説明

電気化学反応器

【課題】 従来の発電素子として動作する電気化学反応器は、メタノールなどの液体燃料を保持するタンクが必要であり、構造が複雑であった。また、発電素子と電気分解反応器の両方で動作できる電気化学反応器はなかった。
【解決手段】 酸化反応を発生させる陽極2と、還元反応を発生させる陰極1と、陰極1と陽極2に挟まれた固体高分子電解質膜3と、陽極2の固体高分子電解質膜3でない側に液体燃料4を保持でき通気性を有する燃料保持部5とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発電または電気分解を行う電気化学反応器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水を電気分解して酸素を発生する陽極と水素を発生する陰極との間に、水素イオン交換膜となる固体高分子電解質膜を挟んだ電気化学反応器が、除湿機としてまた酸素濃度調整器として使用され始めている。(例えば、特許文献1と特許文献2を参照。)
これらの機器は、電気化学反応を行わせるために直流電源を必要とし、通常、制御盤内の除湿とか理化学機器内の湿度制御には、電源コードをつないで外部から電気エネルギを供給している。
最近の電子技術の進歩により、携帯用電子機器(カメラ、ノートパソコン、携帯電話など)が普及している。携帯用電子機器では、充電器により充電した2次電池を使用する場合が多いが、携帯用電子機器で使用する燃料電池も開発されつつある。携帯用電子機器で使用する燃料電池では、メタノールなどの液体燃料を保持するタンクを使用している。
【0003】
【特許文献1】特開平6−63343号公報
【特許文献2】特開平6−254803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
携帯用電子機器で使用する燃料電池では、メタノールなどの液体燃料を保持するタンクを使用しているので、構造が複雑であった。
本発明は、液体燃料を保持するタンクを不要とする電気化学反応器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る電気化学反応器は、酸化反応を発生させる陽極と、還元反応を発生させる陰極と、該陰極と前記陽極に挟まれた固体高分子電解質膜と、前記陽極の前記固体高分子電解質膜でない側に液体燃料を保持でき通気性を有する燃料保持部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0006】
この発明に係る電気化学反応器は、酸化反応を発生させる陽極と、還元反応を発生させる陰極と、該陰極と前記陽極に挟まれた固体高分子電解質膜と、前記陽極の前記固体高分子電解質膜でない側に液体燃料を保持でき通気性を有する燃料保持部とを備えたものなので、燃料タンクが不要であるという効果が有る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
実施の形態1.
図1に、この発明の実施の形態1による燃料電池として動作する電気化学反応器の構造を説明する断面図を示す。電気化学反応器は、図における上側に還元反応を発生させる陰極1があり、酸化反応を発生させる陽極2が下側にあり、陰極1と陽極2の間には固体高分子電解質膜3があり、陽極2の固体高分子電解質膜3でない側には、液体燃料であるメタノール水溶液4を保持する燃料保持部5がある。陰極1、固体高分子電解質膜3、陽極2及び燃料保持部5は、フレーム6の中に収納されている。フレーム6の図における上側の面は、陰極1が露出し、下側の底面6Aは通気性があるエキスパンデッドメタルとしている。陰極1と陽極2の間には、負荷7が接続されている。
【0008】
陰極1は、固体高分子電解質膜3と接する面に形成した触媒層1Aと、触媒層1Aの背後に形成したガス拡散層1Bと、ガス拡散層1Bの触媒層1Aでない面に接続した集電体1Cと、集電体1Cに接続された負荷7の一端が接続される端子1Dとから構成される。ガス拡散層1Bは、所定の大きさと密度の通気穴を有するカーボンペーパーで形成する。触媒層1Aは、アセチレンブラックやファーネスブラックなどの高表面積カーボン(100nm程度)に白金微粒子(3nm程度)を担持させたものを結着剤と混ぜてカーボンペーパーに塗り、加熱して結着させ乾燥させて形成する。白金微粒子を高表面積カーボンに担持させる理由は、触媒となる白金微粒子が固まって有効表面積が小さくなることを防止するためである。
【0009】
結着剤としては、例えばデュポン社のナフィオン液を用いる。なお、ナフィオンとは固体高分子電解質膜3の材料であり、ナフィオンを水とアルコールの混合溶液に溶かして液状にしたものがナフィオン液である。陰極1の集電体1Cは、チタンに白金メッキを施したものを使用する。集電体1Cには、気体が自由に通過できるように通気口1Eを設ける。
【0010】
陽極2も、陰極1と同様に、触媒層2A、ガス拡散層2B、集電体2C及び端子2Dから構成される。陽極2の触媒層2Aとガス拡散層2Bは、白金黒の微粒子(10nm程度)や白金とイリジウムの混合微粒子もしくは合金微粒子をナフィオン液と混ぜたものを、加熱して結着させ乾燥させて形成する。集電体2Cは、ステンレスに金メッキを施したもの、もしくはチタンに白金メッキを施したものを使用する。集電体2Cにも、気体が自由に通過できるように通気口2Eを設ける。
【0011】
固体高分子電解質膜3には、ポリテトラフルオロエチレンの骨格を主鎖に持ち、スルフォン酸基を側鎖に持つプロトン交換膜、例えばデュポン社のナフィオン117(厚さ180μm)を用いる。この他、アシプレックス(旭化成)やフレミオン(旭硝子)や、炭化水素系の固体高分子電解質膜を用いることができる。
固体高分子電解質膜3の陰極1側の表面近くにTiO微粒子を分散させた金属酸化物分散層3Aを設ける。金属酸化物分散層3Aは水分を保持しやすいので、金属酸化物分散層3Aを陰極表面1の近くに設けることにより固体高分子電解質膜3内で水分濃度をほぼ均一にし、燃料が水とともに固体高分子電解質膜3を透過することを抑制できる。
【0012】
固体高分子電解質膜3の陰極1との界面で触媒層1Aと接触しない部分には、電子もイオンも通さない絶縁層3Bを設ける。固体高分子電解質膜3の陽極2との界面で触媒層2Aと接触しない部分にも、同様な絶縁層3Bを設ける。絶縁層3Bは、ポリプロピレンのフィルム(厚さ約50μm)などのガス不通気で電子もイオンも通さない薄膜を用いる。絶縁層3Bを設けることにより、陰極1または陽極2での電気化学反応に結びつかない電流を流さないようにでき、電流効率を向上できる。陰極1との界面での絶縁層3Bの陰極側には、陰極1で発生した水分の中の蒸発しきれなかった分が陰極1に溜まらないように、可逆性吸湿材3Cを備える。なお、水分が陰極1に溜まると、陰極1での電気化学反応を阻害する。
【0013】
燃料保持部5には、陽極2を覆って内部に液体燃料を保持する燃料保持網5Aが設けられている。燃料保持網5Aは、予め超撥水材を塗布して接触角150度以上の超撥水性表面に調整したゴムで網目100メッシュ以上に編んだ網である。超撥水材としては、例えばNTTアドバンステクノロジ社製の商品名HIREC1110などを使用する。なお、燃料保持網5Aとしては、側面を蛇腹状の収縮材で覆い、陽極2と平行な面は超撥水性を有する網目構造としてもよい。液体燃料を保持でき通気性があるものならば、燃料保持部5は網でなくてもよい。
燃料保持網5Aの内部に液体燃料を注入するための燃料注入管5Bが、フレーム6及び燃料保持網5Aを貫通するように設ける。なお、図示していないが、燃料注入管5Bには栓がある。陽極2での反応で生成したガスを排出するガス排出管5Cを、フレーム6の側面を貫通させて陽極2のガス拡散層2Bまで達するように設ける。
【0014】
次に動作を説明する。燃料保持網5Aの内部に液体燃料であるメタノール水溶液4を充填すると、陽極2では、以下の反応が起こる。
CHOH+H0→CO+6H+6e (1)
生成された水素イオンHは、固体高分子電解質膜3中を移動する。電子eは端子2Dより外部に取り出され、負荷7で消費された後で、端子1Dから陰極1に入る。陰極1では、以下の反応が起こる。
(3/2)O+6H+6e→3H0 (2)
全体反応は、以下となる。
CHOH+(3/2)O→CO+2H0 (3)
【0015】
この反応における起電力Eは、E=1.213Vである。負荷7に取り出せる理論電圧は起電力Eであるが、電流を取り出すと電圧は大きく低下し、通常は0.3V位になる。
燃料であるメタノールCHOHは、(1)式の反応で消費される。水分子は(1)式で消費される分に加えて、固体高分子電解質膜3中を移動する水素イオンHに水が随伴する分として、水素イオンと水分子の比が1対2または3の割合で、水分子が陽極2で消費される。メタノール及び水が消費され液体燃料が少なくなっても、収縮性を持つ燃料保持網5Aが収縮して陽極2と液体燃料との接触は保たれる。燃料保持網5Aは超撥水性を有するので、燃料保持網5Aとの接触面積が少なくなるように液体燃料は凝縮し、100メッシュ程度の網であれば液体燃料が漏れることはない。燃料保持網5A中の液体燃料が少なくなれば、発電を止めることなく、燃料注入管5Bから液体燃料を補充する。液体燃料が少なくなっても陽極2との接触を保つことができれば、燃料保持部5は収縮性を持たなくてもよい。
【0016】
このように網という簡素な構造で、液体燃料を保持でき、専用の燃料タンクが不要になり構造が簡単になるという効果がある。
図1に示すように陰極1を上に向けて使用すれば、液体燃料が陽極2の側から漏れる可能性が少なく、陽極2の側から液体燃料が漏れることを防止する部材を省略できる。陽極2の側から液体燃料が漏れることを防止することができれば、電気化学反応器はどの方向に向けて使用してもよい。電気化学反応器を陽極2が上になる向きで使用する場合は、陽極2で発生した気体は、上側に移動して液体燃料及び通気性を有する燃料保持網5Aを通って外部に出ることができるので、ガス排出管5Cは無くてもよい。
【0017】
陰極1では、(2)式の反応により水が生成されるが、蒸発するか可逆性吸湿材3Cに吸収されるので、生成された水により陰極1表面での電極反応を阻害することがない。
液体燃料としてメタノール水溶液を使用するので、陽極2側には水が豊富にあり、陰極1側では反応を阻害する水を蒸発させたり可逆性吸湿材3Cに吸収させたりして、水が少なくなる。固体高分子電解質膜3中の陰極1に近い側に水を保持する金属酸化物分散層3Aを設けているので、固体高分子電解質膜3中での水分濃度がほぼ一定になり、水及び液体燃料が固体高分子電解質膜3中を移動することを防止できる。
【0018】
メタノール水溶液の濃度は、メタノールが蒸発して発電に利用されないまま失われる量が少なく、電気化学反応が十分に発生できる所定の濃度とする。なお、液体燃料としてはメタノールだけでなくエタノールなどのアルコール類やホルムアルデヒドなどのアルデヒド類でもよく、電気化学反応により水素イオンHと電子eを発生できるものであれば、何でもよい。
以上のことは、発電素子として動作する電気化学反応器の他の実施の形態でもあてはまる。
【0019】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態1による電気分解反応器として動作する電気化学反応器の構造を説明する断面図である。図1の場合の負荷7を、直流電源8に置換え、燃料保持部5の内部には液体燃料を入れていない。その他の構造は、実施の形態1の場合と同じである。
【0020】
この電気化学反応器は、陽極2が接する空間Aの気相の水(水蒸気)を吸収して、陰極1が接する空間Bで放出する。以下で、その動作を説明する。
陽極2では、以下の反応が起こる。
2H0→O+4H+4e (4)
陰極1では、以下の反応が起こる。
+4H+4e→2H0 (5)
全体反応は、以下となる。
2H0(陽極2側)→2H0(陰極1側) (6)
【0021】
以上の反応により、陽極2が接する空間Aの水を陰極1が接する空間Bに移動することが分かる。湿度を下げたい空間を陽極2が接する空間Aとすると、空間Aに対してはこの電気化学反応器は除湿器として動作する。また、湿度を上げたい空間を陰極1が接する空間Bとすると、空間Bに対してはこの電気化学反応器は加湿器として動作する。
上記の反応の理論分解電圧は0Vであるが、必要な湿度制御反応が得られるように電流を大きくするためには、直流電源8の電圧を大きくする必要があり、印加電圧は2.5V〜3Vの間に設定する場合が多い。
【0022】
このように電気化学反応器の燃料保持部5から液体燃料を除くだけで電気分解反応器として動作させることができる。
この実施の形態では、湿度制御反応を例に述べたが、陽極にオゾン酸化触媒(PbOなど)を添着することにより、オゾン発生器として動作させることもできる。また、陰極に窒素酸化物還元触媒(酸性、アルカリ性の何れの特性も有するアルミや亜鉛などの金属酸化物)を添着すれば、窒素酸化物除去装置として動作する。
陽極及び陰極に添着する触媒の種類を適切に選択すれば、触媒の種類に応じた上記以外の酸化反応及び還元反応を発生させることが可能であり、上記以外の目的で使用する電気化学反応器が得られる。
以上のことは、電気分解反応器として動作する電気化学反応器の他の実施の形態でもあてはまる。
【0023】
実施の形態3.
図3は、外部からの電気エネルギの供給が不要となるように、この発明の実施の形態1と実施の形態2を組合せた電気化学反応器の構造を説明する断面図である。図3の下側は、燃料保持部5に液体燃料を充電して発電素子として動作する実施の形態1と同様な電気化学反応器である。図3の上側は、燃料保持部5から液体燃料を除いた電気分解素子として動作する実施の形態2と同様な電気化学反応器である。2個の電気化学反応器のフレーム6を連結機構9により連結する。2個の電気化学反応器の端子1Dと端子2Dは、2個の電気化学反応器を連結する空間内で制御部10に接続される。制御部10は下側の電気化学反応器で発電した電気を上側の電気化学反応器に供給するものである。なお、図3では発電素子として動作する電気化学反応器を1個だけ示しているが、複数個備えるようにしてもよい。
【0024】
発電素子として動作する電気化学反応器では、実施の形態1の場合と同様な(1)〜(3)式で表現される電気化学反応が発生する。電気分解素子として動作する電気化学反応器では、実施の形態2の場合と同様な(4)〜(6)式で表現される電気化学反応が発生する。電流を取り出した場合に発電素子で発生できる電圧は0.3V程度なので、電気分解素子が必要とする電圧が得られるように、発電素子として動作する複数の電気化学反応器を直列に接続する。
この実施の形態3でも、実施の形態2の場合と同様に、電気分解素子として動作する電気化学反応器では、陽極2が接する空間Aの水を陰極1が接する空間Bに移動することが分かる。この実施の形態3では、外部から電気エネルギを供給することが不要なので、コードレスであり、電源が用意できにくい場所でも容易に電気化学反応器を備えることができるという効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態1による発電素子として動作する電気化学反応器の構造を説明する断面図である。
【図2】この発明の実施の形態2による電気分解素子として動作する電気化学反応器の構造を説明する断面図である。
【図3】この発明の実施の形態3による発電素子として動作する電気化学反応器により電気エネルギを供給されて電気分解素子として動作する電気化学反応器の構造を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 :陰極
1A:触媒層
1B:ガス拡散層
1C:集電体
1D:端子
1E:通気口
2 :陽極
2A:触媒層
2B:ガス拡散層
2C:集電体
2D:端子
2E:通気口
3 :固体高分子電解質膜
3A:金属酸化物分散層
3B:絶縁層
3C:可逆性吸湿材
4 :メタノール水溶液(液体燃料)
5 :燃料保持部
5A:燃料保持網
5B:燃料注入管
5C:ガス排出管
6 :フレーム
6A:底面
7 :負荷
8 :直流電源
9 :連結機構
10 :制御部
A :陽極が接する空間
B :陰極が接する空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化反応を発生させる陽極と、還元反応を発生させる陰極と、該陰極と前記陽極に挟まれた固体高分子電解質膜と、前記陽極の前記固体高分子電解質膜でない側に液体燃料を保持でき通気性を有する燃料保持部とを備えた電気化学反応器。
【請求項2】
前記液体燃料をアルコール類またはアルデヒド類とすることを特徴とする請求項1に記載の電気化学反応器。
【請求項3】
前記液体燃料をメタノールとすることを特徴とする請求項2に記載の電気化学反応器。
【請求項4】
前記燃料保持部が超撥水性を有する燃料保持網であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学反応器。
【請求項5】
前記燃料保持部が伸縮性を有することを特徴とする請求項1に記載の電気化学反応器。
【請求項6】
前記固体高分子電解質膜内の陰極近傍に金属酸化物分散層を備えることを特徴とする請求項1に記載の電気化学反応器。
【請求項7】
前記陽極と前記陰極の間に接続された直流電源を備え、前記燃料保持部に液体燃料を保持しない状態で電気分解反応器として動作することを特徴とする請求項1に記載の電気化学反応器。
【請求項8】
前記燃料保持部に液体燃料を保持した状態で発電素子として動作することを特徴とする請求項1に記載の電気化学反応器。
【請求項9】
前記直流電源として請求項8に記載の電気化学反応器を使用することを特徴とする請求項7に記載の電気化学反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−200826(P2007−200826A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21075(P2006−21075)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(599038581)
【Fターム(参考)】