説明

電気車システム

【課題】電力変換器の高速遮断器よりもパンタグラフ側の上位回路の絶縁健全性を容易に判定可能な電気車システムを提供する。
【解決手段】一実施形態に係る電気車システムは、架線から集電装置及び母線を介して電力が供給され、該電力を電動機駆動に適した交流電力に変換し、電力入力端には前記母線に接続される電流遮断器を有する電力変換器と、前記電力変換器の直流側マイナス端子と前記母線間の絶縁抵抗を測定する絶縁抵抗検出手段と、絶縁抵抗検出手段によって測定された絶縁抵抗値が予め設定された闘値より低い場合、前記電力変換器の直流側マイナス端子と前記母線間に短絡が発生していると判定する絶縁抵抗健全性判定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は架線から電力の供給を受けて走行する電気車に生じる短絡あるいは地絡事故を検出する電気車システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気車の電力変換装置を含む主回路には高速度遮断器(HB)が設置され、主回路での短絡あるいは地絡(レールへの短絡)時の故障電流を検出して遮断し、故障回路を保護する仕組みになっている。また、交番検査等の点検において重要機器に対しては、絶縁抵抗を測定し、当該回路の絶縁状態が健全であることを確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−131361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両内において、高速度遮断器HBよりもパンタグラフ側の回路で地絡もしくは短絡が発生した場合、故障電流が流れ、変電所の直流遮断器がトリップすなわち遮断させる。この場合、HBより下段の回路での故障と異なり、事故後の故障回路の開放が早急に実施されないと、変電所が遮断器を再投入した際に、再び事故点に電流が流れ、変電所の遮断器が再びトリップする。
【0005】
また、HBより下段の回路で故障電流が流れた場合、当該回路(ユニット)の故障状態を運転士に表示するシステムになっており、運転士が自編成(以下、列車ともいう)内で故障が発生しているか確認できるようになっている。その一方、HBより上位のパンタグラフ側回路に事故点があり、地絡短絡電流が流れた場合、運転士は自編成内で故障が発生していることを認識できない。結果として地絡短絡事故発生直後に、事故が発生している編成の故障部位が解放されないまま、上記したように変電所の再閉路で遮断器は再びトリップする。地絡事故が発生した編成が存在する当該き電区間に複数の編成が存在する場合、事故編成を瞬時に特定することはできず、当該き電区間に停止している列車全てについて通電検査を行い、地絡事故の有無を確認しなければならない。この結果、運転再開には多くの時間が必要となるという課題がある。
【0006】
実施形態の目的は、電力変換器の高速遮断器よりもパンタグラフ側の上位回路の絶縁健全性を容易に判定可能な電気車システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態では、車両主回路の絶縁抵抗を検出する回路を車両に設置し、絶縁状態を自動検出する。基本的にHBより下段の回路は、HBにて保護されているため、絶縁状態の確認を行う箇所はHBよりもパンタグラフ側の上位回路でよい。絶縁抵抗の検出後は、故障部位のみが解放されるように、接触器の開閉、パンタグラフの昇降を実施する。
【0008】
すなわち一実施形態に係る電気車システムは、架線から集電装置及び母線を介して電力が供給され、該電力を電動機駆動に適した交流電力に変換し、電力入力端には前記母線に接続される電流遮断器を有する電力変換器と、前記電力変換器の直流側マイナス端子と前記母線間の絶縁抵抗を測定する絶縁抵抗検出手段と、絶縁抵抗検出手段によって測定された絶縁抵抗値が予め設定された闘値より低い場合、前記電力変換器の直流側マイナス端子と前記母線間に短絡が発生していると判定する絶縁抵抗健全性判定手段とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態に係る車両主回路の構成を示す図である。
【図2】第2実施形態に係る高圧母線引き通し構造を有する編成の構成を示す図である。
【図3】第3実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【図4】第4実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【図5】第5実施形態として絶縁抵抗検出装置15の構成例を示す図である。
【図6】第6実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【図7】第7実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【図8】第7実施形態の作用を説明するための図である。
【図9】第7実施形態の作用を説明するための図である。
【図10】第8実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、電気車システムの実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【0012】
この電気車システムは、架線から直流電力をパンタグラフ(集電装置)11で受電し、電動機制御回路12で主電動機13を駆動する電気車主回路に適用される。パンタグラフ11は、架線と接触して直流電力を受電し、該直流電力は断路器MS、ヒューズMFを通じて電動機制御回路(VVVF:variable voltage variable frequency)及び補助電源(SIV:static inverter)に供給される。断路器MSは手動スイッチで通常はオンされており、定期検査等のときオン/オフされるスイッチである。
【0013】
ヒューズMFと電動機制御回路12の間には、高速度遮断器HBが設置される。電動機制御回路12に規定値を超える電流が流れると、高速度遮断器HBが作動(遮断)し、電動機制御回路12は架線側回路と切り離なされる。また、電動機制御回路12の入力端と並列に架線電圧検出器DCPTが設置され、架線電圧を検出できる。補助電源装置14は電動機制御回路12と同様に、高速度遮断器HBを介して架線と接続され、規定値を超える電流が流れると、高速度遮断器HBが作動し、架線側回路と切り離なされる。
【0014】
このような主回路システムに対して、本実施形態では、高速度遮断器HBよりも架線側に電動機制御回路12の電力入力端と並列になるように、絶縁抵抗検出回路15が設置される。絶縁抵抗検出回路15は、電動機制御回路12の直流側マイナス端子と前記母線間の絶縁抵抗を測定する。以下、車両主回路内で地絡事故が発生したときの保護について説明する。図1には、短絡事故発生時の事故回路(図中矢印)が示されている。ここでは、架線側偽装線18が、電動機制御回路のマイナス側と短絡している。この場合、短絡箇所で過大な電流が流れ、直流き電用変電所がトリップする。
【0015】
直流き電用変電所は、15秒から30秒程度で遮断器を自動投入し、再閉路を実施し、き電復帰を試みる。しかし、この短絡事故の場合、ヒューズMFが溶断しない限り故障回路が解放されることなく、き電回路と接続され続けるため、事故が継続し変電所の遮断器は再トリップしてしまい、き電停止に至る。
【0016】
直流き電回路は各変電所が通常並列き電回路を構成しており、事故電流が流れた場合、その電流を最初に観測した変電所がまずトリップし、続いて故障点に流れる電流を断ち切るため、並列き電している隣接変電所に対して、連絡遮断指令を送り、隣接変電所をトリップさせ、事故点への電力供給を絶つ。しかし、車両の事故点が高速度遮断器よりも下段の回路にある場合は高速度遮断器が解放されることで、電動機制御回路や補助電源回路の故障を検出することが可能である。しかし、高速度遮断器よりもパンタグラフ側の回路で発生した事故については、事故を起こした当該編成は、一般に自車で事故が発生していることを検出することができない。
【0017】
連絡遮断され、停電している区間に複数の列車が存在する場合、どの列車で事故が発生しているのか分からないため、列車のパンタグラフを一度全て降下し、順次パンタグラフを上昇させていき、事故電流が流れた列車が事故車両編成であると初めて分かる。この方法は運転再開までに多くの時間がかかるため問題となる。
【0018】
そこで、図1にあるように車両主回路に対して絶縁抵抗検出装置15を設置し、自車内の絶縁健全性を確認可能とする。
【0019】
具体的には、先ず車両主回路内で短絡あるいは地絡事故が発生し、き電停止となる。次に、その事故点が高速度遮断器HBよりもパンタグラフ側の上位の回路であるかどうか確認する。これは、高速度遮断器HBより下段の回路については、電動機制御回路12や補助電源回路14の高速度遮断器HBが作動すなわち保護動作が働くので確認できる。すなわち、高速度遮断器HBが作動(開放)すると、その旨が運転台のモニタに表示されるので、事故点の解放が行われたかどうか判断可能である。ここで、事故点の解放が行われたのであれば何もしない。き電再投入が実施され、き電は無事再開し、列車は正常な電動機制御回路を用いて走行することが可能になる。
【0020】
高速度遮断器解放等の保護動作が行われなかった場合で、なおかつ変電所の再閉路で再度トリップした場合、車両主回路の高速度遮断器よりもパンタグラフ側で短絡あるいは地絡事故が発生した可能性が高い。その場合、列車は先ず高速度遮断器を開放し、パンタグラフを降下させる。このとき及びこれ以降の動作は、車両に搭載した蓄電池を用いて行われる。車載した絶縁抵抗検出装置15で絶縁抵抗を測定し、主回路絶縁状態の健全性を確認する。ここで、絶縁抵抗の著しい低下が確認されれば、車両は故障(短絡)しているといえる。
【0021】
絶縁抵抗検出装置15は、予め設定した絶縁抵抗の閾値よりも測定値が下回っていた場合に、絶縁抵抗不良との判定を出す。絶縁抵抗不良の判定は、運転室に設置されたブザーなどの報知器、もしくはLED、ディスプレイ、電灯等の表示器によって運転士に知らせる。
【0022】
当該編成が後述するように編成管理部を有し、各部の機器を統括管理している場合、編成管理部を通じて、絶縁抵抗検出装置に測定指令を送り、測定結果を編成管理部に伝送し、編成管理部を通じて、運転席のディスプレイに絶縁抵抗低下箇所及び判定内容を表示する。絶縁抵抗検出装置の電源は、前述したように車載している蓄電池もしくは、絶縁抵抗検出装置専用の蓄電池を電源とする。
【0023】
絶縁抵抗の測定に際しては、機器損傷を防ぐため、種々のインタロックすなわち安全対策を施す。たとえば、図1に示すように、架線電圧検出用の電圧検出器DCPTが設置され、そのDCPTによって電圧が検出されている場合、もしくは、ある一定値以上の電圧が検出されている場合は絶縁抵抗の測定ができなくなるようにする。これは、パンタグラフが架線に接触している可能性があるからである。同様に電動機主回路内または補助電源装置内にあるフィルタコンデンサに電荷が残っている状態で、高速度遮断器が誤ってオンされ、絶縁抵抗検出装置の測定端子にフィルタコンデンサの高電圧が印加されると、絶縁抵抗検出装置が損傷する可能がある。これを防ぐため、これらコンデンサの残留電圧を検出し、この電圧がある閾値以下、例えば24Vになるまでは、絶縁抵抗検出装置による絶縁抵抗測定を禁止してもよい。
【0024】
また、回路の絶縁抵抗を測定中に、誤ってパンタグラフを上昇し架線に着線することを防止するため、絶縁抵抗測定中には編成中の全パンタグラフの上昇を不可能としてもよい。
【0025】
絶縁抵抗検出装置が、絶縁状態を不良と判定した後も、不良箇所を含む回路が架線と接続されることを防ぐために、該当不良線を通じて機器間を接続する接触器(後述される)の投入を禁止する等のインタロックを実施する。
【0026】
絶縁不良を検出した当該車両は故障部位を開放し再起動、自力走行もしくは救援列車にて走行することになる。従来は、故障車両を特定するのに多数のパンタグラフの昇降で多くの時間を要していたが、本実施形態を適用することで、短時間で短絡事故を起こした車両の特定及び処置が可能となる。
【0027】
[第2実施形態]
列車の日常の絶縁健全性診断に実施形態を適用することも可能である。具体的には留置線すなわち電気車両保管場の線路に停車し、パンタグラフが降下された状態の列車が、営業運用開始前に主回路の絶縁抵抗を測定し、絶縁状態の健全性を判定する。測定した絶縁抵抗値を車載記憶装置に記憶し、定期検査の際に絶縁抵抗の劣化状況を解析することが可能になる。
【0028】
このように営業運用開始前に、列車の絶縁状態を検出し未然に短絡事故を防止できるということは、信頼性の要求される鉄道システムにおいて有効であるといえる。
【0029】
図2は第2実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【0030】
この車両編成は、高圧母線18により各車両のユニット(VVVF及びSIV)17が引き通されている、いわゆる高圧母線引き通しの構造を有している。すなわち、架線電圧が1本の高圧母線を介して、各車両のユニット17に電源電圧として共通に供給される。各車両のユニット17のVVVF及びSIVには、前述の高速遮断器HB(図示されず)が内蔵されている。また、以下に説明される他の実施形態においても同様に、VVVF及びSIVには、前述の高速遮断器HBが内蔵されている。
【0031】
この高圧母線18は接触器BLB1とBLB2によって給電の区分がなされる。高圧母線18の末端には絶縁抵抗検出装置15が設置される。編成管理部20は例えば運転室に設けられ、運転士からの指令に基づいて、各車両のユニット17の制御及び監視、ドアの開閉、パンタグラフ11の昇降、接触器BLB1とBLB2のオン/オフ、絶縁抵抗検出装置15の絶縁抵抗測定動作等、編成全体を総合的に制御及び管理する。
【0032】
このような編成において、編成管理部20はパンタグラフ11の降下を確認した後、接触器BLB1とBLB2を開放して絶縁抵抗を測定しつつ、BLB1とBLB2を順次投入することで、編成の給電区画の絶縁状態を測定することができる。具体的に、このシーケンスはレバーオフ(全HBオフ)の後、編成管理部20からBLB1開放、BLB2開放の指令を出し、末端にある二つの絶縁抵抗検出装置に測定指令を出す。この結果、第一区分A及び第3区分Cの絶縁抵抗が測定される。次にBLB1もしくはBLB2を通電し、区分Bの絶縁抵抗を測定することで、高圧母線全体の絶縁健全性をチェックする。
【0033】
[第3実施形態]
図3は第3実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【0034】
この編成においても、高圧母線18により各車両のユニット17が引き通されている。本実施形態では、高圧母線18が接触器によってユニット17毎に分割されていない。この高圧母線引き通しの中央部、ほぼ編成の駆動力(電力)が半分になる母線上位置に、接触器BLB3と絶縁抵抗検出装置15を設置する。つまり、接触器BLB3により分割された2つの区画に供給される電力量が同程度となる位置に、接触器BLB3が配置される。絶縁抵抗検出装置15はスイッチ22によって、A方面とB方面の母線絶縁状態を計測できる。
【0035】
この構成により、絶縁抵抗検出装置1台で、高圧母線全体の絶縁性能をチェックすることができるほか、絶縁性能が不良とされた方面のユニット回路を開放し、健全群のみの車両で運転が可能になる。高圧母線18の引き通しがあるが、高圧母線18を区分する接触器がない編成の改造に有効であり、最小の追加機器で編成信頼性を高めることができる。勿論、A方面の高圧母線、B方面の高圧母線それぞれの絶縁抵抗を測定できるように絶縁抵抗検出装置を個別に設置しても良い。
【0036】
[第4実施形態]
図4は第4実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【0037】
この車両編成は上記実施形態同様に、高圧母線18で各車両のユニットが引き通されている。この高圧母線18は接触器BLB1とBLB2によって給電区分ができるようになっている。絶縁抵抗検出装置15は、例えば接触器BLB1とBLB2の間に配置され、例えば運転台からの測定指令に基づいて、絶縁抵抗測定に係わる動作を制御する。すなわち絶縁抵抗検出装置15は、パンタグラフ11の昇降、接触器BLB1とBLB2のオン/オフ、母線18の絶縁抵抗測定を行い、測定結果を編成管理部に送信する。このような編成において、絶縁抵抗検出装置15はパンタグラフ11の降下、高速度遮断器HB(図示されず)の開放を確認した後、絶縁抵抗を測定しつつBLB1とBLB2を順次投入することで、編成の給電区画の絶縁状態を測定することができる。
【0038】
接触器BLB1とBLB2の投入時、絶縁抵抗検出装置15は絶縁抵抗の健全性を確認した上で接触器を投入する。絶縁抵抗に不良がある場合、絶縁抵抗検出装置15は接触器を開放あるいは既に開放されている場合はその状態を維持する。パンタグラフについても同様で、絶縁抵抗検出装置15は母線に絶縁不良がある場合はパンタグラフが投入できないようにリレーシーケンスを設定する。
【0039】
本実施形態では、編成管理部の制御を介さずに絶縁抵抗検出装置15が絶縁健全性のチェックと該当絶縁不良区分の開放を制御するため、絶縁抵抗検出装置を編成に後から追加する場合に、編成管理部の改造に要する手間を削減することができる。
【0040】
[第5実施形態](請求項 )
次に、絶縁抵抗検出装置15の構成例を第5実施形態として説明する。図5は絶縁抵抗検出装置15の構成例を示す図である。
【0041】
絶縁抵抗測定部15aは、母線18に例えば数十ボルトの電圧を印加し、その時流れる電流の大きさ、または電流の大きさに基づく母線の絶縁抵抗値を測定する。絶縁健全性判定部15bは測定された電流値または絶縁抵抗値に基づいて、絶縁の良否を判定する。すなわち絶縁健全性判定部15bは、短絡あるいは絶縁不良が発生してるか否か判定する。このとき絶縁健全性判定部15bは、測定対象の母線に接続されている区画(ユニット17)の数等に応じて、判定用電流閾値又は抵抗閾値を可変する。例えば、BLBの制御により、測定対象の区分の数が1区画から2区画に増えると、短絡が発生していない場合の漏れ電流は2倍になる。この場合絶縁健全性判定部15bは、判定閾値が所定の電流値であれば判定閾値を2倍にし、判定閾値が所定の絶縁抵抗値であれば判定閾値を半分にする。また、架線電圧検出用のDCPT(図1参照)等が高速度遮断器よりもパンタグラフよりの回路に設置された場合、その内部抵抗によって絶縁抵抗値が大幅に低下する。従って絶縁健全性判定部15bは、測定対象の区画の数及びDCPTが接続されているか否かに応じて、判定閾値を可変する。すなわち絶縁健全性判定部15bは、高圧母線を区分する接触器の投入に応じて、絶縁抵抗不良を判定する閾値を可変することで、適切な絶縁健全性評価を可能としている。
【0042】
インターフェース部15cは、判定部15bの判定結果を運転室のマスターコントローラ、編成管理部、車両検査データ記憶用外部記憶装置等に送信する。また、図4の第4実施形態のような場合は、判定結果に応じてBLB、高速遮断器、パンタグラフ制御器等に作動信号を送信し、編成を走行可能状態とする。
【0043】
[第6実施形態]
次に第6実施形態を説明する。図6は第6実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【0044】
本実施形態は、車両走行中つまりパンタグラフが架線に接している状態で、電流検出器CT(current transformer)を用いて編成中の故障電流を検出する。図6に示すように電流検出器CT1、CT2、CT3が各パンタグラフからの電流入力位置に設置される。この入力電流を監視することで車両内に故障電流が流れたかどうかを判定することができる。
【0045】
具体的には各電流検出器CTの検出電流値合計の単位時間当たりの電流変化量ΔIを検出する。ΔIのセット値は、基本的には変電所のΔI継電器と同じセット値、例えばサンプリング100ms、1000Aを用いる。
【0046】
列車に搭載された地絡電流検出装置23は各電流検出器CTの電流合計値を算出しており、電流合計値のΔIが、上記セット値を超えた場合、当該編成に地絡電流が流れたと判断する。地絡電流検出装置23は地絡電流が流れたことを示す判定信号を、編成管理部等に送信する。
【0047】
この後の制御、すなわちパンタグラフ降下、接触器開放等の制御は、地絡電流検知器23が行っても良いし、編成管理部が行ってもよい。
【0048】
[第7実施形態]車両走行中
図7は第7実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【0049】
図6の上記第6実施形態で説明した電流検出器CTだけでなく、図7に示すように直流母線で引き通された編成において、直流引き通し母線に横流監視用CTを設置し、車両ユニット間の横方向電流を検出することで、編成内の故障部位を推定することが可能になる。
【0050】
具体的には第6実施形態のように、地絡電流検知器23は車両走行中に、先ず地絡電流を検出する。これによって当該編成で地絡電流が流れたことが分かる。次に地絡電流検知器23は、直流母線の横方向電流を監視する電流検出器CT4、CT5が観測した電流の向きと大きさから、どの方面で地絡が発生したのかを判断する。例えば、図8に示すような向きに電流が流れた場合、中央のユニットに故障電流が流れたと推測することができる。
【0051】
また、図9の場合地絡電流の向きが左のユニットに集中していることから、地絡点が左側のユニットにあることが分かる。地絡が検出されたユニットは、編成管理部あるいは地絡電流検知器23の制御の下、前記実施形態にあるように、き電回路から隔離するためパンタグラフ降下、接触器解放等の保護処置を自動実施する。
【0052】
[第8実施形態]
図10は第8実施形態に係る電気車システムの構成を示す図である。
【0053】
上記第5実施形態までは、絶縁抵抗検出装置を用いて絶縁状態を判定していたが、本実施形態では耐圧試験装置を用いて、回路の健全性を判定する。
【0054】
解決すべき課題は高速遮断器HBよりもパンタグラフ側の上位回路の健全性であるため、HBよりもパンタグラフ側に上下アーム短絡用の接触器MCOS1と、電動機制御回路12のアース分離用の接触器MCOS2が設けられ、蓄電装置26を電源とする耐圧試験回路25が直流側電源ラインに接続されている。
【0055】
耐圧試験を実施する場合は、パンタグラフ降下、HBオフの状態でMCOS2を開放し、電動機制御回路のアースを分離する。この状態でMCOS1を投入してDCPTを短絡し、耐圧試験回路25で主回路とアース(箱枠or車体)の間に高圧をかけ漏れ電流を測定する。このときの印加電圧は、例えばAC5400Vを想定する。
【0056】
この耐圧試験をした際に、漏れ電流が健全時に測定したときよりも大きな電流が流れた場合、もしくは事前に設定した、判定閾値を超える漏れ電流が流れた場合、当該主回路が地絡していると判定される。尚、この耐圧試験は、編成管理部20(図2参照)と耐圧試験回路25が共同して行っても良いし、編成管理部20からの試験開始指令に応答して耐圧試験回路25がパンタグラフ降下等の動作を全て行っても良い。
【0057】
このシステムは前記実施形態と同様に、営業運転前に事前に回路の健全性診断に活用することも可能であり、経年劣化による碍子等の絶縁物の絶縁性能低下を検出することができる。測定した絶縁や漏れ電流に関するデータは、耐圧試験装置内蔵の記憶装置、あるいは前記実施形態のように、絶縁抵抗検出装置あるいは編成管理部の記憶装置に一時的に格納し、後に保守管理データとして読み出し、メンテナンスに活用することも可能である。
【0058】
以上の説明はこの発明の実施の形態であって、この発明の装置及び方法を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができるものである。例えば、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を構成できる。
【符号の説明】
【0059】
11…パンタグラフ、12…電動機制御回路、13…主電動機、14…補助電源、15…絶縁抵抗検出回路、17…車両ユニット、18…母線、CT…電流検出器、BLB…接触器、MCOS…接触器、MS…断路器、MF…ヒューズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架線から集電装置及び母線を介して電力が供給され、該電力を電動機駆動に適した交流電力に変換し、電力入力端には前記母線に接続される電流遮断器を有する電力変換器と、
前記電力変換器の直流側マイナス端子と前記母線間の絶縁抵抗を測定する絶縁抵抗検出手段と、
絶縁抵抗検出手段によって測定された絶縁抵抗値が予め設定された闘値より低い場合、前記電力変換器の直流側マイナス端子と前記母線間に短絡が発生していると判定する絶縁抵抗健全性判定手段と、
を備える電気車システム。
【請求項2】
複数の車両で構成される編成の絶縁抵抗健全性を判定する電気車システムであって、
前記車両は、
架線から集電装置及び母線を介して電力が供給され、該電力を電動機駆動に適した交流電力に変換し、電力入力端には前記母線に接続される電流遮断器を有する電力変換器と、
前記電力変換器の直流側マイナス端子と前記母線間の絶縁抵抗を測定する絶縁抵抗検出手段と、
絶縁抵抗検出手段によって測定された絶縁抵抗値が予め設定された判定闘値より低い場合、前記電力変換器の直流側マイナス端子と前記母線間に短絡が発生していると判定する絶縁抵抗健全性判定手段とを備え、
前記編成は、前記編成に搭載された前記電カ変換器を含む機器を統括管理する編成管理部を具備し、該編成制御部は、前記絶縁抵抗判定手段から前記判定信号を受信すると、絶縁抵抗不良が発生した部位を運転席に配置された表示装置で報知する電気車システム。
【請求項3】
前記母線は、各車両に設置された前記電力変換器に共通に接続される高圧母線引き通しの構造を有し、該高圧母線引き通しは、1以上の接触器により複数の区画に分割され、該高圧母線引き通しの両端又は一端の区画に前記絶縁抵抗検出手段が設けられていることを特徴とする請求項2記載の電気車システム。
【請求項4】
前記絶縁抵抗を測定する場合、全ての接触器を開放し、前記母線の末端に近い位置に設置されている接触器から頃次投入することで、絶縁不良部位が判定されることを特徴とする請求項3記載の電気車システム。
【請求項5】
前記母線には単一の接触器が設けられ、該接触器により分割された2つの区画に供給される電力量が同程度となる位置に、該接触器が配置されることを特徴とする請求項3記載の電気車システム。
【請求項6】
前記判定闘値は、前記母線に配置された接触器の投入状況に応じて可変されることを特徴とする請求項3記載の電気車システム。
【請求項7】
複数の車両で構成される編成の絶縁抵抗健全性を判定する電気車システムであって、
前記車両は、架線から集電装置及び母線を介して電力が供給され、該電カを電動機駆動に適した交流電力に変換する電力変器と、前記集電装置を流れる電流を検出する電流検出器とを備え、
前記編成は、複数の前記電流検出器にて検出された電流を加算し、該加算された電流の単位時間当たりの変化量を算出する算出手段と、前記変化量が所定閾値を超えた場合、前記編成内に地絡が発生していると判定する判定手段とを具備する電気車システム。
【請求項8】
前記母線は、各車両に設置された前記電力変換器に共通に接続される高圧母線引き通しの構造を有し、
前記編成は、前記高圧母線を流れる電流を前記高圧母線上の複数個所で検出し、検出された電流の方向に基づいて地絡位置を推定する地絡位置推定手段を具備することを特徴とする請求項7記載の電気車システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−223020(P2012−223020A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88337(P2011−88337)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】