説明

電子放出源用ペースト、これを用いた電子放出源および電子放出素子。

【課題】電子放出材料の電極基板からの剥離を防止し、かつ電子放出源マトリックスの硬化度を最適化して活性化処理時に起毛しやすく、電子放出特性の良好な電子放出源用ペーストおよびそれを用いた電子放出素子を提供すること。
【解決手段】電子放出材料、シリコーン、および一般式(1)で表されるシラン化合物を含む電子放出源用ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出源用ペースト、これを用いた電子放出源および電子放出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電界電子放出型ディスプレイや照明などの電子放出源として、電子放出材料を用いた研究が盛んに行われている。その中でも、電気的・機械的特性に優れ、高いアスペクト比を有するカーボンナノチューブ(CNT)は低電圧駆動が可能であり、かつ製造が容易であることから電子放出材料として用いられている。CNTを用いた電子放出源の作製方法としては、一例として以下のような方法が知られている。まず、CNTおよび有機成分を含有したペーストを作製し、これを電極基板上に塗布する。そして、得られた膜を加熱処理して有機成分を分解し、レーザー法、プラズマ法、テープ剥離法などの活性化処理をして、CNTを膜表面に露出させる。露出したCNTは、膜表面から起毛していればトンネル効果による電界電子放出が起こりやすく、起毛したCNTの数が多いほど電子放出特性は良好となることが知られている。
【0003】
しかし、CNTのような炭素材料は、電極基板上で活性化処理や電界印加を行うと電極基板から剥離しやすく、寿命や発光均一性など電子放出特性に問題があった。そこで、該炭素材料を有するペーストにシリコン系物質を含有させ、電極基板との密着性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、その他の方法として、シランカップリング剤を含有させる方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−294449号公報
【特許文献2】特開2008−130354号公報
【特許文献3】特開2006−182601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に挙げられているシリコン系物質では、基板との密着性を維持する含有量であると、形成されるCNT硬化膜は、シリコーン高分子鎖とCNTの複雑に絡み合った相互侵入網目構造をとるため両者が強く接合し、活性化処理をしても起毛するCNT数が少なく、電子放出特性が大きく低下する問題があった。また、特許文献3に挙げられているシランカップリング剤では、珪素原子1個当たりの反応起点(加水分解後に生成するヒドロキシ基)が多く存在し電子放出源内の架橋密度が高いためCNTが強く固着され、活性化処理をしてもCNTが均一に起毛し難く、電界電子放出の耐久性(寿命)や発光均一性に問題があった。
【0006】
上記従来技術の課題に鑑み、本発明は電子放出源マトリックスの硬化度を最適化することで、基板上で直接活性化処理しても、CNTが均一かつ多量に起毛し、電子放出特性の良好な電子放出源用ペーストおよびそれを用いた電子放出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は電子放出材料、シリコーンおよび一般式(1)で表されるシラン化合物を含む電子放出源用ペーストおよびこれを用いた電子放出源である。
【0008】
【化1】

【0009】
式中、Rは、独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換または置換の有機基である。pは1〜3の整数を表す。pが2または3である場合、即ちRが複数ある場合は、各Rは互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、ビニル基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、アミノ基、イソシアネート基、カルボキシ基、ニトロ基、スルホ基、アルケニル基、アリル基、アリール基、芳香族複素環基、メルカプト基、およびこれらの基が一部に導入されたアルキル基からなる群より選ばれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電極基板上に形成した電子放出材料を活性化処理することにより良好な起毛状態が得られ、耐久性(寿命)や発光均一性に優れた電子放出源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の電子放出源用ペーストを用いて作製した電子放出源の活性化処理後の断面写真である。
【図2】電子放出材料およびシラン化合物を含むがシリコーンを含まない電子放出源用ペーストを用いて作製した電子放出源の活性化処理後の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電子放出源用ペーストは、電子放出材料、シリコーン、および一般式(1)で表されるシラン化合物を含む。シリコーンと一般式(1)で表されるシラン化合物を併用することで、電子放出源と電極基板との密着性向上のみならず、起毛長さのそろった電子放出材料、特にCNTを面内均一かつ多量に形成することができ、その結果電界電子放出の耐久性(寿命)や発光均一性に優れる電子放出源を得ることができる。これは、以下のような理由によると考えられる。シリコーンを用いることで電子放出源内の架橋度を低く抑え、電子放出材料を緩やかなネットワーク構造で固定することができる。このため、電子放出源内に固定された電子放出材料をレーザー法、プラズマ法、テープ剥離法等の活性化処理により均一に起毛させることができる。一方、緩やかなネットワーク構造で硬化した電子放出源は、電極基板との密着性が不十分であるため活性化処理や電圧印加時に剥離しやすく、良好な電子放出特性を得ることができない。このため、本発明の電子放出源用ペーストには、上記シラン化合物を含む。上記シラン化合物は、無機材料へ良好な吸着性を示す官能基と、有機材料に対して作用する官能基の2種類が1分子中に存在する化合物である。該分子中の無機材料に吸着性を示す官能基が電極基板に吸着し、もう一方の官能基が電子放出材料やシリコーン末端部に存在する官能基と化学結合を形成することで、緩やかなネットワーク構造の電子放出源を電極基板に強く密着させる効果をもつ。本発明の電子放出源は、良好な密着性を維持しながらも緩やかなネットワーク構造をもつことで、活性化処理の効果を最大限得ることができ、起毛長さの揃った電子放出材料を、面内均一にかつ多量に形成することができ、耐久性(寿命)や発光均一性に優れた電子放出源を得ることができる。
【0013】
電子放出材料は、CNT、カーボンナノコイル、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、グラファイト、グラフェンなどの炭素系材料や、金属微粒子、金属ナノワイヤー等を用いることができる。以下の説明では、該材料としてCNTを用いた場合を例に詳細に説明するが、その内容は該材料をカーボンナノコイル、カーボンナノホーン、カーボンファイバー、グラファイト、グラフェン、グラファイトフィブリル、金、白金、銀、ニッケル、シリコーン、ステンレス鋼、銅、黄銅、アルミニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、オスミウム、コバルト、亜鉛、スカンジウム、ホウ素、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、錫、マグネシウム、または酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム等に錫、亜鉛、テルル、銀、ジルコニウム、ハフニウム、マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされた化合物、酸化錫にアンチモン、亜鉛、フッ素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされた化合物、酸化亜鉛にアルミニウム、ガリウム、インジウム、ホウ素、フッ素、マンガからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされた化合物、または窒化ガリウム、窒化チタン、窒化クロム、窒化銅、窒化アルミニウム、窒化インジウム、窒化錫、窒化ジルコニウム、窒化マグネシウムまたはそれらに、リチウム、ゲルマニウム、マンガン、シリコーン、マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされた窒化化合物などから製造される繊維状または粒子状の金属および金属合金等に置き換えても同様に当てはめることができる。
【0014】
CNTは、単層CNTや、2層または3層等の多層CNTを用いてもよく、層数の異なるCNTの混合物を用いてもよい。また、未精製のCNTは、アモルファスカーボンや触媒金属等の不純物を含むことがあるため、熱処理や酸処理等で精製し純度を高めて使用することもできる。また、CNTは、複数絡み合った凝集体として存在していることが多いため、あらかじめボールミル、ビーズミルまたはホモジナイザー等で粉砕してから用いてもよい。電子放出源用ペースト全体に対するCNTの含有量は、0.1〜10重量%が好ましい。CNTの含有量が前記範囲内であると、活性化処理後の起毛CNTの量が多くなり良好な電子放出特性を得ることができる。さらに、スクリーン印刷等の塗布に適した粘度となるため好ましい。ただし、この範囲に限定されず、含有するシリコーンの粘度、シリコーンおよび一般式(1)で表されるシラン化合物の含有量、または活性化処理方法等により適宜選択することができる。
【0015】
一般式(1)で表されるシラン化合物について説明する。
【0016】
【化2】

【0017】
式中、Rは、独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換または置換の有機基である。pは1〜3の整数を表す。pが2または3である場合、即ちRが複数ある場合は、各Rは互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、ビニル基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、アミノ基、イソシアネート基、カルボキシ基、ニトロ基、スルホ基、アルケニル基、アリル基、アリール基、芳香族複素環基、メルカプト基、およびこれらの基が一部に導入されたアルキル基からなる群より選ばれる。
【0018】
一般式(1)中のRとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアラルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基およびこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子に置換された基等が挙げられる。Rは、塩素等のハロゲン原子またはアルコキシ基で、特に炭素数1〜5のアルコキシ基であることが好ましい。
【0019】
一般式(1)中のYは全て同一である必要はなく、互いに異なる基を含むこともできる。なお、これらの基が一部に導入されたアルキル基とは、例えば、ビニルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、グリシドキシアルキル基、アミノアルキル基、イミノ基等が挙げられる。
【0020】
一般式(1)で表されるシラン化合物としては、例えばメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン等のハロゲン官能性シラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシエトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン等のビニル官能性アルコキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシ官能性アルコキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等のスチリル官能性アルコキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル官能性アルコキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリル官能性アルコキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ官能性アルコキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド官能性アルコキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート官能性アルコキシシランを挙げることができる。
【0021】
一般式(1)中、好ましくはアルキルアルコキシシラン、ビニル官能性アルコキシシラン、エポキシ官能性アルコキシシラン、メタクリル官能性アルコキシシラン、メルカプト官能性アルコキシシラン、イソシアネート官能性アルコキシシラン等であることが好ましく、特にビニル官能性アルコキシシラン、エポキシ官能性アルコキシシラン、イソシアネート官能性アルコキシシランが好ましい。本発明に含まれる一般式(1)で表されるシラン化合物が、上記好ましい範囲であると、ペースト中のCNTは凝集せず安定した分散状態を保持することから、より均一かつ多量にCNTが起毛しやすい。
【0022】
さらに、本発明に含まれる上記シラン化合物は、450℃以上の高温領域において官能基の脱離や脱ガス等が発生し難い化合物が好ましい。具体的には、大気雰囲気下、昇温速度5℃/minで加熱したとき450〜600℃の重量減少率が3%以下であるシラン化合物が好ましい。このような耐熱性に優れたシラン化合物を用いることで、電子放出特性に優れた電子放出源を得ることができる。好ましい例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
本発明の電子放出源用ペーストに含まれるシリコーンは特に制限はないが、一般式(2)で表されるシロキサン化合物であることが好ましい。
【0024】
【化3】

【0025】
式中、R〜Rは、独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換または置換の有機基であり、k、mおよびnはそれぞれ0以上の整数であり、0<k+m+n<10,000である。Xは、ビニル基、ヒドロキシ基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、イソシアネート基、カルボキシ基、ニトロ基、スルホ基、アルケニル基、アリル基、芳香族複素環基、メルカプト基、アルコキシ基およびこれらの基が一部に導入されたアルキル基からなる群より選ばれる。硬化物の機械的強度等から直鎖構造を持つジオルガノポリシロキサンであることが好ましいが、この限りではない。また、1種単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
一般式(2)中のR〜Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアラルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基およびこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子に置換された基等が挙げられる。R〜Rは全て異なる必要はなく、互いに同一であってもよい。
【0027】
一般式(2)中のXは全て同一である必要はなく、互いに異なる基であってもよい。
【0028】
一般式(2)中のR〜Rは、好ましくはアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等であり、Xは好ましくはヒドロキシ基、メタクリル基、イソシアネート基およびアルコキシ基等である。本発明に用いられるシロキサン化合物が、上記範囲の官能基を持つと、官能基の極性と電子放出材料の表面電位の強度が近似しているため、ファンデルワールス力によりシラン化合物が電子放出材料の表面に吸着しやすくなり、電子放出材料の再凝集を防ぐことができる。これにより、電極基板上に電子放出源用ペーストをムラなく均一な強度で硬化させることができるため、活性化処理後の電子放出源を、厚膜かつ面内均一に形成することができ、より多くの起毛CNTを形成できる。
【0029】
上記シロキサン化合物の化学構造は、k、mおよびnの各部分に示す構成単位が必ずこの順に連結していることを示すものではなく、各構成単位は順不同である。
【0030】
本発明に含まれる上記シリコーンは、450℃以上の高温領域において官能基の脱離や脱ガス等が発生し難い化合物が好ましい。具体的には、大気雰囲気下、昇温速度5℃/minで加熱したとき450〜600℃の重量減少率が3%以下であるシリコーンが好ましい。好ましい例としては、テトラエトキシシラン脱水縮合5量体やメチルメトキシシロキサン等が挙げられる。このような耐熱性に優れたシリコーンを用いることで、電子放出特性に優れた電子放出源を得ることができる。
【0031】
本発明の電子放出源用ペーストに、上記シリコーンと一般式(1)で表されるシラン化合物を組み合わせて用いると、硬化後の電子放出源内は、架橋度の比較的緩やかなネットワーク構造で形成されるため、電子放出源内に固定されたCNTを、容易にかつ均一な長さで、より起毛させることができる。
【0032】
本発明に含まれるシリコーンは、一般式(3)で表されるシロキサン化合物であることがより好ましい。
【0033】
【化4】

【0034】
式中、R〜R13は、独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換または置換の有機基である。e〜gは0以上の整数であり、fまたはgの少なくとも一方は1以上であり、0<e+f+g<10,000である。X、XおよびXは、ヒドロキシ基、メタクリル基、イソシアネート基、およびアルコキシ基からなる群より選ばれる。式(3)で表されるシロキサン化合物1モル当たりに含まれるX、XおよびXの合計の割合は10モル%以上である。硬化物の機械的強度等から直鎖構造を持つジオルガノポリシロキサンであることが好ましいが、この限りではない。また、1種単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
一般式(3)中のR〜R13としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアラルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基およびこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子に置換された基等が挙げられる。R〜R13は全て異なる必要はなく、互いに同一であってもよい。一般式(3)中のR〜R13は、好ましくはアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等である
一般式(3)中のX、XおよびXは、全て同一である必要はなく、互いに異なる基であってもよいさらに、式(3)で表されるシロキサン化合物1モル当たりに含まれるX、XおよびXの合計の割合が10モル%以上であることがより好ましい。本発明に用いられるシロキサン化合物が、上記範囲で官能基X、XおよびXを持つことで、ポリマー主鎖は静電反発が大きくなり電子放出源は密に硬化することなく、比較的緩やかなネットワーク構造で形成することができるため、電子放出源は活性化処理によって、均一かつ、より多量にCNTを起毛することができる。上記シロキサン化合物の構成単位、含有量ならびにX、XおよびXのモル分率は、H−NMR測定による水素原子(シロキサン化合物を構成している水素原子)のピーク位置、およびピーク面積比による換算法によって算出することができる。
【0036】
本発明に含まれるシリコーンは、一般式(5)〜(7)で表されるシラン化合物の一種以上と、一般式(4)で表されるシラン化合物との加水分解・重縮合により得られるシロキサン化合物であることが、さらに好ましい。
【0037】
【化5】

【0038】
一般式(4)〜(7)中、R14〜R19は有機基、tは0〜2の整数を表し、M〜Mは独立に、ヒドロキシ基、アクリル基、メタクリル基、およびイソシアネート基からなる群より選ばれる。
【0039】
一般式(4)〜(7)中のR14〜R19としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアラルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基およびこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子に置換された基等が挙げられる。R14〜R19は全て異なる必要はなく、互いに同一であってもよい。M〜Mは全て同一である必要はなく、互いに異なる基であってもよい。
【0040】
一般式(4)〜(7)中のR14〜R19は、好ましくはアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等であることが好ましい。
【0041】
一般式(5)〜(7)で表されるシラン化合物の一種以上と、一般式(4)で表されるシラン化合物との加水分解・重縮合により得られるシロキサン化合物の、1モル当たりに含まれるM〜Mのモル分率の合計が、10モル%以上であることが好ましい。上記シロキサン化合物の構成単位、含有量およびM〜Mのモル分率は、H−NMR測定による水素原子(シロキサン化合物を構成している水素原子)のピーク位置、およびピーク面積比による換算法によって算出することができる。
【0042】
本発明に用いられるシロキサン化合物が、上記範囲でM〜Mで表される官能基を持つことで、硬化後の電子放出源内は、架橋度の比較的緩やかなネットワーク構造で形成されるため、電子放出源内に固定されたCNTは、均一な長さで、より起毛させることができる。さらに、上記官能基で構成されるシロキサン化合物は、耐熱性も向上するため、450℃以上の高温領域においても官能基の脱離や脱ガスなどが発生し難い。具体的には、大気雰囲気下、昇温速度5℃/minで加熱したとき450〜600℃の重量減少率が3%以下であるシロキサン化合物が好ましい。このような耐熱性に優れたシロキサン化合物を用いることで、本発明の電子放出源の耐熱性は向上し、一般式(1)で表されるシラン化合物と併用することで良好な電子放出特性を得ることができる。具体的には、メチルメトキシシロキサン、メチルエトキシシロキサン、エチルメトキシシロキサン、ビニル基含有メチルメトキシシロキサン、ビニル基含有メチルエトキシシロキサン、ビニル基含有エチルメトキシシロキサン、ヒドロキシ基含有メチルメトキシシロキサン、ヒドロキシ基含有メチルエトキシシロキサン、ヒドロキシ基含有エチルメトキシシロキサン、イソシアネート基含有メチルメトキシシロキサン、イソシアネート基含有メチルエトキシシロキサン、イソシアネート基含有エチルメトキシシロキサン、エポキシ基含有メチルメトキシシロキサン、エポキシ基含有メチルエトキシシロキサン、エポキシ基含有エトキシシロキサン等が挙げられる。
【0043】
本発明の電子放出源用ペーストにおいて、シリコーンの含有量は、ペーストの固形分に対して、下限としては0.1重量%以上であることが好ましく、1.0重量%以上であることがより好ましく、5.0重量%以上であることが特に好ましい。また、上限としては50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましく、15重量%以下であることが特に好ましい。シリコーンの含有量が前記範囲内であれば、起毛長さの揃ったCNTを面内均一にかつ、より多量に形成することができ、耐久性(寿命)や発光均一性に優れた電子放出源を得ることができる。
【0044】
一方、一般式(1)で表されるシラン化合物の含有量は、ペーストの固形分に対して、上限としては20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることが特に好ましい。また、上記シラン化合物は少しでも含まれていれば効果が表れるため、その含有量の下限はとくに限定されないが、0.1重量%以上であることが好ましく、1.0重量%以上であることが特に好ましい。シリコーンおよび上記シラン化合物の含有量が前記範囲内であれば起毛長さの揃ったCNTを面内均一にかつ、より多量に形成することができ、耐久性(寿命)や発光均一性に優れた電子放出源を得ることができる。
【0045】
本発明の電子放出源用ペーストは、導電性粒子を含むことができる。導電性粒子を含むことにより、電子放出源からのガス発生を抑え、電子放出源の耐久性を飛躍的に向上させることができる。本ペーストに含まれるシリコーンおよび一般式(1)で表されるシラン化合物は加熱により分子内の一部が加水分解し、その後脱水縮合をすることで硬化マトリックスを形成する。加水分解は、系中に極少量の水分が存在すれば反応が十分進行するが、脱水縮合は分子量の大きい他分子と接触する必要があるため、固相反応場では加水分解生成物の一部が未反応のまま残り、電圧印加時のガス発生原因(電子放出源の耐久性低下原因)となっていた。これに対し本発明では、ヒドロキシ基と金属原子の強い吸着性に着目した。本ペーストが導電性粒子を含有すると、電子放出源内に存在する未反応のヒドロキシ基は導電性粒子表面に吸着または結合し、その結果電圧印加時のガス発生が大幅に抑制され、電子放出源の耐久性が飛躍的に向上することが新たに見出された。
【0046】
本発明に用いることのできる導電性粒子は、金属、金属成分によって表面処理された無機粒子、ドーピング処理された金属酸化物粒子、前記酸化物により表面処理された無機粒子、および窒化物またはドーピング処理された窒化物によって表面処理された無機粒子などが好ましい例として挙げられる。
【0047】
金属粒子としては、例えば金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、鉄、コバルト等の粒子が挙げられる。
【0048】
金属成分によって表面処理された無機粒子としては、例えば表面の一部または全部に前記金属材料などがコーティングされた無機粒子等が挙げられる。
【0049】
ドーピング処理された金属酸化物粒子としては、例えば(1)酸化インジウム、酸化クロム等に錫、亜鉛、テルル、銀、ジルコニウム、ハフニウム、マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされた化合物、(2)酸化錫にアンチモン、亜鉛、フッ素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされた化合物、(3)酸化亜鉛にアルミニウム、ガリウム、インジウム、ホウ素、フッ素、マンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされた化合物等が挙げられる。
【0050】
ドーピング処理された金属酸化物によって表面処理された無機粒子としては、例えば表面の一部または全部に、酸化インジウム、酸化クロム、酸化錫、酸化亜鉛などの金属酸化物をコーティングした無機粒子に、錫、亜鉛、テルル、銀、ジルコニウム、ハフニウム、マグネシウム、アンチモン、フッ素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素でドーピング処理した粒子等が挙げられる。
【0051】
窒化物またはドーピング処理された窒化物によって表面処理された無機粒子としては、例えば窒化ガリウム、窒化チタン、窒化クロム、窒化銅、窒化アルミニウム、窒化インジウム、窒化錫、窒化ジルコニウム、窒化マグネシウムなどの窒化物、またはそれらにリチウム、ゲルマニウム、マンガン、シリコーン、マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされた窒化物などがコーティングされた無機粒子等が挙げられる。
【0052】
なお、上記の説明における無機粒子としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、アルミナ、シリカ等が挙げられる。
【0053】
本発明の電子放出源用ペーストは、難燃剤を含むことができる。これによって、焼成工程における電子放出材料の一部焼失または損傷が抑制され、耐久性(寿命)良好な電子放出特性を得ることができる。難燃剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、リン含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、熱分解によりハロゲン化水素を発生させたり、加工機械や金型を腐食させたり、分解してダイオキシン類等の有害物質を発生させ作業環境に悪影響を与える可能性が少ない、リン含有難燃剤および窒素化合物系難燃剤が好ましい。
【0054】
リン含有難燃剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ハロゲン化リン酸エステル、ポリリン酸塩等の有機リン系化合物が挙げられる。リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスファート、トリエチルホスファート、トリブチルホスファート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファート、トリブトキシエチルホスファート、トリフェニルホスファート、トリクレジルホスファート、トリキシレニルホスファート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスファート、トリス(フェニルフェニル)ホスファート、トリナフチルホスファート、クレジルジフェニルホスファート、キシレニルジフェニルホスファート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスファート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスファート、モノイソデシルホスファート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスファート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスファート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスファート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスファート、メラミンホスファート、ジメラミンホスファート、メラミンピロホスファート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0055】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスファート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスファート、ビスフェノールAポリクレジルホスファート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスファート並びにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0056】
ハロゲン化リン酸エステルとしては、トリス(クロロエチル)ホスファート、トリス(ジクロロプロピル)ホスファート、トリス(β−クロロプロピル)ホスファート)、テトラキス(2−クロロエチル)ジクロロイソペンチルジホスファート、ポリオキシアルキレンビス(ジクロロアルキル)ホスファート等が挙げられる。
【0057】
窒素化合物系難燃剤としては、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩を形成する化合物が挙げられる。トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩とは、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との付加物であり、通常は1対1(モル比)、場合により2対1(モル比)の組成を有する付加物である。シアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩のうち、特に好ましいトリアジン系化合物の例としてはメラミン、モノ(ヒドロキシメチル)メラミン、ジ(ヒドロキシメチル)メラミン、トリ(ヒドロキシメチル)メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、2−アミド−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジンの塩が挙げられる。トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩の具体例としては、メラミンシアヌレート、モノ(β−シアノエチル)イソシアヌレート、ビス(β−シアノエチル)イソシアヌレート、トリス(β−シアノエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。
【0058】
臭素系難燃剤としては、化学構造中に臭素を含有する化合物であれば特に制限はなく、通常公知の難燃剤を使用することができる。例えばヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモビフェニル、デカブロモビフェニル、ヘキサブロモシクロデカン、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモジフェニルエーテル、ビス(ペンタブロモフェノキシ)エタン、エチレン−ビス(テトラブロモフタルイミド)、テトラブロモビスフェノールAなどのモノマー系有機臭素化合物、臭素化ポリカーボネート(例えば臭素化ビスフェノールAを原料として製造されたポリカーボネートオリゴマーあるいはそのビスフェノールAとの共重合物)、臭素化エポキシ化合物(例えば臭素化ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジエポキシ化合物や臭素化フェノール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるモノエポキシ化合物)、ポリ(臭素化ベンジルアクリレート)、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスフェノールA、塩化シアヌールおよび臭素化フェノールの縮合物、臭素化(ポリスチレン)、ポリ(臭素化スチレン)、架橋臭素化ポリスチレンなどの臭素化ポリスチレン、架橋または非架橋臭素化ポリa−メチルスチレンなどのハロゲン化されたポリマー系臭素化合物が挙げられ、なかでもエチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、臭素化エポキシポリマー、臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテルおよび臭素化ポリカーボネート等を挙げることができる。また、上記の臭素化難燃剤と併用することによって、相乗的に難燃性を向上させるために使用される難燃助剤を添加することも好ましく、例えば三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、十二酸化アンチモン、結晶性アンチモン酸、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸リチウム、アンチモン酸バリウム、リン酸アンチモン、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、塩基性モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム亜鉛、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、赤燐等を挙げることができる。
【0059】
塩素系難燃剤としては、トリス(クロロエチル)ホスファート、トリス(ジクロロプロピル)ホスファート、トリス(m−クロロプロピル)ホスファート、テトラキス(2−クロロエチル)ジクロロイソペンチルジホスファート、ポリオキシアルキレンビス(ジクロロアルキル)ホスファート等を挙げることができる。
【0060】
本発明の電子放出源用ペーストは、有機樹脂を含むことができる。有機樹脂を含むことにより、パターン保持性や表面平滑性に良好な塗膜を得ることができる。具体的には、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロース、ブチルセルロース、ベンジルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、n−アクリル酸ブチル、tert−アクリル酸ブチル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、グリシジルアクリレート、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、n−メタクリル酸ブチル、tert−メタクリル酸ブチル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、α−メチルスチレン、メタアクリルアミド、メタアクリロニトリルなどの単量体から選ばれる少なくとも1種以上からなる重合体のアクリル樹脂またはメタクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルピロリドン、親水性ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアミン、プロピレングリコール、ポリエチルオキサゾリン、ゼラチン、ヒドロキシアルキルグア、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸、アラビアガム、ペクチン、キサンタンガム、などの化合物およびこれらの変性物などを挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。
【0061】
さらに、本発明に用いられる有機樹脂は、500℃以下の大気雰囲気下で熱分解するものであれば、前記範囲に限定せず用いることができる。具体的には、大気雰囲気下における熱重量分析(TGA)において、昇温速度5℃/minで加熱したとき500℃における有機残分が、初期重量の3%以下であることが好ましい。より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。本発明に用いられる有機樹脂の熱分解残分が前記範囲内であれば、電圧印加時に発生するガス量を抑制することができ、耐久性(寿命)良好な電子放出特性を得ることができる。
【0062】
また、有機樹脂の含有量は、溶剤を除いた成分中0.01〜80重量%が好ましく、非ニュートン流動性を維持する範囲で極力少ないことがより好ましい。本発明の電子放出源用ペーストの粘度は、0.001〜500Pa・S(25℃)程度が好ましく、均一な塗布膜をスクリーン印刷法によって形成する場合は2〜500Pa・S(25℃)程度がより好ましい。該ペーストの粘度は、例えば、溶剤、導電性粒子、有機樹脂の含有量により調整することができる。
【0063】
本発明の電子放出源用ペーストは溶剤を含むことができる。溶剤は、シリコーン、一般式(1)で表されるシラン化合物、および有機樹脂が溶解するものであれば、公知のものを用いることができる。具体的には、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類、アセトン、アセトフェノン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレン、などの芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、1,2−プロパンジオール、テルピネオール、アセチルテルピネオール、ブチルカルビトール、エチルセルソルブ、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセロール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールモノアリールエーテル類、ポリエチレングリコールモノアリールエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ソルベントナフサ、水、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルエチレン尿素、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0064】
本発明の電子放出源用ペーストには、シリコーンおよび一般式(1)で表されるシラン化合物の反応性を制御する目的で硬化触媒を含むことができる。硬化触媒は、シリコーンおよび上記シラン化合物の安定性、塗膜硬度、反応速度などを考慮して適宜選択される。例えば、有機酸亜鉛、ルイス酸触媒、有機アルミニウム化合物、有機チタニウム化合物、塩基性化合物等が好ましく用いられる。具体的には、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、p−tert−ブチル安息香酸亜鉛、ラウリル酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、塩化アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、アルミニウムトリイソブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、エチルアセトアセテートアルミニウムジ(n−ブチレート)、アルミニウム−n−ブトキシジエチルアセト酢酸エステル、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンアセチルアセトナート、ジルコニウムテトラ(アセチルアセトナート)、ジルコニウムテトラブチレート、コバルトオクチレート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、スズアセチルアセトナート、ジブチルスズオクチレート、オクチル酸錫、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸錫、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、n−ヘキシルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ジシアンジアミド、トリフェニルホスファート等が挙げられる。
【0065】
本発明の電子放出源用ペーストは、分散剤を含むことができる。分散剤には、公知のものを用いることができるが、有機樹脂と同様に、500℃以下の窒素雰囲気下における熱重量分析(TGA)において、500℃における有機残分が初期重量の1%以下であることが好ましい。より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。分散剤の添加量が前記範囲内であれば、電圧印加時に発生するガス量を抑制することができ、耐久性(寿命)良好な電子放出特性を得ることができる。
【0066】
本発明の電子放出源用ペーストは、原材料に450℃以上の高温領域においてガスなどが発生し難い化合物を用いることが好ましい。具体的には、各材料単体を大気雰囲気下、昇温速度5℃/minで加熱したとき450〜600℃の重量減少率が3%以下である材料が好ましい。このような材料を用いて電子放出源用ペーストを作製することにより、該ペーストから作製された電子放出源は、大気雰囲気下、昇温速度5℃/minで加熱したとき450〜600℃の重量減少率が3%以下を示す。450〜600℃における重量減少率が前記範囲の場合、電子放出源は電界印加時の脱ガスが少なく、イオン化したガス成分による電子放出源の損傷を抑えるため、電子放出に対する優れた耐久性(寿命)を得ることができる。但し、本発明の電子放出源は、大気雰囲気下、昇温速度5℃/minで加熱したとき450〜600℃の重量減少率が3%以下であればよく、この条件が満たされれば用いられる材料の熱分解性および重量減少率は、限定されない。
【0067】
以下に、本発明の電子放出源用ペーストを用いた電子放出源および電子放出素子の作製方法について説明する。なお、電子放出源および電子放出素子の作製は、その他の公知の方法を用いてもよく、後述する作製方法に限定されない。
【0068】
はじめに電子放出源の作製方法について説明する。電子放出源は、以下に説明するように、本発明の電子放出源用ペーストからなるパターンを基板上に形成後、焼成することにより得られる。まず、本発明の電子放出源用ペーストを用いて基板上に電子放出源のパターンを形成する。基板としては電子放出源を固定するものであればいかなるものでも良く、ガラス基板、セラミック基板、金属基板、フイルム基板などが挙げられる。基板上には、導電性を有する膜が形成されていることが好ましい。基板上に電子放出源のパターンを形成する方法としては、一般的なスクリーン印刷法、インクジェット法などの印刷法が好ましく用いられる。また、感光性を付与した電子放出源用ペーストを用いると、フォトリソグラフィーによって微細な電子放出源のパターンを一括で形成することができるため好ましい。具体的には、スクリーン印刷法または、スリットダイコーターなどで基板上に本発明の感光性を付与した電子放出源用ペーストを印刷した後、熱風乾燥機で乾燥して電子放出源用ペーストの塗膜を得る。前記塗膜に対して、上面(電子放出源用ペースト側)からフォトマスクを通じて紫外線を照射した後、アルカリ現像液や有機現像液などで現像して電子放出源用ペーストを形成することができる。次に電子放出源のパターンを焼成する。焼成雰囲気は大気中または窒素などの不活性ガス雰囲気中にて、焼成温度は400〜500℃の温度で焼成する。
【0069】
次に電子放出素子の作製方法について説明する。電子放出素子は、本発明の電子放出源用ペーストからなる電子放出源をカソード電極上に形成して背面版を作製し、アノード電極と蛍光体を有する全面板と対向させることにより得ることができる。以下、ダイオード型電子放出素子の作製方法とトライオード型電子放出素子の作製方法について詳細に説明する。
【0070】
ダイオード型電子放出素子の作製方法において、まず、ガラス基板上にカソード電極を形成する。カソード電極は、ITOやクロムなどの導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。カソード電極上には、前述の方法によって本発明の電子放出源用ペーストを用いて電子放出源を作製し、ダイオード型電子放出素子用の背面板が得られる。次に、ガラス基板上にアノード電極を形成する。アノード電極はITOなどの透明導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。ガラス基板上に形成されたアノード電極上に蛍光体を印刷し、ダイオード型電子放出素子の前面板が得られる。ダイオード型電子放出素子用背面板および前面板は、電子放出源と蛍光体が対向するようにスペーサーを挟んで貼り合わせ、容器に接続した排気管で真空排気して、内部の真空度が1×10−3Pa以下の状態で融着することによりダイオード型電子放出素子が得られる。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kVの電圧を供給することで、CNTから電子が放出されて蛍光体にぶつかり、蛍光体の発光を得ることができる。
【0071】
トライオード型電子放出素子の作製方法においては、まず、ガラス基板上にカソード電極を作製する。カソード電極は、ITOやクロムなどの導電性膜をスパッタ法などによって成膜することができる。次いで、カソード電極上に絶縁層を作製する。絶縁層は絶縁材料を印刷法または真空蒸着法などにより、膜厚3〜20μm程度で作製することができる。次いで、絶縁層上にゲート電極層を作製する。ゲート電極層は、クロムなどの導電性膜を真空蒸着法などにより形成することで得られる。次いで、絶縁層にエミッタホールを作製する。エミッタホールの作製方法は、まずゲート電極上にレジスト材料をスピンコート法などで塗布、乾燥し、フォトマスクを通じて紫外線を照射してパターンを転写した後、アルカリ現像液などで現像する。現像によって開口した部分からゲート電極および絶縁層をエッチングすることで、絶縁層にエミッタホールを形成することができる。次いで、前述の方法によって本発明の電子放出源用ペーストを用いて、エミッタホール内部に電子放出源を作製し、トライオード型電子放出素子用の背面板が得られる。次に、ガラス基板上にアノード電極形成する。アノード電極は、ITOなどの透明導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。ガラス基板上に形成されたアノード電極上に蛍光体を印刷し、トライオード型電子放出素子の前面板が得られる。トライオード型電子放出素子用背面板および前面板は、電子放出源と蛍光体が対向するようにスペーサーを挟んで貼り合わせ、容器に接続した排気管で真空排気して、内部の真空度が1.0×10−3Pa以下の状態で融着することにより、トライオード型電子放出素子が得られる。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kV、ゲート電極に20〜150Vの電圧を供給することで、CNTから電子が放出されて蛍光体にぶつかり、蛍光体の発光を得ることができる。
【0072】
また、陽極接合を用いてゲート電極を設けるトライオード型電子放出素子の作製方法を説明する。以下の方法により、隔壁によって隔たれた窪み部を有し、前記窪み部には本明細書に記載の電子放出源用ペーストを用いた電子放出源ならびにカソード電極が設けられ、前記隔壁上にはゲート電極を設けられた構造体を備える電子放出源素子が得られる。
【0073】
まず、ガラス基板に上にカソード電極を作製する。ガラス基板にサンドブラスト法等の公知の方法で溝を形成する。この溝が窪み部となり、ガラス基板のうち溝を取り囲むように残った部分が隔壁としての役割を果たす。次に、前記溝の底部にカソード電極用の金属配線を形成する。次に、カソード電極上に、前述の方法によって本発明の電子放出源用ペーストを塗布し、熱風乾燥機で乾燥する。続いて、カソード電極を大気中または窒素などの不活性ガス雰囲気中にて焼成し、電子放出源を得る。焼成は、400〜500℃の温度で行うことが好ましい。焼成後の電子放出源に対して、活性化処理を施し電子放出源に含まれるCNTを起毛させる。
【0074】
前記電子放出源に対応した電子通過孔を有するアルミニウムからなる金属メッシュをゲート電極として基板上に配置し、陽極接合装置に投入する。装置内雰囲気は、特に限定されるものではなく、例えば、減圧下、不活性ガス下、大気下のいずれでもよい。本発明の電子放出源用ペーストを用いて作製された電子放出源は、焼成残渣や脱ガスが少ないため、電圧印加時にイオン化ガス成分による電子放出源の損傷を抑えることができる。このため、装置内雰囲気の影響を受けることなく陽極接合時に印加される高電圧に対しても、前記電子放出源は良好な耐久性を持つ。
【0075】
次に、ガラス基板を陰極、ゲート電極を陽極とし、加熱しながら高電圧を印加し、陽極接合によってガラス基板とゲート電極を結合する。陽極接合の際、加熱温度は200℃〜400℃であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。印加電圧は50V〜1000Vが好ましく、200V以上であることが好ましい。加熱温度が250℃以上、または印加電圧が200V以上であれば、十分な接合強度を得ることができる。
【0076】
次に、ガラス基板上にアノード電極を形成する。アノード電極は、ITOなどの透明導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。ガラス基板上に形成されたアノード電極上に蛍光体を印刷し、前面基板とする。次に、陽極接合により作製されたカソード基板と前記アノード基板を対向するようにスペーサーを挟んで貼り合わせ、容器に接続した排気管で真空排気して、融着することにより、トライオード型電子放出素子が得られる。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kV、ゲート電極に20〜150Vの電圧を供給することで、CNTから電子が放出されて蛍光体にぶつかり、蛍光体の発光を得ることができる。
【0077】
本発明の電子放出源用ペーストを用いて作製された電子放出源は、例えば走査型電子顕微鏡(日立協和エンジニアリング(株)製、S−4800)に組み合わされたエネルギー分散型X線分析装置(EMAX ENERGY EX−250)等によって、その組成を分析することができる。前記方法を用いた具体的な分析方法としては、まず走査型電子顕微鏡を用いて電子放出源を観察することで、各成分の形状から、例えばファイバー状の構造を持つ電子放出材料、導電性粒子、マトリックスとしてのシリコーンおよび一般式(1)で表されるシラン化合物の成分を概ね特定することができる。さらにエネルギー分散型X線分析装置を用いることで、各成分の元素分析を行い、組成を特定することができる。但し、電子放出源の分析は、電子放出源の組成を特定できるものであればいずれの方法を用いても良く、これらの方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の電子放出源用ペースト、これを用いた電子放出源および電子放出素子について実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例および比較例における電子放出源用ペーストで用いた原料、各実施例および比較例における評価方法は以下の通りである。
【0079】
<電子放出源用ペーストに用いた原料>
(電子放出材料)
多層CNT(シンセンナノテクポート社製、直径10nm)を用いた。
【0080】
(シリコーン)
シリコーン1:テトラエトキシシラン脱水縮合5量体(コルコート(株)製、シリケート40、重量減少率0.3%、ヒドロキシ基1モル%、エトキシ基72モル%)を用いた。一般式(1)で表される化合物である。
シリコーン2:メチルメトキシシロキサン(信越シリコーン(株)製、X−40−9225、重量減少率1.5%、ヒドロキシ基1モル%、メトキシ基50モル%)を用いた。一般式(1)で表される化合物である。
シリコーン3:メチルアクリルメトキシシロキサン(信越シリコーン(株)製、KR−513、重量減少率7.7%、ヒドロキシ基1モル%、メトキシ基20モル%)を用いた。一般式(1)で表される化合物である。
シリコーン4:メチルヒドロキシシロキサン(信越シリコーン(株)製、X−22−4015、重量減少率0.3%、ヒドロキシ基7モル%)。
【0081】
(一般式(1)で表されるシラン化合物)
シラン化合物1:ビニルトリエトキシシラン(信越シリコーン(株)製、KBE−1003、重量減少率0.1%)を用いた。一般式(2)で表される化合物である。
シラン化合物2:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン(株)製、KBM−403、重量減少率0.5%)を用いた。一般式(2)で表される化合物である。
シラン化合物3:3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン(信越シリコーン(株)製、KBE−9103、重量減少率3.8%)を用いた。
【0082】
(有機樹脂)
有機樹脂1:エチルセルロース(ダウケミカル(株)製、4cps、重量減少率0.4%)を用いた。
有機樹脂2:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業(株)製、60SH、重量減少率0.6%)を用いた。
有機樹脂3:アクリル樹脂(共栄社化学(株)製、KC−250、重量減少率1.8%)を用いた。
有機樹脂4:アクリル樹脂(日油(株)製、マープルーフX−4007、重量減少率4.6%)を用いた。
【0083】
(導電性粒子)
導電性粒子1: 導電性酸化物(三井金属(株)製、パストランTypeIV酸化錫、平均粒径1.1μm)を用いた。
導電性粒子2:導電性酸化物(石原産業(株)製、ET−300W、球状酸化チタンを核としてSnO/SbOで被覆したもの、平均粒径0.05μm)を用いた。
【0084】
(難燃材)
難燃剤1:リン酸エステル1(和光純薬工業(株)製、トリフェニルホスファート)を用いた。
難燃剤2:リン酸エステル2(大八化学工業(株)製、TMCPP、トリス(m−クロロプロピル)ホスファート)
(溶剤)
溶剤:テルピネオール(和光純薬工業(株)製)を用いた。
【0085】
<電子放出源用ペーストの調製>
本発明の電子放出源用ペーストは以下の要領で作製した。容積500mlのジルコニア製容器に表1に示す所定量のCNT、シリコーン、一般式(1)で表されるシラン化合物、導電性粒子、有機樹脂、難燃剤、溶剤(種類は各実施例、比較例ごとに表1のように変更)を秤量し、0.3mmφのジルコニアビーズ(東レ(株)製トレセラム(商品名))をそこに加え、遊星式ボールミル(フリッチュ・ジャパン(株)製遊星型ボールミルP−5)にて100rpmで予備分散した。ジルコニアビーズを取り除いた混合物を3本ローラーにて混練した。
【0086】
<電子放出源の作製>
電子放出源用ペーストを、ITO薄膜を形成したソーダライムガラス基板上に、SUS325メッシュのスクリーン版を用いて、100μm×100μmの矩形パターン(2mmピッチで100個)を印刷し、100℃10分乾燥させた。その後、大気中450℃で焼成した。次に、焼成された100個の電子放出源に剥離接着強さ0.5N/20mmのテープを張り、180°の角度を保ちながら速度300mm/minで引き剥がした(テープ剥離)。
【0087】
<陽極接合を用いた電子放出素子の作製>
ガラス基板にサンドブラスト法で溝を形成した。溝の幅は200μm、溝のピッチは300μm、溝の深さを50μmとした。次に、スクリーン印刷法で、前記の溝の底部に、幅100μm、膜厚5μmのカソード電極用の銅配線を形成した。次に、カソード電極上に、前述の方法によって本発明の電子放出源用ペーストを塗布し、熱風乾燥機で100℃で10分間乾燥した。続いて、カソード電極を大気中にて、450℃で焼成し、電子放出源を得た。焼成後の電子放出源に対して、剥離接着強さ0.5N/20mmのテープを張り、180°の角度を保ちながら速度300mm/minで引き剥がした。
【0088】
前記電子放出源に対応した電子通過孔を有するアルミニウムからなる金属メッシュをゲート電極として基板上に配置し、陽極接合装置に投入した。装置内雰囲気は、大気下とした。次に、ガラス基板を陰極、ゲート電極を陽極とし、350℃に加熱しながら高電圧を印加し600Vの電圧を10分間印加し、陽極接合によってガラス基板とゲート電極を結合した。次に、ガラス基板上にアノード電極を形成した。アノード電極は、ITOなどの透明導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。ガラス基板上に形成されたアノード電極上に蛍光体を印刷し、前面基板とした。次に、陽極接合により作製されたカソード基板と前記アノード基板を対向するようにスペーサーを挟んで貼り合わせ、容器に接続した排気管で真空排気して、内部の真空度が1.0×10−3Pa以下の状態で融着することにより、トライオード型電子放出素子が得た。
【0089】
<電子放出源の熱重量減少率評価方法>
電子放出源用ペーストを、ソーダライムガラス基板上に、SUS325メッシュのスクリーン版を用いて、10cm×10cmの正方形パターンを印刷し、100℃10分乾燥させた。その後、大気中450℃で焼成した。次に、基板上に残った焼成物を削りとり、熱重量減少率を測定した。熱重量減少率は、TG測定装置(TGA−50、(株)島津製作所(株)製)にて測定した値を元に以下の式にて算出した。測定条件は、TG測定装置に約20mgの試料をセットした後、大気雰囲気下で流量30ml/分、昇温速度5℃/分で600℃まで昇温し、昇温中の試料の重量を測定した。次に、450℃と600℃のときの熱分解率(T)を以下の式で求めた。
T(X)=(X℃における試料重量)/(昇温開始時の試料重量)×100
そして、450℃から600℃の熱重量減少率(W)を以下の式で求めた。
W=T(450)−T(600)
<電子放出源と基板との密着性評価方法>
上記方法で作製し、テープ剥離処理を施した電子放出源が基板上に残っているかを確認した。1回のテープ剥離で電子放出源ごと剥離し電極基板全面が見えてしまうものを不可(×)、一部剥離したものを良(△)、剥離せず電極基板が見えないものを最良(○)とした。
【0090】
<電子放出源の起毛状態の評価方法>
上記方法で作製した電子放出源の断面を、走査型電子顕微鏡(日立協和エンジニアリング(株)製、S−4800)を用いて観察した。倍率10,000倍、加速電圧3kV、視野4.25μm×3μmの条件で電子放出源の中央断面部を観察し、起毛したCNTの本数を計測し、電子放出源断面中央の幅1μm当たりの起毛CNTの本数を算出した。この操作を無作為に選択した5ヶ所において繰り返し、それらの平均値を用いて評価した。なお、起毛とはそれぞれのCNTが電子放出源に対して45°以上立っていれば、起毛しているとし、前記平均値は、小数点以下を四捨五入した。
【0091】
<発光均一性の評価方法>
ITO薄膜を形成した厚み1.8mmのソーダライムガラス基板上に蛍光体を印刷し、アノード基板を作製した。そして、先に作製した電子放出源付きカソード基板とアノード基板とを、100μmのスペーサーガラスを挟んで張り合わせ、真空チャンバー内にセットした。電極を接続して1.0×10−3Paになるまで真空排気し、電流値が200μAになるまでアノード電極に電圧を印加し、蛍光体発光を観察した。点灯エミッタ、不灯エミッタの数を計測し、全エミッタ数に対する点灯エミッタの百分率を発光の均一性の指標とした。100%が全点灯で、発光の均一性が最もよい。なお、前記陽極接合を用いて作製したトライオード型電子放出素子も同様に点灯、不灯のエミッタ数を計測し、均一性を評価した。
【0092】
<電子放出に対する耐久性(寿命)評価方法>
真空度を5.0×10−4Paにした真空チャンバー内に、25個の1mm×1mmの電子放出源が形成された基板と銅板で、厚さ200μmのスペーサーフィルムを挟んで対向させ、電圧印加装置(菊水電子工業(株)製、耐電圧/絶縁抵抗試験器TOS9201)によって、電流密度1mA/cmになるような電圧に固定し、電流値が初期値の50%に減衰するまでの時間を電子放出に対する耐久性の指標とした。なお、前記陽極接合を用いて作製したトライオード型電子放出素子も同様に電圧を印加し電子放出に対する耐久性を評価した。
【0093】
<電子放出開始電界強度の測定>
真空度を5.0×10−4Paにした真空チャンバー内に、電子放出源が形成された基板と銅板で、厚さ200μmのスペーサーフィルムを挟んで対向させ、電圧印加装置(菊水電子工業(株)製、耐電圧/絶縁抵抗試験器TOS9201)によって、10V/secで電圧印加した。得られた電流電圧曲線から電流密度が、1mA/cmに達する電界強度を求めた。電界強度が小数点第2位を四捨五入して、2.0V以下であるものを最良(○)、2.1V以上2.4V以下であるものを良(△)、2.5V以上であるものを不可(×)とした。なお、前記陽極接合を用いて作製したトライオード型電子放出素子も同様に電圧印加し、電子放出開始電界強度を評価した。
【0094】
実施例1〜25および比較例1〜2の結果を表1〜2に示した。各実施例および比較例においては、上記の方法で表に示した組成の電子放出源用ペーストを調製し、これを用いて電子放出源を作製し、電子放出源と基板との密着性評価、電子放出源の起毛状態の評価、発光均一性の評価、電子放出に対する耐久性(寿命)評価および電子放出開始電界強度の測定を行った。ただし、実施例23および24については、前記陽極接合を用いた方法によって作製した電子放出素子で、それ以外は同様に測定評価を行った。
【0095】
<電子放出源の断面写真撮影>
本発明の電子放出源用ペーストを用いて作成した電子放出源の活性化処理後の断面(図1、実施例18のペースト使用)と、電子放出材料およびシラン化合物を含むがシリコーンを含まない電子放出源用ペーストで作製した電子放出源の活性化処理後の断面(図2、比較例2のペースト使用)を、走査型電子顕微鏡(日立協和エンジニアリング(株)製、S−4800)を用いて観察した。倍率2,000倍、加速電圧3kVの条件で、活性化処理後の電子放出源の断面部を撮影した。上記2つの断面図から、シリコーンおよび一般式(1)で表されるシラン化合物を組み合わせて用いると、電子放出源内に固定されたCNTを活性化処理により均一かつ多量に起毛させることができている。
【0096】
実施例1〜3の対比(導電性粒子の効果)
いずれの場合も、電子放出源の熱重量減少率は3%以下、電子放出源と基板との密着性、電子放出源の起毛状態、発光均一性、電子放出に対する耐久性(寿命)、電子放出開始電界強度は良好な結果が得られたが、実施例2と3は導電性粒子を添加したことで、耐久性がより良好であった。
【0097】
実施例2と、4〜11の対比(シリコーンと一般式(1)で表されるシラン化合物の効果)
いずれの場合も、電子放出源の熱重量減少率は3%以下、電子放出源と基板との密着性、電子放出源の起毛状態、発光均一性、電子放出に対する耐久性(寿命)、電子放出開始電界強度は良好な結果が得られた。なお、シリコーンや上記シラン化合物は種類によらず良好な結果が得られた。シリコーン含有量が特に好ましい範囲である、5.0重量%以上、15重量%以下を満たす実施例2は特に良好な結果となった。
【0098】
実施例1、12〜14の対比(シリコーンおよび一般式(1)で表されるシラン化合物の耐熱性効果)
実施例12〜14は、いずれの場合も電子放出源と基板との密着性、電子放出源の起毛状態、発光均一性、電子放出に対する耐久性(寿命)、電子放出開始電界強度が良好であった。なお、実施例12〜14の電子放出源の熱重量減少率は3%以上であったため、電子放出に対する耐久性(寿命)については、実施例1がより良好な結果を示した。
【0099】
実施例1、15〜17の対比(CNT添加量の効果)
実施例15〜17は、いずれの場合も電子放出源の熱重量減少率は3%以下であり、電子放出源と基板との密着性、電子放出源の起毛状態、発光均一性、電子放出に対する耐久性(寿命)、電子放出開始電界強度が良好であった。なお、CNT含有量によらず良好な結果を得られたが、0.1〜10重量%であるときの結果(実施例1、15、16)は密着性及び発光均一性においてより良好であった。
【0100】
実施例1と19、2と18の対比(難燃剤の効果)
各実施例は、電子放出源の熱重量減少率は3%以下であり、電子放出源と基板との密着性、電子放出源の起毛状態、発光均一性、電子放出に対する耐久性(寿命)、電子放出開始電界強度が良好であった。なお、実施例18、19は難燃剤によるCNTの焼失・損傷抑制効果が得られた結果、電子放出に対する耐久性が特に良好であった。
【0101】
実施例2、20〜22の対比(有機樹脂の熱分解性の効果)
いずれの場合も電子放出源と基板との密着性、電子放出源の起毛状態、発光均一性、電子放出に対する耐久性(寿命)、電子放出開始電界強度が良好であった。なお、有機樹脂の種類によらず良好な結果を得られたが、実施例21と22の電子放出源の熱重量減少率は3%以上であったため、電子放出に対する耐久性(寿命)については、実施例2がより良好な結果を示した。
【0102】
実施例1と23、18と24の対比(陽極接合の影響)
いずれの場合も電子放出源と基板との密着性、電子放出源の起毛状態、発光均一性、電子放出に対する耐久性(寿命)、電子放出開始電界強度が良好であった。
【0103】
実施例1と25の対比(官能基Xの含有量)
いずれの場合も、電子放出源の熱重量減少率は3%以下、電子放出源と基板との密着性、電子放出源の起毛状態、発光均一性、電子放出に対する耐久性(寿命)、電子放出開始電界強度は良好な結果が得られた。なお、電子放出源の起毛状態、電子放出に対する耐久性(寿命)および電子放出開始電界強度については、官能基Xを10モル%以上含有するシリコーンを用いるとより良好であった。
【0104】
実施例1、比較例1〜2の対比
比較例1は、一般式(1)で表されるシラン化合物を加えずにシリコーン、有機樹脂、溶剤のみを用いたものである。比較例2はシリコーンを加えずに、上記シラン化合物、有機樹脂、溶剤のみを用いたものである。どちらの場合でも、電子放出源と基板との密着性は良好であったが、電子放出源の起毛状態、発光均一性、電子放出に対する耐久性(寿命)、電子放出開始電界強度が劣っていた。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放出材料、シリコーン、および一般式(1)で表されるシラン化合物を含む電子放出源用ペースト。
【化1】

(式中、Rは、独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換または置換の有機基である。pは1〜3の整数を表す。pが2または3である場合、即ちRが複数ある場合は、各Rは互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、ビニル基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、アミノ基、イソシアネート基、カルボキシ基、ニトロ基、スルホ基、アルケニル基、アリル基、アリール基、芳香族複素環基、メルカプト基、およびこれらの基が一部に導入されたアルキル基からなる群より選ばれる。)
【請求項2】
さらに導電性粒子を含む請求項1記載の電子放出源用ペースト。
【請求項3】
前記シリコーンが、一般式(2)で表されるシロキサン化合物である請求項1または2記載の電子放出源用ペースト。
【化2】

(式中、R〜Rは独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換または置換の有機基であり、k、mおよびnはそれぞれ0以上の整数であり、0<k+m+n<10,000である。Xは、ビニル基、ヒドロキシ基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、イソシアネート基、カルボキシ基、ニトロ基、スルホ基、アルケニル基、アリル基、芳香族複素環基、メルカプト基、アルコキシ基およびこれらの基が一部に導入されたアルキル基からなる群より選ばれる。)
【請求項4】
前記シリコーンが、一般式(3)で表されるシラン化合物である請求項1または2記載の電子放出源用ペースト。
【化3】

(式中、R〜R13は、独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換または置換の有機基である。e〜gは0以上の整数であり、fまたはgの少なくとも一方は1以上であり、0<e+f+g<10,000である。X、XおよびXは、ヒドロキシ基、メタクリル基、イソシアネート基、およびアルコキシ基からなる群より選ばれる。式(3)で表されるシロキサン化合物1モル当たりに含まれるX、XおよびXの合計の割合は10モル%以上である。)
【請求項5】
前記シリコーンが、一般式(5)〜(7)で表されるシラン化合物の一種以上と、一般式(4)で表されるシラン化合物との加水分解・重縮合により得られるシロキサン化合物である請求項1〜4のいずれか記載の電子放出源用ペースト
【化4】

(式中、R14〜R19は有機基、tは0〜2の整数を表し、M〜Mは独立に、ヒドロキシ基、アクリル基、メタクリル基、およびイソシアネート基からなる群より選ばれる。)
【請求項6】
さらに難燃剤を含む請求項1〜5のいずれか記載の電子放出源用ペースト。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の電子放出源用ペーストを用いて形成された電子放出源。
【請求項8】
大気雰囲気下、昇温速度5℃/分で加熱したとき450〜600℃の重量減少率が3%以下である請求項7記載の電子放出源。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか記載の電子放出源用ペーストを用いて形成された電子放出素子。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の電子放出源用ペーストを用いた電子放出源の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の電子放出源用ペーストを用いた電子放出素子の製造方法。
【請求項12】
隔壁によって隔たれた窪み部を有し、前記窪み部には請求項1〜6のいずれかに記載の電子放出源用ペーストを用いた電子放出源ならびにカソード電極が設けられ、前記隔壁上にはゲート電極を設けられた構造体を備える電子放出源素子の製造方法であって、前記隔壁上へゲート電極を陽極接合する工程を含む電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−30469(P2013−30469A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−137470(P2012−137470)
【出願日】平成24年6月19日(2012.6.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】