説明

電子回路及びヒートシンク

【課題】絶縁体からなるヒートシンクを用いて設計の自由度を向上させた電子回路、及び、その電子回路に使用可能な絶縁性のヒートシンクを提供すること。
【解決手段】電子部品5に積層されるヒートシンク10は、多数の気孔11を有することにより、気孔率が15〜50体積%の多孔質セラミックス13を備えている。多孔質セラミックス13の表面には、熱放射率が0.9以上の放熱性塗料15が塗布され、その多孔質セラミックス13の電子部品5に積層される側の面には、熱伝導性テープ17が貼着されている。多孔質セラミックス13は1010Ω・cm以上の体積抵抗値を有し、高周波ノイズの発生が抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品が実装された回路基板と、上記電子部品に積層された熱伝導シートと、上記熱伝導シートに積層されたヒートシンクと、を備えた電子回路、及び、その電子回路に使用可能なヒートシンクに関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板にIC等の電子部品を実装してなる電子回路では、その電子部品が発生する熱を効率的に逃がすことが課題となっている。そこで、回路基板に実装された電子部品の表面に、高い熱伝導率を有する熱伝導シートを介してヒートシンクを積層することが提案されている。これによって、電子部品が発生する熱を熱伝導シートを介してヒートシンク側へ逃がし、ヒートシンクから当該熱を放熱することができる。
【0003】
この種のヒートシンクとしては、ダイカストや機械加工によって微細加工を施して表面積を増加させた金属製のヒートシンクが多く用いられてきたが、炭化ケイ素を焼結して得られた多孔質セラミックスに金属の溶湯を流し込んで得られるヒートシンクも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4233133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記いずれのヒートシンクも導体であるため、電子部品の表面に熱伝導シートを挟んで上記ヒートシンクを積層すると、絶縁体の熱伝導シートを挟んで2つの導体が平行に配置された構成となってしまう。この構成により、高周波ノイズが発生する可能性があった。そこで、この高周波ノイズを発生しないように、ヒートシンクを回路基板のアース電極に接続するなどの対策が考えられているが、その場合、電子回路の設計に制約が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、絶縁体からなるヒートシンクを用いて設計の自由度を向上させた電子回路、及び、その電子回路に使用可能な絶縁性のヒートシンクを提供することを、目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達するためになされた本発明の電子回路は、電子部品が実装された回路基板と、上記電子部品に積層された熱伝導シートと、上記熱伝導シートに積層されたヒートシンクと、を備えた電子回路であって、上記ヒートシンクが、1010Ω・cm以上の体積抵抗値を有し、気孔率が15〜50体積%の多孔質セラミックスによって構成されたことを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明の電子回路では、電子部品が発生する熱を熱伝導シートを介してヒートシンク側へ逃がし、ヒートシンクから当該熱を放出することができる。
また、上記ヒートシンクは、一般的に絶縁体とされる1010Ω・cm以上の体積抵抗値を有する多孔質セラミックスによって構成されている。このため、アース電極と接続するなどの対策を取らなくても、前述のように高周波ノイズを発生させないようにすることができる。
【0009】
しかも、そのヒートシンクを構成する多孔質セラミックスは、15〜50体積%の気孔率を有しているため、軽量で放熱性にも優れて、任意の形状に加工する場合の加工性にも優れている。従って、本発明の電子回路では、設計の自由度が極めて向上する。
【0010】
また、本発明のヒートシンクは、1010Ω・cm以上の体積抵抗値を有し、気孔率が15〜50体積%の多孔質セラミックスによって構成されたことを特徴としている。このように構成された本発明のヒートシンクは、一般的に絶縁体とされる1010Ω・cm以上の体積抵抗値を有する多孔質セラミックスによって構成されている。
【0011】
このため、電子部品に熱伝導シートを介して積層された場合に、アース電極と接続するなどの対策を取らなくても、前述のように高周波ノイズを発生させないようにすることができる。
【0012】
しかも、そのヒートシンクを構成する多孔質セラミックスは、15〜50体積%の気孔率を有しているため、軽量で放熱性にも優れて、任意の形状に加工する場合の加工性にも優れている。
【0013】
なお、上記の一般的に絶縁体とされる1010Ω・cm以上の体積抵抗値を有する多孔質セラミックスの原料としては、アルミナ(Al23)、シリカ(二酸化ケイ素:SiO2 )及びジルコニア(ZrO2 )等が挙げられる。
【0014】
本願における多孔質セラミックの気孔率は、上述したアルミナ、シリカ等に対して、焼成する際に揮発してなくなる焼成時揮発成分を混合することによって、目標とする気孔率に設定することができる。例えばPVA等の焼成時揮発成分を、目標とする気孔率分だけ混合して、得るべきヒートシンクの形状に成形した後、焼成することで設定される。この他、従来公知のセラミックスを多孔質化する方法が採用可能である。
【0015】
上記多孔質セラミックスの気孔率が15体積%以上であると、絶縁性が良好となり、体積抵抗値が担保される。
一方、50体積%以下であると、多孔質セラミックス内部に断熱性の高い空気が少なくなるため、放熱性が良好になる。
【0016】
上記多孔質セラミックスの密度は1.6〜3g/cm3 であってもよい。その場合、当該ヒートシンクが極めて良好な軽量性を有し、小型軽量化が要請される電子機器の電子回路に良好に適用することができる。
【0017】
また、上記多孔質セラミックスは、少なくとも二酸化ケイ素と、アルミナと、炭化ケイ素(SiC)とを混合して得られる粒径10μm以上の造粒粒子を焼結してなるものであってもよい。
【0018】
その粒径が10μm以上と大きい粒子は、一般的には研磨材として使用され、セラミックスの原料としては、得られる焼結体が緻密化しないため不適である。しかし、本願出願人は、少なくとも二酸化ケイ素と、アルミナと、炭化ケイ素とを混合して得られる粒径10μm以上の造粒粒子を焼結することで、前述のような多孔質のセラミックスが容易に製造できることを発見した。
【0019】
従って、上記多孔質セラミックスが、少なくとも二酸化ケイ素と、アルミナと、炭化ケイ素とを混合して得られる粒径10μm以上の造粒粒子を焼結してなる場合、ヒートシンクの製造(原料)コストを良好に低減することができる。
【0020】
なお、上記造粒粒子の粒径の上限は、1250μmとすることが好ましい。これ以上の粒径の造粒粒子は、その製造が困難であり、また所要形状への成形した後にボロボロ崩れて形状維持が困難となる虞があるためである。従って、造粒粒子の粒径は、好適には10〜1250μmの範囲とされる。
【0021】
更に上記炭化ケイ素は、その平均粒径が10μm以上150μm以下であることが好ましい。
この平均粒径が150μm以下であると、以下の利点がある。すなわち、
(1)そこから得られる多孔質セラミックスからなるヒートシンクの絶縁性をより高くできる。すなわち体積抵抗値をより高くして、1010Ω・cm以上の数値を容易に達成し得る。これは炭化ケイ素の平均粒径が150μmを超えると、多孔質セラミックスのマトリクス内における個々の炭化ケイ素同士が接近して、その離間距離が短くなってまうために、該炭化ケイ素を伝わって導電し易くなるためである。
(2)上記造粒粒子が容易に、すなわち短時間で造粒可能となる。これは、造粒粒子を構成する粒子の一つである炭化ケイ素が細かいと、該造粒粒子内で均質に分散し易いためである。このように各原料が均質に分散した造粒粒子からは、物性が安定化した多孔質セラミックス、すなわちヒートシンクが得られる。
【0022】
一方、炭化ケイ素の平均粒径が10μm以上であると、(研磨材として使用されるような大きな粒子であるため)その原料調達が安価に可能なため、製造(原料)コストを容易に低減できる。
【0023】
また更に、上記二酸化ケイ素及びアルミナについても、その平均粒径が1μm以上であると好ましい。この粒径が1μm以上であると、その原料調達が安価に可能なため、製造(原料)コストを容易に低減できる。
【0024】
一方、二酸化ケイ素及びアルミナの平均粒径の上限は、これらから得られる造粒粒子の粒径が10〜1250μmとなるものであれば、特に限定はされない。しかし、一般的には、平均粒径は10μm未満であると好ましい。上記造粒粒子が容易に、すなわち短時間で造粒可能となるためである。
【0025】
なお、上記造粒粒子は、上記各セラミックの原料、バインダー等を、例えばミキサー、ニーダー等の方法で混合することで製造される。
本発明のヒートシンクは、上記多孔質セラミックスが、60〜85重量%の炭化ケイ素と、少なくとも10重量%以上の二酸化ケイ素とを混合して得られる造粒粒子を焼結してなるものであってもよい。その場合、前述の体積抵抗値及び気孔率を有する多孔質セラミックスを、一層安定してかつ容易に製造することができる。
【0026】
更に、上記配合に加えて、水,酸化鉄等の一般のセラミックス焼結に使用される物質が補助的に添加されてもよいことは言うまでもない。
具体的には、上記炭化ケイ素が60重量%以上であると、より十分な放熱性が得られる。これは、熱伝導性が良好な炭化ケイ素がマトリクス中にリッチな状態となるため、熱伝導経路の確保が十分となることと、相対的に二酸化ケイ素やアルミナが減少することで気孔率が高くなるため、熱の対流効果も低下してしまうことに起因する。
【0027】
一方、85重量%以下であると、比誘電率が低くなり、より高い絶縁性が確保できる。
上記二酸化ケイ素が10重量%以上であると、ヒートシンクの強度が増すので、例えば多数の突起等を備えて脆くなることが考えられる形状でも、ヒートシンクとして十分な強度が得られる。
【0028】
一方、40重量%以下であると、放熱性がより高くなる。これは、二酸化ケイ素の量が40重量%以下であると、多孔質セラミックス焼成時に炭化ケイ素との結合がより強くなって気孔径が小さくなるため、気孔内の空気対流による熱移動が悪くなるためである。これは。気孔率が同じ多孔質セラミックスであっても、二酸化ケイ素が少ない方が放熱性がより高いことを意味する。
【0029】
また、少なくとも1重量%以上のアルミナを、上記炭化ケイ素及び二酸化ケイ素と共に混合して造粒粒子を得てもよい。
このアルミナが1重量%以上であると、ヒートシンクの強度が更に増すので、例えば多数の突起等を備えて脆くなることが考えられる形状でも、ヒートシンクとして十分な強度が得られる。すなわち、本発明のヒートシンクはこのように突起を有する形状であってもよく、本発明でいう「積層」とは、少なくとも重ねて配設された状態であればよい。
【0030】
一方、10重量%を超えると、上述した気孔径が小さくなることによる放熱性低下の問題が顕在化する虞があるので留意が必要である。
上記の他、上記焼結は、酸素雰囲気下(例えば大気中)でなされると好ましい。この場合、表面に露出する炭化ケイ素は、その炭素部分が酸化により二酸化炭素として脱離すると共に、ケイ素部分が二酸化ケイ素化する。
【0031】
ここで、(1)二酸化ケイ素は炭化ケイ素よりも高い熱放射率を有することが知られている。また、(2)炭化ケイ素の表面においては、脱炭素に伴う粗悪化によって単位重量あたりの表面積が増えることになる。
【0032】
上記(1)、(2)の作用により、ヒートシンクの放熱性が一層向上する。よって、前述のような電子回路に適用された場合に電子部品の過熱を一層良好に抑制することができる。
本発明のヒートシンクには、表面に、熱放射率が0.9以上の放熱性塗料が塗布されてもよい。その場合、ヒートシンクの放熱性を一層向上させることができ、ひいては、前述のような電子回路に適用された場合に電子部品の過熱を一層良好に抑制することができる。なお、上記0.9とは、炭化ケイ素の熱放射率が0.7であることを考慮してそれよりも高い値として適宜設定した値である。
【0033】
そして、その場合、上記放熱性塗料がヒートシンクの全周面に塗布され、該ヒートシンクの1面に熱伝導性テープが貼着されてもよい。この場合、上記熱伝導性テープを介して当該ヒートシンクを電子部品に直接貼り付けることが可能となるため、電子部品に熱伝導シートの一例としての上記熱伝導性テープを挟んでヒートシンクが積層された構造を容易に構成することができる。
【0034】
本発明のヒートシンクは、上記多孔質セラミックスが、熱伝導性を有する液状物質を気孔内に保持したものであってもよい。この種のヒートシンクは、熱伝導グリスや熱伝導接着剤などの熱伝導性を有する液状物質を介して電子部品に積層される場合があるが、本発明のヒートシンクは、前述のように多孔質セラミックスで構成されているので、気孔内に上記液状物質を保持することができる。従って、その場合、上記液状物質の液だれを抑制することができる。
【0035】
本発明のヒートシンクは、厚さが0.1〜5.0mmであってもよい。この場合、ヒートシンクが軽量で使い勝手のよいものとなり、小型軽量化が要請される電子機器の電子回路に一層良好に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明が適用された電子回路の構成を表す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。図1は、本発明が適用された電子回路1の構成を表す概略断面図である。図1に示すように、本実施の形態の電子回路1は、回路基板の一例としてのプリント配線基板3の表面にICチップ等の電子部品5を実装した周知の構成を有しており、電子部品5の表面には、次のようなヒートシンク10が積層されている。
【0038】
ヒートシンク10は、厚さが0.1〜5.0mmで多数の気孔11を有する多孔質セラミックス13を備え、その多孔質セラミックス13の表面には、熱放射率が0.9以上の放熱性塗料15が、図1に黒線で示すように全周面に塗布されている。また、多孔質セラミックス13の1面(電子部品5に積層される側の面)には、放熱性塗料15の上から熱伝導性テープ17(熱伝導シートの一例)が貼着されている。
【0039】
ここで、多孔質セラミックス13は、例えば次のようにして製造することができる。すなわち、PVA,水,後述のセラミックス原料を秤量し、ニーダにて混練して造粒し、金型で成形し、大気中で1200℃以上1400℃未満(望ましくは1300℃以上1400℃未満)の低温で焼結して製造することができる。
【0040】
なお、セラミックス原料の配合は、例えば、平均粒径150μm以下の炭化ケイ素が60〜85重量%、二酸化ケイ素が10〜30重量%、アルミナが1〜10重量%、含まれる原料全体を100重量部とした場合に、これに対して酸化鉄が1重量部以下、とすることができる。このような製造方法により、1010Ω・cm以上の体積抵抗値を有し、密度が1.6〜3g/cm3 、気孔率が15〜50体積%の多孔質セラミックス13を好適に得ることができる。
【0041】
また、放熱性塗料15としては、例えば「CT−100」(商品名:オキツモ製)などの市販品を使用することができる。なお、放熱性塗料15は、100μm程度(±10%)の厚さに塗布するのが、ヒートシンク10の放熱性を確保すると共にセラミックス粉の脱落を防止する上で望ましい。また、熱伝導性テープ17としては、アクリル粘着材にアルミナを充填したテープを使用することができる。
【0042】
このようにして製造された多孔質セラミックス13では、焼結時に表面の炭化ケイ素が二酸化ケイ素化すると共にヒートシンクの表面が粗悪化する。二酸化ケイ素は炭化ケイ素よりも高い熱放射率を有し、粗悪化によって多孔質セラミックス13の表面積が増えるので、ヒートシンク10の放熱性を一層向上させることができる。更に、図1に示すように、多孔質セラミックス13の上面(電子部品5と反対側)にも気孔11が露出しており、全周面に放熱性塗料15が塗布されているので、ヒートシンク10の放熱性は更に向上する。
【0043】
よって、このようなヒートシンク10を熱伝導性テープ17を挟んで電子部品5に積層した電子回路1では、電子部品5が発生する熱を熱伝導性テープ17を介してヒートシンク10側へ逃がし、ヒートシンク10から当該熱を良好に放熱することができる。しかも、ヒートシンク10は、一般的に絶縁体とされる1010Ω・cm以上の体積抵抗値を有する多孔質セラミックス13によって構成されている。このため、アース電極と接続するなどの対策を取らなくても、高周波ノイズの発生をなくすことができる。
【0044】
更に、ヒートシンク10を構成する多孔質セラミックス13は、15〜50体積%の気孔率を有しているため、密度が1.6〜3g/cm3と軽量で、任意の形状に加工する場合の加工性にも優れている。従って、電子回路1では、設計の自由度が極めて向上する。また、ヒートシンク10は、厚さが0.1〜5.0mmで、前述のように軽量であるので、小型軽量化が要請される電子機器の電子回路に良好に適用することができる。
【0045】
また更に、多孔質セラミックス13は、緻密な焼結体を得るために使用される高価な10μm未満の微細な炭化ケイ素を使用しないので、また製造方法も前述の如く容易であるので、製造コストを低減することができる。更に、上記のように製造された多孔質セラミックス13は線膨張係数が3〜5ppm程度とセラミックス基板に近い低熱膨張係数を有しており、電子部品5にも無駄な応力を与えない。
【0046】
なお、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、放熱性塗料15は、全く塗布されなくてもよく、多孔質セラミックス13の上面のみに塗布されてもよく、多孔質セラミックス13の下面以外の全面に塗布されてもよい。この種のヒートシンク10は、熱伝導グリスや熱伝導接着剤などの熱伝導性を有する液状物質を介して電子部品5に積層される場合があるが、ヒートシンク10は前述のように多孔質セラミックス13で構成されているので、気孔内に上記液状物質を保持することができる。従って、その場合、上記液状物質の液だれを抑制することができる。なお、そのような液だれ抑制効果を期待する場合、放熱性塗料15は塗布しない、若しくは、下面を除いて塗布した方がよい場合がある。
【0047】
更に、熱伝導性テープ17も省略することができる。この場合、例えば、クールプロバイド(商品名:北川工業株式会社製)などの市販の熱伝導シートを挟んで、電子部品5にヒートシンク10が積層される。但し、前述のように熱伝導性テープ17を備えた場合、その熱伝導性テープ17を介して当該ヒートシンク10を電子部品5に直接貼り付けることにより、電子部品5に熱伝導シートの一例としての上記熱伝導性テープ17を挟んでヒートシンク10が積層された構造を容易に構成することができる。
【実験例】
【0048】
以下に本発明に係るヒートシンクに関する実験例を具体的に示す。
1.セラミックス原料については表1右側欄に示す配合比率(重量%)に従って、そこに所要量の他成分(セラミックス原料100重量部に対して1重量部以下の酸化鉄)、バインダーを混合して、その粒径を所要の大きさとした造粒粒子を製造する。なお、バインダーは、得るべき試験体(ヒートシンク)の気孔率となるように混合量を決定した。
2.上記造粒粒子から、焼成後に20×20×3mmの板状の試験体(ヒートシンク)にとなる板状体を成形する。
3.上記板状体を、大気雰囲気下、1350℃の条件で焼成して試験体を得る。
4.板状体の取り扱い性(成形性)及び得られた試験体の気孔率、体積抵抗値、放熱特性を、以下の方法により測定・評価した。
・取り扱い性(成形性):上記2.の段階で板状体に成形した際に、成形可能で、かつ、その形状を保持したまま焼成炉に投入・焼成完了できれば「○」、(例えばポロポロと崩れて)成形できない、成形できたが、焼成炉に投入できない、焼成できない場合は「×」と評価した。
・気孔率:試験機(製品名:AutoPore IV 9500、Micromeritics製)を使用して測定した。
・体積抵抗値:試験機(製品名:ハイレスター、三菱化学製)を使用して測定した。そして、その値が1×1010Ω・cm未満なら「×」、1×1010Ω・cm〜2×1010Ω・cmの範囲内であれば「△」、2×1010Ω・cm以上なら「○」と評価した。
・放熱特性:熱源をその表面温度が90℃になるように設定し、その表面上に試験体を載置して、放置して30分後に安定した熱源の表面温度をK型熱電対を用いて計測した。そして、同条件下で放熱特性を測定したアルミニウム板(20×20×3mm)の値である20.9℃低下(69.1℃)を基準として、低下温度が20℃未満なら「×」、20〜20.9℃の範囲内なら「△」、20.9℃以上なら「○」と評価した。
【0049】
そして上記各評価を総合して総合評価を行った。具体的には、全ての評価が「○」であれば「◎」、一つでも「△」があれば「○」、一つでも「×」があれば「×」とした。
また使用した各原料は、以下の通りである。
・SiC:製品名:GP1000、信濃電気精錬(株)製(平均粒径12μm)
・ 〃 :製品名:GP400、信濃電気精錬(株)製(平均粒径35μm)
・ 〃 :製品名:GC100、信濃電気精錬(株)製(平均粒径150μm)
・ 〃 :製品名:GC80、信濃電気精錬(株)製(平均粒径180μm)
・SiO2:製品名:酸化けい素(IV), powder, 1.0 micron, 99.9%、和光純薬工業(株)製(平均粒径1μm)
・Al23:製品名:AL-43-L、昭和電工(株)製(平均粒径1μm)
・酸化鉄(Fe23):製品名:酸化鉄(III)、和光純薬工業(株)製(平均粒径1μm)
・バインダー:PVA(製品名:JP-05、日本酢ビポバール(株)製)
【0050】
【表1】

得られた試験体の気孔率については、表1に示すように、15〜50体積%の範囲で、体積抵抗値が1×1010Ω・cm以上であり、かつアルミニウムと同等以上の放熱特性が確保できること(総合評価「◎、○」)が確認された。
【0051】
この気孔率が15体積%未満であると、体積抵抗値が1×1010Ω・cmを確保できず(比較例1)、50体積%を超えると放熱特性が確保できなかった(比較例2)。
炭化ケイ素の配合比率が60〜85重量%の範囲であれば、炭化ケイ素の平均粒径に関係なく、1×1010Ω・cm以上の体積抵抗値と高い放熱特性とが確保できることが確認された。
【0052】
そして炭化ケイ素の配合比率が60重量%未満であると、放熱特性が確保できず(比較例5)、配合比率が85重量%を超えると、体積抵抗値が1×1010Ω・cmを確保できなかった(比較例6)。
【0053】
なお、実施例2、実施例3または実施例4においては、それぞれ体積抵抗値が2×1010Ω・cm、21.5×1010Ω・cmまたは50×1010Ω・cmであり、実施例3の放熱特性を示す低下温度は23.4℃であった。
【0054】
造粒粒子は、その粒径が1250μm以下であれば、成形性が確保され、本願発明に係るヒートシンクを好適に製造できることが確認された。一方、その粒径が1250μmを超える場合(比較例3)、成形性が確保できなかった。
【符号の説明】
【0055】
1…電子回路 3…プリント配線基板 5…電子部品
10…ヒートシンク 11…気孔 13…多孔質セラミックス
15…放熱性塗料 17…熱伝導性テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品が実装された回路基板と、
上記電子部品に積層された熱伝導シートと、
上記熱伝導シートに積層されたヒートシンクと、
を備えた電子回路であって、
上記ヒートシンクが、1010Ω・cm以上の体積抵抗値を有し、気孔率が15〜50体積%の多孔質セラミックスによって構成されたことを特徴とする電子回路。
【請求項2】
1010Ω・cm以上の体積抵抗値を有し、気孔率が15〜50体積%の多孔質セラミックスによって構成されたことを特徴とするヒートシンク。
【請求項3】
上記多孔質セラミックスは、少なくとも二酸化ケイ素と、アルミナと、炭化ケイ素とを混合して得られる粒径10μm以上の造粒粒子を焼結してなることを特徴とする請求項2に記載のヒートシンク。
【請求項4】
上記炭化ケイ素は、その平均粒径が150μm以下であることを特徴とする請求項2または3に記載のヒートシンク。
【請求項5】
上記多孔質セラミックスが、60〜85重量%の炭化ケイ素と、少なくとも10重量%以上の二酸化ケイ素とを混合して得られる造粒粒子を焼結してなることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載のヒートシンク。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−119671(P2012−119671A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246722(P2011−246722)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】