説明

電気機械変換装置

【課題】セルを配置した基板を支持する支持部材に進入する弾性波を低減して、支持部材内で反射する弾性波による送受信特性の劣化を抑制することができる電気機械変換装置を提供する。
【解決手段】電気機械変換装置は、第2の電極105と間隙104を介して対向して設けられた第1の電極102を含む振動膜101を夫々有する複数のセル200を基板106上に備え、送信動作及び受信動作の少なくとも一方を行う。基板106は、支持部材110との間にスペーサー間隙112が形成されるように、スペーサー手段111を介して支持部材111により支持される。セルを備えた基板106の面とは逆側の基板106の裏面と、この裏面に対向した支持部材110の面と、の間にスペーサー間隙112が形成され、スペーサー間隙内は、均一の気体または液体で満たされた状態に保たれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波などの弾性波の送受信(本明細書で送受信と言う場合、送信と受信のうちの少なくとも一方を意味する)を行う静電容量型電気機械変換装置などの電気機械変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波の送受信を行う目的で、静電容量型弾性波トランスデューサであるCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)が提案されている。CMUTは、半導体プロセスを応用したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセスを用いて作製されたものである。図8は、アレイCMUTの断面とその接続を示した模式図である。図8において、101は振動膜、102は第1の電極(上部電極)、103は支持部、104は間隙、105は第2の電極(下部電極)、106は基板、107は絶縁膜、108、109は配線である。また、200はセル、201はエレメント、301は直流電位印加手段、302は駆動検出手段である。振動膜101(通常数十ミクロン程度の大きさ)上に第1の電極102が形成され、その振動膜101は、基板106上に形成された支持部103により支持されて、基板106上に配置されている。基板106上には、第2の電極105が、振動膜101上に形成した第1の電極102と間隙104(通常数十nm〜数百nmの厚さ)を挟んで対向する位置に配置されている。
【0003】
以下、基板106のCMUTが形成された面(図8で上側の面)をCMUT形成面、逆側の面(図8で下側の面)を裏面(CMUT非形成面)とも呼ぶ。振動膜101と間隙104を挟んで対向した第1及び第2の電極を1組としてセル200と呼ぶ。第1の電極102と第2の電極105がそれぞれ電気的に接続された複数のセルを、CMUTが弾性波の送受信を行う単位としてエレメント201と呼ぶ。エレメント内の第1及び第2の電極は、それぞれエレメント外に設けられた配線108、109により、アレイCMUTの外側に引き出される。基板106の外周部まで引き出された配線108、109は、直流電位印加手段301と駆動検出手段302にそれぞれ接続されている。基板106上には絶縁膜107が配置され、基板106と配線が絶縁されているため、異なるエレメント201の配線同士も電気的に絶縁されている。直流電位印加手段301は、配線108を介して接続された第1の電極(上部電極)102に、直流電位を印加することができる。直流電位印加手段301により、第1の電極102を所定の電位とすることで、対向する第2の電極105との間に、所定の直流電位差VBを発生させている。この電極間の所定の電位差VBにより、弾性波を受けて電極間の距離が変化した時に、電極に誘導電流(電荷)が発生する。また、この電極間の所定の電位差VBにより、電極間に静電引力が発生し、振動膜101は基板106側に撓んだ状態となる。これにより、電極間の距離が狭くなるので、CMUTの弾性波送受信動作時の送受信効率が高まる。
【0004】
駆動検出手段302は、電極に交流電圧を印加する交流電圧印加手段と、電極に発生した電流を検出する電流検出手段の少なくとも一方を有している。そのため、駆動検出手段302は、配線109を介して接続された第2の電極(下部電極)105について、交流電位を印加したり、発生した電流を検出したりすることができる。印加した交流電圧により、2つの電極間に静電引力を発生させることで振動を発生し、弾性波を送信する動作を行うことができる。また、弾性波を受けて振動した振動膜の容量変化による電荷(電流)の変化を検出し、到達した弾性波の大きさを検出する動作を行うことができる。基板106は数百μmからmm程度の厚さなので、使用時の位置合わせや、機械的な強度を保つために、CMUT非形成面で支持部材110により支持されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Knight J, McLean J, andDegertekin F L, 2004 “Low temperature fabrication of capacitive micromachinedultrasonic immersion wave transducers on silicon and dielectric substrates”(IEEE Trans. Ultrason., Ferroelect., Freq. Contr. 51 10 1324-1333)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アレイCMUTで弾性波の送受信を行う場合、CMUTに到達した弾性波やCMUTから送信した弾性波で、基板106を支持する支持部材110内に進入するものが発生する。支持部材110内に進入したこれらの弾性波が、支持部材110内で反射して、更に基板106を介しCMUTまで到達すると、CMUTの受信信号にノイズとして検出されたり、CMUTから不要な弾性波が出力されたりする。これにより、アレイCMUTの送受信特性が劣化してしまうことがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて、本発明の電気機械変換装置は、次の特徴を有する。この装置は、第2の電極と間隙を介して対向して設けられた第1の電極を含む振動膜を有するセルを基板上に備え、前記第1の電極の振動による弾性波の送信動作及び弾性波を受けて前記第1の電極が振動することによる弾性波の受信動作の少なくとも一方を行う。前記基板は、支持部材との間にスペーサー間隙が形成されるように、スペーサー手段(薄片など)を介して前記支持部材により支持されている。これにより、前記セルを備えた前記基板の面とは逆側の前記基板の裏面と、これに対向した前記支持部材の面と、の間に前記スペーサー間隙が形成される。そして、前記スペーサー間隙内は、均一の気体または液体で満たされた状態(すなわち一定の状態)に保たれている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電気機械変換装置によれば、上記の如きスペーサー間隙が形成されているので、セルを配置した基板を支持する支持部材に進入する弾性波を低減することができるため、支持部材内で反射する弾性波による送受信特性の劣化が抑制される。特に、広帯域特性を有する静電容量型電気機械変換装置では、支持部材内で反射する弾性波(これは比較的高い周波数を有し易い)による送受信特性への影響が大きいので、送受信特性の劣化の抑制の効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1から第4の実施形態に係る電気機械変換装置を説明する図。
【図2−1】第5の実施形態に係る電気機械変換装置を説明する図。
【図2−2】第5の実施形態に係る電気機械変換装置を説明する図。
【図3】第6の実施形態に係る電気機械変換装置を説明する図。
【図4】第7の実施形態に係る電気機械変換装置を説明する図。
【図5】第8の実施形態に係る電気機械変換装置を説明する図。
【図6】第9及び第10の実施形態に係る電気機械変換装置を説明する図で。
【図7】本発明の電気機械変換装置を用いた測定装置を説明する図。
【図8】従来の静電容量型電気機械変換装置を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明で重要な点は、セルを配置した基板の面とは逆側の基板の裏面と、基板を支持する支持部材の対向面と、の間にスペーサー間隙を形成し、このスペーサー間隙内の流体(気体または液体)を一定の状態に保つことである。この考え方に基づき、本発明の電気機械変換装置は、課題を解決するための手段のところで述べた様な基本的な構成を有する。
【0011】
以下、図面を用いて、本発明による電気機械変換装置の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明の電気機械変換装置は、以下の実施形態の具体的形態、寸法、材料、要素間の相対位置関係などに限られるものではなく、本発明の上記趣旨の範囲内で種々に変更、変形が可能である。また、構造的に可能であれば、以下の実施形態を適宜組み合わせることも可能である。例えば、図4の構造と図5の構造を組み合わせたり、図2−2の構造と図5の構造を組み合わせたりすることもできる。
【0012】
(第1の実施形態)
図1(a)に、第1の実施形態を示す模式斜視図を、図1(b)に、X-X’での断面の模式図を示す。200はセル、201はエレメント、106は基板、110は支持部材、111はスペーサー手段であるスペーサー(ここでは薄片)、112はスペーサー間隙である。尚、図1(a)では、エレメント201に接続された配線108、109は、図示していない。CMUTのエレメント201は、基板106上に配置(形成)されている。CMUTが形成された基板106は、スペーサー111を介して、支持部材110により支持されている。このスペーサー111を用いる構造にすることで、基板106の裏面と、これに対向した支持部材110の対向面と、の間に、スペーサー間隙112が形成される。スペーサー間隙112内は、間隙内の流体(気体または液体)を一定の状態に保つことのできる構造となっている。本明細書中では、スペーサー間隙内が均一の流体(気体または液体)で満たされた状態であることを、一定の状態に保たれている状態と定義する。この様に、本実施形態では、第2の電極105と間隙104を介して対向して設けられた第1の電極102を含む振動膜を夫々有する複数のセル200を基板106上に備え、送信動作及び受信動作の少なくとも一方を行うことができる。そして、一定の状態に保たれているスペーサー間隙112が、セルないしエレメントを備えた基板106の面とは逆側の基板の裏面と、該裏面に対向した支持部材110の面と、の間に形成されている。
【0013】
ここで、CMUTを配置した基板106の垂直方向(CMUT形成面側)から、基板106内に弾性波が進入した場合を考える。弾性波は、基板106の深さ方向に伝わり、基板106の裏面(CMUT非形成面)に到達する。基板106の裏面(CMUT非形成面)に到達した弾性波は、その面で反射する弾性波と、その面に接する部材内に透過する弾性波に分かれる。基板106の裏面(CMUT非形成面)の音響インピーダンスZ0と、それに面する部材の音響インピーダンスZ1の差が大きいと、CMUT非形成面で反射する割合Rが大きくなる。この割合Rは、以下の式(1)で表すことができる。
R=(Z1−Z0)/(Z0+Z1)・・・式(1)
【0014】
また、基板裏面の音響インピーダンスZ0と、それに接する部材の音響インピーダンスZ1の差が小さいと、裏面に接する部材の内部に進入(透過)する割合Tが大きくなる。この割合Tは、以下の式(2)で表すことができる。
T=2×Z1/(Z0+Z1)・・・式(2)
この部材に進入した弾性波は、部材の内部で反射して、基板106内に一部が戻ってくる。基板106内に戻ってきた弾性波は、基板106上に配置したCMUTに到達し、送受信ノイズとなる。こうして、送受信特性を劣化させる要因となる。
【0015】
本実施形態では、CMUTを形成する基板106には、シリコンやガラス基板が用いられる。音響インピーダンスは、単結晶シリコンで20[MRayl]程度、ガラスでは10〜20[MRayl]程度である。一方、基板裏面に接する部材である流体の音響インピーダンスは、2[MRayl]以下である。本発明では、基板106の裏面(CMUT非形成面)に接する部材として流体を用いており、この音響インピーダンスは、基板106の音響インピーダンスに比べて小さな値を持つ。よって、基板106に進入した弾性波は、大部分がCMUT非形成面で反射して、CMUT裏面以降の(すなわち図1の各部の下側に配置された)部材に殆ど伝わらない。そのため、裏面(CMUT非形成面)以降の部材内での反射によりCMUTに戻ってくる弾性波を小さくすることができる。すなわち、裏面以降の部材内での反射波によるCMUTの送受信特性劣化を少なくすることができる。
【0016】
本実施形態のスペーサー111は、金属、樹脂などにより容易に構成することができる。スペーサー111は、基板106の裏面(CMUT非形成面)と支持部材110の間に、接着剤などを介して、固定されている。このスペーサー111の高さは、裏面(CMUT非形成面)と支持部材110の間隙を規定している。この間隙の高さは、裏面(CMUT非形成面)で確実に弾性波を反射させる観点から、使用する上限周波数の波長(最小波長)に比べ或る程度以上の割合となっている必要がある。具体的には、スペーサー111の高さは、使用する上限周波数の波長の長さの16分の1以上であることが望ましい。また、スペーサー111を用いることにより、基板106の裏面(CMUT非形成面)に接する固体の面積を最小限に止めることができるため、裏面(CMUT非形成面)から支持部材110に伝わる弾性波を低減することができる。すなわち、もしスペーサー111の部分から支持部材110に弾性波が進入し、支持部材110内で反射しても、基板106に戻ってくる量を最小限に抑えることができる。また、本実施形態では、スペーサー111を用いて、基板106と支持部材110の間にスペーサー間隙112を形成する構造となっている。スペーサー111を用いることで、スペーサー間隙112を容易に形成することができ、更にスペーサー間隙112の高さを正確に規定することができる。また、基板106を支持部材110により面全体で支持する構成に比べて、基板106と支持部材110との熱膨張率の差などによる反りの発生を低減できる構成となっている。
【0017】
本実施形態で、スペーサー間隙112内の流体の状態を一定の状態に保つには、図1(c)の模式図で示したように、スペーサー間隙112をスペーサー111と封止材113で囲んで、スペーサー間隙112を封止するという方法がある。こうして、スペーサー間隙内に気体または液体が封入される。封止材113は、エポキシ樹脂系接着剤をはじめとする接着剤を用いることができる。それ以外にも、金属、ゴム、その他の合成樹脂など、スペーサー間隙112内の流体を一定の状態に保持できるものであれば、用いることができる。
【0018】
本実施形態での基板106の厚さは、基板106に進入した弾性波が基板106の裏面(CMUT非形成面)で反射する際の周波数等を考慮して決めることができる。基板106内での弾性波の波長λが基板厚さtの整数倍になると、送受信特性に影響を与えやすくなるので、基板厚さtは、使用する周波数帯域の上限の波長(最小波長)の長さλを考慮して決めるのがよい。そのため、用いる周波数が高くなるほど、薄い厚さの基板106を用いることになる。例えば、基板内の音速が6000(m/sec)で、使用する周波数の上限が10MHzとすると、基板106の厚さtは、300μm以下にする必要がある。更に、高い周波数15MHzで用いる場合には、より薄い200μm以下の基板106の厚tにする必要がある。
【0019】
本実施形態では、スペーサー111を用いて、基板106を支持部材110で支える構造になっている。そのため、基板厚の薄い基板106を用いた場合でも、支持部材110とスペーサー111により、基板106の機械的強度を保つことができる。よって、基板106をスペーサーで支持している部分に外力がかかっても機械的な変形が起こりにくく、基板上のCMUTの送受信特性が変化し難い静電容量型電気機械変換装置を提供することが出来る。また、図1(c)の構造では、封止部材113により、基板106と支持部材110との間のスペーサー間隙112内の流体を一定の状態に保つ構造としている。そのため、アレイCMUT周辺で用いることがあるジェルや油などがスペーサー間隙112内に進入することがなくなる。これにより、基板106の裏面(CMUT非形成面)に接する物質の状態を変化することなく一定に保つことができ、使用する環境により送受信特性が影響を受け難い電気機械変換装置を提供できる。本実施形態の支持部材110は、プリント基板(PWB、PCB)やフレキシブル基板(FPC)、樹脂材料、金属材料、ガラスなど、基板106を支持することができるものであれば、使用することができる。
【0020】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。第2の実施形態は、スペーサー間隙112内の流体に関する。それ以外は、第1の実施形態と同じである。本実施形態では、スペーサー間隙112内の流体が気体であることが特徴である。まず、スペーサー間隙112内の流体が、大気圧に対して減圧した状態である構成を説明する。大気圧に対して減圧することで、スペーサー間隙112内の音響インピーダンスZgを、基板106の音響インピーダンスZ0に比べて、5桁以下(10の5乗分の1以下)の値まで小さくすることができる。減圧の程度としては、大気圧以下であれば幾らでもよい。電気機械変換装置全体を真空ポンプ等で減圧し、スペーサー間隙112を封止することで容易に一定の状態に保持することができる。この様に、本実施形態では、スペーサー間隙112内を、大気圧に対して減圧した状態に保持している。そのため、基板106の裏面(CMUT非形成面)以降に配置した支持部材110内で反射する弾性波による送受信特性劣化がより少ない電気機械変換装置を提供することが出来る。
【0021】
本実施形態の変形例として、スペーサー間隙112内に気体を充填する構成がある。充填する気体には、窒素、アルゴン、炭酸ガス、空気など気体であれば用いることができるが、不活性なガスであればなお望ましい。スペーサー間隙112内への気体の保持の仕方としては、ガスの雰囲気中で封止部材113を用いて封止を行うことで、容易に一定の状態に保持できる。スペーサー間隙112内に気体を封止することで、基板106の音響インピーダンスZgと比べて、気体の音響インピーダンスは5桁程度低い値を有するので、基板106の裏面(CMUT非形成面)で弾性波をカットしやすい。また、減圧する構成に比べて、より容易に封止を行え、更に、封止する構成も簡単なものにでき、信頼性の高い構成にすることができる。また、スペーサー間隙112に気体が充填されているので、基板106に外力が加わった時でも、基板106の撓みが起こりにくく、基板撓みによる送受信特性への影響が出難い。
【0022】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を説明する。第3の実施形態は、スペーサー間隙112内の流体に関する。それ以外は、第1の実施形態と同じである。本実施形態では、スペーサー間隙112内の流体が液体であることが特徴である。液体を用いることで、スペーサー間隙112内の音響インピーダンスZgを基板106の値より10分の1程度まで低くすることができる。液体としては、水、油など、液体であれば用いることができる。保持の仕方としては、スペーサー間隙112内部に液体を充填した後、封止部材113を用いて封止する方法がある。また、常にスペーサー間隙112内に液体が満たされる構造となっている機構を用いることもできる。
【0023】
本実施形態では、スペーサー間隙112内を、液体が充満した状態に保持している。そのため、スペーサー間隙112内を気体で封止した場合(第2の実施形態)に比べて、環境温度が変化した際の流体の体積変化が小さい。よって、環境温度が変化した場合にも、流体から基板106に応力がかかり難い。また、スペーサー間隙112内の液体は自由に動けるため、スペーサー間隙112内を樹脂などで充満して固定してしまう場合に比べて、基板106や支持部材110と樹脂との熱膨張係数の違いによる応力などが発生し難い。そのため、基板106の裏面(CMUT非形成面)以降に配置した支持部材110内で反射する弾性波による送受信特性の劣化が少なく、環境温度の変化によって基板106が変形し難い電気機械変換装置を提供することが出来る。
【0024】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態を説明する。第4の実施形態は、スペーサー111を配置する領域に関する。それ以外は、第1から第3の何れかの実施形態と同じである。本実施形態は、エレメント201を配置した領域の基板裏側(CMUT非形成面)にスペーサー111を配置しないことが特徴である。図1(b)からも分かるように、基板106の厚さ方向から見て、スペーサー111を配置する領域は、エレメント201を配置した領域と重ならないように配置されている。そのため、エレメント201を配置した領域の基板裏側には、スペーサー間隙112に充填した流体が必ず接する構成になっている。ここで、スペーサー111を介して支持部材110に弾性波が進入し、内部で反射して、再びスペーサー111を介して基板106内に戻って弾性波があるとする。しかし、基板106の厚さ方向から見て、スペーサー111上にはエレメント201は配置されていないので、再び基板106に戻ってきた弾性波がエレメントのCMUT送受信特性に影響を与える割合を減らすことができる。
【0025】
以上の様に、本実施形態では、エレメント201を配置していない基板106領域の裏面(CMUT非形成面)にスペーサー111を備えている。そのため、基板106の裏面(CMUT非形成面)以降に配置した支持部材110内で反射する弾性波による送受信特性劣化がより少ない電気機械変換装置を提供できる。
【0026】
(第5の実施形態)
次に、図2−1と図2−2を用いて、第5の実施形態を説明する。第5の実施形態は、スペーサー111を配置する領域に関する。それ以外は、第4の実施形態と同じである。本実施形態は、エレメント201外に設けられた配線108、109を配置している領域の基板裏面(CMUT非形成面)に、スペーサー111を備えていることが特徴である。
【0027】
図2−1(a)は、本実施形態を説明する断面の模式図である。アレイCMUTでは、エレメント201と直流電位印加手段301、駆動検出手段302を接続させるために、配線108、109が用いられている(図8参照)。これらの配線108、109を配置するために、エレメント201は基板106上において一定の間隔をあけて配置されている。本実施形態によると、この配線108、109を配置した領域202の裏面(CMUT非形成面)に、スペーサー111が配置されている。つまり、基板106の厚さ方向から見て、スペーサー111を配置した領域が、エレメント201を配置した領域に含まれない構成となっている。そのため、スペーサー111を介して支持部材110から基板106に戻ってきた弾性波があるとしても、CMUTの送受信特性に影響を与える割合を減らすことができる。また、スペーサー111を、CMUTアレイ内に複数分散して配置できるため、同時に基板106を支持する強度を高めることができ、外力に対してより強い構成とできる。この様に、本実施形態では、第1の電極または第2の電極に接続され、基板106の外周部と送受信動作のための電気信号をやりとりする配線が、送受信動作を行う単位となる夫々セルを含む複数のエレメントの間において、基板上に配置される。そして、配線を配置した基板106の領域の裏側の基板の裏面の領域に、スペーサー手段であるスペーサー111が配置されている。
【0028】
本実施形態の変形例として、エレメント201の配置間隔と同じ間隔またはその複数倍の間隔で(ただし、ずれている)、ライン状のスペーサー111を複数並べる構成を取ることができる。図2−1(b)は、ライン状のスペーサー111を説明する模式図であり、図2−1(c)はX-X’断面の模式図である。図2−1(b)では、スペーサー111の構造が確認し易いように、基板106と支持部材110を分離して記載している。エレメント201は、等間隔に2次元に配置されており、その配線108、109が一方向に引き出されている(図2−1(b)では、不図示)。ライン状のスペーサー111は、エレメント201の間に配置された配線領域の基板裏面に、エレメントの配置間隔と同じ間隔を持って配置されている。本実施形態では、ライン状のスペーサー111を用いることで、一列にスペーサー間隙112が並んでいる構成となっている。このスペーサー間隙112の一方向から、流体(特に液体)を充填することで、既に間隙に存在している流体を押し出しながら、充填したい流体でスペーサー間隙全体を満たすことができる。言い換えると、他の流体が(例えば、液体の内部に気体などが)スペーサー間隙内に残留することなく、スペーサー間隙の内部を所望の流体で容易に満たすことができる流体のガイド機能を、スペーサー114が兼ねられる。これにより、スペーサー間隙112へ流体を充填するガイド機能を有しており、且つ支持部材110内で反射する弾性波による送受信特性劣化がより少なく、外力に対してより基板106が変形し難い電気機械変換装置を提供できる。
【0029】
また、図2−2(d)、(e)で示すように、ライン状のスペーサー111が、エレメント201の配置間隔の整数倍の間隔で配置される構成を取ることもできる。これにより、用いるスペーサー111の本数を減らしながら、基板106の支持強化機能とスペーサー間隙112内への流体充填ガイド機能を両立させることができる。
【0030】
(第6の実施形態)
次に、図3を用いて、第6の実施形態を説明する。第6の実施形態は、スペーサー111に関する。それ以外は、第4または第5の実施形態と同じである。図3は、本実施形態のスペーサー111を説明する図であり、スペーサー111の構造が確認し易いように、基板106と支持部材110を分離して記載している。図3の基板106上には、2次元に配置したエレメント201のみを記載しているが、エレメントからの配線も備えている。本実施形態は、スペーサー111が封止部材113を兼ねることを特徴としている。スペーサー111の形状が、基板106の裏面(CMUT非形成面)の外周部に沿うようになっている。そのため、或る流体の雰囲気下で、支持部材110に予め固定(例えば、接着)したスペーサー111に、基板106を固定(例えば、接着)することで、容易にスペーサー間隙112内に流体を封止することができる。また、スペーサー111自体に接着効果を持った樹脂などを用いることで、流体を封止する工程をより簡略化できる。この樹脂に、熱硬化樹脂、UV硬化樹脂などを用いることで、この構成が簡単に実現できる。
【0031】
本実施形態では、スペーサー111が封止部材113(図1(c)参照)を兼ねているので、構成要素が少なく、且つ支持部材110内で反射する弾性波による送受信特性劣化が少ない電気機械変換装置を提供できる。
【0032】
(第7の実施形態)
次に、図4を用いて、第7の実施形態を説明する。第7の実施形態は、スペーサー手段であるスペーサー111の形態に関する。それ以外は、第1から第6の何れかの実施形態と同じである。図6で、115は、スペーサー構造ないし手段を有した基板である。本実施形態は、CMUTを配置する基板115の裏面(CMUT非形成面)の一部がスペーサー構造となっていることが特徴である。
【0033】
基板115の裏面(CMUT非形成面)に、溝116が形成されており、溝116がなく溝116の縁に沿った突出部はスペーサー手段として機能するようになっている。この溝116は、MEMS技術を用いたドライエッチングやウェットエッチングにより容易に形成することができる。また、機械加工技術を用いて形成することもできる。本実施形態では、基板115がスペーサー手段の機能を兼ねているため、構成する部品を減らすことができる。また、基板115に溝116を形成してスペーサー間隙112を形成するので、CMUT形成面から裏面(CMUT非形成面)までの高さを、基板115の厚さ精度で規定することができる。そのため、支持部材110表面と基板115表面の高さを正確に規定することができ、支持部材110表面に対するCMUT表面の高さズレが出難い構成となっている。また、基板115にシリコンを用いた場合は、基板115が熱を支持部材110に伝導させやすくなるので、エレメント部分や配線部分が発熱した場合でも、熱を逃がしやすい構成となり、発熱が送受信特性に影響を与え難い。
【0034】
以上の様に、本実施形態では、CMUTを配置する基板の裏面(CMUT非形成面)がスペーサー構造となっている。そのため、支持部材110に対するCMUT面の高さズレが小さく、且つ支持部材110内で反射する弾性波による送受信特性劣化が少ない電気機械変換装置を提供できる。
【0035】
(第8の実施形態)
次に、図5を用いて、第8の実施形態を説明する。第8の実施形態は、スペーサー111の形態に関する。それ以外は、第1から第7の何れかの実施形態と同じである。図5で、117は、スペーサー構造ないし手段を有した支持部材である。支持部材117には、表面に溝118が形成されており、溝118が形成されていない面(すなわち、溝118の縁に沿った支持部材の突出部)で、CMUTを備えた基板106を支える構造となっている。この溝118は、支持部材117を成形して作製する場合は、型を用いて容易に作製することができる。また、支持部材117の表面を機械加工して溝118を作製してもよい。
【0036】
本実施形態では、支持部材117がスペーサー手段の機能を兼ねているため、構成する部品を減らすことができる。また、支持部材117に溝118を形成してスペーサー間隙112を形成するので、CMUT形成面から裏面(CMUT非形成面)までの高さを、基板106の厚さ精度で規定することができる。そのため、支持部材117表面と基板106表面の高さを正確に規定することができ、支持部材117表面に対するCMUT表面の高さズレが出難い構成となっている。また、基板106にシリコンを用いた場合は、基板106が熱を支持部材110に伝導させやすくなるので、エレメント部分や配線部分が発熱した場合でも、熱を逃がしやすい構成となり、発熱が送受信特性に影響を与え難い。また、支持部材117に溝118を形成するので、第7の実施形態のように基板115にスペーサー機能を持たせる場合に比べて、比較的溝を深くしやすく、広いスペーサー間隙112を容易に形成することができる。そのため、スペーサー間隙112への流体の充填を容易にすることができ、より簡単な工程で作製できる。
【0037】
以上の様に、本実施形態では、CMUTを配置する基板106の支持部材117がスペーサー構造を有している。そのため、支持部材117に対するCMUT面の高さズレが小さく、且つ支持部材117内で反射する弾性波による周波数特性劣化が少ない電気機械変換装置を提供できる。
【0038】
(第9の実施形態)
次に、図6(a)を用いて、第9の実施形態を説明する。第9の実施形態は、封止の形態に関する。それ以外は、第1から第8の何れかの実施形態と同じである。図6(a)で、121は流体の注入孔、122は流体の抜き穴である。本実施形態では、スペーサー間隙112が、流体の注入穴121と流体の抜き穴122以外で、覆われている。スペーサー間隙112に流体を注入する際には、流体の注入穴121から流体をスペーサー間隙112内に流し込む。この際、既にスペーサー間隙112にあった流体は、流体の抜き穴122からスペーサー間隙112の外部に押し出されていく。スペーサー間隙112を所望の流体で充填した後、注入穴121と抜き穴122を封止して、スペーサー間隙112内の流体の状態を一定に保つようにすることもできる。
【0039】
本実施形態では、スペーサー間隙112に注入する入り口(121)と、間隙から抜け出る出口(122)を分けて設けているため、スペーサー間隙112内にあった流体の残存なく、スペーサー間隙112内への流体の充填を行うことができる。また、封止する場合は、封止する領域が少なくて済むため、より簡易な工程で、スペーサー間隙112の封止を行うことができる。以上の様に、本実施形態は、気体または液体をスペーサー間隙内に注入するための注入穴121と気体または液体をスペーサー間隙内から抜くための抜き穴122を有している。そのため、スペーサー間隙112内への流体の確実な充填を容易な方法で行うことができ、且つ支持部材110内で反射する弾性波による送受信特性劣化が少ない電気機械変換装置を提供できる。
【0040】
(第10の実施形態)
次に、図6(b)を用いて、第10の実施形態を説明する。第10の実施形態は、封止の形態に関する。それ以外は、第1から第9の何れかの実施形態と同じである。図6(b)で、123は弁である。本実施形態では、スペーサー間隙112と外部との間に、弁123が設けられていることが特徴である。この弁123は、スペーサー間隙112内の圧力が一定の大きさを越えると、スペーサー間隙内の流体を間隙外部に放出する機能を有しており、弁123があることにより、スペーサー間隙内の圧力が一定値以上になることがない。環境温度の変化などにより流体が膨張し、スペーサー間隙112内の圧力が上昇しすぎ、基板106に応力が掛かることがあり得る。しかし、スペーサー間隙内の圧力を調整するための圧力弁123の存在によりスペーサー間隙内の圧力がほぼ一定値に保たれ、CMUTの送受信特性が変化することを防ぐことができる。
【0041】
弁123は、スペーサー間隙112内の圧力が一定値以上になると弁が開き、スペーサー間隙112内の圧力を下げることができるものであれば、用いることができ、MEMS技術を用いて作製した圧力弁などを用いてもよい。その場合、CMUTを形成した基板106内に、MEMSの圧力弁を一体化して作りこむこともでき、その場合、構成要素を減らすことができる。以上の様に、本実施形態は、スペーサー間隙112内の圧力の上限を調整する弁123を有しているため、流体の体積変化によって送受信特性が受ける影響を減らすことができる。よって、スペーサー間隙112内の圧力変化による送受信特性への影響が少なく、且つ支持部材110内で反射する弾性波による送受信特性劣化が少ない電気機械変換装置を提供できる。
【0042】
(第11の実施形態)
次に、図7(a)を用いて第11の実施形態を説明する。第11の実施形態は、第1から第10の実施形態の何れかに記載の電気機械変換装置を用いた超音波測定装置に関する。図7(a)において、402は測定対象物、403は静電容量型電気機械変換装置、404は画像情報生成装置、405は画像表示器である。また、501、502は超音波、503は超音波送信信号情報、504は超音波受信信号、505は再現画像情報、400は超音波測定装置である。
【0043】
電気機械変換装置403から測定対象物402に向かって出力された超音波501は、測定対象物402の表面で、その界面での固有音響インピーダンスの差により、反射する。反射した超音波502は、電気機械変換装置403で受信され、受信信号の大きさや形状、時間の情報が超音波受信信号504の情報として画像情報生成装置404に送られる。一方、電気機械変換装置403から、送信超音波の大きさや形状、時間の情報が超音波送信信号情報503として、画像情報生成装置404に送られている。画像情報生成装置404では、超音波受信信号504と超音波送信信号情報503を基に、測定対象物402の画像信号を生成して再現画像情報505として送り、画像表示器405で表示される。
【0044】
本実施形態の電気機械変換装置403には、上記実施形態の何れかに記載したCMUTが用いられている。これにより、支持部材110内で反射する超音波による送受信特性劣化が少ないため、良好な特性を持つ送受信動作を行うことができる。よって、測定対象物402で反射した超音波502のより正確な情報を得ることができるため、測定対象物402の画像をより正確に再現することができる。尚、本実施形態は、上記の構成に限ったものではなく、図7(b)で示すように、別の超音波送信器(弾性波送信器)401と、本発明の電気機械変換装置403の両方を組み合わせた構成にしてもよい。
【0045】
本明細書中では、配線108により、エレメントの第1の電極(上部電極)102を直流電位印加手段301と接続し、配線109により、エレメントの第2の電極(下部電極)105を駆動検出手段302と接続した構成で説明している。本発明は、この構成に限ったものでなく、第1の電極(上部電極)102を駆動検出手段302に、第2の電極(下部電極)105を直流電位印加手段301と接続した構成にも適用できる。また、本明細書中では、基板106上に絶縁膜107を配置した構成で説明したが、本発明はこれに限ったものではない。基板106上の絶縁膜107が一部の領域内にある構成や、基板106に低抵抗を用いて基板106が第2の電極105の機能を有する構成にも適用できる。
【符号の説明】
【0046】
101・・振動膜、102・・第1の電極(上部電極)、104・・間隙、105・・第2の電極(下部電極)、106・・基板、110・・支持部材、112・・スペーサー間隙、200・・セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2の電極と間隙を介して対向して設けられた第1の電極を含む振動膜を夫々有する複数のセルを基板上に備え、前記第1の電極を振動させることによる弾性波の送信動作及び弾性波を受けて前記第1の電極が振動することによる弾性波の受信動作の少なくとも一方を行うことができる電気機械変換装置であって、
前記基板は、支持部材との間にスペーサー間隙が形成されるように、スペーサー手段を介して前記支持部材により支持され、
前記セルを備えた前記基板の面とは逆側の前記基板の裏面と、該裏面に対向した前記支持部材の面と、の間に前記スペーサー間隙が形成され、
前記スペーサー間隙内は、均一の気体または液体で満たされた状態に保たれていることを特徴とする電気機械変換装置。
【請求項2】
前記基板と前記支持部材の間のスペーサー間隙が、前記スペーサー手段と封止材により囲まれており、前記スペーサー間隙内に気体または液体が封入されていることを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換装置。
【請求項3】
前記第1の電極または前記第2の電極に接続され前記基板の外周部と送受信動作のための電気信号をやりとりする配線が、送受信動作を行う単位となる夫々前記セルを含む複数のエレメントの間において、前記基板上に配置され、
前記配線を配置した前記基板の領域の裏側の前記基板の裏面の領域に、前記スペーサー手段が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電気機械変換装置。
【請求項4】
前記基板に溝が形成されており、前記溝の縁に沿った前記基板の突出部が前記スペーサー手段の機能を有していることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項5】
前記支持部材に溝が形成されており、前記溝の縁に沿った前記支持部材の突出部が前記スペーサー手段の機能を有していることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項6】
前記気体または液体を前記スペーサー間隙内に注入するための注入穴と前記気体または液体を前記スペーサー間隙内から抜くための抜き穴を有していることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項7】
前記スペーサー間隙内の圧力を調整するための圧力弁を有していることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項8】
測定対象物への弾性波の送信及び測定対象物からの弾性波の受信の少なくとも一方を行う請求項1から7の何れか1項に記載の電気機械変換装置と、
前記電気機械変換装置からの送信信号の情報と受信信号の情報の少なくとも一方を用いて測定対象物の画像情報を生成する画像情報生成装置と、
を有することを特徴とする測定装置。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−62695(P2013−62695A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200068(P2011−200068)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】