説明

電子写真装置用弾性ローラー

【課題】本発明は、シール性の低下を抑制しつつ摩耗を抑制させうる電子写真装置用弾性ローラーの提供を課題としている。
【解決手段】本発明の電子写真装置用弾性ローラーは、外周部に弾性体層が設けられてなり、長手方向端部にシール部材が当接されてサイドシールされた状態で電子写真装置に用いられる電子写真装置用弾性ローラーであって、前記弾性体層がJIS A 硬度で30度以上58度以下であり、シール部材と当接される箇所にはダイヤモンドライクカーボンが50nm以上2μm以下の厚みで被覆されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置用弾性ローラーに関し、より詳しくは、外周部に弾性体層が設けられてなり、長手方向端部にシール部材が当接されてサイドシールされた状態で電子写真装置に用いられる電子写真装置用弾性ローラーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感光体ドラムにレーザーなどで描かれた静電潜像をカーボントナーにて顕像化し、該顕像化された画像を紙などの表面に転写して印刷を行う電子写真装置が広く用いられている。
このような、電子写真装置には、上記の感光体ドラムの他に各種のローラーやブレードが備えられており、これらローラーやブレードには、通常、弾性体が用いられている。
例えば、現像ローラーには、ゴムや低硬度の樹脂などによって形成された弾性体層が、芯金などと呼ばれる軸体の外周側に周設された状態で備えられている。
【0003】
この現像ローラーのような外周部に弾性体層が備えられた電子写真装置用弾性ローラーは、軸受け部へのトナーの漏洩や、あるいは逆に外部からの異物の侵入を防止すべくシール部材が長手方向端部の外周面に当接されてシール(サイドシール)された状態で用いられたりしている。
このサイドシールに用いられるシール部材には、電子写真装置用弾性ローラーの外周面に沿って当接される当接面として、電子写真装置用弾性ローラーの半径に相当する曲率半径を有する曲面が形成されている。
そして、このような電子写真装置用弾性ローラーは、その端部の外周面にシール部材の当接面が当接された状態で電子写真装置に備えられており、電子写真装置の駆動時(電子写真装置用弾性ローラーの回転時)には、シール部材と摺接されることとなる。
このため電子写真装置用弾性ローラーは、シール部材などの他部材との当接箇所に摩耗が生じるおそれがある。
【0004】
このことに対し、例えば、下記特許文献1には、外周面をブレードに摺接させて用いられる現像ローラーのブレード端部と接触する箇所にフッソ樹脂などを被覆してブレードとの間に作用する摩擦力を低減させることにより当該箇所に発生する現像ローラーの摩耗を抑制させることが記載されている。
しかし、一般にフッソ樹脂は軟質でトナー粒子との擦過によって摩耗するおそれがあり、例えば、電子写真装置用弾性ローラーとシール部材との間にトナーが入り込んだりすると十分な摩耗抑制効果を期待することが困難である。
【0005】
ところで、弾性体の表面に硬質の被膜を形成させることも検討されており、炭素と水素とを主たる成分元素とし、炭素−炭素の結合状態がダイヤモンド構造とグラファイト構造とが混在するアモルファスな状態に形成されてなるダイヤモンドライクカーボンをゴムなどの弾性体の表面に被覆して耐摩耗性に優れた表面状態を形成させることが検討されている。
しかし、ダイヤモンドライクカーボンを被覆して耐摩耗性を向上させる検討は、ブレード類などを中心に実施されており、電子写真装置用弾性ローラーの耐摩耗性向上などについては十分な検討がなされていない。
【0006】
例えば、電子写真装置用弾性ローラーの弾性体層の表面に単に硬質の被膜を形成させるだけでは、シール部材など接触する相手部材の当接面の形状に対する追従性が低下したり、あるいは、硬質被膜の表面にシワなどが形成されたりしてシール性能を低下させるおそれがある。
【0007】
すなわち、サイドシールされた状態で電子写真装置に用いられる電子写真装置用弾性ローラーは、従来、シール性の低下を抑制しつつ摩耗を抑制させることが困難であるという問題を有している。
【0008】
【特許文献1】特開平11−202620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、シール性の低下を抑制しつつ摩耗を抑制させうる電子写真装置用弾性ローラーの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、所定の硬度を有する弾性体層を設け、しかも、被覆するダイヤモンドライクカーボンを所定の厚みとすることによりダイヤモンドライクカーボンの被膜表面にシワが発生することを抑制しうるとともに電子写真装置用弾性ローラーのシール部材当接箇所に優れたすべり性を付与させうることを見出し本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明の電子写真装置用弾性ローラーは、外周部に弾性体層が設けられてなり、長手方向端部にシール部材が当接されてサイドシールされた状態で電子写真装置に用いられる電子写真装置用弾性ローラーであって、前記弾性体層がJIS A 硬度で30度以上58度以下であり、シール部材と当接される箇所にはダイヤモンドライクカーボンが50nm以上2μm以下の厚みで被覆されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子写真装置用弾性ローラーは、弾性体層がJIS A 硬度で30度以上58度以下であり、シール部材と当接される箇所にはダイヤモンドライクカーボンが50nm以上2μm以下の厚みで被覆されていることからダイヤモンドライクカーボンの被膜表面にシワが発生することを抑制しうるとともに電子写真装置用弾性ローラーのシール部材当接箇所に優れたすべり性を付与させうる。
したがって、本発明によれば、シール性の低下を抑制しつつ摩耗を抑制させうる電子写真装置用弾性ローラーを提供し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について電子写真装置用弾性ローラーとして現像ローラーを例に挙げて図を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の現像ローラーの概略構成を示す斜視図である。
図2は、本実施形態の現像ローラーの使用態様を模式的に示した電子写真装置の一部側面図である。
【0014】
図中の符号1は、現像ローラーを示しており、該現像ローラー1は、細長円柱状の外形を有しており、該円柱形状の中心軸方向に沿って延在する軸体を有しており、該軸体周りに回転自在となるように電子写真装置に備えられている。
【0015】
図中の2は、現像ローラー1に前記軸体として備えられている芯金である。
前記芯金2は、導電性の棒状体、具体的には、断面円形で且つ中空又は中実の金属製棒状体である。
この芯金2には、例えば、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル等の金属及びその合金や、これらに、溶融めっき、電解めっき、無電解めっきなどの手段によるめっきを施したものが用いられうる。
より詳しくは、強度、耐久性に優れるステンレス鋼に、さらに導電性と基材層との密着性を高めるために無電解ニッケルめっきを施したものなどを用いることができる。
【0016】
図中3は、前記芯金2の外周側に周設されて本実施形態の現像ローラー1の円柱状の外形を形成させている弾性体層であり、該弾性体層3は、カーボンブラックを含む導電性の組成物により形成されている。
そして、この弾性体層3は、JIS A 硬度で30度以上58度以下のいずれかの硬度となるように形成されている。
【0017】
この弾性体層3を形成する組成物のベースポリマーとしては、ポリウレタン、天然ゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体(EPDM)、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、イソプレンゴム、シリコンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、エピクロルヒドリンゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体などを挙げることができ、これらの内の複数を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
なかでも、ポリウレタンは、使用するポリオールとポリイソシアネートの種類や割合を調整することにより得られる弾性体の硬度の調整が容易であるばかりでなく、ポリオールとポリイソシアネートとを含んでなる液状の混和物に対してカーボンブラックを分散させることができ、カーボンブラックの分散性に優れた弾性体層の形成が容易となる。
しかも、ポリウレタンにより形成された弾性体(以下「ポリウレタン弾性体」ともいう)は、一般的なゴムに比べて耐摩耗性に優れており本実施形態の現像ローラーの弾性体層の形成に好適に用いうる。
【0019】
前記カーボンブラックとしては、配合によって導電層の導電性を向上させるものであれば特に限定されず、各種のカーボンブラックを使用することができる。市販のカーボンブラックとしては、例えば、商品名「ケッチェンブラックEC300J」(ケッツェンブラックインターナショナル社製)を使用することができる。
通常、このカーボンブラックは、弾性体層3の体積抵抗率の値が103〜109Ω・cmのいずれかとなる量で前記導電性の組成物に配合される。
【0020】
なお、このポリウレタン弾性体などによって形成される弾性体層3のJIS A 硬度が上記のように30度以上とされているのは、弾性体層3が30度未満の硬度であると柔軟すぎて電子写真装置用弾性ローラーとして求められる十分な強度とすることが困難になるばかりでなく後述するダイヤモンドライクカーボンによる被膜にシワが発生するおそれを有するためである。
一方で、弾性体層3のJIS A 硬度が58度以下とされているのは、弾性体層3が58度を超える硬度であると電子写真装置用弾性ローラーとして求められる柔軟性を確保することが困難になるばかりでなく、シール部材の当接面への追従性が低下して十分なシール性を確保することが困難となるためである。
【0021】
なお、本明細書中における“JIS A 硬度”との用語は、JIS K 7312に準じて、スプリング式タイプA硬さ試験機により標準的な環境下(例えば、温度23±2℃、相対湿度50±10%)において測定される瞬時値を意図している。
そして弾性体層3がJIS A 硬度でどのような硬度を有しているかについては、実際の電子写真装置用弾性ローラーから硬度測定用の試料を採取して測定してもよく、電子写真装置用弾性ローラーから硬度測定用の試料の採取が困難な場合には、弾性体層の形成に用いられる組成物を用いてシート状のテストピースを別途作製して測定試料とすることも可能である。
なお、ここでは詳述しないが、弾性体層を、例えば、表面層と内層の二層構造とする場合には、表面層を形成する組成物と内層を形成する組成物とにより、それぞれの厚みを再現させたシート状のテストピースを用いてJIS A 硬度の測定を実施すればよい。
【0022】
図中4は、このような弾性体層3の外周面に被覆されたダイヤモンドライクカーボン皮膜(以下「DLC被膜」ともいう)である。
なお、ダイヤモンドライクカーボンは、通常、電気抵抗値が高いことから、本実施形態の現像ローラー1においては、トナーが担持される表面には前記弾性体層3が露出しており、当該DLC被膜4は、シール部材(図示せず)が当接される両端部の僅かな領域にのみ備えられている。
【0023】
このDLC被膜4は、50nm以上2μm以下の内のいずれかの厚みとなるように形成されている。
このDLC被膜4の厚みが50nm以上とされるのは、50nm未満の厚みでは現像ローラー1とシール部材との当接箇所に十分なすべり性を付与することができず、現像ローラー1の回転時においてシール部材との摺接によって短期間に摩耗が発生してしまうおそれがあるためである。
一方でDLC被膜4の厚みが2μm以下とされるのは、2μmを超える厚みとするとDLC被膜の表面にシワが形成されやすくなりシール性が損なわれるおそれを有するためである。
なお、このDLC被膜4の厚みについては、例えば、被膜の厚みが数mm〜数cmとなるような倍率を選定して、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて断面観察を実施し、任意に10箇所程度の厚み測定を実施し、その算術平均を実施して求めることができる。
なお、例えば、プラズマイオン注入法によりDLC被膜4を形成させることによりダイヤモンドライクカーボンの成分が弾性体層に侵入している領域(イオン注入領域)が形成されている場合などにおいては、通常、その領域を除外して厚み測定を実施する。
【0024】
なお、DLC被膜4を形成させるダイヤモンドライクカーボンの成分については特に限定されるものではなく、摺動部材などに用いられている一般的なダイヤモンドライクカーボンと同様の炭素原子と水素原子との組成比を有するダイヤモンドライクカーボンを本実施形態における現像ローラー1のDLC被膜4の形成に採用することができる。
また、炭素原子と水素原子以外に窒素原子やフッ素原子あるいは金属原子などが含有されたダイヤモンドライクカーボンもこのDLC被膜4の形成に採用が可能である。
ただし、炭素原子と水素原子以外の成分をあまり多く含有させるとシール部材との当接箇所に十分なすべり性を付与することが困難となるおそれを有する。
このような点において、炭素原子と水素原子以外に含有される他の原子は、その含有量が合計で40mol%以下であることが好適である。
【0025】
なお、炭素原子と水素原子以外の成分としては、DLC被膜4に対して適度な柔軟性を付与し得る点においてフッ素原子が好適である。
また、フッ素原子を導入することで水などの液体に対するDLC被膜4の接触角を調整させることもできる。
【0026】
このようなDLC被膜4が形成された現像ローラー1は、例えば、図2に示すような態様にて電子写真装置に用いられうる。
すなわち、この図2においては、本実施形態の現像ローラー1は、感光体ドラム5に対向して当接され、この感光体ドラム5との当接位置の反対側には、トナー供給ローラー7が当接され、さらに前記感光体ドラム5との当接位置よりも回転方向上流側に、前記トナー供給ローラー7によって表面に担持されたトナー8を外周面に薄層化させるためのブレード6が当接されている。
そして、表面に担持されたトナー8が軸受け部(この図2の手前側ならびに奥側)に漏洩することを抑制し得るようにシール部材がその長手方向両端部に当接されている。
このシール部材は、側面視が図2中の破線Aにて示される曲線となるような曲面を有しており、該曲面を現像ローラー1の両端部の外周面に当接させている。
【0027】
したがって、現像ローラー1の回転時にはその両端部の外周面がシール部材と摺接されることとなるが本実施形態の現像ローラー1は、この摺接箇所の表面にDLC被膜4が所定の厚みで形成されており、しかも、弾性体層3が所定の硬度で形成されていることからトナー8が軸受け部に漏洩することを抑制することができるとともに、シール部材との当接箇所に優れたすべり性が発揮されて摩耗の発生が抑制される。
【0028】
なお、このようなシール性の低下の抑制と耐摩耗性向上とを両立させることについては、トナーと常時接触される現像ローラーにおいて特に強く要望される事柄ではあるが、この現像ローラー以外の例えば、帯電ローラー、転写ローラーなども上記現像ローラーと同様に弾性体層の硬度をJIS A 硬度で30度以上58度以下とし、シール部材と当接される箇所にダイヤモンドライクカーボンを50nm以上2μm以下の厚みで被覆することにより上記効果を奏させうる。
【0029】
次いで、本実施形態の電子写真装置用弾性ローラーの製造方法について説明する。
この電子写真装置用弾性ローラーの弾性体層の形成方法としては、一般的なポリウレタン製ローラーの製造方法と同様の方法を採用することができ、例えば、円柱状の中空領域が形成された金型に芯金をセットして、ポリオール、ポリイソシアネート、カーボンブラックなどを混合した混和液を前記金型に注入して加熱硬化させる方法により芯金に弾性体層を周設させることができる。
そして、この弾性体層の外周面を研磨するなどして平滑化させた後に、DLC被膜を形成させる箇所以外をマスクして、例えば、プラズマイオン注入成膜装置に導入して全体的にダイヤモンドライクカーボンを所定厚みで被覆させ、前記マスクを除去することで本実施形態の電子写真装置用弾性ローラーを作製することができる。
【0030】
なお、本実施形態の電子写真装置用弾性ローラーの製造時においては、ダイヤモンドライクカーボンの被膜形成方法として、従来公知の高周波プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、フィラメント型CVD法、非平衡マグネトロンスパッタリング法、プラズマイオン注入法などを採用し得る。
なかでも、プラズマイオン注入法は、DLC被膜の下地にイオンが注入されて下地材の表面近傍にイオン注入層が形成されることから他のDLC被膜形成方法に比べてDLC被膜の剥離強度を向上させやすい。
したがって、本実施形態の電子写真装置用弾性ローラーのように下地となる弾性体層の硬度が被覆されるDLC被膜の硬度と大きく異なっており、DLC被膜の剥離が生じてしまいやすい製品に対して好適な成膜方法であるといえる。
【0031】
このプラズマイオン注入法の中でも、特に、炭素や水素などの正イオンを含むプラズマを発生させた状態で、DLC被膜を形成させる対象物(以下「被加工体」ともいう)に対して正のパルス電圧を印加し、引き続き負のパルス電圧を印加することで前記正イオンを被加工体に注入させてイオン注入層を形成しつつDLC被膜を形成させる方法が特に好適である。
【0032】
このような正負パルス電圧を印加してDLC被膜を形成させる方法について、図3を参照しつつさらに詳しく説明する。
図3は、本実施形態の現像ローラーの製造に用いるのに好適なプラズマイオン注入成膜装置の概略図であり、図中の100は、DLC被膜が施される前の現像ローラーの半製品1x(被加工体)が収容され、該半製品1xにDLC被膜を形成させるための真空チャンバーである。
図中200は、前記半製品1xに対して正負パルス電圧を印加すべく芯金に対して電気的に接続される正負パルス電圧印加ラインである。
図中300は、真空チャンバー100内にダイヤモンドライクカーボンの形成原料となる原料ガスをプラズマ状態にさせるべく設けられたプラズマ励起用アンテナである。
図中400は、前記半製品1xの周囲に高密度のプラズマ及び高濃度のラジカルを発生させるべく半製品1xとプラズマ励起用アンテナ300との間に設けられ、しかも、半製品1xに接触しないように僅かに離間した位置に配された高電圧パルス印加電極である。
図中500は、前記高電圧パルス印加電極に高電圧の負のパルス電圧を印加するための高電圧パルス印加ラインである。
【0033】
このようなプラズマイオン注入成膜装置を用いてDLC被膜を半製品1x上に形成させて現像ローラーを完成させるには、例えば、DLC被膜形成不要箇所にマスク材1aを取り付けるとともに芯金に正負パルス電圧印加ライン200を接続した状態で真空チャンバー100内に半製品1xを収容させ、DLC被膜を形成させる弾性体層の表面にクリーニング処理工程を行った後に、DLC被膜形成工程を行う方法を採用しうる。
【0034】
このクリーニング処理工程は、真空チャンバー100の内部が、例えば0.01Pa以下の高真空となるように排気を行った後、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガス(例えば、水素ガス/アルゴンガス=20/80の比率で混合された混合ガス)を導入して真空チャンバー100内の圧力が0.1〜1.0Pa程度となるように調整し、周波数が数MHz〜数十MHz、出力が0.1kW〜数kW、持続時間が数マイクロ秒〜100マイクロ秒のラジオ波(RF)をプラズマ励起用アンテナ300に印加して放電プラズマを励起させ、その直後に高電圧パルス印加用電極に10kV〜30kV程度の高電圧パルスを印加して半製品1xの表面に高密度プラズマを発生させるとともに、芯金に数kV程度の負のパルス電圧を印加して実施することができる。
【0035】
また、DLC被膜形成工程は、前記クリーニング工程後、真空チャンバー100の内部を再び圧力が0.01Pa以下となるように排気を実施した後、原料ガスを導入して実施されうる。
なお、この原料ガスとしては、特に限定されるものではなく、例えば、アセチレン、メタン、エタン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系ガスや、二フッ化炭素、四フッ化炭素、フッ化アルゴンなどのフッ素含有ガスなどを単独または複数混合して用いることができる。
そして、この原料ガスを導入させた状態で真空チャンバー100の内部の圧力を0.5〜1Pa程度に保持して、プラズマ励起用アンテナ300によって原料ガスをプラズマ状態にさせるとともに、高電圧パルス印加電極400によって前記半製品1xの周囲に高密度のプラズマ及び高濃度のラジカルを発生させつつ正負パルス電圧印加ライン200で芯金に正負パルス電圧を印加することにより炭素、水素、フッ素などの原料ガスに含有されている成分による正イオンを高エネルギーで弾性体層に注入させるとともに弾性体層上にDLC被膜を形成させることができる。
【0036】
なお、このときの高電圧パルス印加電極400には、例えば、高電圧パルス印加ライン500によって、高電圧パルスとしてパルス波高が5kV〜30kV程度(例えば、15kV)、パルス幅が1マイクロ秒〜数十マイクロ秒(例えば、10マイクロ秒)の負のパルス電圧を印加させることで高密度のプラズマを発生させうる。
【0037】
また、芯金に対しては、例えば、正負パルス電圧印加ライン200によって、パルス波高が1kV〜5kV(例えば、2kV)、パルス幅1マイクロ秒〜数十マイクロ秒(例えば、10マイクロ秒)の正のパルス電圧を印加した後、瞬時に反転するパルス波高が1kV〜5kV(例えば、2kV)、パルス幅が1マイクロ秒〜数十マイクロ秒(例えば、10マイクロ秒)の負のパルス電圧を印加し、この一対の正負パルス電圧を繰り返し周期1ミリ秒程度で所定の時間印加することで均質で剥離強度の高いDLC被膜を弾性体層上に形成させうる。
なお、正負パルス電圧の印加については、正パルス電圧と、負パルス電圧とをそれぞれ所定の間隔を設けて繰り返し印加させる方法や、一波長分の正弦波パルス電圧を所定間隔を設けて繰り返し印加させる方法を採用することができる。
【0038】
この正のパルス電圧に引き続き負のパルス電圧を被加工体に印加することでダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させる方法は、特に、本実施形態の電子写真装置用弾性ローラーの弾性体層のごとく体積抵抗率が比較的高い材質のものの表面にDLC被膜を成膜する場合に有効である。
例えば、現像ローラーの弾性体層は、通常、先述のような体積抵抗率となるように形成されていることから正のパルス電圧を印加することで弾性体層の表面近傍のプラズマから電子を加速させた状態で弾性体層に入射させることができ表面を負帯電させることができる。
そして、引き続いて実施される負のパルス電圧の印加によって、弾性体層の表面近傍のプラズマから正イオンが加速されて弾性体層に入射することとなる。
したがって、正負パルス電圧対を印加することによって、はじめの正のパルス電圧の印加時に弾性体層の表面に生じた負帯電の分だけ大きなエネルギーで正イオンを弾性体層に注入させることができる。
このことにより、他のDLC成膜形成方法に比べて弾性体層が低温となる状態でDLC被膜を形成させることができ、DLC被膜形成時と電子写真装置内での運転時との温度差を減少させることができる。
すなわち、熱による膨張、収縮が抑制されることとなり、DLC被膜にシワなどが形成されることがよりいっそう抑制される。
しかも、正負パルス電圧対を印加することにより、負パルス電圧のみを印加する場合に比べて局所的な電荷の偏りを防止することができ均質なDLC被膜を形成させうる。
【実施例】
【0039】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜16、比較例1〜10)
軸受け部直径6mm、弾性体層形成部直径10mmで長さ280mmの芯金の外周側に厚み4mmで(外径18mmとなるように)弾性体層を形成させた。
なお、この弾性体層は、その形成区間が芯金の長さ方向中央部の234mmとなるようにして芯金の外周側に形成した。
そして、この弾性体層の両端部から内側9mmまでの区間の外周面にDLC被膜を設けるなどして各実施例、比較例の現像ローラーを作製した。
そして、この現像ローラーを、シール面にフェルト状の繊維材が採用されているシール部材に当接させた状態で実際の電子写真装置(パナソニックコミュニケーションズ製モノクロレーザープリンタ「KXP7300」)に装着させて評価試験を実施した。
なお、各実施例、比較例の現像ローラーの弾性体層は、カーボンブラックとポリウレタンとを含む組成物により表1に示すJIS A 硬度となるように作製した。
また、正負パルス電圧を印加する方法でのプラズマイオン注入法により現像ローラーの長手方向両端部に表1に示す厚みとなるようにダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させた。
このとき原料ガスを調整してダイヤモンドライクカーボン中のフッ素原子含有量(フッ素導入量)を表1の割合(mol%)となるよう調整した。
なお、比較例1、2の現像ローラーには、ダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させなかった。
また、比較例7、8の現像ローラーについては、ダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させることなく、代わりに、弾性体層の両端部にフッ素樹脂系コーティング剤(大日本インキ社製、商品名「ディフェンサ TR−306」)を用いてコーティング被膜を形成させた。
なお、コーティング被膜は、フッ素樹脂系コーティング剤をメチルエチルケトンで適度な濃度となるように希釈したものを弾性体層の両端部にディップコートした後に150℃×20分乾燥させ、さらに、110℃×2時間の追加乾燥を実施して厚みがそれぞれ40μm(比較例7)、35μm(比較例8)となるようにして形成した。
また、比較例9、10の現像ローラーについては、ダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させることなく、代わりに、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)製の熱収縮チューブを用いて、弾性体層の両端部の表面にPTFE被膜を形成させた。
このPTFE被膜は、弾性体層の径(18mm)よりも僅かに大きな内径を有する熱収縮チューブを弾性体層の両端部に遊嵌させた後に加熱を行うことにより弾性体層に熱収縮チューブを密着させて形成した。
なお、PTFE被膜の形成後の厚みは約0.4mmであった。
【0040】
(評価)
(水接触角)
DLC被膜、フッ素樹脂系コーティング被膜、PTFE被膜の水接触角をJIS R 3257(1999)に準拠して求めた。
結果を表1に示す。
【0041】
(シワの有無)
ダイヤモンドライクカーボン被膜の表面を目視にて観察し、明確にシワが観察されるものを“×”として判定し、良好なる外観を呈しているものを“○”として判定した。
また、明確にはシワが観察されないものの、うっすらとシワが観察され良好なる外観とは言い難いものを“△”として判定した。
結果を表1に示す。
【0042】
(耐摩耗性)
この耐摩耗性の評価に際しては、電子写真装置を常温常湿環境下に設置して、A4上質紙に対して5%画像濃度にて両面連続印刷を実施した。
前記モノクロレーザープリンタでの両面連続印刷約200枚ごとに現像ローラーの様子を観察し、摩耗が生じていることが確認されるまでの印刷枚数を“削れ発生枚数”として測定した。
なお、この耐摩耗性の評価は、印刷枚数5000枚まで実施し、5000枚の印刷時点でも摩耗が観察されないものは、削れ発生枚数を“5000枚以上”(表1中の「≧5000」)と判定した。
結果を表1に示す。
なお、比較例9、10の現像ローラーにおいては、印刷枚数20枚程度にてテフロンシートのズレが発生してしまったためその時点で評価を中断した。
【0043】
(シール性)
各実施例、比較例の現像ローラーが上記耐摩耗性評価において削れ発生枚数を迎えた時点で現像ローラーの軸受け部を観察し、“トナー漏洩”の有無を目視にて観察した。
結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
この表からも、本発明によればシール性の低下を抑制しつつ摩耗を抑制させうる電子写真装置用弾性ローラーを提供し得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】一実施形態の電子写真装置用弾性ローラー(現像ローラー)を示す斜視図。
【図2】同現像ローラーの使用状況を示す電子写真装置の一部側面図。
【図3】DLC被膜形成方法を示す概略図。
【符号の説明】
【0047】
1:電子写真装置用弾性ローラー(現像ローラー)、2:芯金、3:弾性体層、4:ダイヤモンドライクカーボン(DLC)被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に弾性体層が設けられてなり、長手方向端部にシール部材が当接されてサイドシールされた状態で電子写真装置に用いられる電子写真装置用弾性ローラーであって、
前記弾性体層がJIS A 硬度で30度以上58度以下であり、シール部材と当接される箇所にはダイヤモンドライクカーボンが50nm以上2μm以下の厚みで被覆されていることを特徴とする電子写真装置用弾性ローラー。
【請求項2】
前記弾性体層が、ポリウレタン弾性体により形成されている請求項1記載の電子写真装置用弾性ローラー。
【請求項3】
前記ダイヤモンドライクカーボンには、炭素と水素に加えて他成分が含有されており、しかも、前記他成分の含有量が合計で40mol%以下である請求項1または2記載の電子写真装置用弾性ローラー。
【請求項4】
前記他成分としてフッ素が含有されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子写真装置用弾性ローラー。
【請求項5】
現像ローラーである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子写真装置用弾性ローラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−169210(P2009−169210A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8789(P2008−8789)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】