説明

電子ビーム発生装置、電子ビーム描画装置および電子ビーム描画方法

【課題】電子ビームの安定性とともに、カソードの長寿命化を図ることが可能な電子ビーム発生装置、電子ビーム描画装置および電子ビーム描画方法を提供する。
【解決手段】本発明の電子ビーム発生装置は、加熱により電子を放射するカソード11と、このカソード11を加熱するための直流フィラメント供給電源13と、カソードとの間にバイアス電圧が印加されるウェネルト16と、カソード11との間に加速電圧が印加され、カソード11から放射された電子を集束して電子ビームを形成するアノード19と、直流フィラメント供給電源13とカソード11の間に配置され、直流フィラメント供給電源13の極性を変更する機構14を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば熱電子放射型などの電子ビーム発生装置およびこれを用いた電子ビーム描画装置、電子ビーム描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、LSI等のマスクパターンの微細化が要求されている。そして、この微細なマスクパターンの形成に、優れた解像度を有する電子ビーム描画装置が利用されている。このような電子ビーム描画装置に用いられる電子銃において、カソードより電子ビームが放射され、カソードとアノードとの間に印加された加速電圧により電子ビームが加速される。そして、加速された電子ビームがステージ上の基板に照射されることにより、マスク基板などの被処理体である基板上に描画される。
【0003】
このような電子銃の一つとして熱電子放射型の電子銃が挙げられる。熱電子放射型の電子銃においては、LaBなどからなるカソードにフィラメント電流を供給し、カソードを挟むヒーターにより加熱することにより、熱電子が放出される(例えば特許文献1など参照)。このような熱電子放射型の電子銃において、近年の素子微細化に伴い、より高精度な制御が要求される。そこで、電子ビームをより安定して放射するために、フィラメント電流の電源供給は、交流ではその周期に伴うノイズが発生することから、直流化されている。
【0004】
一方、電子銃において、例えばカソード材料として用いられるLaBは、加熱により蒸発し、先端径が小さくなり、十分な電子密度が得られなくなるため、交換が必要となる。従って、カソード部材コストおよび、交換による装置の稼働率低下に伴うプロセス(メンテナンス)コストの上昇を抑制するため、カソードの長寿命化が要求されている。
【特許文献1】特開平5−166481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、カソードの寿命は、カソード温度や装置内部圧力といったカソードの雰囲気に依存する。しかしながら、上述のように、電子ビームの安定性を鑑みてフィラメント電流を直流電源により供給すると、カソードに長時間同じ方向の電流を流すことになり、例えば図4に模式図を示すように、蒸発したカソード材料であるLaBが片側のヒーターのみに飛散し、付着する。そして、付着したLaBにより、機械的に傾きが発生し、放射される電子ビームが傾く。傾いた電子ビームは、ある程度までは調整できるが、傾きが大きくなると調整不能となり、カソードを本来の寿命より短い周期で交換する必要が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、電子ビームの安定性とともに、カソードの長寿命化を図ることが可能な電子ビーム発生装置、電子ビーム描画装置および電子ビーム描画方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の電子ビーム発生装置は、加熱により電子を放射するカソードと、このカソードを加熱するための直流フィラメント供給電源と、カソードとの間にバイアス電圧が印加されるウェネルトと、カソードとの間に加速電圧が印加され、カソードから放射された電子を集束して電子ビームを形成するアノードと、直流フィラメント供給電源とカソードの間に配置され、直流フィラメント供給電源の極性を変更する機構を備えることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の一態様の電子ビーム発生装置において、カソードには、LaBが用いられることが好ましい。
【0009】
また、本発明の一態様の電子ビーム描画装置は、加熱により電子を放射するカソードと、このカソードを加熱するための直流フィラメント供給電源と、カソードとの間にバイアス電圧が印加されるウェネルトと、カソードとの間に加速電圧が印加され、カソードから放射された電子を集束して電子ビームを形成するアノードと、直流フィラメント供給電源とカソードの間に配置され、直流フィラメント供給電源の極性を変更する機構を有する電子ビーム発生装置と、パターンが描画される基板を載置するステージと、基板上の所定の位置に、所定のパターンを形成するために前記電子ビームを制御する電子ビーム制御系を備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の一態様の電子ビーム描画方法は、カソードにフィラメント電流が供給され、加熱されることにより、カソードより電子が放射され、カソードとウェネルトとの間にバイアス電圧が印加されることにより、放射された電子が制御され、カソードとアノードとの間に加速電圧が印加されることにより、電子が集束され電子ビームが形成され、形成された電子ビームがステージ上の基板に照射されることにより、基板上に描画される電子ビーム描画方法であって、直流フィラメント電流の極性が変更されることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の一態様の電子ビーム描画方法において、直流フィラメント電流の極性は、所定の周期で変更されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電子ビーム発生装置、電子ビーム描画装置および電子ビーム描画方法において、電子ビームの安定性とともに、カソードの長寿命化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
【0014】
図1に、本実施形態の熱電子放射型の電子ビーム発生装置の概念図を示す。図に示すように、電子が放射されるカソード11は、フィラメント12を介して、カソード11を加熱するための直流フィラメント供給電源13と接続されている。フィラメント12と直流フィラメント供給電源13の間には、新たに直流フィラメント供給電源13の極性を変更するため機構として、例えば絶縁のためにファイバーケーブルを用いて駆動できるリレー14が配置され、フィラメント回路15が構成されている。
【0015】
カソード11とフィラメント12を囲むように、カソード11の下方に開口部を有し、カソード11から放出される電子を収束・制御するためのウェネルト16が配置されている。このウェネルト16には、カソード11との間にバイアス電圧を印加するためのバイアス電源17が接続され、バイアス回路18が構成されている。
【0016】
ウェネルト16の下方には、アノード19が配置され、接地されている。そして、フィラメント回路15およびバイアス回路17には、カソード11とアノード19との間に加速電圧が印加され、エミッション電流を供給するための加速電源20が接続されている。
【0017】
図2にカソード11の側面図を、図3に図2の破線円部分の拡大図を示す。図に示すように、例えば先端径φ50μmのLaB単結晶11aを、加熱用のヒーター11bで挟むようにして配置したフォーゲルタイプのマウント方式が用いられている。ヒーター11bはモリブデン合金11cなどを介して、セラミックベース11dに固定されたフィラメント導入端子11eと接続されている。
【0018】
そして、カソード11、フィラメント12、ウェネルト16、アノード19から構成される電子銃部21は、電子ビーム描画装置(図示せず)内に設置され、それ以外の駆動回路を構成する直流フィラメント供給電源13、リレー14、フィラメント回路15、バイアス電源17、バイアス回路18、加速電源20から構成される高圧電源部22は、電子ビーム描画装置(図示せず)の外部に設置されている。
【0019】
このような熱電子放射型の電子ビーム発生装置を用いて、以下のようにして描画が行われる。先ず、電子銃部21を含む電子ビーム描画装置内部が10−6Pa程度まで減圧される。カソード11にフィラメント電流が供給され、例えば1400〜1470℃程度に加熱されることにより、カソード11より電子が放射される。
【0020】
ウェネルト16にはバイアス電源17により数百V程度のバイアス電圧が印加されており、カソード11から放射された電子は、バイアス電圧により制御され、ウェネルト16直下のクロスオーバーポイントに集束され電子ビーム10が形成される。カソード11とアノード19との間には、加速電源20により50kV程度の加速電圧が印加されており、電子ビーム10は、アノード19に向かって加速される。
【0021】
さらに、加速された電子ビーム10が、ステージ(図示せず)に載置され、パターンが描画される基板(図示せず)上の所定の位置に照射されるように、電子ビーム制御系(図示せず)で調整された成形ビームはステージ駆動系で制御されて、基板上に照射され、基板に所定のパターンが描画される。
【0022】
このように一枚の基板にパターンが形成される間は、直流フィラメント供給電源の極性は一定とする。そして、LaBの付着による機械的傾きが発生する前に、1週間〜10日といった所定時間を経過する、所定枚数の基板を描画処理した後、など所定の周期で、電子ビーム10を放射した状態で、リレー14を制御して極性を変更する。このとき、電子ビームの発生時に極性を変更することも可能である。そして、異なる極性の直流フィラメント電流を同様に印加して電子ビームを放射し、同様にして基板に所定のパターンが描画される。
【0023】
さらに、同様にして極性の変更、描画を繰り返す。そして、例えばカソードのLaB単結晶の先端径がφ30μmとなった時点で、カソードを交換する。
【0024】
このようにして、直流フィラメント電流の極性を変更しながら、電子ビームを放射し、描画を行うことにより、図4に示すような、カソードの加熱のためにフィラメント(ヒーター)に同じ方向の電流を流すことによる例えば蒸発したLaBの片側のヒーターのみへの飛散、付着が抑制される。そして、カソードの傾きに伴う交換率が、2、3割程度から1割未満まで低下し、カソードの長寿命化が可能となる。
【0025】
そして、直流フィラメント電流を用いながら、LaBの付着による電子ビームの傾斜を抑えることができるため、電子ビームの安定照射が可能となる。
【0026】
また、電子ビームの傾斜によるカソードの交換が不要となるため、カソードの本来の寿命より短い周期で交換する必要がなく、カソードの長寿命化が可能となる。従って、カソード部材コストおよび交換による電子ビーム描画装置の稼働率低下に伴うプロセス(メンテナンス)コストの上昇を抑制することが可能となる。
【0027】
さらに、リレーが電子銃部の外部に設けられており、極性の変更は、電子ビームの発生時にも行うことができるため、極性の変更に伴う電子ビーム描画装置のダウンタイムの増大を抑えることができる。
【0028】
本実施形態において、カソードとしてフォーゲルタイプのエミッターを用いているが、フォーゲルタイプのエミッターを用いる場合において、特に効果的である。但し、フォーゲルタイプに限定されるものではなく、その他、直流フィラメント電流を用いる電子銃において適用することが可能である。また、LaB単結晶をマウントしているが、LaBに限定されるものではなく、CeBなど希土類元素のホウ化物を用いることができる。
【0029】
また、本実施形態において、極性を変更する機構として、リレーを配置している。リレーは高電圧(加速電圧)の中に配置されるため、絶縁が必要であるが、ファイバーケーブルを用いることにより、高電圧から絶縁された状態で制御が可能となり、リレーなどの利用を可能とすることができる。また、リレーに限定されるものではなく、スイッチなど極性を変更することが可能であるスイッチング機能を有するものであればよい。
【0030】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。その他要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一態様の熱電子放射型の電子ビーム発生装置の概念図。
【図2】本発明の一態様の電子ビーム発生装置に係るカソードの側面図。
【図3】図2の破線円部分の拡大図。
【図4】蒸発したLaBが付着した様子を示す模式図。
【符号の説明】
【0032】
10…電子ビーム
11…カソード
11a…LaB単結晶
11b…ヒーター
11c…モリブデン合金
11d…セラミックベース
11e…フィラメント導入端子
12…フィラメント
13…直流フィラメント供給電源
14…リレー
15…フィラメント回路
16…ウェネルト
17…バイアス電源
18…バイアス回路
19…アノード
20…加速電源
21…電子銃部
22…高圧電源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により電子を放射するカソードと、
このカソードを加熱するための直流フィラメント供給電源と、
前記カソードとの間にバイアス電圧が印加されるウェネルトと、
前記カソードとの間に加速電圧が印加され、前記カソードから放射された電子を集束して電子ビームを形成するアノードと、
前記直流フィラメント供給電源と前記カソードの間に配置され、前記直流フィラメント供給電源の極性を変更する機構を備えることを特徴とする電子ビーム発生装置。
【請求項2】
前記カソードには、LaBが用いられることを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム発生装置。
【請求項3】
加熱により電子を放射するカソードと、このカソードを加熱するための直流フィラメント供給電源と、前記カソードとの間にバイアス電圧が印加されるウェネルトと、前記カソードとの間に加速電圧が印加され、前記カソードから放射された電子を集束して電子ビームを形成するアノードと、前記直流フィラメント供給電源と前記カソードの間に配置され、前記直流フィラメント供給電源の極性を変更する機構を有する電子ビーム発生装置と、
パターンが描画される基板を載置するステージと、
前記基板上の所定の位置に、所定のパターンを形成するために前記電子ビームを制御する電子ビーム制御系を備えることを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項4】
カソードにフィラメント電流が供給され、加熱されることにより、前記カソードより電子が放射され、
前記カソードとウェネルトとの間にバイアス電圧が印加されることにより、放射された前記電子が制御され、
前記カソードとアノードとの間に加速電圧が印加されることにより、前記電子が集束され電子ビームが形成され、
形成された前記電子ビームがステージ上の基板に照射されることにより、基板上に描画される電子ビーム描画方法であって、
前記直流フィラメント電流の極性が変更されることを特徴とする電子ビーム描画方法。
【請求項5】
前記直流フィラメント電流の極性は、所定の周期で変更されることを特徴とする請求項4に記載の電子ビーム描画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−283217(P2009−283217A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132715(P2008−132715)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】