説明

電極触媒及び酵素電極

【課題】電子伝達効率が高い酸化酵素からなる新規な電極触媒、及びこれを用いた酵素電極を提供すること。
【解決手段】CueOからなる電極触媒。カーボン多孔体と、前記カーボン多孔体の表面に担持されたCueOからなる電極触媒とを備えた酵素電極。CueOは、大腸菌由来CueOが好ましい。酵素電極を構成するカーボン多孔体は、カーボンゲルが好ましい。また、酵素電極は、前記カーボン多孔体−前記CueO間の電子の授受を促進するメディエータをさらに備えているのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒及び酵素電極に関し、さらに詳しくは、バイオセンサー、燃料電池などの各種電気化学デバイスの電極として用いられる酵素電極、及び酵素電極に用いられる電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は、生体内の化学反応(代謝)を進行させる生体触媒であり、タンパク質を基本構造とする。酵素は、タンパク質のみからなるものもあるが、その多くは、触媒活性を発現させ又は触媒活性を高めるために、タンパク質以外の成分(補因子)を必要とする。
酵素は、
(1)常温、常圧付近の穏和な条件で触媒作用を示し、
(2)特定の基質(酵素によって作用を受ける物質)にのみ作用する「基質特異性」と、特定の化学反応に対して触媒作用を示し、副反応を起こさない「反応特異性」とを併せ持つ、
という特徴がある。
酵素の中でも、生体内の酸化還元を触媒する酵素を「酸化還元酵素(オキシドレドクターゼ)」という。また、酸素を電子受容体として基質を酸化させる酵素を特に「酸化酵素(オキシダーゼ)」といい、基質を還元させる酵素を特に「還元酵素(レダクターゼ)」という。電極表面にある種の酸化還元酵素を固定すると、酵素の触媒作用によって電極上で特定の酸化還元反応のみが選択的に進行し、酸化還元反応による物質の変化を電極により電気信号に変換することができる。このような電極は「酵素電極」と呼ばれており、各種のバイオセンサー、燃料電池などの電極に利用されている。
【0003】
酵素を電極触媒として用いるためには、これを適当な担体表面に固定する必要がある。しかしながら、酵素は、一般に水溶性であるので、使用中に酵素が流出しやすいという問題がある。
また、酵素は、基質が特異的に結合し、触媒作用を受ける部位(活性中心)を持っている。活性中心は、複雑な立体構造を有するタンパク質の奥深いところに埋もれていることが多いので、電極との間で直接、電子の授受を行うのが難しい。このような場合には、通常、酵素の活性部位まで侵入し、酵素と電子の受け渡しを行い、電極まで電子を運ぶ低分子物質が併用される。このような低分子物質は、「メディエータ」と呼ばれている。しかしながら、酵素/メディエータ間の電子移動速度は、それぞれの分子運動に依存するため、必ずしも十分ではなく、酵素電極の電流密度を制限する要因となる可能性があった。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、炭素原子及び窒素原子により骨格が形成されている含窒素炭素系材料からなる多孔体と、多孔体に担持されている酸化還元酵素とを備えた含窒素炭素系複合材料が開示されている。
同文献には、
(1) 含窒素炭素系材料は細孔表面に極性点が点在するため、これに酸化還元酵素を担持させると、タンパク質表面の親水基との間で水素結合等の新たな結合が生じ、タンパク質と担体との結合が強められる点、及び、
(2) 担体に担持させる酸化還元酵素として、ラッカーゼ、ジアホラーゼ、リポキシアミドデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ(他の糖を基質とするオキシダーゼを含む)、グルコースデヒドロゲナーゼ(他の糖を基質にするデヒドロゲナーゼを含む)が挙げられる点、
が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、導電性部材と、酵素と、第1及び第2のメディエータとを有する酵素電極であって、第1のメディエータと第2のメディエータとが担体によって、導電性部材に固定化され、かつ第1のメディエータと第2のメディエータとは、互いに酸化還元電位が異なる酵素電極が開示されている。
同文献には、
(1) このような構成を採用することによって、導電性部材の実効表面積当たりの酵素担持密度を高くすることが可能となる点、
(2) 酵素との間で高速の電子移動を行うことが可能な第1のメディエータに加えて、第1のメディエータと導電性部材間の電荷輸送を行う第2のメディエータをさらに使用することによって、酵素と高速の電子移動を行うことが可能になる点、及び
(3) 酵素として、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、D−またはL−アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、チトクロムオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ,17Bヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、エストラジオール17Bデヒドロゲナーゼ、アミノ酸デヒドロゲナーゼ、グリセリルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ、3−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼ、NADH−チトクロムb5レダクターゼ、NADPH−アドレノキシンレダクターゼ、チトクロムb5レダクターゼ、アドレノドキシンレダクターゼ、硝酸レダクターゼが挙げられる点、
が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−343775号公報
【特許文献2】特開2006−058289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化還元酵素は、一般に、基質と結合する活性中心の他に、活性中心との間で電子の授受を行うための部位(電子伝達ゲート)を持っている。生体内における酵素への電子伝達は、通常、メディエータに仲介されてなされているので、酵素の電子伝達ゲートは、タンパク質のポケット内部に埋もれていることが多い。このような状態の酵素を電極表面に固定すると、電子伝達ゲートと電極表面の距離はどうしても大きくなる。電子移動速度の常用対数は、距離に比例して遅くなるため、従来知られている酵素では、高い電子伝達効率は得られない。
この問題を解決するために、特許文献2に開示されているように、メディエータを併用することも考えられる。しかしながら、メディエータを併用する方法のみでは、電子伝達効率の向上に限界がある。また、十分量の電流密度が得られる酵素電極に適した酵素が報告された例は、従来にはない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、電子伝達効率が高い酸化酵素からなる新規な電極触媒、及びこれを用いた酵素電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る電極触媒は、CueOからなる。
また、本発明に係る酵素電極は、カーボン多孔体と、前記カーボン多孔体の表面に担持されたCueOからなる電極触媒とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
マルチ銅酸化酵素の一種であるCueOを酵素電極用の触媒として用いると、従来の酸化還元酵素に比べて高い電流密度が得られる。
これは、以下の理由によると考えられる。
(1) CueOは、酸化反応を触媒する活性中心と、電子伝達ゲートが酵素分子中で分離しているために、電極固体表面に酵素を固定化しても触媒反応と電子伝達が同時に成し遂げられる。
(2) CueOは、電子伝達ゲートがより分子表面に存在しているので、固体表面に固定化された状態において電極との距離が小さくなり、電子移動の効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る電極触媒は、CueOからなる。
酸化還元酵素は、酸化還元反応を触媒する酵素であり、タンパク質の立体構造の中に活性中心と、電子伝達ゲートとを持つ。「活性中心」とは、基質が特異的に結合し、触媒作用を受ける部位をいう。「電子伝達ゲート」とは、活性中心との間で電子の授受を行うための部位をいう。
酸化還元酵素は、基質を酸化させる酸化酵素と、基質を還元させる還元酵素に大別される。いずれを電極触媒用酵素として使用するかは、電極の極性により異なる。すなわち、酵素を正極側の材料として用いる場合には、反応により電子を受け取ることができる(換言すれば、プロトンと酸素を基質として水を生成する反応を触媒することができる)酸化酵素を用いる。一方、酵素を負極側の材料として用いる場合には、反応により電子を放出する還元酵素を用いる。
【0012】
また、酸化還元酵素は、固有の三次元構造を有する巨大分子であり、活性中心や電子伝達ゲートは、通常、三次元構造の開口部(くぼみ、割れ目)の奥に埋もれた状態になっている。この場合、活性中心及び電子伝達ゲートは、同一の開口部にあるものでも良く、あるいは、異なる開口部にあるものでも良い。
これらの中でも、電子伝達ゲートを含む第1の開口部と、活性中心を含む第2の開口部を備えた酸化還元酵素は、酵素が基質を触媒する際に、基質の移動が電子の移動と干渉することがない。そのため、同一の開口部に活性中心及び電子伝達ゲートを含む酵素に比べて、酵素/電極間の電子伝達効率が向上する。
特に、電子伝達ゲートを含む第1の開口部が活性中心を含む第2の開口部の対面にある酸化還元酵素は、第1の開口部を電極表面に近接させることにより電極/電子伝達ゲート間の電子伝達を極めて円滑に行うことができる。そのため、酵素/電極間の電子伝達効率がさらに向上する。
ここで、「第1の開口部が第2の開口部の対面にある」とは、第1の開口部がある面の法線方向と第2の開口部がある面の法線方向とのなす角が90°より大きいことをいう。2つの法線のなす角は、大きい方が好ましく、180°に近いほど良い。
【0013】
酸化還元酵素の中でも、マルチ銅酸化酵素は、基質から取り出した電子を用いて分子状酸素を4電子還元し、水を生成する反応を触媒する。マルチ銅酸化酵素は、電子伝達ゲートとなる単核ブルー銅(タイプICu)と、活性中心となる三核銅クラスター(タイプIICu、タイプIIICu)があり、単核ブルー銅と三核銅クラスターは、それぞれ、異なる開口部の内部にある。しかも、2つの開口部は、それぞれ、タンパク質で形作られる立体構造の表面及び裏面にある。そのため、マルチ銅酸化酵素又はこれを遺伝子操作により改変した改変型酵素は、バイオセンサー、燃料電池等の各種電気化学デバイスに用いられる酵素電極の正極用の触媒として特に好適である。
マルチ銅酸化酵素としては、具体的には、ラッカーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、セルロプラスミン、CueO、バシラス属細菌の内生胞子コートタンパク質CotAなどがある。これらの中でも、CueO(特に、大腸菌の銅代謝関連オキシダーゼCueO(大腸菌由来CueO))は、これを酵素電極用の電極触媒として用いたときに、従来の酸化還元酵素に比べて高い電流密度が得られる。
【0014】
「CueO」とは、種々の菌株から採取されるマルチ銅酸化酵素の一種をいう。また、「大腸菌由来CueO」とは、大腸菌から採取されるCueOをいう。配列表の配列番号1に、天然型成熟CueOのアミノ酸配列(swissprot accession:Q8X947)を示す。
CueOは、菌株から直接採取された天然型CueOでも良く、あるいは、触媒活性及び電子伝達能を消失させない範囲において、遺伝子操作により天然型CueOのアミノ酸配列の一部を変更、削除等した改変型CueOであっても良い。
【0015】
次に、本発明に係る酵素電極について説明する。
本発明に係る酵素電極は、カーボン多孔体と、カーボン多孔体の表面に担持されたCueOからなる電極触媒とを備えている。CueOは、特に大腸菌由来CueOが好ましい。これらの内、CueO及び大腸菌由来CueOについては、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0016】
酵素を担持する担体には、カーボン多孔体を用いる。カーボン多孔体は、酵素/電極間の電子伝達を円滑に行うことができるだけでなく、細孔径が適切である場合には酵素を細孔内に物理的に担持でき、しかも酵素の失活を抑制できるので、担体として特に好適である。
【0017】
担持成分である酵素の安定性及び活性を十分に向上させるためには、カーボン多孔体は、以下の[1.]〜[4.]のいずれか1以上の条件を備えているものが好ましい。
[1. 平均細孔径]
カーボン多孔体は、平均細孔径が2〜50nmであるものが好ましい。平均細孔径は、さらに好ましくは、2〜20nmである。平均細孔径が2nm未満では、細孔の大きさが酵素の大きさよりも小さくなることが多くなり、吸着性が低下する。一方、平均細孔径が50nmを超えると、比表面積の低下を招き、吸着性が低下する。また、平均細孔径が20nmを超えると、一部の酵素を担持する際に不都合が生じやすくなるおそれがある。
また、カーボン多孔体の平均細孔径は、酵素の分子径以上が好ましい。平均細孔径は、さらに好ましくは、酵素の分子径の1〜1.25倍程度である。カーボン多孔体の平均細孔径が前述の範囲にあると、酵素が細孔内に固定されやすくなる。酵素が細孔内に固定されると、熱による酵素の構造変化を細孔外壁が抑制するので、熱による酵素の失活を抑制することができ、熱的安定性が向上する。
なお、平均細孔径とは、後述する窒素吸着等温線から求められる細孔径分布において、分布ピークトップの細孔径値をいう。
【0018】
[2. 細孔径分布]
カーボン多孔体は、細孔径分布領域が2〜100nmの範囲における全細孔容積を基準として、平均細孔径の±25%の範囲における細孔容量が60%以上であるものが好ましい。細孔径の均一性がこれより悪いと、酵素の担持に最適な細孔径以外の細孔が多くなり、酵素の安定性及び活性が不十分となるおそれがある。
【0019】
[3. 比表面積]
カーボン多孔体は、比表面積が100m2/g以上であるものが好ましい。比表面積は、さらに好ましくは、500〜1000m2/gである。カーボン多孔体の比表面積が100m2/g未満の場合には、酵素との接触面積の低下及び酵素を取り込む細孔の減少が生じ、酵素の吸着性が低下する。
【0020】
[4. 細孔容量]
カーボン多孔体の細孔容量は、比表面積及び平均細孔径によっても変動するため特に限定されないが、0.1〜50ml/gが好ましい。細孔容量は、さらに好ましくは、0.2〜2.5ml/gである。
また、カーボン多孔体の細孔の内、酵素の分子径以上の細孔径を有する細孔の全容量は、担持された酵素の全体積以上が好ましい。
【0021】
なお、カーボン多孔体の比表面積及び細孔容量は、以下に述べる一般的な容量法測定により求めることができる。
すなわち、カーボン多孔体を容器に入れて液体窒素温度(−198℃)に冷却し、容器内に窒素ガスを導入して容量法によりその吸着量を求める。次いで、導入する窒素ガスの圧力を除々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットして窒素吸脱着等温線を得る。この窒素吸脱着等温線を用いて、SPE(Subtracting Pore Effect)法により比表面積及び細孔容量を算出することができる(K.Kaneko, C.Ishii, M.Ruike, H.Kuwabara, Carbon 30, 1075, 1986)。SPE法とは、αs−プロット法、t−プロット法等によってミクロ細孔解析を行い、ミクロ細孔の強いポテンシャル場の効果を取り除いて比表面積等を算出する方法であり、ミクロ細孔性多孔体の比表面積等の算出においてBET法よりも精度の高い方法である。
また、細孔径分布及び分布ピークトップの細孔径値は、得られた窒素吸脱着等温線からBJH解析により求めることができる(Barret E.P., Joyner L.G., Halenda P.H., Journal of American Chemical Society 73, 373, 1951)。
【0022】
上述のような条件を満たすカーボン多孔体としては、具体的には、以下のようなものがある。
[1. メソポーラスカーボン粒子]
カーボン多孔体の第1の具体例は、メソポーラスカーボン粒子である。「メソポーラスカーボン粒子」とは、メソサイズ(2〜10nm)の細孔が規則配列した多孔質カーボン材料であって、2〜100nmの細孔径分布領域における全細孔容積(S0)に対する、2〜10nmの細孔径分布領域における全細孔容積(S)の割合(=S×100/S0)が80%以上であるものをいう。なお、このような細孔径分布は、XRD法及び窒素吸着法により測定することができる。
【0023】
[2. カーボンゲル]
カーボン多孔体の第2の具体例は、カーボンゲルである。「カーボンゲル」とは、メソサイズの細孔が不規則配列した多孔質カーボン材料であって、以下の(イ)及び(ロ)の条件を満たすものをいう。
(イ) スキャン領域2θ=0.5〜10°(CuKα線)においてX線回折ピークが認められない。
(ロ) 吸脱着等温線から計算された細孔径分布において、
分布ピークトップの細孔径値(d)が2nm以上10nm未満の範囲に存在する場合には、前記細孔径値(d)に対してd±2nmの細孔径領域に全細孔容量の60%以上が含まれており、
分布ピークトップの細孔径値(D)が10nm以上50nm以下の範囲に存在する場合には、前記細孔径値(D)に対して(0.75×D)〜(1.25×D)nmの細孔径領域に全細孔容量の60%以上が含まれる。
【0024】
条件(イ)は、メソ細孔の規則配列の有無を表す。X線回折ピークは、そのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。従って、スキャン領域2θ=0.5〜10°(CuKα線)において1本以上のピークが認められるカーボン多孔体は、細孔が0.9〜17.7nmの周期で規則配列している、いわゆるメソポーラスカーボン(MPC)である。
一方、カーボンゲルは、スキャン領域2θ=0.5〜10°(CuKα線)においてX線回折ピークが認められない。これは、カーボンゲル中の細孔が周期的配列構造を有していないことを示している。カーボンゲルは、細孔が相互に連結した3次元的ネットワーク構造を有している。カーボンゲルを担体として用いると、その理由の詳細は不明であるが、メソポーラスカーボンを用いた場合に比べて、酵素の安定性及び活性が向上する。
【0025】
なお、X線回折測定(XRD)において、バックグラウンドノイズ強度に対するピーク強度の比が3未満のものは、X線回折ピークと認めない。すなわち、「スキャン領域2θ=0.5〜10°(CuKα線)においてX線回折ピークが認められない」とは、スキャン領域2θ=0.5〜10°(CuKα線)において、バックグラウンドノイズ強度に対するピーク強度の比が3以上のX線回折ピークが1本も観測されないことをいう。
【0026】
条件(ロ)は、細孔径の均一性を表す。細孔分布が上述の範囲にあると、酵素の担持に最適な細孔径を持つ細孔の量が多くなるので、酵素の安定性及び活性が向上する。
【0027】
カーボンゲルは、上述の(イ)及び(ロ)に加えて、以下の(ハ)の条件をさらに備えているものが好ましい。
(ハ) カーボンゲルは、その細孔径分布において、分布ピークトップの細孔径値が2〜20nmであるものが好ましい。
カーボンゲルの細孔径値が2nm未満では、細孔の大きさが酵素の大きさよりも小さくなることが多いので、吸着性が低下する。一方、細孔径値が50nmを超えると、比表面積の低下を招き、吸着性が低下する。また、分布ピークトップの細孔径値が20nmを超えると、酵素を担持する際に不都合が生じるおそれがある。
【0028】
[3. 含窒素カーボンゲル]
カーボン多孔体の第3の具体例は、含窒素カーボンゲルである。「含窒素カーボンゲル」とは、その少なくとも表面近傍が含窒素炭素からなるカーボンゲルをいう。また、「表面」とは、外表面だけでなく、細孔の内表面も含まれる。表面近傍が含窒素炭素からなるカーボンゲルは、酵素の担持量、安定性及び活性が向上するという利点がある。
【0029】
含窒素カーボンゲル中のN原子とC原子との原子比(N/C比)は、0.01以上が好ましい。N/C比が0.01未満の場合、N原子が減少し、酵素と相互作用することが可能な吸着サイトが少なくなる。N/C比は、さらに好ましくは、0.05以上である。
一方、N/C比は、0.4以下が好ましい。N/C比が0.4を超えると、炭素骨格の強度が低下し、細孔構造を維持するのが困難となる。N/C比は、さらに好ましくは、0.3以下である。
なお、このような含窒素炭素におけるN/C比は、CHN元素分析又はXPSによって求めることができる。また、含窒素カーボンゲルに関するその他の点は、カーボンゲルと同様であるので、説明を省略する。
【0030】
電極触媒である酵素は、担体の表面に担持される。「担体の表面」とは、担体の外表面及び細孔の内表面をいう。酵素の少なくとも一部は、細孔の内表面に担持されているのが好ましい。細孔内に担持される酵素の量は、多いほどよい。
担体に担持される酵素の量は、酵素活性が示されれば特に制限はない。一般に、酵素の担持量が多くなるほど高い活性が得られる。実用上十分な活性を得るためには、酵素の担持量は、カーボン多孔体100質量部に対して0.01質量部以上が好ましい。一方、酵素の担持量が過剰になると、効果が飽和し、実益がない。従って、酵素の担持量は、カーボン多孔体100質量部に対して80質量部以下が好ましい。
【0031】
本発明に係る酵素電極は、上述した担体及び酵素のみからなるものでも良く、あるいは、担体にさらに、カーボン多孔体−酵素間の電子の授受を促進するメディエータが担持されていても良い。担体表面にさらにメディエータを担持させると、より効率的な電子伝導が期待される。
メディエータとしては、具体的には、ABTS、WCNをはじめとする金属シアン化物、Os錯体等がある。これらのメディエータは、電極表面に固定化されていることが望ましく、このためにポリ−1−ビニルイミダゾールのようなポリマに結合し、不溶化して用いることが望ましい。さらにまた、メディエータを直接カーボン担体上に固定化しても良い。これらのメディエータは、単独で用いても良く、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0032】
なお、本発明に係る酵素電極は、担体がシート状であるときには、電子伝導性の担体表面に酵素(及び、必要に応じてメディエータ)を担持させた状態のまま使用することができる。一方、担体が粉末状であるときには、酵素を担持した担体をさらに適当な金属電極(例えば、Pt電極)表面に固定して使用することもできる。
【0033】
次に、担体に用いられるカーボン多孔体の製造方法について説明する。カーボン多孔体の内、メソポーラスカーボン、カーボンゲル、及び含窒素カーボンゲルは、以下のような方法により製造することができる。
[1. メソポーラスカーボンの製造方法]
メソポーラスカーボン粒子の製造方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法により製造することができる。すなわち、メソ孔が規則配列したシリカ、チタニア等の多孔質粒子(鋳型)に対して、ショ糖、フルフリルアルコール等の有機分子を吸着、含浸させた後、不活性雰囲気下で炭素化する。その後、フッ酸や、NaOH/EtOH等により鋳型を溶解、除去すると、メソポーラスカーボン粒子が得られる。鋳型としては、例えば、シリカメソ多孔体MCM−48を使用することができる。
【0034】
[2. カーボンゲルの製造方法]
カーボンゲルの製造方法は特に限定されず、例えば、以下のような方法により製造することができる。
すなわち、まず、文献(R.W.Pekala, C.T.Alviso, F.M.Kong, and S.S.Hulsey, J.Non-cryst.Solids, vol.145, p.90(1992)参照)に記載の方法に準じて有機ゲルを合成する。すなわち、レゾルシノール等のフェノール樹脂とホルムアルデヒド等のアルデヒド類をアルカリ触媒又は酸触媒の存在下で反応させ、熟成させてフェノール樹脂からなる有機ゲルを得る。次に、得られた有機ゲルを乾燥させた後、不活性雰囲気下で焼成して炭素化させることにより、カーボンゲルを得ることができる。
【0035】
[3. 含窒素カーボンゲルの製造方法]
含窒素カーボンゲルを製造する方法は特に限定されず、例えば、以下のような方法により製造することができる。
(A) 一酸化窒素を用いてカーボンゲルにN原子を導入する方法。
カーボンゲルへのN原子の導入は、例えば、文献(P.Chambrion et al., Energy & Fuels vol.11, p.681-685(1997))に記載の方法に準じて実施することが可能である。すなわち、石英反応管中にカーボンゲルを配置し、ヘリウム気流下で950℃程度に加熱する。その後、ヘリウムで希釈されたNO(濃度1000ppm程度)を反応管へ導入し、600〜900℃程度の反応温度で反応させる。この反応に要する反応時間は特に限定されないが、反応時間を延長すれば炭素骨格中に取り込まれる窒素の量は増加する。
【0036】
(B) 熱CVD法によりカーボンゲル表面に含窒素炭素を析出させる方法。
この方法は、カーボンゲルの細孔内に含窒素有機化合物を導入し、その含窒素有機化合物を熱分解させることによってカーボンゲル表面に含窒素炭素を析出させる方法である。すなわち、まず、反応管にカーボンゲルを設置し、窒素、アルゴン等の不活性ガスを反応管に導入しながら所定の温度まで加熱する。次に、加熱状態を維持したまま、気体状態の含窒素有機化合物を反応管内に導入することによって、カーボンゲルの細孔内に含窒素有機化合物を導入させながら、所定時間のCVD反応を行う。これによって、カーボンゲルの細孔内にC原子及びN原子により骨格が形成されている含窒素炭素を析出させることができる。熱CVD法による析出工程は、反応雰囲気が酸化雰囲気である場合にはCの燃焼が起こるため、通常、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気で行われる。
【0037】
ここで用いられる含窒素有機化合物としては、N原子を含む有機化合物であれば特に制限はなく、例えば、含窒素複素環式化合物、アミン類、イミン類、ニトリル類等が挙げられる。含窒素複素環式化合物としては、含窒素複素単環化合物及び含窒素縮合複素環化合物が挙げられる。
含窒素単環化合物としては、5員環化合物であるピロール及びその誘導体、ピラゾールやイミダゾール等のジアゾール類及びその誘導体、並びに、6員環化合物であるピリジン及びその誘導体、ピリダジンやピリミジンやピラジン等のジアジン類及びその誘導体、トリアジン類及び、メラミンやシアヌル酸等のトリアジン類誘導体等が挙げられる。
また、含窒素縮合複素環化合物としては、キノリン、フェナントロリン、プリン等が挙げられる。
【0038】
アミン類としては、第1級〜第3級アミン、ジアミン類、トリアミン類、ポリアミン類、及びアミノ化合物等が挙げられる。
第1級〜第3級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン及びトリメチルアミン等の脂肪族アミン、並びに、アニリン等の芳香族アミン及びその誘導体等が挙げられる。
アミノ化合物としては、エタノールアミン等のアミノアルコール等が挙げられる。
イミン類としては、ピロリジン及びエチルイミン等が挙げられる。
ニトリル類としては、アセトニトリル等の脂肪族ニトリル及びベンゾニトリル等の芳香族ニトリル等が挙げられる。
その他の含窒素有機化合物としては、ナイロン等のポリアミド類、ガラクトサミン等のアミノ糖、ポリアクリロニトリル糖の含窒素高分子化合物、アミノ酸及びポリイミド類等が挙げられる。
【0039】
熱CVD法による析出工程において、含窒素有機化合物が常温で液体状態である場合には、バブラ、マスフローポンプ等を用い、蒸気蒸発によって含窒素有機化合物を気体状態として反応管内に導入することができる。また、このときに窒素、アルゴン等をキャリアガスとして用いて気体状態の含窒素有機化合物の導入を行うことが好ましい。さらに、一度反応管内を流通させた気体が反応管の出口側から逆流しないように、反応管出口側に流動パラフィン等を入れたバブラを設置する等して逆流を防ぐことが好ましい。
含窒素有機化合物が常温で固体状態である場合には、加熱蒸発(昇華)器を反応管入口側に設置し、加熱によって含窒素有機化合物を気体状態として反応管へ導入することができる。また、このときの蒸発器の温度は、含窒素有機化合物が熱分解しない温度に調整する必要がある。
【0040】
含窒素有機化合物が重合性を有する場合には、予めカーボンゲルの細孔内で重合させておき、その後、反応管中、不活性雰囲気下で熱分解する方法をとることもできる。
さらに、含窒素有機化合物が加熱によって気化しないものである場合には、溶液吸着法や蒸発乾固法等によって、カーボンゲルの細孔内に予め含窒素有機化合物を導入し、これを不活性雰囲気下で熱分解することによって、カーボンゲルの細孔内に含窒素炭素を析出させることができる。
【0041】
熱CVD法による析出工程における反応温度は、含窒素有機化合物が熱分解及び炭素化する温度であれば特に限定されないが、300〜1000℃が好ましい。反応温度は、さらに好ましくは、500〜700℃である。反応温度が300℃未満の場合には、含窒素有機化合物の熱分解が起こりにくくなるため、含窒素炭素の析出速度が遅くなってしまい、反応時間及びエネルギー消費が大きくなる傾向がある。一方、反応温度が1000℃を超える場合には、炭素骨格中に炭素が残留し難いため、N/C比が低下する。
【0042】
析出工程において、カーボンゲルの細孔内に析出させる含窒素炭素の析出量は、特に制限されないが、カーボンゲル1g当たりの比表面積をYm2とした場合、(0.0001×Y)g以上であることが好ましい。含窒素炭素の析出量が(0.0001×Y)g未満の場合には、析出量が少ないため、N原子による吸着性の向上が得られなくなるおそれがある。
【0043】
析出量は、CVD反応時間と相関関係があり、CVD反応時間を調整することによって析出量を制御することができる。さらに、析出量は、CVD反応温度、カーボンゲルの種類、含窒素有機化合物の種類、及び含窒素有機化合物を導入する際の流量等によっても変化するが、それぞれの場合でCVD反応時間を適宜調整することによって析出量を調整することができる。
【0044】
次に、本発明に係る酵素電極の製造方法について説明する。
まず、カーボン多孔体の表面に酵素を担持させる。酵素の担持方法は、特に限定されるものではなく、昇華法、含浸法等の種々の方法を用いることができるが、含浸法が好適である。
【0045】
含浸法による酵素の担持は、以下のように行う。すなわち、まず、酵素を沈殿が生じない濃度(好ましくは、0.1〜1000mg/ml)となるように水又は緩衝液に溶解させる。そして、その溶液が凍結することなく、また酵素が変性することのない温度(好ましくは、0〜50℃)で粉末状の担体を懸濁させ、又はシート状の担体を浸漬し、酵素と担体を接触させる。接触時間は、少なくとも5分以上が好ましく、さらに好ましくは、30分以上である。これにより担体の表面又は細孔内に酵素が固定される。
溶液中に担体を懸濁させる際の濃度は特に制限されないが、0.1〜1000mg/ml程度とすることが好ましい。また、担持工程の後に、さらに遠心分離等を行って担体を溶液と分離して取り出す工程を有していても良い。あるいは、乾燥等を行って液体成分を除去しても良い。
【0046】
担体にメディエータを担持させる方法は、担体に酵素を担持させる方法と同様の方法を用いることができる。また、担体に酵素と電子移動媒体とを同時に担持させても良い。
【0047】
次に、本発明に係る電極触媒及び酵素電極の作用について説明する。
図1に、マルチ銅酸化酵素の一種である大腸菌由来CueOの分子構造を示す(Sue A.Roberts et al., PNAS, vol.99(2002), 2766-2771)。図1に示すように、CueOは、タンパク質の立体構造の中に、電子伝達ゲートとして機能する単核ブルー銅(タイプICu)と、活性中心となる三核銅クラスター(タイプIICu、タイプIIICu)があり、単核ブルー銅と三核銅クラスターは、それぞれ、異なる開口部の内部にある(片岡 邦重、生化学、第77巻(2005年)、第148頁〜第153頁)。また、2つの開口部は、それぞれ、タンパク質で形作られる立体構造の表面及び裏面にある。さらに、天然型CueOは、単核ブルー銅の上部がへリックス5と呼ばれるらせん状分子で覆われている。
【0048】
このようなCueOを酵素電極用の電極触媒として用いると、従来の酸化還元酵素に比べて高い電流密度が得られる。
その理由の詳細は不明であるが、以下の理由によると考えられる。
(1) CueOは、酸化反応を触媒する活性中心と、電子伝達ゲートが酵素分子中で分離しているために、電極固体表面に酵素を固定化しても触媒反応と電子伝達が同時に成し遂げられる。
(2) CueOは、電子伝達ゲートがより分子表面に存在しているので、固体表面に固定化された状態において電極との距離が小さくなり、電子移動の効率が向上する。
【0049】
また、CueOを担体に固定する場合において、所定の細孔径、細孔分布及び比表面積を有するカーボン多孔体を用いると、高い電流密度が得られる。
これは、
(1) 酵素の大半をカーボン多孔体の細孔内に固定することができるので、担体/酵素間の電子の移動が容易になるため、及び、
(2) 細孔壁によってタンパク質の立体構造の変化が抑制されるので、熱による失活が軽減され、熱的安定性が向上するため、
と考えられる。
また、カーボン多孔体としてカーボンゲルを用いると、高い電子伝達効率が得られる。これは、酵素の担持に適した細孔を多量に有していること、細孔が相互に連結した3次元的ネットワークを形成していること等によると考えられる。
さらに、カーボン多孔体として含窒素カーボンゲルを用いると、長期間に渡って高い電子伝達効率を維持することができる。これは、カーボンゲルに窒素を導入することによって細孔内壁に極性基が導入され、タンパク質表面の親水基との間に水素結合等の新たな結合が生じるためと考えられる。
【実施例】
【0050】
(実施例1、比較例1、2)
[1. 試験方法]
大腸菌由来CueO(実施例1)、ウルシ由来ラッカーゼ(比較例1)、又は、Myrotheciumu sp.由来ビリルビンオキシダーゼ(BOD)(比較例2)をリン酸緩衝液(0.05M、pH7.0)に溶解し、8μMの酵素溶液を調製した。
あらかじめ酸素を飽和させておいた上記酵素溶液を用いて、HOPG(highly orientede pyrolytic graphite)電極を作用極としてサイクリックボルタムグラム法(電位:−50〜650mV、掃引速度:20mV/sec)により、酵素と電極間の直接電子移動特性を評価した。対極には白金電極を、参照極には銀/塩化銀電極を用いた。
【0051】
[2. 結果]
図2に、サイクリックボルタムグラムを示す。図2より、ラッカーゼ(比較例1)及びBOD(比較例2)の静止状態における0Vの酸化電流密度は、−500μA/cm2以下であるのに対し、大腸菌由来CueOの静止状態における0Vの酸化電流密度は、約−2000μA/cm2であることがわかる。
【0052】
(実施例2、3、比較例3、4)
[1. カーボンゲルの作製]
レゾルシノール5.5g(和光純薬)及び炭酸ナトリウム26.5mg(和光純薬)を蒸留水16.9gに溶解させ、その後37%ホルムアルデヒド溶液8.1g(和光純薬)を加えて攪拌混合した。混合溶液は、薄黄色透明となった。なお、各成分のモル比は、レゾルシノール:炭酸ナトリウム:ホルムアルデヒド=200:1:400である。
次に、得られた原液に水を加えて、体積比で2倍に希釈した。希釈した溶液をバイアル瓶に入れて密栓し、室温で24時間、50℃で24時間、さらに90℃で72時間静置し、水和された有機ゲルを得た。
【0053】
次に、有機ゲル中の水分を除去するために、交換溶媒であるアセトン(和光純薬)中に有機ゲルを浸漬した。有機ゲルをアセトン中に浸漬すると、有機ゲル中の水分がアセトン中に拡散し、ゲル中の水分をアセトンに置換することができる。水分の拡散が飽和したところで、アセトンを新品に交換する操作を数回繰り返し、ゲル中の水分を完全にアセトンに置換した。次いで、浸漬溶媒をn−ペンタン(和光純薬)に変更し、有機ゲル中のアセトンがn−ペンタンに完全に入れ替わるまで、溶媒交換−浸漬を繰り返した。さらに、n−ペンタンに溶媒置換された有機ゲルを風乾させ、乾燥有機ゲルを得た。
得られた乾燥有機ゲルを窒素気流下(流量300ml/min)、1000℃で加熱し、有機ゲルを炭化させた。加熱時間は、6時間とした。
【0054】
[2. 酵素電極の作製]
5%PDVF(Polyviniylidine Difluoride)を含有するNMP(N-Methyl-pyrrolidone)溶液に6.7%量のカーボンゲル(実施例2)あるいはケッチェンブラック(実施例3)を懸濁したスラリーを調製し、直径6mmのグラッシーカーボン電極(BAS社製、型番:002012)表面に上記スラリーを添加、スピンコート(3000rpm)してカーボン担体を電極表面にコートした。得られたカーボン修飾電極を大腸菌由来CueO水溶液(12.5mg/ml)に4℃で1晩浸漬することにより、酵素をカーボン修飾電極に固定化した。
また、同様の手順に従い、ウルシ由来ラッカーゼをカーボンゲル(比較例3)あるいはケッチェンブラック(比較例4)修飾電極に固定した。
【0055】
[3. 試験方法]
[2.]で得られた各種酵素電極を作用電極として、サイクリックボルタムグラム法(電位:200〜500mVの間で電流掃引、掃引速度20mV/sec)により電極の電気特性を評価した。対極には、白金を用い、参照極には、銀/塩化銀電極を用いた。電解質には、酸素を飽和させた50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を用いた。さらに、電気特性の評価は、電解液及び酵素電極の双方を静止させた状態で行った。
【0056】
[4. 結果]
図3に、サイクリックボルタムグラムを示す。図3より、ケッチェンブラックに比べ、カーボンゲルでは、ラッカーゼ、CueO共に電流量が増加することがわかる。特に、CueO/CGの組み合わせでは、200mVでの電流密度は、ラッカーゼ/KBに比べて約7倍に増加した。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る電極触媒は、バイオセンサー、燃料電池等の各種電気化学デバイス、太陽電池等の電極触媒として使用することができる。
また、本発明に係る酵素電極は、バイオセンサー、燃料電池等の各種電気化学デバイス、太陽電池等の電極として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】マルチ銅酸化酵素の一種である大腸菌由来CueOの分子構造である。
【図2】各種マルチ銅酸化酵素を含む酵素溶液のサイクリックボルタムグラムである。
【図3】各種カーボン担体に担持された各種マルチ銅酸化酵素を含む酵素電極のサイクリックボルタムグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CueOからなる電極触媒。
【請求項2】
前記CueOは、大腸菌由来CueOである請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
カーボン多孔体と、
前記カーボン多孔体の表面に担持されたCueOからなる電極触媒と
を備えた酵素電極。
【請求項4】
前記CueOは、大腸菌由来CueOである請求項3に記載の酵素電極。
【請求項5】
前記カーボン多孔体は、以下の(イ)及び(ロ)の条件を満たすカーボンゲルである請求項3又は4に記載の酵素電極。
(イ)スキャン領域2θ=0.5〜10°(CuKα線)においてX線回折ピークが認められない。
(ロ)吸脱着等温線から計算された細孔径分布において、
分布ピークトップの細孔径値(d)が2nm以上10nm未満の範囲に存在する場合には、前記細孔径値(d)に対してd±2nmの細孔径領域に全細孔容量の60%以上が含まれており、
分布ピークトップの細孔径値(D)が10nm以上50nm以下の範囲に存在する場合には、前記細孔径値(D)に対して(0.75×D)〜(1.25×D)nmの細孔径領域に全細孔容量の60%以上が含まれる。
【請求項6】
前記カーボン多孔体−前記CueO間の電子の授受を促進するメディエータをさらに備えた請求項3から5までのいずれかに記載の酵素電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−64514(P2008−64514A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240867(P2006−240867)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】