説明

電子部品又は積層電子部品用シートの製造方法

【課題】 MLCCのような電子部品のシートを製造する場合に、シートアタックがなく、薄層で欠陥のない厚みの均一なシートを得る。
【解決手段】 電子部品用シートの製造方法において、セラミックス粉末又は金属粉末と、疎水性有機バインダと有機溶剤とを含むスラリーを準備する工程、得られたスラリーを水面上に供給し、水の表面張力によりスラリーを水面上に広げてスラリー中から有機溶剤を揮発させて水面にグリーンシートを形成する工程、を有することを特徴とする。また、積層電子部品用シートを製造する場合には、さらに、前記水面のグリーンシートを担体上に転写する工程、転写したグリーンシートを乾燥する工程、得られたシートを積層する工程、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
積層セラミックスコンデンサのような、粉末をシート状に成形して積層する電子部品の製造に最適な電子部品用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品を製造する場合、ドクターブレード法に代表されるように、PETフィルム上へセラミックススラリーを塗布する技術が広く用いられている。積層セラミックスコンデンサ(MLCC)では、そうして作製されたセラミックスグリーンシートに金属粉ペーストが印刷される。
【0003】
また、原子・分子レベルの薄膜作製法の中にラングミュア・ブロジェット法(LB法)という、水上に膜を形成する技術が広く知られている。
これは、親水基と疎水基をもった物質の性質を利用して疎水基に含まれた物質を分子スケールで水上に形成する手法である。
【0004】
このLB法を酸化チタン微粒子からなる薄膜を製造するのに応用する発明が公知である(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2002−225172号公報
【特許文献2】特開2002−241130号公報
【特許文献3】特開2003−321222号公報
【0005】
特許文献1〜3に記載された発明は、チタン化合物の粉末を出発原料とするものであるが、これをコロイド粒子とし、有機アンモニウム分子と錯形成することにより気水界面に単分子膜を形成するものであり、単分子膜を基板上に累積することによって多層積層膜を製造すること、焼成してセラミックスとすることも示されているが、膜厚がナノメートルレベルの薄膜(特許文献1の請求項4、特許文献2の請求項1、特許文献3の請求項3)であり、顔料、塗料、化粧品、樹脂への添加剤、光触媒、窓材、センサー材料等として応用される(各特許文献の段落[0001])ものであるから、粉末をシート状に成形してMLCC等の電子部品を製造する技術とは異なる。
【0006】
上記のようなLB法は現在のMLCC開発のトレンドである小型・大容量化には不向きである。薄膜と微粉末を並べたものでは物性が全く異なるためである。特に薄膜では誘電率が許容できないほど低下してしまうという問題がある。
したがって、MLCCのようにセラミックス微粉末を薄く並べたい場合には、それに適した新しい膜形成技術が求められている。
【0007】
一方、MLCC等の電子部品を製造する場合に、セラミックス原料粉末とバインダーを含むスラリーをスラリー槽内に入れ、スラリー槽内のスラリー中を通過したフィルムを垂直に引き上げてスラリーをフィルムに付着させることによりセラミックスグリーンシートを成形する引き上げ式のシート成形方法が公知である。(特許文献4参照)。
【特許文献4】特許第3381331号公報
【0008】
この引き上げ式のシート成形方法においては、シートの厚みがばらつきやすいので、その厚みを均一にするために、特許文献4に記載された発明は、「成形すべきスラリーが入れられる、軸方向に直交する方向の断面形状が略半円形で、円弧状の湾曲部が底面となる半円筒形状のスラリー槽に超音波振動を印加することにより、シート成形工程におけるスラリーの分散性を保持する」ものである。しかし、この発明では、付着厚みの制御がスラリー粘度に依存するので、薄いシートを得るためには、スラリー中のセラミック粉末の含有量を低下させなければならず、スラリー槽からの溶剤成分の常時揮発による環境負荷の増大があり、得られたシートの厚み制御および、シートの欠陥防止が困難であるという問題がある。
【0009】
また、「グリーンシート積層体におけるシート積層方向の外側をセラミック原料と溶媒とを少なくとも有する外装用塗料に浸漬し、その後に前記外装用塗料を乾燥させ、前記グリーンシート積層体の積層方向外側に塗料乾燥膜を形成する工程とを有する積層型電子部品の製造方法」の発明が公知である。(特許文献5参照)。
【特許文献5】特開2003−257780号公報
【0010】
特許文献5の方法も、塗膜の厚みの制御が、外装用塗料の粘度(スラリー粘度)に依存するので、薄い塗膜(シート)を得るためには、特許文献4に記載された発明と同様の問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
セラミックスシートの厚みが2μm前後まで薄くなると、様々な問題が発生する。
そのような薄いシートの形成が難しいこと、塗布後のハンドリングが難しいこと、電極印刷時のシートアタック(電極ペースト溶媒によるセラミックスシート侵食)などである。
シートを剥離せずにその上からセラミックススラリーを塗布していくスラリービルド方式においても、下側のセラミックスシートが後から供給されたスラリー中の溶剤で侵食される問題が発生する。
【0012】
本発明は、MLCCのような電子部品のシートを製造する場合に、上記のような従来技術の問題を解決しようとするものであり、シートアタックがなく、薄層で欠陥のない厚みの均一なシートを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明においては、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)セラミックス粉末又は金属粉末と、疎水性有機バインダと有機溶剤とを含むスラリ ーを準備する工程、得られたスラリーを水面上に供給し、水の表面張力によりスラ リーを水面上に広げてスラリー中から有機溶剤を揮発させて水面にグリーンシート を形成する工程、を有することを特徴とする電子部品用シートの製造方法である。
(2)電子部品がチタン酸バリウムを主成分とするセラミックス誘電体であることを特徴 とする前記(1)の電子部品用シートの製造方法である。
(3)セラミックス粉末又は金属粉末と、疎水性有機バインダと有機溶剤とを含むスラリ ーを準備する工程、得られたスラリーを水面上に供給し、水の表面張力によりスラ リーを水面上に広げてスラリー中から有機溶剤を揮発させて水面にグリーンシート を形成する工程、水面のグリーンシートを担体上に転写する工程、転写したグリー ンシートを乾燥する工程、得られたシートを積層する工程、を有することを特徴と する積層電子部品用シートの製造方法である。
(4)セラミックス粉末で構成されるシートと金属粉末で構成されるシートを交互に積層 することを特徴とする前記(3)の積層電子部品用シートの製造方法である。
(5)積層電子部品が積層セラミックコンデンサであることを特徴とする前記(4)の積 層電子部品用シートの製造方法である。
(6)セラミックス粉末で構成されるシートがチタン酸バリウムを主成分とする誘電体で あり、金属粉末で構成されるシートがニッケル又はニッケル合金からなる内部電極 であることを特徴とする前記(5)の積層電子部品用シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、非常に簡便に微粉末の薄層シートおよびそれらを積層させた電子部品を製造することができ、従来のスラリー塗布法(スラリービルド法を含む)ではなし得なかった、シートアタックのない薄層シート積層が可能となり、薄層シートを一枚ずつ剥離してハンドリングする必要がないという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては、上記LB法の手法を粉末で構成されるシートの作製に応用する(原理は異なる)。
粉末としてセラミックスを使用する場合には、セラミックス粉末を有機溶剤と疎水性有機バインダ中に分散させたスラリーを、別に用意した水槽の水面に供給する。スラリーは水の表面張力によって水上に広がり、セラミックス粉末を主体とするシートが形成される。これを担体に転写したのち乾燥することでセラミックスグリーンシートを得ることができる。
【0016】
原理は、粉末にまとわり着いた有機バインダが疎水性であるためバインダが水上に広がると粉末も薄く並べられ、シート状になることであり、LB膜のように分子構造を利用して疎水基を配列させるのとは原理が異なる。水上に広がったシート(膜)中の有機溶剤は急激な膜化による表面積増大により速やかに揮発する。
この方法は、原理的に無機物であれば粉末の種類を選ばないので、セラミックス粉末の代わりに金属粉末にも適用可能である。
【0017】
セラミックス粉末としては、焼成して積層セラミックスコンデンサの誘電体となる粉末を使用することができ、チタン酸バリウム、チタンジルコン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム等を主成分とする粉末が挙げられる。これらの成分は2種以上の混合物としてもよい。チタン酸バリウムを主成分とする粉末が好ましい。
【0018】
セラミックス粉末には主成分の外に粒成長抑制成分等の成分が少量含まれていてもよい。該粒成長抑制成分としては、アルカリ土類金属の化合物及び/又は希土類元素の化合物を使用することができる。アルカリ土類金属の化合物としては、例えばCa,Sr,Ba,Mgの酸化物を挙げることができ、希土類元素の化合物としては、Y,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Ybの酸化物を挙げることができる。
【0019】
金属粉末としては、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金等を使用することができる。特に、ニッケル又はニッケル合金が好ましく、ニッケル合金としては、マンガン、クロム、コバルト及びアルミニウムから選択される1種以上の元素とニッケルとの合金が挙げられる。
【0020】
疎水性有機バインダとしては、セラミックス粉末又は金属粉末を結合できるものであればよく、ポリビニルブチラール、エチルセルロース、アクリル樹脂等を使用することができる。この中ではポリビニルブチラールが好ましい。
【0021】
有機溶剤としては、揮発するもの又は水に溶けるものであればよい。揮発するものとしては、クロロホルム、アセトン、トルエン、ターピネオール等を使用することができ、水に溶けるのもととては、アルコール、ケトン、エステル等を使用することができる。この中では、アルコール(例えばエタノール)が好ましい。また、有機バインダとしてエチルセルロースを使用する場合はターピネオールが好ましい。
【0022】
水上に広がったシート(膜)は、膜面を通過して担体(基板)を垂直に上下させるという従来のLB法(特許文献1〜3参照)で採用されている垂直浸漬法を応用して、そのままの状態で担体上に転写することが可能である。
【0023】
担体は、その材質、大きさに制限はないが、PETフィルム、石英ガラス板、マイカ板、アルミナ板、金属蒸着基板等を使用することができる。特に、取扱い性の面からみてPETフィルムが好ましい。
【0024】
さらに、上記の方法を繰り返すことで積層が可能である。セラミックス粉末の代わりに金属粉末を用いることもできるので、セラミックスのシート(膜)と金属のシート(膜)を交互に積層することで積層セラミックスコンデンサなどの電子部品用グリーンシートを簡便に製造することができる。(図1)
【0025】
本発明によれば、形成した薄いシートを1枚ずつ剥離することなく積層できるので、直接薄層シートをハンドリングする必要がなくなる。積層を行って厚みができた膜は剥離もその後のハンドリングも容易である。上記のように、シート(膜)中の有機溶剤は急激な膜化による表面積増大により速やかに揮発し、こうして溶剤が抜けたシートを積むことになるため、金属粉末シートを積む際にも、薄層シートに電極を印刷する際に問題となるシートアタックが発生しない。
【0026】
このようにして製造された積層セラミックスグリーンシートは、常法に従い、個々のチップに切断され、外部電極を形成後に焼成するか、焼成後に外部電極を形成することにより、積層セラミックスコンデンサとすることができる。
【実施例1】
【0027】
セラミックス粉末として平均直径が約0.3μmのチタン酸バリウム(BaTiO3)を用いた。このBaTiO3:100gに有機溶剤としてエタノールを150g、有機バインダとしてポリビニルブチラールを5g、可塑剤としてジオクチルフタレートを1gの割合で混合してスラリー化した。
次に、このスラリーを、水槽の水面に供給した。これをPETフィルムに転写した。転写後のグリーンシートは僅かに残った溶剤分を除去するため、60℃の乾燥機中で5分間乾燥させた。
【0028】
こうして作製されたシートの断面を操作型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、層厚が約1.7μmのBaTiO3が密に充填したセラミックスシートが得られたことが確認された。
【0029】
この膜に対して上記一連の作業を繰り返し行ったところ、約1.7μm層厚のBaTiO3粒子膜が2層積み上げられていることが確認できた(図2)。この際、シートアタックは認められなかった。
【実施例2】
【0030】
セラミックスの代わりに金属を使用して同様の方法でグリーンシートを作製した。金属粉末としてNi粉を使用し、以下の方法で実際にNi膜(シート)を形成できることを確認した(図3)。
平均直径が約0.4μmのNi粉末100gに有機バインダとしてエチルセルロース10g、有機溶剤としてターピネオール30g、エタノール10g、可塑剤としてジオクチルフタレートを1gの割合で混合させスラリー化した。
次に、このスラリーを、水槽の水面に供給した。これをPETフィルムに転写した。転写後のグリーンシートは僅かに残った溶剤分を除去するため、60℃の乾燥機中で5分間乾燥させた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の方法を示す概略図である。
【図2】一層厚みのセラミックスシートとそれが積層されたシートを示す図である。
【図3】水上に形成されたNi膜とセラミックスシート状のNi膜を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉末又は金属粉末と、疎水性有機バインダと有機溶剤とを含むスラリーを準備する工程、
得られたスラリーを水面上に供給し、水の表面張力によりスラリーを水面上に広げてスラリー中から有機溶剤を揮発させて水面にグリーンシートを形成する工程、
を有することを特徴とする電子部品用シートの製造方法。
【請求項2】
電子部品がチタン酸バリウムを主成分とするセラミックス誘電体であることを特徴とする請求項1に記載の電子部品用シートの製造方法。
【請求項3】
セラミックス粉末又は金属粉末と、疎水性有機バインダと有機溶剤とを含むスラリーを準備する工程、
得られたスラリーを水面上に供給し、水の表面張力によりスラリーを水面上に広げてスラリー中から有機溶剤を揮発させて水面にグリーンシートを形成する工程、
水面のグリーンシートを担体上に転写する工程、
転写したグリーンシートを乾燥する工程、
得られたシートを積層する工程、
を有することを特徴とする積層電子部品用シートの製造方法。
【請求項4】
セラミックス粉末で構成されるシートと金属粉末で構成されるシートを交互に積層することを特徴とする請求項3に記載の積層電子部品用シートの製造方法。
【請求項5】
積層電子部品が積層セラミックスコンデンサであることを特徴とする請求項4に記載の積層電子部品用シートの製造方法。
【請求項6】
セラミックス粉末で構成されるシートがチタン酸バリウムを主成分とする誘電体であり、金属粉末で構成されるシートがニッケル又はニッケル合金からなる内部電極であることを特徴とする請求項5に記載の積層電子部品用シートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−168320(P2006−168320A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367800(P2004−367800)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】