説明

電子遮断装置

【課題】 半導体素子からなる開閉回路を備えた電子遮断装置において、地絡事故や短絡事故が発生したとき、短時間で給電路を遮断すること。
【解決手段】 主開閉回路22のIGBT1,2は、逆方向に直列に接続し、両IGBTのゲートは、共通に接続してある。またIGBT1,2には、夫々ダイオードD1,D2を逆極性になるように接続してある。IGBT1,2は、主制御回路24からゲートGへゲート電圧が送られている間導通し、ゲート電圧が停止すると非導通になる。変流器CT1は、地絡電流を検出し、変流器CT2は、短絡電流を検出する。主制御回路24は、変流器CT1,2の検出電流を設定値と比較して、設定値を超えると、IGBT1,2のゲートGへ送出しているゲート電圧を停止する。そのとき主開閉回路22は、給電路を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、半導体素子からなる開閉回路を備えた電子遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来電力線の短絡事故等の際、電力線の過電流を検出して給電路を遮断するため、サイリスターからなる開閉回路を備えた電子遮断装置が提案されている。
図6により、従来のサイリスターからなる開閉回路を備えた電子遮断装置を説明する(特許文献1、特許文献2参照)。
図6(a)は、電子遮断装置の構成を示し、図6(b)、図6(c)は、電力線11に印加する交流電圧と電力線11を流れる交流電流の波形を示す。
まず図6(a)について説明する。
電力線11には、開閉回路13を接続し、電力線11の電流を検出する変流器CTを装着してある。開閉回路13は、2個のサイリスターを逆向きに並列に接続してある、
開閉回路13は、通常、サイリスターが導通して閉路状態にあり、そのとき電力線11には電流が流れている。制御装置12は、変流器CTが検出した電力線11の電流を設定値と比較し、設定値より大きいときは、開閉回路13のサイリスターを非導通にし、開閉回路13を開路状態にする。そのとき給電路は、遮断される。
【0003】
次に図6(b)、図6(c)によりサイリスターの動作を説明する。
図6(b)において、時刻T1に、制御回路12から、開閉回路13のサイリスターへトリガーを送ると、サイリスターは導通して給電路を形成するため、電圧V1が負荷(図示せず)に印加され、電力線11に電流I1が流れる。サイリスターは、一旦導通すると、電圧V1が0(V)になる時刻Thまで導通状態を維持する。次の半サイクルについても同様に動作する。そのため例えば、図6(c)のように、時刻T2に、短絡事故等が発生して電流I1が急上昇した場合、その状態は、時刻Thまで継続する。その結果、事故時の電流が大きいときは、時刻Thまでの間に、ヒューズが溶断したり、電力線11に接続されている機器が故障したり、或いは電力線11に触れた人が怪我をしたりすることがある。
【0004】
【特許文献1】特開平5−144350号公報
【特許文献2】特開平10−336874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、従来の電子遮断装置の前記問題点を解決することを目的とし、短絡事故等が発生して電力線の電流が設定値を超えると、短時間で給電路を遮断できる開閉回路を備えた電子遮断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、その目的を達成するため、請求項1に記載の電子遮断装置は、給電路を開閉する主開閉回路、給電路の電流を検出する電流センサ、及び電流センサの検出電流を設定値と比較して前記主開閉回路の開閉を制御する主制御回路を備え、
前記主開閉回路は、2個のFET又はFETの複合素子を逆向きに直列に接続し、各FET又はFETの複合素子に、夫々ダイオードを逆極性となるように並列に接続し、2個のFET又はFETの複合素子のゲートは前記主制御回路に接続してあることを特徴とする。
請求項2に記載の電子遮断装置は、給電路を開閉する主開閉回路、給電路の電流を検出する電流センサ、電流センサの検出電流を設定値と比較して前記主開閉回路の開閉を制御する主制御回路、前記主開閉回路と同じ構成の回路からなる補助開閉回路、及び負荷の両端の電圧を設定値と比較して前記補助開閉回路の開閉を制御する補助制御回路を備え、
前記主開閉回路は、2個のFET又はFETの複合素子を逆向きに直列に接続し、各FET又はFETの複合素子に、夫々ダイオードを逆極性となるように並列に接続し、2個のFET又はFETの複合素子のゲートは前記主制御回路に接続してあり、
前記補助開閉回路は、2個のFET又はFETの複合素子を逆向きに直列に接続し、各FET又はFETの複合素子に、夫々ダイオードを逆極性となるように並列に接続し、2個のFET又はFETの複合素子のゲートは前記補助制御回路に接続してあり、
前記補助開閉回路と抵抗を直列に接続した回路を負荷と並列に接続してあることを特徴とする。
請求項3に記載の電子遮断装置は、給電路を開閉する主開閉回路、給電路の電流を検出する電流センサ、及び電流センサの検出電流を設定値と比較して前記主開閉回路の開閉を制御する主制御回路を、ケースに収容し、ケースには電源との接続手段及び負荷との接続手段を設けてあり、
前記主開閉回路は、2個のFET又はFETの複合素子を逆向きに直列に接続し、各FET又はFETの複合素子に、夫々ダイオードを逆極性となるように並列に接続し、2個のFET又はFETの複合素子のゲートは前記主制御回路に接続してあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本願発明の電子遮断装置の給電路を開閉する主開閉回路は、FET又はFETの複合素子を用い、2個のFET等を逆向きに直列に接続し、各FET等に、夫々ダイオードを逆極性となるように並列に接続してあるから、交流電流を通すことができ、かつ電力線の地絡事故や短絡事故が発生すると、2個のFET等のゲートに印加しているゲート電圧を停止することにより、直ちに給電路を遮断することができる。したがって地絡事故や短絡事故によって発生する大電流を短時間で遮断できる。
本願発明の電子遮断装置は、補助開閉回路と抵抗を直列に接続した回路を、負荷と並列に接続してあるから、誘導性負荷の給電路を遮断したとき、主開閉回路の破壊を防ぐことができる。また補助開閉回路は、主開閉回路と同じ構成の回路を利用できるから、回路設計や回路形成が容易になる。
本願発明の電子遮断装置は、電子遮断装置を構成する主開閉回路、電流センサ等を1個のケースに収容し、電源や負荷との接続手段を設けてあるから、工場、電気工事現場、学校、家庭等において手軽に安全に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願発明の実施の形態に係る電子遮断装置は、2個のFET(電界効果トランジスタ)、又は2個のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)及び2個のダイオードからなる開閉回路を備え、2個のFET又は2個のIGBTは、逆向きに直列に接続し、各FET又はIGBTには、ダイオードを逆極性となるように並列に接続してある。
図1〜図5により本願発明の実施例を説明する。なお各図に共通の部分は、同じ符号を使用している。
【実施例1】
【0009】
図1は、実施例1の電子遮断装置の構成を示す。
図1は、単相式電力線の例で、21は交流電源、22は主開閉回路、23は負荷、24は主制御回路、CT1,CT2は変流器(電流センサ)である。主制御回路24は、CPUによって構成し、後述する各種設定値の設定手段を設けることもできる。
主開閉回路22は、IGBT1,2、ダイオードD1,D2によって構成し、両IGBTは、逆向きに直列に接続し(エミッタとエミッタを接続する)、両IGBTのゲートは、共通に接続して主制御回路24に接続してある。またIGBT1,2には、夫々ダイオードD1,D2を逆極性となるように並列に接続してある(IGBT1とダイオードD1は導通方向が逆になり、IGBT2とダイオードD2も導通方向が逆になる)。IGBT1,2は、ゲート電圧が、主制御回路24からゲートGへ送られている間導通し、ゲート電圧が停止すると非導通になる。IGBT1,2が導通すると、主開閉回路22は閉路状態になり、交流電源21から負荷23へ電力を供給する給電路が形成され、IGBT1,2が非導通になると、主開閉回路22は開路状態になり、給電路は遮断される。
【0010】
変流器CT1は、地絡電流(零相電流)検出用の電流センサであり、変流器CT2は、短絡電流検出用の電流センサである。2本の電力線のいずれか一方が地絡したり、電力線に人や樹木が触れたりすると、両電力線の電流はバランスが崩れて零相電流が変化するが、その零相電流の変化は、変流器CT1によって検出される。一方2本の電力線が、短絡すると、給電路の電流が急増するが、給電路の電流の変化は、変流器CT2によって検出される。
主開閉回路22のIGBT1,2は、通常、主制御回路24からゲートGへ送られているゲート電圧により導通しているが、地絡事故等が発生すると、ゲート電圧が停止して非導通になる。
主制御回路24は、変流器CT1,2の検出電流を、設定値と比較して、検出電流が設定値内のときは、IGBT1,2へゲート電圧を送り続けるが、検出電流が設定値を超えると、ゲート電圧を停止する。
【0011】
実施例1の主開閉回路22は、IGBTを用いているが、IGBTに限らず、FET、IGBT等のFETの複合素子を用いてもよい。
また主開閉回路22の電流容量を大きくする必要がある場合には、主開閉回路22の回路を複数個並列に接続すればよい。
【0012】
ここで図2により主開閉回路22及びIGBTの動作を説明する。
図2(a)は、図1(a)の主開閉回路22と同じ回路である。
まず図2(a)において、ゲートGにゲート電圧が印加されると、IGBT1,2は導通する。この状態で、例えば電力線のW1側が正、W2側が負になると、電流は、W1―IGBT1―ダイオードD2―W2を通って流れ、W1側が負、W2側が正になると、電流は、W2―IGBT2―ダイオードD1―W1を通って流れる。即ち電力線の電流は、一方のダイオードと他方のIGBT、及び一方のIGBTと他方のダイオードを介してW1からW2へ、及びW2からW1へ流れる。したがって主開閉回路22は、交流電流を流すことができる。
【0013】
次に図2(b)、図2(c)によりIGBTの動作を説明する。
図2(b)において、IGBTは、交流電圧V2が印加されているとき、時刻T1にゲート電圧が印加されると、導通して電流I2が実線のように流れ、時刻Tnにゲート電圧を停止すると、非導通になって電流I2は遮断される。次の半サイクルについても同様に動作する。したがってIGBTは、ゲート電圧が印加されている時刻T1―時刻Tnの間、電流I2が流れる。即ちIGBTは、サイリスターのように電圧V2が0(V)になる時刻Thまで流れ続けることはなく、ゲート電圧が停止したとき電流I2も停止する(遮断する)。
したがって図2(c)のように、時刻T2に、電力線に地絡事故或いは短絡事故が発生すると、電流I2は急増するが、時刻T3にゲート電圧を停止すると、電流I2は遮断され、急増した電流は、時刻T2−時刻T3の間の短時間流れるだけである。そのため短絡事故等が発生したとき、図2(a)のIGBTからなる主開閉回路22は、従来のサイリスターからなる開閉回路よりも短時間で給電路の電流を遮断できる。
【実施例2】
【0014】
図3は、実施例2の電子遮断装置を示す。
図3は、3相式電力線の例で、1個の地絡電流検出用の変流器CT1、2個の短絡電流検出用の変流器CT21,CT22、及び2個の主開閉回路221,222を設けてある。
図3の場合、主制御回路24は、地絡や短絡の個所に対応して、主開閉回路221,222を個別に、又は双方を同時に制御する。
【実施例3】
【0015】
図4は、実施例3の電子遮断装置を示す。電子遮断装置は、主開閉回路の保護用の補助開閉回路を備えている。
図4において、25は、補助開閉回路26の補助制御回路である。
負荷23がモータ等の誘導性負荷の場合、負荷23の運転中に、主開閉回路22を開路状態にして給電路を遮断すると、インダクタンスに蓄積したエネルギーにより主開閉回路22に高電圧が印加して、IGBTやダイオードが破壊されることがある。
そこで図4は、主開閉回路22を保護するため、補助開閉回路26と抵抗R1を接続してある。補助開閉回路26は、主開閉開路22と同じ構成の回路を用いる。
【0016】
補助開閉回路26は、負荷23の運転中、開路状態にある。負荷23の運転中に、主開閉回路22が給電路を遮断すると、補助制御回路25は、負荷23の両端の電圧を設定値と比較して、設定値を超えると、補助開閉回路26へゲート電圧を送る。補助開閉回路26のIGBTは、そのゲート電圧によって導通し、補助開閉回路26は、閉路状態になる。補助開閉回路26が閉路状態になると、補助開閉回路26と抵抗R1は、負荷23と並列に接続され、負荷23に蓄積したエネルギーは、抵抗R1によって消費される。したがって主開閉回路22の破壊を防ぐことができる。また補助開閉回路26は、主開閉回路22と同じ構成の回路を利用できるから、回路設計や回路形成が容易になる。
【実施例4】
【0017】
図5は、実施例4の電子遮断装置を示す。
電子遮断装置を構成する変流器CT1,2、主開閉回路22、主制御回路24は、ケース31に収容し、ケース31には、電源21に接続する手段、例えばコンセント322に接続するプラグ321、負荷を接続する手段、例えばプラグ323を接続するコンセント324を設けてある。
実施例4の電子遮断装置は、主制御回路24が変流器CT1、2の検出電流と比較する設定値を変える手段や、変流器CT1,2のいずれか一方の検出電流を選択して比較する手段を設けてもよい。また変流器CT1,2の検出電流を個別に比較して、発生した事故が地絡か、短絡かを判別して表示する手段を設けてもよい。また擬似的に地絡や短絡を発生する手段を設けてもよい。
実施例4の電子遮断装置は、プラグ321を100V,200V等の電源21のコンセント322に接続し、負荷23、例えば電気機器、電子機器等の試作品のプラグ323をコンセント324に接続して使用する。仮に試作品に誤配線がある場合にも、試作品を電源に安全に接続できる。
実施例4の電子遮断装置は、電源や負荷との接続手段を設けてあるから、工場、電気工事現場、学校、家庭等において手軽に安全に使用できる。
実施例4の電子遮断装置には、補助開閉回路、補助制御回路等を組み込むこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願発明の実施例1の電子遮断装置を示す。
【図2】図1の主開閉回路の動作を説明する図である。
【図3】本願発明の実施例2の電子遮断装置を示す。
【図4】本願発明の実施例3の電子遮断装置を示す。
【図5】本願発明の実施例4の電子遮断装置を示す。
【図6】従来の電子遮断装置を示す。
【符号の説明】
【0019】
21 交流電源
22,221,222 主開閉回路
23 負荷
24 主制御回路
25 補助制御回路
26 補助開閉回路
31 ケース
321,323 プラグ
322,324 コンセント
CT1,CT2,CT21,GT22 変流器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電路を開閉する主開閉回路、給電路の電流を検出する電流センサ、及び電流センサの検出電流を設定値と比較して前記主開閉回路の開閉を制御する主制御回路を備え、
前記主開閉回路は、2個のFET又はFETの複合素子を逆向きに直列に接続し、各FET又はFETの複合素子に、夫々ダイオードを逆極性となるように並列に接続し、2個のFET又はFETの複合素子のゲートは前記主制御回路に接続してあることを特徴とする電子遮断装置。
【請求項2】
給電路を開閉する主開閉回路、給電路の電流を検出する電流センサ、電流センサの検出電流を設定値と比較して前記主開閉回路の開閉を制御する主制御回路、前記主開閉回路と同じ構成の回路からなる補助開閉回路、及び負荷の両端の電圧を設定値と比較して前記補助開閉回路の開閉を制御する補助制御回路を備え、
前記主開閉回路は、2個のFET又はFETの複合素子を逆向きに直列に接続し、各FET又はFETの複合素子に、夫々ダイオードを逆極性となるように並列に接続し、2個のFET又はFETの複合素子のゲートは前記主制御回路に接続してあり、
前記補助開閉回路は、2個のFET又はFETの複合素子を逆向きに直列に接続し、各FET又はFETの複合素子に、夫々ダイオードを逆極性となるように並列に接続し、2個のFET又はFETの複合素子のゲートは前記補助制御回路に接続してあり、
前記補助開閉回路と抵抗を直列に接続した回路を負荷と並列に接続してあることを特徴とする電子遮断装置。
【請求項3】
給電路を開閉する主開閉回路、給電路の電流を検出する電流センサ、及び電流センサの検出電流を設定値と比較して前記主開閉回路の開閉を制御する主制御回路を、ケースに収容し、ケースには電源との接続手段及び負荷との接続手段を設けてあり、
前記主開閉回路は、2個のFET又はFETの複合素子を逆向きに直列に接続し、各FET又はFETの複合素子に、夫々ダイオードを逆極性となるように並列に接続し、2個のFET又はFETの複合素子のゲートは前記主制御回路に接続してあることを特徴とする電子遮断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−60275(P2006−60275A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237011(P2004−237011)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(592026473)株式会社昭和電業社 (6)
【Fターム(参考)】