になる。
【0011】
16は制御電圧用の入力端子であり、この入力端子16に供給される制御電圧によりバリキャップダイオード13及び14の容量値が調整され、これにより前記並列回路の反共振点が移動し、その結果共振点も移動して発振周波数が調整される。17は電圧安定化用のコンデンサ、18、19はバイアス用のインダクタである。
【0012】
また共振部1の後段側には、増幅部をなすNPN型トランジスタ21が設けられており、このトランジスタ21は、前記コンデンサ12にベースが接続されている。トランジスタ21のコレクタは、高周波カット用のインダクタンス素子31、及びトランジスタ21のコレクタ−エミッタ間の電位を決める抵抗素子32の直列回路を介して電源端子33に接続され、この電源端子33とアースとの間にはトランジスタ21のベース電位を決めるための抵抗素子34、35の直列回路が接続されている。
【0013】
抵抗素子34、35の中点とトランジスタ21のベースとの間には、第1の伝送路41が接続されている。またトランジスタ21のエミッタとアースとの間には、第2の伝送路42、高周波カット用のインダクタンス素子43及びトランジスタ21のエミッタ電流を決めるための抵抗素子44が接続されている。なお、各部を特定するために使用している「素子」という用語は、回路上その機能を発揮させる部位を意味し、独立した部品に限定されるものではなく、例えば導電路の抵抗値や形状を他の部位と変えることで構成する場合なども含まれる。
【0014】
第1の伝送路41及び第2の伝送路42は、後述するように基板に互いに平行に接近して配置され、両者の間に適切な容量値の線路間容量成分が形成されるように構成されている。第1の伝送路41及び第2の伝送路42は、例えばマイクロストリップ線路、ストリップ線路、コプレナ線路などにより構成される。
この容量値は、図10に示した帰還容量素子C10の容量値に相当する値であり、容量値が形成されている様子を図2(a)に模式的に示す。また第2の伝送路42はアースとの間に寄生容量成分を形成しており、この寄生容量成分の容量値は、図10に示した結合容量素子C20の容量値に相当する値である。
【0015】
従って図1におけるトランジスタ21の周辺の回路は、図2(b)に示す回路と等価である。C1、C2を夫々帰還容量成分及び結合容量成分という用語を用いて以降の説明を行う。図2(b)に示すように、トランジスタ21のエミッタからの高周波電流の一部は帰還容量成分C1を介してトランジスタ21のベースに帰還されると共に、高周波電流の一部は結合容量成分C2を介して前記共振部1に戻る。このような回路では、外部から制御電圧が入力端子16に入力されると、共振部1及びトランジスタ21からなる発振ループにより前記共振点の周波数例えば10GHzで発振する。
【0016】
図1に戻って22はバッファアンプであり、トランジスタ21及びバッファアンプ22は、IC回路部であるICチップ23の中に形成されている。図3は、この実施形態の電圧制御発振器の概観を示す斜視図である。51は絶縁基板上に配線を形成したベース基板であり、52は抵抗素子やインダクタンス素子などの部品を代表して模式的に示してある。T1〜T3はICチップ23の端子が装着される端子部を示している。絶縁基板としては例えばATカット板の水晶を用いることができる。絶縁基板(水晶)51の特性は、誘電率εが3.8程度、電気エネルギーの損失(誘電正接:tanδ)が0.00008程度となっている。従って、このベース基板5のQ値は、12500(=1/0.00008)程度となっている。
【0017】
図4はベース基板51の一部の領域を切り欠いて拡大して描画しており、ICチップ23がベース基板5に装着されている状態を模式的に表すためにICチップ23の輪郭を点線で示し、ICチップ23の端子部T1、T2を白丸で記載している。
ベース基板51上には図4に示すように、導電線路6とこの導電線路6から離間して配置された接地電極61とが形成されている。これら導電線路6及び接地電極61は例えばCr(クロム)とCu(銅)とが下側からこの順番で積層された金属膜により形成されたコプレナ線路に相当する。接地電極61に相当する部分はハッチングを記載し、また導電線路6は前記ハッチングよりも線間隔の狭いハッチングを記載してある。
【0018】
図4中、図1に示す符号と同じ符号が示しているものは、対応する素子あるいは成分を模式的に記載したものである。第1の伝送路41及び第2の伝送路42の寸法の一例を図5に示すと、第1の伝送路41の幅W1は0.1mm、長さLは2.5mm、第2の伝送路41の幅W2は0.5mm、長さLは2.5mm、であり、伝送路41、42の離間距離Dは0.01mmである。また例えば帰還容量C1及び結合容量は夫々3pF及び4pFであり、発振周波数は例えば8GHz〜9GHzである。
【0019】
上述実施の形態では、前記第1の伝送線路41及び第2の伝送線路42を互いに接近させて両者の間に線路間容量成分を形成し、この線路間容量成分を帰還容量成分C1として利用し、また第2の伝送線路42とアースとの間に形成される寄生容量成分を結合容量成分C2として利用するように構成している。このためこれら容量成分を容量素子により構成していた場合に比べて部品点数を減らすことができ、電圧制御発振器の設置スペースの狭小化を図る上で有効である。
【0020】
また第1の伝送路41の配置については、図1の配置に限らず、図6に示すように第1の伝送路41の一端側をトランジスタ21のべースに接続すると共に他端側を抵抗成分35及びコンデンサ12に接続する配置であってもよい。あるいは図7に示すように、第1の伝送路41の一端側をトランジスタ21のべース及び抵抗成分35に接続すると共に他端側をコンデンサ12に接続する配置であってもよい。
【0021】
ここで図6の回路を用い、第1の伝送路41及び第2の伝送路42について図5にて記載した寸法で構成した場合において、制御電圧を0Vから10Vに変化させたときの発振周波数と、100kHz離調時の位相雑音(キャリアに対する位相雑音の相対値)と、をシミュレーションにより求めたところ、図8及び図9に示す結果が得られた。なおインダクタンス素子11は1.4nHに、コンデンサ12は0.12pFに夫々設定している。この結果から分かるように、第1の伝送路41及び第2の伝送路42を用いて帰還容量成分C1及び結合容量成分C2を構成しても、回路が動作することが裏付けられた。
【符号の説明】
【0022】
1 共振部
11 インダクタンス素子
12 コンデンサ
21 増幅部をなすトランジスタ
41 第1の伝送路
42 第2の伝送路
C1 帰還容量成分
C2 結合容量成分
51 ベースプレート
6 導電線路
61 接地電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振部にベースが接続された増幅用のトランジスタと、このトランジスタのベースとアースとの間に接続されると共に互いに直列に接続され、その間が前記トランジスタのエミッタに接続された帰還容量成分及び結合容量成分と、を備えたコルピッツ発振回路を用いた電圧制御発振器において、
前記トランジスタのベースに接続された第1の伝送線路と、
前記トランジスタのエミッタとアースとの間に接続された第2の伝送線路と、を備え、
前記第1の伝送線路及び第2の伝送線路を互いに接近させて両者の間に線路間容量成分を形成し、この線路間容量成分を前記帰還容量成分として利用すると共に、第2の伝送線路とアースとの間に形成される寄生容量成分を前記結合容量成分として利用するように構成したことを特徴とする電圧制御発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−216950(P2012−216950A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80055(P2011−80055)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】