説明

電子写真感光体の製造方法

【課題】 帯電極性が異なる電子写真感光体を製造する際に発生する感光体の品質上の不具合を防止した電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 正帯電用または負帯電用の如き帯電極性の異なる電子写真感光体を同一の反応容器内で製造する場合には、帯電極性の異なる電子写真感光体を製造する前に、反応容器の内壁の少なくとも円筒状基体に対向する部分を、液体を使って洗浄をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD法を用いた電子写真感光体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、一般的にアルミニウムまたはその合金からなる導電性の円筒状基体の上に、有機物系材料またはアモルファスシリコン(以下「a−Si」ともいう)などの無機材料からなる膜が形成されて製造される。これらの中でも、a−Si(例えば水素原子やハロゲン原子で補償されたa−Si)堆積膜が形成された電子写真感光体(以下「a−Si感光体」ともいう)は、高性能かつ高耐久であり、広く実用化されている。ハロゲン原子とは、例えばフッ素原子や塩素原子などである。
円筒状基体の上にa−Si堆積膜を形成する方法としては、プラズマCVD法、すなわち、原料ガスを直流や高周波、マイクロ波グロー放電等によって分解し堆積膜を形成する方法が、電子写真感光体の製造方法として実用化されている。
より具体的には、円筒状基体を反応容器内に設置し、反応容器内に原料ガスを供給し、グロー放電によって原料ガスが分解されるとともに、円筒状基体の上にa−Si堆積膜が形成される。目的とするa−Si堆積膜の形成された円筒状基体は反応容器内から取り出され、一方、堆積膜形成後の反応容器内は付着した堆積膜や粉状の副生成物を除去するためにクリーニングされる。
反応容器内のクリーニングは、反応容器を分解し、ウェットエッチング、ブラストなどの物理的エッチングを行う方法があるが、堆積膜形成毎に装置を分解・クリーニング・組立を行うのに多大な労力を必要とするため、製造コストが上昇する。
そこで例えば、特許文献1には、反応容器を分解せずに、クリーニング性ガスを適切に導入してクリーニング処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−241866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子写真感光体には、電子写真プロセスの帯電時に、表面電荷を正とする正帯電用電子写真感光体と表面電荷を負とする負帯電用電子写真感光体がある。a−Si感光体では、堆積膜形成中に周期表第13族元素や周期表第15族元素のドーパント原子を適宜添加して、所定の層構成の堆積膜を形成することで、正帯電用または負帯電用の如き帯電極性の異なる電子写真感光体が製造される。
しかし、堆積膜形成後の反応容器内に残存したドーパント原子は、クリーニング性ガスを導入したクリーニングでは完全には除去できず、残存したドーパント原子の一部は、次の堆積膜形成時にコンタミネーションの原因となる場合がある。コンタミネーションとは、意図しない不純物が堆積膜中へ混入することである。
従来、帯電極性が同じa−Si堆積膜の形成とクリーニングを繰り返して、同じ帯電極性のa−Si感光体を連続して製造する際には、上述のコンタミネーションがあることを考慮して堆積膜の層構成が設計されている。そのため、感光体としての不具合は発生しなかった。しかし、帯電極性の異なるa−Si感光体を同一の反応容器を用いて続けて製造する場合、層構成やドーパント原子の元素や添加量が異なるため、コンタミネーションがあることを考慮して堆積膜の層構成を設計することは困難である。そのため、異なる帯電極性のa−Si感光体を同一の反応容器を用いて続けて製造する場合、上述のコンタミネーションの影響が現れる場合がある。これは、感光体特性としては、残像(ゴースト)や残留電位の悪化として現れ、品質上の許容範囲を超え不良品となる場合がある。この現象は、例えば、正帯電用感光体を製造後、負帯電用感光体を製造し続けた場合、コンタミネーションの影響は徐々に減少するが、数回程度製造しても影響が残る。したがって、コンタミネーションの影響が残っている間に製造した感光体は品質が不安定になり、不良品が発生する場合がある。
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、帯電極性が異なる電子写真感光体を製造する際に発生する感光体の品質上の不具合を防止した電子写真感光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するため、本発明に係る電子写真感光体の製造方法は、減圧可能な反応容器内に円筒状基体を設置し、前記反応容器内に原料ガスを導入し、前記円筒状基体の上に堆積膜を形成して正帯電用または負帯電用の如き帯電極性の異なる電子写真感光体を製造可能で、堆積膜形成後の前記反応容器内にクリーニング性ガスを導入して前記反応容器内をクリーニングすることが可能な電子写真感光体製造装置を用いて、電子写真感光体を製造する方法において、帯電極性の異なる電子写真感光体を同一の前記反応容器内で製造する場合には、前記帯電極性の異なる電子写真感光体を製造する前に、前記反応容器の内壁の少なくとも前記円筒状基体に対向する部分を、液体を使って洗浄をすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、帯電極性が異なる電子写真感光体を製造する際に発生する感光体の品質上の不具合を防止した電子写真感光体を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】帯電極性が同じ電子写真感光体を継続して製造する際の製造工程サイクルを示したフローチャートである。
【図2】本発明の電子写真感光体の製造方法において使用可能な電子写真感光体製造装置の模式的な構成図である。
【図3】本発明の電子写真感光体の製造方法において使用可能な電子写真感光体用堆積膜装置の模式的な断面図である。
【図4】本発明の電子写真感光体の製造方法によって製造可能な電子写真感光体の層構成を模式的に示した断面図である。
【図5】本発明の電子写真感光体の製造方法における製造工程サイクルを示したフローチャートである。
【図6】本発明の電子写真感光体の製造方法に対する比較例の製造工程サイクルを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
まず、従来から一般的に行われているa−Si感光体の製造について説明する。図1は帯電極性が同じ(本図では正帯電用)電子写真感光体を同一の反応容器内で継続して製造する際の製造工程サイクルを示したフローチャートである。負帯電用電子写真感光体を継続して製造する際も、同様の製造工程サイクルで製造される。
【0009】
図1のフローチャートを、図2を用いて説明する。図2は電子写真感光体製造装置の一例を示す模式的な構成図である。真空状態で円筒状基体203を搭載した搬送装置201が反応容器202にドッキングして、真空状態にある堆積膜形成装置の反応容器202の内部へ円筒状基体203が搬入・設置される。次いで、円筒状基体203にa−Si堆積膜の形成が行われる。その後、搬送装置201が反応容器202にドッキングして、反応容器202の内部から堆積膜が形成された円筒状基体203が搬出される。堆積膜形成後、反応容器202の内部へクリーニング性ガスを導入して反応容器202の内部をクリーニングすることで1ロットの処理工程が終了する。そして、次のロットの円筒状基体203が再び搬送装置201を用いて反応容器202の内部へ搬入される。これら一連の工程を繰り返し、a−Si感光体が製造される。
【0010】
次に、a−Si感光体用の堆積膜形成装置およびa−Si感光体の層構成について説明する。
(a−Si感光体用堆積膜形成装置)
堆積膜の形成について、図3を用いて説明する。図3は堆積膜形成装置の一例を示す模式的な断面図である。図2と共通するところは同じ番号にしてある。この装置は大別すると、反応容器202、原料ガス・クリーニング性ガスの供給装置(図示せず)、反応容器202の内部を排気する為の排気手段(図示せず)から構成されている。反応容器202はカソード電極303、絶縁部材304、底板305、ゲート弁306を具備し、内部が減圧可能となっている。
【0011】
反応容器202の内部には、円筒状基体203を加熱するための加熱用ヒーター310およびガス導入管311が設置されている。ガス導入管311は円筒状基体203を取り囲むように複数本配設され、その側面に多数の細孔が設けられている。さらに、ガス導入管311は、ガス供給配管312を介して不図示の原料ガス・クリーニング性ガスの供給装置が接続されている。
【0012】
カソード電極303には、マッチングボックス313を介して高周波電源314が接続されている。カソード電極303の上下はセラミックスからなる絶縁部材304により、底板305およびゲート弁306と絶縁されている。
底板305には、排気配管307、排気バルブ308を介して不図示の排気手段が接続されている。また、底板305と排気バルブ308の間の排気配管307に圧力計309が取り付けられている。
【0013】
上述の堆積膜形成装置を用いて、円筒状基体203への堆積膜の形成および反応容器202の内部のクリーニングについて説明する。
まず、不図示の排気手段により真空に排気された反応容器202の内部へ、円筒状基体203と補助基体302を装着した基体ホルダー301を、図2に示した搬送装置201によりゲート弁306を介して搬入・設置する。
【0014】
続いて加熱用ヒーター310により円筒状基体203の温度を例えば150℃〜450℃の所望の温度に制御する。円筒状基体203が所望の温度になったところで、所望の原料ガスを、ガス導入管311を介して反応容器202の内部へ導入する。次に、反応容器202の内部の圧力が安定したところで、高周波電源314を所望の電力に設定して、例えば、13.56MHzの高周波電力を、マッチングボックス313を介してカソード電極303に供給しグロー放電を生起させる。この放電エネルギーによって反応容器202の内部に導入させた原料ガスが分解され、円筒状基体203の上に所望のシリコン原子を主成分とする堆積膜を形成させる。
【0015】
所定の膜厚の堆積膜が形成された後、高周波電力の供給を止め、反応容器202の内部への原料ガスの導入を止めて反応容器202の内部を一旦真空に排気し、堆積膜の形成を終える。上記のような操作を繰り返し行うことによって、所定の層構成のa−Si堆積膜を形成することができる。
堆積膜の形成が終了した後、反応容器202の内部から、円筒状基体203と補助基体302を装着した基体ホルダー301を取り出し、クリーニング用のダミーホルダーを設置し反応容器202の内部に付着した堆積膜や副生成物をクリーニングする。
【0016】
クリーニングは、例えば三フッ化塩素(ClF)ガスとArの如き不活性ガスの混合からなるクリーニング性ガスを、ガス導入管311を介して反応容器202の内部へ導入する。次に、反応容器202の内部の圧力が安定したところで、高周波電源314を所望の電力に設定して、例えば、13.56MHzの高周波電力を、マッチングボックス313を介してカソード電極303に供給しグロー放電を生起させる。この放電エネルギーによって反応容器202の内部に導入させたクリーニング性ガスが分解され、反応容器202の内部に付着した堆積膜や副生成物がクリーニングされる。
【0017】
(a−Si感光体の層構成)
a−Si感光体の層構成について、図4を用いて説明する。図4は電子写真感光体の層構成の一例を示す模式的な断面図である。
図4(A)に示す例では、例えば導電性の円筒状基体203と、その表面に順次積層された下部電荷注入阻止層401、光導電層402、表面層404とからなる正帯電用電子写真感光体を形成している。
図4(B)に示す例では、例えば導電性の円筒状基体203と、その表面に順次積層された下部電荷注入阻止層401、光導電層402、上部電荷注入阻止層403、表面層404とからなる負帯電用電子写真感光体を形成している。
【0018】
光導電層402には電子写真感光体の帯電極性に応じて、伝導性を制御する原子いわゆるドーパント原子を含有させる。このドーパント原子の含有量や分布の調整により、正帯電用電子写真感光体の場合、光導電層内のキャリアの内でホールの走行性を向上させ感度や光メモリー特性を飛躍的に向上させることが可能となる。また、負帯電用電子写真感光体の場合、光導電層内のキャリアの内で電子の走行性を向上させ感度や光メモリー特性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0019】
下部電荷注入阻止層401、上部電荷注入阻止層403には、電子写真感光体の帯電極性に応じて、光導電層402に電荷が注入されるのを阻止する機能をもたせるために、ドーパント原子を含有させる。一般的に、正帯電用電子写真感光体の場合、下部電荷注入阻止層401に周期表第13族元素を含有させる。負帯電用電子写真感光体の場合は、下部電荷注入阻止層401に周期表第15族元素を、上部電荷注入阻止層403に周期表第13族元素を含有させる。
【0020】
ドーパント原子は、光導電層、下部電荷注入阻止層、上部電荷注入阻止層の中に万偏なく均一に分布した状態で含有されていてもよいし、また、層厚方向には不均一な分布状態で含有されている部分があってもよい。
ドーパント原子としては、半導体分野における、いわゆる不純物を挙げることができる。すなわち、p型伝導性を与える周期表第13族に属する原子またはn型伝導性を与える周期表第15族に属する原子を用いることができる。
周期表第13族に属する原子としては、具体的には、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)があり、特にホウ素(B)が好適である。ホウ素(B)供給用ガスとしては、ジボラン(B)ガスが好ましい。
【0021】
周期表第15族に属する原子としては、具体的にはリン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)があり、特にリン(P)が好適である。リン(P)供給用ガスとしては、ホスフィン(PH)ガスが好ましい。
ドーパント原子の含有量としては、主な構成原子であるケイ素原子に対して1×10−2〜1×10原子ppmが望ましい。
堆積膜形成用のケイ素供給用ガスとしては、シラン(SiH)、ジシラン(Si)の如きシラン類が好適に使用できる。
堆積膜形成中の基体の温度は、150℃〜450℃の温度に保つことが特性上好ましい。
堆積膜形成中の反応容器内圧力は、1×10−2〜1×10Pa、好ましくは5×10−2〜5×10Pa、より好ましくは1×10−1〜1×10Paとする。
【0022】
また、光導電層としてa−Si堆積膜を用いる場合は、a−Si堆積膜の中の未結合手を補償するため、水素原子(H)に加えて、ハロゲン原子を含有させることができる。
水素原子とハロゲン原子の含有量の合計は、ケイ素原子と水素原子とハロゲン原子の含有量の合計に対して10原子%以上40原子%以下であることが好ましく、15原子%以上25原子%以下であることがより好ましい。
光導電層の層厚は、所望の電子写真特性が得られること、経済的効果等の点から適宜決定されるが、15μm以上60μm以下が好ましく、20μm以上50μm以下がより好ましく、20μm以上40μm以下がさらに好ましい。
【0023】
以下、上述の堆積膜形成装置および層構成で、帯電極性の異なる電子写真感光体を製造する場合について、図3および図5を用いて説明する。図5は帯電極性が異なる電子写真感光体を製造する際の一例で、正帯電用から負帯電用へ変更する際の製造工程サイクルのフローチャートを示す。その目的は、帯電極性変更前に、反応容器202の内部に残存するドーパント原子を液体による洗浄により除去することで、帯電極性を変更した際のドーパント原子の堆積膜中へのコンタミネーションを抑制することである。なお、負帯電用から正帯電用へ変更する際も同様の処理を行う。
【0024】
帯電極性変更前のロットの製造工程サイクルが終了、つまり反応容器202の内部にクリーニング性ガスを導入してクリーニング終了後、次の製造工程サイクルを休止する。そして、反応容器202の内部を大気圧にし、反応容器202を分解する。次いで、反応容器202の内壁の円筒状基体203に対向する部分、つまりカソード電極303の内壁を液体で洗浄する。
【0025】
カソード電極303の内壁の洗浄には液体を用いる。カソード電極303の内壁には、ドーパント原子と共にクリーニング残渣が付着している。クリーニング残渣とは、クリーニング時に、堆積膜や堆積膜形成中の副生成物とクリーニング性ガスのフッ素、塩素が反応したものの一部が粉状となって残ったものである。このクリーニング残渣は、液体を用いて洗浄することで容易に除去できる。その際に、多くのドーパント原子も共に除去されるため、洗浄に液体を用いることが有効である。
【0026】
カソード電極303の洗浄に用いる液体は、酸・アルカリ溶液、有機溶剤や水が使用可能であるが、水を使用することが好ましい。これは、クリーニング残渣は潮解性があり、水によく溶けるので、ドーパント原子を共に除去する効果が大きいこと、有機溶剤に比べ取り扱い易いことの理由による。更に、洗浄後のカソード電極303に、ドーパント原子以外の不純物の付着を抑制する面から純水を使用することがより好ましい。
なお、水で洗浄処理したカソード電極303は、水分を除去するために、クリーンオーブン等の乾燥機を用い、例えば温度130℃で2時間程度乾燥させる。揮発性の有機溶剤で処理した場合は、乾燥機を用いての乾燥は必須ではない。
【0027】
カソード電極303の洗浄方法は、カソード電極303の内壁を、液体を染み込ませた布等で拭く方法、液体をかけて洗い流す方法、液体を噴射する方法、カソード電極303を液体に浸漬させる方法等がある。カソード電極303の内壁は、堆積膜形成中に付着した堆積膜や副生成物が堆積膜形成中に脱落して、円筒状基体203の表面に付着するのを抑制するため、内壁の表面粗さをある程度大きくしている。このような表面性に対し、上述の洗浄方法の中でも、カソード電極303の内壁に液体を噴射する方法、またはカソード電極303を液体に浸漬する方法が、残存するドーパント原子を除去する効果が大きく、作業が容易であることから好適である。なお、洗浄に際し、ブラシの併用や、超音波を付加して洗浄しても良い。
【0028】
カソード電極303以外の反応容器202の内壁、つまりゲート弁306、底板305、絶縁部材304にもドーパント原子が残存しており、液体による洗浄を行っても良い。しかし、これらの部材はカソード電極303に比べ、反応容器202の内壁に占める面積が小さく、円筒状基体203に対向しておらず、また、円筒状基体203からの距離が遠い。これらにより、堆積膜中へのコンタミネーションは少なく、感光体品質への影響は小さいため、必ずしも液体による洗浄を行わなくても良い。
【0029】
上記処理を行った後のカソード電極303を用いて、反応容器202を組立てる。そして、反応容器202の内部を真空に排気して、堆積膜形成が可能な状態にする。
製造サイクルを休止して上述の洗浄処理を行った後、帯電極性変更して電子写真感光体を製造すると、ドーパント原子の堆積膜中へのコンタミネーションが抑制され、帯電極性変更後1ロット目から、安定した品質の電子写真感光体が製造可能となる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例により本発明を更に詳しく説明する。なお、以下の説明では上述した実施形態において示したのと同じ部分に関しては、同じ符号を用いて説明する。
以下の実施例および比較例では、図2の電子写真感光体製造装置および図3の堆積膜形成装置を用いた。また、円筒状基体203には、直径84mm、長さ381mm、肉厚3mmからなるアルミニウム合金製のものを用いた。
【0031】
〔実施例1〕
図1および図5に示す製造工程サイクルのフローチャートに沿って電子写真感光体を製造した。
本実施例では、正帯電用の電子写真感光体を5ロット製造後、反応容器202の一部であるカソード電極303を液体で洗浄し、その後負帯電用の電子写真感光体を5ロット製造した。
具体的には、正帯電用の電子写真感光体の製造は、表1に示す条件で、図4(A)に示す層構成の堆積膜形成を行った。堆積膜形成後の反応容器202の内部のクリーニングは、表2に示す条件で実施した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
正帯電用の電子写真感光体を5ロット製造後、次の製造工程サイクルを休止し、反応容器202を分解して、イソプロピルアルコール(以下「IPA」と略す)を染み込ませた布で、反応容器202の一部であるカソード電極303の内壁の全面を拭いた。そして、カソード電極303を自然乾燥させた後、反応容器202を組立て、反応容器202を真空にして堆積膜形成が可能な状態にした。
その後、負帯電用の電子写真感光体の製造として、表3に示す条件で、図4(B)に示す層構成の堆積膜形成を行った。堆積膜形成後の反応容器202の内部のクリーニングは、正帯電用の電子写真感光体製造時と同じ表2に示す条件で実施した。
【0035】
【表3】

【0036】
得られた負帯電用の電子写真感光体5ロットについて、以下に示す残留電位の評価を行った。
(負帯電用の電子写真感光体の残留電位評価)
負帯電用に改造した電子写真装置(キヤノン製、iR C6800(商品名))に電子写真感光体を設置し、黒現像位置において、感光体の軸方向での中心位置の表面電位が−450V(暗電位)になるように帯電させた。
【0037】
次いで、黒現像位置において、感光体の軸方向中心位置の表面電位が−100Vとなる像露光光量を求め、その3倍の光量を感光体に照射した。このときの表面電位を、感光体の軸方向の中心、±90mm、±130mmの計5点で測定した。そして、5点の測定値の絶対値の最大値を感光体の残留電位とした。残留電位は小さいほど感光体として優れているが、品質許容範囲を30V以下として、表4に記載の基準の相対評価でランク付けを行った。結果を表5に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
〔実施例2〕
本実施例では、負帯電用の電子写真感光体を5ロット製造後、反応容器202の一部であるカソード電極303を液体で洗浄し、その後、正帯電用の電子写真感光体を5ロット製造した。帯電極性の順を逆にして製造した以外は、実施例1と同じである。
得られた正帯電用の電子写真感光体5ロットについて、以下に示す残留電位の評価を行った。
【0040】
(正帯電用の電子写真感光体の残留電位評価)
電子写真装置(キヤノン製、iR C6800(商品名))に電子写真感光体を設置し、黒現像位置において、感光体の軸方向での中心位置の表面電位が450V(暗電位)になるように帯電させた。
次いで、黒現像位置において、感光体の軸方向中心位置の表面電位が100Vとなる像露光光量を求め、その3倍の光量を感光体に照射した。このときの表面電位を、感光体の軸方向の中心、±90mm、±130mmの計5点で測定した。そして、5点の測定値の最大値を感光体の残留電位とした。残留電位は小さいほど感光体として優れているが、品質許容範囲を30V以下として、負帯電用の場合と同様の相対評価でランク付けを行った。結果を表5に示す。
【0041】
〔実施例3〕
実施例1に対し、反応容器202の一部の液体での洗浄を、反応容器202の内壁の全てについて実施した。つまり、カソード電極303以外で反応容器202を構成する絶縁部材304、底板305、ゲート弁306についても、実施例1と同様にIPAを染み込ませた布で内壁の全面を拭いた。それ以外は実施例1と同じである。
得られた負帯電用の電子写真感光体5ロットについて、実施例1と同様に評価した。結果を表5に示す。
【0042】
〔実施例4〕
実施例1に対して、カソード電極303の洗浄方法を変更した。具体的には、洗瓶からIPAを噴き出させ、カソード電極303の内壁の全面にかけて洗浄した。カソード電極303の洗浄方法以外は実施例1と同じである。
得られた負帯電用の電子写真感光体5ロットについて、実施例1と同様に評価した。結果を表5に示す。
【0043】
〔実施例5〕
実施例1に対して、カソード電極303の洗浄に使用する液体および方法を変更した。具体的には、カソード電極303の内壁の全面に純水を噴射して洗浄した。純水の噴射には、高圧洗浄機(ケルヒャー社製 K5.50)を用いた。洗浄後のカソード電極303は、乾燥機で温度130℃・2時間の乾燥を行った。カソード電極303の洗浄に使用した液体および洗浄方法以外は実施例1と同じである。
得られた負帯電用の電子写真感光体5ロットについて、実施例1と同様に評価した。結果を表5に示す。
【0044】
〔実施例6〕
実施例1に対して、カソード電極303の洗浄に使用する液体および方法を変更した。具体的には、カソード電極303全体を純水に10分浸漬させ、その後、カソード電極303全体に純水をかけてすすぎを行った。洗浄後のカソード電極303は、乾燥機で温度130℃・2時間の乾燥を行った。カソード電極303の洗浄に使用した液体および洗浄方法以外は実施例1と同じである。
得られた負帯電用の電子写真感光体5ロットについて、実施例1と同様に評価した。結果を表5に示す。
【0045】
〔比較例1〕
図1および図6に示す製造工程サイクルのフローチャートに沿って電子写真感光体を製造した。つまり、本比較例は、正帯電用の電子写真感光体を5ロット製造後、製造サイクルを休止しての反応容器202の洗浄は実施せず、負帯電用の電子写真感光体を5ロット製造した。製造サイクルを休止しての反応容器202の洗浄を実施していないこと以外は、実施例1と同じである。
得られた負帯電用の電子写真感光体5ロットについて、実施例1と同様に評価した。結果を表に示す。
【0046】
〔比較例2〕
本比較例は、負帯電用の電子写真感光体を5ロット製造後、製造サイクルを休止しての反応容器202の洗浄は実施せず、正帯電用の電子写真感光体を5ロット製造した。製造サイクルを休止しての反応容器202の洗浄を実施していないこと以外は、実施例2と同じである。
得られた正帯電用の電子写真感光体5ロットについて、実施例2と同様に評価した。結果を表5に示す。
【0047】
〔比較例3〕
実施例1に対して、カソード電極303の洗浄に液体を使用せず、カソード電極303の内壁の全面を、エアーブローを使って洗浄した。エアーブローには、圧力0.5MPaの清浄エアーを用いた。カソード電極303の洗浄に液体を使用しなかった以外は実施例1と同じである。
得られた負帯電用の電子写真感光体を実施例1と同様に評価した。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
表5から、各比較例では残留電位が品質許容範囲を超える不良品が発生したが、各実施例では残留電位が品質許容範囲内であり、カソード電極303を液体で洗浄する効果が現れている。比較例1に対し、比較例3で良化しており、液体を使わない洗浄でもある程度の効果はあるが、不十分な結果であった。
【0050】
帯電極性に関しては、負帯電から正帯電(実施例2と比較例2)に変更するのに対し、正帯電から負帯電(実施例1と比較例1)に変更する方の評価結果が劣っている。これは表1に示すように、正帯電用の電子写真感光体は、下部電荷注入阻止層に多量のジボラン(B)を添加するため、反応容器202に残存するドーパント原子が多いことが原因と推測される。負帯電から正帯電へ変更する場合は、負帯電用の電子写真感光体のホスフィン(PH)の添加量が比較的少ないこと、上部電荷注入阻止層に添加するジボランが、ホスフィンの影響をある程度抑制すること等の理由により評価結果が良くなったと推測される。正帯電から負帯電に変更する場合においても、カソード電極303を液体で洗浄することで残留電位が品質許容範囲を超えることは無かった。
【0051】
反応容器202を構成するカソード電極303以外の部材に関しては、実施例1、4に対し、実施例3が同等であったことから、少なくともカソード電極303を液体で洗浄すれば十分な効果が得られることがわかる。
洗浄に使用する液体と方法に関しては、実施例1、4に対し、実施例5、6が良化していることから、カソード電極303に純水を噴射または純水に浸漬することがより効果が大きいことがわかる。
以上により、本発明により帯電極性が異なる電子写真感光体を製造する際に発生する感光体の品質上の不具合を防止した電子写真感光体を製造することが可能になった。
【符号の説明】
【0052】
202‥‥反応容器
203‥‥円筒状基体
303‥‥カソード電極
304‥‥絶縁部材
305‥‥底板
306‥‥ゲート弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧可能な反応容器内に円筒状基体を設置し、前記反応容器内に原料ガスを導入し、前記円筒状基体の上に堆積膜を形成して正帯電用または負帯電用の如き帯電極性の異なる電子写真感光体を製造可能で、堆積膜形成後の前記反応容器内にクリーニング性ガスを導入して前記反応容器内をクリーニングすることが可能な電子写真感光体製造装置を用いて電子写真感光体を製造する方法において、
帯電極性の異なる電子写真感光体を同一の前記反応容器内で製造する場合には、前記帯電極性の異なる電子写真感光体を製造する前に、前記反応容器の内壁の少なくとも前記円筒状基体に対向する部分を、液体を使って洗浄をすることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記液体は水であり、前記反応容器の内壁の少なくとも前記円筒状基体に対向する部分を水に浸漬または該部分に水を噴射して洗浄する請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−109201(P2013−109201A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254811(P2011−254811)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】