説明

電気式パワーステアリング装置

【課題】車両のキーOFF操作直後に発生し得るキックバックを防止するEPS装置の提供。
【解決手段】メイン回路22と、EPSモータ駆動回路21と、EPSコントローラ20とを含み、EPSコントローラは、バッテリの一端と、キースイッチを介して接続されている他、キースイッチが介挿されないEPSコントローラ給電線23によって接続されており、メイン回路は、油圧モータ及び走行モータの各駆動回路と、これらに並列に接続された平滑コンデンサと、バッテリの一端又は他端と平滑コンデンサとの間に介挿され、キーON/OFFに連動してON/OFFするコンタクタMCとからなり、キーOFFが検出された際、EPSコントローラ給電線を通じてEPSコントローラへの給電が継続されると共に平滑コンデンサの残留電荷を電源としてEPSモータが駆動されることで、キーOFF後もEPS制御を所定期間継続させ得るものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の舵取り装置に用いられ、操舵輪へのアシストトルクを供給する電気式パワーステアリング装置、特に、産業車両のキースイッチのOFF操作に関連して発生し得るステアリングハンドルへのキックバック現象を防止またはより緩和せんとする電気式パワーステアリング(EPS)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に用いられる舵取り装置は、ステアリングハンドルをオペレータが操舵する事により操舵輪の舵取りを行い得るが、最近の技術ではステアリングハンドルに加えられる操舵トルクの大きさと向きに応じて、永久磁石モータ等からなるパワーステアリングモータ(EPSモータ)を駆動してオペレータがステアリングハンドルを操舵する操舵力を軽減している。
【0003】
電気式パワーステアリング装置は、ステアリングハンドルに操舵トルクが加えられときのみEPSモータを駆動するため、油圧循環式のものに比べて消費エネルギーが小さく、また静粛性にも優れているため、多くの車両、中でもフォークリフト等の産業車両には普及率がきわめて高い。
【0004】
このような電気式パワーステアリング装置は、次に説明する通り、ステアリングハンドルに加えられた操舵トルクを検出する操舵トルク検出器と、この操舵トルク検出器の出力に基づいて操舵輪に連繋したEPSモータの出力を定めるEPSコントローラなどから構成されている。
つまり、電気式パワーステアリング装置では、ステアリングハンドルに加えられる操舵トルクの向きによってEPSモータの回転方向を決定し、操舵トルクの大きさに応じてEPSモータの回転量を決定し、舵取り装置を操舵するアシストトルクの供給量を決定している。
【0005】
上記電気式パワーステアリング装置が搭載される産業車両の一例、およびその操舵輪の操舵機構については、図4および図5を基に説明される。
図4は、電気式パワーステアリング装置が搭載される産業車両の一例であるリーチ型フォークリフトを示す図、また図5は、操舵輪の操舵機構を説明するための図である。
図4に示す通り、リーチ型フォークリフト1は、左右の前輪L、Rを備える車体部2の前方にフォークFおよびマストTを備えるほか、車体部2の後方にステアリングハンドル3により操舵可能な操舵輪4を備える。通常、ステアリングハンドル3と操舵輪4とは各種の継手などを介して機械的に連結されたステアリングリンケージを構成している。
【0006】
上記ステアリングリンケージ、すなわち操舵輪4の操舵系については図5に示す通りであり、ステアリングハンドル3に加えられた操舵トルクは、チェーン6を介してスプロケット5からスプロケット7に伝達され、該スプロケット7に固着される入力軸8、操舵トルク検出器9を介して出力軸10、ユニバーサルジョイント11、駆動軸14および駆動ギア15へと伝達され、最終的に旋回ギア16を回転させる構造となっている。
【0007】
ここで、旋回ギア16には、操舵輪4を枢支する旋回ギアケース17が固着されている。また、操舵トルク検出器9は、入力軸8と出力軸10との相対ねじれを操舵トルク信号として電気的に検出するものである。
操舵トルク検出器9に接続されたEPSコントローラ20は、操舵トルク検出器9から出力される信号に応じてEPSモータ12を回転駆動する。その結果、減速機構を内蔵するギアケース13を介してアシストトルクが駆動軸14に与えられ、操舵トルクの軽減が図られる。
【0008】
また、旋回ギア16には、ポテンショメータ等からなる操舵角検出器18の検出ギア19が噛み合っており、操舵輪4の操舵方向や操舵角を検出し得るよう構成されている。
【0009】
ところで、かかる構成からなる電気式パワーステアリング装置においては、例えば、ステアリングハンドル3を操舵し、車両が旋回動作を行っているようなケースの途中でキースイッチをOFFにしてしまうと、その瞬間からEPSモータ12への給電が遮断され、その結果、現在旋回中の操舵輪4のタイヤに生じている反力、すなわち操舵トルクを軽減すべく駆動軸14に加えられていたアシストトルクが失われ、操舵輪4のタイヤに生じている反力が直接ステアリングハンドル3に伝達されてしまう(キックバック現象)という問題があった。
【0010】
そこで、従来知られた電気式パワーステアリング装置においては、次に説明する構成により、キースイッチのOFF操作に関連して発生し得るステアリングハンドルへのキックバック現象を防止または緩和していた(特許文献1)。
【0011】
図6は、従来技術に係る電気式パワーステアリング装置の一例を示す図であって、(A)はEPSモータ駆動回路21の回路図、(B)はその動作説明図である。
EPSモータ駆動回路21は、4個のスイッチング素子FET1〜FET4をブリッジ接続し、このブリッジ接続中にEPSモータ12が接続されている。なお、該スイッチング素子FET1〜FET4に対しては、不図示のボディダイオードが並列に接続されている。
先の図5に示した通り、EPSコントローラ20は操舵トルク検出器9からの出力信号により、EPSモータ駆動回路21のスイッチング素子FET1〜FET4を制御する。
【0012】
ここで、図6(B)に示す通り、従来技術においては、EPS駆動回路21はキースイッチのOFF信号が検知されると、上記4個のスイッチング素子FET1〜FET4の内、二つのスイッチング素子FET3、FET4のみを導通するパルスを発生させ、EPSモータ12の両端を短絡状態とすることでEPSモータ12を停止させていた。
つまり、従来技術においては、EPSモータ駆動回路21はキースイッチのOFF信号が検知されると、スイッチング素子FET3、FET4は導通状態(ON)でFET1、FET2は遮断状態(OFF)になり、回転しているEPSモータ12は、バッテリBATTの電圧E[V]が遮断されるとともにEPSモータ12のインダクタンスの逆起電力により発生する電流によっていわゆるダイナミックブレーキが掛けられるようになり、EPSモータ12は速やかに停止(モータロック)する構成とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開昭64−52870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、かかる構成では、上記ダイナミックブレーキの動作力、すなわちEPSモータ12によるロック力でしかキックバックを抑えることが出来ず、操舵輪4のタイヤに生じている反力がEPSモータ12によるロック力を超えるようなケースでは、キックバックがステアリングハンドル3に伝達されてしまうという問題があった。
【0015】
したがって本発明は、産業車両のキースイッチのOFF操作に関連して発生し得るステアリングハンドルへのキックバック現象を防止またはより緩和することが可能な電気式パワーステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決すべく種々検討を行った結果、本願発明者は、従来知られた電気式パワーステアリング装置のように、キースイッチのOFF操作を検出した際にモータロックを行なうのではなく、キースイッチのOFF操作を検出した後においてもEPS制御を一定期間継続可能な構成とすること、具体的にはキースイッチのOFF操作を検出した後は、メイン回路のコンデンサ、すなわち油圧モータ、走行モータおよびEPSモータの各駆動回路の少なくともいずれかの平滑用コンデンサに残留した電荷を利用してEPS制御を一定期間継続可能な構成とすることにより、上記課題を解決可能なことを見い出し、本発明を完成した。
【0017】
上記課題を解決可能な本発明の電気式パワーステアリング装置は、(1)産業車両に搭載される電気式パワーステアリング(EPS)装置であって、
バッテリの一端および他端に接続され得るメイン回路と、前記メイン回路に並列接続され得るEPSモータ駆動回路と、前記バッテリおよび前記EPSモータ駆動回路に接続されたEPSコントローラとを含み、
前記EPSコントローラは、前記バッテリの一端と、キースイッチを介して接続されているほか、前記キースイッチが介挿されないEPSコントローラ給電線によって接続されており、
前記メイン回路は、油圧モータおよび走行モータの各駆動回路と、これらに並列に接続された平滑コンデンサと、前記バッテリの一端または他端と前記平滑コンデンサとの間に介挿され、前記キースイッチのON/OFF操作に連動してON/OFF動作を行うコンタクタとからなり、
前記EPSモータ駆動回路は、ブリッジ接続された複数個のスイッチング素子からなっており、前記複数個のスイッチング素子に接続された前記EPSコントローラから出力されるEPSモータ駆動信号に基づいて前記ブリッジ接続中に接続されたEPSモータを駆動するものであり、
前記キースイッチのOFF操作が検出された場合、前記EPSコントローラ給電線を通じて前記EPSコントローラへの給電および前記EPSモータ駆動信号の出力が継続されると共に、前記平滑コンデンサに残留している電荷を電源として前記EPSモータが所定期間駆動されることにより、前記キースイッチのOFF操作後においてもEPS制御を前記所定期間継続させ得ることを特徴とするものである。
【0018】
上記(1)に記載の電気式パワーステアリング装置においては、(2)さらに、前記平滑コンデンサのコンデンサ電圧を監視するためのコンデンサ電圧モニタ線が、前記EPSコントローラと前記平滑コンデンサとの間に接続されていることが好ましい。
【0019】
また、上記(1)、(2)に記載の電気式パワーステアリング装置においては、(3)さらに、前記コンタクタと前記平滑コンデンサとの間にヒューズが介挿されていることが好ましい。
【0020】
また、上記(2)に記載の電気式パワーステアリング装置においては、(4)前記キースイッチのOFF操作後における前記EPS制御が、前記平滑コンデンサのコンデンサ電圧Vc=0[V]となるまで継続されることが好ましい。
【0021】
また、上記(1)に記載の電気式パワーステアリング装置においては、(5)前記キースイッチのOFF操作後における前記EPS制御が、前記キースイッチのOFF操作が検出された時点からの積算時間が所定時間に達するまで継続されることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、キースイッチのOFF操作後においても、メイン回路のコンデンサに残留した電荷を利用してEPS制御を一定期間継続可能な構成とされている。さらに、本発明に係る構成では、上記コンデンサ電圧が低下することに伴いEPSモータの出力も徐々に低下するので、キースイッチのOFF操作後におけるアシストトルクは徐々に低下する。
そのため、本発明によれば、キースイッチのOFF操作後においてもアシストトルクが直ちに失われることなく、徐々に低下する特性が得られることから、操舵輪のタイヤに生じている反力がステアリングハンドルにキックバックとして伝達されてしまうことを防止またはより緩和することが可能となる。
その他、本発明に係る構成では、キースイッチのOFF操作後にメイン回路のコンデンサに残留した電荷をEPSモータの駆動電源として積極的に活用することとなるため、上記残留電荷の放電装置を別途設ける必要も無くなり、極めて合理的でもある。
【0023】
このように、本発明によれば、産業車両のキースイッチのOFF操作に関連して発生し得るステアリングハンドルへのキックバック現象を防止またはより緩和することが可能な電気式パワーステアリング装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の電気式パワーステアリング装置の一構成例を示す回路図である。
【図2】本発明の電気式パワーステアリング装置の動作例を示すフローチャートであり、(A)は第1例、(B)は第2例を示す図である。
【図3】メイン回路のコンデンサの放電特性を例示するグラフである。
【図4】電気式パワーステアリング装置が搭載される産業車両の一例であるリーチ型フォークリフトを示す図であって、(A)は斜視図、(B)は上方より見た図である。
【図5】操舵輪の操舵機構を説明するための図である。
【図6】従来技術に係る電気式パワーステアリング装置の一例を示す図であって、(A)はEPS駆動回路の回路図、(B)はその動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施例を、電気式パワーステアリング装置が、産業車両であるリーチ型フォークリフトのステアリング装置に採用された場合を例にとり詳細に説明する。
なお、リーチ型フォークリフト、およびそのステアリング装置に関しては、先に図4および図5を用いて説明した通りである。また、以下では、従来例の構成と共通する箇所については、同一の参照符を用いるものとするほか、説明が重複することとなる部分については適宜省略することとする。
【実施例1】
【0026】
[構成]
図1に、本実施例に係る電気式パワーステアリング装置の回路図を示す。本実施例に係る電気式パワーステアリング装置は、従来例同様にEPSモータ駆動回路21と、これと並列に備えられたメイン回路22とからなっている。
【0027】
EPSモータ駆動回路21の各スイッチング素子は、EPSコントローラ20に接続されており、EPSモータ12は、EPSコントローラ20より出力されるEPSモータ駆動信号にて回転駆動される。
【0028】
ここで、本実施例では、EPSコントローラ20には、キースイッチKEYが介挿されたバッテリBATTからの給電線のほか、これと平行して備えられた、キースイッチKEYが介挿されないEPSコントローラ給電線23が新たに接続されている。
【0029】
さらに、本実施例では、EPSコントローラ20には、平滑コンデンサC1、C2のコンデンサ電圧を監視するためのコンデンサ電圧モニタ線24が新たに接続されている。
新たに接続されたEPSコントローラ給電線23およびコンデンサ電圧モニタ線24の機能、およびこれらを備えた本実施例に係る電気式パワーステアリング装置の動作に関しては、後段において詳述する。
【0030】
メイン回路22は、油圧モータM1および走行モータM2の各駆動回路と、これらに並列に接続された平滑コンデンサC1と、EPSモータ駆動回路21に並列に接続された平滑コンデンサC2と、バッテリBATTと平滑コンデンサC1およびC2との間に介挿されたコンタクタMCと、からなっている。また、本実施例では、コンタクタMCと各平滑コンデンサC1、C2との間には、それぞれヒューズF1、F2が介挿されている。
なお、コンタクタMCは、キースイッチKEYのON/OFF操作に連動してON/OFF動作を行う構成となっている。
【0031】
その他、本実施例に係る電気式パワーステアリング装置では、油圧モータM1および走行モータM2の各駆動回路に接続された不図示の荷役系CPUおよび走行系CPU並びにEPSモータ駆動回路21に接続されたEPSコントローラ20を統合制御する不図示のメインCPUが備えられている。このメインCPUは、オペレータに種々の情報を提供するディスプレイに接続されている。
【0032】
[動作]
また、以下では、本実施例に係る電気式パワーステアリング装置の動作につき説明する。
なお、本実施例において、キースイッチON時におけるEPSコントローラ20によるEPSモータ駆動回路21の制御要領は、図5および図6を用いて先に説明した従来例の場合と同様である。すなわち、本実施例において、EPSコントローラ20は、操舵トルク検出器9より出力される操舵トルク信号に基づいて操舵輪4に連繋したEPSモータ12の出力指令値を定め、これに対応するEPSモータ駆動信号にてEPSモータ12を回転駆動し、減速機構を内蔵するギアケース13を介して操舵アシストトルクを駆動軸14に与える構成となっており、これにより、操舵トルクの軽減が図られる構成となっている。ここで、本実施例においては、EPSモ−タ駆動信号を図6(B)に示すのと同様のチョッパ信号にしてEPSモ−タ12を回転駆動している。
したがって、オペレータは、ステアリングハンドル3より与えた操舵トルクに加え、EPSモータ12が発生するアシストトルクが旋回ギア16に加えられる結果、軽微な操舵トルクで操舵を行うことが可能となっている。このとき、上記アシストトルクは、ステアリングハンドル3を通じてオペレータの掌に感覚としてフィードバックされる。
【0033】
他方、キースイッチKEYのOFF操作が検出された後の動作に関しては、図1に加えて図2および図3の記載に基づき以下の様に説明される。
【0034】
i) 第1例
図2は、本実施例に係る電気式パワーステアリング装置の動作を説明するフローチャートであり、(A)はその第1例を示す図である。
動作ループのスタートS1から順に説明すると、まず、キースイッチONであると判定された場合には(S2;Y)、ステップS3に達し、EPSコントローラ20によるEPSモータ駆動回路21の制御は従来通り行われる。このとき、バッテリBATTからEPSコントローラ20への給電は、キースイッチKEYが介挿されたバッテリBATTからの給電線のほか、これと平行して新たに接続された、キースイッチKEYが介挿されないEPSコントローラ給電線23を通じて行われる。
【0035】
一方、キースイッチKEYのOFF操作が検出された場合には(S2;N)、ステップS4に進み、メイン回路22のコンデンサ、すなわち油圧モータM1、走行モータM2およびEPSモータ12の各駆動回路の少なくともいずれかの平滑用コンデンサC1、C2のコンデンサ電圧Vc[V]につきチェックが行われる。
本実施例において、コンデンサ電圧Vc[V]のチェックは、コンデンサ電圧モニタ線24が接続されたEPSコントローラ20において行われる。
【0036】
ステップS4において、コンデンサ電圧Vc≠0[V]の場合には(S4;Y)、ステップS3に達し、キースイッチONであると判定された場合(S2;Y)と同様、EPSコントローラ20によるEPSモータ駆動回路21の制御が引き続き行われる。このとき、キースイッチは既にOFFされているので、バッテリBATTからEPSコントローラ20への給電は、本実施例において新たに設けられた、キースイッチKEYが介挿されないEPSコントローラ給電線23を通じて行われる。
このように、本実施例においては、EPSコントローラ給電線23が新たに設けられたことで、キースイッチKEYのOFF操作が検出された場合においてもEPSコントローラ20への給電が遮断されることは無いので、次に説明する通り、キースイッチのOFF操作後においてもEPS制御を一定期間継続させることが可能となっている。
【0037】
ところで、ステップS4からステップS3に達したケースでは、キースイッチは既にOFFされ、コンタクタMCもOFF状態となっている。そのため、EPSモータ12は、図1に示す通り、平滑用コンデンサC1、C2に残留している電荷を電源として駆動されることとなる。したがって、EPSモータ12が回転駆動されるに伴い、平滑用コンデンサC1、C2に残留している電荷は漸減し、最終的にはVc=0[V]となる。
この、平滑用コンデンサC1、C2に残留している電荷を電源としてEPSモータ12が駆動され、EPS制御が継続されるフローは、ステップS4においてコンデンサ電圧Vc=0[V](S4;N)と判定されるまで継続される。
【0038】
ここで、メイン回路22の平滑用コンデンサC1、C2の放電特性については、図3にその一例が示されている。図3において、Aは平滑用コンデンサC1、C2に残留している電荷が自然放電するときにおける放電特性を、Bは平滑用コンデンサC1、C2に残留している電荷を電源としてEPSモータ12が駆動されるときにおける放電特性を、それぞれ示している。Bの場合、平滑用コンデンサC1、C2に残留している電荷を電源としてEPSモータ12が駆動されることに伴い、当該平滑用コンデンサC1、C2の放電速度も当然速まることが推認される。なお、平滑用コンデンサC1、C2の放電速度は、EPSモータ12に流れる電流の多寡に応じて適宜増減する。
図3に示す通り、平滑用コンデンサC1、C2の放電が進むと、コンデンサ電圧Vc[V]は低下し、それに伴い、EPSモータ12の出力も徐々に低下する。
【0039】
そして、最終的にステップS4においてコンデンサ電圧Vc=0[V]と判定されると(S4;N)、EPSモータ12は動作しなくなり(ステップS5)、再びキースイッチがONと判定されるまでEPS制御が行われない構成となっている。
【0040】
一般に、ステアリングハンドル3を操舵し、車両が旋回動作を行っているようなケースの途中でキースイッチをOFFにしてしまうと、その瞬間からEPSモータ12への給電が遮断され、その結果、現在旋回中の操舵輪4のタイヤに生じている反力、すなわち操舵トルクを軽減すべく駆動軸14に加えられていたアシストトルクが失われ、操舵輪4のタイヤに生じている反力はステアリングハンドル3にキックバックとして伝達されてしまう。
【0041】
しかしながら、本実施例においては、キースイッチのOFF操作後においても、平滑用コンデンサC1、C2に残留した電荷を利用してEPS制御を一定期間継続可能な構成とされている。さらに、本実施例に係る構成では、コンデンサ電圧Vc[V]が低下することに伴いEPSモータ12の出力も徐々に低下するので、キースイッチのOFF操作後におけるアシストトルクは徐々に低下する。
そのため、本実施例によれば、キースイッチのOFF操作後においてもアシストトルクが直ちに失われることなく、徐々に低下する特性が得られることから、操舵輪4のタイヤに生じている反力がステアリングハンドル3にキックバックとして伝達されてしまうことを防止またはより緩和することが可能となる。
【0042】
その他、本実施例に係る構成では、キースイッチのOFF操作後に平滑用コンデンサC1、C2に残留した電荷をEPSモータ12の駆動電源として積極的に活用することとなるため、上記残留電荷の放電装置を別途設ける必要も無くなり、極めて合理的でもある。
【0043】
ii) 第2例
また、上記第1例の変形例を、図2(B)に基づき説明する。なお、図2(B)に示すフローチャートは、以下に説明するステップS4’の判断条件が異なることを除けば、図2(A)に示す第1例のフローチャートと同一である。
【0044】
上記第1例においては、キースイッチのOFF操作後におけるEPS制御の継続要否を、平滑用コンデンサC1、C2のコンデンサ電圧Vc[V]の有無を直接監視することにより判定していた(ステップS4)。
【0045】
一方、第2例においては、図2(B)に示す通り、キースイッチKEYのOFF操作が検出された時点からの積算時間tiが所定時間tpに達したか否かにより、キースイッチのOFF操作後におけるEPS制御の継続要否を判定することとしている(ステップS4’)。
【0046】
上記所定時間tpに関しては、図3におけるBのグラフに例示する通り、平滑用コンデンサC1、C2に残留している電荷を電源としてEPSモータ12が駆動されるときにおける放電特性を勘案して予め定められた値が、EPSコントローラ20の不図示のメモリに格納されている。
【0047】
また、積算時間tiについても、EPSコントローラ20に備えられた不図示のリセット可能なタイマーによって管理されている。ここで、タイマーのリセットは、再びキースイッチKEYのONが検出された時点(S2;Y)において行われる。
【0048】
なお、第2例による場合、平滑用コンデンサC1、C2のコンデンサ電圧Vc[V]の有無を直接監視する必要はなく、そのため、第一例による場合とは異なり、コンデンサ電圧モニタ線24については省略しても構わない。
【0049】
第1例と同様、この第2例の場合でも、キースイッチのOFF操作後においても、平滑用コンデンサC1、C2に残留した電荷を利用してEPS制御を一定期間継続させることが可能となっている。
【0050】
[変形例]
以上、一実施例に基づき本発明に係る電気式パワーステアリング装置の詳細につき説明したが、本発明に係る電気式パワーステアリング装置については上記実施例に記載の構成に限定されず、種々の変形実施が可能である。
【0051】
例えば、上記実施例では、本発明の電気式パワーステアリング装置が、図4に示すリーチ型フォークリフト1のステアリング装置に搭載されたものとして詳細に説明を行ったが、これに限定されず、本発明の電気式パワーステアリング装置は、カウンタバランス型のフォークリフトは勿論のこと、他の産業車両や乗用車等にも搭載し得ることは言うまでもない。
【0052】
また、操舵輪4の操舵系についても、図5に示す構成に限定されず、例えばスプロケット5、チェーン6およびスプロケット7が省略され、ステアリングハンドル3の回転中心が入力軸8に固着される構成としても構わない。この場合、ステアリングハンドル3に加えられた操舵トルクは直接、入力軸8に伝達される。
【0053】
以上の通り本発明は、キースイッチのOFF操作を検出した後においてもEPS制御を一定期間継続可能な構成とすること、具体的にはキースイッチのOFF操作を検出した後は、メイン回路のコンデンサ、すなわち油圧モータ、走行モータおよびEPSモータの各駆動回路の少なくともいずれかの平滑用コンデンサに残留した電荷を利用してEPS制御を一定期間継続可能な構成とすることにより、産業車両のキースイッチのOFF操作に関連して発生し得るステアリングハンドルへのキックバック現象を防止またはより緩和することが可能な電気式パワーステアリング装置を提供する新規かつ有用なるものであることが明らかである。
【符号の説明】
【0054】
BATT バッテリ
C、C1、C2 コンデンサ
F フォーク
F1、F2 ヒューズ
FET1、FET2、FET3、FET4 スイッチング素子
KEY キースイッチ
L 左前輪
MC コンタクタ
M1 油圧モータ
M2 走行モータ
R 右前輪
T マスト
1 リーチ型フォークリフト
2 本体部
3 ステアリングハンドル
4 操舵輪
5、7 スプロケット
6 チェーン
8 入力軸
9 操舵トルク検出器
10 出力軸
11 ユニバーサルジョイント
12 EPSモータ
13 ギアケース
14 駆動軸
15 駆動ギア
16 旋回ギア
17 旋回ギアケース
18 操舵角検出器
19 検出ギア
20 EPSコントローラ
21 EPSモータ駆動回路
22 メイン回路
23 EPSコントローラ給電線
24 コンデンサ電圧モニタ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業車両に搭載される電気式パワーステアリング(EPS)装置であって、
バッテリの一端および他端に接続され得るメイン回路と、前記メイン回路に並列接続され得るEPSモータ駆動回路と、前記バッテリおよび前記EPSモータ駆動回路に接続されたEPSコントローラとを含み、
前記EPSコントローラは、前記バッテリの一端と、キースイッチを介して接続されているほか、前記キースイッチが介挿されないEPSコントローラ給電線によって接続されており、
前記メイン回路は、油圧モータおよび走行モータの各駆動回路と、これらに並列に接続された平滑コンデンサと、前記バッテリの一端または他端と前記平滑コンデンサとの間に介挿され、前記キースイッチのON/OFF操作に連動してON/OFF動作を行うコンタクタとからなり、
前記EPSモータ駆動回路は、ブリッジ接続された複数個のスイッチング素子からなっており、前記複数個のスイッチング素子に接続された前記EPSコントローラから出力されるEPSモータ駆動信号に基づいて前記ブリッジ接続中に接続されたEPSモータを駆動するものであり、
前記キースイッチのOFF操作が検出された場合、前記EPSコントローラ給電線を通じて前記EPSコントローラへの給電および前記EPSモータ駆動信号の出力が継続されると共に、前記平滑コンデンサに残留している電荷を電源として前記EPSモータが所定期間駆動されることにより、前記キースイッチのOFF操作後においてもEPS制御を前記所定期間継続させ得ることを特徴とする電気式パワーステアリング装置。
【請求項2】
さらに、前記平滑コンデンサのコンデンサ電圧を監視するためのコンデンサ電圧モニタ線が、前記EPSコントローラと前記平滑コンデンサとの間に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の電気式パワーステアリング装置。
【請求項3】
さらに、前記コンタクタと前記平滑コンデンサとの間にヒューズが介挿されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電気式パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記キースイッチのOFF操作後における前記EPS制御が、前記平滑コンデンサのコンデンサ電圧Vc=0[V]となるまで継続されることを特徴とする請求項2に記載の電気式パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記キースイッチのOFF操作後における前記EPS制御が、前記キースイッチのOFF操作が検出された時点からの積算時間が所定時間に達するまで継続されることを特徴とする請求項1に記載の電気式パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−224183(P2012−224183A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93003(P2011−93003)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000232807)日本輸送機株式会社 (320)
【Fターム(参考)】