説明

電気生理測定装置および電気生理測定方法

【課題】より小さい細胞に対しても操作を容易に行うことができ、低侵襲に細胞内の電位を測定する。
【解決手段】試料細胞Aの外部に接触状態に配置される第1電極11と、試料細胞Aの内部に挿入される第2電極12と、第1電極11と試料細胞Aに挿入された第2電極12との間の電位差を測定する測定手段15とを備える電気生理測定装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気生理測定装置および電気生理測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞内の信号の伝達や機能の発現を解析する方法として、膜電位や膜電流の変化を検出する方法(パッチクランプ法)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この方法は、ガラス管の先端を細胞に接触させて吸引するとともに、ガラス管の内部に電解液を貯留することにより、ガラス管内の電解液柱を細胞に密着状態に維持される電極として使用するものである。
【特許文献1】特開2004−294211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、パッチクランプ法は、ガラス管を細胞に接触させて、細胞を吸引するものであるため、より小さい細胞に対して、細胞を吸引する操作が困難であるとともに、ガラス管の太さに限界があるという不都合がある。また、ガラス管が細くなると、より細胞膜を突き抜けやすくなり、また接触圧の制御も困難になることから、小さい細胞に対して、侵襲性が大きく操作が困難であるという問題がある。
【0004】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、より小さい細胞に対しても操作を容易に行うことができ、低侵襲に細胞内の電位を測定することができる電気生理測定装置および電気生理測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、試料細胞の外部に接触状態に配置される第1電極と、前記試料細胞の内部に挿入される第2電極と、前記第1電極と前記試料細胞に挿入された前記第2電極との間の電位差を測定する測定手段とを備える電気生理測定装置を提供する。
【0006】
上記発明においては、前記試料細胞を内部に保持する試料細胞保持手段を備え、前記第1電極が前記試料細胞保持手段の底部に設けられていることとしてもよい。
また、上記発明においては、前記第1電極が、前記資料細胞の水平断面より広い面状の電極であることとしてもよい。
また、上記発明においては、前記第1電極が、前記試料細胞を観察するための光の光路を避けて配置されていることとしてもよい。
【0007】
また、上記発明においては、前記第1電極が、前記試料細胞を観察するための光の光路上に設けられた透明電極からなることとしてもよい。
また、上記発明においては、前記試料保持手段が、該試料保持手段の内部の第1電極と試料保持手段の外部とを絶縁することとしてもよい。
【0008】
また、上記発明においては、前記第2電極が、前記試料細胞より細い先端部を有する針状の電極であることとしてもよい
また、上記発明においては、前記第2電極が、半導体材料を含むこととしてもよい。
【0009】
また、上記発明においては、前記第2電極は、前記試料細胞に挿入される先端部が露出され、他の部分が絶縁膜により被覆されていることとしてもよい。
また、上記発明においては、前記測定手段が、前記第2電極の前記試料細胞への挿入前後において測定された前記電気的特性の変化を測定することとしてもよい。
【0010】
また、上記発明においては、前記試料細胞に対して刺激を与えるための刺激信号を前記第2電極に加える刺激信号発生手段を備えることとしてもよい。
また、上記発明においては、前記第2電極が挿入される前記試料細胞を光学的に観察する光学的観察手段を備えることとしてもよい。
【0011】
また、本発明は、試料細胞の外部に、第1電極を接触状態に配置する工程と、前記試料細胞の内部に第2電極を挿入する工程と、該第1電極と、前記試料細胞の内部に挿入された第2電極との間の電位差を検出する工程とを備える電気生理測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より小さい細胞に対しても操作を容易に行うことができ、低侵襲に細胞内の電位を測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の第1の実施形態に係る電気生理測定装置1および電気生理測定方法について、図1〜図4を参照して説明する。
本実施形態に係る電気生理測定装置1は、図1に示されるように、細胞を観察するための顕微鏡装置2に備えられる。
【0014】
顕微鏡装置2は、細胞を収容する容器3を載置するステージ4と、該ステージ4上の細胞を照明する照明装置5と、細胞において反射あるいは透過した光、あるいは細胞から発生した蛍光を観察する観察装置6と、ステージ4を駆動制御するステージコントローラ7と、照明装置5および観察装置6を制御する顕微鏡コントローラ8と、観察装置6により得られた画像を処理する画像処理装置9と、該画像処理装置9により処理された画像を表示する表示装置10とを備えている。
【0015】
前記照明装置5には、細胞に対して、観察装置6とは反対側から照明光を照射する透過照明光源5Aおよび、該透過照明光源5Aから発せられた照明光を細胞に集光するコンデンサレンズ5Cと、細胞に対して観察装置6と同一方向から照明光を照射する落射照明光源5Bとが備えられている。
また、観察装置6には、図示しない対物レンズを含む観察光学系と、該観察光学系を介した細胞からの光を撮像して画像を取得するCCD素子6Aと、細胞からの光を直接観察するための接眼レンズ6Bとが備えられている。
【0016】
本実施形態に係る電気生理測定装置1は、図2に示されるように、前記顕微鏡装置2のステージ4上に載置され、バッファ液あるいは培養液Lを貯留する前記容器3の底面に設けられた平板状の第1電極11と、該第1電極11上において培養される細胞Aに対して上方から近接させられる第2電極12と、該第2電極12を移動させる駆動ユニット13と、該駆動ユニット13を制御する駆動ユニット制御回路14と、前記第1電極11および第2電極12間の電位差を測定する測定回路15とを備えている。
【0017】
前記第1電極11は、透明電極により構成され、その表面に細胞Aが培養されるようになっている。
前記第2電極12は、図2および図3に示されるように、先端に尖鋭な針部12Aを有するカンチレバー状に形成されている。第2電極12は、シリコン基板12Bの表面に導電膜12Cを成膜することにより形成されている。シリコン基板12B上に形成された導電膜12Cは、先端の針部12Aにおいて細胞Aの核C内に完全に収容される程度の寸法だけ露出させられ、それ以外の部分は絶縁膜12Dによって被覆されている。第2電極12は、取付部材16により駆動ユニット13に取り付けられている。
【0018】
駆動ユニット13は、X,Y,Z方向に針部12Aを移動させる、例えば、3軸の直線移動機構を備えている。容器3は、絶縁材料により構成され、内部の第1電極11を外部に対して電気的に絶縁するようになっている。また、第1電極11は接地されている。
【0019】
前記測定回路15は、図2に示されるように、第1電極11と第2電極12との間に接続されている。測定回路15は、容器3底面の第1電極11と、第2電極12の針部12Aに露出している導電膜12Cとの間に、刺激信号(活動電位)を発生させる刺激信号発生装置15Aと、刺激信号に対する応答を計測する電気信号測定装置15Bとを備えている。
【0020】
このように構成された本実施形態に係る電気生理測定装置1を用いた電気生理測定方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る電気生理測定装置1を用いて、細胞Aの膜電位を測定するには、ステージコントローラ7および顕微鏡コントローラ8を作動させ、ステージ4の作動により測定したい細胞Aを顕微鏡観察下に配置する。そして、駆動ユニット制御回路14の作動により駆動ユニット13を作動させ、第2電極12の針部12Aを細胞Aの上方から細胞Aに近接させる。
【0021】
そして、このとき、第1電極11と第2電極12との間に接続された測定回路15を作動させ、針部12Aの導電膜12Cと第1電極11との間の電気化学系のインピーダンスを測定する。
容器3の底面に設けられた第1電極11が細胞Aに接触することにより、細胞膜Bの電位が第1電極11の電位(接地電位)に固定されている。そして、第2電極12の針部12Aに設けた導電膜12Cが細胞膜Bに接触するまでの間においては、図4に符号Pで示されるように、第2電極12と細胞膜Bとの距離が変化しても、両者間のインピーダンスに変化はない。
【0022】
さらに、第2電極12を下降させて、針部12Aに設けた導電膜12Cが細胞膜Bに接触すると、図4に符号Qで示されるように、第2電極12と細胞膜Bとの間のインピーダンスが急激に変化する。そして、第2電極12をさらに下降させて、針部12Aに設けた導電膜12Cが細胞Aの核C内に侵入すると、導電膜12Cが細胞内電位となることにより、インピーダンスが所定値になる(符号R)。したがって、細胞A内への針部12Aの挿入作業中に第1電極11と第2電極12との間のインピーダンスを測定して、電解液抵抗の変化を検出することにより、針部12Aに設けた導電膜12Cの細胞Aへの接触および侵入を精度よく検知することができる。
【0023】
この場合において、本実施形態に係る電気生理測定方法によれば、針部12Aに設けた導電膜12Cが細胞A内に侵入したことが検知された後に、針部12Aの移動を停止し、再度、測定回路15の作動により、活動電位を測定する。すなわち、測定回路15内の刺激信号発生装置15Aの作動により、所定の刺激信号を発生し、電気信号測定装置15Bの作動により、その刺激信号に対する応答信号を測定し、記録する。
【0024】
本実施形態に係る電気生理測定装置1を用いた電気生理測定方法によれば、シリコン基板12Bをベースとした先端の細い針部12Aを1本だけ細胞A内に侵入させて測定を行うので、細胞Aに対する侵襲性を低く抑えることができる。また、針部12Aの細胞A内への侵入をインピーダンスの変化により容易に判断することができ、作業者によるばらつきが少なく、小さい細胞Aに対しても安定した操作を行うことができるという利点がある。さらに、絶縁膜12Dから露出する導電膜12Cを極小さく制限でき、導電膜12Cの露出部分全体を細胞A内に侵入させて、ノイズが小さく安定した測定を行うことができる。
【0025】
なお、本実施形態においては、第1電極11と第2電極12間のインピーダンスの変化により、針部12Aの細胞A内への侵入を検知することとしたが、これに限定されるものではなく、針部12A先端の位置と、細胞Aの位置とを光学的手段により確認しながら侵入を判別することとしてもよい。
【0026】
また、第1電極11として、その表面上で細胞Aを培養する透明電極を採用した。これにより、第1電極11および容器3底面を介した落射照明および透過照明が可能となる。これに代えて、第1電極11としては不透明な電極を採用し、照明光が通過する光路を避けて配置することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電気生理測定装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の電気生理測定装置のカンチレバー近傍の構造を示す拡大図である。
【図3】図1の電気生理測定装置のカンチレバーに設けた針部の細胞への挿入動作を説明する図であり、(a)は接触前、(b)は接触時、(c)は侵入後の状態をそれぞれ示している。
【図4】図1の挿入動作に伴う第1電極と第2電極間のインピーダンス変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
A 細胞(試料細胞)
1 電気生理測定装置
2 顕微鏡装置(光学的観察手段)
3 容器(試料細胞保持手段)
11 第1電極(透明電極)
12 第2電極
12A 針部(針状の電極)
12D 絶縁膜
15 測定回路(測定手段)
15A 刺激信号発生回路(刺激信号発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料細胞の外部に接触状態に配置される第1電極と、
前記試料細胞の内部に挿入される第2電極と、
前記第1電極と前記試料細胞に挿入された前記第2電極との間の電位差を測定する測定手段とを備える電気生理測定装置。
【請求項2】
前記試料細胞を内部に保持する試料細胞保持手段を備え、
前記第1電極が前記試料細胞保持手段の底部に設けられている請求項1に記載の電気生理測定装置。
【請求項3】
前記第1電極が、前記資料細胞の水平断面より広い面状の電極である請求項2に記載の電気生理測定装置。
【請求項4】
前記第1電極が、前記試料細胞を観察するための光の光路を避けて配置されている請求項2に記載の電気生理測定装置。
【請求項5】
前記第1電極が、前記試料細胞を観察するための光の光路上に設けられた透明電極からなる請求項2に記載の電気生理測定装置。
【請求項6】
前記試料保持手段が、該試料保持手段の内部の第1電極と試料保持手段の外部とを絶縁する請求項2に記載の電気生理測定装置。
【請求項7】
前記第2電極が、前記試料細胞より細い先端部を有する針状の電極である請求項1に記載の電気生理測定装置。
【請求項8】
前記第2電極が、半導体材料を含む請求項1に記載の電気生理測定装置。
【請求項9】
前記第2電極は、前記試料細胞に挿入される先端部が露出され、他の部分が絶縁膜により被覆されている請求項1に記載の電気生理測定装置。
【請求項10】
前記測定手段が、前記第2電極の前記試料細胞への挿入前後において測定された前記電気的特性の変化を測定する請求項1に記載の電気生理測定装置。
【請求項11】
前記試料細胞に対して刺激を与えるための刺激信号を前記第2電極に加える刺激信号発生手段を備える請求項1に記載の電気生理測定装置。
【請求項12】
前記第2電極が挿入される前記試料細胞を光学的に観察する光学的観察手段を備える請求項1に記載の電気生理測定装置。
【請求項13】
試料細胞の外部に、第1電極を接触状態に配置する工程と、
前記試料細胞の内部に第2電極を挿入する工程と、
該第1電極と、前記試料細胞の内部に挿入された第2電極との間の電位差を検出する工程とを備える電気生理測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−322165(P2007−322165A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150350(P2006−150350)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】