説明

電子パッケージ

【課題】金属体に電子素子を固定した実装体を、エポキシ樹脂よりなるモールド樹脂にて封止してなる電子パッケージにおいて、200℃まで信頼性を保証できるようにする。
【解決手段】金属よりなる金属体10、11およびこの金属体10、11に接合された半導体素子20を有する実装体50と、実装体50を封止するエポキシ樹脂よりなるモールド樹脂60と、実装体50とモールド樹脂60との間に介在しこれら両者50、60の接着性を確保する樹脂よりなるプライマー70とを備え、モールド樹脂60およびプライマー70のガラス転移温度を200℃以上としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体に電子素子を接合したものを、エポキシ樹脂よりなるモールド樹脂にて封止してなる電子パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりこの種の電子パッケージとしては、金属よりなる金属体およびこの金属体に接合された半導体素子などの電子素子を有する実装体に対して、これをモールド樹脂で封止してなるものが、一般に知られている。
【0003】
ここでモールド樹脂としては、たとえば特許文献1に記載されているようなエポキシ樹脂よりなるものが一般的である。また、この種の電子パッケージでは、一般に、実装体の表面に、モールド樹脂との接着性を確保する樹脂よりなるプライマーを塗布した後、これを、モールド樹脂で封止するようにしている。
【0004】
この種の電子パッケージは、自動車などに搭載されるが、近年、パッケージの小型化に伴う放熱性の低下、パワー半導体素子などに代表される電子素子の性能向上に伴う発熱の増大化、また、搭載環境の高温化などから、より高温にて信頼性を確保することが要望されている。
【特許文献1】特開2006−299246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者の検討によれば、従来の電子パッケージにおいては、150℃程度までは信頼性が確保できているが、200℃ではモールド樹脂の接着力が低下することがわかった(後述の図2参照)。モールド樹脂の接着力が低下すると、モールド樹脂による実装体の封止が不十分となり、信頼性を確保できなくなる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、金属体に電子素子を固定した実装体を、エポキシ樹脂よりなるモールド樹脂にて封止してなる電子パッケージにおいて、200℃まで信頼性を保証できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、金属よりなる金属体(10、11)およびこの金属体(10、11)に接合された電子素子(20)を有する実装体(50)と、実装体(50)を封止するエポキシ樹脂よりなるモールド樹脂(60)と、実装体(50)とモールド樹脂(60)との間に介在しこれら両者(50、60)の接着性を確保する樹脂よりなるプライマー(70)とを備え、モールド樹脂(60)およびプライマー(70)のガラス転移温度を200℃以上としたことを特徴とする。
【0008】
それによれば、実装体(50)を被覆して封止するプライマー(70)およびモールド樹脂(60)が200℃までガラス転移せず変質しないため、200℃まで信頼性を保証することができる。
【0009】
また、この場合、金属体(10、11)を、電子素子(20)が接合部材(30)を介して搭載される金属ブロック(10)と、電子素子(20)とボンディングワイヤ(40)により電気的に接続された金属製のリード(11)とにより構成し、実装体(50)を、金属ブロック(10)、リード(11)、電子素子(20)およびボンディングワイヤ(40)を含んでなるものとしてもよい。
【0010】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電子パッケージ100の概略断面構成を示す図である。
【0012】
金属ブロック10は、Cu(銅)やNi(ニッケル)、Fe(鉄)などの金属よりなるもので、本実施形態では、矩形板形状をなすものである。この金属体ブロック10の一面には、電子素子20としての半導体素子20が搭載されている。
【0013】
この半導体素子20は、たとえばSi(シリコン)やSiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)などの半導体よりなるもので、公知の半導体プロセスにより、トランジスタ素子などが形成されたものである。
【0014】
ここで、半導体素子20は接合部材30を介して金属ブロック10に接合され、固定されている。この接合部材30としては、はんだや導電性接着剤などの導電性接合部材、あるいはエポキシ樹脂などよりなる接着剤などが挙げられる。
【0015】
そして、半導体素子20の近傍には、CuやNiなどの金属よりなるリード11が設けられており、このリード11と半導体素子20とは、ボンディングワイヤ40により接合され、電気的に導通している。ここで、ボンディングワイヤ40は、Auやアルミニウムなどよりなるもので、通常のワイヤボンディングにより形成される。
【0016】
ここで、本実施形態では、金属ブロック10およびリード11により金属体10、11が構成されており、これら金属ブロック10、リード11、電子素子としての半導体素子20、接合部材30およびボンディングワイヤ40により、実装体50が構成されている。そして、この実装体50はモールド樹脂60により封止されている。
【0017】
つまり、実装体50は、本電子パッケージ100おいて、モールド樹脂60の内部に封止されている部分に相当する。なお、リード11の一部は、モールド樹脂60から突出しており、電子パッケージ100と外部との信号のやりとりを行うべく、図示しない外部配線などに電気的に接続されるようになっている。
【0018】
ここで、実装体50とモールド樹脂60との界面には、ポリアミドやポリイミドなどの樹脂よりなるプライマー70が介在しており、このプライマー70により、実装体50とモールド樹脂60との接着性が確保されている。
【0019】
このような電子パッケージ100は、従来一般と同様の方法で製造することができる。すなわち、上記実装体50を組み付け、塗布やディップなどにより実装体50の表面をプライマー70で被覆した後、これを樹脂成型用の金型に設置して、トランスファーモールド成形を行い、モールド樹脂60にて実装体50を封止することによって、本電子パッケージ100が製造される。
【0020】
こうして、製造された本実施形態の電子パッケージ100は、金属よりなる金属体10、11およびこの金属体10、11に接合された半導体素子20を有する実装体50と、実装体50を封止するエポキシ樹脂よりなるモールド樹脂60と、実装体60とモールド樹脂60との間に介在しこれら両者50、60の接着性を確保する樹脂よりなるプライマー70とを備えて構成されている。
【0021】
ここにおいて、本実施形態では、モールド樹脂60は、エポキシ樹脂よりなるものであり、そのガラス転移温度が200℃以上のものである。さらに、プライマー70もガラス転移温度が200℃以上のものである。
【0022】
これは、半導体素子20の発熱や使用環境などにより、電子パッケージ100の温度が200℃以上の高温となっても、モールド樹脂60の接着力を確保し、パッケージ信頼性を保証するための構成である。
【0023】
ちなみに、従来では、モールド樹脂60およびプライマー70がともにガラス転移温度が200℃以上のものはなかった。本発明者は、樹脂よりなるモールド樹脂60およびプライマー70が、ガラス転移温度を超えてガラス化してしまうと、モールド樹脂60が本来有する封止機能、および、プライマー70が本来有する接着機能が損なわれることに着目した。
【0024】
そこで、本実施形態では、モールド樹脂60およびプライマー70のガラス転移温度を、従来よりも高くして200℃以上としている。そうすれば、電子パッケージ100の温度が200℃以上の高温となっても、モールド樹脂60およびプライマー70が変質することがなくなり、本来の機能を発揮することができるため、200℃までパッケージ信頼性を保証できる。
【0025】
具体的に、モールド樹脂60やプライマー70のガラス転移温度を向上させる方法としては、従来より知られている種々の方法を採用できる。
【0026】
エポキシ樹脂よりなるモールド樹脂60としては、たとえば、エポキシ官能基数が3つ以上の多官能エポキシを用いたり、主剤同士を架橋させる硬化剤自身に架橋構造を導入して架橋密度を増大させたり、樹脂の架橋構造内にSi−Oなどの無機構造を導入したハイブリッドエポキシとしたり、アミド変性/イミド変性の材料を採用すれば、ガラス転移温度が200℃以上のモールド樹脂60を実現することができる。
【0027】
また、プライマー70としては、たとえば、組成内に芳香族アミド構造や芳香族イミド構造を有する材料を用いれば、ガラス転移温度が200℃以上のプライマー70を実現することができる。
【0028】
そして、このようにモールド樹脂60のガラス転移温度およびプライマー70のガラス転移温度をともに、200℃以上とすることで、200℃まで電子パッケージ100の信頼性を保証できることを、本発明者は実験的に確認している。
【0029】
ただし、モールド樹脂60およびプライマー70の両方が200℃以上のガラス転移温度を持つことが必須であり、どちらか一方のみが200℃以上で他方が200℃未満の場合には、200℃までの信頼性は得られない。
【0030】
このように、本実施形態では、モールド樹脂60およびプライマー70におけるガラス転移温度に着目したことが、独自の工夫点である。次に、本実施形態の電子パッケージ100による具体的な効果について、一例を挙げておく。
【0031】
本具体例では、金属体として、Niよりなるものを用い、その金属体の表面にプライマー70を塗布した後、これをモールド樹脂60で封止した。ここでは、モールド樹脂60のガラス転移温度は280℃、プライマー70のガラス転移温度は290℃とした。また、比較例として、従来の一般的なモールド樹脂(ガラス転移温度:170℃)およびプライマー(ガラス転移温度:230℃)の組合せについても調査した。
【0032】
そして、これら本実施形態のサンプルおよび比較例のサンプルについて、環境温度(単位:℃)を変えていったときの、モールド樹脂の接着力(単位:MPa)を調査した。図2は比較例の調査結果を示す図であり、図3は本実施形態の調査結果を示す図である。なお、図3には、図2に示される比較例の結果の近似線を破線にて並記してある。
【0033】
図2、図3に示されるように、モールド樹脂やプライマーのガラス転移温度を超えたあたりから、モールド樹脂の接着力が低下していくことがわかる。そして、図2に示される比較例では、200℃の環境温度では、接着力は信頼性を保証できないレベルまで低下している。
【0034】
しかし、図3に示される本実施形態では200℃以上の環境温度であっても、信頼性を保証し得るレベルの接着力が保持されている。なお、上記図3に示される例は、あくまで本実施形態の一例であり、これ以外にも、モールド樹脂60およびプライマー70のガラス転移温度を共に200℃以上とすることにより、200℃まで信頼性を保証できることを確認している。
【0035】
また、モールド樹脂60およびプライマー70のガラス転移温度については、信頼性を保証する温度としての200℃よりも多少余裕を持たせて高めとした方が好ましいと考えられる。そのことを考慮すれば、200℃まで信頼性を保証するためのより好ましいモールド樹脂60およびプライマー70のガラス転移温度としては、250℃以上にすることが望ましいと考えられる。
【0036】
(他の実施形態)
なお、電子素子としては、上述した半導体素子20に限定されるものではなく、金属体10に固定できるサイズや形状を有するものであれば、たとえば、電子素子としては、コンデンサや抵抗素子などであってもよい。また、複数個の電子素子が金属体に固定されたものであってもよい。
【0037】
また、実装体としては、金属体およびこの金属体に接合された電子素子を有するものであればよい。たとえば、上記実施形態の実装体50において、ボンディングワイヤ40およびリード11が無い構造とした場合には、金属ブロック10の一部をモールド樹脂60から露出させ、その露出部にて外部と電気的に導通させるようにすればよい。
【0038】
また、プライマーは、実装体のうちモールド樹脂で封止される部位の表面のすべてを被覆するものでなくてもよく、場合によっては、当該部位の一部の表面にプライマーを設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に係る電子パッケージの概略断面図である。
【図2】比較例における環境温度とモールド樹脂の接着力との関係についての調査結果を示す図である。
【図3】実施形態における環境温度とモールド樹脂の接着力との関係についての調査結果を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
10…金属体としての金属ブロック、11…金属体としてのリード、
20…電子素子としての半導体素子、30…接合部材、
40…ボンディングワイヤ、50…実装体、60…モールド樹脂、
70…プライマー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属よりなる金属体(10、11)およびこの金属体(10、11)に接合された電子素子(20)を有する実装体(50)と、
前記実装体(50)を封止するエポキシ樹脂よりなるモールド樹脂(60)と、
前記実装体(60)と前記モールド樹脂(60)との間に介在し、これら前記実装体(50)と前記モールド樹脂(60)との接着性を確保する樹脂よりなるプライマー(70)とを備え、
前記モールド樹脂(60)および前記プライマー(70)のガラス転移温度が、200℃以上であることを特徴とする電子パッケージ。
【請求項2】
前記金属体(10、11)は、前記電子素子(20)が接合部材(30)を介して搭載される金属ブロック(10)と、前記電子素子(20)と前記ボンディングワイヤ(40)により電気的に接続された金属製のリード(11)とを備えるものであり、
前記実装体(50)は、前記金属ブロック(10)、前記リード(11)、前記電子素子(20)および前記ボンディングワイヤ(40)を含んでなるものであることを特徴とする請求項1に記載の電子パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−141052(P2008−141052A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327191(P2006−327191)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】