説明

電子写真感光体の製造方法、電子写真感光体、電子写真装置、電子写真製造方法および電子写真感光体用塗工機

【課題】 非ハロゲン系溶剤であっても、塗膜ムラの発生を抑制することができ、均一な塗膜を形成することができる浸漬塗工による電子写真感光体の製造方法、電子写真感光体、電子写真装置、電子写真製造方法および電子写真感光体用塗工機を提供する。
【解決手段】 少なくとも中間層及び感光層を浸漬塗工して製造する際にフードを用いる電子写真感光体の製造方法において、環状エーテル系化合物、ケトン系化合物、及び芳香族系炭化水素化合物から選ばれる少なくとも1種の溶剤または分散剤を使用した塗工液が収容された塗工槽に円筒状の導電性基体を浸漬させる浸漬塗工に、導電性基体の周りにフードを設け、導電性基体を一定の速度または逐次的に変化する速度で、フードも連動して引上げると共に導電性基体近傍の鉛直方向の風速を0.1m/s以下にすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザプリンタ、ファクシミリ、コピア等に用いられる電子写真感光体を浸漬塗工によって製造する電子写真感光体の製造方法、その製造方法により得られた電子写真感光体、その製造方法により得られた電子写真感光体を用いた電子写真装置、電子写真製造方法および電子写真感光体用塗工機に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真プロセスを使用した画像形成装置においては、表面が一様に帯電した感光体の表面を、形成する画像に応じた書き込み光で露光して感光体に静電潜像を形成し、形成した静電潜像にトナーを付着させて可視化する。このトナー像を記録紙に転写して熱と圧力を印加して定着し記録紙に画像を形成する。そしてトナー像を記録紙に転写した後に、感光体表面に残留しているトナーはクリーニング手段で除去される。
【0003】
このような画像形成装置に採用される感光体を製造するには、感光層を形成する塗工液を満たした浸漬塗工槽の液面を一定に保ちながら、浸漬塗工槽にアルミニウムなどの円筒状に形成された導電性基体を昇降装置で浸漬させ、この導電性基体表面に感光層を塗布した後、塗工槽から、感光層の塗布された導電性基体を一定の速度または逐次的に変化する速度で引上げ、この導電性基体を静止させて、導電性基体表面の感光層等の塗膜が指触乾燥するまで自然乾燥させた後にオーブン等を用いて完全に乾燥させる方法が採用されている。
【0004】
上記感光層用塗工液として使用される溶剤として、ハロゲン系溶剤に代表される低沸点の溶剤が使用される場合には、指触乾燥が短時間で済むが、最近では環境対応のために環状エーテル系化合物、ケトン系化合物、芳香族系炭化水素化合物等の非ハロゲン系溶剤を使用した塗工液が使用されるようになった。
【0005】
しかしながら、これらの非ハロゲン系溶剤を使用した場合は、ハロゲン系溶剤より高沸点であるため指触乾燥が長くかかり、その結果、導電性基体を塗工液に浸漬後の引上げから指触乾燥するまでの間に、周囲に微弱な空気流が発生して、導電性基体表面に形成された塗膜の厚さに厚さムラが生じてしまう虞があった。このように感光層等の膜厚にムラが生じた感光体を用いて画像を形成すると、画像濃度ムラ、トナー付着等により地肌汚れ等が発生して画質劣化の原因となってしまう。
【0006】
更に近年、電子写真のデジタル化が急速に進み、デジタル化に対応した電子写真感光体の特性が求められるようになった。そのため最近のデジタル複写機やプリンタにおいては、反転現像法が主流となっている。この反転現像法は現行の黒部(色部)に対して電子写真感光体に画像露光し表面電位を消失させ、その露光部にトナー像を形成し、未露光部にはトナー像を形成しない現像法である。
【0007】
一般に、電子写真感光体で反転現像を用いた場合には、白地にトナーが局部的に付着して「黒ポチ」、「地肌汚れ」と称される画像欠陥が生じる。これは導電性基体または下層からの電荷注入による表面電荷の局部的な中和により発生する。
【0008】
この反転現像時に発生する黒ポチ、地肌汚れを防止するために、導電性基体と感光層との間に中間層を設け、導電性基体または下層からの電荷注入を防止する必要がある。またレーザ光のような可干渉光で画像の書き込みを行うレーザプリンタ等に用いる感光体の場合には、モアレの発生を防止する為に屈折率の大きい白色顔料を中間層中の樹脂に分散させる必要がある。以上のことから中間層としては白色顔料を中間層樹脂中に分散させ、膜厚を厚くすることでこれらに対応してきた。
【0009】
また、反転現像時に発生する黒ポチ、地肌汚れを防止するために感光層の膜厚を厚くし、電子写真感光体にかかる電界を小さくすることによって、導電性基体または下層からの電荷注入を困難にさせることによって対応することもできる。
【0010】
感光層の膜厚を厚くすることによって放電破壊に対する余裕度が向上し、その結果、繰り返し使用による感光層の摩耗量から来る感光体の寿命も長くなり、高耐久性を有する感光体となる。
【0011】
また、従来、コロナ帯電方式による帯電が行われてきたが、コロナ帯電による電子写真プロセスを繰り返すとオゾン濃度あるいはNOxが増加し、使用環境の安全性が著しく阻害される。このため近年では接触帯電方式が用いられるようになってきている。
【0012】
接触帯電方式はコロナ帯電方式に比較し、オゾン量の発生が著しく少ないため環境安全性の問題が改善される。その反面、接触帯電方式特有の問題として、直接感光体に高電圧を印加することにより、感光体の放電破壊が起きやすい。この放電破壊が発生すると、反転現像では大きな黒ポチとなって現れる。
【0013】
このため放電破壊を防止するためには、中間層を厚くし、導電性基対表面の傷や凹凸などの欠陥を十分に隠蔽する必要がある。また、感光層の膜厚を厚くし、電子写真感光体にかかる電界を小さくすることも有効な方法である。
【0014】
上記したように反転現像に使用される電子写真感光体は、黒ポチや地肌汚れの発生を防止するために、また接触帯電での放電破壊を防止するために、中間層や感光層を厚くする必要がある。
【0015】
中間層や感光層を設けるには、塗工法を用いる。しかしながら、中間層や感光層を厚く塗工すると、前述した理由から、塗膜中の溶剤あるいは分散剤の量が多く、指触乾燥時間が長くなり、特に溶剤あるいは分散剤が気化して塗膜成分が増大して乾く瞬間の時期になると、特に塗膜の周りの微弱な空気流の影響を受け易い。特に浸漬塗工では、厚く塗工するには塗工速度を速める必要があり、塗工速度を速めることで引上げ時に発生する空気流速も大きくなり、その結果、膜厚ムラを発生しやすくなる。電子写真感光体の中間層、感光層に膜厚にムラがあれば、中間層、感光層の膜厚の薄い部分では、前記した黒ポチや地肌汚れが発生しやすく、よって、接触帯電方式の場合は感光体放電破壊も発生しやすくなるという重大な問題があった。
【0016】
このため、浸漬塗工における膜厚ムラ対策として塗工フードを設ける方法が提案されている。例えば、基体昇降装置に伸縮性フードを設け、導電性基体を浸漬塗布槽から引上げて乾燥するときに、伸縮フードの上部から下部に向けて空気を流して導電性基体周囲の塗布液の蒸気濃度を上部から下部に向けて減少させて溶剤の乾燥を速めてブラッシングを防止するという方法がある(特許文献1参照)。しかし、この方法では伸縮フードの上部から下部に向けて空気を流すため、その空気流により導電性基体の塗膜は却って乱れてしまう。
【0017】
また、上下に開口を持つ筒状フードを導電性基体と連動させて引上げ、塗布液のタレや風の影響による膜厚不均一を避ける方法がある(特許文献2参照)。しかし、この方法は被塗工材に対して横からの風には効果があるものの、被塗工材引上げ時に生じる鉛直方向の空気流には効果はない。
【0018】
また、円筒状のフードを開口径が10μmから1mmのメッシュで形成し、このフードで浸漬塗布槽も覆いながら導電性基体と連動して引上げ、風の影響による膜厚不均一を避けるようにしている方法がある(特許文献3参照)。しかし、この方法はフードがメッシュで構成されているため、引上げ時のフード内に空気流が発生し塗膜が乱れる。またフードは浸漬塗布槽も覆い、また導電性基体と連動して引上げるようにするため、浸漬塗布槽よりも大きなフードが必要となり、設備が大型化してコスト高になってしまう。
【0019】
また、フードを通気性カバーとすることで、溶剤蒸気は通気性カバーを通して外に放出され、フード内の溶剤蒸気濃度が高くならずに溶剤が凝結しないため塗膜のタレを防止できる発明が知られている(特許文献4参照)。しかし、この方法はフードが通気性のため、引上げ時、フード内に空気流が発生し塗膜が乱れてしまう問題点は未解決のまま残存している。
【0020】
また、フードの上下に塗工液溶剤蒸気を排出する開口を設け、フード内の溶剤蒸気濃度が高くならず塗膜のタレを防止できるという発明が知られている(特許文献5参照)。しかし、この発明では、フードの上下に開口があるため、引上げ動作時にフード内に空気流が発生ししたがって、塗膜が乱れてしまう。
【0021】
また、上部を塞いだフードを使用し、被塗工材の周りの空気流の影響による膜厚不均一性を防止するという発明が知られている(特許文献6参照)。しかし、この発明では、連続塗工時に圧縮空気を送る装置が必要となり、装置が大型化してしまう。
【特許文献1】特開昭63−7873号公報
【特許文献2】特開平3−274569号公報
【特許文献3】特開平10−123731号公報
【特許文献4】特開2002−91026号公報
【特許文献5】特開2004−160275号公報
【特許文献6】特開2002−326046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上記した特許文献1ないし6に記載の発明は、総じて、横風による膜厚ムラに関しては効果があるものの、被塗工材の引上げ時にフード自体にある穴や昇降機への装着部分に存在する隙間から空気流がフード内に侵入してしまう。特に環状エーテル系化合物、ケトン系化合物、芳香族系炭化水素化合物等の非ハロゲン系溶剤を使用した塗工液を使用した場合には、塗膜からの溶剤蒸気の蒸発がハロゲン系溶剤に比べて遅いため、わずかの空気流の流れ込んでも膜厚ムラが発生しやすい。
【0023】
本発明はそのような非ハロゲン系溶剤であっても、塗膜ムラの発生を抑制することができ、均一な塗膜を形成することができる浸漬塗工による電子写真感光体の製造方法を提供することを目的とし、それによって製造される高画質で高耐久の電子写真感光体を提供することを目的とし、また、その電子写真感光体を用いた異常画像の発生しない電子写真装置及び電子写真プロセスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題は次の(1)ないし(12)の発明によって解決される。
(1)少なくとも中間層及び感光層を浸漬塗工して製造する際にフードを用いる電子写真感光体の製造方法において、環状エーテル系化合物、ケトン系化合物、及び芳香族系炭化水素化合物から選ばれる少なくとも1種の溶剤または分散剤を使用した塗工液が収容された塗工槽に円筒状の導電性基体を浸漬させる浸漬塗工に、導電性基体の周りにフードを設け、導電性基体を一定の速度または逐次的に変化する速度で、フードも連動して引上げると共に導電性基体近傍の鉛直方向の風速を0.1m/s以下にする電子写真感光体の製造方法を特徴とする。なお逐次的に変化する速度とは連続的に速度が増加もしくは減少することを意味する。
(2)フードが伸縮性であることを特徴とする(1)に記載の電子写真感光体の製造方法。
(3)伸縮性のフードが蛇腹形状であることを特徴とする(2)に記載の電子写真感光体の製造方法。
(4)浸漬塗工後の導電性基体が塗工槽から全て引上げられたとき、フードの最下端部が導電性基体の最下端部の位置と同じか若しくはそれより下にある(1)ないし(3)のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法を特徴とする。
(5)(1)ないし(4)のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法により製造されたことを特徴とする電子写真感光体。
(6)感光層の膜厚が28μm以上であることを特徴とする(5)に記載の電子写真感光体。
(7)中間層の膜厚が5.0μm以上であることを特徴とする(5)に記載の電子写真感光体。
(8)少なくとも帯電手段、画像露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段及び電子写真感光体からなる電子写真装置であって、電子写真感光体が(5)ないし(7)のいずれかに記載の電子写真感光体である電子写真装置を特徴とする。
(9)帯電手段が接触帯電手段である(8)に記載の電子写真装置を特徴とする。
(10)少なくとも電子写真感光体に帯電、画像露光、現像、転写を繰り返し行う電子写真製造方法であって、前記電子写真感光体が(5)ないし(7)のいずれかに記載の電子写真感光体である電子写真製造方法を特徴とする。
(11)帯電が接触帯電で行われ、帯電後、電子写真感光体表面に形成された静電潜像を反転現像する(10)に記載の電子写真製造方法を特徴とする。
(12)静電潜像が絶対値で600V以上の暗部電位を有する(11)に記載の電子写真製造方法を特徴とする。
(13)塗工槽と、基台と基台に設けられた伸縮部材と、伸縮部材を昇降させる昇降手段と、伸縮部材伸縮により昇降する昇降部材と、昇降部材に設けられたアームと、アームの先端下部に設けられ円筒状の被塗工材を保持する基体保持部と、基体保持部で保持した被塗工材を覆うフードを有し、フードが伸縮性を有するフードであるか、または蛇腹形状であり、浸漬塗工後に基体保持部で保持された導電性基体が塗工槽から全て引上げられたとき、フードの最下端部が導電性基体の最下端部の位置と同じか若しくはそれより下にあり、導電性基体を一定の速度または逐次的に変化する速度で、フードも連動して引上げると共に導電性基体近傍の鉛直方向の風速を0.1m/s以下にした電子写真感光体用塗工機を特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電子写真感光体の製造方法によれば、浸漬塗工の際、導電性基体の周りにフードを設け、該導電性基体が塗工槽から引上げられるとき、フードが連動して引上げられると共に該引上げ時の導電性基体近傍の鉛直方向の風速を0.01m/s以下にすることから、導電性基体近傍における空気流の発生が抑えられ、塗膜ムラのない均一な塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の電子写真感光体の製造方法を、実施形態により、詳細に説明する。
【0027】
図1は本発明の電子写真感光体の製造方法に用いる浸漬塗工装置の概略構成図である。浸漬塗工装置1は図1に示すように、塗工液2を満たした塗工槽3と、基台4に設けられた昇降ねじ(伸縮部材)5と、昇降ねじ5を回転する(または昇降させる)昇降モータ(昇降手段)6と、昇降ねじ5の回転により昇降する昇降機(昇降部材)7と、昇降機7に設けられたアーム(または天板)8と、アーム8の先端の下部に設けられ円筒状の被塗工材9を保持する基体保持部10及び基体保持部10で保持した被塗工材9を覆うフード11を有する。
【0028】
フード11の下端部は開口しており、基体保持部10が下降してフード11の下端部が塗工槽3の開口フレームに接すると、図2に示すように、フード11の内側あるいは外側に重なり合って収容されるような構造体となっている。そして基体保持部が上昇するとフード11もそれに伴って順次伸張する。
【0029】
感光体を作製するときは、中間層用材料、感光層材料の各塗工液2をそれぞれ塗工槽3に満たし、昇降モータ6を駆動して昇降機7を下降し、基体保持部10で保持している円筒状の導電性基体9を、塗工槽3の塗工液2に浸漬させる。この導電性基体9を塗工槽3より一定速度または逐次的に変化する速度で引上げ、導電性基体9の表面に感光体材料を塗膜として形成する。この塗工槽3から引上げる時に、導電性基体9の表面近傍の風速を0.1m/s以下とする。特に好ましい風速は、0.01m/secから0.08m/secの範囲内である。0.01m/sec未満の風よりも0.01m/secから0.08m/secの風がフード内を流れるほうが、塗膜の膜厚(のバラツキ、あるいはムラ)に影響を与えずに溶剤あるいは分散剤の蒸散を乱さずに行うことができ、その結果、指触乾燥時間が短くなり、しかも塗膜の膜厚ムラの無い感光体の生産性の向上に役立つ。
【0030】
浸漬塗工後の引上げ時でのフード11内に発生する空気流は、フード11や塗工設備の装着部分に存在する隙間と塗工速度で変化する。風速を0.1m/s以下とするためには、フードやフードと塗工設備の装着部分の隙間を制御したり、また塗工液の粘度を調整し引上げ速度を制御したりすることで達成できる。
【0031】
塗工液粘度を調節して塗工速度を制御しようとすれば、塗工液を高粘度にして塗工速度を抑えなければならず、生産性が落ちる虞がある。ある程度の塗工速度を保ちつつフード内の空気流の風速を抑えるためには、フードと塗工設備の装着部分の隙間をできるだけ塞で、常に風速を0.1m/sec以下とすれば、電子写真感光体として機能する感光層、中間層膜厚に対して膜厚ムラを抑えることができる。本発明に使用される塗工液は、分散の状態がよく、浸漬塗工の際に塗工液を撹拌することを要しない。特に引上げの際に塗膜がウェットの状態であるため、極端な塗液の移動は、膜厚ムラを発生させる要因を含んでいる。
【0032】
伸縮性のフード11は、アルミ、ステンレス等の耐溶剤性、耐食性を有する金属製か、ポリアミド(商標ナイロンなど)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂(商品名テフロン(登録商標)など)、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の耐溶剤性を有するプラスチック類、さらにガラス布などを用いて作製することができる。また、伸縮性フードの水平断面形状は円筒状や4角形、6角形等の多角形状がよく、その他の多角形でも問題ない。更に伸縮性フードは複数の部材で構成され、図2等で示すように、収縮時の形態が、複数の部材で構成されるフードである場合にそれらの部材が順次内側又は外側に折り畳まれる形態のものであってもよく、収縮時のフード全体が蛇腹の形態等であってもよい。
【0033】
特に伸縮性のフード11が複数の部材で構成され、それらの部材が順次内側又は外側に折り畳まれる形態を採用する場合、これら部材同士の接触の機会を無くし、粉塵等の発生を防止して得られる感光体の塗膜欠陥を防止するため、本発明の製造方法に採用されるフードは、蛇腹構造のものが最も好ましい。
【0034】
また、フード11の材質は帯電性でないものが良い。帯電性部材であるとごみ等が塗工フード内に持ち込まれやすくなり、その結果塗膜欠陥を発生しやすくなる。そのため、フード11をアース接続しておくことが好ましい。
【0035】
次に本発明の電子写真感光体について説明する。
本発明で使用する導電性基体としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属;カーボン等の導電性顔料を分散したプラスチック;絶縁性支持体(プラスチック又はプラスチックフィルムなど)上に金属を蒸着した又は導電性塗料を塗工して形成したもの等が例示できる。これら例示した基体の材料から選択される1種を用いるかまたはこれらの2種以上を適宜選択して併用することができる。
【0036】
また、導電性基体の表面は必要に応じて画質に影響のない範囲で各種の処理を行うことができる。
【0037】
次に中間層について説明する。
中間層に用いる無機顔料は、一般に用いられている顔料を用いることができるが、可視光及び近赤外光に吸収のほとんど無い白色又はその近傍の色のものが感光体の高感度化を実現する上で望ましい。例えばこのような無機顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、硫酸亜鉛、鉛白、リトポン等の白色顔料や酸化アルミ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料等が挙げられる。
【0038】
この中で酸化チタンは他の白色顔料に比較して屈折率が大きく、化学的にも物理的にも安定であり、隠蔽力が大きく、白色度も大きい。また酸化チタンにはルチル型、アナタース型があるが、このいずれでも使用できる。
【0039】
本発明に用いる中間層用結着剤樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ポリアミド樹脂、メトキシメチル化ポリアミド等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の三次元網目構造を形成する硬化型樹脂などが挙げられる。
【0040】
中間層用塗工液の作製方法は、上記結着剤樹脂を溶剤あるいは分散剤で溶解あるいは分散し、無機顔料と共に、ボールミル、ロールミル、サンドミル、アトライターなどで分散させる。この分散液を本発明の浸漬塗工法で導電性基体上に塗工、乾燥することによって、中間層が形成される。
【0041】
中間層における結着剤樹脂/無機顔料は、重量比で、1/15〜2/1の範囲が好ましい。
【0042】
中間層の厚さは、0.5μm以上20.0μm以下が好ましいが、繰り返し使用による地肌よごれが発生しにくい高耐久感光体とするには、中間層の膜厚が厚いほど有利となるため、5.0μm以上であり、また、帯電手段が接触帯電手段である場合、放電破壊を防止するためにも5.0μm以上の中間層とすることが望ましい。中間層膜厚が5.0μm未満の場合、本発明の浸漬塗工方法を採用しなくても、ある程度、膜厚ムラの少ない均一な塗膜を形成することができるが、膜厚が5.0μm以上の場合には、本発明の浸漬塗工方法を採用すると、均一な膜厚となる。
【0043】
中間層上に設ける感光層は、単層型でも積層型でもよい。ただし、どちらの場合でも感光層用塗工液に使用する溶剤あるいは分散剤は、環状エーテル系化合物、ケトン系化合物、芳香族系炭化水素化合物から選ばれた溶剤あるいは分散剤とする。
【0044】
更に感光層の膜厚は、繰り返し使用しても異常画像を発生させないために、28μm以上(上限は50μm)とすることが望ましい。
【0045】
感光体は、繰り返し使用により接触部材により摩耗し膜厚が減少すると、感光体にかかる電界強度が大きくなり、導電性支持体からの電荷注入により地肌汚れ等の異常画像が発生するので、光導電層の膜厚を厚くしておくほうが、繰り返しの使用でも、高品質な画像を提供しつづけることができる。
【0046】
ここでいう感光層の膜厚とは、感光層が電荷発生層と電荷輸送層が積層されて形成されている場合、電荷発生層と電荷輸送層との合計の膜厚を意味しており、また感光層が単層の場合には、その感光層そのものの膜厚を意味している。
【0047】
前述したように、環境対策の面からも感光層用塗工液に使用する溶剤または分散剤を環状エーテル系化合物、ケトン系化合物、芳香族系炭化水素化合物から選ばれた溶剤または分散剤を使用すると、高沸点であるため指触時間が長くなる結果、導電性基体を塗工液に浸漬後、引上げ終了後から指触乾燥するまでの間に周囲にある速度を超えた微少な空気流が発生すると導電性基体の表面に形成された塗膜の厚さにムラが生じてしまう。感光層中に前記溶剤または分散剤は残留しやすい。特に感光層の膜厚を28μm以上とすると、指触乾燥時間が長くなり、膜厚ムラが発生しやすい。しかし本発明の浸漬塗工方法を採用すると、感光層は均一な膜厚となる。
【0048】
環状エーテル系化合物としては、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等を例示することができる。ケトン系化合物としては、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等を例示することができる。また、芳香族系炭化水素化合物としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等を例示することができる。
【0049】
まず感光層が電荷発生層と電荷輸送層で構成される場合から述べる。
電荷発生層は、電荷発生材料を主成分とする層である。電荷発生材料には、無機または有機材料が用いられ、たとえばモノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、キナクリドン系顔料、キノン系縮合多環化合物、スクアリック酸系染料、フタロシアニン系顔料、ナフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩系染料、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素合金、アモルファス・シリコン等が挙げられる。これら電荷発生材料は、単独で用いることができ、或いは2種類以上併用して用いられる。
【0050】
電荷発生層は、電荷発生材料を、適宜バインダー樹脂とともに、環状エーテル系有機溶剤(または分散剤)、ケトン系有機溶剤(または分散剤)、芳香族系有機溶剤(または分散剤)を用いてボールミル、アトライター、サンドミルなどにより分散し、分散液を塗布することにより形成する。適宜用いられるバインダー樹脂としては、前記有機溶剤(分散剤)に溶解(または分散)可能なポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリスチレン、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。電荷発生層の膜厚は0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.1〜2μmの範囲である。
【0051】
電荷輸送層は、電荷輸送物質および結着樹脂を環状エーテル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、芳香族系有機溶剤に溶解ないし分散し、これを電荷発生層上に塗布、乾燥することにより形成できる。また、必要により可塑剤、レベリング剤等を添加することもできる。
【0052】
電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。電子輸送物質としては、例えばクロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ[1,2−b]チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ベンゾキノン誘導体等の電子受容性物質があげられる。
【0053】
正孔輸送物質としては、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ−γ−カルバゾリルエチルグルタメートおよびその誘導体、ピレン−ホルムアルデヒド縮合物およびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、ポリシラン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジエン誘導体、ピレン誘導体、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体、その他ポリマー化された正孔輸送物質等公知の材料があげられる。
【0054】
電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、特開平5−158250号公報、特開平6−51544号公報記載の各種ポリカーボネート共重合体等の熱可塑性または熱硬化性樹脂があげられる。
【0055】
電荷輸送物質の量は、結着樹脂100重量部に対し、20〜300重量部の範囲で、好ましくは40〜150重量部の範囲での使用が適当である。
【0056】
次に、光導電層が単層構成の場合について述べる。
光導電層が単層構成の場合、少なくとも電荷発生材料及び電荷輸送材料を、バインダー樹脂、フェノール系化合物、有機硫黄系化合物を環状エーテル系化合物、ケトン系化合物、芳香族系炭化水素化合物から選ばれた1種以上の溶剤または分散剤に溶解ないし分散し、これを塗布、乾燥することによって形成できる。また、必要により可塑剤等を添加することもできる。バインダー樹脂としては、先に電荷輸送層で挙げたバインダー樹脂の1種を用いてもよく、また、2種以上併用(混合して)用いてもよい。
【0057】
本発明では、さらに、電荷輸送層にレベリング剤、酸化防止剤などを添加しても良い。
添加可能なレベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどのシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマ−あるいはオリゴマーを挙げることができ、その使用量は結着剤樹脂100重量部に対して、0〜1重量部の範囲が適当である。
【0058】
添加可能な酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、硫黄系化合物、燐系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ピリジン誘導体、ピペリジン誘導体、モルホリン誘導体等の酸化防止剤を挙げることができ、その使用量としては、結着剤樹脂100重量部に対して0〜5(0より大きく5)重量部程度の範囲が適当である。
【0059】
次に本発明の電子写真装置及び電子写真プロセスについて述べる。
本発明の電子写真装置は、少なくとも帯電手段、画像露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段及び電子写真感光体を有し、電子写真感光体が上述した本発明の電子写真感光体の製造方法を用いて製造された電子写真感光体であることを特徴とする。
【0060】
まず本発明の電子写真装置を説明する。
回転するドラム状の電子写真感光体の外周面に帯電手段により感光体は正または負の所定電圧に帯電される。帯電手段には正または負の直流電圧がかけられている。帯電手段に印加する直流電圧は−2000V〜+2000Vの範囲が好ましい。
【0061】
最近の電子写真装置の帯電法として、一般的なコロナ帯電に替わって接触帯電を用いた装置が実用化されてきている。この帯電法により、装置の簡略化やコロナ放電で生成するオゾンを軽減する等が可能である。
【0062】
接触帯電手段への印加電圧は、直流、交流又は直流+交流のいずれを用いてもよい。又、印加方法も瞬時に印加してもよく、段階的に印加電圧を上げていって(または下げていって)もよい。
【0063】
帯電した感光体は、次いで画像露光手段により光像露光(スリット露光あるいはレーザビーム走査露光など)を受け、静電潜像が形成される。
【0064】
現像方式には正転現像と反転現像がある。
正転現像は、露光走査時に原稿面の非画像部が露光され、低電位となる。この非画像部の電位よりやや高い現像バイアスを印加して現像をおこなう。また反転現像は、露光走査時に原稿面の非画像部に対しては露光を中断し、露光によって低電位となった画像部に対して、表面電位よりやや低い現像バイアスを印加して現像を行う。
【0065】
これらの静電潜像は、次いで現像手段でトナー現像により顕在化され、そのトナー現像像が転写帯電手段により給紙部から感光体と転写手段との間に感光体の回転と同期されて給送される記録材の面に順次転写されていく。像転写を受けた記録材は感光体面から分離されて像定着手段へ導入されて一般的には加圧加熱されて像定着して複写物(コピー)として機外ヘ出力される。
【0066】
この際に感光層の膜厚にムラがあると、感光体の感度が、感光体の膜厚が薄い部分では遅くなり、厚い部分では早くなるため、ハーフトーン画像の電位が一定にならず、その結果、局部的にハーフトーン画像濃度ムラが発生することになる。特に反転現像手段を備えた電子写真装置で出力される画像濃度は、搭載される電子写真感光体の感度に大きく依存する。そのため電子写真感光体の感度が部分的に異なる感光体及び反転現像手段を搭載した電子写真装置では、ハーフトーン画像だけでなく黒ベタ画像にも濃度ムラが現れてしまう。
【0067】
しかし、本発明の電子写真装置では、搭載する電子写真感光体の膜厚にムラがないので感度が感光層全域にわたって均一になり、黒ベタ画像やハーフトーン画像の濃度も均一で高品質な画像となる。
【0068】
感光体の放電破壊を起こしやすい接触帯電方式における反転現像プロセスでは、大きな黒ポチとなり異常画像となりやすいが、本発明の電子写真装置では、中間層及び感光層を厚膜化しても黒ベタやハーフトーンでの濃度ムラの発生がなく、このような接触帯電手段を用いた電子写真装置に搭載しても、放電破壊を発生することなく、良好な画像を提供できる電子写真装置となる。
【0069】
次に本発明の電子写真プロセスは、電子写真感光体に少なくとも帯電、画像露光、現像、転写の工程を繰り返し行う電子写真形成方法(電子写真プロセス)であって、電子写真感光体が上述した本発明の電子写真感光体の製造方法を用いて製造された電子写真感光体であることを特徴とする。
【0070】
現像プロセス(現像工程)で出力される画像濃度は、露光電位に大きく依存する。露光電位は搭載される電子写感光体の感度に大きく依存する。そのため電子写真感光体の膜厚に局部的なムラがある場合、感光体の感度が局部的に異なり(換言すれば膜厚のムラに応じて感光体の感度もムラが生じ)、露光電位も局部的に異なって、画像濃度ムラとして画像に現れてしまう。正転現像の場合には、ハーフトーン画像に画像濃度ムラとして表れるが、反転現像の場合は、ハーフトーン画像だけでなく黒ベタ画像にも濃度ムラが現れてしまう。
【0071】
しかし、本発明の電子写真プロセスでは、搭載する電子写真感光体の感度が感光層全域にわたって均一なため、露光電位も均一となり黒ベタ画像やハーフトーン画像の濃度もそれぞれの電位が反映して高品質な画像となる。
【0072】
さらに、反転現像プロセスでは暗部電位と明部電位の電位差を十分にとっており、環境等の変動による電位変動に対して余裕が有り、良好な画像を提供できる。その一つの手法として感光体の帯電電位を高くする手法が挙げられるが、これでは放電破壊の発生率は高くなる。
【0073】
これに対して本発明のプロセスを用いれば、帯電電位は絶対値で600V以上帯電させても何ら問題はなく、繰り返しの使用でも常に良好な画像を形成することができる。すなわち感光体表面に暗部電位が絶対値で600V以上の静電潜像を形成し、形成された静電潜像を反転現像する電子写真プロセスにおいても、常に良好な画像を提供することができる。
【0074】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって限定されて解釈されるものではない。
【実施例1】
【0075】
アルキド樹脂ベッコゾール1307−60EL(固形分60wt%)(大日本インキ化学(株)製)150重量部と、メラミン樹脂スーパーベッカミンG−821−60(固形分60wt%)(大日本インキ化学(株)製)100重量部とを、メチルエチルケトン600重量部に溶解した。
【0076】
この溶液に酸化チタンCR−EL(石原産業(株)製)580重量部を加え、アルミナボールをメデイア(分散ボール)としたボールミルで、48時間分散し、中間層用塗工液を作製した。
【0077】
φ30mm×L340mmのアルミ製のドラム(導電性基体)9に、この中間層用塗工液2を、帯電防止処理を施したポリエステルで作製した蛇腹形状のフード11を設置した浸漬塗工装置1(図3及び図4参照)を用いて塗工し、その後120℃で20分乾燥し、厚さ6.0μmの中間層を形成した。
【0078】
次にブチラール樹脂エスレックBMS(積水化学(株)製)5重量部をシクロヘキサノン150重量部に溶解し、これに下記構造式(1)のトリスアゾ顔料15重量部を加え、ボールミルを用いて72時間分散を行った。
【0079】
更にシクロヘキサノン210重量部を加え5時間分散を行った。これを固形分が1.0wt%になるように、攪拌しながらシクロヘキサノンで希釈した。
【0080】
【化1】

【0081】
このようにして得られた電荷発生層用塗布液2を、前記した中間層上に帯電防止処理を施したポリエステルで作製した蛇腹形状のフード11を設置した図3及び図4に示す浸漬塗工装置1を用いて浸漬塗工し、指触乾燥後に120℃下に10分間乾燥を行い、厚さ約0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0082】
次に下記構造式(2)の電荷輸送物質80重量部と、ポリカーボネート樹脂パンライトTS2050(帝人化成(株)製)110重量部と、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール0.5重量部と、シリコーンオイルKF−50(信越化学工業(株)製)0.02重量部とを、テトラヒドロフラン910重量部に溶解した。
【0083】
【化2】

【0084】
このようにして得られた電荷輸送層用塗布液2を前記電荷発生層上に帯電防止処理を施したポリエステルで作製した蛇腹形状のフードを設置した図3及び図4に示すような浸漬塗工装置を用いて浸漬塗工し、135℃下に20分間乾燥し、厚さ28μmの電荷輸送層を形成し、電子写真用感光体を作製した。
【0085】
各層の浸漬塗工時の塗膜近傍での鉛直方向の風速を、(株)テストー製TESTO445を用いた測定したところ、全て0.03m/secであった。ドラムが塗工槽から全て引上げられた状態で、フード11の最下端部位置は、中間層、感光層両方の塗工時ともドラムの最下端部位置と同じとなっていた。
【実施例2】
【0086】
実施例1において、電荷輸送層用塗工液を作製するときに用いる溶剤(分散剤)を1,3−ジオキソランに替えた以外は、実施例1と同様にして感光体を作製した。
【実施例3】
【0087】
実施例1において、電荷輸送層用塗工液を作製するときに用いる溶剤(分散剤)をキシレンに替えた以外は、実施例1と同様にして感光体を作製した。
【実施例4】
【0088】
実施例1において電荷輸送層用塗工液を作製するときに用いる溶剤(分散剤)をトルエンとした以外は、実施例1と同様にして感光体を作製した。
【実施例5】
【0089】
実施例1において、中間層の膜厚を1.8μmとした以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【実施例6】
【0090】
実施例1において、電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0091】
[実施例7〜8、比較例1〜4]
実施例1において、浸漬塗工装置とフードの装着部の隙間の大きさを変更し、各層の浸漬塗工時の鉛直方向の風速を変えた以外は、実施例1と同様にして感光体を作製した。
各層の浸漬塗工時の塗膜近傍の鉛直方向の風速は表1のようになった。
【0092】
【表1】

【0093】
得られた感光体をレーザプリンタSP−90((株)リコー製)に搭載し、暗部帯電電位−900V、反転現像バイアス−550Vに調節した後20℃/50%RHで初期画像及び100Kプリント後(A4)の画像を評価した。評価結果を表2に示す。なおSP−90は、非接触のコロナ帯電手段、レーザによる画像露光手段、反転現像手段、転写手段を装備した電子写真装置である。
【0094】
【表2】

【実施例7】
【0095】
実施例1の感光体を連続200本作製した。
【実施例8】
【0096】
実施例1において、使用したフードを、蛇腹形態ではなく、アルミ製の内側に折り畳まれる形態のもの(図1及び図2参照)を使用した以外は実施例1と全く同様にして、感光体を200本連続塗工し作製した。
実施例9及び実施例10で作製した各200本の感光体の外観検査を行い、異物付着の本数をカウントした。結果を表3に示す。
【0097】
【表3】

【実施例9】
【0098】
アルキド樹脂ベッコライトM−6401−50(固形分50wt%)(大日本インキ化学(株)製)60重量部と、メラミン樹脂スーパーベッカミンG−821−60(固形分60wt%)(大日本インキ化学(株)製)35重量部をメチルエチルケトン200重量部とを、シクロヘキサノン170重量部に溶解し、これに酸化チタンTTO−55N(石原産業(株)製)280重量部を加え、ボールミルで96時間分散した。
【0099】
φ30mm×L340mmのアルミニウム素管の導電性基体9に、この分散液を実施例1で使用した浸漬塗工装置(図3及び図4参照)を用いて塗布し、135℃下で20分乾燥し、5.5μmの中間層を設けた。
【0100】
次に下記構造式(3)のジスアゾ顔料65.0重量部をメチルエチルケトン350重量部に、ボールミルを用いて200時間分散を行った。分散終了後、ポリビニルブチラール(エスレックBX−1:積水化学(株)製)11.0重量部をメチルエチルケトン400重量部と、シクロヘキサノン2000重量部とに溶解した樹脂液を添加し、7時間分散を行い、電荷発生用塗工液を作製した。
【0101】
【化3】

【0102】
このようにして得られた電荷発生層用塗布液を前記中間層上に、実施例1で使用した図3及び図4にしめすような浸漬塗工装置を用いて塗布し、70℃下に20分間乾燥を行い、厚さ約0.4μmの電荷発生層を形成した。
【0103】
次に下記構造式(4)の電荷輸送物質90重量部と、ポリカーボネート樹脂パンライトL−1250(帝人化成(株)製)100重量部と、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール0.5重量部と、シリコーンオイルKF−50(信越化学工業(株)製)0.02重量部とを、200重量部の1,3−ジオキソラン、650重量部のテトラヒドロヒランおよび50重量部のキシレンの混合溶媒(分散媒)に溶解した。
【0104】
【化4】

【0105】
このようにして得られた電荷輸送層用塗布液を前記電荷発生層上に実施例1で使用した図3及び図4に示すような浸漬塗工装置を用いて塗布し、135℃下に20分乾燥し、膜厚33μmの電荷輸送層を形成し、電子写真感光体を作製した。
【0106】
各層の浸漬塗工時の塗膜近傍の鉛直方向の風速は、中間層が0.10m/secであり、電荷発生層:0.03m/secであり、電荷輸送層が0.10m/secであった。またドラムが塗工槽から全て引上げられた状態でのフードの最下端部位置は、中間層、感光層両方の塗工時ともドラムの最下端部位置より5mm下となっている。
【実施例10】
【0107】
実施例10において、中間層の膜厚を2.0μmとした以外は実施例10と全く同様にして感光体を作製した。
【0108】
各層の浸漬塗工時の塗膜近傍の鉛直方向の風速は、中間層:0.05m/secであり、電荷発生層が0.03m/secであり、電荷輸送層が0.10m/secであった。
【実施例11】
【0109】
実施例11において、電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は実施例11と同様にして感光体を作製した。
【0110】
各層の浸漬塗工時の塗膜近傍の鉛直方向の風速は、中間層が0.05m/secであり、電荷発生層が0.03m/secであり、電荷輸送層が0.03m/secであった。
【0111】
[比較例5〜7]
実施例12において、浸漬塗工装置とフードの装着部の隙間の大きさを変更し、各層の浸漬塗工時の鉛直方向の風速を変えた以外は実施例12と全く同様にして感光体を作製した。
【0112】
【表4】

【実施例12】
【0113】
実施例11において、ドラムが塗工槽から全て引上げられた状態でのフードの最下端部位置がドラムの最下端部位置より100mm上となるように調整した以外は、実施例11と全く同様にして感光体を作製した。
【0114】
以上のようにして得られた感光体を、露光手段を改造したIPSiO NX720N((株)リコー製)に搭載し、暗部帯電電位−980V、反転現像バイアス−650Vに調節した後、20℃/50%RHの環境で初期画像および放電破壊による黒ぽち発生まで出力画像枚数(A4)を評価した。結果を表5に示す。なおIPSiO NX720Nは、帯電ローラによる接触帯電手段、反転現像手段、転写手段を備えた電子写真装置である。また655nmで露光するように露光手段を改造した。
【0115】
【表5】

【0116】
以上説明したように、本発明の電子写真感光体の製造方法によれば、浸漬塗工の際、導電性基体の周りにフードを設け、該導電性基体が塗工槽から引上げられるとき、フードが連動して引上げられると共に該引上げ時の導電性基体近傍の鉛直方向の風速を0.01m/s以下にすることから、導電性基体近傍における空気流の発生が抑えられ、塗膜ムラのない均一な塗膜を形成することができる。
【0117】
本発明の電子写真感光体の製造方法によれば、上記フードを伸縮性としたことから、簡単でコンパクトな塗工設備により膜厚ムラのない均一な塗膜を形成することができる。
【0118】
本発明の電子写真感光体の製造方法によれば、上記伸縮性のフードを蛇腹形状としたことから、より簡単、コンパクトな塗工設備となり、また異物付着が少なく、膜厚ムラのない均一な塗膜を形成することができる。
【0119】
本発明の電子写真感光体の製造方法によれば、浸漬塗工後の導電性基体が塗工槽から全て引上げられた状態において、フードの最下端部位置が導電性基体の最下端部位置と同じか、それより下としたことから、導電性基体の塗工上端から下端まで膜厚ムラのない均一な塗膜を形成することができる。
【0120】
本発明の電子写真感光体によれば、上記電子写真感光体の製造方法により製造したことから、膜厚ムラのない均一な感光層塗膜が形成され、画像濃度ムラ、黒ポチ、白ポチ、地肌汚れ等の異常画像の発生がない、より高品質な電子写真感光体を提供することができる。
【0121】
本発明の電子写真感光体によれば、感光層の膜厚を28μm以上とすることから、繰り返し使用しても黒ポチ、白ポチ、地肌汚れ等の異常画像の発生がない、より高耐久の電子写真感光体を提供することができる。
【0122】
本発明の電子写真感光体によれば、中間層の膜厚を5.0μmとすることから、画像濃度ムラ、黒ポチ、白ポチ、地肌汚れ等の異常画像の発生がない、より高品質な画像を提供することができる。
【0123】
本発明の電子写真装置によれば、上記電子写真感光体を用いたことから、画像濃度ムラ、黒ポチ、白ポチ、地肌汚れ等の異常画像の発生がない高品質な画像を提供することができる。
【0124】
本発明の電子写真装置によれば、上記電子写真装置の帯電手段として接触帯電手段を用いたことから、オゾン量の発生が著しく少なく、そのため環境問題を発生させることなく、画像濃度ムラ、黒ポチ、白ポチ、地肌汚れ等の異常画像の発生がない高品質な画像を提供することができる。
【0125】
本発明の電子写真製造方法(電子写真プロセス)によれば、上記電子写真感光体を用いたことから、画像濃度ムラ、黒ポチ、白ポチ、地肌汚れ等の異常画像の発生がない高品質な画像を提供することができる。
【0126】
本発明の電子写真製造方法(電子写真プロセス)によれば、上記電子写真感光体を接触帯電させた後、形成された静電潜像を反転現像することから、オゾン量の発生が著しく少なく、そのため、環境問題を発生させることなく、画像濃度ムラ、黒ポチ、白ポチ、地肌汚れ等の異常画像の発生がない高品質な画像を提供することができる。
【0127】
本発明の電子写真製造方法(電子写真プロセス)によれば、上記静電潜像が絶対値で600V以上の暗部電位を有し、該静電潜像が反転現像されることから、画像濃度ムラ、黒ポチ、白ポチ、地肌汚れ等の異常画像の発生がない、より高品質な画像を提供することができる。
【0128】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明で用いる第1の浸漬塗工装置の概略の構成図である。
【図2】図1の浸漬塗工装置において、フードを折り畳んだ状態を示す図である。
【図3】本発明で用いる第2の浸漬塗工装置の概略の構成図である。
【図4】図3の浸漬塗工装置において、フードを折り畳んだ状態を示す図である。
【符号の説明】
【0130】
1 浸漬塗工装置
2 塗工液
3 塗工槽
4 基台
5 昇降ねじ(伸縮部材の一例)
6 昇降モータ(昇降手段の一例)
7 昇降機(昇降部材の一例)
8 アームまたは天板
9 被塗工材または導電性基体
10 基体保持部
11 フード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも中間層及び感光層を浸漬塗工して製造する際にフードを用いる電子写真感光体の製造方法において、
環状エーテル系化合物、ケトン系化合物、及び芳香族系炭化水素化合物から選ばれる少なくとも1種の溶剤または分散剤を使用した塗工液が収容された塗工槽に円筒状の導電性基体を浸漬させる前記浸漬塗工に、前記導電性基体の周りに前記フードを設け、前記導電性基体を一定の速度または逐次的に変化する速度で、前記フードも連動して引上げると共に前記導電性基体近傍の鉛直方向の風速を0.1m/s以下にすることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記フードが伸縮性を有するフードであることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記伸縮性のフードが蛇腹形状であることを特徴とする請求項2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記浸漬塗工後に導電性基体が前記塗工槽から全て引上げたとき、前記フードの最下端部が前記導電性基体の最下端部の位置と同じか若しくはそれより下にあることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法により製造された電子写真感光体。
【請求項6】
感光層の膜厚が28μm以上であることを特徴とする請求項5に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
中間層の膜厚が5.0μm以上であることを特徴とする請求項5または6に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
少なくとも帯電手段、画像露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段及び電子写真感光体からなる電子写真装置であって、
前記電子写真感光体が請求項5ないし7のいずれか1項に記載の電子写真感光体であることを特徴とする電子写真装置。
【請求項9】
前記帯電手段が接触帯電手段であることを特徴とする請求項8に記載の電子写真装置。
【請求項10】
少なくとも電子写真感光体に帯電と、画像露光と、現像と、転写とを繰り返し行う電子写真製造方法であって、前記電子写真感光体が請求項5ないし7のいずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とする電子写真製造方法。
【請求項11】
前記帯電が接触帯電であり、前記接触帯電後、電子写真感光体表面に形成された静電潜像を反転現像することを特徴とする請求項10に記載の電子写真製造方法。
【請求項12】
前記静電潜像が絶対値で600V以上の暗部電位を有することを特徴とする請求項11に記載の電子写真製造方法。
【請求項13】
塗工槽と、
基台と前記基台に設けられた伸縮部材と、
前記伸縮部材を昇降させる昇降手段と、
前記伸縮部材伸縮により昇降する昇降部材と、
前記昇降部材に設けられたアームと、
前記アームの先端下部に設けられ円筒状の被塗工材を保持する基体保持部と、
前記基体保持部で保持した被塗工材を覆うフードと、を有し、
前記フードが伸縮性を有するフードであるか、または蛇腹形状であり、前記浸漬塗工後に前記基体保持部で保持された導電性基体が前記塗工槽から全て引上げられたとき、前記フードの最下端部が前記導電性基体の最下端部の位置と同じか若しくはそれより下にあり、前記導電性基体を一定の速度または逐次的に変化する速度で、前記フードも連動して引上げると共に前記導電性基体近傍の鉛直方向の風速を0.1m/s以下にしたことを特徴とする電子写真感光体用塗工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−86176(P2007−86176A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272236(P2005−272236)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】