電気溶融炉の溶融制御方法及び装置
【課題】溶融槽の流下口から被溶融物を排出する際に、溶融槽内部に局部的な低温部が発生して加熱温度が不均一になるのを防止し、堆積物を生じることなく被溶融物が安定して排出されるようにする。
【解決手段】非供用側電極3をトランス6に接続する第1導電路9と、供用側電極4をトランス6に接続する供用導電路10と、底部電極5と第1導電路9とを接続する第2導電路11とを設け、更に、第1導電路9にサイリスタ12を設けると共に、第2導電路11にサイリスタ13を設け、溶融槽1内の被溶融物Gを溶融させて流下口2から排出する際に、サイリスタ12,13により第1導電路9と第2導電路11に対する給電を排他的に交互に切替制御して溶融槽1内部の加熱温度を平坦化する。
【解決手段】非供用側電極3をトランス6に接続する第1導電路9と、供用側電極4をトランス6に接続する供用導電路10と、底部電極5と第1導電路9とを接続する第2導電路11とを設け、更に、第1導電路9にサイリスタ12を設けると共に、第2導電路11にサイリスタ13を設け、溶融槽1内の被溶融物Gを溶融させて流下口2から排出する際に、サイリスタ12,13により第1導電路9と第2導電路11に対する給電を排他的に交互に切替制御して溶融槽1内部の加熱温度を平坦化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気溶融炉の溶融制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高レベル放射性廃棄物を処理する方法として電気溶融炉を用いたガラス固化処理法が知られている。ガラスは高温の下では良導電性を有することから、溶融ガラスに直接電流を流すことによる通電発熱、即ち、通電により溶融ガラスの内部から発生するジュール熱によって連続的にガラスを溶融する方法が用いられており、この電気溶融炉を用いた高レベル放射性廃棄物のガラス固化処理法は、溶融槽内の溶融ガラスの表面に高レベル放射性廃棄物とガラス原料を供給し、溶融ガラスからの熱移動によりこれらを溶融し、被溶融物を炉底の流下口から炉外に取り出してキャニスターに充填し、冷却固化するものである。溶融槽内の溶融ガラスを高温に保持するためのエネルギーは、溶融槽の側壁上部に対向配置して溶融ガラスに接する対向電極に電流を流し、対向電極間にある溶融ガラスをジュール発熱させることにより供給される。
【0003】
高レベル放射性廃棄物には導電体である白金族元素が含まれ、白金族元素は比重が大きく炉底に堆積して良導電性層を形成するため、炉底に電流が集中するという問題がある。このような良導電性の堆積物は速やかに炉外に排出される必要があり、このため高レベル放射性廃棄物ガラス固化処理用の電気溶融炉は、溶融槽の側壁下部が炉底の流下口に向かって傾斜し、堆積物を流下口付近に集中させて炉外に排出することができる構造となっており、それ故に炉底が深い構造を有している。
【0004】
また、高レベル放射性廃棄物ガラス固化処理用の電気溶融炉では、炉の上方から供給された高レベル放射性廃棄物とガラス原料を加熱溶融するために、対向電極は溶融槽の側壁上部に設けているが、上記した溶融槽の構造から、炉底の流下口は対向電極と離間し、通電による加熱効果が炉底にまで及ばず、流下口付近にある被溶融物は温度が低くなり、流動性が低下して流下口から被溶融物を流出させることが困難になる問題がある。そこで、被溶融物を流下口から円滑に流出できるようにするために、炉底にも電極を設け、この炉底電極と側壁上部の対向電極との間に通電して被溶融物を加熱し、流下口付近の被溶融物の流動性を高める方法が用いられている。
【0005】
このような電気溶融炉の溶融槽に電極を配設する場合、装置コストの抑制、あるいは炉体の強度維持のために、電極の数はできるだけ少なくすることが好ましく、このために対向電極の一方と底部電極とを共用することが行われており、且つ、溶融槽内の領域毎に適正な温度を維持するために、対向電極に接続される導電路に電源を設けると共に、一方の対向電極と底部電極とを接続する導電路に別の電源を備え、各導電路に、各電極への電力供給を制御する手段として、比較的小型で、簡単な構造により容易に目的が達せられるサイリスタによるスイッチング手段を備えるようにしたものが特許文献1に示されている。
【0006】
図12は特許文献1の構成を表わす概要図であり、底部に流下口25を有し、側壁下部が該流下口25に向かって傾斜を有する溶融槽22と、該溶融槽22内に収容された被溶融物Gを加熱溶融するために、前記溶融槽22の側壁上部に対向配設された一対の対向電極23,23’と、該対向電極23,23’の一方(23’)を共用して前記溶融槽22の底部に設けられた底部電極24と、前記対向電極23,23’の相互間に通電する第1の導電路26を第1の電源27であるトランス28の二次コイル28a側に接続し、前記底部電極24と供用する一方の対向電極23’との間に通電する第2の導電路29を第2の電源30であるトランス31の二次コイル31a側に接続し、前記対向電極23,23’の相互間に通電する第1の導電路26に第1のスイッチング手段32(サイリスタ)を設け、前記底部電極24と一方の対向電極23’との間に通電する第2の導電路29に第2のスイッチング手段33(サイリスタ)を設け、共用する対向電極23’の位相を同相とする電気回路を形成している。
【0007】
図12に示した電気溶融炉において、溶融槽22内の被溶融物Gを溶融する際は、第1のスイッチング手段32を制御(点孤制御)して第1の導電路26を介し対向電極23,23’の相互間に通電することにより被溶融物Gの溶融を行う。この時、溶融槽22底部付近の被溶融物Gの温度は低くなっている。この状態から、溶融槽22内の被溶融物Gを流下口25から外部に排出する際は、前記対向電極23,23’への通電に加えて、第2のスイッチング手段33を制御(点孤制御)して第2の導電路29を介し底部電極24と一方の対向電極23’との間に通電して炉底部の被溶融物Gを溶融させることにより流下口25から排出するようにしている。
【特許文献1】特開平11−38186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記したように被溶融物Gを流下口25から外部に排出する際に、従来は対向電極23,23’への通電と、底部電極24と一方の対向電極23’への通電を同時に行って炉底部の被溶融物Gを溶融しているために次のような問題が生じていた。
【0009】
即ち、対向電極23,23’への通電時には、対向電極23,23’間に安定した電位分布が形成されて溶融槽22内上部の被溶融物Gは略均一温度に加熱されて溶融が行われる(炉底部の温度は低くなっている)が、対向電極23,23’への通電と、底部電極24と一方の対向電極23’への通電を同位相で同時に行った際には、底部電極24と左側の対向電極23との間は略同電位であって電位差が無いために電気の流れが生じ難く、図13に示すように電圧の干渉によって対向電極23,23’間の電位分布Aが、底部電極24と対向電極23’間の電位分布Bを右側に押されて歪められた分布となり、このために偏った対流が溶融槽22内に形成されることになって対向電極23の下部に低温部Zが生じてしまう問題がある。即ち、左側の対向電極23の下部には、図14、図15に示すように前記対向電極23,23’に通電する電圧V1と、底部電極24と対向電極23’に通電する電圧V2の差Xの電位が掛るのみであるために左側の対向電極23の下部に低温部Zが生じてしまう。
【0010】
このように、対向電極23の下部に生じた低温部Zにより、炉底部に温度差が生じ白金族元素の沈降が不均一となり、白金族元素を流下口から安定して排出することができないという問題が生じていた。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたもので、溶融槽の流下口から被溶融物を排出する際に、溶融槽内部に局部的な低温部が発生して加熱温度が不均一になるのを防止し、堆積物を生じることなく被溶融物が安定して排出されるようにした電気溶融炉の溶融制御方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、底部に流下口を有し側壁下部が流下口に向かって傾斜した溶融槽と、該溶融槽内に収容された被溶融物を加熱溶融するために、溶融槽の側壁上部に対向配置された対向電極と、該対向電極の一方と供用される溶融槽の底部に設けられた底部電極と、電源と、対向電極の非供用側電極を電源に接続する第1導電路と、対向電極の供用側電極を前記電源に接続する供用導電路と、底部電極と前記第1導電路とを接続する第2導電路と、を備えて溶融槽内の被溶融物を通電発熱により溶融する電気溶融炉の溶融制御方法であって、前記第1導電路に第1スイッチング手段を設けると共に、第2導電路に第2スイッチング手段を設け、溶融槽内の被溶融物を溶融させて流下口から排出する際に、第1スイッチング手段と第2スイッチング手段により第1導電路と第2導電路に対する給電を排他的に交互に切替制御して溶融槽内部の加熱温度を平坦化することを特徴とする電気溶融炉の溶融制御方法、に係るものである。
【0013】
上記電気溶融炉の溶融制御方法において、前記第1導電路と供用導電路を接続する第3導電路を設けると共に、該第3導電路に第3スイッチング手段を設け、該第3スイッチング手段は前記第2スイッチング手段とは同一に切替制御し且つ前記第1スイッチング手段に対しては排他的に交互に切替制御することは好ましい。
【0014】
又、上記電気溶融炉の溶融制御方法において、スイッチング手段がサイリスタであり、制御装置からのパルス制御信号によりサイリスタのゲート電圧を制御することによって給電の切り替えを行うことは好ましい。
【0015】
又、上記電気溶融炉の溶融制御方法において、前記被溶融物は高レベル放射性廃棄物を溶融固化処理するガラスである場合に適用できる。
【0016】
本発明は、底部に流下口を有し側壁下部が流下口に向かって傾斜した溶融槽と、該溶融槽内に収容された被溶融物を加熱溶融するために、溶融槽の側壁上部に対向配置された対向電極と、該対向電極の一方と供用される溶融槽の底部に設けられた底部電極と、電源と、対向電極の非供用側電極を電源に接続する第1導電路と、対向電極の供用側電極を前記電源に接続する供用導電路と、底部電極を第1導電路に接続する第2導電路と、を備えて溶融槽内の被溶融物を通電発熱によって溶融させる電気溶融炉の溶融制御装置であって、前記第1導電路に設けた第1スイッチング手段と、第2導電路に設けた第2スイッチング手段と、第1導電路と第2導電路に対する給電を排他的に交互に切り替える制御を行う制御装置とを備えたことを特徴とする電気溶融炉の溶融制御装置、に係るものである。
【0017】
上記電気溶融炉の溶融制御装置において、第1導電路と供用導電路を接続する第3導電路を設けると共に、該第3導電路に、前記第2スイッチング手段と同一に切り替え制御される第3スイッチング手段を設けることは好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記電気溶融炉の溶融制御方法及び装置によれば、溶融槽内の被溶融物を溶融させて流下口から排出する際に、第1スイッチング手段と第2スイッチング手段により対向電極間への給電と、底部電極と供用電極間への給電とを排他的に交互に切替制御して被溶融物を加熱溶融するようにしたので、底部電極と供用側電極との間における電位分布が溶融槽の内部全体に広がることにより溶融槽内部に低温部が生じて加熱温度が不均一になる問題が防止され、加熱温度が平坦化することによって堆積物を生じさせることなく被溶融物を安定して流出口から排出できるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明を実施する電気溶融炉の溶融制御装置の形態の一例を示す概要図である。図1中、1は底部に流下口2を有し側壁下部が流下口2に向かって傾斜した溶融槽、3,4は溶融槽1の側壁上部に対向して設けた対向電極であって、3は非供用側電極、4は供用側電極であり、5は供用側電極4と供用される溶融槽1の底部に設けた底部電極である。
【0021】
図1中、6,6’は電源7のトランスであり、該トランス6の二次コイル8の一端と非供用側電極3との間を第1導電路9により接続し、且つ二次コイル8の他端と供用側電極4との間を供用導電路10により接続し、更に、該トランス6’の二次コイル8’の一端と底部電極5を第2導電路11により接続し、且つ二次コイル8’の他端を供用導電路10に接続している。
【0022】
前記第1導電路9に第1スイッチング手段12を設けると共に、第2導電路11に第2スイッチング手段13を設ける。図1では第1スイッチング手段12及び第2スイッチング手段13としてサイリスタを用いた場合を示している。しかし、スイッチング手段12,13はその一方がONの時に他方がOFFになるように排他的に切り替えが可能なものであればよく、サイリスタ以外のものも採用することができる。
【0023】
図中、14は前記サイリスタ12(第1スイッチング手段)及びサイリスタ13(第2スイッチング手段)の切替制御と電力制御を行う制御装置である。制御装置14には切替指令値と電力設定値が予め設定されている。更に、制御装置には電源7の周期検出値16と、第1導電路9の電圧検出値17と、第1導電路9の電流検出値17’と、第2導電路11の電圧検出値18と、第2導電路11の電流検出値18’が入力されていると共に、被溶融物Gの溶融を行う溶融指令19と被溶融物Gを流下口2から排出させる排出指令20が入力されている。そして、制御装置14は、前記第1、第2スイッチング手段であるサイリスタ12,13をパルス制御信号50,51により制御して溶融槽1への給電を制御するようにしている。
【0024】
上記形態の作動を説明する。
【0025】
溶融槽1内の被溶融物Gを溶融する際は、制御装置14に溶融指令19が与えられる。すると、制御装置14は第1スイッチング手段であるサイリスタ12にパルス制御信号50を送ってゲート電圧を制御することにより、トランス6の二次コイル8から第1導電路9、対向電極3,4、供用導電路10の経路に対する給電を行う。この時、第1導電路9の電圧値17および電流値17’が検出されて電力演算値が予め制御装置14に設定された電力設定値になるように、サイリスタ12の図2に示す点弧角α(通常は0゜〜90゜)が制御されることにより対向電極3,4間に供給される電圧の実効値が調整される。ここで正弦波交流の電圧の実効値をE(ボルト)、最大瞬時値をEm(ボルト)とすると、電圧の実効値EはE=Em/√2=0.707Emである。この時電圧の実効値Eは最大値を示しており、従って点弧角αを大きくすることによって実際に供給される実効値Exを小さくなるように制御する。又、この点弧角制御のタイミングは電源7の周期を検出している周期検出値16に基づいて行われる。上記対向電極3,4への給電により、溶融槽1内上部の被溶融物Gは略均一温度に加熱され溶融される。この時、炉底部の被溶融物Gの温度は上部の被溶融物Gの温度より低くなっている。
【0026】
被溶融物Gを流下口2から外部に排出する際は、制御装置14に排出指令20が与えられる。すると、制御装置14はパルス制御信号50を第1スイッチング手段であるサイリスタ12に送ると共に、パルス制御信号51を第2スイッチング手段であるサイリスタ13に送ってゲート電圧を夫々制御し、第1導電路9による対向電極3,4への給電と、第2導電路11による底部電極5と供用側電極4への給電を排他的に交互に切り替えて行うよう制御する。
【0027】
図3は上記交互切替を行うシーケンス回路の一例を示したもので、サイリスタ12用の点弧角制御回路52からの点弧角指令53がAND回路54を介してサイリスタ12に入力され、又、サイリスタ13用の点弧角制御回路55からの点弧角指令56がAND回路57を介してサイリスタ13に入力されており、又、電源周期毎にON/OFF信号を繰り返して出力する交互条件回路58からのON/OFF信号59が前記AND回路54に入力され、且つ前記ON/OFF信号59はNOT回路60を介して前記AND回路57に入力されている。これにより、サイリスタ12,13の一方がONの時には他方は必ずOFFになるように排他的に切り替えられるように制御される。
【0028】
この時、サイリスタ12は、第1導電路9の電力値が制御装置14に設定された電力設定値になるように図2の点弧角αが制御されることで給電量が調整され、又サイリスタ13は、第2導電路11の電力値が制御装置14に設定された電力設定値になるように図2の点弧角αが制御されて給電量が調整される。
【0029】
尚、上記したように、サイリスタ12による対向電極3,4間への給電と、サイリスタ13による底部電極5と供用側電極4間への給電とを交互に切り替えて行うと、両サイリスタ12,13によって同時に給電した場合に比して給電量が半減することになる。
【0030】
このため、制御装置14は、上記切替制御によっても、被溶融物Gを溶融する必要給電量が得られるように、自動的にサイリスタ12,13のゲート電圧を変えて点弧角を制御し、電圧実効値を増加して第1導電路9及び第2導電路11の電力値が電力設定値になるように制御する。
【0031】
又、サイリスタ12,13の点弧角を制御して給電量を最大限に増加してもまだ不足している場合には、トランス6,6’のタップを高電圧側に切り替えることによって、必要給電量が確保されるようにする。
【0032】
なお上記は電圧検出器17および18、電流検出器17’および18’より演算した電力値を制御装置14に予め設定した電力設定値に一致させる電力制御であるが、電圧値17および18に対し制御装置14に電圧設定値を予め設定し一致させる電圧制御、または、電流値17’および18’に対し制御装置14に電流設定値を予め設定し一致させる電流制御についても実施可能である。
【0033】
上記したように、対向電極3,4間への通電と、底部電極5と供用側電極4の間への通電とを排他的に切り替えると、対向電極3,4間への通電時には図4に示すように対向電極3,4間に安定した電位分布Aが形成されて溶融槽1上部の被溶融物は良好に溶融され、一方、底部電極5と供用側電極4間への通電時には、図5に示すように溶融槽1内に広がるように安定した電位分布Bが形成されて溶融槽1内底部の被溶融物が良好に溶融されるようになる。
【0034】
この時、例えば溶融槽1内部の被溶融物の上部の温度が1000℃、下部の温度が800℃であった場合には、例えば上部での抵抗率に対して下部での抵抗率は約10倍程度に大きくなる。従って、図6に示すように、溶融槽1の被溶融物Gを抵抗値で表わし、仮に対向電極3,4間の抵抗を1Ω、底部電極5と供用側電極4間の抵抗を10Ωとすると、対向電極3,4間へ通電される時には抵抗が1Ωと小さい溶融槽1内上部の経路Iを通って電気は流れる。
【0035】
一方、切り替わって底部電極5と供用側電極4間に通電される時には、抵抗10Ωの底部電極5と供用側電極4の経路IIを通って電気が流れることになるが、この時、底部電極5と非供用側電極3と供用側電極4の経路IIIの抵抗は10Ω+1Ω=11Ωであり、経路IIの抵抗10Ωとの差が小さい(差は1Ω)ために、経路IIIを通っても電気は流れることになる。
【0036】
このため、底部電極5からの電位分布は図5に示すように溶融槽1の内部全体に広がって流れるようになるため、溶融槽1内部に低温部が生じて加熱温度が不均一になる問題は防止され、加熱温度が平坦化されることにより堆積物が発生する問題は防止される。これにより、溶融槽1内の被溶融物を安定に溶融して流下口2から外部に排出することができる。
【0037】
図8は本発明を実施する電気溶融炉の溶融制御装置の他の形態を示すもので、この形態では、図1の形態において、前記第1導電路9と供用導電路10とを導電材の第3導電路61によって接続すると共に、該第3導電路61に第3スイッチング手段としてのサイリスタ62を設けている。そして、第3スイッチング手段であるサイリスタ62は、前記第2スイッチング手段であるサイリスタ13とは同一に切替制御され且つ前記第1スイッチング手段であるサイリスタ12に対しては排他的に交互に切替制御されるようにしている。
【0038】
図8の形態では、図9の如く対向電極3,4間への通電される時には、第3スイッチング手段であるサイリスタ62が第2スイッチング手段であるサイリスタ13と共にOFFとなっているため、図6と同様に抵抗が1Ωと小さい溶融槽1内上部の経路Iを通って電気は流れる。
【0039】
一方、切り替わって図10の如く底部電極5と供用側電極4間に通電される時には、抵抗10Ωの底部電極5と供用側電極4間の経路IIを通って電気が流れるが、この時、第3スイッチング手段のサイリスタ62が第2スイッチング手段のサイリスタ13と共にONとなって対向電極3が第3導電路61によって供用導電路10に接続されており且つ第3導電路61は導電材であるために第3導電路61を通る経路IVの抵抗は略10Ωであり、前記底部電極5と供用側電極4間の経路IIの抵抗10Ωと同一であるため、底部電極からの電位分布を図11に示すように溶融槽1の内部全体に広がって流れるようになり、よって、溶融槽1内部に低温部が生じて加熱温度が不均一になる問題が更に確実に防止され、加熱温度が平坦化することによって堆積物が発生する問題を防止することができる。
【0040】
尚、本発明の電気溶融炉の溶融制御方法及び装置においては、スイッチング手段にサイリスタを用いた場合について例示したが、他の切り替え手段を用いても良いこと、スイッチング手段に対応するように複数の電源を備えるようにしてもよいこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を実施する電気溶融炉の溶融制御装置の形態の一例を示す概要図である。
【図2】サイリスタの点弧角制御の方法を示す線図である。
【図3】交互切替を行うシーケンス回路の説明図である。
【図4】図1の対向電極間への通電時の電位分布を表わす図である。
【図5】図1の底部電極と供用側電極間への通電時の電位分布を表わす図である。
【図6】図1の溶融槽の被溶融物を抵抗値で表わし、対向電極間への通電時の電気の流れ経路を示す図である。
【図7】図1の底部電極と供用側電極間への通電時の電気の流れ経路を示す図である。
【図8】本発明を実施する電気溶融炉の溶融制御装置の他の形態を示す概要図である。
【図9】図8の溶融槽の被溶融物を抵抗値で表わし、対向電極間への通電時の電気の流れ経路を示す図である。
【図10】図8の底部電極と供用側電極間への通電時の電気の流れ経路を示す図である。
【図11】図8の底部電極と供用側電極間への通電時の電位分布を表わす図である。
【図12】従来の電気溶融炉の概要図である。
【図13】図12の電気溶融炉で対向電極間への通電と、底部電極と一方の対向電極間への通電を行った場合の電位分布を表わす図である。
【図14】対向電極に通電する電圧と、底部電極と対向電極に通電する電圧を表わす線図である。
【図15】図14の電位差を示す線図である。
【符号の説明】
【0042】
1 溶融槽
2 流下口
3 対向電極(非供用側電極)
4 対向電極(供用側電極)
5 底部電極
7 電源(トランス)
9 第1導電路
10 供用導電路
11 第2導電路
12 サイリスタ(第1スイッチング手段)
13 サイリスタ(第2スイッチング手段)
14 制御装置
20 排出指令
50 パルス制御信号
51 パルス制御信号
61 第3導電路
62 サイリスタ(第3スイッチング手段)
A 電位分布
B 電位分布
G 被溶融物
Z 低温部
α 点弧角
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気溶融炉の溶融制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高レベル放射性廃棄物を処理する方法として電気溶融炉を用いたガラス固化処理法が知られている。ガラスは高温の下では良導電性を有することから、溶融ガラスに直接電流を流すことによる通電発熱、即ち、通電により溶融ガラスの内部から発生するジュール熱によって連続的にガラスを溶融する方法が用いられており、この電気溶融炉を用いた高レベル放射性廃棄物のガラス固化処理法は、溶融槽内の溶融ガラスの表面に高レベル放射性廃棄物とガラス原料を供給し、溶融ガラスからの熱移動によりこれらを溶融し、被溶融物を炉底の流下口から炉外に取り出してキャニスターに充填し、冷却固化するものである。溶融槽内の溶融ガラスを高温に保持するためのエネルギーは、溶融槽の側壁上部に対向配置して溶融ガラスに接する対向電極に電流を流し、対向電極間にある溶融ガラスをジュール発熱させることにより供給される。
【0003】
高レベル放射性廃棄物には導電体である白金族元素が含まれ、白金族元素は比重が大きく炉底に堆積して良導電性層を形成するため、炉底に電流が集中するという問題がある。このような良導電性の堆積物は速やかに炉外に排出される必要があり、このため高レベル放射性廃棄物ガラス固化処理用の電気溶融炉は、溶融槽の側壁下部が炉底の流下口に向かって傾斜し、堆積物を流下口付近に集中させて炉外に排出することができる構造となっており、それ故に炉底が深い構造を有している。
【0004】
また、高レベル放射性廃棄物ガラス固化処理用の電気溶融炉では、炉の上方から供給された高レベル放射性廃棄物とガラス原料を加熱溶融するために、対向電極は溶融槽の側壁上部に設けているが、上記した溶融槽の構造から、炉底の流下口は対向電極と離間し、通電による加熱効果が炉底にまで及ばず、流下口付近にある被溶融物は温度が低くなり、流動性が低下して流下口から被溶融物を流出させることが困難になる問題がある。そこで、被溶融物を流下口から円滑に流出できるようにするために、炉底にも電極を設け、この炉底電極と側壁上部の対向電極との間に通電して被溶融物を加熱し、流下口付近の被溶融物の流動性を高める方法が用いられている。
【0005】
このような電気溶融炉の溶融槽に電極を配設する場合、装置コストの抑制、あるいは炉体の強度維持のために、電極の数はできるだけ少なくすることが好ましく、このために対向電極の一方と底部電極とを共用することが行われており、且つ、溶融槽内の領域毎に適正な温度を維持するために、対向電極に接続される導電路に電源を設けると共に、一方の対向電極と底部電極とを接続する導電路に別の電源を備え、各導電路に、各電極への電力供給を制御する手段として、比較的小型で、簡単な構造により容易に目的が達せられるサイリスタによるスイッチング手段を備えるようにしたものが特許文献1に示されている。
【0006】
図12は特許文献1の構成を表わす概要図であり、底部に流下口25を有し、側壁下部が該流下口25に向かって傾斜を有する溶融槽22と、該溶融槽22内に収容された被溶融物Gを加熱溶融するために、前記溶融槽22の側壁上部に対向配設された一対の対向電極23,23’と、該対向電極23,23’の一方(23’)を共用して前記溶融槽22の底部に設けられた底部電極24と、前記対向電極23,23’の相互間に通電する第1の導電路26を第1の電源27であるトランス28の二次コイル28a側に接続し、前記底部電極24と供用する一方の対向電極23’との間に通電する第2の導電路29を第2の電源30であるトランス31の二次コイル31a側に接続し、前記対向電極23,23’の相互間に通電する第1の導電路26に第1のスイッチング手段32(サイリスタ)を設け、前記底部電極24と一方の対向電極23’との間に通電する第2の導電路29に第2のスイッチング手段33(サイリスタ)を設け、共用する対向電極23’の位相を同相とする電気回路を形成している。
【0007】
図12に示した電気溶融炉において、溶融槽22内の被溶融物Gを溶融する際は、第1のスイッチング手段32を制御(点孤制御)して第1の導電路26を介し対向電極23,23’の相互間に通電することにより被溶融物Gの溶融を行う。この時、溶融槽22底部付近の被溶融物Gの温度は低くなっている。この状態から、溶融槽22内の被溶融物Gを流下口25から外部に排出する際は、前記対向電極23,23’への通電に加えて、第2のスイッチング手段33を制御(点孤制御)して第2の導電路29を介し底部電極24と一方の対向電極23’との間に通電して炉底部の被溶融物Gを溶融させることにより流下口25から排出するようにしている。
【特許文献1】特開平11−38186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記したように被溶融物Gを流下口25から外部に排出する際に、従来は対向電極23,23’への通電と、底部電極24と一方の対向電極23’への通電を同時に行って炉底部の被溶融物Gを溶融しているために次のような問題が生じていた。
【0009】
即ち、対向電極23,23’への通電時には、対向電極23,23’間に安定した電位分布が形成されて溶融槽22内上部の被溶融物Gは略均一温度に加熱されて溶融が行われる(炉底部の温度は低くなっている)が、対向電極23,23’への通電と、底部電極24と一方の対向電極23’への通電を同位相で同時に行った際には、底部電極24と左側の対向電極23との間は略同電位であって電位差が無いために電気の流れが生じ難く、図13に示すように電圧の干渉によって対向電極23,23’間の電位分布Aが、底部電極24と対向電極23’間の電位分布Bを右側に押されて歪められた分布となり、このために偏った対流が溶融槽22内に形成されることになって対向電極23の下部に低温部Zが生じてしまう問題がある。即ち、左側の対向電極23の下部には、図14、図15に示すように前記対向電極23,23’に通電する電圧V1と、底部電極24と対向電極23’に通電する電圧V2の差Xの電位が掛るのみであるために左側の対向電極23の下部に低温部Zが生じてしまう。
【0010】
このように、対向電極23の下部に生じた低温部Zにより、炉底部に温度差が生じ白金族元素の沈降が不均一となり、白金族元素を流下口から安定して排出することができないという問題が生じていた。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたもので、溶融槽の流下口から被溶融物を排出する際に、溶融槽内部に局部的な低温部が発生して加熱温度が不均一になるのを防止し、堆積物を生じることなく被溶融物が安定して排出されるようにした電気溶融炉の溶融制御方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、底部に流下口を有し側壁下部が流下口に向かって傾斜した溶融槽と、該溶融槽内に収容された被溶融物を加熱溶融するために、溶融槽の側壁上部に対向配置された対向電極と、該対向電極の一方と供用される溶融槽の底部に設けられた底部電極と、電源と、対向電極の非供用側電極を電源に接続する第1導電路と、対向電極の供用側電極を前記電源に接続する供用導電路と、底部電極と前記第1導電路とを接続する第2導電路と、を備えて溶融槽内の被溶融物を通電発熱により溶融する電気溶融炉の溶融制御方法であって、前記第1導電路に第1スイッチング手段を設けると共に、第2導電路に第2スイッチング手段を設け、溶融槽内の被溶融物を溶融させて流下口から排出する際に、第1スイッチング手段と第2スイッチング手段により第1導電路と第2導電路に対する給電を排他的に交互に切替制御して溶融槽内部の加熱温度を平坦化することを特徴とする電気溶融炉の溶融制御方法、に係るものである。
【0013】
上記電気溶融炉の溶融制御方法において、前記第1導電路と供用導電路を接続する第3導電路を設けると共に、該第3導電路に第3スイッチング手段を設け、該第3スイッチング手段は前記第2スイッチング手段とは同一に切替制御し且つ前記第1スイッチング手段に対しては排他的に交互に切替制御することは好ましい。
【0014】
又、上記電気溶融炉の溶融制御方法において、スイッチング手段がサイリスタであり、制御装置からのパルス制御信号によりサイリスタのゲート電圧を制御することによって給電の切り替えを行うことは好ましい。
【0015】
又、上記電気溶融炉の溶融制御方法において、前記被溶融物は高レベル放射性廃棄物を溶融固化処理するガラスである場合に適用できる。
【0016】
本発明は、底部に流下口を有し側壁下部が流下口に向かって傾斜した溶融槽と、該溶融槽内に収容された被溶融物を加熱溶融するために、溶融槽の側壁上部に対向配置された対向電極と、該対向電極の一方と供用される溶融槽の底部に設けられた底部電極と、電源と、対向電極の非供用側電極を電源に接続する第1導電路と、対向電極の供用側電極を前記電源に接続する供用導電路と、底部電極を第1導電路に接続する第2導電路と、を備えて溶融槽内の被溶融物を通電発熱によって溶融させる電気溶融炉の溶融制御装置であって、前記第1導電路に設けた第1スイッチング手段と、第2導電路に設けた第2スイッチング手段と、第1導電路と第2導電路に対する給電を排他的に交互に切り替える制御を行う制御装置とを備えたことを特徴とする電気溶融炉の溶融制御装置、に係るものである。
【0017】
上記電気溶融炉の溶融制御装置において、第1導電路と供用導電路を接続する第3導電路を設けると共に、該第3導電路に、前記第2スイッチング手段と同一に切り替え制御される第3スイッチング手段を設けることは好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記電気溶融炉の溶融制御方法及び装置によれば、溶融槽内の被溶融物を溶融させて流下口から排出する際に、第1スイッチング手段と第2スイッチング手段により対向電極間への給電と、底部電極と供用電極間への給電とを排他的に交互に切替制御して被溶融物を加熱溶融するようにしたので、底部電極と供用側電極との間における電位分布が溶融槽の内部全体に広がることにより溶融槽内部に低温部が生じて加熱温度が不均一になる問題が防止され、加熱温度が平坦化することによって堆積物を生じさせることなく被溶融物を安定して流出口から排出できるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明を実施する電気溶融炉の溶融制御装置の形態の一例を示す概要図である。図1中、1は底部に流下口2を有し側壁下部が流下口2に向かって傾斜した溶融槽、3,4は溶融槽1の側壁上部に対向して設けた対向電極であって、3は非供用側電極、4は供用側電極であり、5は供用側電極4と供用される溶融槽1の底部に設けた底部電極である。
【0021】
図1中、6,6’は電源7のトランスであり、該トランス6の二次コイル8の一端と非供用側電極3との間を第1導電路9により接続し、且つ二次コイル8の他端と供用側電極4との間を供用導電路10により接続し、更に、該トランス6’の二次コイル8’の一端と底部電極5を第2導電路11により接続し、且つ二次コイル8’の他端を供用導電路10に接続している。
【0022】
前記第1導電路9に第1スイッチング手段12を設けると共に、第2導電路11に第2スイッチング手段13を設ける。図1では第1スイッチング手段12及び第2スイッチング手段13としてサイリスタを用いた場合を示している。しかし、スイッチング手段12,13はその一方がONの時に他方がOFFになるように排他的に切り替えが可能なものであればよく、サイリスタ以外のものも採用することができる。
【0023】
図中、14は前記サイリスタ12(第1スイッチング手段)及びサイリスタ13(第2スイッチング手段)の切替制御と電力制御を行う制御装置である。制御装置14には切替指令値と電力設定値が予め設定されている。更に、制御装置には電源7の周期検出値16と、第1導電路9の電圧検出値17と、第1導電路9の電流検出値17’と、第2導電路11の電圧検出値18と、第2導電路11の電流検出値18’が入力されていると共に、被溶融物Gの溶融を行う溶融指令19と被溶融物Gを流下口2から排出させる排出指令20が入力されている。そして、制御装置14は、前記第1、第2スイッチング手段であるサイリスタ12,13をパルス制御信号50,51により制御して溶融槽1への給電を制御するようにしている。
【0024】
上記形態の作動を説明する。
【0025】
溶融槽1内の被溶融物Gを溶融する際は、制御装置14に溶融指令19が与えられる。すると、制御装置14は第1スイッチング手段であるサイリスタ12にパルス制御信号50を送ってゲート電圧を制御することにより、トランス6の二次コイル8から第1導電路9、対向電極3,4、供用導電路10の経路に対する給電を行う。この時、第1導電路9の電圧値17および電流値17’が検出されて電力演算値が予め制御装置14に設定された電力設定値になるように、サイリスタ12の図2に示す点弧角α(通常は0゜〜90゜)が制御されることにより対向電極3,4間に供給される電圧の実効値が調整される。ここで正弦波交流の電圧の実効値をE(ボルト)、最大瞬時値をEm(ボルト)とすると、電圧の実効値EはE=Em/√2=0.707Emである。この時電圧の実効値Eは最大値を示しており、従って点弧角αを大きくすることによって実際に供給される実効値Exを小さくなるように制御する。又、この点弧角制御のタイミングは電源7の周期を検出している周期検出値16に基づいて行われる。上記対向電極3,4への給電により、溶融槽1内上部の被溶融物Gは略均一温度に加熱され溶融される。この時、炉底部の被溶融物Gの温度は上部の被溶融物Gの温度より低くなっている。
【0026】
被溶融物Gを流下口2から外部に排出する際は、制御装置14に排出指令20が与えられる。すると、制御装置14はパルス制御信号50を第1スイッチング手段であるサイリスタ12に送ると共に、パルス制御信号51を第2スイッチング手段であるサイリスタ13に送ってゲート電圧を夫々制御し、第1導電路9による対向電極3,4への給電と、第2導電路11による底部電極5と供用側電極4への給電を排他的に交互に切り替えて行うよう制御する。
【0027】
図3は上記交互切替を行うシーケンス回路の一例を示したもので、サイリスタ12用の点弧角制御回路52からの点弧角指令53がAND回路54を介してサイリスタ12に入力され、又、サイリスタ13用の点弧角制御回路55からの点弧角指令56がAND回路57を介してサイリスタ13に入力されており、又、電源周期毎にON/OFF信号を繰り返して出力する交互条件回路58からのON/OFF信号59が前記AND回路54に入力され、且つ前記ON/OFF信号59はNOT回路60を介して前記AND回路57に入力されている。これにより、サイリスタ12,13の一方がONの時には他方は必ずOFFになるように排他的に切り替えられるように制御される。
【0028】
この時、サイリスタ12は、第1導電路9の電力値が制御装置14に設定された電力設定値になるように図2の点弧角αが制御されることで給電量が調整され、又サイリスタ13は、第2導電路11の電力値が制御装置14に設定された電力設定値になるように図2の点弧角αが制御されて給電量が調整される。
【0029】
尚、上記したように、サイリスタ12による対向電極3,4間への給電と、サイリスタ13による底部電極5と供用側電極4間への給電とを交互に切り替えて行うと、両サイリスタ12,13によって同時に給電した場合に比して給電量が半減することになる。
【0030】
このため、制御装置14は、上記切替制御によっても、被溶融物Gを溶融する必要給電量が得られるように、自動的にサイリスタ12,13のゲート電圧を変えて点弧角を制御し、電圧実効値を増加して第1導電路9及び第2導電路11の電力値が電力設定値になるように制御する。
【0031】
又、サイリスタ12,13の点弧角を制御して給電量を最大限に増加してもまだ不足している場合には、トランス6,6’のタップを高電圧側に切り替えることによって、必要給電量が確保されるようにする。
【0032】
なお上記は電圧検出器17および18、電流検出器17’および18’より演算した電力値を制御装置14に予め設定した電力設定値に一致させる電力制御であるが、電圧値17および18に対し制御装置14に電圧設定値を予め設定し一致させる電圧制御、または、電流値17’および18’に対し制御装置14に電流設定値を予め設定し一致させる電流制御についても実施可能である。
【0033】
上記したように、対向電極3,4間への通電と、底部電極5と供用側電極4の間への通電とを排他的に切り替えると、対向電極3,4間への通電時には図4に示すように対向電極3,4間に安定した電位分布Aが形成されて溶融槽1上部の被溶融物は良好に溶融され、一方、底部電極5と供用側電極4間への通電時には、図5に示すように溶融槽1内に広がるように安定した電位分布Bが形成されて溶融槽1内底部の被溶融物が良好に溶融されるようになる。
【0034】
この時、例えば溶融槽1内部の被溶融物の上部の温度が1000℃、下部の温度が800℃であった場合には、例えば上部での抵抗率に対して下部での抵抗率は約10倍程度に大きくなる。従って、図6に示すように、溶融槽1の被溶融物Gを抵抗値で表わし、仮に対向電極3,4間の抵抗を1Ω、底部電極5と供用側電極4間の抵抗を10Ωとすると、対向電極3,4間へ通電される時には抵抗が1Ωと小さい溶融槽1内上部の経路Iを通って電気は流れる。
【0035】
一方、切り替わって底部電極5と供用側電極4間に通電される時には、抵抗10Ωの底部電極5と供用側電極4の経路IIを通って電気が流れることになるが、この時、底部電極5と非供用側電極3と供用側電極4の経路IIIの抵抗は10Ω+1Ω=11Ωであり、経路IIの抵抗10Ωとの差が小さい(差は1Ω)ために、経路IIIを通っても電気は流れることになる。
【0036】
このため、底部電極5からの電位分布は図5に示すように溶融槽1の内部全体に広がって流れるようになるため、溶融槽1内部に低温部が生じて加熱温度が不均一になる問題は防止され、加熱温度が平坦化されることにより堆積物が発生する問題は防止される。これにより、溶融槽1内の被溶融物を安定に溶融して流下口2から外部に排出することができる。
【0037】
図8は本発明を実施する電気溶融炉の溶融制御装置の他の形態を示すもので、この形態では、図1の形態において、前記第1導電路9と供用導電路10とを導電材の第3導電路61によって接続すると共に、該第3導電路61に第3スイッチング手段としてのサイリスタ62を設けている。そして、第3スイッチング手段であるサイリスタ62は、前記第2スイッチング手段であるサイリスタ13とは同一に切替制御され且つ前記第1スイッチング手段であるサイリスタ12に対しては排他的に交互に切替制御されるようにしている。
【0038】
図8の形態では、図9の如く対向電極3,4間への通電される時には、第3スイッチング手段であるサイリスタ62が第2スイッチング手段であるサイリスタ13と共にOFFとなっているため、図6と同様に抵抗が1Ωと小さい溶融槽1内上部の経路Iを通って電気は流れる。
【0039】
一方、切り替わって図10の如く底部電極5と供用側電極4間に通電される時には、抵抗10Ωの底部電極5と供用側電極4間の経路IIを通って電気が流れるが、この時、第3スイッチング手段のサイリスタ62が第2スイッチング手段のサイリスタ13と共にONとなって対向電極3が第3導電路61によって供用導電路10に接続されており且つ第3導電路61は導電材であるために第3導電路61を通る経路IVの抵抗は略10Ωであり、前記底部電極5と供用側電極4間の経路IIの抵抗10Ωと同一であるため、底部電極からの電位分布を図11に示すように溶融槽1の内部全体に広がって流れるようになり、よって、溶融槽1内部に低温部が生じて加熱温度が不均一になる問題が更に確実に防止され、加熱温度が平坦化することによって堆積物が発生する問題を防止することができる。
【0040】
尚、本発明の電気溶融炉の溶融制御方法及び装置においては、スイッチング手段にサイリスタを用いた場合について例示したが、他の切り替え手段を用いても良いこと、スイッチング手段に対応するように複数の電源を備えるようにしてもよいこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を実施する電気溶融炉の溶融制御装置の形態の一例を示す概要図である。
【図2】サイリスタの点弧角制御の方法を示す線図である。
【図3】交互切替を行うシーケンス回路の説明図である。
【図4】図1の対向電極間への通電時の電位分布を表わす図である。
【図5】図1の底部電極と供用側電極間への通電時の電位分布を表わす図である。
【図6】図1の溶融槽の被溶融物を抵抗値で表わし、対向電極間への通電時の電気の流れ経路を示す図である。
【図7】図1の底部電極と供用側電極間への通電時の電気の流れ経路を示す図である。
【図8】本発明を実施する電気溶融炉の溶融制御装置の他の形態を示す概要図である。
【図9】図8の溶融槽の被溶融物を抵抗値で表わし、対向電極間への通電時の電気の流れ経路を示す図である。
【図10】図8の底部電極と供用側電極間への通電時の電気の流れ経路を示す図である。
【図11】図8の底部電極と供用側電極間への通電時の電位分布を表わす図である。
【図12】従来の電気溶融炉の概要図である。
【図13】図12の電気溶融炉で対向電極間への通電と、底部電極と一方の対向電極間への通電を行った場合の電位分布を表わす図である。
【図14】対向電極に通電する電圧と、底部電極と対向電極に通電する電圧を表わす線図である。
【図15】図14の電位差を示す線図である。
【符号の説明】
【0042】
1 溶融槽
2 流下口
3 対向電極(非供用側電極)
4 対向電極(供用側電極)
5 底部電極
7 電源(トランス)
9 第1導電路
10 供用導電路
11 第2導電路
12 サイリスタ(第1スイッチング手段)
13 サイリスタ(第2スイッチング手段)
14 制御装置
20 排出指令
50 パルス制御信号
51 パルス制御信号
61 第3導電路
62 サイリスタ(第3スイッチング手段)
A 電位分布
B 電位分布
G 被溶融物
Z 低温部
α 点弧角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に流下口を有し側壁下部が流下口に向かって傾斜した溶融槽と、該溶融槽内に収容された被溶融物を加熱溶融するために、溶融槽の側壁上部に対向配置された対向電極と、該対向電極の一方と供用される溶融槽の底部に設けられた底部電極と、電源と、対向電極の非供用側電極を電源に接続する第1導電路と、対向電極の供用側電極を前記電源に接続する供用導電路と、底部電極と前記第1導電路とを接続する第2導電路と、を備えて溶融槽内の被溶融物を通電発熱により溶融する電気溶融炉の溶融制御方法であって、前記第1導電路に第1スイッチング手段を設けると共に、第2導電路に第2スイッチング手段を設け、溶融槽内の被溶融物を溶融させて流下口から排出する際に、第1スイッチング手段と第2スイッチング手段により第1導電路と第2導電路に対する給電を排他的に交互に切替制御して溶融槽内部の加熱温度を平坦化することを特徴とする電気溶融炉の溶融制御方法。
【請求項2】
前記第1導電路と供用導電路を接続する第3導電路を設けると共に、該第3導電路に第3スイッチング手段を設け、該第3スイッチング手段は前記第2スイッチング手段とは同一に切替制御し且つ前記第1スイッチング手段に対しては排他的に交互に切替制御することを特徴とする請求項1に記載の電気溶融炉の溶融制御方法。
【請求項3】
スイッチング手段がサイリスタであり、制御装置からのパルス制御信号によりサイリスタのゲート電圧を制御することによって給電の切り替えを行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気溶融炉の溶融制御方法。
【請求項4】
前記被溶融物は高レベル放射性廃棄物を溶融固化処理するガラスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電気溶融炉の溶融制御方法。
【請求項5】
底部に流下口を有し側壁下部が流下口に向かって傾斜した溶融槽と、該溶融槽内に収容された被溶融物を加熱溶融するために、溶融槽の側壁上部に対向配置された対向電極と、該対向電極の一方と供用される溶融槽の底部に設けられた底部電極と、電源と、対向電極の非供用側電極を電源に接続する第1導電路と、対向電極の供用側電極を前記電源に接続する供用導電路と、底部電極を第1導電路に接続する第2導電路と、を備えて溶融槽内の被溶融物を通電発熱によって溶融させる電気溶融炉の溶融制御装置であって、前記第1導電路に設けた第1スイッチング手段と、第2導電路に設けた第2スイッチング手段と、第1導電路と第2導電路に対する給電を排他的に交互に切り替える制御を行う制御装置とを備えたことを特徴とする電気溶融炉の溶融制御装置。
【請求項6】
第1導電路と供用導電路を接続する第3導電路を設けると共に、該第3導電路に、前記第2スイッチング手段と同一に切り替え制御される第3スイッチング手段を設けたことを特徴とする請求項5に記載の電気溶融炉の溶融制御装置。
【請求項1】
底部に流下口を有し側壁下部が流下口に向かって傾斜した溶融槽と、該溶融槽内に収容された被溶融物を加熱溶融するために、溶融槽の側壁上部に対向配置された対向電極と、該対向電極の一方と供用される溶融槽の底部に設けられた底部電極と、電源と、対向電極の非供用側電極を電源に接続する第1導電路と、対向電極の供用側電極を前記電源に接続する供用導電路と、底部電極と前記第1導電路とを接続する第2導電路と、を備えて溶融槽内の被溶融物を通電発熱により溶融する電気溶融炉の溶融制御方法であって、前記第1導電路に第1スイッチング手段を設けると共に、第2導電路に第2スイッチング手段を設け、溶融槽内の被溶融物を溶融させて流下口から排出する際に、第1スイッチング手段と第2スイッチング手段により第1導電路と第2導電路に対する給電を排他的に交互に切替制御して溶融槽内部の加熱温度を平坦化することを特徴とする電気溶融炉の溶融制御方法。
【請求項2】
前記第1導電路と供用導電路を接続する第3導電路を設けると共に、該第3導電路に第3スイッチング手段を設け、該第3スイッチング手段は前記第2スイッチング手段とは同一に切替制御し且つ前記第1スイッチング手段に対しては排他的に交互に切替制御することを特徴とする請求項1に記載の電気溶融炉の溶融制御方法。
【請求項3】
スイッチング手段がサイリスタであり、制御装置からのパルス制御信号によりサイリスタのゲート電圧を制御することによって給電の切り替えを行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気溶融炉の溶融制御方法。
【請求項4】
前記被溶融物は高レベル放射性廃棄物を溶融固化処理するガラスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電気溶融炉の溶融制御方法。
【請求項5】
底部に流下口を有し側壁下部が流下口に向かって傾斜した溶融槽と、該溶融槽内に収容された被溶融物を加熱溶融するために、溶融槽の側壁上部に対向配置された対向電極と、該対向電極の一方と供用される溶融槽の底部に設けられた底部電極と、電源と、対向電極の非供用側電極を電源に接続する第1導電路と、対向電極の供用側電極を前記電源に接続する供用導電路と、底部電極を第1導電路に接続する第2導電路と、を備えて溶融槽内の被溶融物を通電発熱によって溶融させる電気溶融炉の溶融制御装置であって、前記第1導電路に設けた第1スイッチング手段と、第2導電路に設けた第2スイッチング手段と、第1導電路と第2導電路に対する給電を排他的に交互に切り替える制御を行う制御装置とを備えたことを特徴とする電気溶融炉の溶融制御装置。
【請求項6】
第1導電路と供用導電路を接続する第3導電路を設けると共に、該第3導電路に、前記第2スイッチング手段と同一に切り替え制御される第3スイッチング手段を設けたことを特徴とする請求項5に記載の電気溶融炉の溶融制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−116169(P2008−116169A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301482(P2006−301482)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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