説明

電気銅めっき方法及び硫酸銅めっき液

【課題】結晶粒径を小さくしてストレスマイグレーションを抑制した銅めっき膜を、より簡便に基板上に成膜できるようにする。
【解決手段】シード層で覆われた配線用凹部を表面に形成した基板を用意し、シード層を、硫酸銅及び硫酸由来の硫黄を2.0M以上含む硫酸銅めっき液に接触させ、シード層をカソードとして、該カソードと硫酸銅めっき液中に浸漬させたアノードとの間に電圧を印加して、シード層の表面に銅めっき膜を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気銅めっき方法及び硫酸銅めっき液に係り、特に半導体ウェハなどの基板の表面に形成された微細な配線用凹部(回路パターン)に銅を埋込んで銅配線を形成するのに使用される電気銅めっき方法及び硫酸銅めっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体チップの高速化、高集積化に伴い、半導体ウェハ等の基板の表面に配線回路を形成するための金属材料として、アルミニウムまたはアルミニウム合金に代えて、電気抵抗率が低くエレクトロマイグレーション耐性が高い銅が用いる動きが顕著になっている。この種の銅配線は、基板の表面に設けた微細な配線用凹部内に銅を埋込むことによって一般に形成される。この銅配線を形成する方法としては、CVD、スパッタリング及びめっきといった手法があるが、電気銅めっきが一般的である。
【0003】
図1は、この種の銅配線基板の製造例を工程順に示す。先ず、図1(a)に示すように、半導体素子を形成した半導体基材1上の導電層1aの上にSiOからなる酸化膜やLow−K材膜等の絶縁層(層間絶縁膜)2を堆積し、この絶縁層2の内部に、リソグラフィ・エッチング技術により、配線用凹部としてのコンタクトホール3とトレンチ4を形成する。その上にTaNやTiN等からなるバリア層5、更にその上に電気めっきの給電層としてシード層7をスパッタリングやCVD等によって形成する。
【0004】
そして、図1(b)に示すように、基板Wのシード層7の表面に電気銅めっきを施すことで、コンタクトホール3及びトレンチ4内に銅を充填するとともに、絶縁層2上に銅めっき膜6を堆積する。その後、化学的機械的研磨(CMP)により、絶縁層2上の銅めっき膜6、シード層7及びバリア層5を除去して、コンタクトホール3及びトレンチ4内に充填させた銅めっき膜6の表面と絶縁層2の表面とをほぼ同一平面にする。これにより、図1(c)に示すように、絶縁層2の内部に銅めっき膜からなる銅配線8が形成される。
【0005】
このような電気銅めっき処理において、その成分として、硫酸銅と硫酸の混合水溶液を基本組成とし、添加剤を基板の表面に留める等の役割を果たす塩素等のハロゲンイオンの他に、めっき反応を促進する反応促進剤(アクセラレータ)、めっき反応を抑制する反応抑制剤(サプレッサ)及びめっき膜の表面を平滑化する平滑化剤(レベラ)の3つの有機添加剤を含む硫酸銅めっき液が一般に用いられる。
【0006】
一般に、配線を形成した後には、層間絶縁膜を形成するための高温の熱処理が施される。この処理後の冷却過程において、絶縁層(層間絶縁膜)とこの内部に形成した配線の熱膨張係数の違いを原因とした応力が配線内に発生する。そして、この残留応力とその後の熱処理により、配線金属原子や空孔が移動し、配線内にボイドが生じ、最悪の場合には断線に至る。これは、一般にストレスマイグレーションと呼ばれ、半導体デバイスの信頼性低下の大きな要因の一つになっている。
【0007】
ストレスマイグレーションの対策としては、層間絶縁膜中への銅の拡散を防ぐために形成されるバリア層として銅と密着性の良い材料を使用したり、層間絶縁膜の熱膨張係数を銅に近づけたりする等の方法が行われている。しかし、更に微細化が進んだ半導体デバイスの信頼性を確立するためには、配線自体のストレスマイグレーションに対する耐性を高めることが求められる。
【0008】
ストレスマイグレーションは、配線金属内に生じた応力を緩和するために格子欠陥が増加したり銅原子が拡散したりして配線内にボイドが発生し、更に断線へと進行していく。一般に、この銅原子の拡散は、応力の集中している銅めっき膜の結晶粒界近傍で起きやすいとされている。したがって、結晶粒界を増やすことで、すなわち銅めっき膜の結晶粒径を小さくすることでストレスマイグレーションを抑制することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電気銅めっきで成膜される銅めっき膜の結晶粒径は、銅めっき膜の結晶粒径を制御するための添加剤を加えた硫酸銅めっき液を使用することで小さくすることができる。しかし、銅めっき膜の結晶粒径を制御するための添加剤を新たに加えた硫酸銅めっき液を使用して電気銅めっきを行うと、コストアップの要因となるばかりでなく、めっき液の管理が複雑化する。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みて為されたもので、結晶粒径を小さくしてストレスマイグレーションを抑制した銅めっき膜を、より簡便に基板上に成膜できるようにした電気銅めっき方法及び硫酸銅めっき液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電気銅めっき方法は、シード層で覆われた配線用凹部を表面に形成した基板を用意し、前記シード層を、硫酸銅及び硫酸由来の硫黄を2.0M以上含む硫酸銅めっき液に接触させ、前記シード層をカソードとして、該カソードと前記硫酸銅めっき液中に浸漬させたアノードとの間に電圧を印加して、シード層の表面に銅めっき膜を成膜する。
これにより、基本組成である硫酸銅と硫酸の濃度を制御した硫酸銅めっき液を使用した電気銅めっきによって、結晶粒径を小さくして、ストレスマイグレーションを抑制した銅めっき膜を基板上に成膜することができる。
【0012】
本発明の硫酸銅めっき液は、硫酸銅及び硫酸由来の硫黄を2.0M以上含む。
このように、銅めっき膜の結晶粒径を制御するための添加剤を別途添加することなく、硫酸銅めっき液の基本組成である硫酸銅及び硫酸の濃度のみを制御することで、コストアップを抑え、液管理を容易となすことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基本組成である硫酸銅及び硫酸由来の硫黄を2.0M以上含む硫酸銅めっき液を使用した電気銅めっきを行うといった、より簡便な方法で、結晶粒径を、例えば概ね5μm以下に抑えて、ストレスマイグレーションを抑制した銅めっき膜を基板上に成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、この例では、図1(a)に示す、絶縁層2の内部に配線用凹部としてのコンタクトホール3とトレンチ4を設け、その上にバリア層5及びシード層7を順次形成した基板Wを用意し、この基板Wの表面に電気銅めっきを行って、図1(b)に示すように、シード層7の表面に銅めっき膜6を成膜するようにした例を示す。
【0015】
図2は、電気銅めっき装置の全体配置図を示す。図2に示すように、電気銅めっき装置には、同一設備内に位置して、内部に複数の基板Wを収納する2基のロード・アンロード部10と、電気銅めっき処理を行う2基のめっきセル12と、ロード・アンロード部10とめっきセル12との間で基板Wの受渡しを行う搬送ロボット14と、めっき液調整槽16を有し、めっきセル12に硫酸銅めっき液を供給するめっき液供給設備18が備えられている。
【0016】
めっきセル12には、図3に示すように、電気銅めっき処理及びその付帯処理を行う基板処理部20が備えられ、この基板処理部20に隣接して、硫酸銅めっき液を溜めるめっき液トレー22が配置されている。また、回転軸24を中心に揺動する揺動アーム26の先端に保持されて基板処理部20とめっき液トレー22との間を揺動する電極ヘッド28を有する電極アーム部30が備えられている。更に、基板処理部20の側方に位置して、プレコート・回収アーム32と、純水やイオン水等の薬液、または気体等を基板に向けて噴射する固定ノズル34が配置されている。この例にあっては、3個の固定ノズル34が備えられ、その内の1個を純水の供給用に用いている。
【0017】
基板処理部20には、図4に示すように、基板の表面(被めっき面)を上向きにして基板Wを保持する基板保持部36と、この基板保持部36の上方に該基板保持部36の周縁部を囲繞するように配置されたカソード部38が備えられている。更に、基板保持部36の周囲を囲繞して処理中に用いる各種薬液の飛散を防止する有底略円筒状のカップ40が、エアシリンダ(図示せず)を介して上下動自在に配置されている。
【0018】
基板保持部36は、エアシリンダ44によって、下方の基板受渡し位置Aと、上方のめっき位置Bと、これらの中間の前処理・洗浄位置Cとの間を昇降し、図示しない回転モータ及びベルトを介して、任意の加速度及び速度でカソード部38と一体に回転する。この基板受渡し位置Aに対向して、めっきセル12のフレーム側面の搬送ロボット14側には、基板搬出入口(図示せず)が設けられ、また基板保持部36がめっき位置Bまで上昇した時に、基板保持部36で保持された基板Wの周縁部に下記のカソード部38のシール材90とカソード88が当接する。一方、カップ40は、その上端が基板搬出入口の下方に位置し、図4に仮想線で示すように、上昇した時に基板搬出入口を塞いでカソード部38の上方に達する。
【0019】
めっき液トレー22は、めっき処理を実施していない時に、電極ヘッド28をめっき液トレー22内に位置させ、電極ヘッド28内の硫酸銅めっき液の一部を置換させるためのもので、高抵抗構造体110が収容できる大きさに設定されている。また、めっき液トレー22内の硫酸銅めっき液の液面を計測するフォトセンサがめっき液トレー22に取付けられている。
【0020】
電極アーム部30は、この例では、図示しないサーボモータからなる上下動モータとボールねじを介して上下動し、旋回モータ(図示せず)を介して、めっき液トレー22と基板処理部20との間を旋回(揺動)する。モータの代わりに空気圧アクチュエータを使用してもよい。
【0021】
プレコート・回収アーム32は、図5に示すように、上下方向に延びる支持軸58の上端に連結されて、ロータリアクチュエータ60を介して旋回(揺動)し、エアシリンダ(図示せず)を介して上下動する。このプレコート・回収アーム32には、その自由端側にプレコート液吐出用のプレコートノズル64が、基端側にめっき液回収用のめっき液回収ノズル66がそれぞれ保持されている。プレコートノズル64は、例えばエアシリンダによって駆動するシリンジに接続されて、プレコート液がプレコートノズル64から間欠的に吐出される。また、めっき液回収ノズル66は、めっき液回収管に設置したポンプに接続され、このポンプの駆動に伴って、基板上の硫酸銅めっき液はめっき液回収ノズル66から吸引される。
【0022】
基板保持部36は、図6乃至図8に示すように、円板状の基板ステージ68を備え、この基板ステージ68の周縁部の円周方向に沿った6カ所に、上面に基板Wを水平に載置して保持する支持腕70が立設されている。この支持腕70の1つの上端には、基板Wの端面に当接して位置決めする位置決め板72が固着され、この位置決め板72を固着した支持腕70に対向する支持腕70の上端には、基板Wの端面に当接し回動して基板Wを位置決め板72側に押付ける押付け片74が回動自在に支承されている。また、他の4個の支持腕70の上端には、回動して基板Wをこの上方から下方に押付けるチャック爪76が回動自在に支承されている。
【0023】
ここで、押付け片74及びチャック爪76の下端は、コイルばね78を介して下方に付勢した押圧棒80の上端に連結されて、この押圧棒80の下動に伴って押付け片74及びチャック爪76が内方に回動して閉じるようになっており、基板ステージ68の下方には、押圧棒80に下面に当接してこれを上方に押上げる支持板82が配置されている。
これにより、基板保持部36が図4に示す基板受渡し位置Aに位置する時、押圧棒80は支持板82に当接し上方に押上げられて、押付け片74及びチャック爪76が外方に回動して開き、基板ステージ68を上昇させると、押圧棒80がコイルばね78の弾性力で下降して、押付け片74及びチャック爪76が内方に回転して閉じる。
【0024】
カソード部38は、図9及び図10に示すように、支持板82(図8等参照)の周縁部に立設した支柱84の上端に固着した環状の枠体86と、この枠体86の下面に内方に突出させて取付けた、この例では6分割されたカソード88と、このカソード88の上方を覆うように枠体86の上面に取付けた環状のシール材90を有している。シール材90は、その内周縁部が内方に向け下方に傾斜し、かつ徐々に薄肉となって、内周端部が下方に垂下するように構成されている。
【0025】
これにより、図4に示すように、基板保持部36がめっき位置Bまで上昇した時に、この基板保持部36で保持した基板Wの周縁部にカソード88が押付けられて通電し、同時にシール材90の内周端部が基板Wの周縁部上面に圧接し、ここを水密的にシールして、基板の上面(被めっき面)に供給された硫酸銅めっき液が基板Wの端部から染み出すのを防止するとともに、硫酸銅めっき液がカソード88を汚染することを防止する。
なお、この例において、カソード部38は、上下動不能で基板保持部36と一体に回転するようになっているが、上下動自在で、下降した時にシール材90が基板Wの被めっき面に圧接するように構成してもよい。
【0026】
電極アーム部30の電極ヘッド28は、図11及び図12に示すように、揺動アーム26の自由端にボールベアリング92を介して連結した電極ホルダ94と、この電極ホルダ94の下端開口部を塞ぐように配置された、多孔質体からなる高抵抗構造体110を有している。すなわち、この電極ホルダ94は、下方に開口した有底カップ状に形成され、この下部内周面には凹状部94aが、高抵抗構造体110の上部には、この凹状部94aに嵌合するフランジ部110aがそれぞれ設けられ、このフランジ部110aを凹状部94aに嵌入することで、電極ホルダ94に高抵抗構造体110が保持されている。これによって、電極ホルダ94の内部にアノード室100が区画形成されている。
【0027】
高抵抗構造体110は、例えばアルミナ、SiC、ムライト、ジルコニア、チタニア、コージライト等の多孔質セラミックスまたはポリプロピレンやポリエチレンの焼結体等の硬質多孔質体、あるいはこれらの複合体、更には織布や不織布で構成されている。例えば、アルミナ系セラミックスにあっては、ポア径30〜200μm、SiCにあっては、ポア径30μm以下で、気孔率20〜95%、厚み1〜20mm、好ましくは5〜20mm、更に好ましくは8〜15mm程度のものが使用される。この例では、高抵抗構造体110は、例えば気孔率30%、平均ポア径100μmでアルミナ製の多孔質セラミックス板から構成されている。そして、この内部に硫酸銅めっき液を含有させることで、つまり多孔質セラミックス板自体は絶縁体であるが、この内部に硫酸銅めっき液を複雑に入り込ませ、厚さ方向にかなり長い経路を辿らせることで、硫酸銅めっき液の電気伝導率より小さい電気伝導率を有するように構成されている。
【0028】
このように高抵抗構造体110をアノード98と基板Wの間に配置し、この高抵抗構造体110によって大きな抵抗を発生させることで、シード層7(図1参照)の抵抗の影響を無視できる程度となし、基板Wの表面の電気抵抗による電流密度の面内差を小さくして、銅めっき膜の面内均一性を向上させることができる。
【0029】
アノード室100内には、高抵抗構造体110の上方に位置して、内部に上下に貫通する多数の通孔98aを有するアノード98が配置されている。この例では、アノード98として、スライムの生成を抑制するため、含有量が0.03〜0.05%のリンを含む銅(含リン銅)が使用されている。そして、電極ホルダ94には、アノード室100内の硫酸銅めっき液を吸引して排出するめっき液排出口103が設けられ、このめっき液排出口103は、めっき液排出管106に接続されている。更に、電極ホルダ94の周壁内部には、アノード98及び高抵抗構造体110の側方に位置して上下に貫通するめっき液供給口104が設けられ、このめっき液供給口104は、めっき液調整槽16から延びるめっき液供給管102に接続されている。
【0030】
このめっき液供給口104は、基板保持部36がめっき位置B(図4参照)にある時に、基板保持部36で保持した基板Wと高抵抗構造体110の隙間が、例えば0.5〜3mm程度となるまで電極ヘッド28を下降させ、この状態で、アノード98及び高抵抗構造体110の側方から、基板Wと高抵抗構造体110との間に硫酸銅めっき液を供給するためのもので、シール材90と高抵抗構造体110に挟まれた領域で下端のノズル部が開口するようになっている。高抵抗構造体110の外周部には、ここを電気的にシールドするゴム製のシールドリング112が装着されている。
【0031】
めっき液供給口104から供給された硫酸銅めっき液は、基板Wの表面に沿って一方向に流れ、この硫酸銅めっき液の流れによって、基板Wと高抵抗構造体110との間の領の空気が外方に押し出されて外部に排出され、基板Wとシール材90で区画された領域がめっき液供給口104から注入された新鮮で組成が調整された硫酸銅めっき液で満たされて、基板Wとシール材90で区画された領域に硫酸銅めっき液が溜められる。
【0032】
この例では、硫酸銅めっき液として、硫酸銅五水和物を100g/L以上、硫酸を80g/L以上含み、硫酸銅及び硫酸由来の硫黄の濃度が2.0M以上である硫酸銅めっき液を使用している。そして、硫酸銅めっき液には、例えば濃度が25〜100ppmのハロゲンイオンとしての塩素イオンの他に、3〜12mL/Lのサプレッサ(反応抑制剤)、5〜12mL/Lのアクセラレータ(反応促進剤)、及び1〜4mL/Lのレベラ(平滑化剤)の3つの有機添加物が添加されている。硫酸銅めっき液の液温は、例えば15〜50℃であり、電気銅めっきの際に印加される電流密度は、例えば3〜40mA/cmである。
【0033】
硫酸銅及び硫酸由来の硫黄の濃度が2.0M以上である硫酸銅めっき液における硫酸銅と硫酸の濃度例として、例えば、以下のようなものが挙げられる。
・硫酸銅五水和物260g/L、硫酸105g/L(硫酸銅及び硫酸由来の硫黄2.1M)
・硫酸銅五水和物160g/L、硫酸140g/L(硫酸銅及び硫酸由来の硫黄2.1M)
・硫酸銅五水和物190g/L、硫酸200g/L(硫酸銅及び硫酸由来の硫黄2.8M)
・硫酸銅五水和物240g/L、硫酸270g/L(硫酸銅及び硫酸由来の硫黄3.7M)
【0034】
半導体ウェハ等の表面に設けられた配線用凹部内への銅の充填(埋込み)を、硫酸銅めっき液を使用した電気銅めっきで行う場合、基本組成である硫酸銅と硫酸に加え、塩素イオンと、めっき膜質を改善し、配線用凹部への充填性(埋込み性)を向上させるため、サプレッサ、アクセラレータ及びレベラと呼ばれる3種類の有機添加剤を混入させた硫酸銅めっき液が一般に使用される。
【0035】
サプレッサは、静電的相互作用により陰極表面の特に凸部に吸着し、その部分の銅の電析を抑制することで均一電着性を上げる成分で、主にポリエチレングリコールに代表されるポリエーテル類の界面活性剤からなる。アクセラレータは、貴な電位領域である凹部への水素吸着を疎外し、銅の析出を促進する有機硫黄化合物またはその塩が一般的である。レベラは、ポリアミン等の窒素含有化合物またはその塩が一般的であり、溶液中ではカチオンとして存在する。そのため高電流密度部へ優先的に吸着し、銅の電析を抑制することで、均一電着性を向上させる働きをする。
【0036】
この例では、めっき液成分として、アクセラレータ、サプレッサ及びレベラの3つの有機添加物を有する硫酸銅めっき液を使用した例を示しているが、これらの有機添加剤の内、少なくとも1つを成分を含む硫酸銅めっき液を使用してもよい。
【0037】
電気銅めっきを行うに際して、カソード88はめっき電源114のカソードに、アノード98はめっき電源114のアノードにそれぞれ電気的に接続される。なお、めっき電源114として、流れる電流の向きを任意に変更できるようにしたものを使用し、これによって、電気銅めっき装置が銅めっき膜をエッチングするエッチング機能を有するようにしてもよい。
【0038】
次に、この電気銅めっき装置の操作について説明する。
先ず、図1(a)に示す、絶縁層2の内部に配線用凹部としてのコンタクトホール3とトレンチ4を設け、その上にバリア層5及びシード層7を順次形成した1枚の基板Wを、ロード・アンロード部10から取出し、表面(シード層7の形成面)を上向きにした状態で、フレームの側面に設けられた基板搬出入口から一方のめっきセル12の内部に搬送する。この時、基板保持部36は、下方の基板受渡し位置Aにあり、搬送ロボット14は、そのハンドが基板ステージ68の真上に到達した後に、ハンドを下降させることで、基板Wを支持腕70上に載置する。そして、搬送ロボット14のハンドを、基板搬出入口を通って退去させる。
【0039】
搬送ロボット14のハンドの退去が完了した後、カップ40を上昇させ、同時に基板受渡し位置Aにあった基板保持部36を前処理・洗浄位置Cに上昇させる。この時、この上昇に伴って、支持腕70上に載置された基板は、位置決め板72と押付け片74で位置決めされ、チャック爪76で確実に把持される。カップ40の上昇が完了すると、フレーム側面の基板搬出入口はカップ40で塞がれて閉じ、フレーム内外の雰囲気が遮断状態となる。
【0040】
一方、電極アーム部30の電極ヘッド28は、この時点では、めっき液トレー22上の通常位置にあって、高抵抗構造体110がめっき液トレー22内の硫酸銅めっき液に浸漬されている。この状態で、めっき液トレー22内への硫酸銅めっき液の供給と、アノード室100内の硫酸銅めっき液の引抜きを行って、高抵抗構造体110に含浸される硫酸銅めっき液の置換を行う。
【0041】
カップ40が上昇するとプレコート処理に移る。即ち、基板Wを受取った基板保持部36を回転させ、待避位置にあったプレコート・回収アーム32を基板と対峙する位置へ移動させる。そして、基板保持部36の回転速度が設定値に到達したところで、プレコート・回収アーム32の先端に設けられたプレコートノズル64から、例えば界面活性剤からなるプレコート液を基板Wの表面に間欠的に吐出する。この時、基板保持部36が回転しているため、プレコート液は基板Wの表面の全面に行き渡る。次に、プレコート・回収アーム32を待避位置へ戻し、基板保持部36の回転速度を増して、遠心力により基板Wの表面のプレコート液を振り切って乾燥させる。
【0042】
プレコート完了後に電気銅めっき処理に移る。先ず、基板保持部36を、この回転を停止、若しくは回転速度をめっき時速度まで低下させた状態で、めっきを施すめっき位置Bまで上昇させる。すると、基板Wのシード層7の周縁部は、カソード88に接触してシード層7に通電可能な状態となり、同時に基板Wのシード層7の周縁部上面にシール材90が圧接して、基板Wの周縁部が水密的にシールされる。
【0043】
一方、搬入された基板Wのプレコート処理が完了したという信号に基づいて、電極アーム部30をめっき液トレー22上方からめっきを施す位置の上方に電極ヘッド28が位置するように水平方向に旋回させ、この位置に到達した後に、電極ヘッド28をカソード部38に向かって下降させる。そして、高抵抗構造体110が基板Wの表面に接触することなく、例えば0.1mm〜3mm程度に近接した時に電極ヘッド28を停止させる。次に、めっき液供給管102から所定量の硫酸銅めっき液を供給して、図13に示すように、基板Wと高抵抗構造体110との間のシール材90で囲まれた領域を、例えば15〜50℃の硫酸銅めっき液で満たす。
【0044】
そして、カソード88をめっき電源114のカソードに、アノード98をめっき電源114のアノードにそれぞれ接続し、基板Wのシード層7とアノード98との間に、例えば電流密度が3〜40mA/cmとなるように電圧を印加して、基板Wのシード層7の表面に電気銅めっきを行う。これによって、図1(b)に示すように、シード層7の表面に、所定の膜厚の銅めっき膜6を成膜する。めっき処理が完了すると、めっき電源114をカソード88及びアノード98から切離し、電極アーム部30を上昇させた後、旋回させて、電極ヘッド28をめっき液トレー22の上方へ戻し、通常位置へ下降させる。
【0045】
次に、プレコート・回収アーム32を待避位置から基板Wに対峙する位置へ移動させて下降させ、めっき液回収ノズル66から基板W上の硫酸銅めっき液の大部分をめっき液調整槽16内へ回収し、一部は廃棄する。この硫酸銅めっき液の回収が終了した後、プレコート・回収アーム32を待避位置へ戻し、基板のめっき面をリンスするために、純水用の固定ノズル34から基板Wの中央部に純水を吐出し、同時に基板保持部36をスピードを増して回転させて基板Wの表面の硫酸銅めっき液を純水に置換する。このように、基板Wのリンスを行うことで、基板保持部36をめっき位置Bから下降させる際に、硫酸銅めっき液が跳ねて、カソード部38のカソード88が汚染されることが防止される。
【0046】
リンス終了後に水洗工程に入る。即ち、基板保持部36をめっき位置Bから前処理・洗浄位置Cへ下降させ、純水用の固定ノズル34から純水を供給しつつ基板保持部36及びカソード部38を回転させて水洗を実施する。この時、カソード部38に直接供給した純水、または基板Wの面から飛散した純水によってシール材90及びカソード88も基板と同時に洗浄することができる。
【0047】
水洗完了後にドライ工程に入る。即ち、固定ノズル34からの純水の供給を停止し、更に基板保持部36及びカソード部38の回転スピードを増して、遠心力により基板表面の純水を振り切って乾燥させる。併せて、シール材90及びカソード88も乾燥される。ドライ工程が完了すると基板保持部36及びカソード部38の回転を停止させ、基板保持部36を基板受渡し位置Aまで下降させる。すると、チャック爪76による基板Wの把持が解かれ、基板Wは、支持腕70の上面に載置された状態となる。これと同時に、カップ40も下降させる。
【0048】
以上で、1枚の基板に対する電気銅めっき処理及びそれに付帯する前処理や洗浄・乾燥工程の全ての工程を終了し、搬送ロボット14は、そのハンドを基板搬出入口から基板Wの下方に挿入し、そのまま上昇させることで、基板保持部36から処理後の基板Wを受取る。そして、搬送ロボット14は、この基板保持部36から受取った処理後の基板Wをロード・アンロード部10に戻す。
【0049】
このように、基本組成である硫酸銅と硫酸の濃度を制御した硫酸銅めっき液を使用した電気銅めっきによって、結晶粒径を小さくして、ストレスマイグレーションを抑制した銅めっき膜をシード層上に成膜することができる。つまり、硫酸銅及び硫酸由来の硫黄を2.0M以上含む硫酸銅めっき液を使用した電気銅めっきを行うことで、結晶粒径を、例えば概ね5μm以下に抑えた銅めっき膜を成膜できることが確かめられている。銅めっき膜の結晶平均粒径とストレスマイグレーションとの関係を図13に示す。この図13から、銅めっき膜の結晶粒径を、例えば概ね5μm以下に抑えることで、銅めっき膜のストレスマイグレーションを抑制できることが判る。しかも、銅めっき膜の結晶粒径を制御するための添加剤を別途添加することなく、硫酸銅めっき液の基本組成である硫酸銅及び硫酸の濃度のみを制御することで、コストアップを抑え、液管理を容易となすことができる。
【0050】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0051】
(実施例1)
硫酸銅及び硫酸由来の硫黄の濃度が2.1Mとなるよう調整した下記組成の硫酸銅めっき溶液を用意した。この硫酸銅めっき溶液を使用し、温度25℃、電流密度20mA/cm、硫酸銅めっき液の攪拌400rpm、めっき時間2分16秒の条件で、バリア層及びシード層が順次形成された半導体基板上に電気銅めっきを行って、バリア層の表面に銅めっき膜を成膜した。
【0052】
硫酸銅めっき液組成
・硫酸銅五水和物: 260g/L
・硫酸: 205g/L
・塩素イオン: 50ppm
・サプレッサ: 6mL/L
・アクセラレータ: 10mL/L
・レベラ: 2mL/L
【0053】
この実施例1で成膜された銅めっき膜の表面を電子顕微鏡で撮影した結果を図14に示す。この図14において、実線が銅めっき膜の結晶粒界を示している。この図14から、粒径の大きな結晶粒としては、4〜6μm程度のものが多く、平均粒径は概ね5μm程度であることが判る。
【0054】
(比較例1)
硫酸銅五水和物を110g/L、硫酸を60g/L、すなわち硫黄濃度を1.0Mに変え、その他を上記実施例1に使用した硫酸銅めっきと同じ組成とした硫酸銅めっき液を使用し、実施例1と同じ条件で電気銅めっきを行って、バリア層の表面に銅めっき膜を成膜した。この比較例1で成膜された銅めっき膜の表面を電子顕微鏡で撮影した結果を図15に示す。この図15から、粒径の大きな結晶粒としては、6〜11μm程度のものが多く、平均粒径は概ね7μm程度であることが判る。
【0055】
(比較例2)
硫酸銅五水和物を130g/L、硫酸を80g/L、すなわち硫黄濃度を1.3Mに変え、その他を上記実施例1に使用した硫酸銅めっきと同じ組成とした硫酸銅めっき液を使用し、実施例1と同じ条件で電気銅めっきを行って、バリア層の表面に銅めっき膜を成膜した。この比較例2で成膜された銅めっき膜の粒径の大きな結晶粒としては、5〜7μm程度のものが多く、平均粒径は、概ね6μm程度であった。
【0056】
前述のように、平均粒径が概ね5μm以下の銅めっき膜であればストレスマイグレーションを抑制できる。従って、硫黄濃度が2.0M以上の硫酸銅めっき液を使用した電気銅めっきを行うことが、銅めっき膜のストレスマイグレーション抑制に必要且つ十分であると推定できる。
【0057】
実施例1及び比較例1,2の結果から、硫酸銅めっきに含まれる硫黄濃度(M)と銅めっき膜の平均粒径(μm)の関係をプロットしたグラフを図16に示す。この図16から、硫酸銅めっき溶液中の硫酸銅及び硫酸由来の硫黄の濃度と銅めっき膜の結晶粒径の関係はほぼ直線で近似できることが判る。従って、実施例1で用いた硫酸銅めっき液の組成のうち、硫酸銅五水和物と硫酸の濃度を硫黄の濃度が高くなるように変えることで、実施例1と同等もしくはさらに小さな結晶粒からなる銅めっき膜を成膜できるということが推察される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】電気銅めっき処理によって銅配線を形成する例を工程順に示す図である。
【図2】電気銅めっき装置の全体を示す平面図である。
【図3】図2に示す電気銅めっき装置のめっきセルを示す平面図である。
【図4】図2に示す電気銅めっき装置のめっきセルの基板保持部及び電極部の拡大断面図である。
【図5】図2に示す電気銅めっき装置のめっきセルのプレコート・回収アームを示す正面図である。
【図6】図2に示す電気銅めっき装置のめっきセルの基板保持部の平面図である。
【図7】図6のB−B線断面図である。
【図8】図6のC−C線断面図である。
【図9】図2に示す電気銅めっき装置のめっきセルの電極部の平面図である。
【図10】図9のD−D線断面図である。
【図11】図2に示す電気銅めっき装置のめっきセルの電極アーム部の平面図である。
【図12】図2に示す電気銅めっき装置のめっきセルの電極ヘッド及び基板保持部を概略的に示す電気銅めっき時における断面図である。
【図13】銅めっき膜の結晶平均粒径とストレスマイグレーション発生率の関係を示すグラフである。
【図14】実施例1で成膜された銅めっき膜の表面の顕微鏡写真である。
【図15】比較例1で成膜された銅めっき膜の表面の顕微鏡写真である。
【図16】実施例1及び比較例1,2の結果から硫酸銅めっきに含まれる硫黄濃度(M)と銅めっき膜の平均粒径(μm)の関係をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0059】
3 コンタクトホール(配線用凹部)
4 トレンチ(配線用凹部)
5 バリア層
6 銅めっき膜
7 シード層
8 銅配線
10 ロード・アンロード部
12 めっきセル
16 めっき液調整槽
18 めっき液供給設備
20 基板処理部
28 電極ヘッド
36 基板保持部
38 カソード部
68 基板ステージ
70 支持腕
86 枠体
88 カソード
90 シール材
94 電極ホルダ
98 アノード
100 アノード室
102 めっき液供給管
103 めっき液排出口
104 めっき液供給口
106 めっき液排出管
110 高抵抗構造体
112 シールドリング
114 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シード層で覆われた配線用凹部を表面に形成した基板を用意し、
前記シード層を、硫酸銅及び硫酸由来の硫黄を2.0M以上含む硫酸銅めっき液に接触させ、
前記シード層をカソードとして、該カソードと前記硫酸銅めっき液中に浸漬させたアノードとの間に電圧を印加して、シード層の表面に銅めっき膜を成膜することを特徴とする電気銅めっき方法。
【請求項2】
硫酸銅及び硫酸由来の硫黄を2.0M以上含むことを特徴とする硫酸銅めっき液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−190007(P2008−190007A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26677(P2007−26677)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】