説明

電極部材およびこれを用いた半導体装置

【課題】最高到達温度が高く、温度変化量が大きくなっても、信頼性の高い半導体装置を得ることを目的とする。
【解決手段】帯状の第1の金属板6MCの一端6E1側から所定長さの領域に第2の金属板6MBが張り合わされた帯状材6を、第2の金属板6MBが張り合わされた領域6FBよりも他端6E2側の部分を折り曲げて第1の金属板6MCが第2の金属板6MBの外側に位置するU字形状となし、U字形状の外側となった面において、一端6E1側に半導体素子3との接合面6t1が、他端6E2側に配線部材4との接合面6t2が設けられ、第1の金属板6MCの線膨張係数は、半導体素子3の線膨張係数よりも配線部材4の線膨張係数に近く、第2の金属板6MBが張り合わされた領域6FBにおける帯状材6の線膨張係数は、配線部材4の線膨張係数よりも半導体素子3の線膨張係数に近い、ように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の構成のうちの、半導体素子と配線部材との電気接続をおこなうための電極部材の構造に関し、とくに大電流を扱う電力用半導体装置に適した構成に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の中でも電力用半導体装置は、鉄道車両、ハイブリッドカー、電気自動車等の車両、家電機器、産業用機械等において、比較的大きな電力を制御、整流するために利用されている。従って、電力用半導体装置に使用される半導体素子は100A/cmを超える高い電流密度で通電することが求められる。そのため、近年はシリコン(Si)に代わる半導体材料としてワイドバンドギャップ半導体材料である炭化珪素(SiC)が注目されており、SiCからなる半導体素子は500A/cmを超える電流密度での動作が可能である。また、SiCは150℃〜300℃の高温状態でも安定動作が可能であり、高電流密度動作と高温動作の両立が可能な半導体材料として期待されている。
【0003】
一方、電力用を含め半導体装置では、半導体素子の下面の電極面を絶縁基板上の回路パターンにはんだ接合し、上面の電極面にアルミニウムのワイヤを超音波接合して半導体素子の給電経路を形成することが一般的に行われてきた。しかし、アルミニウムの線膨張係数は22ppm/K程度であり、半導体素子として使用されるSiやSiCなどの線膨張係数が3〜5ppm/Kと較べて大きく異なるので、繰り返しの温度変化に伴う熱応力によって、ワイヤ内部に亀裂が進展し、やがて破断に到ることが知られている。これは、パワーサイクル試験と呼ばれる断続的なパルス電流負荷を与えることで破断に対する耐久性を評価することが出来ることから、以降パワーサイクル寿命と称することにする。
【0004】
パワーサイクル寿命は、熱応力に起因した亀裂に関する現象であることから、半導体素子の温度変化量に大きく依存する。また、半導体素子の最高到達温度が高くなるとパワーサイクル寿命は短い傾向となる。上述したように、ワイドバンドギャップ半導体においては、高温での動作が期待されるため、Siデバイスと比較すると、高い最高到達温度と大きな温度変化量に耐えうる配線構造が必須となる。これは、たとえば従来のSi半導体に対して最高到達温度を125℃、温度変化量を80Kと設定して設けられた配線構造を、ワイドバンドギャップ半導体における動作条件である最高到達温度が175℃、温度変化量が130Kの条件で使用すると、パワーサイクル寿命が1/10以下まで低下することになる。つまり、電力用半導体装置においてワイドバンドギャップ半導体の機能を発揮できるような厳しい温度条件に対しては、従来のSi半導体に対して用いられてきたアルミニウムワイヤの超音波接合のような配線構造では十分な寿命を得ることができなかった。
【0005】
そこで、ワイヤに代わって平板状のリード部材と半導体素子との接合部に半導体素子の線膨張係数に近い緩衝板を挿入し、熱サイクル時の接合部に生じる熱応力を緩和する半導体装置が提案されている(例えば、特許文献1または特許文献2参照。)。また、ワイヤを接合するための電極を弾性率の低い導電性樹脂を介して半導体素子上に配置し、半導体素子と電極間にかかる熱応力を緩和するようにしたパワー半導体モジュールが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−163045号公報(段落0034、図2)
【特許文献2】特開2000−332067号公報(段落0007、0012〜0014、図1)
【特許文献3】特開平11−163045号公報(段落0018〜0019、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、緩衝部材の線膨張係数を半導体素子に近づければ、半導体素子と緩衝部材と接合部の繰り返し熱応力に対する寿命は長くなるが、緩衝部材とリード部材との熱応力を抑制することは困難となる。逆に、緩衝部材の線膨張係数をリード部材に近づけるとリード部材接合部の繰り返し熱応力寿命は長くなるが、半導体素子と緩衝部材との熱応力を抑制することは困難となる。つまり、パワーサイクル寿命を最適化するには、このトレードオフ関係から両者の寿命がほぼ等しくなる点を選ぶ必要がある。これはすなわち、パワーサイクル寿命が線膨張係数のトレードオフによって限界点を持っていることを意味している。このような状況にあっては、ワイドバンドギャップ半導体における高温動作で必要な、10倍以上のパワーサイクル性能を得ることは不可能であった。また、弾性率の低い導電性樹脂を挿入する場合、樹脂は高温で劣化しやすいので信頼性が低下するとともに、金属部材と比較して抵抗が高いために電力ロスが発生して効率が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、最高到達温度が高く、温度変化量が大きくなっても、信頼性の高い半導体装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電極部材は、半導体素子と配線部材とを電気接続するための電極部材であって、帯状の第1の金属板の長さ方向における一端側から所定長さの領域に第2の金属板が張り合わされた帯状材を、前記第2の金属板が張り合わされた領域よりも他端側の部分を折り曲げて前記第1の金属板が前記第2の金属板の外側に位置するU字形状となし、前記U字形状の外側となった面において、前記一端側から折り曲げ部分までの所定長さの領域に前記半導体素子との接合面が、前記他端側から前記折り曲げ部分までの所定長さの領域に前記配線部材との接合面が設けられ、前記第1の金属板の線膨張係数は、前記半導体素子の線膨張係数よりも前記配線部材の線膨張係数に近く、前記第2の金属板が張り合わされた領域における前記帯状材の線膨張係数は、前記配線部材の線膨張係数よりも前記半導体素子の線膨張係数に近い、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極部材によれば、半導体素子との接合面は半導体素子の線膨張係数に近く、配線部材との接合面は配線部材の線膨張係数に近いとともに、電極部材内の積層構造界面を通過することなく両接合面間に電流が流れるようにしたので、最高到達温度が高く、温度変化量が大きくなっても、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置および電極部材の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる電極部材を用いて電力用半導体装置を製造する方法を説明するための部分断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる電極部材の第1の変形例の構成を説明するための断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる電極部材の第2の変形例の構成および製造方法を説明するための断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる電極部材の第3の変形例の構成を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態2にかかる電極部材の構成を説明するための断面図である。
【図7】本発明の実施の形態3にかかる電極部材の構成を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1と図2は、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置用電極部材および電力用半導体装置を説明するためのもので、図1は電力用半導体装置のうちの半導体装置用電極部材(以下電極部材と称する)が接合された半導体素子と、電極部材を介して半導体素子と接続された1本のボンディングワイヤ部分を示しており、図1(a)は上面図、図1(b)は図1(a)のA−A線による断面を、図1(c)は電極部材を成型する前のクラッド材の状態を示す断面図である。また、図2は本実施の形態1にかかる電力用半導体装置の製造方法として、電極部材に対してワイヤを接合する方法を説明するための図である。また、図3〜図5は、本実施の形態の変形例にかかる電極部材の構成を示す断面図である。はじめに、電力用半導体装置および電極部材の構成と動作について説明する。
【0013】
電力用半導体装置10は、図1に示すように、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナなどのセラミックス材料からなる絶縁基板1の回路面1f上に図示しないろう材などで接合された回路パターン2が配置されている。回路パターンは銅、アルミニウムなどの導電性材料またはそれらを主成分とする合金材料からなる。さらに、回路パターン2の表面は、酸化防止やはんだ材料の濡れ性を考慮して、ニッケルなどのめっき被膜が形成されている。また、図示しないが絶縁基板1の回路面1fの反対側の面(図では2rが形成されている面)には放熱板が形成されていても良い。
【0014】
図1では、回路パターン2a上にはんだ5bを介して半導体素子3が接続されている。半導体素子3は、シリコンウエハを基材とした一般的な素子でも良いが、本発明においては炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)、またはダイヤモンドといったシリコンと較べてバンドギャップが広い、いわゆるワイドバンドギャップ半導体材料への適用を目的としており、特に炭化ケイ素を用いた半導体素子に適用される。デバイス種類としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect-Transistor)のようなスイッチング素子、またはダイオードのような整流素子である。MOSFETの場合、半導体素子3の回路パターン2側の面にはドレイン電極が形成されている。そして、ドレイン電極と反対側(図で上側)の面には、ゲート電極やソース電極が、領域を分けて形成されているが、本発明の実施の形態の特徴を分かりやすくするため、上側の面には、大電流が流れるソース電極のみに着目して説明する。なお、ドレイン電極の表面にははんだ5aとの接合を良好とするための複合金属膜が形成されている。ソース電極の表面にも、図示しない厚さ数μmの薄いアルミニウムなどの電極膜やチタン、モリブデン、ニッケル、金などの薄膜層が形成されている。そして、半導体素子3の上側の面には、はんだ5aを介して電極部材6の第1の接合面6t1が接合されている。なお、はんだ5aおよびはんだ5bは、例えば銀を主成分とする焼結性フィラーやろう材といった、はんだに分類されない接合材料であっても良い。
【0015】
電極部材6は、線膨張係数の異なる少なくとも2種類の金属板を張り合わせて一体化したものであり、2種類のうち、一方の種類の金属板6MCは、半導体素子3よりもボンディングワイヤ4に線膨張係数が近い材料で、銅または銅を主成分とする良導電性材料である。もう一方の種類の金属板6MBは、ボンディングワイヤ4よりも半導体素子3に線膨張係数が近く、あるいは、半導体素子3よりも線膨張係数が低い材料で、モリブデン、ないしモリブデンを含有する合金、またはインバー合金などのいわゆる、低熱膨張材である。
【0016】
電極部材6は、図1(c)に示すように、金属板6MCと金属板6MBからなる2層のクラッド材で、しかも、一端6E1側のみに金属板6MBが積層されたサイドレイクラッド材6Bを金属板6MC側が外側になるようにU字形状(またはコの字形状)に折り曲げ加工したものである。そして、電極部材6のうち、クラッド材の一端6E1側の線膨張係数の低い金属板6MBが一体化されている領域6FBにおけるU字形状の外側面である第1の接合面6t1の線膨張係数は、金属板6MBの影響により、金属板6MC自体の線膨張係数よりも半導体素子3の線膨張係数に近く、半導体素子3の線膨張係数と同程度にまで小さくなっている。つまり、電極部材6のうち、金属板6MBが一体化されている領域6FB部分は、半導体素子3に対するいわゆる緩衝部材として機能する。一方、クラッド材の他端6E2側の線膨張係数の低い金属板6MBが一体化されていない部分、別の言い方をすると良導電性の金属板6MCのみの部分におけるU字形状の外側面である第2の接合面6t2の線膨張係数は、金属板6MCの線膨張係数、つまり、ボンディングワイヤやリード部材といった配線部材と同程度の線膨張係数になり、配線部材に対する緩衝部材として機能する。
【0017】
そして、電極部材6の他端6E2側の接合面6t2と絶縁基板1上の他の回路パターン2b上とを橋架するように、アルミニウムないし銅のワイヤ4が接合され、半導体素子3のソース電極を図示しない外部回路に電気的に接続することができる。ワイヤ4は通常、電流容量を確保するため、複数本を並べて配置する。図示されていないが、ワイヤ4のループ形状の大きさを変えて、多数のワイヤを配置することも一般的に行われる。また、ワイヤに限らず、板状もしくはリボン状のリード部材を用いてもよい。
【0018】
いずれの構成においても、たとえば、電極部材6に50アンペアの電流を通電する場合、金属板6MC部分に幅4mm、厚み0.3mmの銅板を用いれば、断面積は1.2mmとなって、通電による発熱に対しても十分な電流容量を確保出来る。
【0019】
つぎに動作について説明する。
電力用半導体装置10を駆動させると、半導体素子3をはじめとする電力用半導体装置10内の様々な素子に電流が流れ、その際、電気抵抗分の電力ロスが熱へと変換され、発熱が生ずる。このとき、電流は時間的に大きく変化するので、発熱および熱伝導にともなう温度分布は定常的なものではなく過渡的であり、半導体素子3が最高到達温度に達している時間も短時間である。そのため、本実施の形態1にかかる電極部材6のようにワイヤ4と接合面6t2との接合部が、発熱原である半導体素子3の表面から離した構成では、半導体素子3からの熱伝導に遅れが生じ、ワイヤ4と接合面6t2との接合部の温度上昇が抑制される。このため、半導体素子の直上にワイヤ等の配線部材を接合する場合や、半導体素子上に接合された緩衝部材上に配線部材を接合する場合に較べてワイヤとの接合部の温度変化量および最高到達温度が抑制され、熱応力を低減できる。
【0020】
また、半導体素子3に接合される接合面6t1の線膨張係数は、低熱膨張材6MBと良導電材6MCの厚みの比率を変えることで制御でき、たとえば、金属板6MBが一体化されている部分6FBの線膨張係数を半導体素子3の線膨張係数に近づけ、使用温度範囲内で両者の線膨張係数差が5ppm/Kを下回るようにすると、はんだの接合面に平行な方向のせん断応力が著しく低下し、接合面に平行に進展する亀裂が発生しにくくなる。その場合は、パワーサイクル負荷によってはんだが厚み方向に亀裂を生じることがあるが、厚み方向の亀裂は接合面方向と異なり、電気抵抗と熱伝導に対する影響が小さくて済む。すなわち、半導体素子の固定、通電、放熱の各機能が損なわれる割合が少ないため、最高到達温度が高く、温度変化量の大きなパワーサイクル負荷にも耐えることが可能になる。
【0021】
さらに、本発明の特徴的な構成は、電極部材6のうち、低熱膨張材6MBが一体化されていない端部6E2側にワイヤ用の接合面6t2を設けた点である。以下詳細に説明する。良導電材6MCに銅を用い、酸化防止のためニッケルめっきを施して一般的なアルミワイヤを接合させると、両者の線膨張係数差は8ppm/Kを下回る。この場合の応力低減は、半導体素子3上に直接ワイヤを接合する場合に比べて40倍以上のパワーサイクル寿命を実現することが出来る。さらに、半導体素子3に対して直接超音波接合を行うのではないため、超音波エネルギーが半導体素子3に伝播することによる素子破壊現象を考慮する必要がない。したがって、超音波エネルギーの大きさを素子破壊が生じない上限値よりも大きくすることで、ワイヤを大きく変形させ、ワイヤ接合面積を拡大することが出来ることから、さらにパワーサイクル寿命を向上させることが出来る。
【0022】
このことは、接合時に大きな超音波エネルギーを必要とする太いワイヤの適用が可能になることを意味しており、たとえば従来、ゲート配線を有する電極面に対して適用に困難があった直径500μm以上のアルミワイヤについても十分な超音波エネルギーを用いて接合し、大電流通電を行うことが出来る。同様に、大きな超音波エネルギーを必要とする幅2mm以上、厚み200μm以上のアルミリボンを接合することも可能になる。リボン材料はアルミのほか、銅や銅とアルミのクラッド材を用いてもよい。さらに、銅製の電極部材に対して銅製のワイヤを用いれば、ワイヤ接合部は同一素材で構成できるので、劣化がほとんど生じない接合体を構成することができる。
【0023】
つぎに、本実施の形態1にかかる半導体装置10の製造方法について図2を用いて説明する。本実施の形態1にかかる電力用半導体装置10のアセンブリ工程においてポイントとなるのは、半導体素子(半導体チップ)3上に設けた電極部材6に対するワイヤ接合工程である。絶縁基板1の回路パターン2と半導体素子3、半導体素子3と電極部材6との接合には、上述したように、はんだないし銀接着剤、銀焼結体などを用いることが出来る。接合材料は、接合箇所によって変えてもよいし、同じでもよい。また、ワイヤ以外のすべての接合を同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。
【0024】
半導体素子3に電極部材6の接合が完了した後、ワイヤ4の接合を行う。通常、ワイヤ接合には超音波接合が用いられており、ワイヤ接合部はワイヤボンダツールの超音波振動によって位置がずれたりしないことが必要である。本実施の形態1に示す電極部材6のうち、板材の厚みが0.5mmを超えている場合は、そのまま超音波接合が可能である。一方、例えば、半導体素子3との間のはんだ5aに対する熱応力を低減するため、あるいは電流量が少ない等の理由で、電極部材6の厚みを0.5mm以下とする場合は、超音波接合を行うには強度が不十分である。その場合は、図2に示すようなバキュームチャックテーブル7を接合面6t2の裏面6t2Rに挿入し、ワイヤ接合面6t2の裏面6t2R側から電極部材6を真空吸引して電極部材6の固定を行う。さらに固定を確実にするため、ワイヤ接合面6t2の端に押さえ爪8を用いて電極部材6を押さえつけ、バキュームチャックテーブル7と挟み込んで固定することが有効である。ワイヤ接合強度が十分であるなら、機構を簡略化するためバキュームチャックテーブル7の真空吸引機能を省いてもよい。ワイヤ接合は超音波接合を用いたワイヤボンダで行い、接合完了後にバキュームチャックテーブル7と押さえ爪8は外される。
【0025】
ワイヤ4接合後、電極部材6のワイヤ接合面6t2が設置された端部6E2は片側支持状態で不安定であるが、通常、半導体装置10全体を耐熱性の樹脂でモールドするため、ワイヤ接合面下の空間は樹脂で埋められて、振動を受ける環境においてもワイヤを安定に支持することが出来る。
【0026】
実施の形態1の変形例1.
なお、図1に示す実施の形態1では電極部材6として2層のサイドレイクラッド材6Bを用いた例を示したが、バイメタルの応力を防止するため、図3にように厚み方向において対称となるように三層構成をとるようにしてもよい。図3(a)は一端側16E1において厚み方向の中間部に低熱膨張材16MBを挿入して3層クラッドを構成した板材16Bの断面を示し、図3(b)は板材16Bを良導電部材16MCが外側になるように(本変形例1ではどちら側に曲げても外側になるが)U字形状に折り曲げた電極部材16の断面を示す。本変形例1では、低膨張部材16MBの影響により、第1の接合面16t1が設けられた緩衝部分16FBの線膨張係数はワイヤよりも半導体素子の線膨張係数に近くなっているが、線膨張係数の同じ部材が板材16Bの厚み方向の対称な位置に配置されるようになっているので、接合面16t1側と裏面16t1R側に働く力が均等となり、いわゆるバイメタルのような反りの発生が抑制される。
【0027】
なお、本変形例1においては、部分クラッド(インレイクラッド)の板材16Bを示しているが、実施の形態1に示したようなサイドレイクラッド材の2枚を低膨張材側が向き合うように重ねて一体化して形成するようにしてもよい。
【0028】
実施の形態1の変形例2.
また、上記実施の形態1や変形例1においては、部分クラッド材を用いることで、一端側と他端側で線膨張係数が異なるようにしたが、本変形例では板材の厚み方向の構成が板材の面の延在方向において一様なクラッド材、いわゆるオーバーレイクラッド材を用いて電極部材を構成した例について示す。図4は、本変形例2にかかる電極部材および電極部材の形成方法を説明するための図であり、図4(a)は板材の断面を、図4(b)はエッチング加工した板材の断面を、図4(c)は電極部材の断面を示す。図において、板材26Bは、低膨張部材26MBを厚み方向の両側から良導電部材26MC1、26MC2で挟み込むようにして一体化し、面の延在方向で材質が一様な3層クラッド材である。このクラッド材26Bに対し、図4(a)に示すように、他端26E2側の曲線E−Eに相当する部分をエッチングにより除去し、3層のうちの、一方の良導電部材16MC1のみを残すようにする。そして、図4(b)に示すように、良導電部材16MC1側が外側になるようにエッチング後の板材26BEをU字形状に折り曲げると、図4(c)に示すような電極部材26が形成できる。
【0029】
この場合、流通量が多く、各層の接合信頼性の高いオーバーレイクラッド材を用いることができるので、緩衝部分26FBの線膨張係数のばらつきが少なく、設計通りの線膨張係数を容易に得ることができるので、半導体装置10に用いた時に品質が安定する。
【0030】
実施の形態1の変形例3.
また、本実施の形態にかかる電極部材では、半導体素子との接合面が設けられた部分と配線部材との接合面が設けられた部分とが離れているので、配線部材との接合面の形状が半導体素子の形状の制約を受けなくなる。そのため、配線部材との接合面の大きさを半導体素子の大きさよりも大きくすることができる。図5は、本変形例3にかかる電極部材および電極部材の形成方法を説明するための図であり、図5(a)は板材の平面を、図5(b)は板材を曲げ加工する際の側面を、図5(c)は加工後の電極部材の平面を示す。図において、板材36Bは、低膨張部材36MBが一体化され、第1の接合面36t1が設けられる一端部36E1側の幅は、接合対象の半導体素子の電極面に合わせているが、第2の接合面36t2が設けられる他端36E2側の幅は、一端部36E1側の幅より広くなり、接合面36t2の広さは、半導体素子の電極面よりも大きくなっている。
【0031】
本変形例3のように、第2の接合面36t2の大きさを半導体素子の大きさよりも大きくしたので、従来のように、半導体素子の面積で制約を受けていたワイヤ本数を第2の接合面36t2の大きさに対応して増やすことが可能になる。このため、半導体素子に流す電流に対してワイヤ1本あたりの電流量が低減し、ワイヤの通電による発熱を低減し、ワイヤの最高温度を低下させることで、パワーサイクル寿命を改善することが可能となる。このことは、パワーサイクル寿命の第2のファクターであるワイヤの通電/非通電サイクルでのループ変形による疲労破壊の寿命を延ばすことにもつながる。
【0032】
なお、第2の接合面36t2が設けられる他端36E2側の大きさは、幅だけでなく、長さ方向に張り出してもよく、張り出す方向が一方に偏っていてもよい。
【0033】
<線膨張係数の調整例>
なお、上記実施の形態や変形例において、半導体素子3に接合される接合面6t1の線膨張係数をクラッド材の低熱膨張材6MBと良導電材6MCの厚みの比率を変えることで制御する例をあげる。たとえば、図3に示す変形例1のようにインバー合金(厚みT)を銅(厚みT)で挟んだ3層構造の電極部材の厚み比率TC1:T:TC2を1:3:1に設定すると、3層構造部分16FBにおける板材としての線膨張係数はおよそ7ppm/Kとなる。
【0034】
また、ワイヤとの接合面となる第2の接合面は半導体素子との接合面となる第1の接合面に対して垂直にする、例えば電極部材をL字形状のような折り曲げ形状にすれば電極部材として機能させることは不可能ではないが、ワイヤが絶縁基板1に設けられた回路パターンの面延在方向にある接合部に接続することを考慮すると、電極面と平行な面となることが好ましい。ただし、完全に平行である必要はなく、垂直よりは平行に近い、いわゆるU字形状に形成すればよい。この場合、ワイヤボンダ、リボンボンダは一般的な装置をベースに改良を加えればよいため、コスト上昇を抑制することが出来る。また、U字形状において、半導体素子3との接合面である第1の接合面6t1の裏側の面6t1Rと、配線部材4との接合面である第2の接合面6t2の裏側の面6t2Rとの間には、所定間隔の隙間があることがワイヤボンディング時の半導体素子への影響を防止する点で望ましい。しかし、隙間がない場合でも、接合後のパワーサイクル寿命延長効果はあるので、隙間がない程度に折り曲げてもよい。
【0035】
以上のように、本発明の実施の形態1にかかる電極部材6(16、26、36、46)によれば、半導体素子3と配線部材4とを電気接続するための電極部材であって、帯状の第1の金属板6MCの長さ方向における一端6E1側から所定長さの領域に第2の金属板6MBが張り合わされた帯状材6を、第2の金属板6MBが張り合わされた領域6FBよりも他端6E2側の部分を折り曲げて第1の金属板6MCが第2の金属板6MBの外側に位置するU字形状となし、U字形状の外側となった面において、一端6E1側から折り曲げ部分6までの所定長さの領域に半導体素子3との接合面6t1が、他端6E2側から折り曲げ部分6までの所定長さの領域に配線部材4との接合面6t2が設けられ、第1の金属板6MCの線膨張係数は、半導体素子3の線膨張係数よりも配線部材4の線膨張係数に近く、第2の金属板6MBが張り合わされた領域6FBにおける帯状材6の線膨張係数は、配線部材4の線膨張係数よりも半導体素子3の線膨張係数に近い、ように構成したので、半導体素子3との接合面6t1は半導体素子3の線膨張係数に近く、配線部材4との接合面6t2は配線部材4の線膨張係数に近くなるので最高到達温度が高く、温度変化量が大きくなっても、パワーサイクル寿命が飛躍的に伸び、しかも、第1の金属板6MCが全長にわたって接合面6t1と接合面6t2が形成された外側に露出しているので、帯状材中の異種金属の接合界面である積層構造の接合面を通ることなく、両接合面間に電流が流れるようにしたので、接合界面での熱応力による導電性が変化しても影響を受けることがなく、高効率で信頼性の高い半導体装置を得ることができる。また、第2の金属板6MBが張り合わされた領域は、折り曲げられていないので、第1の金属板6MCと第2の金属板6MBとの界面に曲げ加工時の応力がかかることがなく、接合強度を保つことができる。
【0036】
とくに、帯状材16Bの第2の金属板16MBが張り合わされた領域16FBでは、第1の金属板16MC1と同じ線膨張係数の第3の金属板16MC2が、第2の金属板16MBの上に張り合わされているようにしたので、温度変化の際にバイメタルのように反りかえることがなく、安定した接合を維持できる。
【0037】
さらに、帯状材6Bにおける半導体素子3との接合面6t1の裏側の面6t1Rと、配線部材4との接合面6t2の裏側の面6t2Rとの間に所定間隔の隙間があるようにしたので、第2の接合面6t2が半導体素子3の接合面と同じ方向を向くことになり、電極部材6の有無にかかわらず同じワイヤボンダで、または特別な接合方法を用いなくても同様の接合方法で配線部材を接合することができる。また、ワイヤボンディング時の超音波振動が半導体素子3に直接伝わることがなく、半導体素子への影響を最小限にして強力なボンディングが可能となる。
【0038】
さらに、帯状材36Bの他端36E2側の幅WE2が、一端36E1側の幅WE1よりも広いようにしたので、半導体素子の電極面の大きさの制約を受けずにワイヤ等の配線部材の本数を増やしたり、リード材の大きさを大きくしたりして、配線部材での電流密度を減少させ、発熱を抑制し、より寿命を向上させることができる。
【0039】
第1の金属板6MCを、ワイヤボンドやリード材といった配線部材の主構成材と同じ、例えば、アルミニウムや銅で構成すると、第2の接合面6t2と配線部材4とは同じ材料で接合されることになり、熱応力の影響を極力減らすことができる強固な接合が得られる。
【0040】
実施の形態2.
本実施の形態2にかかる電極部材においては、実施の形態1にかかる電極部材のU字形状の内側に形成される空間を樹脂で充填したものである。半導体装置10内への適用といった他の構成部分については、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0041】
図6は本実施の形態2にかかる電極部材216の断面を示すもので、電極部材のU字形状をなす部分は、実施の形態1の変形例1にかかる電極部材16と同じである。そして、電極部材216のU字形状の内側の空間である第1の接合面216t1の裏面216t1Rと第2の接合面216t2の裏面216t2R間の空隙にフィラー9を充填した樹脂ペレット9を挿入することを特徴としている。樹脂ペレット9は、金属粒子ないしは樹脂製粒子やシリカなどのセラミックス粒子をフィラー9として含有する。樹脂9は耐熱性エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂を用いればよく、ワイヤ接合面216t2下の空間に挿入可能な形状のペレットとして成型する。樹脂はあらかじめ半硬化状態として、ワイヤ接合面下に挿入後、加圧、加温して裏面216t1Rと裏面216t2Rに対して接着(完全硬化)をおこなう。このとき、フィラー9の存在と、加圧前に半硬化させておいた効果により、ペレット9自体の変形が抑制され、ほぼ接着前の形状を維持することが出来る。接着の際の加圧力はペレット9が押しつぶされない範囲に適宜調整されることは言うまでもない。また、図では電極部材216のU字形状内の空間のうち、コーナー部216に接する半円形部分に樹脂9が充填されていないが、この半円形部分の空間が充填されていても良い。
【0042】
このようにして図6に示すような電極部材216の構成が完成するが、この工程は半導体素子3に対して電極部材216を接合する工程の前であっても後であってもよい。後になる場合は、樹脂9が半導体素子3と電極部材216とのはんだ接合の際の高温プロセス(はんだ溶融のための加熱)を経ても接着を維持する材料であることが必要となる。
【0043】
この実施の形態2にかかる電極部材216を用いれば、ワイヤボンド時にはワイヤ接合面216t2が設置された他端部216E2が樹脂9によって固定されることから、電極部材216の板材が薄い場合でも、バキュームチャックテーブルや押さえ爪を用いる必要がない。ワイヤボンドに必要なワイヤ接合面216t2の平坦性と水平性は、樹脂ペレット9を挿入した後の接着工程において加圧機構の調整により必要な公差を確保すればよい。
【0044】
なお、本実施の形態2にかかる電極部材216の構成では、動作による高温での保持と、パワーサイクル負荷とによって樹脂9が劣化し、樹脂9と電極部材216の内側の面(216t1R、216t2R)との接着面で剥離が進行することがある。しかしながら、この樹脂9はワイヤボンド時の固定を目的としており、半導体装置10全体は、モールド樹脂によって固定されて移動することがないため、それ以降に剥離が生じても、半導体装置10内の電気接続の信頼性には影響を及ぼさない。したがって、実施の形態1と同様にワイヤ接合部のパワーサイクル寿命を延ばす効果を得ることが出来る。
【0045】
以上のように、本発明の実施の形態2にかかる電極部材216によれば、半導体素子3との接合面216t1の裏側の面216t1Rと、配線部材4との接合面216t2の裏側の面216t2Rとの隙間に樹脂ペレット9が充填されているように構成したので、ワイヤボンド時に、他端部216E2が樹脂9によって固定されるので、電極部材216の板材が薄い場合でも、バキュームチャックテーブルや押さえ爪を用いる必要がなく、特別な接合法を用いずに容易に接合できる。
【0046】
実施の形態3.
本実施の形態3にかかる電極部材においては、実施の形態2にかかる電極部材においてU字形状の内側に形成される空間へ充填していた樹脂に代えて、はんだ材料を充填したものである。半導体装置10内への適用といった他の構成部分については、実施の形態1や2と同様であるので説明を省略する。
【0047】
図7は本実施の形態3にかかる電極部材316の断面を示すもので、電極部材のU字形状をなす部分も、実施の形態2と同様に、実施の形態1の変形例1にかかる電極部材16と同じ部材である。そして、電極部材316のU字形状の内側の空間である第1の接合面316t1の裏面316t1Rと第2の接合面316t2の裏面316t2R間の空隙にはんだ材料15を充填したことを特徴としている。はんだ材料15は図1で説明した回路パターン2aと半導体素子3との接合、および半導体素子3と電極部材6との接合に用いたはんだ5と同じ材料であっても違うものであってもよいが、半導体装置10の使用時に溶融しないことが必要である。ワイヤ4を接合する前にあらかじめ、ワイヤ接合面下に供給されて加熱、溶融し、裏面316t1Rと裏面316t2Rに対して接合する。このとき、はんだ15との接合面となる裏面316t1Rと裏面316t2R、または、U字形状の内側全体に適宜図示しないニッケルメッキなどを施すことは言うまでもない。
【0048】
上記加熱、溶融時にはんだ15が接合すべき領域に留まって両接合面216t1Rと216t2Rに接触するには、はんだ15の表面張力によって上下の接合面の間に滞留する効果を用いる必要があり、効果を確実に得るために、ワイヤ接合面下の空間の高さHを1.0mm以下にすることが望ましい。また、はんだ15の冷却時の収縮により、ワイヤ接合面316t2が変形するのを防ぐため、良導電部材316MCに銅を使用する場合、他端部316E2における厚みとして0.3mm以上を確保する必要があり、好ましくは0.5mm以上を用いる。また、図では電極部材316のU字形状内の空間のうち、コーナー部316に接する半円形部分にはんだ15が充填されていないが、この半円形部分の空間が充填されていても良い。
【0049】
この構成を用いることにより、ワイヤボンド時にはワイヤ接合面316t2が設置された他端部316E2がはんだ15によって固定されることから、バキュームチャックテーブルや押さえ爪を用いる必要がない。なお、パワーサイクル負荷によりはんだ15内部に亀裂が進展したり、接合界面で剥離が生じたりするが、電極部材316に求められる電流経路は良導電部材316MC部分であるので、電気特性に及ぼす影響は少ない。また、はんだ材料は亀裂進展の他、クリープ現象を生じることもあるが、半導体素子接合部への影響は小さい。また、はんだ15の線膨張係数はアルミニウムに近いため、実施の形態1と同様にワイヤ接合部のパワーサイクル寿命を延ばす効果を得ることが出来る。
【0050】
以上のように、本発明の実施の形態3にかかる電極部材によれば、半導体素子3との接合面316t1の裏側の面316t1Rと、配線部材4との接合面316t2の裏側の面316t2Rとの隙間にはんだ15が充填されているように構成したので、ワイヤボンド時に、他端部316E2がはんだ15によって固定されるので、電極部材316の板材が薄い場合でも、バキュームチャックテーブルや押さえ爪を用いる必要がなく、特別な接合法を用いずに容易に接合できる。
【0051】
なお、上記各実施の形態においては、スイッチング素子(トランジスタ)や整流素子(ダイオード)として機能する半導体素子3には、炭化ケイ素によって形成されたものを示したが、これに限られることはなく、一般的に用いられているケイ素(Si)で形成されたものであってもよい。しかし、ケイ素よりもバンドギャップが大きい、いわゆるワイドギャップ半導体を形成できる炭化ケイ素や、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドを用いた時の方が、以下に述べるように本発明による効果をより一層発揮することができる。
【0052】
ワイドバンドギャップ半導体によって形成されたスイッチング素子や整流素子(各実施の形態における半導体素子3)は、ケイ素で形成された素子よりも電力損失が低いため、スイッチング素子や整流素子における高効率化が可能であり、ひいては、電力用半導体装置10の高効率化が可能となる。さらに、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、スイッチング素子や整流素子の小型化が可能であり、これら小型化されたスイッチング素子や整流素子を用いることにより、電力用半導体装置10も小型化が可能となる。また耐熱性が高いので、高温動作が可能であり、ヒートシンクの放熱フィンの小型化や、水冷部の空冷化も可能となるので、電力用半導体装置10の一層の小型化が可能になる。
【0053】
一方、上記のように高温動作する場合は停止・駆動時の温度差が大きくなり、さらに、高効率・小型化によって、単位体積当たりに扱う電流量が大きくなる。そのため経時的な温度変化や空間的な温度勾配が大きくなり、半導体素子と配線部材との熱応力も大きくなる可能性がある。しかし、本発明のように電極部材の半導体素子との接合面が配置された一端側は半導体素子の方に線膨張係数が近く、ワイヤのような配線部材との接合面が配置された他端側は配線部材の方に線膨張係数が近いので、各接合部での熱応力が緩和されるので、ワイドバンドギャップ半導体の特性を活かして、小型化や高効率化を進めてもパワーサイクル寿命が長く、信頼性の高い電力用半導体装置10を得ることが容易となる。つまり、本発明による効果を発揮することで、ワイドバンドギャップ半導体の特性を活かすことができるようになる。
【0054】
なお、スイッチング素子及び整流素子の両方がワイドバンドギャップ半導体によって形成されていても、いずれか一方の素子がワイドバンドギャップ半導体によって形成されていてもよい。また、ワイヤやリードといった配線部材も異なる材料を使ってもよい。その場合、素子や配線部材の種類や材料に応じて、つまり、半導体素子と配線部材の線膨張係数に応じて一端側と他端側の線膨張係数を変えるようにすれば、よりパワーサイクル寿命を向上させることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 絶縁基板(1f 回路面)、 2 回路パターン(2a,2b)、 3 半導体素子、 4 ワイヤ(配線部材)、 5,15 はんだ(5a,5b)、
6 電極部材(6B 帯状材)、 7 バキュームチャックテーブル、 8 押さえ爪、 9 充填樹脂、 10 電力用半導体装置 。
添え字 FB:第2の金属板が張り合わされた領域(緩衝領域)、MC:良導電部材(第1の金属板)、MB:低膨張部材(第2の金属板)、 t1:第1の接合面、t2:第2の接合面、E1:一端部、E2:他端部
十位の数字の違いは実施の形態1における変形例、百位の数字は実施の形態による構成の相違を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と配線部材とを電気接続するための電極部材であって、
帯状の第1の金属板の長さ方向における一端側から所定長さの領域に第2の金属板が張り合わされた帯状材を、前記第2の金属板が張り合わされた領域よりも他端側の部分を折り曲げて前記第1の金属板が前記第2の金属板の外側に位置するU字形状となし、
前記U字形状の外側となった面において、前記一端側から折り曲げ部分までの所定長さの領域に前記半導体素子との接合面が、前記他端側から前記折り曲げ部分までの所定長さの領域に前記配線部材との接合面が設けられ、
前記第1の金属板の線膨張係数は、前記半導体素子の線膨張係数よりも前記配線部材の線膨張係数に近く、
前記第2の金属板が張り合わされた領域における前記帯状材の線膨張係数は、前記配線部材の線膨張係数よりも前記半導体素子の線膨張係数に近い、
ことを特徴とする電極部材。
【請求項2】
前記帯状材の前記第2の金属板が張り合わされた領域には、前記第1の金属板と同じ線膨張係数の第3の金属板が、前記第2の金属板の上に張り合わされていることを特徴とする請求項1に記載の電極部材。
【請求項3】
前記帯状材における前記半導体素子との接合面の裏側の面と、前記配線部材との接合面の裏側の面との間には、所定間隔の隙間があることを特徴とする請求項1または2に記載の電極部材。
【請求項4】
前記帯状材の前記他端側の幅が、前記一端側の幅よりも広いことを特徴とする請求項3記載の電極部材。
【請求項5】
前記所定間隔の隙間に、樹脂ペレットが充填されていることを特徴とする請求項3または4に記載の電極部材。
【請求項6】
前記所定間隔の隙間に、はんだ材料が充填されていることを特徴とする請求項3または4に記載の電極部材。
【請求項7】
絶縁基板に形成された回路パターン上に取り付けられた半導体素子と、
前記半導体素子の前記回路パターンとの取り付け面の反対側の面に前記半導体素子との接合面を接合させた請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電極部材と、
前記電極部材の配線部材との接合面に接合された配線部材と、
を備えたことを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
前記帯状材の前記第2の金属板が張り合わされた領域の線膨張係数と前記半導体素子の線膨張係数との差と、
前記第1の金属板の線膨張係数と前記配線部材の線膨張係数との差が、
いずれも当該半導体装置の使用温度範囲内で8ppm/K以下であることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第1の金属板は、前記配線部材の主構成材料と同じ金属材料からなることを特徴とする請求項7または8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記半導体素子がワイドバンドギャップ半導体材料により形成されていることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記ワイドバンドギャップ半導体材料は、炭化ケイ素、窒化ガリウム、またはダイヤモンド、のうちのいずれかであることを特徴とする請求項10に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−216766(P2011−216766A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85083(P2010−85083)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】