説明

電気光学装置及びその駆動方法、並びに電子機器

【課題】 スイッチング素子等を用いることなく電気光学素子を駆動する。
【解決手段】電気光学装置は、複数の単位回路(P1)と、各単位期間内における駆動期間ごとに一の素子駆動線(30)に順次、第1電位を供給する素子駆動回路と、駆動期間が開始される前の書込期間ごとに、データ線(6)にデータ電位(VD[j])を出力するデータ線駆動回路と、を備える。一の素子駆動線への第1電位の供給によって、電気光学素子(8)には、データ電位及び第1電位に応じた順方向の電圧がかかる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(electro luminescent)素子、液晶等を含む電気光学装置及びその駆動方法、並びに電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気光学素子として有機EL素子等を含む電気光学装置が提供されている。この電気光学装置では、有機EL素子等に所定の電流又は電圧を供給するための、さまざまな駆動回路が備えられる。このような駆動回路は、例えば、その有機EL素子に加えて、これに並列に接続される容量素子を含むことがある。この場合、有機EL素子の陽極及び容量素子の一方の電極にデータ電位が、有機EL素子の陰極及び容量素子の他方の電極に基準電位が、それぞれ供給されるなどということになる。これによると、容量素子に蓄えられた、前記データ電位に基づく電荷に起因する電流供給が、有機EL素子に対して行われ得ることになるから、当該有機EL素子の安定的な駆動を行うこと等が可能になる。
このような電気光学装置としては、例えば特許文献1に開示されているようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−122608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような電気光学装置においては、次のような問題がある。すなわち、有機EL素子の発光量(発光輝度の時間積分値)を十分な値とするためには、前記容量素子に蓄える電荷量を大きくする必要があり、したがって、前記容量素子の容量を非常に大きな値とする必要がある。しかし、1個1個の駆動回路の設置のために許される物理的面積には制約があること等の関係から、そのような大容量値の実現には、そもそも困難が伴う。
【0005】
そこで、上記問題を解決するため、本願出願人は、既に特願2008−26580号に係る技術を提案している。そこにおいては、複数の駆動回路(単位回路)の各々に含まれる容量素子を、1個の有機EL素子を駆動するために利用する技術が開示されている。簡単な例でいえば、駆動回路が単純に1列だけ並べられているとして、その数がN個ある(したがって容量素子及び有機EL素子もともにN個ある)とする場合、ある1個の有機EL素子を駆動するにあたっては、第1に、当該有機EL素子に対応するデータ電位に応じた充電を全駆動回路に含まれるN個の容量素子について一斉に行い、第2に、そのN個の容量素子の一斉放電(即ち、電流供給)を当該有機EL素子に向けて行う、などということになる。
これによると、前述のような不具合は殆ど問題でなくなる。
【0006】
とはいえ、このような技術にもなお改善の余地がある。
すなわち、前述の文献においては、各駆動回路の内部において、容量素子及び有機EL素子間にスイッチング素子が備えられる例が開示されている。このスイッチング素子は、前記の第1の場合(即ち、一斉充電の場合)には非導通状態を維持し、第2の場合(即ち、一斉放電の場合)には導通状態となることによって、容量素子の充電及びそこからの放電に基づく有機EL素子への電流供給の双方を好適に行うための要素となっている。
しかしながら、このスイッチング素子は基本的に駆動回路の全部に備えられることから、その品質あるいは特性をその全駆動回路に関して一定の範囲内に収めることは容易とはいえない。この品質・特性等について望ましからぬバラツキが生じれば、電気光学装置全体の性能(例えば画質の維持・向上等)にもいい影響を与えない。また、そもそも、スイッチング素子それ自体を必ず製造しなければならないことによる、歩留まりの低下についても懸念される。
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決することの可能な電気光学装置及びその駆動方法並びに電子機器を提供することを目的とする。
また、本発明は、かかる態様の電気光学装置、その駆動方法、あるいは電子機器に関連する課題を解決可能な、電気光学装置、その駆動方法、あるいは電子機器を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電気光学装置は、上述した課題を解決するため、相互に一定の間隔を隔てて延びる複数の素子駆動線と、前記複数の素子駆動線と複数のデータ線との交差に対応して配置された複数の単位回路と、各単位回路内にける駆動期間ごとに、一の前記素子駆動線に順次に第1電位を供給する素子駆動回路と、前記各単位期間内における期間であって前記駆動期間が開始される前の書込期間ごとに、当該単位期間内の前記駆動期間で前記第1電位を供給される前記素子駆動線に対応する前記単位回路の階調データに応じたデータ電位を、前記各データ線に出力するデータ線駆動回路と、を備え、前記複数の単位回路の各々は、基準電位とされた第1電極、及び、前記データ線に接続された第2電極を有する容量素子と、前記第2電極に接続された第3電極、及び、前記素子駆動線に接続された第4電極を有し、前記データ電位に応じた階調となる電気光学素子と、を含み、前記電気光学素子は、前記素子駆動線への前記第1電位の供給により、前記第3及び第4電極間に、前記データ電位及び前記第1電位によって定まる電位差が生じることによって、駆動される。
【0009】
本発明によれば、例えば、以下のような動作が実現可能である。
すなわち、第1に、書込期間において、データ線に接続された単位回路内の容量素子への充電が行われる。第2に、この書込期間の後の駆動期間において、前記第1で充電対象となった容量素子の放電が、第1電位の供給対象とされた一の素子駆動線に対応する単位回路に含まれる電気光学素子に向けて行われる。この場合、前述の規定により、電気光学素子の第3電極にはデータ電位、第4電極には第1電位が供給される結果、当該電気光学素子には順方向の電圧がかけられて電流が流れることが前提とされている(前記の「駆動される」という文言は、このような意味を含む。)。
このような構成によれば、電気光学素子の駆動を司るのは、素子駆動線への第1電位の供給の有無であって、前述したようなスイッチング素子等の存在によるのではない。したがって、本発明によれば、より簡易な構成の電気光学装置を提供することができる。また、同じ理由から、本発明によれば、スイッチング素子等の回路要素を設けなくてもよいことによる歩留まり向上、電気光学素子の発光特性の安定化という効果を享受することが可能である。また、スイッチング素子等の回路要素を設けなくてもよいことによる各単位回路の規模縮縮小化を主要因とする高精細化、等々の各種の効果も享受可能である。
【0010】
この発明の電気光学装置では、前記第1電位は、前記データ電位以下である、ように構成してもよい。
この態様によれば、第1電位が好適に設定されるので、前述した本発明に係る効果がよりよく奏される。
【0011】
本発明の電気光学装置では、前記素子駆動回路は、前記データ線駆動回路が前記データ電位を前記各データ線に供給している間は、前記素子駆動線に、前記データ電位以上の第2電位を出力する、ように構成してもよい。
この態様によれば、前記第2電位がデータ電位以上であるので、前述した第1の書込期間において、電気光学素子にはいわゆる逆方向の電圧がかけられることになる。したがって、当該の書込動作、即ち容量素子の充電は、電気光学素子に電流を流すことなく、好適に行うことができる。
【0012】
この態様では、前記第2電位は、前記電気光学素子の電流・電圧特性において、当該電気光学素子に電流が流れ出す閾値電圧から、当該電気光学素子が降伏する降伏電圧までの間の範囲において、定められる、ように構成してもよい。
この態様によれば、前述した第2電位が好適に設定されることにより、前述した効果をよりよく享受可能である。特に、本態様においては、第2電位が、「電気光学素子が降伏する降伏電圧」を超えるような範囲において設定されることがないから、装置全体の安定的動作を確保することができる。
【0013】
この態様では、前記各単位回路における前記容量素子とは別に、一方の電極が前記データ線に接続される補助用の容量素子を更に備える、ように構成してもよい。
この態様によれば、選択された、走査線に含まれる一の配線に対応する単位回路における電気光学素子の発光量を十分な値とするために必要な容量に対して、当該単位回路に対応するデータ線に接続された各容量素子の合計容量が少ない場合であっても、補助用の容量素子の容量によって不足分を補うことができる。
【0014】
また、本発明の電子機器は、上記課題を解決するために、上述した各種の電気光学装置を備える。
本発明の電子機器は、上述した各種の電気光学装置を備えてなるので、電気光学素子の駆動にスイッチング素子等の回路要素を備える必要がないなどの結果、より高品質な画像を表示すること等が可能である。
【0015】
一方、本発明の電気光学装置の駆動方法は、上記課題を解決するため、相互に一定の間隔を隔てて延びる複数の素子駆動線と、前記複数の素子駆動線と複数のデータ線との交差に対応して配置された複数の単位回路と、を備え、当該単位回路の各々は、基準電位とされた第1電極及び前記データ線に接続された第2電極を有する容量素子と、前記第2電極に接続された第3電極及び前記素子駆動線に接続された第4電極を有し、前記容量素子の電荷放電によって所定の階調となる電気光学素子と、を含む、電気光学装置の駆動方法であって、前記データ線にデータ電位を供給して、当該データ線に接続された前記容量素子に当該データ電位に応じた電荷を蓄積する第1工程と、一の前記素子駆動線に第1電位を供給することで、前記第3及び第4電極間に、前記データ電位及び前記第1電位によって定まる電位差を生じさせることによって、前記電気光学素子を駆動する第2工程と、を含む。
【0016】
本発明によれば、電気光学素子の駆動を司るのは、素子駆動線への第1電位の供給の有無であって、前述したようなスイッチング素子等の存在によるのではない。したがって、本発明によれば、前述した本発明に係る「電気光学装置」によって奏された作用効果と本質的に異ならない作用効果が奏される。
また、このことからも明らかなように、本発明によれば、上述した本発明に係る電気光学装置を好適に駆動することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る電気光学装置を示すブロック図である。
【図2】図1の電気光学装置を構成する単位回路及びデータ電位生成部周囲の詳細を示す回路図である。
【図3】図1及び図2の電気光学装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】図3に示す駆動信号G[i]のレベルとデータ電位VD[j]との関係等を説明するための説明図である。
【図5】図3に従って動作する電気光学装置における容量素子(C1)の充電及び放電を視覚的に表現する説明図(その1)である。
【図6】図3に従って動作する電気光学装置における容量素子(C1)の充電及び放電を視覚的に表現する説明図(その2)である。
【図7】本実施形態に係る電気光学装置の構成に対する比較例の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る電気光学装置の変形例(補助用の容量素子の付加)を構成する単位回路及びデータ電位生成部周囲の詳細を示す回路図である。
【図9】本発明に係る電気光学装置を適用した電子機器を示す斜視図である。
【図10】本発明に係る電気光学装置を適用した他の電子機器を示す斜視図である。
【図11】本発明に係る電気光学装置を適用したさらに他の電子機器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明に係る実施の形態について図1及び図2を参照しながら説明する。なお、ここに言及した図1及び図2に加え、以下で参照する各図面においては、各部の寸法の比率が実際のものとは適宜に異ならせてある場合がある。
【0019】
図1において、電気光学装置10は、画像を表示するための手段として各種の電子機器に採用される装置であり、複数の単位回路P1が面状に配列された画素アレイ部100、素子駆動回路200及びデータ線駆動回路300を有する。なお、図1においては、素子駆動回路200とデータ線駆動回路300とが別個の回路として図示されているが、これらの回路の一部又は全部が単一の回路とされた構成も採用される。
【0020】
図1に示すように、画素アレイ部100には、X方向に延在するm本の素子駆動線30と、X方向に直交するY方向に延在するn本のデータ線6とが設けられる(m及びnは自然数)。各単位回路P1は、素子駆動線30とデータ線6との交差に対応する位置に配置される。したがって、これらの単位回路P1は縦m行×横n列のマトリクス状に配列する。
以上の構成のうち、m本の素子駆動線30は、本実施形態において特徴的な要素の1つであり、図2に示すように、電気光学素子8に直接的に接続される(この点については後に改めて触れられる)。
【0021】
図1に示す素子駆動回路200は、複数の単位回路P1内の電気光学素子8を順次に駆動するための回路である。素子駆動回路200は順次アクティブとなる駆動信号G[1]乃至G[m]を生成して、前述した素子駆動線30の各々に出力する。第i行(iは1≦i≦mを満たす整数)の素子駆動線30に供給される駆動信号G[i]のうち、駆動信号G[i]のアクティブ状態への遷移は、第i行に属するn個の単位回路P1内に含まれる電気光学素子8を駆動対象に選んだことを意味する。
なお、以下では、ある素子駆動線30に、アクティブ状態の駆動信号G[i]を供給することを、当該素子駆動線30の「選択」と呼ぶことがある。なおまた、この「選択」という用語は、当該の素子駆動線30に対応する単位回路P1、あるいは電気光学素子8に対しても用いられることがある。
【0022】
図1に示すデータ線駆動回路300は、素子駆動回路200によって選択される素子駆動線30に対応するn個分の単位回路P1の各々の階調データに応じたデータ電位VD[1]乃至VD[n]を生成して各データ線6に出力する。このデータ線駆動回路300には、図2に示すように、これらデータ電位VD[1]乃至VD[n]を生成・供給するために、その各々に対応するデータ電位生成部301が含まれてよい。なお、以下では、第j列目(jは1≦j≦nを満たす整数)のデータ線6に出力されるデータ電位VDをVD[j]と表記することがある。
【0023】
図2は、各単位回路P1についての詳細な電気的構成を示す回路図である。
各単位回路P1は、図2に示すように、電気光学素子8及び容量素子C1を有する。
電気光学素子8は、陽極と陰極との間に有機EL材料の発光層を介在させたOLED(Organic Light Emitting Diode)素子であり、図2に示すように、素子駆動線30とデータ線6との間に配置される。ここで、陽極は、単位回路P1毎に設けられ、単位回路P1毎に制御される個別電極である。また、陰極は、1行分の単位回路P1に共通に設けられた共通電極であって、その共通電極が前記素子駆動線30に該当する。
【0024】
容量素子C1は、データ線6から供給されるデータ電位VD[j]を保持する手段である。図2に示すように、容量素子C1は、基準電位VSTとされた第1電極E1と、データ線6に接続された第2電極E2と、を有する。
このうち第2電極E2は、前述の電気光学素子8の陽極にも接続される。このことから、電気光学素子8に電流が流れるかどうかは、第2電極E2の電位と、当該電気光学素子8の陰極が接続された素子駆動線30の電位との相関関係に応じる。すなわち、この両電位の差が一定程度以上であり、かつ、その向きが順方向バイアスであれば、電気光学素子8には電流が流れる。両電位の差が一定程度を下回るか、又は、その向きが逆方向バイアスであれば、電気光学素子8には電流が流れない。もっとも、この後者の場合(逆方向バイアスの場合)、電気光学素子8に問題が生じるおそれがあることに注意を払う必要がある。これらの点については、後に図4を参照しながら改めて説明する。
いずれにせよ、前記第2電極E2の電位は、前記データ電位に応じることから、電気光学素子8は、このデータ電位に応じた階調で発光しうることになる。
【0025】
次に、第1実施形態に係る電気光学装置10の動作ないし作用について、既に参照した図1及び図2に加えて、図3乃至図6の各図面を参照しながら説明する。
電気光学装置10は、以下の〔i〕〔ii〕の動作を基本とする。
〔i〕書込動作;
この書込動作は、選択される素子駆動線30に対応する各単位回路P1に含まれる電気光学素子8の発光階調に対応するデータ電位VD[j]を、当該電気光学素子8を含む列に属する単位回路P1内の容量素子C1に保持させる動作である。例えば、第2行目の素子駆動線30に対応し、かつ、第3列目に位置する電気光学装置8についてのデータ電位VD[3](図1参照)は、その第3列目に位置する各単位回路P1内の複数の容量素子C1によって保持されることになる。
〔ii〕発光動作(電気光学素子の駆動);
この発光動作は、〔i〕において容量素子C1に保持されたデータ電位VD[j]に基づいて、当該の電気光学素子8を発光させる動作である。この動作は、当該電気光学素子8を含む単位回路P1が対応する素子駆動線30にアクティブである駆動信号G[i]を供給すること、及び、それによってその単位回路P1内の電気光学素子8に電流が流れる状態になることを含む。これにより、電気光学素子8は、容量素子C1に蓄積された電荷に応じた電流の供給を受けることになり、発光する。
【0026】
第1実施形態の電気光学装置10は、基本的に、上述の〔i〕〔ii〕の適当な組み合わせに基づいて動作するが、この点について、より詳細にみると以下のようである。
【0027】
まず、図3の最左方に示す書込期間Pwにおいて、データ線駆動回路300内のデータ電位生成部301は、データ電位VD[1],VD[2],…,VD[n]を生成し、これを、対応する各データ線6に供給する。このデータ電位VD[j]は、第1行目に位置する各単位回路P1内の電気光学素子8に対応する(図3中、「G[1]対応」という文言参照)。
【0028】
また、この場合、素子駆動回路200は、1行目の素子駆動線30に非アクティブ状態の駆動信号G[1](図3ではハイレベルとなる駆動信号G1[1])を供給する。この非アクティブ状態の駆動信号G[1]の電位は、図4に示すように、データ電位VD[j]として与えられる最大のものVD[j]max(以下、「最大データ電位VD[j]max」ということがある。)を越える値をもつ。
なお、図4の左方には発光階調とデータ電位VD[j]との関係を表すグラフが示されている。このグラフでは、発光階調の上昇に伴って、データ電位VD[j]が、当該VD[j]として与えられる最小のものVD[j]min(以下、「最小データ電位VD[j]min」ということがある。)から、前述の最大データ電位VD[j]maxまで、比例的に上昇する様子が表されている。また、図4の右下には、電気光学素子8の電流・電圧特性が描かれているが、その意義については、後に説明することとする。
【0029】
以上のことから、この書込期間Pwにおいて、電気光学素子8の陽極にはデータ電位VD[j]がかかる一方、陰極には正の電位がかけられることになるから、当該電気光学素子8には逆方向バイアスの電圧がかかることとなり、電流は流れない。
【0030】
図5は、以上の動作を視覚的に表現する。すなわち、図5においては、各データ線6に属する複数の容量素子C1が、各列ごとに、VD[1],VD[2],…,VD[n]に応じた電荷を蓄積する場合が描かれている(図5中、太線かつ実線の矢印、及び、それに関連するハッチング部分等参照)。また、この場合において、電気光学素子8には電流は流れない(図中バツ印参照)。
以上によって、第1行目に位置する各単位回路P1内の電気光学素子8についての、前記〔i〕書込動作が完了する。
【0031】
続いて、図3中、前記書込期間Pwに隣接する駆動期間Pdにおいて、素子駆動回路200が第1行目の素子駆動線30にアクティブ状態の駆動信号G[1](図3ではローレベルとなる駆動信号G1[1])を供給する。このアクティブ状態の駆動信号G[1]の電位は、図4に示すように、前述の最小データ電位VD[j]min」を下回る値をもつ。したがって、この駆動期間Pdにおいて、電気光学素子8の陽極にはデータ電位VD[j]がかかる一方、陰極には負の電位がかけられることになるから、当該電気光学素子8には順方向バイアスの電圧がかかることとなり、電流が流れる。この電流量は、データ電位VD[j]の大きさに応じる。また、この際、当該の電気光学素子8に流れる電流は、前述した複数の容量素子C1に蓄積された電荷量に応じる。
以上により、第1行目の素子駆動線30に対応する電気光学素子8は一斉に発光する(前記の〔ii〕発光動作)。また、これによって1個の単位期間1Tが終了する(図3上方参照)。
【0032】
図6は、以上の動作を視覚的に表現する。すなわち、図6においては、1行目の素子駆動線30にアクティブ状態の駆動信号G[1]が供給されることで、この素子駆動線30に属する電気光学素子8の各々がいわばオン状態となって発光する場合が描かれている。また、この際、当該の電気光学素子8には、前述した各行に属する複数の容量素子C1の電荷に応じて電流供給がなされる場合も描かれている(図6中、太線かつ実線の矢印、及び、それに関連するハッチング部分等参照)。
【0033】
以後は、上述した動作が、発光対象となる電気光学素子8を順次、図5・図6中(あるいは図1・図2中)下方にずらしていきながら、繰り返し行われる。
なお、図3中示される期間1Vは、素子駆動線30の全部の選択が一巡するまでの期間である一垂直走査期間を意味する。
【0034】
このような構成及び動作を行う、第1実施形態の電気光学装置10によれば、次のような効果が奏される。
すなわち、本実施形態の電気光学装置10によれば、電気光学素子8の発光又は非発光が、素子駆動線30に供給される駆動信号G[i]の状態如何に応じるようになっていることから、例えば、前述した構成以外にTFT等のスイッチング素子を備える必要がなく、より簡易な構成の電気光学装置を提供することができる。
【0035】
このことは、本実施形態と図7との対比においてより明瞭に把握される。ここに図7は、本実施形態に係る構成に対する比較例(図2と対比参照)である。
この図7においては、図1あるいは図2等とは異なって、各単位回路P1’には、トランジスターTrが含まれている。このトランジスターTrは、Nチャネル型であり、走査線3の選択時に導通することで容量素子C1の第2電極E2と電気光学素子8とを導通させるスイッチング素子となっている。図7に示すように、トランジスターTrのソースは電気光学素子8の陽極に接続されるとともに、そのドレインは容量素子C1の第2電極E2に接続される。
図7では、このような構成であることに応じて、電気光学素子8の発光又は非発光は、トランジスターTrが導通状態となるか否かに依存する。すなわち、容量素子C1の充電にあたっては、トランジスターTrは非導通状態を維持し、その放電にあたっては導通状態となる。
しかしながら、このような比較例の構成では、トランジスターTrが基本的に全単位回路P1’に備えられる必要があることから、その品質あるいは特性をその全単位回路P1’に関して一定の範囲内に収めることは容易とはいえない。この品質・特性等について望ましからぬバラツキが生じれば、電気光学装置全体の性能にもいい影響を与えない。また、そもそも、トランジスターTrそれ自体を必ず製造しなければならないことによる、歩留まりの低下についても懸念される。
【0036】
以上の対比からも明らかなように、本実施形態によれば、そもそも、前記トランジスターTrが不必要であることから、前述したようなトランジスターTrを起因とする様々な不具合を被るおそれは全くない。
また、本実施形態によれば、トランジスターTr等の回路要素を設けなくてもよいことによる歩留まり向上、あるいは各電気光学素子8の発光特性の安定化、更にはトランジスターTr等の回路要素を設けなくてもよいことによる各単位回路の規模縮縮小化を主要因とする高精細化、等々の各種の効果も享受可能である。
【0037】
なお、上記において、駆動信号G[i]が、アクティブ状態及び非アクティブ状態の各々にある場合における電位について図4を参照して説明したが、この点に関して、以下に述べるような条件が満たされるのであれば、なお好適である。
まず、図4の右下には、既述のように、電気光学素子8の電流・電圧特性が描かれている。この図に示すように、電気光学素子8に印加される電圧が順方向にかけられる場合には、その電圧が所定の閾値電圧Vthを超えるところから、電流が増加する。また、当該電圧が逆方向にかけられる場合には、電流は基本的に流れないが、その電圧の大きさが一定程度以上となると、電気光学素子8に逆方向の電流が流れることがある。
【0038】
このような電気光学素子8の電流・電圧特性に鑑みると、上述した駆動信号G[i]の電位については、以下の配慮がなされていると好適である。
すなわち、まず第1に、既に述べたように、アクティブ状態の駆動信号G[i]の電位は、図4に示すように、最小データ電位VD[j]min以下に設定し、非アクティブ状態の駆動信号G[i]の電位は、最大データ電位VD[j]max以上に設定することが好ましい。
【0039】
第2に、非アクティブ状態の駆動信号G[i]の電位は、最大データ電位VD[j]maxを越えるにしても、その設定範囲は、図4の右下に示す領域ARの内部に定められるのが好適である。ここで領域ARは、前記閾値電圧Vthと逆方向電流が生じる電圧との間の領域として定義される。非アクティブ状態の駆動信号G[i]の電位が、この領域AR内に収まるように設定されるのであれば、電気光学素子8へ電流が流れることがよりよく阻止されるとともに、その逆方向電流を生じさせるおそれをきわめて低減することができる。
【0040】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明に係る電気光学装置ないし画素回路は、上述した形態に限定されることはなく、各種の変形が可能である。
上記実施形態においては、前述の〔i〕書込動作において充電対象となるのは、単位回路P1内に含まれる容量素子C1となっているが、本発明は、かかる形態に限定されない。
例えば、図8に示すように、データ線6には補助用の容量素子Csが接続されてもよい。この容量素子Csは、その一方の電極E3がデータ線6に接続されるとともに、他方の電極E4は固定電位が供給される電位線へ接続される。
このような形態においては、図3に示した各単位期間1T内の書込期間Pwにおいて、所定の容量素子C1に加えて、補助用の容量素子Csも充電される。また、この図に示した各単位期間1T内の駆動期間Pdにおいては、補助用の容量素子Csからの電荷が、当該補助用の容量素子Csに対応する単位回路P1へ供給される。
【0041】
このような形態によれば、一の電気光学素子8に対応するデータ線6に接続された容量素子C1の容量の合計値が、当該電気光学素子8の発光量を十分な値とするのに不十分である場合であっても、前記補助用の容量素子Csの容量を利用することでその不足分を補うことができる。
【0042】
<応用>
次に、上記実施形態に係る電気光学装置10を適用した電子機器について説明する。
図9は、上記実施形態に係る電気光学装置10を画像表示装置に利用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての電気光学装置10と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。
図10に、上記実施形態に係る電気光学装置10を適用した携帯電話機を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての電気光学装置10を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、電気光学装置10に表示される画面がスクロールされる。
図11に、上記実施形態に係る電気光学装置10を適用した情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistant)を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての電気光学装置10を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が電気光学装置10に表示される。
【0043】
本発明に係る電気光学装置が適用される電子機器としては、図9から図11に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等が挙げられる。
【符号の説明】
【0044】
10……電気光学装置、100……画素アレイ部、200……素子駆動回路、300……データ線駆動回路、301……データ電位生成部、P1……画素回路、8……電気光学素子、30……素子駆動線、6……データ線、C1……容量素子、E1……第1電極、E2……第2電極、Cs……補助用の容量素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に一定の間隔を隔てて延びる複数の素子駆動線と、
前記複数の素子駆動線と複数のデータ線との交差に対応して配置された複数の単位回路と、
各単位回路内における駆動期間ごとに、一の前記素子駆動線に順次に第1電位を供給する素子駆動回路と、
前記各単位期間内における期間であって前記駆動期間が開始される前の書込期間ごとに、当該単位期間内の前記駆動期間で前記第1電位を供給される前記素子駆動線に対応する前記単位回路の階調データに応じたデータ電位を、前記各データ線に出力するデータ線駆動回路と、
を備え、
前記複数の単位回路の各々は、
基準電位とされた第1電極、及び、前記データ線に接続された第2電極を有する容量素子と、
前記第2電極に接続された第3電極、及び、前記素子駆動線に接続された第4電極を有し、前記データ電位に応じた階調となる電気光学素子と、
を含み、
前記電気光学素子は、
前記素子駆動線への前記第1電位の供給により、前記第3及び第4電極間に、前記データ電位及び前記第1電位によって定まる電位差が生じることによって、駆動される、
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記第1電位は、前記データ電位以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記素子駆動回路は、
前記データ線駆動回路が前記データ電位を前記各データ線に供給している間は、
前記素子駆動線に、前記データ電位以上の第2電位を出力する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記第2電位は、
前記電気光学素子の電流・電圧特性において、
当該電気光学素子に電流が流れ出す閾値電圧から、
当該電気光学素子が降伏する降伏電圧までの間の範囲において、
定められる、
ことを特徴とする請求項3に記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記各単位回路における前記容量素子とは別に、一方の電極が前記データ線に接続される補助用の容量素子を更に備える、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電気光学装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電気光学装置を備える、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項7】
相互に一定の間隔を隔てて延びる複数の素子駆動線と、前記複数の素子駆動線と複数のデータ線との交差に対応して配置された複数の単位回路と、を備え、
当該単位回路の各々は、基準電位とされた第1電極及び前記データ線に接続された第2電極を有する容量素子と、前記第2電極に接続された第3電極及び前記素子駆動線に接続された第4電極を有し、前記容量素子の電荷放電によって所定の階調となる電気光学素子と、を含む、電気光学装置の駆動方法であって、
前記データ線にデータ電位を供給して、当該データ線に接続された前記容量素子に当該データ電位に応じた電荷を蓄積する第1工程と、
一の前記素子駆動線に第1電位を供給することで、前記第3及び第4電極間に、前記データ電位及び前記第1電位によって定まる電位差を生じさせることによって、前記電気光学素子を駆動する第2工程と、
を含む、
ことを特徴とする電気光学装置の駆動方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−250210(P2010−250210A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101768(P2009−101768)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】