説明

電子デバイスの静電破壊評価方法、装置およびプログラム

【課題】本発明は、電子デバイスの静電破壊評価方法、装置およびプログラムに関し、時間領域反射測定法を用いて、振幅が異なる複数の矩形パルスの印加による観測波形の相互関係に基づき静電破壊耐圧を求める。
【解決手段】第1の矩形パルスおよび該矩形パルスよりも振幅が大きい1つ以上の第2の矩形パルスを生成する矩形パルス生成部31と、第1の矩形パルスの入射波形と反射波形とが重畳された第1の信号波形と、第2の矩形パルスの同様の第2の信号波形とを記憶する波形記憶部32と、第1の信号記憶波形の入射波形単独領域の振幅値と、第2の信号記憶波形の同様の振幅値との振幅比率を算出する振幅比率算出部33と、スケーリング波形生成部34が第1の信号記憶波形を振幅比率に応じて振幅方向に拡大させたスケーリング波形と第2の信号記憶波形との差分演算結果により被試験デバイスのインピーダンス変化を判定して静電破壊耐圧を求める特性変化判定部35とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの静電破壊評価方法、装置およびプログラムに関し、特に、電子デバイスが静電破壊し始める静電気レベルを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイス(半導体部品)が実装される電子機器などの装置の小型・軽量化や高性能化を実現するために、電子デバイスの微細化・高集積化が年々進んでいる状況である。このような微細化に伴って電子デバイス自身においては、静電気放電による静電破壊への耐性(以下、静電破壊耐圧と称する)が低下してきている。
【0003】
そのため、電子デバイスを扱う生産工程においては電子デバイスを静電破壊させないために静電気放電に関する静電気管理が重要となり、その管理基準は電子デバイスの静電破壊開始レベル、言い換えるならば静電破壊耐圧に基づいて決められることから、電子デバイスそれぞれの静電破壊耐圧をより正確に把握することが求められている。
【0004】
LSIや半導体メモリなどの一般的な電子デバイスの静電破壊評価試験では、静電気放電現象を模擬した所定の波形を有する信号をストレス信号として用い、試験対象の電子デバイスである被試験デバイスに対して異なる信号レベルのストレス信号を順次印加し、被試験デバイスが静電破壊に至った直前の印加信号レベルを静電破壊耐圧として求める。
【0005】
ここで言う一般的な電子デバイスの静電破壊評価試験の方法は、静電破壊耐圧が概ね100V以上の電子デバイスを対象として、幾つかの試験規格(例えばESDA(Electro-Static Discharge Asociation 規格)が既に標準化されており、それら規格に基づいて電子デバイスの試験が行われている。
【0006】
一方、磁気ディスクヘッド(例えばGMRヘッド)素子のような静電破壊耐圧が数V以下と著しく低くい特殊な電子デバイスの静電破壊評価試験の方法については、標準化されていないのが現状である。特に磁気ディスクヘッドの製造には著しく多くの工程が有り、それら工程途中での静電気の発生や放電についてのメカニズムが明らかになっていないことから、製造各社それぞれでは独自の異なる静電破壊評価試験の実施によって静電破壊耐圧を求めていると言うのが現状である。
【0007】
上述の標準化された試験規格には人体モデル(HBM:Human Body Model)やマシンモデル(MM:Machine Model)、デバイス帯電モデル(CDM:Charged Device Model)などの代表的な静電気放電発生モデルによる所定の印加パルスが採用されている一方、比較的簡便な方法として、被試験デバイスに対して低電圧の矩形パルスをストレス信号として印加し、試験する方法も行われるようになってきた。
【0008】
そこで従来には、配線やケーブルの絶縁欠陥を検出する方法として、高電圧の交流波形を用いる部分放電法と、低電圧の矩形パルスを印加する時間領域反射測定法(TDR法:Time Domain Reflectometry Method)とを用いて、被試験体へのダメージが無視できる程度以下の電圧レベルの交流波形を順次印加して部分放電(導体相互間が完全にはブリッジしない程度の放電)を誘起させ、欠陥部位からのリターン信号の解析によって非試験体の欠陥部位で発生した部分放電とその欠陥程度を検出すること、および低電圧の矩形パルスを印加し、その反射パルス波形の解析によって被試験体の欠陥状態を検出することとを選択的に切り換えることで自動的に試験するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−345465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術は、部分放電法が選択された場合においては、被試験体へのダメージが無視できる程度以下の電圧レベルでの交流波形の印加とは言うものの部分放電を生じさせることから、被試験体はその部分放電に応じた放電ダメージを少なからず受けるという問題がある。
【0010】
また、TDR法が選択された場合においては、反射パルス波形の解析に基づいて被試験体の欠陥状態を検出するために或る低電圧の矩形パルスを印加することから、TDR法だけでは被試験体の放電破壊耐圧を求めることができないという問題がある。
【0011】
そこで本発明は、時間領域反射測定法を用いて、振幅が異なる複数の矩形パルスの印加による観測波形の相互関係に基づいて静電破壊耐圧を求める電子デバイスの静電破壊評価方法、装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明の電子デバイスの静電破壊評価装置は、時間領域反射測定法(TDR法)を用いて被試験デバイスへの矩形パルスの印加に基づき静電破壊状態を評価する電子デバイスの静電破壊評価装置において、前記矩形パルスである第1の矩形パルスを生成した後、該矩形パルスよりも振幅が大きい1つ以上の第2の矩形パルスを生成する矩形パルス生成手段と、前記第1の矩形パルスの入射波形と該矩形パルスの反射波形とが重畳された第1の信号波形(基準波形)と、前記第2の矩形パルスの入射波形と該矩形パルスの反射波形とが重畳された第2の信号波形(比較対象波形)とを記憶する波形記憶手段と、前記記憶された第1の信号記憶波形の時間軸特定領域(例えば、入射波形単独領域または反射波形単独領域あるいは入射波形と反射波形との波形重畳領域のいずれか1つの領域内の特定時間領域)の振幅値と、前記記憶された第2の信号記憶波形の前記時間軸特定領域の振幅値との振幅比率を算出する振幅比率算出手段と、前記第1の信号記憶波形を前記振幅比率に応じて振幅方向に拡大させたスケーリング波形を生成するスケーリング波形生成手段と、該スケーリング波形と前記第2の信号記憶波形とを差分演算し、該演算結果に基づいて被試験デバイスのインピーダンス変化を判定する特性変化判定手段と、を有する構成とする。
【0013】
第2の発明の電子デバイスの静電破壊評価装置は、前記第1の発明の静電破壊評価装置において、前記矩形パルス生成手段は、前記第1の矩形パルスの生成完了から所望時間を経過させた後に前記第2の矩形パルスを生成することを特徴とする。
【0014】
前記第1の発明によれば、第1の矩形パルスによる第1の信号記憶波形のスケーリング波形と、第2の矩形パルスによる第2の信号記憶波形との差分演算の結果に基づき、第2の矩形パルスの反射波形の不規則変化を捉えて被試験デバイスのインピーダンス変化の発生を判定できることから、被試験デバイスが放電破壊し始める直前の静電破壊耐圧が検出できる。
【0015】
また、前記第2の発明によれば、第1の矩形パルスの生成と第2の矩形パルスの生成との間に所望の時間間隔が設けられることから、第2の矩形パルスを印加させる前に、第1の矩形パルスの印加により生じる被試験デバイス内での発熱に起因する蓄熱を、例えば被試験デバイスのインピーダンス変化の判定に影響ない程度に放熱させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振幅が異なる第1および第2の矩形パルスの印加による観測波形の相互関係に基づいて第2の矩形パルスの観測波形の不規則変化を捉え、被試験デバイスのインピーダンス変化の発生を検出できることから、被試験デバイスが放電破壊し始める直前の静電破壊耐圧が検出できる。
【0017】
これによって電子デバイスの静電破壊耐圧が正確に把握でき、電子デバイスを扱う生産工程での静電気管理をより確かなものにできることから、工程途中での電子デバイスの静電破壊を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施例1)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例を説明するブロック図であり、また図2は、本発明に係る一実施例の電子デバイスの静電破壊評価装置の機能構成を示す図である。
【0019】
図1において、電子デバイスの静電破壊評価装置(以下、単に静電破壊評価装置と称す)の全体制御を行う制御部3に、電子デバイスである被試験デバイス2に印加する第1の矩形パルスを生成し、更にその後に、第1の矩形パルスよりも振幅が大きい第2の矩形パルスを少なくとも1つ生成する矩形パルス生成部31を有する。
【0020】
矩形パルス生成部31で生成される第1および第2の矩形パルスは説明の便宜上、ここでは被試験デバイス2に印加する所望の矩形パルス信号波形を後述のTDR測定部4内の矩形パルス発生器41で発生させるための発生指示情報(例えばパルス幅指示情報や振幅指示情報などのパラメータ情報)とし、矩形パルス発生器41へ送出された第1および第2の矩形パルスの発生指示情報は、矩形パルス発生器41により被試験デバイス2に実際に印加される所望の矩形パルス信号波形に変換される。
【0021】
また、矩形パルス生成部31には図示しないが、第1の矩形パルスと第2の矩形パルスとの間、および第2の矩形パルスを2つ以上発生させる場合には第2の矩形パルス相互間のそれぞれに所望の時間間隔を設けるためのパルス間隔タイマを有し、両矩形パルスの発生時に、矩形パルスの生成前に設定されたタイマ値に基づく所望の時間間隔が矩形パルス相互間に維持される。
【0022】
なお、パルス間隔タイマは、第1および第2の両矩形パルス相互間と、第2の矩形パルス相互間とをそれぞれ異なるタイマとして、それぞれに異なる時間間隔を設定しても良い。またタイマなどを用いず、手動によって目的とする時間(放熱の所要時間)以上の時間間隔を設けることでも構わない。
【0023】
更に制御部3は、第1の矩形パルスの入射波形とその矩形パルスの反射波形とが重畳(両波形での合成)された後述のデジタルオシロスコープ42による観測信号波形である第1の信号波形(基準波形)と、第2の矩形パルスの入射波形とその矩形パルスの反射波形とが重畳された同様の観測信号波形である第2の信号波形(比較対象波形)とを記憶する波形記憶部32を有し、また、波形記憶部32に記憶された第1の信号記憶波形の時間軸特定領域の振幅値と、波形記憶部32に記憶された第2の信号記憶波形の時間軸特定領域の振幅値との振幅比率を算出する振幅比率算出部33を有する。
【0024】
なお、前記した時間軸特定領域は、第1および第2の信号記憶波形の入射波形単独領域または反射波形単独領域あるいは入射波形と反射波形との波形重畳領域のいずれか1つの領域内の特定時間領域であり、静電破壊評価を行う際に混在させることなく、いずれか1つを選択的に用いれば良い。
【0025】
また更に制御部3は、振幅比率算出部33で算出された振幅比率に応じて第1の信号記憶波形を振幅方向に拡大させたスケーリング波形を生成するスケーリング波形生成部34を有し、また、スケーリング波形生成部34で生成されたスケーリング波形と第2の信号記憶波形とを差分演算し、その演算結果に基づいて被試験デバイス2のインピーダンス変化を判定する特性変化判定部35を有する。
【0026】
なお、差分演算は、スケーリング波形と第2の信号記憶波形とを差分して差分波形を求めることでも良く、またその差分波形を、更に時間積分法を用いて演算して特徴量を求めても良い。
【0027】
図2において、静電破壊評価装置1は、上述した制御部3以外に、制御部3からの指示に基づく矩形パルスを被試験デバイス2の所定測定箇所に印加するとともに、印加された矩形パルスの入射波形と反射波形とが重畳された観測信号波形を発生するTDR測定部4と、電子デバイスである被試験デバイス2が有する試験用の所定の測定専用電極(以下、所定測定電極と称す)とTDR測定部4および抵抗測定部7との物理的な位置決め動作を行う位置決め部5と、位置決め部5での位置決め動作に必要な観察画像を映像カメラなどで得る観察部6と、所定測定電極間の抵抗値を測定する抵抗測定部7とを有する構成である。
【0028】
制御部3以外の各部は、時間領域反射測定法(以下、TDR法と称す)を用いた静電破壊評価装置1に必要とされる周知または所定の技術による構成である。したがって、本発明の説明に直接関わらない構成部分についての説明は、ここでは概略に留めてその詳細な説明を省略する。
【0029】
TDR測定部4は例えば、矩形パルス発生器41やデジタルオシロスコープ42、信号分配器43、同軸ケーブル44、高周波プローブ(プローブヘッド45やプローブピン46等で構成)などから構成される周知または所定の測定系である。特に矩形パルス発生器41については、制御部3からの指示に基づいて、TDR法に所望される所定の特性を有する矩形パルスを発生するとともに、矩形パルスの振幅値(電圧値)および発生間隔が可変できるものであれば良い。
【0030】
また、位置決め部5は例えば、被試験デバイス2を搭載するに適切な試料台51や、試料台51を搭載するステージ52、TDR測定部4の高周波プローブを所定測定電極に位置決めさせるための位置決め機構53、高周波プローブと位置決め機構53とを連結固定させる固定治具54、抵抗測定部7の抵抗測定用プローブ71を位置決めさせるための位置決め機構55などから構成される周知または所定の位置決め系である。
【0031】
更に、抵抗測定部7は例えば、所定測定電極に電気的接触させる抵抗測定用プローブ71や、抵抗測定用プローブ71にて接触された所定測定電極間の抵抗値を測定する抵抗測定器72などから構成される周知または所定の抵抗測定系である。
【0032】
説明の便宜上、ここでの被試験デバイス2は、ウェハに形成された磁気ディスクヘッド素子であり、この素子が備える所定の2つの電極(所定測定電極)には、印加される第1および第2の矩形パルスの波形観測などの場合に2針の高周波プローブが当てられ、また抵抗測定の場合には2針の抵抗測定用プローブ71が当てられる。
【0033】
なお、抵抗測定部7による被試験デバイス2の抵抗測定は、例えば静電破壊評価の開始前あるいは終了時に、必要に応じて被試験デバイス2のインピーダンス状態を把握(開始前では正常であることの確認、終了時では特性変化値の確認など)するために行われるものである。したがって、インピーダンス状態の把握は、ここで示す抵抗測定部7によるものでなく、周知または所定の他の技術による別ユニットまたは別装置の利用により、更に異なる場所にて行うことでも構わない。
【0034】
次に、本発明に係る一実施例の静電破壊評価装置の動作について、図面を参照して説明する。図3は、本発明の動作を示すフローチャートである。
【0035】
被試験デバイス2の静電破壊評価の開始に先立って、静電破壊評価を行う被試験デバイス2が正常状態品であるか否かの確認を行っておく必要がある。そのため、先ず、観察部6と位置決め部5とにより、被試験デバイス2の所定測定電極と抵抗測定用プローブ71のプローブピンとの相対位置決めを行い、続いて抵抗測定用プローブ71で接触された被試験デバイス2の所定測定電極間の抵抗値、即ち未評価品の初期抵抗値を測定し、この初期抵抗値が理論値あるいは経験値(同一品または同等品の以前の実測値)に基づく所定範囲内に入っている正常状態品か否かを判定する。
【0036】
この確認作業によって被試験デバイス2が正常状態品であると判定されたことにより、静電破壊評価の開始を行う。しかしながら、被試験デバイス2に対するこの確認作業は必要に応じて行うものであり、正常状態品であることが他の方法や他の装置などで既に判明しているならば、ここでの確認作業が不要であることは言うまでもない。
【0037】
なお、以降の動作説明においては、所定の観察部6と位置決め部5とによる被試験デバイス2の所定測定電極と、高周波プローブおよび抵抗測定用プローブ71との位置決め動作は所定の位置決め動作が行われるものとし、その動作説明を省略する。
【0038】
図3において、評価試験者は第1および第2の矩形パルスそれぞれのパルス幅と振幅、および両矩形パルス相互間の時間間隔を入力設定する(同図中のS1)。なお、両矩形パルスのパルス幅は、両矩形パルスの観測信号波形を相互比較する場合の都合上、同一パルス幅とすることが望ましい。一方、振幅については、第2の矩形パルスの振幅は第1の矩形パルスの振幅よりも大きくすることが必要であり、特に第2の矩形パルスを2つ以上発生させる場合においては、その発生順に従って振幅を順次大きくしていくことが必要である。
【0039】
続いて、矩形パルス生成部31は、前記ステップS1による入力設定に基づいて第1の矩形パルスのパルス幅指示情報および振幅指示情報を生成し、矩形パルス発生器41へ送出する(S2)。矩形パルス発生器41は、受け取ったパルス幅指示情報と振幅指示情報とに基づいて第1の矩形パルス信号を発生し、同軸ケーブル44および信号分配器43、高周波プローブなどを介して被試験デバイス2に印加する(S3)。
【0040】
一方、矩形パルス発生器41から出力された矩形パルス信号は、信号分配器43で分岐されてデジタルオシロスコープ42へ入力され、デジタルオシロスコープ42では入力された矩形パルス信号の入射波形の捕捉を開始する。また、高周波プローブを介して被試験デバイス2に伝達された矩形パルス信号は、信号到達点である被試験デバイス2のインピーダンス不整合の度合いに応じた反射波を発生し、発生した反射波は信号分配器43を介してデジタルオシロスコープ42へ入力される。入力された反射波形は、既に捕捉開始されている入射波形に重畳され、入射波形と反射波形とが重畳された観測信号波形(第1の信号波形)として捕捉され、デジタルオシロスコープ42に取り込まれる(S4)。
【0041】
デジタルオシロスコープ42により捕捉された観測信号波形データを波形記憶部32に記憶させる際、波形記憶部32ではその観測信号波形データが初回波形データ(第1の信号波形)か否かを判定し(S5)、初回波形データであると判定(YES判定)された場合、その時の観測信号波形データを基準波形(第1の信号記憶波形)として波形記憶部32に記憶させる(S6)。
【0042】
続いて、振幅比率算出部33は、基準波形の時間軸特定領域である入射波形単独領域内から特定時間領域を決定し、決定された特定時間領域から振幅値(以降、基準振幅値と称す)を検出する(S7)。
【0043】
なお、入射波形単独領域とは、入射波形を時間軸から見た場合での入射波形に反射波形が重畳されていない時間軸領域のことであり、具体的には入射波形の立上りからの或る時間内(反射時間内に相当)のことである。また、特定時間領域とは、入射波形単独領域内の一部あるいは全体のことであり、例えば入射波形の観測状態などに基づいて都合良く決めれば良い。
【0044】
前記ステップS7で検出された基準振幅値を、図示しない例えば振幅比率算出部33に有する検出記憶部に記憶させる(S8)。ここまでの処理により第1の矩形パルスに対する処理が終了し、続く第2の矩形パルスの処理のために前記ステップS2に戻る。
【0045】
矩形パルス生成部31は、前記ステップS1による入力設定に基づいて、第1の矩形パルス発生から時間間隔が設けられた第2の矩形パルスについてのパルス幅指示情報と振幅指示情報とを生成し、矩形パルス発生器41へ送出する(S2)。矩形パルス発生器41は、受け取ったパルス幅指示情報と振幅指示情報とに基づいて第2の矩形パルス信号を発生し、前述と同様にして被試験デバイス2に印加する(S3)。
【0046】
一方、矩形パルス発生器41から出力された矩形パルス信号は、前述と同様にしてデジタルオシロスコープ42へ入力され、デジタルオシロスコープ42では入力された矩形パルス信号の入射波形の捕捉を開始する。また、高周波プローブを介して被試験デバイス2に伝達された矩形パルス信号は、信号到達点である被試験デバイス2のインピーダンス不整合の度合いに応じた反射波を発生し、その反射波は前述と同様にしてデジタルオシロスコープ42に入力される。入力された反射波の反射波形は、既に捕捉開始されている入射波形に重畳されて、入射波形と反射波形とが重畳された観測信号波形(第2の信号波形)として捕捉され、デジタルオシロスコープ42に取り込まれる(S4)。
【0047】
デジタルオシロスコープ42により捕捉された観測信号波形データを波形記憶部32に記憶させる際、前述同様に波形記憶部32ではその観測信号波形データが初回波形データ(第1の信号波形)か否かを判定する(S5)。今回の観測信号波形データは第2番目以降の矩形パルスによるものであることから、初回波形データではないと判定(NO判定)されるため、その時の観測信号波形データを比較対象波形(第2の信号記憶波形)として波形記憶部32に記憶させる(S10)。
【0048】
次に、振幅比率算出部33は、比較対象波形の時間軸特定領域である入射波形単独領域内から特定時間領域を決定し、決定された特定時間領域から振幅値(以降、比較振幅値と称す)を検出する(S11)。ここでの特定時間領域は、前記ステップS7で記述された特定時間領域と同じである。
【0049】
更に振幅比率算出部33は、前記ステップS8で記憶された基準振幅値を基準として、前記ステップS11で検出された比較振幅値の振幅比率(以下、スケーリング比と称す)を算出して求める(S12)。
【0050】
スケーリング波形生成部34は、前記ステップS6で記憶させた基準波形を、前記ステップS12で求めたスケーリング比で振幅方向に拡大して、スケーリング波形を生成する(S13)。
【0051】
次に、特性変化判定部35は、前記ステップS13で生成されたスケーリング波形と、前記ステップS10で記憶させた比較対象波形との相互比較にて差分演算し、差分波形を求める(S14)。更に、この差分波形を時間積分法により演算し、その演算結果(積分値の面積)である特徴量を算出する(S15)。
【0052】
引き続いて、その特徴量が予め設定された閾値を超えているか否かを確認し(S16)、閾値を超えていると判定(YES判定)された場合は、第2の矩形パルス信号の印加により被試験デバイス2のインピーダンスに変化が生じた状態、つまり静電破壊し始めの状態を検出したものと判定する(S17)。
【0053】
続いて、以上の評価結果データや評価試験条件を関連付けた静電破壊評価データとして、図示しない記憶部または記録媒体に記録する(S18)。評価結果データとしては、例えば矩形パルスそれぞれの観測信号波形(基準波形である第1の信号記憶波形および比較対象波形である第2の信号記憶波形)データやその際の特徴量など、また、評価試験条件データとしては、例えば閾値および矩形パルスそれぞれのために設定したパルス幅値や振幅値、時間間隔などである。
【0054】
更に、前記ステップS17にて被試験デバイス2のインピーダンスに変化有りと判定された際の所定測定電極間の抵抗値を測定し、その測定値も関連付けて静電破壊評価データとして記録すると良い。静電破壊評価データをデータベース化することにより、今後の評価試験などに役立てられる。なお、ここで記録される静電破壊評価データ内の各種データは、評価試験の都合に合わせて決めれば良い。
【0055】
一方、前記ステップS16にて、閾値を超えていないと判定(NO判定)された場合には、第2の矩形パルス信号の印加により被試験デバイス2のインピーダンスに何ら変化が生じていないものと判定する(S20)。
【0056】
次に、第2の矩形パルスのパルス振幅値が、静電破壊評価を中止させるために予め設定された振幅上限値を超えているか否かを判定し(S21)、振幅上限値を超えていると判定(YES判定)された場合は、この段階で静電破壊評価を中止させて終了する。一方、振幅上限値を超えていないと判定(NO判定)された場合には、第1番目の第2の矩形パルスに引き続き行われる第2番目の第2の矩形パルスの処理のために、再度前記ステップS2に戻る。
【0057】
第2番目以降の第2の矩形パルスの処理については、以上説明した処理が同様に繰り返えされれば良い。なお、振幅上限値により静電破壊評価を中止させる必要が無く、被試験デバイス2のインピーダンスの変化を得るまで静電破壊評価を行う場合には、前記ステップS21の処理を省けば良い。
【0058】
上述の実施例では、基準波形および比較対象波形の振幅値、即ち基準振幅値および比較振幅値を求める際に、各波形の入射波形単独領域内から特定時間領域を決定して振幅値を検出する(前記ステップS7およびS11)ものとしているが、入射波形単独領域内に代えて、反射波形単独領域内あるいは入射波形と反射波形との波形重畳領域内のいずれかの領域内から特定時間領域を決定して振幅値を検出するようにしても構わない。
【0059】
この場合、検出される振幅値が異なることからスケーリング比やスケーリング波形が異なり、その結果、特徴量が異なるものになることから、前記ステップS16で用いられる閾値が変更されることは言うまでもない。
【0060】
この場合の反射波形単独領域とは、反射波形を時間軸から見た場合での反射波形に入射波形が重畳されていない時間軸領域、具体的には反射波形の立下りからの或る時間内(反射時間内に相当)のことである。更に、特定時間領域とは、反射波形単独領域内の一部あるいは全体のことであり、例えば反射波形の観測状態などに基づいて都合良く決めれば良い。また、波形重畳領域内の特定時間領域についても同様に、例えば波形重畳領域部分の波形の観測状態などに基づいて都合良く決めれば良い。
【0061】
以上、説明した実施例は、1つの被試験デバイス2に対して、振幅値の異なる矩形パルスを順次印加しながら被試験デバイス2のインピーダンスの変化を検出することによって静電破壊耐圧を求めるものであるが、1つの被試験デバイス2だけに対してではなく、複数の被試験デバイス2(例えば、同一品の被試験デバイス)を対象とし、それらを並行して評価試験する変形例とすることができる。
【0062】
この場合の変形例は図示しないが、ある1つの被試験デバイス2のインピーダンスに変化が無いと判定された後に(前記ステップS21のNO判定後が好ましい)、その被試験デバイス2に代えて次の他の被試験デバイス2に入れ替え、振幅値を変更せずそのままの振幅値の矩形パルスを用いて、入れ替えられた被試験デバイス2を先の被試験デバイス2と同様に処理(前記ステップS3〜S5、S10〜S16およびS20〜S21)することを評価試験対象数だけ繰り返し、その繰り返しを一通り終えた後に振幅値を変更(前記ステップS2)して、その矩形パルスの印加にて再度同様に評価試験対象数だけ繰り返す処理を行うことにより、複数の被試験デバイス2を並行して評価試験するものである。
【0063】
このような変形例によれば、矩形パルスの印加により生じた被試験デバイス2内での発熱による蓄熱をインピーダンス変化の判定に影響ない程度に放熱させるために設ける矩形パルス間の時間間隔が不要になることから、放熱のための単なる待ち時間を他の被試験デバイス2の評価試験に有効活用できる。特に、放熱時間を長く必要とする被試験デバイス2の場合ほど効果が期待できる。
【0064】
また、図示しないが更なる変形例として、矩形パルスの生成と印加から、その印加に伴ない生じる観測信号波形データを記憶させるまでの一連の処理(前記ステップS2〜S5およびS10)を1つの処理単位とし、観測信号波形データを記憶させる度に振幅値を順次変えながら、発生させるべき特定パルス数の矩形パルスの全てに対する一連の処理を完了させた後に、記憶させたそれら観測信号波形データを都合に合わせて選択し、インピーダンス変化を判定するための他の一連の処理(前記ステップS11〜S18およびS20)を行うことにより、評価試験するものである。
【0065】
この場合の特定パルス数とは、矩形パルスの振幅値を或るステップ値にて順次増加させていく際に、例えば理論値あるいは経験値(同一品または同等品の以前の実測値)に基づいて推定される静電破壊耐圧(以下、静電破壊推定耐圧と称す)に相当する振幅値を超えるまでに必要とされる総パルス数である。
【0066】
このような変形例によれば、静電破壊評価装置を用いて被試験デバイス2に対する実際の観測や測定などとその記憶処理までを一括して完了させ、その後に別途、既に記憶させている観測信号波形データに基づき被試験デバイス2のインピーダンス変化の判定処理を行えることから、その判定処理は静電破壊評価装置とは異なる他のデータ処理装置、例えばパーソナルコンピュータなどを利用して行えることにより、判定処理を終えるまで静電破壊評価装置を専有する必要がないため、静電破壊評価装置の有効利用が可能になる。
【0067】
次に、被試験デバイス2のインピーダンス変化の判定に関する処理について、図面を参照しながら詳細に説明する。図4は、入射波形単独領域の振幅比率を用いる場合の処理を説明する図であり、また図5は、入射波形と反射波形との波形重畳領域の振幅比率を用いる場合の処理を説明する図である。なお、各図中に示す波形は、説明の便宜上のための擬似的な波形例である。
【0068】
ここでは、観測信号波形の処理を主体に説明するが、その処理は図3のフローチャートに基づくものであって、初期振幅値である基準振幅値(第1の矩形パルスの振幅値)から或るステップ値にて振幅を増加(1つ以上の第2の矩形パルスの振幅値)させながら順次発生させる同一パルス幅の複数の矩形パルス信号を、一つの被試験デバイス2に対して印加する度に、被試験デバイス2のインピーダンス変化を確認することを繰り返して、インピーダンスの変化開始点の振幅値、即ち静電破壊耐圧を検出するものである。
【0069】
矩形パルスのパルス幅は、静電放電に概ね相当するパルス幅、例えば数nS〜数10nS程度が望ましいが、この値に限定されるものではない。なお、ここでの矩形パルスは、そのパルス幅に相当するとともにTDR法に必要とされる、急峻な立上りおよび立下りを有することが必要である。
【0070】
また、矩形パルスの基準振幅値は、正常状態品の被試験デバイス2では静電破壊しないことが理論的あるいは経験的に知られている振幅値(理論値、あるいは同一品または同等品の以前の実測値などに基づく振幅値)以下に設定することが必要であるが、大きく下回らない方が都合良い。
【0071】
更に、振幅値を順次増加させるステップ値は、静電破壊評価の目的、例えば静電破壊耐圧検出の高精度化(小さなステップ値が好ましい)または時間短縮化(大きなステップ値が好ましい)など、都合に合わせて適宜決めれば良いことであり、しかも全ステップ値が均一値である必要は無く、不均一値であっても構わない。不均一値の場合、例えば、静電破壊推定耐圧値に近付くに従って、より小さなステップ値にすると都合良い。
【0072】
先ず、図4を参照しながら、入射波形単独領域の振幅比率を用いてインピーダンス変化を判定する場合の処理を、以下に説明する。
【0073】
図4において、第1回目の矩形パルス(第1の矩形パルス)である基準振幅値E1の矩形パルス信号を被試験デバイス2に印加した後、印加によって生じた観測信号波形(同図(a))である第1の信号波形(基準波形)を捕捉する。
【0074】
第1の信号波形を捕捉した後に、被試験デバイス2自身が正常状態を維持、つまり評価試験開始前のインピーダンスから変化していないことを、抵抗値測定や波形観測などに基づいて確認すると良い。正常状態確認方法としては、例えば以下の方法があり、ここでは(1)の方法によるものとする。
【0075】
(1) 矩形パルスの印加後に、被試験デバイス2の所定測定電極間の抵抗値を測定し、そ の実測値と評価試験前の初期抵抗値との比較による差が、許容範囲内であることによ り正常状態と判定する。
【0076】
(2) 被試験デバイス2のインピーダンスに変化が無いと仮定し、評価試験前の初期抵抗 値と印加矩形パルス振幅値とから反射波形のパルス振幅値を算出し、この算出値と、 捕捉された観測信号波形の反射波形単独領域の振幅値との比較による差が、許容範囲 内であることにより正常状態と判定する。
【0077】
(3) 捕捉された観測信号波形と、以前の評価試験実績である印加矩形パルス振幅値およ び反射波形パルス振幅値、抵抗値などが相互に関連付けされた実績データとの比較に て、両者データ間の差が許容範囲内であることにより正常状態と判定する。
【0078】
第1回目の矩形パルスの印加後に、上述の正常状態確認方法(1)によって被試験デバイス2自身の正常状態の維持が確認できたならば、続いて第2回目の矩形パルス(第2の矩形パルス)に対する処理に移る。
【0079】
第2回目の矩形パルス(1つ目の第2の矩形パルス)である振幅値E2の矩形パルス信号を被試験デバイス2に印加した後、印加によって生じた観測信号波形(同図(b))である第2の信号波形(比較対象波形)を捕捉する。
【0080】
次に、第1の信号波形における入射波形単独領域内の特定時間領域の振幅値である同図(a)中の入射基準振幅値E1と、第2の信号波形における同様の振幅値である同図(b)中の入射比較振幅値E2との振幅比率であるスケーリング比を求め、スケーリング比に応じて第1の信号波形を振幅方向に拡大し、スケーリング波形(同図(d))を生成する。
【0081】
同図(d)は、第2回目に捕捉された第2の信号波形(同図(b))とスケーリング波形とを重ね合わせた状態を図示しており、ここでは両者の波形は一致状態にあり、第2の信号波形のピーク振幅値とスケーリング波形のピーク振幅値SE21とが一致している状態である。
【0082】
第2の矩形パルスを印加するごとに求められるスケーリング比は、その一般算出式として、次式(式1)で表わすことができる。次式中の回数(第1〜第N回目)は、第1の矩形パルス(第1回目)と第2の矩形パルス(第2〜第N回目)とによる矩形パルスが印加された回数であり、また振幅値は、いずれも観測信号波形の入射波形単独領域内の特定時間領域の振幅値である。
(式1)第N回目のスケーリング比
=第N回目の入射比較振幅値÷第1回目の入射基準振幅値。
【0083】
続いて、第2回目に捕捉された第2の信号波形である比較対象波形データから、第2回目のスケーリング比に基づくスケーリング波形データを差分演算して、差分結果である差分波形データ(同図(f))を求める。なお、この例では両データ間に差が無いため、差分波形を生じない。
【0084】
引き続いて、差分波形データを時間積分法にて積分演算し、演算結果である面積AE21を求める。しかし、この演算結果がここでは、予め設定された閾値を下回る値、即ち無視できる程度の例えば測定ノイズに起因する誤差内に収まるゼロに近い値であることから、被試験デバイス2のインピーダンスには変化が無かったと判定される。
【0085】
なお、判定基準の閾値は、観測信号波形の測定精度や測定ノイズに起因する演算結果を少なくとも無視できる程度に設定する必要があるが、都合に合わせてその程度を決定しても構わない。
【0086】
第2回目の矩形パルスの印加では、被試験デバイス2のインピーダンスに変化を生じさせることが無かったため、続いて第3回目の矩形パルス(2つ目の第2の矩形パルス)に対する処理に移る。
【0087】
第3回目の矩形パルス(2つ目の第2の矩形パルス)である振幅値E3の矩形パルス信号を被試験デバイス2に印加した後、印加によって生じた観測信号波形(同図(c))である第2の信号波形(比較対象波形)を捕捉する。
【0088】
次に、同図(a)中の入射基準振幅値E1と、前述同様の同図(c)中の入射比較振幅値E3との振幅比率であるスケーリング比を求め、スケーリング比に応じて第1の信号波形を振幅方向に拡大し、スケーリング波形(同図(e))を生成する。
【0089】
同図(e)は、第3回目に捕捉された第2の信号波形(同図(c))とスケーリング波形とを重ね合わせた状態を図示しており、ここでは両者の波形は不一致状態にあり、第2の信号波形のピーク振幅値がスケーリング波形のピーク振幅値SE31を上回っている状態である。
【0090】
続いて、第3回目に捕捉された第2の信号波形である比較対象波形データから、第3回目のスケーリング比に基づくスケーリング波形データを差分演算して、差分結果である差分波形データ(同図(g))を求める。
【0091】
引き続いて、差分波形データを時間積分法にて積分演算し、演算結果である面積AE31を求める。この演算結果がここでは、予め設定された閾値を超える値であることから、被試験デバイス2のインピーダンスに変化が生じたものと判定される。
【0092】
この判定により、被試験デバイス2のインピーダンスに変化を生じさせた振幅値、つまりここでは第3回目の矩形パルス(2つ目の第2の矩形パルス)の振幅値E3が、被試験デバイス2の静電破壊耐圧として評価できたこととなる。
【0093】
なお、静電気管理上では、インピーダンスに変化を生じさせた矩形パルスの振幅値(ここでは振幅値E3)以下、且つその1つ前に印加した矩形パルスの振幅値(ここでは1つ目の第2の矩形パルスの振幅値E2)以上の間のいずれかの値を、都合に合わせて静電破壊耐圧として決定すれば良い。
【0094】
続いて、例えばインピーダンス変化した実際の変化値を知るために被試験デバイス2の所定測定電極間の抵抗値を測定するなど、必要に応じた各種測定および記録を行い、それらを終えた後に評価試験を終了する。
【0095】
次に、図5を参照しながら、入射波形と反射波形との波形重畳領域(以下、単に波形重畳領域と称す)の振幅比率を用いてインピーダンス変化を判定する場合の処理を、以下に説明する。
【0096】
図5において、第1回目の矩形パルス(第1の矩形パルス)である基準振幅値E1の矩形パルス信号を被試験デバイス2に印加した後、印加によって生じた観測信号波形(同図(a))である第1の信号波形(基準波形)を捕捉する。
【0097】
第1回目の矩形パルスの印加後に、前述した正常状態確認方法(1)によって被試験デバイス2自身の正常状態の維持が確認できたならば、続いて第2回目の矩形パルス(第2の矩形パルス)に対する処理に移る。
【0098】
第2回目の矩形パルス(1つ目の第2の矩形パルス)である振幅値E2の矩形パルス信号を被試験デバイス2に印加した後、印加によって生じた観測信号波形(同図(b))である第2の信号波形(比較対象波形)を捕捉する。
【0099】
次に、第1の信号波形における波形重畳領域内の特定時間領域の振幅値である同図(a)中の反射基準振幅値RP1と、第2の信号波形における同様の振幅値である同図(b)中の反射比較振幅値RP2との振幅比率であるスケーリング比を求め、スケーリング比に応じて第1の信号波形を振幅方向に拡大し、スケーリング波形(同図(d))を生成する。
【0100】
同図(d)は、第2回目に捕捉された第2の信号波形(同図(b))とスケーリング波形とを重ね合わせた状態を図示しており、ここでは両者の波形は一致状態にあり、第2の信号波形のピーク振幅値RP2とスケーリング波形のピーク振幅値SP21とが一致している状態である。
【0101】
なお、反射波形に不要なノイズなどが重畳している場合、反射基準振幅値RP1および反射比較振幅値RP2を決定する際に、波形データより該当ピーク部分を抽出して平均化処理を行うと良い。
【0102】
第2の矩形パルスを印加するごとに求められるスケーリング比は、その一般算出式として、次式(式2)で表わすことができる。次式中の回数(第1〜第N回目)は、前述した式2での説明に同じであるが、振幅値は、いずれも観測信号波形の波形重畳領域内の特定時間領域の振幅値である。
(式2)第N回目のスケーリング比
=第N回目の反射比較振幅値÷第1回目の反射基準振幅値。
【0103】
続いて、第2回目に捕捉された第2の信号波形である比較対象波形データから、第2回目のスケーリング比に基づくスケーリング波形データを差分演算して、差分結果である差分波形データ(同図(f))を求める。なお、この例では両データ間に差が無いため、差分波形を生じない。
【0104】
引き続いて、差分波形データを時間積分法にて積分演算し、演算結果である面積AR21を求める。しかし、この演算結果がここでは、予め設定された閾値を下回る値、即ち無視できる程度の例えば測定ノイズに起因する誤差内に収まるゼロに近い値であることから、被試験デバイス2のインピーダンスには変化が無かったと判定される。なお、閾値については、前述に同様である。
【0105】
第2回目の矩形パルスの印加では、被試験デバイス2のインピーダンスに変化を生じさせることが無かったため、続いて第3回目の矩形パルス(2つ目の第2の矩形パルス)に対する処理に移る。
【0106】
第3回目の矩形パルス(2つ目の第2の矩形パルス)である振幅値E3の矩形パルス信号を被試験デバイス2に印加した後、印加によって生じた観測信号波形(同図(c))である第2の信号波形(比較対象波形)を捕捉する。
【0107】
次に、同図(a)中の反射基準振幅値RP1と、前述同様の同図(c)中の反射比較振幅値RP3との振幅比率であるスケーリング比を求め、スケーリング比に応じて第1の信号波形を振幅方向に拡大し、スケーリング波形(同図(e))を生成する。
【0108】
同図(e)は、第3回目に捕捉された第2の信号波形(同図(c))とスケーリング波形とを重ね合わせた状態を図示しており、ここでは両者の波形は不一致状態にあり、入射波形単独領域および反射波形単独領域が相互に差を生じている状態である。
【0109】
続いて、第3回目に捕捉された第2の信号波形である比較対象波形データから、第3回目のスケーリング比に基づくスケーリング波形データを差分演算して、差分結果である差分波形データ(同図(g))を求める。
【0110】
引き続いて、差分波形データを時間積分法にて積分演算し、演算結果である面積AR31を求める。この演算結果がここでは、予め設定された閾値を超える値であることから、被試験デバイス2のインピーダンスに変化が生じたものと判定される。
【0111】
この判定により、被試験デバイス2のインピーダンスに変化を生じさせた振幅値、つまりここでは第3回目の矩形パルス(2つ目の第2の矩形パルス)の振幅値E3が、被試験デバイス2の静電破壊耐圧として評価できたこととなる。
【0112】
なお、静電気管理上では、図4に対する説明に同じく、インピーダンスに変化を生じさせた矩形パルスの振幅値(ここでは振幅値E3)以下、且つその1つ前に印加した矩形パルスの振幅値(ここでは1つ目の第2の矩形パルスの振幅値E2)以上の間のいずれかの値を、都合に合わせて静電破壊耐圧として決定すれば良い。
【0113】
以降の評価試験終了までの動作については、前記した図4に対する説明に同様のため、説明を省略する。
【0114】
以上に波形重畳領域の振幅比率を用いてインピーダンス変化を判定する場合の処理を説明したが、ここで説明した反射基準振幅値と反射比較振幅値とを波形重畳領域内の特定時間領域から得るのではなく、反射波形単独領域内の特定時間領域から得るように変えることによって、反射波形単独領域の振幅比率を用いてインピーダンス変化を判定する場合の処理とすることができる。
【0115】
以上、本発明についての各動作を図3のフローチャートに基づいて説明したが、フローチャートの処理手順は一例であって、本発明はそれら処理手順に限定されるものではない。例えば、前記ステップS7およびS8については、前記ステップS12にてスケーリング比を算出する以前に実行されていれば良い処理であり、また、判定処理である前記ステップS21はフローチャート上、前記ステップS2の直前に配置させても構わないものである。したがって、処理手順を入れ替えたとしても同様の処理結果が得られる場合、都合に合わせて処理手順を適宜入れ替えても良い。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の一実施例を説明するブロック図
【図2】本発明に係る一実施例の電子デバイスの静電破壊評価装置の機能構成を示す図
【図3】本発明の動作を示すフローチャート
【図4】入射波形単独領域の振幅比率を用いる処理を説明する図
【図5】入射波形と反射波形との波形重畳領域の振幅比率を用いる場合の処理を説明する図
【符号の説明】
【0117】
1 静電破壊評価装置
2 被試験デバイス
3 制御部
4 TDR測定部
5 位置決め部
6 観察部
7 抵抗測定部
31 矩形パルス生成部
32 波形記憶部
33 振幅比率算出部
34 スケーリング波形生成部
35 特性変化判定部
41 矩形パルス発生器
42 デジタルオシロスコープ
43 信号分配器
44 同軸ケーブル
45 プローブヘッド
46 プローブピン
71 抵抗測定用プローブ
72 抵抗測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間領域反射測定法を用いて被試験デバイスへの矩形パルスの印加に基づき静電破壊状態を評価する電子デバイスの静電破壊評価方法において、
矩形パルス生成手段が、前記矩形パルスである第1の矩形パルスを生成した後、該矩形パルスよりも振幅が大きい1つ以上の第2の矩形パルスを生成するステップと、
波形記憶手段が、前記第1の矩形パルスの入射波形と反射波形とが重畳された第1の信号波形と、前記第2の矩形パルスの入射波形と反射波形とが重畳された第2の信号波形とを記憶するステップと、
振幅比率算出手段が、前記記憶された第1の信号記憶波形の時間軸特定領域の振幅値と、前記記憶された第2の信号記憶波形の前記時間軸特定領域の振幅値との振幅比率を算出するステップと、
スケーリング波形生成手段が、前記第1の信号記憶波形を前記振幅比率に応じて振幅方向に拡大させたスケーリング波形を生成するステップと、
特性変化判定手段が、前記スケーリング波形と前記第2の信号記憶波形とを差分演算し、該演算結果に基づいて被試験デバイスのインピーダンス変化を判定するステップと、
を含むことを特徴とする電子デバイスの静電破壊評価方法。
【請求項2】
前記時間軸特定領域は、
前記第1の信号記憶波形および前記第2の信号記憶波形の入射波形単独領域または反射波形単独領域あるいは入射波形と反射波形との波形重畳領域のいずれか1つの領域内の特定時間領域である
ことを特徴とする請求項1記載の電子デバイスの静電破壊評価方法。
【請求項3】
前記矩形パルス生成手段は、
前記第1の矩形パルスの生成完了から所望時間を経過させた後に前記第2の矩形パルスを生成する
ことを特徴とする請求項1記載の電子デバイスの静電破壊評価方法。
【請求項4】
時間領域反射測定法を用いて被試験デバイスへの矩形パルスの印加に基づき静電破壊状態を評価する電子デバイスの静電破壊評価装置において、
前記矩形パルスである第1の矩形パルスを生成した後、該矩形パルスよりも振幅が大きい1つ以上の第2の矩形パルスを生成する矩形パルス生成手段と、
前記第1の矩形パルスの入射波形と反射波形とが重畳された第1の信号波形と、前記第2の矩形パルスの入射波形と反射波形とが重畳された第2の信号波形とを記憶する波形記憶手段と、
前記記憶された第1の信号記憶波形の時間軸特定領域の振幅値と、前記記憶された第2の信号記憶波形の前記時間軸特定領域の振幅値との振幅比率を算出する振幅比率算出手段と、
前記第1の信号記憶波形を前記振幅比率に応じて振幅方向に拡大させたスケーリング波形を生成するスケーリング波形生成手段と、
該スケーリング波形と前記第2の信号記憶波形とを差分演算し、該演算結果に基づいて被試験デバイスのインピーダンス変化を判定する特性変化判定手段と、
を有することを特徴とする電子デバイスの静電破壊評価装置。
【請求項5】
時間領域反射測定法を用いて被試験デバイスへの矩形パルスの印加に基づき静電破壊状態を評価する電子デバイスの静電破壊評価装置のコンピュータに、
前記矩形パルスである第1の矩形パルスを生成した後、該矩形パルスよりも振幅が大きい1つ以上の第2の矩形パルスを生成する矩形パルス生成機能と、
前記第1の矩形パルスの入射波形と反射波形とが重畳された第1の信号波形と、前記第2の矩形パルスの入射波形と反射波形とが重畳された第2の信号波形とを記憶する波形記憶機能と、
前記記憶された第1の信号記憶波形の時間軸特定領域の振幅値と、前記記憶された第2の信号記憶波形の前記時間軸特定領域の振幅値との振幅比率を算出する振幅比率算出機能と、
前記第1の信号記憶波形を前記振幅比率に応じて振幅方向に拡大させたスケーリング波形を生成するスケーリング波形生成機能と、
該スケーリング波形と前記第2の信号記憶波形とを差分演算し、該演算結果に基づいて被試験デバイスのインピーダンス変化を判定する特性変化判定機能と、
を実現させるための静電破壊評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−309706(P2007−309706A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137072(P2006−137072)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】