説明

電気光学装置の製造方法

【課題】アルミを主成分とした散乱形状を有する反射層の反射率を簡便に高めることが可能な製造方法を提供すること。
【解決手段】浸漬工程において、アルミを主成分とした金属からなる反射層7を20〜60wt%の範囲内の燐酸を含むエッチング溶液中に浸漬することにより、微細な凹凸を有する反射層7の表面を溶かして滑らかにすることができる。また、燐酸の濃度が20〜60wt%の範囲内であるため、浸漬条件を出し易く、表面の凹凸面のみを安定的に滑らかにすることができる。従って、アルミを主成分とした金属からなる反射層の反射率を簡便に高めることが可能な反射層の製造方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、反射型の液晶表示装置や、トップエミッション型の有機EL(Electro Luminescence)装置などの電気光学装置には、アルミ(Al)や銀(Ag)などの反射性が高い材料からなる反射層が用いられていた。反射層は、一般的にスパッタ法によって反射材料を成膜した後、フォトリソ法を用いて一つの画素ごとに区画して形成されていた。
このような反射層には、光の利用効率を高め、明るい表示を得るために、高い反射率が求められるが、上述した方法で形成された反射層の表面には、微細な凹凸があるため、十分な反射率を得ることが困難であるという課題があった。
【0003】
上述の課題を鑑み、例えば、特許文献1には、反射層が蒸着される被蒸着面(下地層)をエッチング液を含む研磨材によりあらかじめ研磨して平坦度を高めておくことにより、反射層の反射率を高めた反射層の製造方法が開示されている。
また、出願人等は、銀を主成分とした合金で反射層を形成した後、当該反射層を燐酸を主成分とした溶液(燐酸濃度約80%)に浸漬することにより、反射層の表面をなめらかにして、反射率を高める製造方法を保有していた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−179377号公報
【特許文献2】特開2002−258271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、下地層が平坦でないと研磨できないため、複数の凹凸面からなる散乱形状を有する反射層に適用することは困難であった。例えば、反射型の液晶表示装置に用いられる反射層では、拡散作用を得るために、その表面に凹凸加工を施して、散乱形状としているものが多かった。また、下地層の材質も限定されてしまうばかりでなく、研磨工程が増えてしまうという問題があった。
つまり、特許文献1の製造方法では、散乱形状を有する反射層の反射率を簡便に高めることが困難であるという課題があった。
一方、特許文献2の製造方法は、散乱形状を有する反射層にも適用することができるが、アルミを主成分とした金属からなる反射層に適応することは難しかった。これは、燐酸がアルミを溶解するため、例えば、厚さが数十から数百nm程度の薄い反射層を約80%濃度の燐酸に浸漬した場合、反射層が溶けて消失してしまうからである。
他方、反射層の材料としては、銀よりもアルミの方がバランスが良く、費用対効果に優れているため、アルミを使用したいという要望があった。詳しくは、銀は、可視域全体における反射率がアルミよりも若干高いが、酸化を受け易く、物性が不安定であるため、製造工程における扱いが難しかった。アルミは、銀よりも安価であり、また、酸化しても、形成される酸化被膜(酸化アルミ)が物質的に安定しているため、製造工程における取り扱いが容易であった。
つまり、特許文献2の製造方法では、アルミからなる反射層の反射率を簡便に高めることは困難であるという課題があった。
換言すれば、従来の製造方法では、アルミを主成分とした散乱形状を有する反射層の反射率を簡便に高めることは困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
(適用例)
反射層を備えた電気光学装置の製造方法であって、基板上にアルミを主成分とした金属からなる反射層を形成する工程と、反射層が形成された基板を20〜60wt%の範囲内の燐酸を含む溶液中に浸漬する浸漬工程と、を含むことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【0008】
この製造方法によれば、アルミを主成分とした金属からなる反射層を20〜60wt%の範囲内の燐酸を含む溶液中に浸漬することにより、微細な凹凸を有する反射層の表面を溶かして滑らかにすることができる。
よって、反射層の反射率を高めることができる。また、溶液における燐酸の濃度が20〜60wt%の範囲内であるため、従来の製造方法のように、燐酸濃度が高すぎて反射層が消失してしまうことも防止できる。
さらに、基板を溶液中に浸漬する方式であるため、表面における凹凸(散乱形状)の有無に拘らず、反射層の表面を滑らかにすることができる。
従って、アルミを主成分とした散乱形状を有する反射層の反射率を簡便に高めることが可能な反射層の製造方法を提供することができる。
【0009】
また、反射層は、基板上に形成された下地層の上に形成されてなり、反射層は、下地層上に、スパッタ法によって形成されることが好ましい。
また、下地層には、複数の凹凸形状からなる散乱形状が設けられていることが好ましい。また、浸漬工程は、反射層の厚さを50〜150nmの範囲内で薄くするまで行われ、浸漬工程後の反射層の厚さは、50〜400nmの範囲内であることが好ましい。
また、金属は、Al、AlNd、AlNb、AlCu、AlAg、AlMoのいずれかであることが好ましい。
また、溶液は、燐酸と硝酸とを含む混合溶液であり、浸漬工程では、常温下において、基板を溶液中に1分〜5分以内浸漬することが好ましい。
【0010】
また、浸漬工程では、20±15℃以内の温度に設定された溶液中に基板を1分〜5分以内浸漬することが好ましい。
また、反射層の成膜工程と、浸漬工程との間に、パターニング工程をさらに含み、パターニング工程では、反射層をフォトリソ法によって所定の形状にパターニングすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態1に係る表示装置の概略構成図。
【図2】図1のf−f断面における断面図。
【図3】(a)〜(c)反射層の製造方法を示す図。
【図4】エッチング量と表面粗さとの相関関係を示すグラフ図。
【図5】実施形態2に係る表示装置の断面図。
【図6】(a)〜(c)反射層の製造方法を示す図。
【図7】電子機器としての携帯電話を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部位を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部位の縮尺を実際とは異ならしめてある。
【0013】
(実施形態1)
「表示装置の概略構成」
図1は、本実施形態に係る表示装置の概略構成を示した斜視図である。
まず、本発明の実施形態1に係る電気光学装置としての有機EL方式の表示装置100の概要構成について説明する。
【0014】
表示装置100は、素子基板1と対向基板30との間に、有機EL素子を挟持した有機ELパネルである。また、有機EL素子は、平面的には、シール材25に囲まれた領域内に配置されており、当該領域が表示領域Vとなっている。
有機EL素子は、素子基板1上に形成された画素電極9、有機EL層15、共通電極17(図2参照)を含んで構成されている。
表示領域Vには、有機EL素子を含む画素Pがマトリックス状に複数配置されている。詳しくは、赤色、緑色、青色の3色の画素Pが、周期的に配列されている。
表示装置100は、これらの画素Pが放つ表示光を対向基板30側から出射するトップエミッション型の有機ELパネルである。
素子基板1には、その一辺が対向基板30の外形から張出した張出し領域が形成されている。張出し領域には、画像信号を含む各種信号を外部から入力するための端子部13や、各画素を駆動するための駆動回路(図示せず)が形成されている。
【0015】
図2は、図1のf−f断面における表示装置の断面図である。
表示装置100は、素子基板1、素子層3、第1絶縁層4、下地層としての第2絶縁層6、反射層7、第3絶縁層8、画素電極9、隔壁12、有機EL層15、共通電極17、電極保護層19、緩衝層20、ガスバリア層22、充填剤23、対向基板30などから構成されている。
素子基板1は、ガラス、樹脂、または金属などから構成されている。本実施形態では、好適例として厚さが0.3〜0.7mm程度の無アルカリガラスを用いている。
素子層3には、各画素Pをアクティブ駆動するための画素回路が形成されている。画素回路には、TFT(Thin Film Transistor)からなる画素を選択するための選択トランジスターや、有機EL層15に電流を流すための駆動トランジスター2などが含まれており、画素ごとに対応して形成されている。
【0016】
素子層3の上層(Z軸(−)方向)には、第1絶縁層4と、第2絶縁層6とがこの順番で積層されている。
第1絶縁層4は、シリコン酸化膜(SiO2)、またはシリコン窒化膜(SiN)などの絶縁材料から構成され、その表面には、データ線(図示せず)を含む複数の配線が形成されている。第2絶縁層6は、上記絶縁膜や、アクリル樹脂などの絶縁材料から構成されており、その上層には、反射層7などが形成されている。
下地層としての第2絶縁層6は、好適には、紫外線硬化性樹脂などの感光性樹脂からなり、素子層3や、第1絶縁層4による凹凸部を埋めて、表面を平坦化するための平坦化層である。このため、第1絶縁層4や、第3絶縁層8よりも厚く形成されており、その厚さは、約1.5〜2.0μmとなっている。また、本実施形態では、第2絶縁層6の表面を平坦としているが、例えば、反射型の液晶表示装置に適応する場合には、反射層7と重なる部分に微細な凹凸形状を形成しても良い。
【0017】
ここで、反射層7は、アルミニウムを主成分とした金属からなる反射膜であり、第2絶縁層6の形状に沿った平坦な膜として形成されている。また、その表面(Z軸(−)側)は、後述する本願の特徴ある製造方法により、略鏡面となっている。
平面視において、反射層7は、画素Pごとに区画されており、その形状は、略長方形をなしている。そして、各画素Pにおける反射層7の上層には、第3絶縁層8と、画素電極9とがこの順番で積層されている。
この反射層7と、第3絶縁層8と、画素電極9とからなる積層構造は、隔壁12によって画素Pごとに平面的に区画されている。
隔壁12は、光硬化性の黒色樹脂などからなり、平面視において格子状に形成されている。隔壁12は、反射層7を含む上記積層構造を平面的に区画するとともに、光学的にはブラックマトリックスとして機能している。また、素子層3における駆動トランジスター2や、選択トランジスターなどの回路素子は、隔壁12と平面的に重なるように配置されており、対向基板30側からの外光や、有機EL層15からの光が回路素子に入射しないようになっている。
【0018】
第3絶縁層8は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、アクリル樹脂などの透明な絶縁材料からなり、反射層7と画素電極9との間を絶縁している。
画素電極9は、ITO(Indium Tin Oxide)や、ZnO(酸化亜鉛)膜、IZO(登録商標)(酸化インジウム+酸化亜鉛)膜などの透明電極から構成されており、画素Pごとに素子層3の駆動トランジスター2のドレイン端子2dと第2絶縁層6を貫通するコンタクトホールにより接続されている。
【0019】
有機EL層15は、隔壁12、および各画素電極9を覆って形成されている。また、図2においては有機EL層15を一層の構成としているが、実際は、それぞれが有機物の薄膜からなる正孔輸送層、発光層、電子注入層などから構成されており、この順番に積層されている。正孔輸送層は、芳香族ジアミン(TPAB2Me−TPD,α−NPD)などの昇華性の材料から構成されている。発光層は、白色光を発光する昇華性の材料から構成されている。なお、例えば、RGBの各色を発光する材料の混合物であっても良いし、各色の薄膜の積層構造や、複合構造であっても良い。電子注入層は、LiF(フッ化リチウム)などから構成されている。
【0020】
共通電極17は、陰極であり、MgAgなどの金属を、光を透過するようにごく薄く成膜した金属薄膜層である。
電極保護層19は、シリコン酸化膜や、シリコン窒化膜などの透明で、かつ、水分を遮断する機能を有する材質から構成されている。
緩衝層20は、熱硬化性のエポキシ樹脂などの透明な有機緩衝層である。
ガスバリア層22は、シリコン酸化膜や、シリコン窒化膜などの透明で、かつ、水分を遮断する機能を有する封止層であり、有機EL層15への水分の浸入を防止する機能を担う。
充填剤23は、例えば、熱硬化性のエポキシ樹脂などからなる透明な接着層であり、ガスバリア層22と対向基板30との間の凹凸面に充填されるとともに、両者を接着する。また、外部から、有機EL層15への水分の浸入を防ぐ機能も果たす。
【0021】
対向基板30は、無機ガラス、または透明樹脂から構成されており、有機EL層15側(Z軸(+)側)にはCF層24が形成されている。
CF層24には、赤色カラーフィルター25r、緑色カラーフィルター25g、青色カラーフィルター25bが画素配置と同様に配置されている。詳しくは、各色のカラーフィルターは、画素電極9と重なるように配置されており、各カラーフィルター間には、ハッチングで示した遮光部が形成されている。平面視において遮光部は、隔壁12と重なるように格子状に形成されており、光学的には、ブラックマトリックスの機能を果たす。
このようにして、赤色カラーフィルター25rに重なる反射層7までの部分が、赤色画素Prとなる。同様に、緑色カラーフィルター25gに重なる反射層7までの部分が緑色画素Pgとなり、青色カラーフィルター25bに重なる反射層7までの部分が青色画素Pbとなる。
【0022】
そして赤色画素Prの場合、有機EL層15で放射された白色光のうち、赤色カラーフィルター25r側に進む光は、当該カラーフィルターにより色光選択されて、赤色の光となって対向基板30から出射される。また、反射層7側へ進む光は、反射層7で反射された後、有機EL層15を透過し、赤色カラーフィルター25rで色光選択されて、赤色の光として対向基板30から出射される。なお、緑色、青色の画素においても同様である。
このため、光の利用効率を高めて明るい表示を得るためには、反射層7における光の反射率が重要であり、反射層7の反射率を高める必要があった。
【0023】
「反射層の製造方法」
図3(a)〜(c)は、反射層の製造方法を示す図であり、図2において点線で囲った反射層7の近傍部分qの拡大図である。
ここでは、反射層7の製造方法を中心に、関連部位の製造方法を含めて説明する。
【0024】
まず、素子基板1上に形成された駆動トランジスター2や、選択トランジスターなどの薄膜トランジスターは、アモルファスシリコン、または、低温ポリシリコン(多結晶)によって形成されている。
また、第1絶縁層4は、シリコン酸化膜、またはシリコン窒化膜などの絶縁材料をCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて積層した後、フォトリソ法を用いてパターニングして形成されている。
下地層としての第2絶縁層6は、紫外線硬化性樹脂などの感光性樹脂をスピンコート法によって塗布した後、フォトリソ法を用いてパターニングして形成されている。
図3(a)には、コンタクトホールhが形成され、第1絶縁層4などの凹凸部を埋めて表面(Z軸(−)側)が平坦に形成された第2絶縁層6が示されている。
【0025】
反射層7の製造工程は、成膜工程と、パターニング工程と、浸漬工程との3つの工程から構成されている。
まず、成膜工程では、第2絶縁層6上にスパッタ法を用いてアルミからなる薄膜層7aを形成する。スパッタ法としては、好適例として直流スパッタ法を用いている。なお、スパッタ法は、直流スパッタ法に限定するものではなく、高周波スパッタ法、マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法、ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法などを用いても良い。
薄膜層7aの厚さt1は、好適例として約200nmとした。なお、これに限定するものではなく、後述する浸漬工程によってエッチングされた後の厚さt2(図3(c))が、約50nm以上確保できる膜厚であれば良い。
また、詳しくは後述するが、スパッタ法によって形成された薄膜層7aの表面には、第2絶縁層6が平坦であっても、微細な凹凸面が形成されるため、本実施形態では、この微細な凹凸面を滑らかにするために、浸漬工程を行っている。
また、成膜材料は、アルミに限定するものではなく、アルミを主成分とした合金であれば良い。例えば、Al、AlNd、AlNb、AlCu、AlAg、AlMoなどを用いることができる。
【0026】
次に、パターニング工程では、フォトリソ法を用いて、薄膜層7aをパターニングして、画素ごとに区画されたプレ反射層7bを形成する。なお、プレ反射層7bの厚さは、薄膜層7aと同じである。また、画素ごとに区画された形状が、所定の形状に相当する。
そして、浸漬工程では、プレ反射層7bが形成された状態の素子基板1を20〜60wt%の範囲内の燐酸を含むエッチング溶液中に浸漬する。詳しくは、エッチング溶液は、燐酸と硝酸とを混合した溶液であり、燐酸の含有量が20〜60wt%の範囲内に調整されている。なお、硝酸以外の添加剤を加えても良い。
また、好適例としてエッチング溶液の温度を約30℃(30±5℃以内)に設定し、浸漬時間は約120秒とした。なお、この浸漬条件に限定するものではなく、プレ反射層7bの厚さを50〜150nmの範囲内で薄くすることが可能な条件であれば良い。換言すれば、プレ反射層7bを50〜150nmの範囲内の深さ(量)でエッチングすることが可能な条件であれば良い。例えば、エッチング溶液の温度を常温(20±15℃)範囲内とし、浸漬時間を1分〜5分以内として、上記数値を満たすことが可能な温度および時間に適宜することであっても良い。
図3(c)に示すように、上述した浸漬工程を経た反射層7の厚さt2は、約100nmとなっている。換言すれば、プレ反射層7bの厚さt1から約100nmエッチングされて、膜厚が約100nmの反射膜となっている。
なお、上記パターニング工程と浸漬工程の順序が逆になっても構わない。換言すれば、浸漬工程を行ってからパターニング工程を行っても良い。
【0027】
図4は、エッチング量と表面粗さとの相関関係を示すグラフであり、横軸にエッチング量(深さ)を取り、縦軸に表面粗さ(nm)を取っている。なお、表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)としている。なお、図4のグラフgは、発明者等の実験結果に基づく代表的なデータをグラフ化したものである。
グラフgにおいて、エッチング量がゼロのときの表面粗さが、成膜工程でスパッタ法によって成膜された薄膜層7a(プレ反射層7b)の表面粗さを示しており、その粗さは約6.5nmであった。
また、グラフgに示すように、エッチング量の増加にともなって、表面粗さも小さくなっているが、エッチング量が100nmを超えると、表面粗さの変化量は小さくなっている。換言すれば、エッチング量が100nmを超えると、表面粗さは略飽和する。他方、エッチング量が50nm以上あれば、表面粗さが1.0nm程度改善されることが解る。
上述した本実施形態における成膜時の膜厚、および浸漬条件は、これらのデータから創意工夫の上導出したものであり、浸漬工程において約100nmエッチングされた反射層7の表面粗さは、約5.0nmとなっているのが解る。換言すれば、浸漬工程前後で表面粗さが約6.5nmから、約5.0nmに改善されている。これは、成膜工程において形成されたプレ反射層7bの表面における微細な凹凸が、エッチング溶液によって溶解され、表面が滑らかになるからである。
【0028】
また、薄膜層7aは、薄すぎるとハーフミラーとなってしまい、反射率が落ちてしまうため、全反射膜として使用する場合には、厚さが約50nm以上であることが好ましい。他方、厚過ぎると薄型化という観点で好ましくないため、反射層7の厚さt2は約400nm以内に抑えたい。
これらの特性を考慮すると、成膜工程で成膜する薄膜層7aの厚さt1は、150〜500nmの範囲内に設定することが好ましい。また、浸漬工程におけるエッチング量(深さ)は、50〜150nmの範囲内であることが好ましい。
そして、浸漬工程後の反射層7の厚さt2は、50〜400nmの範囲内であることが好ましい。
【0029】
図3(c)に戻る。
反射層7が形成されると、その上層には、透明な絶縁材料からなる第3絶縁層8が形成される。第3絶縁層8は、CVD法、スピンコート法、フォトリソ法などを用いて形成される。
そして、第3絶縁層8の上層には、スパッタ法により透明電極膜が形成され、当該膜をフォトリソ法によってパターニングすることにより、画素電極9が形成される。なお、画素電極9は、第2絶縁層6のコンタクトホールhを介して、対応する駆動トランジスター2のドレイン端子2dに接続されている。
【0030】
上述した通り、本実施形態に係る表示装置100、およびその製造方法によれば、以下の効果を得ることができる。
この製造方法によれば、浸漬工程において、アルミを主成分とした金属からなる反射層7を20〜60wt%の範囲内の燐酸を含むエッチング溶液中に浸漬することにより、微細な凹凸を有する反射層7の表面を溶かして滑らかにすることができる。
また、燐酸の濃度が20〜60wt%の範囲内であるため、燐酸濃度が高すぎて反射層が消失してしまうこともあった従来の製造方法よりも、浸漬条件を出し易く、表面の凹凸面のみを安定的に滑らかにすることができる。
従って、アルミを主成分とした金属からなる反射層の反射率を簡便に高めることが可能な反射層の製造方法を提供することができる。
【0031】
また、浸漬工程における浸漬条件は、好適例として、エッチング溶液の温度が約30℃で、浸漬時間は約120秒に設定されているため、工程が簡単であることに加えて、所要時間が短い。よって、簡便に反射層の反射率を高めることができる。
さらに、浸漬条件は、エッチング溶液の温度を常温範囲内とし、浸漬時間を1分〜5分以内として、エッチング量が50〜150nmの範囲内の深さ(量)となるように、温度および時間を設定することができる。
よって、特別な温度管理を必要とせずに、製造環境に合わせて浸漬工程を行うことができるため、工程設計(設定)の自由度が高い。
また、成膜工程で成膜する薄膜層7aの厚さt1を150〜500nmの範囲内とし、浸漬工程におけるエッチング量(深さ)を50〜150nmの範囲内に設定することにより、厚さt2が50〜400nmの範囲内の反射層7を形成することができる。
よって、高反射率で、かつ、薄い反射層7を形成することができる。換言すれば、薄型で、明るい表示が得られる表示装置100を提供することができる。
【0032】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係る表示装置の断面図であり、図2に対応している。
以下、本発明の実施形態2に係る電気光学装置としての表示装置200について説明する。実施形態2の表示装置200は、反射型の液晶表示装置であることが、実施形態1の表示装置100と異なる。
詳しくは、表面に複数の凹凸形状からなる拡散層が形成された反射層27を備えていることが、実施形態1の表示装置100と異なる。
ここでは、実施形態1における説明と重複する部分は省略し、周辺部位を含む反射層27の構成を中心に説明する。また、同一の構成部位については同一の番号を附して説明する。
【0033】
「表示装置の概略構成」
表示装置200の外観は、図1と略同様であり、素子基板1と対向基板30との間に、電気光学物質として液晶層5を挟持した液晶パネルである。また、液晶層5は、平面的には、シール材25に囲まれた領域内に配置されており、当該領域が表示領域Vとなっている。なお、表示領域を形成する複数の画素のことを画素Plとする。
表示装置200は、対向基板30から入射する外光を反射層27で反射して表示を行うTN(Twisted Nematic)型の反射型液晶表示装置である。なお、反射型に限定するものではなく、反射層を有する液晶表示装置であれば良く、例えば、1つの画素内に反射領域と、透過領域とを備えた半透過反射型の液晶表示装置であっても良い。
【0034】
表示装置200は、素子基板1、素子層3、第1絶縁層4、下地層としての第2絶縁層26、反射層27、第3絶縁層28、画素電極29、配向膜35、液晶層5、配向膜36、対向電極37、CF層24、対向基板30などから構成されている。なお、対向基板30の外側(Z軸(−)側)には、位相差板および吸収型偏光板が配置されるが、図5では省略している。
【0035】
第2絶縁層26は、実施形態1の第2絶縁層6と同様に、感光性樹脂から構成されるが、その表面に複数の凹凸形状からなる散乱(拡散)形状が形成されていることが、第2絶縁層6と異なる。
反射層27は、第2絶縁層26の形状に沿って形成されていること以外は、実施形態1の反射層7での説明と同様である。また、第3絶縁層28、および画素電極29についても、反射層27の散乱形状に沿った形状となっていること以外は、実施形態1の第3絶縁層8、および画素電極9での説明と同様である。
配向膜35は、例えば、ポリイミドなどの光透過性を有する材料からなり、画素電極29、第2絶縁層26、および第3絶縁層28を覆って積層されている。なお、配向膜35の表面(液晶層5側)には、配向処理が施されている。
液晶層5は、例えば、ネマティック液晶のポジ型液晶を用いている。なお、TN型に限定するものではなく、表示装置200の駆動形式に適した液晶であれば良い。
【0036】
対向基板30上には、CF層24と、対向電極37と、配向膜36とがこの順番で形成されている。CF層24、および当該層において各色カラーフィルターを区画するように形成された遮光部(ハッチング部)については、実施形態1での説明と同様である。
対向電極37は、ITOなどの透明電極から構成されており、複数の画素電極に対して共通に形成された共通電極である。
配向膜36は、例えば、ポリイミドなどの光透過性を有する材料からなり、対向電極37を覆って積層されている。なお、配向膜36の表面(液晶層5側)には、配向処理が施されている。
このようにして、赤色カラーフィルター25rに重なる反射層27までの部分が、赤色画素Plrとなる。同様に、緑色カラーフィルター25gに重なる反射層27までの部分が緑色画素Plgとなり、青色カラーフィルター25bに重なる反射層27までの部分が青色画素Plbとなる。
【0037】
そして赤色画素Plrの場合、対向基板30から入射した外光は、液晶層5を透過して、反射層27で反射される。反射された光は、反射層27の散乱形状によって散乱されるとともに、液晶層5において透過率を調整され、赤色カラーフィルター25rにより色光選択されて、赤色の表示光となって対向基板30から出射される。なお、緑色、青色の画素においても同様である。
反射層27に散乱形状が形成されていることによって、鏡面反射によるギラつき感や、外部の景色などの映り込みを抑制することができる。
【0038】
「反射層の製造方法」
図6(a)〜(c)は、反射層の製造方法の説明図であり、図3に対応している。
本実施形態に係る反射層27の製造方法は、基本的に実施形態1の反射層7の製造方法と同様であるが、関連部位(第2絶縁層6)の製造方法に特徴があるため、当該特徴点を中心に簡潔に説明する。
【0039】
下地層としての第2絶縁層26が、紫外線硬化性樹脂などの感光性樹脂をスピンコート法によって塗布した後、フォトリソ法を用いてパターニングして形成されていること自体は、実施形態1の反射層7と同じであるが、フォトリソ法に用いるフォトマスク、および一部の工程が、独自のものとなっている。
詳しくは、パターニングに使用するフォトマスクに散乱形状に対応するパターンが形成されている。フォトマスクには、複数の凹凸形状として、平面視において画素電極29と重なる領域に直径約5〜8μmの円形、または相当の楕円がランダムに配置されたパターンが形成されており、このパターンに基づいて、複数の円柱状の立体形状を形成する。そして、形成された立体形状を含む素子基板1全体を加熱し、立体形状の外側を溶かしてエッジ(角)を取った連続する凹凸形状を形成する。
または、グレースケールマスクを用いて、散乱形状を形成しても良い。グレースケールマスクは、アナログ的とみなせる光透過率の変化を有するマスクであり、このマスクを用いて露光、および現像を行うことによって、当該マスクのパターンに基づいた連続する凹凸形状を形成することであっても良い。また、複数の凹凸形状における高さ(深さ)は、例えば、数百nm〜数μm程度である。
【0040】
反射層27は、第2絶縁層26の形状に沿って形成されること以外は、実施形態1における反射層での製造方法と同様である。つまり、成膜工程と、パターニング工程と、浸漬工程との3つの工程から構成されている。
詳しくは、成膜工程では、図6(a)に示すように、第2絶縁層26上にスパッタ法によって薄膜層27aを形成する。パターニング工程では、図6(b)に示すように、フォトリソ法によって画素ごとに区画されたプレ反射層27bを形成する。そして、浸漬工程では、図6(c)に示すように、プレ反射層27bが形成された状態の素子基板1を20〜60wt%の範囲内の燐酸を含むエッチング溶液中に浸漬する。
なお、好適には、浸漬工程において、反射層27の表面に散乱形状が形成されていると表面の凹凸形状内に気泡が付着し易いため、これに対する対策が加味されていることが望ましい。詳しくは、例えば、浸漬工程においてエッチング溶液が対流するように攪拌機能を付加する。または、浸漬工程において素子基板1をエッチング溶液中で静かに動かしたり、素子基板1に振動を加えることであっても良い。
また、実施形態1と同様に、上記パターニング工程と浸漬工程の順序が逆になっても構わない。換言すれば、浸漬工程を行ってからパターニング工程を行っても良い。
【0041】
また、第3絶縁層28、および画素電極29についても、反射層27の散乱形状に沿って形状されること以外は、実施形態1における第3絶縁層8、および画素電極9の製造方法と同様である。
なお、散乱形状が必要なのは反射層27のみであるため、例えば、第3絶縁層28を厚めに形成することにより、散乱形状の凹凸を埋めて、その表面(Z軸(−)側)を平坦としても良い。この場合、当該層の上に形成される画素電極29も略平坦となる。
【0042】
また、薄膜層27a(プレ反射層27b)の厚さt1を200nmとし、浸漬工程におけるエッチング溶液の温度が約30℃で、浸漬時間は約120秒とした場合、当該浸漬工程を経た反射層27の厚さt2(図6(c))は、約100nmとなっている。換言すれば、プレ反射層27bの厚さt1から約100nmエッチングされて、膜厚が約100nmの反射膜となっている。
なお、図4を用いて説明したエッチング量と表面粗さとの相関関係に基づく、薄膜層27aの厚さや、浸漬工程におけるエッチング量(深さ)などについても、本実施形態にそのまま適用することができる。
【0043】
上述した通り、本実施形態に係る表示装置200、およびその製造方法によれば、実施形態1での効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
この製造方法によれば、浸漬工程において、アルミを主成分とした金属からなる反射層27(素子基板1)をエッチング溶液中に浸漬することにより、表面に複数の凹凸形状からなる散乱形状を備えた反射層27の反射率を高めることができる。
特に、素子基板1をエッチング溶液中に浸漬する方式であるため、表面における凹凸(散乱形状)の有無に拘らず、反射層27の表面を滑らかにすることができる。
従って、アルミを主成分とした散乱形状を有する反射層の反射率を簡便に高めることが可能な反射層の製造方法を提供することができる。換言すれば、高反射率の反射層27を備えた表示装置200を提供することができる。
【0044】
(電子機器)
図7は、上述の液晶表示装置を搭載した携帯電話を示す斜視図である。
上述した表示装置100は、例えば、電子機器としての携帯電話300に搭載して用いることができる。
携帯電話300は、本体部350と、当該本体部に対して開閉自在に設けられた表示部370とを備えるとともに、実施形態1に係る表示装置100を内蔵している。詳しくは、表示装置100が表示部370に組み込まれている。
また、本体部350には、複数の操作ボタンを有する操作部365が設けられている。
つまり、携帯電話300は、薄型で、明るい表示が得られる表示装置100を搭載している。従って、薄型で、明るい表示の携帯電話300を提供することができる。
なお、表示装置100の替わりに、実施形態2に係る表示装置200を用いても良く、この場合であっても、同様な作用効果を得ることができる。
【0045】
また、携帯電話の態様は、図7に示した折畳み式に限定するものではなく、表示部(パネル)を備えた携帯電話であれば良い。
例えば、本体部350に対して表示部370が折畳み、および旋回可能に設けられた携帯電話であっても良い。または、一体型の携帯電話や、一体型の本体部に操作部が収納されているスライド式の携帯電話であっても良い。
また、電子機器としては、携帯電話に限定するものではなく、液晶パネルを備えた電子機器であれば良い。
例えば、カーナビゲーションシステム用の表示装置や、PDA(Personal Digital Assistants)、モバイルコンピューター、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、車載機器、オーディオ機器などの各種電子機器に用いることができる。
【0046】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良などを加えることが可能である。変形例を以下に述べる。
【0047】
(変形例1)
図1を用いて説明する。
上記実施形態1では、表示装置100を有機EL表示装置として説明したが、これに限定するものではなく、表示に寄与する光を反射するための反射層を備えた表示装置であれば良い。例えば、無機EL表示装置、プラズマディスプレイ、電気泳動表示装置などにも適応することができる。
また、実施形態2では、表示装置200をTN型の反射型液晶表示装置として説明したが、これに限定するものではなく、反射層を備えていれば異なる表示モードの液晶表示装置であっても良い。例えば、VA(Vertical Alignment)型、IPS(In Plain Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型などの表示モードの液晶表示装置にも適応することができる。
これらの表示装置であっても、上記各実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
1…基板としての素子基板、6,26…下地層としての第2絶縁層、7,27…反射層、7a,27a…薄膜層、7b,27b…プレ反射層、8,28…第3絶縁層、9,29…画素電極、17…共通電極、30…対向基板、37…対向電極、100,200…電気光学装置としての表示装置、300…電子機器としての携帯電話。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射層を備えた電気光学装置の製造方法であって、
基板上にアルミを主成分とした金属からなる前記反射層を形成する工程と、
前記反射層が形成された前記基板を20〜60wt%の範囲内の燐酸を含む溶液中に浸漬する浸漬工程と、を含むことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項2】
前記反射層は、前記基板上に形成された下地層の上に形成されてなり、
前記反射層は、前記下地層上に、スパッタ法によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項3】
前記下地層には、複数の凹凸形状からなる散乱形状が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項4】
前記浸漬工程は、前記反射層の厚さを50〜150nmの範囲内で薄くするまで行われ、
前記浸漬工程後の前記反射層の厚さは、50〜400nmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項5】
前記金属は、Al、AlNd、AlNb、AlCu、AlAg、AlMoのいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項6】
前記溶液は、前記燐酸と硝酸とを含む混合溶液であり、
前記浸漬工程では、常温下において、前記基板を前記溶液中に1分〜5分以内浸漬することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項7】
前記浸漬工程では、20±15℃以内の温度に設定された前記溶液中に前記基板を1分〜5分以内浸漬することを特徴とする請求項6に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項8】
前記反射層の成膜工程と、前記浸漬工程との間に、パターニング工程をさらに含み、
前記パターニング工程では、前記反射層をフォトリソ法によって所定の形状にパターニングすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−224218(P2010−224218A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71456(P2009−71456)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】