説明

電子内視鏡システム

【課題】血管深さおよび酸素飽和度に関する情報を同時に取得して、深さの異なる血管の酸素飽和度に関する画像を同時に表示することができる電子内視鏡システムを提供する。
【解決手段】電子内視鏡システムは、波長帯域の異なる複数の光を順次照射する光源装置と、光源装置から体腔内の血管を含む被写体組織に順次照射される光の反射光を受光して、受光した光の波長帯域に対応する撮像信号を順次出力する電子内視鏡と、電子内視鏡から出力された、波長帯域の異なる光の撮像信号に対応する各々の画像間の位置合わせを行う位置合わせ手段と、位置合わせ手段により位置合わせが行われた各々の画像の撮像信号から、所定の深さの血管中の酸素飽和度の分布を表す酸素飽和度画像を生成する画像生成手段と、画像生成手段により生成された酸素飽和度画像を表示する画像表示手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子内視鏡で撮像した画像から血管に関する情報を取得し、取得した情報を表示する電子内視鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医療分野では、電子内視鏡を用いた診断や治療が数多く行なわれている。電子内視鏡は、被検者の体腔内に挿入される細長の挿入部を備えており、この挿入部の先端にはCCDなどの撮像装置が内蔵されている。また、電子内視鏡は光源装置に接続されており、光源装置で発せられた光は、挿入部の先端から体腔内部に対して照射される。このように体腔内部に光が照射された状態で、体腔内の被写体組織が、挿入部の先端の撮像装置によって撮像される。撮像により得られた画像は、電子内視鏡に接続されたプロセッサ装置で各種処理が施された後、モニタに表示される。したがって、電子内視鏡を用いることによって、被検者の体腔内の画像をリアルタイムに確認することができるため、診断などを確実に行うことができる。
【0003】
光源装置には、波長が青色領域から赤色領域にわたる白色の広帯域光を発することができるキセノンランプなどの白色光源が用いられている。体腔内の照射に白色の広帯域光を用いることで、撮像画像から被写体組織全体を把握することができる。しかしながら、広帯域光を照射したときに得られる撮像画像からは、被写体組織全体を大まかに把握することはできるものの、微細血管、深層血管、ピットパターン(腺口構造)、陥凹や隆起といった凹凸構造などの被写体組織は明瞭に観察することが難しいことがある。このような被写体組織に対しては、波長を特定領域に制限した狭帯域光を照射することで、明瞭に観察できるようになることが知られている。また、狭帯域光を照射したときの画像データから、血管中の酸素飽和度など被写体組織に関する各種情報を取得し、その取得した情報を画像化させることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、狭帯域光を用いて酸素飽和度画像を得るものとして、近赤外領域の3波長の狭帯域光(IR1,IR2,IR3)と、可視光領域の3波長の狭帯域光(G1,G2,G3)の2つの例が示されている。いずれの組み合わせも、血中ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて光の吸収度(吸光度)が変化する波長の狭帯域光と変化しない波長の狭帯域光とを組み合わせたものになっている。また、特許文献1には、3波長の狭帯域光に対応する3つの信号のうち2つを選択し、その差を検出して酸素飽和度画像をモノクロあるいは疑似カラーで表示することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、キセノンランプなどの放電ランプによる白色光を、フィルタを使って波長の異なるR,G,Bの3色に分けて照射することにより、対象表面から所望の深部の組織情報を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許2648494号公報
【特許文献2】特許3583731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、血管深さと酸素飽和度の両方を同時に把握しながら、診断等を行ないたいという要望がある。一般に、光の深達深さは波長によって異なるため、観察対象とする血管の深さによって、ヘモグロビンの変化を感知するのに適切な波長の組み合わせが変化する。ところが、特許文献1の方法では、酸素飽和度を計測できる深さは固定されており、1台の装置で異なる深さ条件の酸素飽和度を計測することはできない。また、特許文献2の方法では、所望深さの構造情報を得ることはできるが、血管内ヘモグロビンの酸素飽和度の情報を取得することはできない。
【0008】
本発明の目的は、血管深さおよび酸素飽和度に関する情報を同時に取得して、深さの異なる血管の酸素飽和度に関する画像を同時に表示することができる電子内視鏡システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、波長帯域の異なる複数の光を順次照射する光源装置と、
前記光源装置から体腔内の血管を含む被写体組織に順次照射される光の反射光を受光して、該受光した光の波長帯域に対応する撮像信号を順次出力する電子内視鏡と、
前記電子内視鏡から出力された、前記波長帯域の異なる光の撮像信号に対応する各々の画像間の位置合わせを行う位置合わせ手段と、
前記位置合わせ手段により位置合わせが行われた各々の画像の撮像信号から、所定の深さの血管中の酸素飽和度の分布を表す酸素飽和度画像を生成する画像生成手段と、
前記画像生成手段により生成された酸素飽和度画像を表示する画像表示手段とを備えることを特徴とする電子内視鏡システムを提供するものである。
【0010】
ここで、前記光源装置は、前記波長帯域の異なる複数の光として、前記酸素飽和度に応じて、前記血管中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンの吸光度の大小関係が逆転する波長帯域の少なくとも2つの第1光と、前記吸光度が同じになる波長帯域の少なくとも1つの第2光を照射するものであることが好ましい。
【0011】
また、前記光源装置は、前記第1光および第2光として、中心波長±10nmの狭帯域光を照射するものであることが好ましい。
【0012】
また、前記電子内視鏡は、前記受光した光を前記撮像信号に光電変換するカラーの撮像素子を有し、
前記光源装置は、前記撮像素子の各色のチャンネルの分光感度に対応した中心波長の狭帯域光を同時に照射するものであることが好ましい。
【0013】
また、前記電子内視鏡は、前記受光した光を前記撮像信号に光電変換するモノクロの撮像素子を有し、
前記光源装置は、第1中心波長の狭帯域光の照射順序が、該第1中心波長の狭帯域光よりも前記被写体組織の特徴点情報を取得しやすい第2および第3中心波長の狭帯域光の間になるように照射するものであることが好ましい。
【0014】
また、前記光源装置は、前記第1光および第2光として、さらに、470〜700nmの波長帯域の広帯域光を照射し、
前記画像生成手段は、前記位置合わせ手段により位置合わせが行われた、前記狭帯域光の撮像信号および前記広帯域光の少なくとも1つの色のチャンネルの撮像信号から、前記酸素飽和度画像を生成するものであることが好ましい。
【0015】
また、前記画像生成手段は、深さの異なる複数の血管中の酸素飽和度の分布を表す酸素飽和度画像を生成し、
前記画像表示手段は、前記深さの異なる複数の血管の酸素飽和度画像を同時に表示するものであることが好ましい。
【0016】
また、前記画像表示手段は、前記深さの異なる複数の血管の酸素飽和度画像を各々別々の2次元画像として同時に表示するものであることが好ましい。
【0017】
また、前記画像表示手段は、前記深さの異なる複数の血管の酸素飽和度画像を1つの3次元画像として同時に表示するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、血管深さに応じて、被写体に照射する照明光の波長を切り替えることにより、血管深さおよび酸素飽和度に関する情報を同時に取得し、所定の深さの血管の酸素飽和度に関する画像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の電子内視鏡システムの外観図である。
【図2】図1に示す電子内視鏡システムの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】R色、G色、B色のカラーフィルターの分光透過率を示すグラフである。
【図4】カラーCCDで撮像する場合に、B,G,Rの各チャンネルの分光感度に対応する複数の狭帯域光を同時に照射する場合の概念図である。
【図5】(A)は通常光画像モード時におけるCCDの撮像動作を、(B)は特殊光画像モード時におけるCCDの撮像動作を説明する説明図である。
【図6】モノクロCCDで撮像する場合に、7種の狭帯域光を順次照射する場合の概念図である。
【図7】ヘモグロビンの吸収係数を示すグラフである。
【図8】第1及び2輝度比S1/S3,S1/S3と血管深さ及び酸素飽和度との相関関係を示すグラフである。
【図9】(A)は第1及び輝度比S1/S3,S2/S3から輝度座標系における座標(X,Y)を求める方法を、(B)は座標(X,Y)に対応する血管情報座標系の座標(U,V)を求める方法を説明する説明図である。
【図10】血管密度と酸素飽和度との相関関係を示すグラフである。
【図11】酸素飽和度画像生成部内の具体的構成を示すブロック図である。
【図12】酸素飽和度に対応する2色間色相環を示すグラフである。
【図13】(A)は血管深さに対応する濃淡を、(B)は血管深さに対応する2色間グラデーションを示すグラフである。
【図14】表層血管、中層血管および深層血管の酸素飽和度画像が同時表示されたモニタの画像図である。
【図15】表層血管、中層血管および深層血管の酸素飽和度画像が疑似3次元表示されたモニタの画像図である。
【図16】表層血管、中層血管および深層血管の酸素飽和度を撮像する場合の電子内視鏡システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の電子内視鏡システムを詳細に説明する。
【0021】
本発明の電子内視鏡システムは、撮像対象となる血管の被写体組織表面からの深さに応じて、撮像時の照明波長を切り替えることにより、異なる深さの血管中のヘモグロビンの酸素飽和度を同時に求め、深さの異なる複数の酸素飽和度画像を同時に表示する。
【0022】
以下の実施形態では、深さの異なる血管の酸素飽和度分布を取得するための光源として、中心波長が異なる7種の狭帯域光(中心波長405,445,473,532,560,650,800nm)を用いる。生体組織では、光源から照射される光の波長が長くなるほど、被写体組織表面からの光の深達深さが深くなるという一般的な特性から、撮像対象の血管の深さが深くなるほど長波の狭帯域光を用いる。
【0023】
具体的には、表層血管(深さ約10〜100μmの血管)、中層血管(深さ約100〜500μmの血管)および深層血管(深さ約500〜2000μmの血管)に対して、それぞれ、以下の3波長の狭帯域光の組み合わせを用いる。
・表層血管:中心波長405,445,473nm
・中層血管:中心波長473,532,560nm
・深層血管:中心波長560,650,800nm
【0024】
いずれの場合も、血中ヘモグロビンの酸素飽和度に応じて、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンの光の吸収度(吸光度)の大小関係が逆転する波長帯域の2つの狭帯域光と、吸光度が同じになる波長帯域の1つの狭帯域光との組み合わせを用いる。
【0025】
図1に示すように、本発明の一実施形態の電子内視鏡システム10は、被検者(被写体)の体腔内を撮像する電子内視鏡(内視鏡スコープ)11と、撮像により得られた信号に基づいて体腔内の血管領域を含む被写体組織の画像を生成するプロセッサ装置12と、体腔内を照射する光を供給する光源装置13と、体腔内の画像を表示するモニタ14とを備えている。電子内視鏡11は、体腔内に挿入される可撓性の挿入部16と、挿入部16の基端部分に設けられた操作部17と、操作部17とプロセッサ装置12及び光源装置13との間を連結するユニバーサルコード18とを備えている。
【0026】
挿入部16の先端には、複数の湾曲駒を連結した湾曲部19が形成されている。湾曲部19は、操作部のアングルノブ21を操作することにより、上下左右方向に湾曲動作する。湾曲部19の先端には、体腔内撮影用の光学系等を内蔵した先端部16aが設けられており、この先端部16aは、湾曲部19の湾曲動作によって体腔内の所望の方向に向けられる。また、操作部17には、処置具等が挿入される挿入口22が設けられている。
【0027】
ユニバーサルコード18には、プロセッサ装置12および光源装置13側にコネクタ24が取り付けられている。コネクタ24は、通信用コネクタと光源用コネクタからなる複合タイプのコネクタであり、電子内視鏡11は、このコネクタ24を介して、プロセッサ装置12および光源装置13に着脱自在に接続される。
【0028】
光源装置13は、波長帯域の異なる複数の光を照射するものであり、図2に示すように、広帯域光源30と、シャッター31と、シャッター駆動部32と、第1〜第7狭帯域光源91〜97と、カプラー36と、光源切替部37とを備えている。
【0029】
広帯域光源30はキセノンランプ、白色LED、マイクロホワイト光源などであり、波長が青色領域から赤色領域(約470〜700nm)にわたる広帯域光BBを発生する。広帯域光源30は、電子内視鏡11の使用中、常時点灯している。広帯域光源30から発せられた広帯域光BBは、集光レンズ39により集光されて、広帯域用光ファイバ40に入射する。
【0030】
シャッター31は、広帯域光源30と集光レンズ39との間に設けられており、広帯域光BBの光路に挿入されて広帯域光BBを遮光する挿入位置と、挿入位置から退避して広帯域光BBが集光レンズ39に向かうことを許容する退避位置との間で移動自在となっている。シャッター駆動部32はプロセッサ装置内のコントローラー59に接続されており、コントローラー59からの指示に基づいてシャッター31の駆動を制御する。
【0031】
なお、広帯域光源30、シャッター31、集光レンズ39、広帯域用光ファイバ40等の広帯域光に関する部材は、本実施形態では必須の構成要素ではないが、広帯域光は、後述する通常光画像モードの撮像時に利用される。
【0032】
第1〜第7狭帯域光源91〜97はレーザーダイオードなどである。第1狭帯域光源91は、波長帯域が445±10nmに、好ましくは中心波長445nmに制限された狭帯域の光(以下「第1狭帯域光N1」とする)を、第2狭帯域光源92は波長帯域が473±10nmに、好ましくは中心波長473nmに制限された狭帯域の光(以下「第2狭帯域光N2」とする)を、第3狭帯域光源93は波長帯域が405±10nmに、好ましくは中心波長405nmに制限された狭帯域の光(以下「第3狭帯域光N3」とする)を、第4狭帯域光源94は、波長帯域が532±10nmに、好ましくは中心波長532nmに制限された狭帯域の光(以下「第4狭帯域光N4」とする)を、第5狭帯域光源95は、波長帯域が560±10nmに、好ましくは中心波長560nmに制限された狭帯域の光(以下「第5狭帯域光N5」とする)を、第6狭帯域光源96は、波長帯域が650±10nmに、好ましくは中心波長650nmに制限された狭帯域の光(以下「第6狭帯域光N6」とする)を、第7狭帯域光源97は、波長帯域が800±10nmに、好ましくは中心波長800nmに制限された狭帯域の光(以下「第7狭帯域光N7」とする)を発生する。第1〜第7狭帯域光源91〜97はそれぞれ第1〜第7狭帯域用光ファイバ91a〜97aに接続されており、第1〜第7狭帯域光源91〜97で発せられた第1〜第7狭帯域光N1〜N7は第1〜第7狭帯域用光ファイバ91a〜97aに入射する。
【0033】
カプラー36は、電子内視鏡11内のライトガイド43と、広帯域用光ファイバ40及び第1〜第7狭帯域用光ファイバ91a〜97aとを連結する。これにより、広帯域光BBは、広帯域用光ファイバ40を介して、ライトガイド43に入射することが可能となる。また、第1〜第7狭帯域光N1〜N7は、第1〜第7狭帯域用光ファイバ91a〜97aを介して、ライトガイド43に入射することが可能となる。
【0034】
光源切替部37はプロセッサ装置内のコントローラー59に接続されており、コントローラー59からの指示に基づいて、第1〜第7狭帯域光源91〜97をON(点灯)またはOFF(消灯)に切り替える。本実施形態では、広帯域光BBを用いた通常光画像モードに設定されている場合には、広帯域光源30はON(シャッター31が退避位置)に切り替えられて通常光画像の撮像が行なわれる一方、第1〜第7狭帯域光源91〜97はOFFにされる。これに対して、第1〜第7狭帯域光N1〜N7を用いた特殊光画像モードに設定されている場合には、広帯域光源30はOFF(シャッター31が挿入位置)にされる一方、第1〜第7狭帯域光源91〜97が順次ONに切り替えられて特殊光画像の撮像が行なわれる。
【0035】
具体的には、まず、第1狭帯域光源91が光源切替部37によりONに切り替えられる。そして、第1狭帯域光N1が体腔内に照射された状態で、被写体組織の撮像が行なわれる。撮像が完了すると、コントローラー59から光源切替の指示がなされ、第1狭帯域光源91がOFFに、第2狭帯域光源92がONに切り替えられる。以後同様にして、第1〜第7狭帯域光源91〜97が順次ONに切り替えられて撮像が行われ、第7狭帯域光N7を体腔内に照射した状態での撮像が完了すると、第7狭帯域光源97がOFFに切り替えられる。
【0036】
本実施形態では、中心波長の異なる7種の狭帯域光(第1〜第7狭帯域光N1〜N7)を1フレーム時間毎に順次切り替えて被写体に照射することにより、7フレーム時間を1セットとして、各波長に対応する7フレーム分の画像(7枚の静止画像)を取得する。
【0037】
ここで、撮像対象の生体(被写体)等の動きによる各フレームの画像間の位置ズレ(画素ズレ)を最低限に留めるために、計測(画像の取得)は短時間で行われることが望ましい。後述するように、図3のような分光感度を持つカラーCCDを用いる場合は、B,G,Rの各チャンネルの分光感度に対応する複数の狭帯域光を同時に照射することにより、3回の計測(3フレーム時間)で7種の狭帯域光の各々に対応する計測結果を得ることができる。
【0038】
例えば、図4に示すように、最初の1フレーム時間tで、中心波長が405nmの第3狭帯域光N3、532nmの第4狭帯域光N4および650nmの第6狭帯域光N6を同時に照射することにより、Bチャンネルで撮像信号Bからなる第3狭帯域信号が、Gチャンネルで撮像信号Gからなる第4狭帯域信号が、Rチャンネルで撮像信号Rからなる第6狭帯域信号が同時に得られる。次の1フレーム時間t+1で、445nmの第1狭帯域光N1、560nmの第5狭帯域信号N5および800nmの第7狭帯域信号N7を同時に照射することにより、Bチャンネルで撮像信号Bからなる第1狭帯域信号が、Gチャンネルで撮像信号Gからなる第5狭帯域信号が、Rチャンネルで撮像信号Rからなる第7狭帯域信号が同時に得られる。その次の1フレーム時間t+2で、473nmの第2狭帯域信号を照射することにより、Bチャンネルで撮像信号Bからなる第2狭帯域信号が得られる。
【0039】
続いて、電子内視鏡11は、光源装置13から体腔内の血管を含む被写体組織に順次照射される光の反射光を受光して、受光した光の波長帯域に対応する撮像信号を出力するものであり、ライトガイド43、CCD44、アナログ処理回路45(AFE:Analog Front End)、撮像制御部46を備えている。
【0040】
ライトガイド43は大口径光ファイバ、バンドルファイバなどであり、入射端が光源装置内のカプラー36に挿入されており、出射端が先端部16aに設けられた照射レンズ48に向けられている。光源装置13で発せられた光は、ライトガイド43により導光された後、照射レンズ48に向けて出射する。照射レンズ48に入射した光は、先端部16aの端面に取り付けられた照明窓49を通して、体腔内に照射される。体腔内で反射した広帯域光BB及び第1〜第7狭帯域光N1〜N7は、先端部16aの端面に取り付けられた観察窓50を通して、集光レンズ51に入射する。
【0041】
CCD(撮像素子)44は、集光レンズ51からの光を撮像面44aで受光し、受光した光を光電変換して信号電荷を蓄積し、蓄積した信号電荷を撮像信号として読み出す。読み出された撮像信号は、AFE45に送られる。また、本実施形態のCCD44はカラーCCDであり、撮像面44aには、R色、G色、B色のいずれかのカラーフィルターが設けられたR画素(Rチャンネル)、G画素(Gチャンネル)、B画素(Bチャンネル)の3色の画素が配列されている。なお、CCD44として、モノクロCCDを使用することもできる。
【0042】
R色、G色、B色のカラーフィルターは、図3に示すような分光透過率52,53,54を有している。集光レンズ51に入射する光のうち、広帯域光BBは波長が約470〜700nmにわたるため、R色、G色、B色のカラーフィルターは、広帯域光BBのうちそれぞれの分光透過率52,53,54に応じた波長の光を透過する。ここで、R画素で光電変換された信号を撮像信号R、G画素で光電変換された信号を撮像信号G、B画素で光電変換された信号を撮像信号Bとすると、CCD44に広帯域光BBが入射した場合には、撮像信号R、撮像信号G、及び撮像信号Bからなる広帯域撮像信号が得られる。
【0043】
一方、集光レンズ51に入射する光のうち、例えば、第1狭帯域光N1は、波長が440±10nmであるため、B色のカラーフィルターのみを透過する。したがって、CCD44に第1狭帯域光N1が入射することで、撮像信号Bからなる第1狭帯域撮像信号が得られる。また、第2狭帯域光N2は、波長が470±10nmであるため、B色及びR色のカラーフィルターを透過する。したがって、CCD44に第2狭帯域光N2が入射することで、撮像信号Bと撮像信号Gとからなる第2狭帯域撮像信号が得られる。また、第3狭帯域光N3は、波長が400±10nmであるため、B色のカラーフィルターのみを透過する。したがって、CCD44に第3狭帯域光N3が入射することで、撮像信号Bからなる第3狭帯域撮像信号が得られる。以後同様に、第4〜第7狭帯域光N4〜N7は、各々の波長帯域に対応するカラーフィルターを通過して各々対応する撮像信号からなる第4〜第7狭帯域信号が得られる。
【0044】
AFE45は、相関二重サンプリング回路(CDS)、自動ゲイン制御回路(AGC)、及びアナログ/デジタル変換器(A/D)(いずれも図示省略)から構成されている。CDSは、CCD44からの撮像信号に対して相関二重サンプリング処理を施し、CCD44の駆動により生じたノイズを除去する。AGCは、CDSによりノイズが除去された撮像信号を増幅する。A/Dは、AGCで増幅された撮像信号を、所定のビット数のデジタルな撮像信号に変換してプロセッサ装置12に入力する。
【0045】
撮像制御部46は、プロセッサ装置12内のコントローラー59に接続されており、コントローラー59から指示がなされたときにCCD44に対して駆動信号を送る。CCD44は、撮像制御部46からの駆動信号に基づいて、所定のフレームレートで撮像信号をAFE45に出力する。本実施形態では、通常光画像モードに設定された場合、図5(A)に示すように、1フレーム時間の取得期間内で、広帯域光BBを光電変換して信号電荷を蓄積するステップと、蓄積した信号電荷を広帯域撮像信号として読み出すステップとの合計2つの動作が行なわれる。この動作は、通常光画像モードに設定されている間、繰り返し行なわれる。
【0046】
これに対して、通常光画像モードから特殊光画像モードに切り替えられると、図5(B)に示すように、まず、1フレーム時間の取得期間内で、第1狭帯域光N1を光電変換して信号電荷を蓄積するステップと、蓄積した信号電荷を第1狭帯域撮像信号として読み出すステップとの合計2つの動作が行なわれる。第1狭帯域撮像信号の読み出しが完了すると、次の1フレーム時間の取得期間内で、第2狭帯域光N2を光電変換して信号電荷を蓄積するステップと、蓄積した信号電荷を第2狭帯域撮像信号として読み出すステップとが行なわれる。第2狭帯域撮像信号の読み出しが完了すると、その次の1フレーム時間の取得期間内で、第3狭帯域光N3を光電変換して信号電荷を蓄積するステップと、蓄積した信号電荷を第3狭帯域撮像信号として読み出すステップとが行なわれる。以後同様にして、7フレーム時間を1セットとして、第1〜第7狭帯域光N1〜N7について、1フレーム時間毎に、蓄積と読み出しのステップが行われる。この動作は、特殊光画像モードに設定されている間、繰り返し行なわれる。
【0047】
図2に示すように、プロセッサ装置12は、デジタル信号処理部55(DSP(Digital Signal Processor))と、フレームメモリ56と、血管画像生成部57と、表示制御回路58を備えており、コントローラー59が各部を制御している。DSP55は、電子内視鏡のAFE45から出力された広帯域撮像信号及び第1〜第7狭帯域撮像信号に対し、色分離、色補間、ホワイトバランス調整、ガンマ補正などを行うことによって、広帯域画像データ及び第1〜第7狭帯域画像データを作成する。フレームメモリ56は、DSP55で作成された広帯域画像データ及び第1〜第7狭帯域画像データを記憶する。広帯域画像データは、R色、G色、B色が含まれるカラー画像データ、第1〜第7狭帯域画像データは、各々対応する色のみが含まれるカラー画像データである。
【0048】
血管画像生成部57は、画像位置合わせ処理部65と、輝度比算出部60と、相関関係記憶部61と、血管深さ−酸素飽和度算出部62と、酸素飽和度画像生成部64とを備えている。
【0049】
画像位置合わせ処理部65は、特殊光画像モードで7フレーム時間を1セットとして取得される第1〜第7狭帯域画像データに対応する各々の画像について、生体組織(被写体)や電子内視鏡11の動きによる各フレームの画像間の位置ズレを補正するために、各々の画像間の位置合わせ処理を行う。位置合わせ処理終了後の第1〜第7狭帯域画像データはフレームメモリ56に記憶される。位置合わせの手法は何ら限定されず、公知技術を含む各種の手法を採用することができる。例えば、異なる時刻に撮像された血管像間で共通する特徴点を検出して位置ズレを補正するための変換行列を作成し、この変換行列を用いて各フレームの画像間の位置ズレを補正する手法などを例示することができる。
【0050】
ここで、計測波長(撮像時の照明光の波長)が長波であるほど、位置合わせに適した特徴点情報が少なくなるという問題がある。図3に示す分光感度を持つカラーCCDを用いる構成の場合、例えば、特徴点情報を取得しやすい、405,445,473nmのBチャンネル情報(B画素で取得された撮像信号の画像データ)から変換行列を求め、GおよびRチャンネルには、同時に計測されるBチャンネル情報で求めた変換行列を適用することで、この問題に対応できる。
【0051】
また、モノクロCCDを用いる場合には、各フレームの画像間の位置合わせ精度を上げるため、図6に示すように、計測する波長の順番を工夫することが望ましい。すなわち、同図に示すように、特徴点情報を取得しにくい中心波長の狭帯域光の照射順序が、特徴点情報を取得しやすい中心波長の狭帯域光の間になるように、本実施形態では図6に示すように、800nmと473nmの狭帯域光の照射順序が405nmの狭帯域光と445nmの狭帯域光との間に、650nmと532nmの狭帯域光の照射順序が445nmの狭帯域光と560nmの狭帯域光との間になるように照射することにより、特徴点情報が少ないフレームの変換行列を、特徴点情報が多い前後のフレームで求めた変換行列から補完して求めることができる。
【0052】
続いて、輝度比算出部60は、フレームメモリ56に記憶された位置合わせ処理終了後の第1〜第7狭帯域光画像データから、例えば、血管部分の輝度値とそれ以外の部分の輝度値との差から、血管が含まれる血管領域を特定する。そして、輝度比算出部60は、血管領域内の同じ位置の画素について、例えば、第1及び第3狭帯域画像データ間の第1輝度比S1/S3を求めるとともに、第2及び第3狭帯域画像データ間の第2輝度比S2/S3を求める。ここで、S1は第1狭帯域光画像データの画素の輝度値を、S2は第2狭帯域光画像データの画素の輝度値を、S3は第3狭帯域光画像データの画素の輝度値を表している。
【0053】
相関関係記憶部61は、例えば、第1及び第2輝度比S1/S3,S2/S3と、血管中の酸素飽和度及び血管深さとの相関関係を記憶している。この相関関係は、血管が図7に示すヘモグロビンの吸光係数を有する場合の相関関係であり、これまでの診断等で蓄積された多数の第1〜第7狭帯域光画像データを分析することにより得られたものである。図7に示すように、血管中のヘモグロビンは、照射する光の波長によって吸光係数μaが変化する吸光特性を持っている。吸光係数μaは、ヘモグロビンの光の吸収の大きさである吸光度を表すもので、ヘモグロビンに照射された光の減衰状況を表すIexp(−μa×x)の式の係数である。ここで、Iは光源装置から被写体組織に照射される光の強度であり、x(cm)は被写体組織内の血管までの深さである。
【0054】
また、酸素と結合していない還元ヘモグロビン70と、酸素と結合した酸化ヘモグロビン71は、異なる吸光特性を持っており、同じ吸光度(吸光係数μa)を示す等吸収点(図7における各ヘモグロビン70,71の交点)を除いて、吸光度に差が生じる。吸光度に差があると、同じ血管に対して、同じ強度かつ同じ波長の光を照射しても、輝度値が変化する。また、同じ強度の光を照射しても、波長が異なれば吸光係数μaが変わるので、輝度値が変化する。また、酸素飽和度が同じでも、波長が異なれば吸収係数の値も異なり、粘膜中の深達度も異なっている。したがって、波長によって深達度が異なる光の特性を利用することで、輝度比と血管深さの相関関係を得ることができる。
【0055】
相関関係記憶部61は、図8に示すように、第1及び第2輝度比S1/S3,S2/S3を表す輝度座標系66の座標と、酸素飽和度及び血管深さを表す血管情報座標系67の座標との対応付けによって、相関関係を記憶している。輝度座標系66はXY座標系であり、X軸は第1輝度比S1/S3を、Y軸は第2輝度比S2/S3を表している。血管情報座標系67は輝度座標系66上に設けられたUV座標系であり、U軸は血管深さを、V軸は酸素飽和度を表している。U軸は、血管深さが輝度座標系66に対して正の相関関係があることから、正の傾きを有している。このU軸に関して、右斜め上に行くほど血管は浅いことを、左斜め下に行くほど血管が深いことを示している。一方、V軸は、酸素飽和度が輝度座標系66に対して負の相関関係を有することから、負の傾きを有している。このV軸に関して、左斜め上に行くほど酸素飽和度が低いことを、右斜め下に行くほど酸素飽和度が高いことを示している。
【0056】
また、血管情報座標系67においては、U軸とV軸とは交点Pで直交している。これは、第1狭帯域光N1の照射時と第2狭帯域光N2の照射時とで吸光度の大小関係が逆転しているためである。図7に示すように、例えば、波長が440±10nmである第1狭帯域光N1を照射した場合には、還元ヘモグロビン70の吸光係数は、酸素飽和度が高い酸化ヘモグロビン71の吸光係数よりも大きくなるのに対して、波長が470±10nmである第2狭帯域光N2を照射した場合には、酸化ヘモグロビン71の吸光係数のほうが還元ヘモグロビン70の吸光係数よりも大きくなっているため、吸光度の大小関係が逆転している。なお、第1〜第3狭帯域光N1〜N3に代えて、吸光度の大小関係が逆転しない狭帯域光を照射したときには、U軸とV軸とは直交しなくなる。また、波長が400±10nmである第1狭帯域光N1を照射したときには、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光係数はほぼ同じになっている。
【0057】
血管深さ−酸素飽和度算出部62は、相関関係記憶部61の相関関係に基づき、輝度比算出部60で算出された第1及び第2輝度比S1/S3,S2/S3に対応する酸素飽和度と血管深さを特定する。ここで、輝度比算出部60で算出された第1及び第2輝度比S1/S3,S2/S3のうち、血管領域内の所定画素についての第1輝度比をS1/S3とし、第2輝度比をS2/S3とする。
【0058】
血管深さ−酸素飽和度算出部62は、図9(A)に示すように、輝度座標系66において、第1及び第2輝度比S1/S3,S2/S3に対応する座標(X,Y)を特定する。座標(X,Y)が特定されたら、図9(B)に示すように、血管情報座標系67において、座標(X,Y)に対応する座標(U,V)を特定する。これにより、血管領域内の所定位置の画素について、血管深さU及び酸素飽和度Vが求まる。ここで、血管深さは数値情報で表され、血管深さが浅いほど数値は小さく、血管深さが深くなるほど数値は大きくなる。酸素飽和度についても、血管深さと同様に、数値情報で表される。
【0059】
上記のように、例えば、中心波長445,473,405nmの第1〜第3狭帯域光N1〜N3に対応する第1〜第3狭帯域画像データを用いて血管深さU及び酸素飽和度Vを求めることができる。上記例は、血管深さの分解能が高い表層血管の酸素飽和度を求める場合に適している。一方、波長473nm以降の波長においては、短波に比べ血管深さの分解能が落ちるため、表層血管の場合と同様にして酸素飽和度を求めることが難しくなってくる。以下に、473nm以降の中層血管および深層血管に対応する狭帯域光の波長の組み合わせに適した酸素飽和度の算出手法について説明する。
【0060】
ここで、ヘモグロビンの酸素飽和度によらず吸光度が同じ波長の狭帯域光源をL1,酸素飽和度が高いほど吸光度が強くなる波長の狭帯域光源をL2,酸素飽和度が高いほど吸光度が弱くなる波長の狭帯域光源をL3とする。
【0061】
例えば、中層血管の場合、波長532nmの第4狭帯域光源94がL1に、波長473nmの第2狭帯域光源92がL2に、波長560nmの第5狭帯域光源95がL3に対応する。各狭帯域光源L1〜L3を照射して得られた反射信号(狭帯域画像データの画素の輝度値)をM1〜M3とすると、輝度値M1が被写体組織内の血管密度に対応し、M2とM3の輝度比M2/M3が酸素飽和度の大小に対応する。このことから、輝度値M1と輝度比M2/M3の相関を取ると図10のような分布が得られ、この分布図から中層血管中の酸素飽和度Vを得ることができる。
【0062】
この場合、輝度比算出部60は、血管領域内の同じ位置の画素について、第4狭帯域画像データの輝度値M1と、第2及び第5狭帯域画像データ間の輝度比M2/M3を求める。また、相関関係記憶部61には、輝度値M1及び輝度比M2/M3と、中層血管中の酸素飽和度Vとの相関関係が記憶される。血管深さ−酸素飽和度算出部62は、相関関係記憶部61の図10に示す相関関係に基づき、輝度比算出部60で算出された輝度値M1と輝度比M2/M3に対応する酸素飽和度Vを特定する。また、深層血管の場合も中層血管の場合と同様にして酸素飽和度を求めることができる。
【0063】
一般的に、図10の分布は撮像対象の部位によって非線形に変化するため、実際の生体組織の計測や光伝播シミュレーション等により予め求めておく必要がある。なお、中層血管および深層血管の酸素飽和度Vを別途求めることは必須ではない。
【0064】
酸素飽和度画像生成部64は、図11に示すように、酸素飽和度の大小に応じてカラー情報が割り当てられた胃用カラーテーブル64a、十二指腸用カラーテーブル64b、小腸用カラーテーブル64cを備えている。これらカラーテーブル64a〜64cは、コンソール23の切替操作により切り替えが可能であり、観察する部位に合ったものが選択される。胃用カラーテーブル64aは胃における酸素飽和度に対応したカラー情報が、十二指腸用カラーテーブル64bは十二指腸における酸素飽和度に対応したカラー情報が、小腸用カラーテーブル64cは小腸における酸素飽和度に対応したカラー情報が割り当てられている。酸素飽和度画像生成部64は、コンソール23により選択されたカラーテーブル64a〜64cのいずれかを用い、血管深さ−酸素飽和度算出部62で算出された血管深さUに基づいて決定される表層血管、中層血管および深層血管のそれぞれについて、酸素飽和度Vに対応するカラー情報を特定する。
【0065】
なお、本実施形態では、胃、十二指腸、小腸用の3種類のカラーテーブルを使用するが、カラーテーブルの種類に制限はなく、例えば、その他の被写体組織の部位に対応したカラーテーブルをさらに加えてもよい。
【0066】
酸素飽和度画像生成部64の各カラーテーブル64a〜64cのカラー情報は、図12に示すように、Cy(シアン)からR(赤)までの2色間色相環で表される。図12では、カラー情報は、酸素飽和度が小さいときにはCyであり、酸素飽和度を大きくするほどB(ブルー)、M(マゼンダ)、Rの順で変化する。
【0067】
本実施形態では、カラー情報を色相環で表すが、図13(A)に示すように、白、黒などの無彩色または有彩色について、濃淡、即ち明度でカラー情報を表してもよい。図13(A)では、酸素飽和度が小さいときには濃くし(明度を低くし)、酸素飽和度が大きくなるほど薄くする(明度を高くする)。また、図13(B)に示すように、カラー情報をRからCyまでの2色間グラデーションで表してもよい。図13(B)では、カラー情報は補色関係にある2色の、酸素飽和度に応じて彩度がRとCyとの間で変化し、酸素飽和度が小さいときにはRで表され、酸素飽和度が大きくなるほどCyに近づく。2色間グラデーションの場合は、中間値にグレーが含まれているため、2色色相環と異なり、補色同士間で変化するときにグレーを通過する。視認性の実験をしたところ、2色間グラデーションの視認性は良好な結果を得ている。
【0068】
酸素飽和度画像生成部64は、血管領域内の全ての画素についてのカラー情報が特定されると、フレームメモリ56から広帯域画像データを読み出し、読み出された広帯域画像データに対してカラー情報を反映させる。これにより、表層血管、中層血管および深層血管の酸素飽和度が反映(疑似カラー表示)された酸素飽和度画像データが生成される。生成された酸素飽和度画像データは再度フレームメモリ56に記憶される。なお、カラー情報は、広帯域画像データにではなく、第1〜第7狭帯域画像データのいずれか、あるいはこれらを合成した合成画像に対して反映させてもよい。また、広帯域画像データをモノクロ画像に変換して、カラー情報を反映させてもよい。第1〜第7狭帯域画像データやモノクロ画像に反映させることで、カラー情報の識別性が向上する。
【0069】
表示制御回路58は、フレームメモリ56に記憶された酸素飽和度画像データに基づいて、本実施形態の場合、表層血管、中層血管および深層血管の酸素飽和度画像を同時にモニタに表示する。各層血管の酸素飽和度画像では、低酸素飽和度の領域(画素)がシアン(Cy)で、中酸素飽和度の領域がマゼンダ(M)で、高酸素飽和度の領域が赤(R)で疑似カラー表示される。表示制御回路58は、図14に示すように、例えば、各層血管の3枚の酸素飽和度画像(2次元画像)を同時に横一列に並べて表示することができる。この表示方法では、各層の血管について、酸素飽和度の2次元分布が確認しやすいという利点がある。また、図15に示すように、表示制御回路58は、各層血管の酸素飽和度画像を疑似3次元画像で表示することもできる。この表示方法では、血管深さに応じた酸素飽和度の変化が視認しやすいという利点がある。なお、各層血管の酸素飽和度画像の表示方法は何ら制限されず、画像切替SW68により、モニタ14に表示する画像の枚数(1枚以上)、同時に表示する画像の種類、表示位置等を切り替えることができる。
【0070】
次に、図16に示すフローチャートを参照して、表層血管、中層血管および深層血管の酸素飽和度を撮像する場合の電子内視鏡システム10の動作を説明する。
【0071】
まず、コンソール23の操作により、通常光画像モードから特殊光画像モードに切り替える(ステップS01)。特殊光画像モードに切り替えられると、この切替時点での広帯域画像データが、各層血管の酸素飽和度画像の生成に用いられる画像データとしてフレームメモリ56に記憶される(ステップS02)。また、コンソール23の操作によって、胃、十二指腸、小腸など現時点での観察部位を指定する。これにより、酸素飽和度画像生成部64において、その観察部位に応じたカラーテーブル64a〜64cのいずれか一つが選択される。なお、酸素飽和度画像の生成に用いる広帯域画像データは、コンソール操作前のものを使用してもよい。
【0072】
そして、コントローラー59からシャッター駆動部32に対して照射停止信号が送られると、シャッター駆動部32は、シャッター31を退避位置から挿入位置に移動させ、体腔内への広帯域光BBの照射を停止する。広帯域光BBの照射が停止されると、コントローラー59から光源切替部37に対して照射開始指示が送られる。これにより、光源切替部37は、第1狭帯域光源91をONにし、第1狭帯域光N1を体腔内に照射する(ステップS03)。第1狭帯域光N1が体腔内に照射されると、コントローラー59から撮像駆動部46に対して撮像指示が送られる。これにより、第1狭帯域光N1が照射された状態で撮像が行なわれ、撮像により得られた第1狭帯域撮像信号は、AFE45を介して、DSP55に送られる。DSP55では第1狭帯域撮像信号に基づいて第1狭帯域画像データが生成される。生成された第1狭帯域画像データは、フレームメモリ56に記憶される(ステップS04)。
【0073】
第1狭帯域画像データがフレームメモリ56に記憶されたら、光源切替部37は、コントローラー59からの光源切替指示により、体腔内に照射する光を第1狭帯域光N1から第2狭帯域光N2へと切り替える。以後同様にして、体腔内に照射する光を順次切り替えて撮像を行うことにより、第1〜第7狭帯域光N1〜N7に各々対応する第1〜第7狭帯域画像データが順次生成され、フレームメモリ56に記憶される(ステップS05)。
【0074】
画像位置合わせ処理部65は、フレームメモリ56に第1〜第7狭帯域画像データが記憶されると、第1〜第7狭帯域画像データに対応する各々の画像について、生体組織等の動きによる各フレームの画像間の位置ズレを補正するために、各々の画像間の位置合わせ処理を行う。位置合わせ処理終了後の第1〜第7狭帯域画像データはフレームメモリ56に記憶される(ステップS06)。
【0075】
続いて、輝度比算出部60は、まず、位置合わせ処理終了後の第1〜第7狭帯域画像データから、血管を含む血管領域を特定する(ステップS07)。
【0076】
また、輝度比算出部60は、血管領域内の同じ位置の画素について、第1及び第2狭帯域画像データ間の第1輝度比S1/S3と、第2及び第3狭帯域画像データ間の第2輝度比S2/S3を算出する(ステップS08)。そして、血管深さ−酸素飽和度算出部62は、相関関係記憶部61の相関関係に基づいて、第1及び第2輝度比S1/S3,S2/S3に対応する血管深さU及び表層血管の酸素飽和度Vを求める(ステップS09)。
【0077】
また、輝度比算出部60は、血管領域内の同じ位置の画素について、第4狭帯域画像データの輝度値M1と、第2及び第5狭帯域画像データの輝度比M2/M3を算出する(ステップS10)。続いて、血管深さ−酸素飽和度算出部62は、相関関係記憶部61の相関関係に基づいて、輝度値M1と輝度比M2/M3に対応する中層血管の酸素飽和度Vを特定する(ステップS11)。
【0078】
また、中層血管の場合と同様にして、深層血管の場合の酸素飽和度Vが求められる(ステップS12)。
【0079】
酸素飽和度画像生成部64では、血管深さUと、表層血管、中層血管および深層血管の酸素飽和度Vが求められると、コンソール23によりいずれかに選択されたカラーテーブル64a〜64cに基づき、血管深さUに基づいて決定された表層血管、中層血管および深層血管の各層について、酸素飽和度Vに対応するカラー情報が特定される。特定されたカラー情報は、プロセッサ装置12内のRAM(図示省略)に記憶される(ステップS13)。
【0080】
そして、カラー情報がRAMに記憶されると、血管領域内の全ての画素について、上述した手順で、血管深さU及び酸素飽和度Vを求めるとともに、各層血管の酸素飽和度Vに対応するカラー情報を特定する(ステップS14)。
【0081】
そして、血管領域内の全ての画素について酸素飽和度とそれに対応するカラー情報が得られると、酸素飽和度画像生成部64は、フレームメモリ56から広帯域画像データを読み出し、この広帯域画像データに対して、RAMに記憶されたカラー情報を反映させることにより、各層血管の酸素飽和度画像データを生成する。生成された各層血管の酸素飽和度画像データは、再度フレームメモリ56に記憶される(ステップS15)。
【0082】
そして、表示制御回路58は、フレームメモリ56から各層血管の酸素飽和度画像データを読み出し、これら読み出した画像データに基づいて、例えば、図14に示すように、表層血管、中層血管および深層血管の酸素飽和度画像を同時に横一列に並べてモニタ14に表示する。また、画像切替SW68で切り替えることにより、表示制御回路58は、図15に示すように、各層血管の酸素飽和度画像を疑似3次元画像で表示することもできる(ステップS16)。
【0083】
各層血管の酸素飽和度画像は、本実施形態の場合、低酸素飽和度の領域(画素)がシアン(Cy)で、中酸素飽和度の領域がマゼンダ(M)で、高酸素飽和度の領域が赤(R)で疑似カラー表示される。
【0084】
上記のように、電子内視鏡システム10では、血管深さに応じて、被写体に照射する照明光の波長を切り替えることにより、血管深さおよび酸素飽和度に関する情報を同時に取得し、深さの異なる血管の酸素飽和度画像を同時に表示することができる。
【0085】
なお、上記実施形態では、表層血管、中層血管および深層血管に対応する狭帯域光のみの組み合わせを用いて酸素飽和度の情報を取得しているが、本発明はこれに限定されず、狭帯域光に加えて広帯域光の一部の色のチャンネル情報を組み合わせて各層血管の酸素飽和度の情報を取得することもできる。一例として、表層血管および深層血管に対して、それぞれ、以下の組み合わせを示す。
・表層血管:中心波長445,473nmの狭帯域光および広帯域光のGチャンネル
・深層血管:中心波長800nmの狭帯域光および広帯域光のRチャンネル
【0086】
この場合、表層血管は、445nmと473nmの狭帯域光を照射したときの反射信号の輝度比が酸素飽和度の大小に、広帯域光を照射したときのGチャンネルの反射信号の輝度値が組織内血管密度の情報に対応する。また、深層血管は、広帯域光を照射したときのRチャンネルの反射信号の輝度値が酸素飽和度の大小に、800nmの狭帯域光を照射したときの反射信号の輝度値が組織内血管密度の情報に対応する。この性質を用い、図10と同様の分布図から酸素飽和度を求めることができる。
【0087】
また、本発明は、表層血管、中層血管および深層血管の3層に限らず、深さの異なる、任意深さの複数の血管の酸素飽和度の分布を同時に取得し、これを画像化して表示することができる。また、本発明において、深さの異なる複数の血管の酸素飽和度情報を取得するために使用される狭帯域光の数は上記実施形態の7種に限定されない。
【0088】
さらに、本発明は、挿入部等を有する挿入型の電子内視鏡の他、CCDなどの撮像素子等をカプセルに内蔵させたカプセル型の電子内視鏡に対しても適用することができる。
【0089】
本発明は、基本的に以上のようなものである。
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0090】
10 電子内視鏡システム
11 電子内視鏡
12 プロセッサ装置
13 光源装置
14 モニタ
16 挿入部
16a 先端部
17 操作部
18 ユニバーサルコード
19 湾曲部
21 アングルノブ
22 挿入口
24 コネクタ
30 広帯域光源
31 シャッター
32 シャッター駆動部
36 カプラー
37 光源切替部
39 集光レンズ
40 広帯域用光ファイバ
43 ライトガイド
44 CCD
44a 撮像面
45 アナログ処理回路
46 撮像制御部
48 照射レンズ
49 照明窓
50 観察窓
51 集光レンズ
52,53,54 分光透過率
55 デジタル信号処理部
56 フレームメモリ
57 血管画像生成部
58 表示制御回路
59 コントローラー
60 輝度比算出部
61 相関関係記憶部
62 血管深さ−酸素飽和度算出部
64 酸素飽和度画像生成部
64a〜64c カラーテーブル
65 画像位置合わせ処理部
66 輝度座標系
67 血管情報座標系
68 画像切替SW
70 還元ヘモグロビン
71 酸化ヘモグロビン
91〜97 第1〜第7狭帯域光源
91a〜97a 第1〜第7狭帯域用光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長帯域の異なる複数の光を順次照射する光源装置と、
前記光源装置から体腔内の血管を含む被写体組織に順次照射される光の反射光を受光して、該受光した光の波長帯域に対応する撮像信号を順次出力する電子内視鏡と、
前記電子内視鏡から出力された、前記波長帯域の異なる光の撮像信号に対応する各々の画像間の位置合わせを行う位置合わせ手段と、
前記位置合わせ手段により位置合わせが行われた各々の画像の撮像信号から、所定の深さの血管中の酸素飽和度の分布を表す酸素飽和度画像を生成する画像生成手段と、
前記画像生成手段により生成された酸素飽和度画像を表示する画像表示手段とを備えることを特徴とする電子内視鏡システム。
【請求項2】
前記光源装置は、前記波長帯域の異なる複数の光として、前記酸素飽和度に応じて、前記血管中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンの吸光度の大小関係が逆転する波長帯域の少なくとも2つの第1光と、前記吸光度が同じになる波長帯域の少なくとも1つの第2光を照射するものであることを特徴とする請求項1に記載の電子内視鏡システム。
【請求項3】
前記光源装置は、前記第1光および第2光として、中心波長±10nmの狭帯域光を照射するものであることを特徴とする請求項2に記載の電子内視鏡システム。
【請求項4】
前記電子内視鏡は、前記受光した光を前記撮像信号に光電変換するカラーの撮像素子を有し、
前記光源装置は、前記撮像素子の各色のチャンネルの分光感度に対応した中心波長の狭帯域光を同時に照射するものであることを特徴とする請求項3に記載の電子内視鏡システム。
【請求項5】
前記電子内視鏡は、前記受光した光を前記撮像信号に光電変換するモノクロの撮像素子を有し、
前記光源装置は、第1中心波長の狭帯域光の照射順序が、該第1中心波長の狭帯域光よりも前記被写体組織の特徴点情報を取得しやすい第2および第3中心波長の狭帯域光の間になるように照射するものであることを特徴とする請求項3に記載の電子内視鏡システム。
【請求項6】
前記光源装置は、前記第1光および第2光として、さらに、470〜700nmの波長帯域の広帯域光を照射し、
前記画像生成手段は、前記位置合わせ手段により位置合わせが行われた、前記狭帯域光の撮像信号および前記広帯域光の少なくとも1つの色のチャンネルの撮像信号から、前記酸素飽和度画像を生成するものであることを特徴とする請求項3に記載の電子内視鏡システム。
【請求項7】
前記画像生成手段は、深さの異なる複数の血管中の酸素飽和度の分布を表す酸素飽和度画像を生成し、
前記画像表示手段は、前記深さの異なる複数の血管の酸素飽和度画像を同時に表示するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電子内視鏡システム。
【請求項8】
前記画像表示手段は、前記深さの異なる複数の血管の酸素飽和度画像を各々別々の2次元画像として同時に表示するものであることを特徴とする請求項7に記載の電子内視鏡システム。
【請求項9】
前記画像表示手段は、前記深さの異なる複数の血管の酸素飽和度画像を1つの3次元画像として同時に表示するものであることを特徴とする請求項7に記載の電子内視鏡システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−200517(P2011−200517A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71913(P2010−71913)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】